裁量労働制
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戻る ■裁量労働制の導入は、なぜ進まない? 裁量労働制は、「みなし労働時間制」の一つであって、昭和63年4月から施行され た改正労働基準法に新しく規定された。 当初は、対象業務を通達(S63.1.1基発第1号)で例示。しかし、例示による 方法は、一部に拡大解釈の横行を生んだため、平成6年1月、5業務が労基法施行規 則第24条の2第6項に、限定列挙の方法で規定されて現在に至っている。 最近は、仕事の「成果主義」が強調され、その関連でも裁量労働制の導入が注目され ている。 一面、裁量労働制の労働時間は、実際を離れてみなし運用される制度であるため、労 使協議(労使協定)が実を伴わない場合などの運用ケースでは、制度本来の趣旨を実 現できず、弊害を生むおそれも否定できない。 最近、裁量労働の対象業務の拡大を求める声は、多く使用者サイドからあがっている ことに注目しなければならない。 仕事の成果主義と並んで「ホワイトカラーの生産性向上」の観点から、裁量労働の対 象範囲の拡大を求める意見がそれである。 しかし、裁量労働制の採用が使用者の思惑通りの結果を生むかどうかは予断を許さな い。 現行の5業務の中で、例えば、システムエンジニアやデザイナーの業務のような、拘 束時間より「ある瞬間の発想開花」がポイントとなるような業務にはなじみ易いが、 ホワイトカラー全般に馴染むかとなると、単純ではないだろう。 「仕事の効率化=生産性の向上」という目的を達する手段として、何が最適かは以外 と単純ではない。 「拘束労働・指揮命令型の労働」いわゆる「管理労働」は、近代の労務管理手法では 業務の効率的遂行の点で、かなり研究され確立された手法の一つであることも事実で あるからだ。 労働省の平成8年調査では、裁量労働制の採用企業割合は0.9%に過ぎない。しか し、採用が進まない背景が対象業務の限定にあるとするのは、多くは、誤解に過ぎな い。 現状では、経営者は裁量労働制の採用に当たって、労働者の仕事に「柔軟性、ゆとり や夢」を与える効果をねらっている訳ではない。導入目的は業務の効率化であり、内 実を伴わない(と感じている)拘束時間に賃金でペイすることへの違和感の解消であ ると思われる。 自己裁量にもとづく「裁量労働制」の導入が、「管理労働」におけると同様かそれ以 上に生産性の向上をもたらすかどうかは、次のような諸点の検討が欠かせないと思わ れる。 1 対象とする業務自体の慎重な検討。 2 業務内容が目標管理になじむものか又、自己充足感のあるものか。 3 つぎには、自社の対象労働者の資質、レベルに対する冷静な評価が必要と思われ る。セルフマネジメントに適する程に訓練された労働者群か。(相対的に人的資源 に恵まれない中小企業の場合特に、留意を要する。) 4 時間の管理を本人の裁量に任せる以上、一般的には、業務の進捗度管理が重要。 本人ごとの目標設定、フォロー、アドバイスを与え、進捗度を管理するなどの制 度が確立され、現に機能しているか等の管理(上司)サイドの能力評価も重要。 5 評価と報酬の仕組みが賃金制度として整備されているか。 個人毎の業績が明確で、評価の出やすい職務は対応しやすいが、ホワイトカラー 一般の場合、この点の困難さがある。 7 みなし労働時間の協定において、セクションの平均労働時間(時間外労働を含む) をみなし時間とする例が多いが、この場合、職場内の仕事量の配分の見直しが肝要。 多忙な労働者と暇な労働者の存在を放置することは、労務管理の上で得策ではない し、クレームが多発する恐れがある。 等々。 今後、対象業務の拡大がある場合でも、裁量労働制の導入に当たっては、『使用者の 具体的な指揮命令を受けずに時間配分等の自己決定ができる客観的な条件があるか否 か』の見極めが重要である。 意外に、裁量労働制の対象に適した業務は、限られているように思われる。 戻る ■裁量労働制の法規 労働基準法第38条の2第4項を根拠とする。 (1)労使協定により (2)業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだ ねる必要があるため当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な 指示をすることが困難なものとして『命令で定める業務』 (3)その協定で定める時間労働したものとみなす 戻る ■労使協定 1 協定は様式が指定されており(様式第13号)、所轄労働基準監督署長に届出義 務がある。 