労働時間法制&労働契約法制の在り方(中央労働基準審議会)−−議論のための事務局案
全文H9.7.2 今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方について (中間的取りまとめに向けての議論のために) 第1 基本的視点 我が国経済社会が、今後の21世紀に向け、活力にあふれ持続的安定的な発展成長を遂げていくために は、労働者が創造的かつ自律的な働き方を通じて能力を存分に発揮し、意欲を持って働くことができる ようにすることが必要である。このことは専門的な知識、技術や創造的な能力をいかし主体的かつ多様 な働き方を実現したいとする労働者の増大する要請に応えることでもある。労働基準法に基づく労働時 間管理や労働契約のルールについても、こうした状況を踏まえ、多様な働き方や個々の職場における労 使の実情に的確に対応し、労働者の主体的な選択の可能性を拡大するとともに、家庭生活との調和の観 点をも含め労働者が健康で安心して働ける環境の形成に資するよう、その在り方の見直しを行うことが 不可欠である。 このような視点から、今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方について次のような方向で総 合的な検討を進めることとしてはどうか。 第2 検討の方向 1 労働契約期間の上限の見直し 専門的能力を有し、柔軟・多様な働き方を志向する労働者がその能力をより一層発揮するための環境 を整備するため、我が国の長期雇用慣行に及ぼす影響をも考慮しつつ、労働基準法第14条の労働契約期 間の上限を見直すことについて検討することとしてはどうか。 また、高齢者の雇用失業情勢が厳しい中で、これまで培った能力、経験をいかすための高齢者の雇用 の場の確保に資する観点からも併せて検討することとしてはどうか。 具体的には、新商品若しくは新技術の開発等の業務又は新規事業若しくは海外活動の展開等経営上の 必要により一定の期間内に完了することを予定して行うプロジェクトに係る業務等に必要な特別の能力 を有する人材を雇い入れる場合や、定年退職者等高齢者に係る場合について、現在1年とされている上 限を5年に延長することについて検討することとしてはどうか。 2 労働契約締結時の労働条件の明示 労働移動の増大、就業形態の多様化、労働条件の個別化の進展に伴い、労働契約の締結時及び終了時 において労働条件を明確化することの重要性が増している。これに対応するため、また、増大しつつあ る労働条件をめぐる紛争を未然に防止するためにも、労働基準法第15条の労働契約締結時の労働条件の 明示制度を改善することについて検討することとしてはどうか。 その際、現行の「賃金に関する事項」に加えて、 ・ 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 ・ 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに就業時転換に関する事項 ・ 退職に関する事項 ・ 労働契約の期間(期間の定めのある労働契約の場合に限る。) については、これらの事項を記載した書面の交付により明示を行うこととすることについて検討するこ ととしてはどうか。 3 解雇予告の適用除外とされている労働者の範囲 期間の定めのある労働契約については、本来雇用が保障されるべき契約期間中に使用者か労働契約を 解除するに当たっては、期間の定めのない契約の場合にも増して適正な手続が求められる。このため、 現行の労働基準法第21条において短期の契約であることを理由として解雇予告の適用除外となっている 「2カ月以内の期間を定めて使用される者」及び「季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される 者」について、その期間中に使用者側から労働契約を解除するに当たっては、労働基準法第20条の原則 どおり解雇予告制度を適用するよう改めることについて検討することとしてはどうか。 4 退職事由の明示 労働契約の締結時と同様に労働契約の終了時においても明確化を図るとの観点から、在職期間中の労 働関係の内容を明確化し、併せて退職に関する紛争を未然に防止するため、退職の場合において、労働 者から請求があったときは、使用者は、労働関係の終了期日及びその終了の事由(解雇(その場合の理 由)か、労働者からの退職かの別等)を記載した書面を交付することとすることについて検討すること としてはどうか。 5 変形労働時間制の在り方 (1)趣旨等 変形労働時間制は、近年の社会経済情勢の変化に対応し、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を 行い労働時間を短縮することを目的とするものであり、最近では週40時間労働制への円滑な移行を図 るために利用が進んできているが、今後においては、週40時間労働制が定着した社会を見据えてその 在り方を見直すことが必要である。その際、労働者の健康、生活のりズム等に及ぼす影響に配慮しつ つ、休日の増加によるゆとりの確保、時間外・休日労働の減少を図ることが一層重要となることから、 変形労働時間制を、労使が自主的な話合いにより労働時間の弾力化を図り、休日の確保及び時間外・ 休日労働の減少による総労働時間の短縮を実現するための制度として位置づけ、その活用を図ってい くことについて検討することとしてはどうか。 (2)1年単位の変形労働時間制 (1)の趣旨を踏まえ、労働基準怯第32条の4の1年単位の変形労働時間制については、次のような措 置を講ずることについて検討することとしてはどうか。 @ 休日の確保のための措置、時間外・休日労働の減少を担保する措置 休日の確保及び時間外・休日労働を減少させ総労働時間の短縮を実現するためのものであること を明確にする観点から、休日の確保、最大連続労働日数の短縮や、時間外・休日労働を減少させる ために必要な措置を講ずること。 A 1日及び1週間の労働時間の限度の弾力化、労働日及び労働時間の特定の弾力化 上記@の措置を講じた上で、1日及び1週間の労働時間の限度の弾力化、労働日及び労働時間の 特定の弾力化を行うこと。 B 対象労働者の範囲 採用時期の通年化、労働移動の増大等に対応するため、変形期間の中途での採用者及び退職者に ついても変形労働時間制の対象とできるようにし、併せて所要の清算措置を講ずることとすること。 (3)1か月単位の変形労働時間制 労働基準法第32条の2の1か月単位の変形労働時間制の導入に関する要件を、(1)の趣旨踏まえ、 変形期間が短い場合であっても労使の自主的話合いにより制度を実施することとするため、「就業規 則その他これに準ずるものにより定めること」から「労使協定の締結」に改めることについて検討す ることとしてはどうか。 6 一せい休憩 労働基準法第34条の一せい休憩について、休憩時間の自由利用の担保について配慮しつつ、労働者の 多様な働き方を実現するため、労使協定の締結を要件として適用除外とすることについて検討すること としてはどうかあ。 7 時間外・休日労働の在り方及び関連事項としての深夜業 (1)女子保護規定の解消に伴う家庭責任を有する女子労働者の職業生活や労働条件の急激な変化を緩 和するための措置 平成11年4月から男女雇用機会均等法等整備法が施行され、いわゆる女子保護規定が解消される こととなるが、そのことに伴い、家庭責任を有する女子労働者が被ることとなる職業生活や労働条件 の急激な変化を緩和するたに、いわゆる時間外労働に関する目安指針において、経過的に何らかの 配慮を行い得るよう定めることについて検討することとしてはどうか。 (2)目安時間の実効性を高めるための方策等 時間外労働に関する労使協定が適正に締結されるよう、例えば、時間外労働に関する目安指針の 法的根拠を設けることを含め、時間外労働に関する目安指針の実効性を高めるための方策等につい て、平成11年4月から男女雇用機会均等法等整備法が施行されることに留意し、検討することとして はどうか。 また、5の(1)の趣旨を踏まえ、変形労働時間制が時間外休日労働を減少させ総労働時間の短縮 を実現するためのものであることを明確にする観点から、時間外労働に関する目安指針において変 形労働時間制に係る特別の水準を設定することについて検討することとしてはどうか。 (3)代償休日の付与 長時間労働による労働者の健康への影響等を考慮し、使用者は、一定の期間において、特別の事 情が生じたときに時間外労働に関する目安指針に定める水準を超えて行われた時間外労働及び休日 労働の実績に応じて労働者に代償休日を付与することにより、全体として長時間労働を抑制するよ うに努めなければならないこととすることについて検討することとしてはどうか。 (4)時間外・休日労働の割増率 労働基準法第37条による時間外・休日労働の割増賃金に係る率については、週40時間労働制の定 着状況、特に中小企業における労使の自主的取組による引上げの状況を勘案しつつ、一定の時期に その引上げについて検討を開始することとしてはどうか。 なお、関連事項である深夜労働の割増賃金に係る率の在り方についても、併せて検討することと してはどうか。 (5)割増賃金の算定基礎からの住宅手当の除外 労働基準法第37条の割増賃金の算定の基礎となる賃金について、最近における支給の実態を勘案 しつつ、住宅手当を除外することについて検討することとしてはどうか。 8 裁量労働制の在り方 (1)対象業務の拡大 いわゆるホワイトカラー労働者について、自律的かつ創造的な働き方を実現し、その能力や意欲を より有効に発揮させる視点に立つとともに、その対象となる範囲が適正なものとなるよう、現行の労 働基準法疑38条の2の裁量労働制とは別の新たな裁量労働制を設けることについて検討することとし てはどうか。 具体的には、例えば、法令上「本社及び他の事業場の本社に類する部門における企画、立案、調査 及び分折の業務」と限定した上で、具体的な対象者については「業務の遂行の手段及び時間配分の決 定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なもの」を判定基準として、(2)の委員会におい て決議により決定する仕組みについて検討することとしてはどうか。 (2)導入手続 (1)で新たに対象となるホワイトカラー労働者については、企業の内部労働市場で通常長期にわたっ て雇用管理がなされており、その従事する業務の範囲の境界線が不明確であること、その遂行に要す る時間も個人差が大きいこと等、現行の裁量労働制が主として対象としている「人事管理上特別な取 扱いがなされている専門的業務」とは性格を異にすることから、そのことに応じた手続を定めること について検討することとしてはどうか。 