専門業務型裁量労働制の要件と導入手順
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専門業務型裁量労働制


 専門業務型裁量労働制は、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務遂行手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難なものとして労働省令で定める業務を対象に、労使協定の締結・届出等一定の要件を経て認められる裁量労働制です。


導入実務上の留意点
1.

 最も留意しなければならないのは、使用者固有の労働時間把握義務の問題でしょう。(対象業務及び導入要件・手続を経た合法的な制度導入が図られていることが前提ですが)深夜(午後10時〜翌午前5時)及び休日を除く通常時間帯の勤務に関しては、所在証明(いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったかを客観的に証明できる)程度の労働時間把握でよいとされていますが、深夜及び休日の労働時間はタイムカード等により具体的な労働時間数まで把握し記録に残す(この部分には当然、別途、法定割増賃金の支払義務があります。)必要があるとされています。
(関連法違反のうち、最も多い違反は、「出退勤時刻を記録せず、出勤日のみの記録していること。」)にあります。
 
この点はマスコミ等でも誤解(例えば、H13.12.11日経新聞朝刊5面「・・タイムカードなどで企業が社員の勤務時間を管理するのではなく、社員が自分で働く時間を決め・・・」)があるようですが、「使用者には労働時間把握の固有の義務がある」という基本を押さえ、当該制度では、そのうちの何が緩和されているのか、といった視点から問題を整理してするようにしなければいけません。この制度は、労働時間のみなし制度を柱とする制度ですから、労働時間の取扱いを的確に行っておくことが無用のトラブルを防止する上で大切です。

このページに、労使協定、就業規則の規定例を掲載していますが、これは労働省モデルを元にしたものです。
前記の問題に関連した条項として

労使協定例(就業規則規定例にも同様の規定あり)
 第4条 深夜労働・休日勤務
 (1) 業務の都合でやむを得ず深夜又は休日に労働する場合は、事前に所属長の許可を得るものとし、その勤務時間はみなし労働時間には含めない。
 (2) 深夜又は休日における勤務は、通常の勤務者と同様、賃金規定第○条の割増賃金を支給する。

のように協定しています。この点が専門業務型裁量労働制の導入ポイントの一つとなりますから、参考にされると良いでしょう。

2.  「1日のみなし労働時間」

 実態調査(東京労働局)によると「導入前の対象労働者の平均的な実労働時間を基準にした」48.1%、「会社の所定労働時間と同じにした」40.6%、が双璧を占めていますが、後者の場合、制度上のみなし労働時間と実際の労働時間が乖離し勝ちであり、制度本来の趣旨に沿うものではないと同時に、労務管理上の問題も発生しやすいと言われますから、要検討でしょう。
 基本的には、「導入前の対象労働者の平均的な実労働時間を基準にし」、その後、前記1の労働時間把握を行いつつ、協定のみなし労働時間について、定期的に見直し・調整していく必要があると思われます。
3.  その他注意する点としては、「プロジェクトチームを組んでチーフの管理下で開発業務を行っている場合などは、裁量労働に該当しない。」など、管理された労働にはそもそも裁量労働制の適用ができないという理解が必要でしょう。





(1)     専門業務型裁量労働制を採用することができるのは次の11業務+8業務=計19業務です
  
対象業務の具体的範囲の解説が示されています

省令で定める業務

労働大臣が指定する業務

@ 新商品、新技術の研究開発の業務

E コピーライターの業務

A 情報システムの分析、設計の業務

F 公認会計士の業務

B 取材、編集の業務

G 弁護士の業務

C デザイナーの業務

H 一級建築士の業務

D プロデューサー、ディレクターの業務

I 不動産鑑定士の業務

 

J 弁理士の業務

  K 情報処理システム活用のコンサルティング(問題点把握又は活用方法の考案・助言)の業務
  L 建築物内の照明器具、家具等の配置のコンサルティング(考案・表現、助言)の業務
  M ゲームソフト創作の業務
  N 証券アナリストの業務
  O 金融工学等の知識を用いる金融商品の開発の業務
  P 二級建築士又は木造建築士の業務
  Q 税理士の業務
  R 中小企業診断士の業務

