所定外労働削減要綱の改定−「休日労働は極力行わない」
■HOMEPAGE
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H13.10.24
所定外労働削減要綱の改定
これからの我が国に求められるのは、高度で創造的で付加価値の高い仕事である。
こうした仕事は、時間に追われていては、満足にはできない..。
所定外労働(残業・休日労働)を削減し、
ゆとりをもって仕事をしていく必要がある。
(以上、要綱より抜粋)
今回の改定は
休日労働の削減に主なねらいがある
また要綱は
男性の家族的責任の分担を促すためにも
職場での拘束時間を短縮が必要だとしている。
要綱の直接の目標は
これらの措置を講ずること
によって年間1,800時間をめざそうとするものだ。
下記は、今回の改定において休日労働の削減に係る部分を抜粋したものである。
【要綱の「目標」並びに「休日労働削減に係る今回の改定部分」の一部抜粋】
所定外労働時間削減の目標
a 所定外労働は削減する。
各企業においては、自企業の所定外労働の現状や部門・職種による違いを踏まえ重点削減対象を設定するなど一層の所定外労働時間の削減を図る。
b サービス残業はなくす。
適正な労働時間管理を実施し、サービス残業を生むような土壌をなくしていく。
c 休日労働は極力行わない。
休日労働をさせた場合でも1週間に1日は休めるようにするとともに、休日労働の現状を踏まえ、労使双方が十分話し合い、回数制限などの取組みを行う。
○業務体制の改善
・・・特に、休日労働については特定の勤労者や部門に集中する傾向が強いことから、その理由、状況に応じ、業務体制の見直しや人材育成、知識の引継ぎを図る必要性が高い。このほか在宅勤務や情報機器を利用した勤務形態の導入も業務体制の改善につながり得るものと考える。
○ホワイトカラー等の残業の削減
一方、本来、十分に時間管理の可能なものについてまで、自己申告制度が安易に運用され、それがあいまいな時間管理を誘発し、いわゆる「サービス残業」をもたらしているという問題がある。このため、残業や休日労働を行わせる場合の手続きを厳正なものとすることはもとより、使用者が、自ら現認することにより始業終業時刻を確認し、記録することや、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として、始業終業時刻を確認し、記録することなど、労働時間の適正な把握のために必要な措置を講ずることにより、このような「サービス残業」の温床となるような安易な労働時間管理を見直し、労使とも自覚をもち、社会全体としても注意を払っていくべきである。
○代休制度の導入や休日の振替
時間外労働や休日労働が一定時間以上行われた場合、家庭生活に及ぼす影響や健康の維持・回復を図るという観点から、時間外労働や休日労働の時間数や日数に応じて代休を付与する、いわゆる代休制度を導入することが考えられる。また、特に休日労働については、できる限り行わないようにすることが望ましい。このため、休日労働を行っていない事業所が
68%、行っている事業所でも平均的な労働者の月間の所定休日労働日数は平均1.8日という状況を踏まえ、労使双方が十分話し合い回数制限などの取組を行いつつ、やむを得ない場合であってもあらかじめ休日の振替を行うことにより、必要な休日をきちんと確保することが重要である。特に、家族的責任を有する労働者は、他の労働者以上に負担を負うことになるため、配慮が必要であり、振替を行う場合においても、育児や介護等の調整を図る必要が出てくることから十分な時間的余裕をもってその旨を説明することなどにより負担を減じる対応が求められる。
さらに、休日の振替等を行う際には1週間に1日も休日が取れていないということがないよう日程の設定に留意し、休日労働が集中している者に対してはメンタルヘルスも含めた健康確保措置を講ずる必要がある。
所定外労働削減要綱(改訂後−全文)
(平成13年10月24日労働政策審議会の了承)
第1 趣 旨