2 協定事項 (1)対象業務を定めること。 (2)当該業務に従事する労働者に対し、(業務の遂行の手段及び時間配分の決定等 に関して)具体的な指示をしない旨の定めを行うこと。 (3)労働時間の算定方法を協定で定めること。 戻る ■命令で定める業務 1 新商品、新技術の研究開発又は人文科学、自然科学に関する研究の業務 2 情報処理システムの分析又は設計の業務 ・「情報処理システム」とは、電子計算機を使用して行う情報処理を目的として 複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるもの。 3 新聞、出版の事業における記事の取材、編集の業務又は放送番組の制作のための取材、編集の業務 4 新たなデザインの考案の業務(衣服、室内装飾、工業製品、広告等の) 5 放送番組、映画等の制作プロデユーサー又はデイレクターの業務 (以下、追加された業務) 6 コピーライターの業務 7 公認会計士の業務 8 弁護士の業務 9 一級建築士の業務 10 不動産鑑定士の業務 11 弁理士の業務 戻る 対象業務の解釈通達(平6・1・4基発第1号) 「新商品若しくは新技術の研究開発」とは、材料、製品、生産・製造工程等の開発又 は技術的改善等をいうものであること。 「情報処理システム」とは、情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、 コンピュータのハードウエア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理する プログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること。 「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの 業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、 (2)入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成 の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(3)システム稼働後のシステムの評価、問 題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設 計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること。 「新聞又は出版の事業」には、新聞定期刊行物にニュースを提供するニュース供給業 も含まれるものであること。なお、新聞又は出版の事業以外の事業で記事の取材又は 編集の業務に従事する者、例えば社内報の編集者等は含まれないものであること。 「取材又は編集の業務」とは、記事の内容に関する企画及び立案、記事の取材、原稿 の作成、割付け・レイアウト・内容のチェック等の業務をいうものであること。 記事の取材に当たって、記者に同行するカメラマンの業務や、単なる校正の業務は含 まれないものであること。 「放送番組の制作のための取材の業務」とは、報道番組、ドキュメンタリー等の制作 のために行われる取材、インタビュー等の業務をいうものであること。取材に同行す るカメラマンや技術スタッフは含まれないものであること。 「編集の業務」とは、上記の取材を要する番組における取材対象の選定等の企画及び 取材によって得られたものを番組に構成するための内容的な編集をいうものであり、 音量調整、フィルムの作成等技術的編集は含まれないものであること。 「広告」には、商品のパッケージ、ディスプレイ等広く宣伝を目的としたものも含ま れるものであること。 考案されたデザインに基づき、単に図面の作成、製品の制作等の業務を行う者は含ま れないものであること。 「放送番組、映画等の制作」には、ビデオ、レコード、音楽テープ等の制作及び演劇、 コンサート、ショー等の興行等が含まれるものであること。 「プロデューサーの業務」とは、制作全般について責任を持ち、企画の決定、対外折 衝、スタッフの選定、予算の管理等を総括して行うことをいうものであること。 「ディレクターの業務」とは、スタッフを統率し、指揮し、現場の制作作業の統括を 行うことをいうものであること。 戻る ■運用の留意点−−−Q&A Q1 裁量労働制と時間外労働について Q2 裁量労働制を採用した場合、労働時間の把握・管理は不要か Q3 プロジェクトチームを組んで開発業務に当たる場合、裁量労働の扱いが可能か Q4 裁量労働制の適用者に対する会議での指示の可否 Q5 裁量労働制に関する労使協定の留意点はなにか Q6 裁量労働と遅刻、早退の取扱について 戻る Q1 裁量労働制と時間外労働について 回答 ◎裁量労働は、労使協定で定めた時間を労働したと「みなす」制度。