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採用内定が取り消された


学生にとって、採用内定の取り消しは信じ難い実社会の背信行為である。
また、その多くが就職戦線があらかた終結した時点で発生するため、体勢の立てなおしは実に困難である。
心の痛手を法律で救済はすることはできない。が、
予備知識を持っているに越したことはない。

少し堅い文章になるが、
正確を期するため、
ここでは労働省労働基準局の公式見解を紹介しておこう。(労働基準法コンメンタールより)



 採用内定には種々の態様のものがあり、その法的性格
をー律に論ずることはできないが、いわゆる採用内定通
知が労働契約締結についての承諾の意思表示とみられる
場合は、労働契約は通知によって有効に成立していると
いえるので、その取消しについては労働基準法第20条
が適用されるものと解される。

 他方、それが予約の意思表示とみられる場合又は採用
手続における単なる事実行為とみられる場合は、労働契
約は未成立であるから解雇の問題は生じない。

 いずれにしても、採用の内定の仕方は種々であり、また採用内定後における
会社と内定者の接触の程度も異なっているので、個々の実情に応じて具体的に
判断すべきであろう。(昭27・5・27基監発第15号及び昭46・11・17基発第760号参照)


採用内定の法的性格に関する裁判例
最高裁の判例で一応の決着が、、










採用内定の法的性格に関する裁判例では、
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■採用内定通知は直ちに労働契約の承諾の意思表示とは認められないが、その
後会社が誓約書等を異議なく受領したことにより承諾の意思表示をしたもので
あり、内定者が学校を卒業できないことを解除条件とする労働契約が成立した
ものととらえたもの

(東京地裁判決昭43年(ワ)第4046号森尾電機事件 昭45.11.30、大阪地裁判決昭45年(ヨ)第
998号日本電信電話公社近畿電気通信局事件 昭46.8.16)



■採用内定をし誓約書が提出された段階で、将来一定の時期に何らの意思表示
を要しないで労働契約を成立させるというー種の無名契約(いわば採用内定契
約ともいうべきもの)が成立したものととらえたもの

(大津地裁判決昭44年(ワ)第84号大日本印刷事件 昭47.3.29)



■採用決定通知により労働契約が成立したものであるが、就労時期到来まで契
約の確定的効力発生を停止する旨の黙示的合意があると解され、確定的効力発
生までは各当事者はー種の条件付権利ないし期待権を有するにとどまるものと
とらえたもの

(大阪地裁判決昭49年(ヨ)第97号桑畑電機事件 昭51.7.10)



■採用内定通知が労働契約の承諾であって、学校を卒業できないとき等は解約
し得ることとした労働契約が成立したものととらえたもの

(東京高裁判決昭45.46年(ネ)第3147.2941号森尾電機控訴事件 昭47.3.31、横浜地裁判
決昭45年(ワ)第2118号日立製作所事件 昭49.6.19、大阪高裁判決昭47.48年(ネ)第458.
460号大日本印刷控訴事件 昭51.10.4)



■採用内定通知が労働契約の承諾であって、健康診断に異常があった場合等に
は解約し得るものとして、その効力の発生時期をー定の日(四月一日)として
労働契約の成立があったものととらえたもの

(大阪高裁判決昭46年(ネ)第1122号日本電信電話公社近畿電気通信局事件 昭48.10.29、東京地
裁判決昭46年(行ウ)第156.206号東京都蓮設局事件 昭49.10.30、大阪地裁判決昭49年(ワ)
第1963号日本電信電話公社近畿電気通信局事件(仮処分事件の本訴)昭51.4.21)



■採用内定通知は内部的決定の事実を便宜上告知するためになされたものにす
ぎず、四月一日の辞令の交付が労働契約の承諾に該当するものであって、右内
定通知を含めてその余の事実、行為は、労働契約の締結上法律的にみて格別の
意味を有するものでないものととらえたもの

(大阪高裁判決昭52年(ネ)第770号日本電信電話公社近畿電気通信局事件 昭54.2.27)

などがあるが
、












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最高裁第二小法廷は、右の大日本印刷上告事件
の判決において、次のとおり判示した。


 「いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているとこ
ろであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義
的に論断することは困難というべきである。したがって、具体的事案につき、
採用内定の法的性質を判断するにあたっては、当該企業の当該年度における
採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。


 以上の(=本件)事実関係のもとにおいて、本件採用内定通知のほかには労
働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを
考慮するとき、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募し
たのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、
右申込みに対する承諾であって、被上告人の本件誓約書の提出とあいまって、
これにより、被上告人と上告人の間に、被上告人の就労の始期を昭和四四年大
学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由
に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の
判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。」
(昭52年(オ)第94号 昭54.7.20)


 また、同じく第二小法廷は、右の日本電信電話公社近畿電気通信局上告事
件の判決において、
「本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用
通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったと解
することができるから・・・・右採用通知は、右申込みに対する承諾であって、これにより、
いわゆる採用内定のー態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和
四五年四月一日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。」
(昭54年(オ)第580号 昭55.5.30)


としており、右二件の上告事件では、就労の始期と効力発生の始期に相違があ
るものの、いずれも採用内定通知をもって労働契約の成立があったものと
した。


 なお、公務員試験に合格した者が受けた採用連絡通知については、最高裁第
一小法廷判決は、「地方公務員の任用行為は地方公務員たる地位の設定、変更
を目的とする重要な法律行為であるから、辞令書の交付又はこれに準ずる任命
権者による任用する旨の明確な意思表示の到達をもってその効力を生ずる。本
件採用連絡書面は連絡文書にすぎず、誓約書、身上申立書等は最終的採用行為
のための事実上の準備行為と解され任用行為はなされていない」
(昭55年(オ)第827号名古屋市水道局事件 昭56.6.4)とし、


その後右の東京都建設局上告事件の判決でも、採用内定通知は、採用に至るま
での準備行為としての行為にすぎず、これにより職員としての地位を取得させ
ることを目的とした意思表示ではないと判示している

(第一小法廷判決昭51年(行ツ)第114号 昭57.5.27右の東京都建設局事件についての控訴審である
東京高裁判決 昭49年(行コ)第73号 昭51.9.30)も同旨である。)









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