我が国は、経済的地位においては世界の有数の水準に達しているが、労働時間が長く、生活のゆとりが感じられないという課題を抱えている。勤労者の生活時間は、労働時間のみならず、個人の自由時間、家族と触れあう時間、社会と関わる時間から成りたっており、これら全ての充実を図っていくことが生活時間のゆとりという観点からは望ましい。したがって、豊かで、ゆとりある勤労者生活を実現するためには、全体の労働時間を減らしていかなければならない。
わが国の勤労者の1人当たり総実労働時間は、改正労働基準法が施行された昭和63年4月以降、着実に減少し、平成12年度には1854時間となった。このうち、所定外労働時間については、昭和63年度には188時間であったが、平成12年度には140時間となっている。しかしながら、依然として高い水準となっているところもあり、引き続き、所定外労働時間の削減に努めていく必要がある。
本来、所定外労働は臨時、緊急の時にのみ行うものであり短いほど望ましいが、我が国においては、常日頃から所定外労働が行われており、勤労者個人の生活に様々な影響を与えている。このうち、休日労働についてはそれほど多くはないものの、一部では相当頻繁に行われている。一日の生活時間の全てを自由に使えるはずであった休日に労働を余儀なくされることは、平日の所定外労働にも増して勤労者生活に大きな影響を与えるものである。
また、平成9年4月より法定労働時間は週40時間に短縮され、年間休日日数も増加しているが、目標はあくまで年間総実労働時間を1,800時間に向け短縮することであり、その達成・定着のためには年次有給休暇の取得促進と併せて所定外労働時間をなお一層削減する必要がある。特に大企業においては、所定内労働の削減は進んでいるものの、所定外労働時間は中小企業に比べて長くなっていることから、一層、所定外労働の削減が要請されている。
このため、この要綱においては、所定外労働時間の削減の意義と目標を明らかにし、所定外労働時間の削減について労使が取り組むべき事項を指針として示すとともに、これに関連して社会全体として取り組むべき事項を示すものである。
第2 所定外労働時間削減の意義
(1)創造的自由時間の確保
社会が豊かになるにつれて、人々の価値観は労働を通じて経済的な価値を高めることだけでなく、自由時間を人それぞれが有意義に過ごし、それらを通じて自己の実現を図っていこうとする傾向が強まっている。特に若い世代においては、この傾向が顕著に見られる。勤労者が自由時間を創造的に過ごし、自己実現、自己啓発を促進していくためには、休日の確保が重要であるが、それだけではなく、日々の自由時間を十分に確保し、言葉通りそれが自由に使えるようになることが望ましい。
所定外労働の削減は、勤労者個人の自己実現、自己啓発を進める上で不可欠のものである。
(2)家庭生活の充実
家庭は人々にとってもっとも重要な生活基盤であるとともに、社会のもっとも基本的な単位である。しかし、家族の一員である勤労者の残業や休日労働が多くなれば、それだけ家族全員がともに過ごす時間が少なくなり、一緒に食事をとる機会が少なくなるなど日々の団らんの時間も十分とれず、楽しく充実した家庭生活を送ることも難しくなる。
また、単に団らんの時間がないというだけでなく、心のゆとりも失われ、家族の触れ合いの機会が少なくなり、残業や休日労働のために心のゆとりがないということでは、子供の成長、教育にも大きな影響を与える場合もある。
さらに家庭の機軸であるべき夫婦の間で時間的な余裕がなく、ほとんど言葉を交わしあうこともないといったことになれば、円満な家庭を維持することも難しくなる。
所定外労働時間を削減し、家庭生活を営むうえで必要な時間を確保することも、ゆとりある、暖かい家庭を築いていく上で重要なことである。
(3)社会参加の促進
我が国では、ボランティアをはじめとした社会参加に遅れが目立つ。とくに、フルタイムの勤労者の社会参加は少ない。その原因の一つとしては、所定外労働が多いといった時間的な制約から、事実上フルタイムの勤労者の社会参加が困難になっていることがあげられる。
若いうちから地域社会で自らの能力を十分に発揮し、地域社会の発展に貢献していったり、地域社会の様々な人と交流し、社会にとけ込んでいくことは、老後生活が長期化していくことからも、また奉仕の精神という観点からもますます重要となっていく。