例えば、1 日9時間と協定すれば、それ以上の労働をした場合も、以下の場合も一律9時 間の労働と「みなす」ことになる。 ◎法定労働時間の8時間を超えるみなし時間を協定する場合、36協定の締結と 時間外労働の割増賃金支払の義務がある。 ◎裁量労働制は、労基法第4章の労働時間の算定に限られるため「深夜業、休日 労働、休憩の規定」等の適用が排除されることはない。 従って、深夜業、休日労働には、時間数に対応した割増賃金の支払いが必要。 戻る Q2 裁量労働制を採用した場合、労働時間の把握・管理は不要か。 回答 ◎裁量労働制が認められるのは、事業場外労働のように労働時間の算定が困難な ケースの「みなし労働時間」制度ではないことに注意を要する。 「業務の遂行手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難 である業務」に対する労働者の裁量にもとづく労働を認めているに過ぎないも のであるから、労働時間の把握、管理義務は当然、使用者に残る。 ◎労働時間の把握は、有効期限更新時等に、協定の内容(特に、みなし時間数) を労使がチェックする際の重要資料となる。また、深夜、休日労働の管理も、 割増賃金の支払管理上欠かせないものである。 戻る Q3 プロジェクトチームを組んで開発業務に当たる場合、裁量労働の扱いが可能か。 数人でプロジェクトチームを組んで開発業務を行っている場合、実際上、その チームの管理の下に業務遂行、時間配分を行うケースが多いと思われるが裁量 労働といい得るか。 また、プロジェクト内に業務に付随する雑用、清掃等のみ行う労働者がいる場 合、取扱はどうか。 回答 いずれも裁量労働に該当しない。(昭63・3.14基発第150号) 戻る Q4 裁量労働制の適用者にもコアタイムを設けて会議による「業務の指示」を行い たいが、『当該業務に従事する労働者に対し、(業務の遂行の手段及び時間配 分の決定等に関して)具体的な指示をしない旨の定めを行うこと』との関係は、 どのように理解すればよいか。 回答 ◎通常の頻度で開催される会議への出席を否定する趣旨ではない。ただし、会議 における指示には、裁量労働制の趣旨を損なわないよう配慮が必要。 戻る Q5 裁量労働制に関する労使協定の留意点はなにか 回答 ◎労基法様式第13号によって、所轄労働基準監督署長に届出が必要。 ◎労使協定には「1日ごとの労働時間のみなし」時間を協定する。従って、1か 月のみなし時間を協定することでは足りない。 実務的には「毎月○○日について1日○時間の時間外労働をしたものとみなす」 という方法で、1ヶ月の時間外労働の時間数を表現できるようにする。 戻る Q6 裁量労働と遅刻、早退の取扱について 回答 ◎裁量労働制の適用者は、始業・終業時刻の決定についても自由裁量を有するの が原則。コアタイムを設定することは制度の趣旨に反しないが、始業・終業時 刻の遵守を求め、違反者に遅刻・早退の賃金カットを行うことを想定していな い。
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裁量労働制の採用企業は0.9%(平成7年賃金労働時間制度等総合調査)
計 | 1000人以上 | 100〜999人 | 左の内 300〜999人 |
左の内 100〜299人 |
30〜99人 | |
裁量労働のみなし労働時間制を 採用している企業 |
(0.9) 100.0 |
(5.1) 100.0 |
(1.3) 100.0 |
(1.1) 100.0 |
(1.3) 100.0 |
(0.6) 100.0 |
新商品又は新技術の研究開発等 | 49.3 | 68.1 | 64.8 | 41.2 | 70.5 | 30.9 |
情報処理システムの分析又は設計 | 43.2 | 34.3 | 61.3 | 35.6 | 67.6 | 30.1 |
記事の取材又は編集 | 27.0 | 8.7 | 9.9 | 14.8 | 8.7 | 46.6 |
デザイナー | 12.9 | 16.3 | 8.9 | 27.1 | 4.5 | 15.4 |
プロデユーサー又はデイレクター | 11.1 | 1.8 | 1.4 | - | 1.7 | 21.9 |
その他 | 27.5 | 22.2 | 53.0 | 7.4 | 64.0 | 7.2 |