注意:K〜RはH14.2.13に追加された業務です。





(2) 導入要件

 労使協定で次の事項を定めます。

 イ (1)で列挙された業務の中から労働者を就かせる業務を特定すること。
 ロ 業務の遂行手段、時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこととする旨の定め。
 ハ その業務に必要な「1日当たりのみなし労働時間」を定めること。
 ニ 労働時間の算定については、協定に定めるところによることとする旨の定め。
 ホ 有効期間
 その他労使協定の締結にあたって留意する事項
労使協定は、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との間で締結する必要があります。
労使協定のおいて、みなし労働時間が適用される労働者であっても、休憩、深夜業、休日の規定の適用は排除されないことに注意してください。




(3) 所轄労働基準監督署長に対する労使協定の届出

 労使協定について所定様式により所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。

 専門業務型裁量労働制の協定届記入例

様式第13(24条の224項関係)

専門業務型裁量労働制に関する協定届

事業の種類

事業の名称

事業の所在地(電話番号)

研究所

○○○○株式会社△△研究所

○○市○○町3−5−8       (1000-2000)

業務の種類

業務の内容

当該労働者数

1日の所定労働時間

協定で定める時間

協定の有効期間

研究所の研究員

研究所において製品技術などに関し自己の研究計画によって開発、試験などを行う

15人

7時間30分

9時間

平成○年4月1日から1年間

時間外労働に関する協定の届出年月日

平成○年○月○日


協定の成立年月日  
平成○年○月○日

協定当事者である労働組合の名称又は労働者の過半数を代表する者の職名・氏名
○○○○労働組合△△研究所支部長  大谷一雄 (印)

協定の当事者
(労働者の過半数を代表する者の場合)の選出方法
(                             )

平成○年○月○日

使用者 職名・氏名
○○○○株式会社 代表取締役 佐藤 保 (印)

○○労働基準監督署長 殿

記載心得
1 「業務の内容」の欄には、業務の性質上当該業務の遂行方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある旨を具体的に記入すること。
2 「時間外労働に関する協定の届出年月日」の欄には、当該事業場における時間外労働に関する協定の届出の年月日(届出をしていない場合はその予定年月日)を記入すること。ただし、協定で定める時間が労働基準法第32条文は第40条の労働時間を超えない場合には記入を要しないこと。



〔労使協定例〕

 ○○○○株式会社と○○○○労働組合は、裁量労働に対し、次のとおり協定する。

第1条 裁量労働の原則
 裁量労働制適用者は、原則として、当該業務の遂行につき裁量を有し、会社は業務遂行に係る時間配分については、個人の裁量にゆだねるものとする。

第2条 適用対象者
 研究本部で研究業務に従事する者とする。

第3条 労働時間の取扱い
 所定労働日に勤務した場合は、9時間勤務したものとみなす。

第4条 深夜労働・休日勤務
(1) 業務の都合でやむを得ず深夜又は休日に労働する場合は、事前に所属長の許可を得るものとし、その勤務時間はみなし労働時間には含めない。
(2) 深夜又は休日における勤務は、通常の勤務者と同様、賃金規定第○条の割増賃金を支給する。

第5条 協定の有効期間
 平成○年○月○日から平成○年○月○日までの1年間とする。

○○○○株式会社  代表取締役○○○○ 印     
○○○○労働組合 執行委員長○○○○ 印     

(注)第1条から第3条及び第5条は必ず労使協定で定めてください。第4条の内容は就業規則で定めることとしても差し支えありません。



〔就業規則規定例〕

(総則)
第1条
 この規定は、当社の裁量労働制について定める。


(裁量労働の原則)
第2条
 裁量労働制適用者は、原則として、当該業務の遂行につき裁量を有し、会社は業務遂行にかかわる時間配分については、個人の裁最にゆだねるものとする。
 ただし、業務内容、職場規律、職場秩序及び施設利用等について、会社は必要に応じて指示するものとする。


適用対象者
第3条
 研究本部の研究員のうち人社6年目以上の者を適用対象者とする。

(就業時間)
第4条
(1) 所定就業日の労働時間は1日9時間とみなす。
(2) 始業・就業時間及び休憩時間は、当該事業場の現行所定就業時間、所定休憩時間を基本とする。
  ただし、業務遂行上の必要による就業時間の変更は弾力的に運用するものとし、その時間は裁量労働制適用者が自主的に設定するものとする。