所定外労働時間を削減することは、時間的な余裕を取り戻し、勤労者の社会参加を容易にし、地域社会を活性化するとともに、勤労者と地域社会のつながりを一層密なものにしていくことに寄与する。
(4)健康と創造性の確保
長時間、そして深夜に及ぶ労働、あるいは休日をとらずに働くことは、疲労やストレスの大きな原因となる。身体の疲労、神経の疲労、強い不安や悩みやストレスの有無はいずれも1日の労働時間の長短に密接な関係をもっており、労働時間が長くなると、睡眠をとっても疲れがとれないことが多くなる。
このような疲労やストレスは勤労者の健康を脅かすものであり、また、勤労者の集中力を低下させ、作業効率を低下させるばかりでなく、労働災害を引き起こす恐れもある。
また、所定外労働が多く、十分なゆとりのもてない状態では、いい仕事はできない。
経済活動のグローバル化が進み、企業間競争が激化している中で、これからの我が国に求められるのは、高度で創造的で付加価値の高い仕事である。こうした仕事は、時間に追われていては、満足にはできないものである。所定外労働を削減し、ゆとりをもって仕事をしていく必要がある。
人生80年時代を迎え、職業生活が長くなる中で、高齢になっても生き生きと働いていけるためには、心身の健康を維持していくことが必要である。所定外労働時間を削減することによって、勤労者は心とからだのゆとりを取り戻し、健康で創造的な生活を送ることができるようになる。
(5)勤労者の働きやすい職場環境づくり
現代社会において全ての勤労者が働きやすい職場を造り出すことは、重要な課題である。とりわけ、体力的に個人差のある高齢者や、育児や介護など家族的責任を負う勤労者にとっても働きやすい職場を造り出すことは、特に重要である。しかし、所定外労働が、毎日、そして長時間行われる、又は休日労働が行われるような状態では、こうした人たちが働くのは難しい。特に家族的責任を有する勤労者については家族的責任を果たすための活動や調整に困難を伴いがちである。
働く意欲のある全ての勤労者が十分能力を活かして働けるようにするためには、所定外労働時間を削減し、こうした人たちの働きやすい環境づくりをしていく必要がある。また、女性だけでなく男性も家族的責任を負うものであることを考えれば、所定外労働の削減は、職場での拘束時間を短縮させ、男性の家族的責任の分担を促し、その意味でも全ての勤労者にとって働きやすい職場づくりに寄与するものと考えられる。
第3 所定外労働時間削減の目標
所定外労働時間の削減については、「所定外労働は臨時、緊急の時にのみ行うもの」という考え方の浸透を図るとともに、当面、具体的目標を以下のように設定し、進めていくこととする。
a 所定外労働は削減する。
各企業においては、自企業の所定外労働の現状や部門・職種による違いを踏まえ重点削減対象を設定するなど一層の所定外労働時間の削減を図る。
b サービス残業はなくす。
適正な労働時間管理を実施し、サービス残業を生むような土壌をなくしていく。
c 休日労働は極力行わない。
休日労働をさせた場合でも1週間に1日は休めるようにするとともに、休日労働の現状を踏まえ、労使双方が十分話し合い、回数制限などの取組みを行う。
第4 労使が取り組むべき事項に関する指針
企業の労使は、所定外労働時間の削減を推進していくため、次の措置を講ずるよう努めるものとする。
(1)労働時間に関する意識の改革
所定外労働は、その長さが問題であることに加えて、そこに労働時間の長いことをあまり問題にしない労使双方の意識が典型的に反映されているという点に大きな問題がある。
特別な仕事もないのにつきあいで残業をするいわゆる「つきあい残業」にみられるように、労使双方に所定外労働を当然視するような傾向も一部に見られるが、そういったことが所定外労働時間を削減する上での大きな問題点となっている。特に、中高年の勤労者やその家族に、「余暇の過ごし方がよくわからない」「所定外労働による追加所得が生計費に組み込まれている」という問題もあって、所定外労働時間の削減より所得を志向する傾向がみられる。
