過労死の新認定基準で取り扱われる疾病の範囲は
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■「過労死認定基準」


過労死の新認定基準で取り扱われる疾病範囲の解説です。
医学用語がでるわりに、大変読みやすくまとめられいます。 サラリーマンが我が身を守る上での予備知識にもなりそうです。
(但し平成8年に追加された「不整脈による突然死」の解説は含まれていません。)

 
<目次>
1 認定基準で取り扱う疾病の範囲
(1)脳血管疾患
■脳出血
■くも膜下出血
■脳梗塞
■その他
(2)虚血性心疾患等
■一次性心停止
■狭心症
■心筋梗塞症
■解離性大動脈瘤

2 リスクファクター












1 認定基準で取り扱う疾病の範囲

(1)脳血管疾患

 脳血管疾患とは、広義には、脳血管の疾患のすべてを意味するものですが、認定基準に
おいては、そのうち脳血管発作により何らかの脳障害を起こした疾患としており、従来、
脳卒中と呼ばれていた疾患がこれに該当します。
 さらに脳血管疾患を大きく分けると、頭蓋内血管が何らかの原因によって破裂し、脳組
織あるいはそれを取り囲む組織内、すなわち、頭蓋内に出血する出血性脳血管疾患と脳組
織を灌流する血管が閉塞又は狭窄を起こして、脳細織への血流が減少あるいは消失する虚
血性脳血管疾患のニつに大別されます。

 (1) 出血性脳血管疾患 戻る

  出血性脳血管疾患は、頭蓋内の出血する部位によって、脳組織の中に出血する「脳出
 血」、くも膜と脳の間に出血する「くも膜下出血」、硬膜と頭蓋骨の間に出血する「硬
 膜上出血」、硬膜とくも膜の間に出血する「硬膜下出血」の四つに分けられます。
  「脳出血」は、高血圧によるものと、その他の原因によるものがあり、「くも膜下出
 血」には脳動脈瘤によるものと脳動静脈奇型によるもの及びその他の原因によるものが
 あります。
  「硬膜上出血」及び「硬膜下出血」は、大部分外傷と関係があります。

 イ 脳出血

   脳出血は、脳内の木綿糸ぐらいの細い血管が破裂してそこから脳実質内に山血し、
  そのために脳実質が圧迫され、神経組織が障害され、意識障害や手足の麻痺というよ
  うな重篤な症状を呈し、高血圧を有する者に圧倒的に多く発症する高血圧性脳出血が
  大部分です。このほかに血圧が正常でも、先天的な血管の奇型が原因となって起こる
  特発性脳出血等が若年層にもみられることがあるといわれています。

 口 くも膜下出血 戻る

   くも膜下出血は、脳出血と異なり、脳実質内に出血するのではなく、脳を覆ってい
  るくも膜と脳との間に出血するため、このように呼ばれています。
   この疾患は、高齢者よりも壮年層から若年層に多く発症がみられ、原因は、脳動脈
  瘤の破裂であり、突然、激しい頭痛とともに始まるのが特徴です。このような動脈瘤
  が形成される原因は未だ解明されていませんが、脳底部で脳動脈血管が枝分かれして
  いるマタの部分によくできるとされ、この部分の血管の壁に長年にわたって血流によ
  る抵抗を受ける結果、弱くなりコブのようにふくらんでくるのではないかと考えられ
  ています。

   これに対して若年層の発症の場合には、動静脈奇型という脳血管の部分的な奇型が
  破裂して出血して起こることが多いとされています。

 (2) 虚血性脳血管疾患

  虚血性脳血管疾患は、虚血による脳機能の障害の程度、持続時間、脳細織の不可逆性
 病変の有無及び程度、原因等によって、さらに、脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、
 脳血管不全、可逆性虚血性神経脱落症状(RIND)等に分けられますが、このうち、脳
 障害を起こすものは、「脳梗塞」です。