(休日)
第5条
 休日は就業規則の定めるところによる。

(深夜労働・休日労働)
第6条
(1) 深夜労働(午後10時〜翌午前5時)は、事前に所属長の許可を得なければならない。

(2) 休日に出社することが必要な場合には、前月末までに所属長と調整の上、原則として、同月内に振替日を設定する。
  ただし、業務遂行上の必要により休日出勤扱いとする場合には、事前に所属長の許可を得るとともに、業務状況を考慮した上でできる限り早い日に、代休を取得することとする。
(3) 深夜労働、休日出勤については、実働時間により賃金規定第○条の割増賃金を支給する。


(出張時の取扱い)
第7条
 
事業場外で業務に従事し、就業時間が算定できない場合は、所定就業時間勤務したものとみなす。

(付則)

第8条
 この規定は、平成○年○月○日から施行する。







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(4)対象業務の具体的範囲に関する解釈
   対象業務については下記のような解釈が示されています。

@「新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務」

「新商品若しくは新技術の研究開発」とは、材料、製品、生産・製造工程等の開発又は技術的改善等をいいます。

A「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいいます。)の分析又は設計の業務」

「情報処理システム」とは、情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいいます。「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(a)二一ズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(b)入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(C)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいいます。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーの業務は含まれません。

B「新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務」

「取材又は編集の業務」とは、記事の内容に関する企画及び立案、記事の取材、原稿の作成、割付け・レイアウト・内容のチェック等の業務をいいます。記事の取材に当たって、記者に同行するカメラマンの業務や、単なる校正の業務は含まれません。「放送番組の制作のための取材の業務」とは、報道番組、ドキュメンタリー等の制作のために行われる取材、インタビュー等の業務をいいます。取材に同行するカメラマンの業務や技術スタッフの業務は含まれません。「編集の業務」とは、上記の取材を要する番組における取材対象の選定等の企画及び取材によって得られたものを番組に構成するための内容的な編集をいうものであり、音量調整、フィルムの作成等技術的編集は含まれません。

C「衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務」

「広告」には商品のパッケージ、ディスプレイ等広く宣伝を目的としたものも含まれます。考案されたデザインに基づき、単に図面の作成、製品の制作等を行う業務は含まれません。

D「放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務」

「放送番組、映画等の制作」には、ビデオ、レコード、音楽テープ等の制作及び演劇、コンサート、ショー等の興行等が含まれます。「プロデューサーの業務」とは、制作全般について責任を持ち、企画の決定、対外折衝、スタッフの選定、予算の管理等を総括して行うものです。「ディレクターの業務」とは、スタッフを統率し、指揮し、現場の制作作業の総括を行うことをいいます。

E「広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務」

いわゆるコピーライターの業務をいいます。「広告、宣伝等」に一は、商品等の内容、特長等に係る文章伝達の媒体一般が含まれ、また、営利目的か否かを問わず、啓蒙、啓発のための文章も含まれます。「商品等」とは、単に商行為たる売買の目的物たる物品にとどまるものではなく、動産であるか不動産であるか、また、有体物であるか無体物であるかを問いません。「内容、特長等」には、キャッチフレーズ(おおむね10文字前後で読み手を引き付ける魅力的な言葉)、ボディコピー(より詳しい商品内容等の説明)、スローガン(企業の考え方や姿勢を分かりやすく表現したもの)が含まれます。「文章」については、その長短を問いません。

F〜J「公認会計士の業務」、「弁護士の業務」、「一級建築士の業務」、「不動産鑑定士の業務」、「弁理士の業務」とは、それぞれ法令に基づいた業務をいいます。

(注)

 専門業務型裁量労働制の適用対象となるか否かは、単に業務の名称等によって判断するものではなく、業務の実態が専門業務型裁量労働制の本旨に当てはまるか否かによって判断すべきものです。
 例えば、数人でプロジェクトチームを組んで開発業務を行っている場合、実際上、そのチーフの管理の下に業務遂行、時間配分を行うケースが多いと思われますが、この場合は専門業務型裁量労働制の適用対象に該当しません。また、プロジェクト内に業務に付随する雑用、清掃等のみを行う労働者がいる場合の当該労働者も専門業務型裁量労働制の適用対象に該当しません。(昭和63年3月14日基発第150号)