まずは、「職場に長時間いることが善である」といった風潮を改善し、「所定外労働は臨時・緊急の時にのみ行うもの」との原則を改めて認識すべきである。
このため、つきあい残業をしたり、安易に残業や休日労働を命じたりすることのないよう、職場の規律を厳正にし、労働時間に関する意識を徹底して改めていかなければならない。
また、恒常的な所定外労働が行われている職場では所定外労働による追加所得が生計費に組み込まれているという問題があり、このことが所定外労働の削減を困難にしている面もあるが、所定外労働時間の削減に当たって、業務改善や生産性向上に取り組み、所定外労働時間の削減が、生産や売上げ、あるいは従業員の所得の低下につながらないように努力する必要がある。勤労者自らも、追加所得の確保を日的に残業や休日労働をするといった所定外労働に対する考え方があれば、それを払拭するよう努めることが望まれる。
(2)業務体制の改善
所定外労働が減らないことの原因として、業務体制が所定外労働を前提としたものになっていることが挙げられる。このため、本当に必要な業務だけをやるというように発想を切り換え、所定外労働を前提とした仕組みを見直していくことが求められる。とりわけ、要員配置が適切でないと、仕事にムラが生じ、結果として労働時間は長くなってしまう。作業ごとに必要な要員を正確に把握し、パートタイム労働者も有効に活用しつつ、所定外労働を前提としない形での業務計画及び要員計画を策定することが重要である。
また、業務の遂行の状況をみながら柔軟に要員配置が行えるようにするためには、積極的な教育訓練の実施等により多職能化を推進していかねばならない。特に休日労働については特定の勤労者や部門に集中する傾向が強いことから、その理由、状況に応じ、業務体制の見直しや人材育成、知識の引継ぎを図る必要性が高い。このほか在宅勤務や情報機器を利用した勤務形態の導入も業務体制の改善につながり得るものと考える。
なお、交替勤務の職場で、あらかじめ所定外労働を行うことを前提とした2組2交替制や予備組がなく連続勤務の頻度の高い3組3交替制等不合理な交替制勤務をとっている場合には、所定外労働をしなくてもすむような勤務体制に改善していくことが求められる。
(3)労使一体となった委員会の設置
所定外労働時間の削減は、労使のいずれかが取り組めばできるというものではない。所定外労働時間の削減に向けて労使双方がよく話し合い、合意形成を図るとともに、具体策や留意事項等についても意志疎通を十分に図っていくことが重要である。
こうした観点から、労使一体となった委員会を設置して、残業や休日労働の削減に向けた目標の設定、具体策の検討及び実施、所定外労働の実態把握、具体策の改善へのフィードバック等の一連の取組みを行い、労使が一体となって目標管理を行うとともに主体性を持って取り組む体制を整備することが望まれる。このことを通じて労使の意識のゆるみが相互にチェックされ、所定外労働は例外的なものであるとの意識の定着化が図られるものと考えられる。
(4)「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」の導入・拡充
所定外労働時間の削減については、安易に所定外労働が行えないような仕組みをつくることも必要である。具体的には、一定の曜日あるいは一定の週を「ノー残業デー」あるいは「ノー残業ウィーク」として設定し、ポスターの掲示、社内報や労働組合の機関紙誌でのPR、さらには放送等による定時退社の奨励、人事担当者による巡視等の啓発活動を展開するなど、日常的な運動を繰り返すことが有効である。そして、ノー残業デーを実施する際には、例えば最初は週1回から始め、次第に週2回へと拡大するなど段階的に取り組んでいくことも現実的な方法である。
なお、この場合、これ以外の曜日や週は所定外労働を当然視するというような悪弊に陥らないよう注意しなければならない。また、このしわ寄せが他の日に来ないように、併せて業務の改善を進めるなど工夫していくことが求められる。
(5)フレックスタイム制や変形労働時間制の活用等
所定外労働がなぜ減少しないかを勤労者にきいてみると、「所定労働時間内では仕事が終わらない」に次いで、「仕事の繁閑が激しい」「取引先の仕事や顧客へのサービス」をあげるものが多い。