例えば、企業内に賃金や評価制度等を含め労働条件全般を調査審議するための労使の代表からなる 委員会を設置する。この委員会については、透明度の高いシステムとして労使の自主的話合いが実質 的に確保されるようにするため、委員会の構成員の半数は労働者を代表する委員とすること、設直に ついて労働基準監督署長への届出を要すること、議事録の作成、保存、周知の措置を講ずることを義 務付けること等について検討することとしてはどうか。その上で、この委員会において、裁量労働制 の対象となる者の具体的範囲、代償休日の付与等働き過ぎの防止・健康確保のための措置、苦情の処 理等について決議により決定することを要件とすることについて検討することとしてはどうか。 (3)効果 現行の裁量労働制と同様に、労働時間計算に当たっての「みなし労働時間制」とすることについて 検討することとしてはどうか。 (4)適正な運用を確保するための措置 (2)の委員会を設置すること自体が継続的に制度の適正な運用を確保する方策であることに加え、 (2)で委員会において定めなければならないとされた事項の具体的内容(例えば、代償休日の付与等 働き過ぎの防止・健康確保のための措置としては、対象労働者の実労働時間に応じて一定の基準に基 づき代償休日を付与する制度を設けること等)及び裁量労働制を対象とすることについて労働者本人 の同意を得ること等を、労使が参考とすべきガイドラインとして示すことについて検討することとし てはどうか。 9 年次有給休暇の在り方 労働基準法第39条の年次有給休暇については、雇い入れ日から継続勤務6か月後の付与日数について の中小企業における実態を踏まえつつ、付与日数の在り方についてゆとりの実現の観点から引き続き検 討することとしてはどうか。継続勤務1年ごとの追加付与日数については、労働移動の増加に対応する 観点から、勤務年数の長短により日数に大きな差が生じないような仕組み、例えば、現行の継続勤務1 年ごとの追加付与日数1日を2日に引き上げることについて検討することとしてはどうか。 10 特例措置の在り方 労働基準法第40条による労働時間の特例措置の範囲及び水準については、直近の平成6年4月1日の 改正の際にも全体的な法定労働時間の達成状況などを勘案して判断されたものであることから、その経 緯を踏まえ、まず、水準について、本年4月1日からの週40時間労働制への移行に際しての指導期間が 設けられたことをも考慮しつつ、その定着状況を充分に見極めた上で、一定の期限を目途に見直すこと について検討することとしてはどうか。 11 その他 (1)法適用の方式 労働基準法第8条の法適用の方式については、現行のいわゆる号別適用方式を採る意義が薄れて きたこと、また、この方式では労働基準法の適用から漏れることとなる事業が生じ得るものである ことから、これをいわゆる包括適用方式に改めることについて検討することとしてはどうか。 (2)就業規則 労働基準法第89条の就業規則については、現在、10人以上の労働者を使用する事業場に作成が義 務付けられているが、労働者数10人未満の事業場については、就業規則の担う機能が個別労働契約 の締結時における労働条件の明示により相当程度代替可能であることから、2の労働契約締結時の 労働条件の明示制度の改善を優先して措置することとしてはどうか。 なお、労働者数10人未満の事業場においても労働条件を集団的に処理する必要は生じ得るもので あり、また、人材確保のために社会保険への加入等を含めて労働条件の整備を進めるには、就業規 則が必要となることも多いと考えられるため、政策効果が期待される部分に重点的に就業規則の普 及促進のための支援事業を実施することについて検討することとしてはどうか。 また、労働基準法第89条第2項の別規則の制限について、労働関係の多様化に伴い就業観測におい て規律する内容も複雑化していることから、一体のものとして事業場において周知されることを確 保した上で、制限の廃止を含めて見直すことについて検討することとしてはどうか。 さらに、就業規則の周知の確実な履行を確保するため、労働基準法第106条の就業親側等の周 知方法について、法令で明確に列挙する方式に改めることについて検討することとしてはどうか。 (3)労働条件紛争の解決援助のためのシステム 労働移動の増大、労働者の働き方の多様化等に伴い、労働条件に関する紛争の増大が予想される ことから、その発生を予防するため、労働基準行政機関における相談や情報提供等の機能を強化す ることについて検討することとしてはどうか。 また、紛争発生に至った場合において、当事者から申出があったときは、学識経験者の参画のも とに、労働基準行政機関において当事者への助言、指導及び勧告を行い、紛争の解決を促すような 仕組みについて検討することとしてはどうか。 (4)労使協定 労働時間法制関係を中心に労働基準法体系において労使の自主的な話合いに委ねる事項が増大し ていること及び労使協定が労働基準法を補完し同法と一体となって事業場における関係規定の具体 的な適用の在り方を規定するものであることから、労使協定制度について、労使協定の内容及び締 結当事者を就業規則と同様の方法で労働者に周知させることとする等、その適正な実施を促進する ための措置について検討することとしてはどうか。