  イ 脳梗塞 戻る

   脳梗塞は、脳の動脈が硬化により内腔が狭くなり、血液の固まった血栓により閉塞
  されるために末梢は血液の供給が途絶され、脳実質が軟化、崩壊するもので、その原
  因によって、脳血栓症と脳塞栓症に分けられています。
   両者の鑑別は、必ずしも容易なものではないので、認定基準においては、両者を区
  別せずに脳梗塞を掲げています。
   (イ) 脳血栓症
    脳血栓症は、脳動脈が動脈硬化や炎症等によって狭窄を起こし、さらにそこに血
   栓を形成して、その部分が閉塞して起こります。
    高齢者の場合は動脈硬化によることが圧倒的に多く、血管のいろいろな疾病、例
   えば閉塞性動脈炎といわれる動脈の炎症が原因となることもあります。
    そのほか、身体の水分が不足し、脱水状態となり、血液が濃縮した場合、多血症
   などでも発症することがあります。
   (ロ) 脳塞栓症
    脳塞栓症は、心臓、内頚動脈などに生じた血栓が剥離して血液とともに流れて脳
   動脈を閉塞するもので、大部分は血栓ですが、脂肪、腫瘍細胞、空気等によって閉
   塞を起こす場合もあります。
    血圧の正常者にも発症し、また、20歳代、30歳代の若年層にもみられます。
    心臓疾患等のある場合には、脳塞栓症の診断は比較的容易ですが、そうでない場
   合には、脳血栓症と脳塞栓症との鑑別が必ずしも明確にされないことが多いもので
   す。
    一般に、脳血栓症の場合には、前駆症状がみられることが多く、その発症は比較
   的緩徐で症状の完成には時間を要することがあり、また、段階的に症状が悪化する
   ことがあります。脳塞栓症では、通常前駆症状がなく、発症は突然で、症状も急激
   な経過をみます。また、しばしば出血性梗塞を起こします。
    脳梗塞の症状は、閉塞血管の種類によってさまざまの神経症状を呈することにな
   ります。
    なお、業務上の負傷に起因する脳塞栓症には、頚動脈の外傷、骨折の場合の骨髄
   内の脂肪によるものがみられます。

 (3) その他 戻る
  出血性脳血管疾患及び虚血性脳血管疾患以外の悩血管疾患で、掲げられている疾患に
  「高血圧性脳症」があります。
   高血圧性脳症は、悪性高血圧症等で、急激な血圧上昇、通常収縮期血圧200mmHg以上
  によって起こる脳症状で、頭痛、悪心、嘔吐、視力障害、意識障害等を示しますが、
  速やかに血圧を降下すれば、症状は消失します。腎障害等による悪性高血圧にしばし
  ば認められます。








(2)虚血性心疾患等 戻る

  虚血性心疾患とは、冠循環不全(心筋を流れる血液量が低下して、心臓の動きを維持
 させるための酸素供給力が不足する。)により、心機能異常又は心筋の変性壊死を生じ
 る疾患をいうものです。また、認定基準には、虚血性心疾患以外の解離性大動脈瘤及び
 ニ次性循環不全を掲げていますが、これらを含め「虚血性心疾患等」としています。
  なお、死亡診断書にしばしば用いられる「心不全」は、病名というよりも、心臓のあ
 る状態を意味しているとされています。すなわち、心臓が全身に必要なだけの血液を送
 り出せなくなった状態のことであり、心不全は、あらゆる心臓病の末期症状であること
 から、例えば、心筋梗塞症が疑われて心停止した場合に、「心筋梗塞症による急性心不
 全」といった表現がされることがあります。
  一方、死因力が明らかにできない例についても、医師によっては、単に「心不全」と
 診断名を付けることがあります。
  心臓機能不全には、左心(左室)が障害され衰弱する左心不全と、右心(右室)の障
 害される右心不全とがあり、肺及び大循環系の障害が起これば、左右両室すなわち心臓
 全体の衰弱が起こるものと考えられています。このうち、原発性心臓機能不全は心臓自
 身に原因があり、心内膜炎、弁膜疾患、先天性心臓疾患、心筋炎、冠状動脈疾患、心外
 膜疾患、不整脈、心臓外傷等が原因となることが多いものです。
  続発性心臓機能不全は、心臓以外に主因があり、続発的に起こったものをいうのであ
 って、高血圧や赤血球増多症、ときにみる末梢血管の抵抗の増大、肺や胸廓せき柱疾患
 による肺循環系の抵抗増大、貧血・バセドウ氏病・肥満・子宮筋腫・脚気・悪液質・栄
 養障害及び末梢循環不全に続発するといわれています。
  また、急性心臓死とは、従来、全く健康な人が心臓に原因して急死したり、あるいは
 心臓疾患に罹っていた患者が卒然として死亡することをいい、いわゆる「ポックリ病」
 も合まれますが、心臓破綻によるもの、冠状動脈の閉塞に原因するもの、急性伝染病こ
 とにジフテリア、腸チフス等の回復期に現われるもの、脚気衝心その他のものがありま
 す。また、これを心臓麻痺と診断される場合もあります。