とくに、ホワイトカラーは、ある程度仕事のやり方を任されている反面、仕事が定型的でないため、業務に繁閑が生じたり、会社の内外とのつきあいが多く、時間が不定期になりがちである。こうした場合には、フレックスタイム制を採用し、効率的な時間配分を行うことが、全体としての労働時間を短縮するうえで効果的である。フレックスタイム制を導入して残業時間を大幅に削減した例もある。なお、在宅勤務等の場合についても同様であるが、フレックスタイム制が導入された場合には、勤労者の方も、労働時間の自己管理をきちんと行わなければならない。また、これらの勤労者の上司も制度の趣旨をよく理解し、勤労者の自主性を尊重することが重要である。また、月単位や季節的に業務の繁閑が生じるような場合には、労使で十分に話し合った上で変形労働時間制を導入し、業務の繁閑に応じて労働時間を弾力的に配分し、労働時間の無駄を省くことも所定外労働を減らしていく上で効果的である。
(6)ホワイトカラー等の残業の削減
近年、産業構造、職業構造が多様化する中で、定型的ではない、創造性を必要とする業務が増えている。こうしたことからホワイトカラーの労働時間を管理していくことが困難になってきている。特に、所定外労働の問題については、本人の裁量による部分が大きく、短縮が難しくなっている。
このため、研究開発職などの勤労者については、裁量労働制を導入し、勤労者の自主的な活動を尊重することが望ましい。なお、この場合、いうまでもなく、勤労者に十分な裁量権を与えなければならない。
一方、本来、十分に時間管理の可能なものについてまで、自己申告制度が安易に運用され、それがあいまいな時間管理を誘発し、いわゆる「サービス残業」をもたらしているという問題がある。このため、残業や休日労働を行わせる場合の手続きを厳正なものとすることはもとより、使用者が、自ら現認することにより始業終業時刻を確認し、記録することや、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として、始業終業時刻を確認し、記録することなど、労働時間の適正な把握のために必要な措置を講ずることにより、このような「サービス残業」の温床となるような安易な労働時間管理を見直し、労使とも自覚をもち、社会全体としても注意を払っていくべきである。
(7)時間外労働協定における延長時間の短縮
労働基準法により、法定労働時間を超えて時間外労働を行う場合には、労使協定(いわゆる時間外労働協定)が必要である。また、時間外労働協定を締結する労使は、一定期間について厚生労働大臣が定める時間外労働の限度に関する基準により示されている限度時間を超えないように延長時間を設定しなければならない。この時間外協定の締結に当たっては、業務区分を細分化し、その区分に応じて時間外労働を必要最小限のものとし、業務の改善を進めながら、徐々にその時間を短縮していくことが適当である。
また、時間外労働協定では、臨時的に特に長時間の時間外労働が必要となるような特別の事情が想定される場合は、協定の延長時間を超えて時間外労働を行うことができる旨を規定できるが、これもごく例外的なものであり、できる限りこのような定めを行わないようにし、そのような場合には改めて当該期間について時間外労働協定を締結しなおすなど実効ある協定の締結に努めることが望まれる。
(8)「原則限度時間」の設定
時間外労働協定の延長時間までは所定外労働が許容されるとの安易な姿勢をなくすため、時間外労働協定の延長時間とは別個に、労使で「原則限度時間」を定め、これが時間外労働協定の延長時間を下回るように設定し、原則としてこれを超える時間外労働は行わないようにすることも有効な方法である。具体的には、例えば時間外労働協定においては、時間外労働の限度として月45時間としてあっても、これとは別に、原則限度時間を20時間と定め、よほどのことがないかぎりこの時間を超えないようにするわけである。
また、1日については、原則として、ある時刻以降は残業を行わないという「原則限度時刻」ともいうべき時刻を定めることも有効と考えられる。
(9)所定外労働を行う理由の限定
安易な所定外労働をなくすうえでは、所定外労働を行うに当たって、できる限り事前に労使で話し合うように努める必要がある。そこで、少なくとも「原則限度時間」「原則限度時刻」を超えて、又はノー残業デー等に時間外労働を行う場合や休日労働を行う場合には、よほどの理由がなくては、所定外労働を行わないこととし、その理由を、あらかじめ労使で十分話し合った上で、具体的、限定的に明示しておくことが有効と考えられる。
(10)代休制度の導入や休日の振替
時間外労働や休日労働が一定時間以上行われた場合、家庭生活に及ぼす影響や健康の維持・回復を図るという観点から、時間外労働や休日労働の時間数や日数に応じて代休を付与する、いわゆる代休制度を導入することが考えられる。また、特に休日労働については、できる限り行わないようにすることが望ましい。このため、休日労働を行っていない事業所が
68%、行っている事業所でも平均的な労働者の月間の所定休日労働日数は平均1.8日という状況を踏まえ、労使双方が十分話し合い回数制限などの取組を行いつつ、やむを得ない場合であってもあらかじめ休日の振替を行うことにより、必要な休日をきちんと確保することが重要である。特に、家族的責任を有する労働者は、他の労働者以上に負担を負うことになるため、配慮が必要であり、振替を行う場合においても、育児や介護等の調整を図る必要が出てくることから十分な時間的余裕をもってその旨を説明することなどにより負担を減じる対応が求められる。
さらに、休日の振替等を行う際には1週間に1日も休日が取れていないということがないよう日程の設定に留意し、休日労働が集中している者に対してはメンタルヘルスも含めた健康確保措置を講ずる必要がある。
第5 社会全体として取り組むべき事項
個別の企業の枠を超えて、社会全体として所定外労働時間の削減のため、次の事項に取り組むことが期待される。
(1)企業系列や業界団体の取組み
「取引先の仕事や顧客へのサービス」、「取引先からの発注に時間的余裕がない」との指摘にもみられるように、取引先や顧客との関係で所定外労働を強いられるような慣行があることも所定外労働の大きな原因となっている。
業務を平準化し、あるいは、計画的に遂行できるようにするためには、取引先からの突発的な発注や休日労働を前提とするような発注のあり方を見直し、親会社や取引先との十分な意志疎通を図った上で、適正な納期設定や計画的発注等の慣行の定着に努める必要がある。
こうした改善を進めるため、下請中小企業に対する親会社や取引先の十分な理解と協力が不可欠であるので、これらの者は十分配慮をするとともに、発注方法の改善を含む労働時間短縮に向けた基本方針や計画の策定、これを実行するための指導援助の実施など企業系列や業界団体による一体となった取組みを推進することが重要である。また、業界単位で労使が労働時間短縮のための協議を行い、そこで得られた合意を業界全体に広げていくことも考えられる。
また最近は小売店における在庫を少なくするなどの理由から多頻度小口配送といわれる物流システムが求められ、これが長時間労働を生み出しているという面もある。これは消費者意識の問題ともからむ問題であるが、過度な多頻度小口配送については是正を図っていくことが必要である。
(2)消費者意識の改革
近年、例えば食料品の鮮度管理、翌日配達の宅配便、年中無休24時間営業の店舗など、消費者に対するサービスの高度化が進んでいるが、中には、企業が過剰なサービスを提供しようとするため営業時間が長くなり、このため所定外労働時間が長くなるという現象も見られる。こうした過剰サービスの問題は、今後、所定外労働時間の削減を進める上での大きな障害となる場合がある。このため、企業においては、商業・サービス業など消費者を相手とする業務について営業時間と労働時間を区別する考え方を定着させ、営業時間の延長が労働時間を長くすることのないようにしていく必要がある。同時に、消費者側も、利便性の追求が場合によってはサービスを提供する側の長時間労働を引き起こすということを十分認識し、こうしたサービスのあり方について消費者を含めた社会的コンセンサスづくりもこ取り組んでいかなければならない。