 (1) 虚血性心疾患 戻る

 心臓をとりまく冠状動脈の血流障害によって心筋虚血が生じ、そのために出現する心臓
疾患を虚血性心疾患といいます。
 虚血性心疾患の病因はさまざまであり、心筋虚血をきたす原因はいろいろあります。す
なわち、冠状動脈の血栓、血管炎、外科手術、ショック、貧血等で心筋虚血を生じますが、
大部分の病因は冠状動脈硬化症であることから、その病因は冠状動脈硬化症の病凶という
ことになります。

 イ 一次性心停止

  「一次性心停止」は、冠状動脈閉塞という特別な原因が明らかではなく、不整脈が出
 現して心停止(有効な心拍出量の消失)、意識消失発作が出現した場合をいいます。こ
 の心停止には、心室細動、心室頻拍、心室停止(房室ブロック、洞停止)がありますが、
 その中でも、心室細動が最も多くみられます。自然に、あるいは処置により有効な心拍
 が回復し、心拍出量が正常になれば意識は回復します。
  なお、日本ではいわゆる「ポックリ病」といわれる普段元気のよい、主に20歳代、30
 歳代の男性が夜間睡眠中にうめき声をあげて死亡する例がありますが、解剖しても心筋
 虚血の証拠が得られないので、虚血性心疾患には含まれないものです。

 口 狭心症 戻る

  冠状動脈の異常(器質的病変あるいは機能的異常)により生じたー過性の心筋虚血に
 よる胸痛発作を「狭心症」といいます。
  狭心症の患者の冠状動脈には、動脈硬化があり、冠状動脈の内径が、動脈硬化により
 75%以上狭窄すると狭心症の症状が出現しやすくなります。
  心筋に壊死を生じないことで、心筋梗塞症とは異なります。
  狭心症の症状は、前胸部の圧迫感、しめつけ感、灼熱感、刺されるような痛み、息の
 しにくい感じなど、さまざまに表現されます。”狭”心症という日本語の言葉が適切に
 も表現しているように、狭心”痛″であることもありますが、必ずしもいつも痛みを感
 じるものではなく、胸が押しつけられ、締めつけられるように感じます。

 ハ 心筋梗塞症

  「心筋梗塞症」は、心臓壁冠循環の異常により生じた心筋の壊死をいいます。一般に
 は、冠状動脈の閉塞により、その動脈の灌流部分に生じた肉眼的に認め得る大きさ又は
 径0.5センチ以上の壊死巣を指します。
  冠状動脈の閉塞は、大部分が動脈硬化なので、動脈壁の動脈硬化が次第に進むと、血
 管の内腔は狭くなり、遂には閉塞してしまうか硬化した動脈壁に血栓が寸着して動脈を
 閉塞してしまいます。動脈硬化以外に、まれには冠状動脈の奇型、炎症等の動脈疾患、
 アテロームや血栓のかけらによる閉塞(塞栓)等で動脈閉塞を生じることがあります。
  心筋梗塞症の発作時の典型的な症状は、胸痛、呼吸困難、胃腸症状(嘔気、嘔吐)、
 ショック(冷汗、意識障害等)です。胸痛は4人中3人には出現し、激しい胸部の締め
 めつけ、圧迫、焼けるような感じがあります。

 (2) 解離性大動脈瘤 戻る

  大動脈の内腔が、病的に拡張して拍動性腫瘤を形成した場合を大動脈瘤と総称され、
 中年以後の男性に多いものです。大動脈瘤は、真性、解離性、仮性に分けられ、「解離
 性大動脈瘤」は、大動脈中膜に変性が発生して、この部分が裂けると、大動脈内を流れ
 る血流のー部が、裂け目に入り込み、瘤を形成するものです。
  症状は、突然に発生する激痛が特徴で、切るような、引き裂くような、堪え難い痛み
 みで、病初最も強いことから、段々軽快することで心筋梗塞症の痛みと鑑別することが
 できます。










2 リスクファクター 戻る

 「リスクファクタ−」とは、特定疾患や異常条件の発生に関連がある個人の属性や性質、
環境条件等をいい、原因である可能性を含めたものです。急性伝染病の場合等では、病源
の侵入が発病をほとんど決定してしまうことから、病原体と感染経路の同定、患者の発見
と処置が予防の重点となります。慢性非感染性疾患では、原因は単一でなく、遺伝、身体
状況、生活習慣、環境、医療等が複雑に関連していることから、一部は変更が可能であり、
それによって疾病発生を防止できます。伝染病の流行には、個人の責任や行動で対応しき
れず社会防衛が主要な対策になりますが、非感染性疾患では、従来、個人衛生を主とし、
リスクファクターも個人レベルの身体状況と生活習慣に主として目が向けられてきました。


(1)リスクファクターによる準備状態 

 脳血管疾患及び虚皿性心疾患の発現には、脳や酸素を送る動脈の障害が前提となります。
脳出血における小動脈の動脈瘤、くも膜下出血における脳動脈分岐部の動脈瘤の発生と拡
大、その結果起こる破裂を除けば動脈硬化が共通の原因となります。動脈瘤や動脈硬化は、
決して急性に出来上がるものでなく、長年を経て徐々に進行するので、その経過中にその
進行に影響を与えて発生を遅らせ予防することができ、高血圧の発生や脂質代謝のー部に
は、遺伝も関係しますが、環境要因の関与が大きく、生活習慣によって動脈硬化や高血圧
の進展度が変わります。疾病の進行に影響するこのような各種の環境条件が、リスクファ
クターとなります。
 このように動脈の変化が進んだ状態でも、発作が常に起こるわけではなく、発作をある
時点で生ずるメカニズムは、十分理解させているとはいえませんが、寒冷暴露や極度の興
奮、緊張等による血圧の急激な上昇、血液凝固性の増加、血液中への脂肪酸の遊離等が、
発病要因となることはあり得ます。また、ジョギング中の急死のように、心臓への負担増
大と心筋への血液供給のバランスの乱れが、急死の条件となる場合もあります。
 ここでは、発生秩序はリスクファクターに含めず、以下の記述は、脳血管疾患及び虚血
性心疾患発作の基盤となる病変を準備する狭義のリスクファクターに関するものです。
 脳血管疾患及び虚血性心疾患のリスクファクターは、世界各地で行われている疫学調査
から主要なものは狩りつくされたといってもよく、リスクファクターとして文献に挙げら
れたものを列挙すれば100を超え、特に、入院患者について検査、測定が可能な事項は、
疫学研究にも取り上げられているので、リスクファクターとして報告させる要因の数は、
有意の連合関係はあっても原因とは考えられないものもありますが、今後も増えるー方で
す。


(2)疾患別にみるリスクファクター 戻る

 これらの共通のりスクファクターの効果は、個人ごとに、リスクファクタ−作用の強弱、
持続期間作用のタイミング、個人の心蔵及び血管の感受性や反応性等によって相違します。
以下に述べるリスクファクターが余りないのに発病する人もいますが、一般にリスクファ
クターが多くなるほど、また、正常からの偏りが大きいほど、発症の危険は増大します。
リスクファクターと疾病発生との関係は、集団から得られる関連性の認識によるもので、
確率的・統計的事実です。
 リスクファクターの中で比較的共通するものと相違が目につくものを挙げて、主要な疾
患との関係を整理すると表のとおりになります。


-------------------------------------------------------------------
             疾患別にみるリスクファクター
      
疾患名       リスクファクター→年 齢 高血圧 高脂皿症 タバコ 飲 酒 糖尿病
脳出血             +      +++       -        +-      ++      + 
脳梗塞                        ++      ++       +        +        +      +
虚血性心疾患                  ++      ++      +++       ++       -      +
-------------------------------------------------------------------
(注) +++(特に強い関係)++(強い関係)+(関係がある)±(余り関係がない)
    −(負の要因がある)



 年齢は、リスクファクターとみるよりも個人の(又は集団)の基本的属性であり、いず
れにおいても青年期にはまれで、中年で増加し、高齢者に最も多いことから、いよいよリ
スクファクターのーつとして多変量解析にも加えられます。この中で、脳出血は、やや若
い時期に多く、高齢期では増加の割合力が鈍る傾向があります。
 高血圧は、何れにも共通する強いリスクファクターで、特に、脳出血の発生と関係が深
く、高血圧の管理を十分に行う時、真先に減少してくるのは、脳出血です。
 高脂血症の関与の程度は、かなり相違しますが、日本国内のかつての経験では、脳出血






【作業中断。入力担当者の血圧が上がってきました。また、、、、続編をお届けします】
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