有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告(平成12年9月)

 ■HOMEPAGE
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労働省・有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告
mokuji
1 検討の趣旨

2 有期契約労働者の現状
 
2−1 有期契約労働者の雇用状況
 
2−2 企業が有期契約労働者を雇い入れる理由及び雇用調整時の位置づけ
 
2−3 労働者が有期労働契約を締結する理由
 
2−4 契約期間満了後の希望

3 有期労働契約の更新・雇止めの状況
 
3−1 有期労働契約の更新に関する状況
 
3−2 有期労働契約の雇止めに関する状況
 
3−3 契約更新・雇止めの手続の状況

4 雇止めに関する裁判例の類型化
 
4−1 雇止めに関する裁判例の分類
 
4−2 契約関係の各タイプごとの判断要素における相違
 
4−3 雇止めの判断基準における正社員との差異

5 有期労働契約の雇止め等に関する今後の施策の方向性−まとめ−




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1 検討の趣旨

 反復更新された有期労働契約については、雇止め(契約の不更新)について裁判で争われる事例が多く、平成9年12月の中央労働基準審議会の建議*1において、「有期労働契約の反復更新の問題等については、その実態及び裁判例の動向に関して専門的な調査研究を行う場を設定することが適当である。」とされた。また、平成10年9月に成立した「労働基準法の一部を改正する法律」の国会審議の際、衆議院労働委員会及び参議院労働・社会政策委員会においても、「有期労働契約について、反復更新の実態、裁判例の動向等について専門的な調査研究を行う場を設け検討を進め」るべき旨の附帯決議が行われた*2。

 これら中央労働基準審議会の建議及び国会の附帯決議を踏まえ、雇止め等有期労働契約の反復更新に係る諸問題について、その実態や裁判例を把握・分析し、今後の施策に資する調査研究を行うものとして、本「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」を開催したものである。
本研究会における検討事項は以下の3点である。

<1>有期労働契約の反復更新に係る実態の把握及び分析
<2>雇止め等有期労働契約の反復更新に係る裁判例の動向の把握及び分析
<3>雇止め等有期労働契約の反復更新に係る諸問題への対応方策

 本研究会は、平成11年5月に第1回研究会を開催して以来、これら検討事項について鋭意検討を進めてきたが、今般その成果を以下のとおり取りまとめた。
 なお、本研究会においては、パートタイマー、契約社員、臨時雇、アルバイト等雇用形態を問わず、期間の定めのある労働契約を締結している労働者全てを検討の対象としている。


*1 平成9年12月11日「労働時間法制及び労働契約等法制の整備について(建議)」

*2 衆議院労働委員会「労働基準法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(平成10年9月3日)及び参議院労働・社会政策委員会「労働基準法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(平成10年9月24日)



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2 有期契約労働者の現状

 本研究会は、第一の検討事項である「有期労働契約の反復更新に係る実態の把握及び分析」の基礎資料として、「有期労働契約者に関するアンケート調査」*3を実施した。同調査は、有期契約労働者の雇用状況の把握と二次調査対象事業所の抽出のために、まず企業を対象とする一次調査を行い(12,600社に実施し、有効回答は7,193社。以下「企業調査」という。)、その後二次調査として、有期契約労働者を雇用している事業所に対する調査(6,000事業所に実施し、有効回答は1,788事業所。以下「事業所調査」という。)及び事業所調査対象事業所に勤務する有期契約労働者に対する調査(各事業所4人、計24,000人に実施し、有効回答は5,106人。以下「労働者調査」という。)を行った。
 以下、主にその調査結果に基づいて、我が国の有期契約労働者の現状や有期労働契約の更新、雇止めの状況について分析を行う。



2−1 有期契約労働者の雇用状況

<有期契約労働者は非農林業雇用者の11.9%>

 我が国の労働者のうち、有期契約労働者は、どの程度の割合を占めているのであろうか。
 就業形態別の雇用者数について、総務庁統計局「労働力調査」*4でみると、非農林業雇用者5,298万人のうち、定義上有期契約労働者とほぼ一致すると考えられる臨時雇及び日雇は、それぞれ510万人、121万人(平成11年)おり、あわせて非農林業雇用者全体の11.9%を占めている。この比率は10年前(平成元年:10.6%)に比べ1.3%ポイント上昇している。

<企業の7割で有期契約労働者を雇用>

 企業調査で有期契約労働者の有無をみると、有期契約労働者を雇用している企業は全体の69.0%と、約7割の企業で有期契約労働者を雇用している。ただし、有期契約労働者を雇用していない企業に対して、今後の採用意欲を聞いたところ、「雇用する予定」3.3%、「雇用するかどうか検討する」25.8%に比べ、「今後も雇用しない」が70.2%と高く、現在有期契約労働者を雇用していない企業における今後の採用意欲は必ずしも高くない。

<有期契約労働者を雇用している事業所の6割でパート、契約社員を雇用>

 事業所調査で有期契約労働者の雇用形態別の雇用状況をみると、パートタイマーを雇用している事業所が61.6%、契約社員59.5%、臨時雇15.0%、その他有期13.8%となっており、パートタイマーと契約社員は多くの事業所で雇用されている。
 また、事業所調査対象事業所における労働者構成比をみると、有期契約労働者の占める割合は16.6%(パートタイマー9.0%、臨時雇1.7%、契約社員4.1%、その他有期1.7%)である。

<有期契約労働者の半数はパート、4割は契約社員>

 労働者調査における有期契約労働者の属性をみると、次のとおりである。
 有期契約労働者の雇用形態別の割合は、パートタイマー49.0%(うち短時間パートタイマー37.3%、長時間パートタイマー11.7%)、契約社員41.1%、臨時雇6.0%、その他有期3.4%となっている。全体の半数がパートタイマーであるが、契約社員も約4割を占めている。
 職種についてみると、有期契約労働者全体では「事務職」が38.5%と最も多い。
 雇用形態別には差がみられ、パートタイマーは「事務職」が47.6%と最も多いが、臨時雇は「技能工、製造・建設作業職」が38.2%と最も多く、契約社員は「事務職」(29.1%)に次いで「専門職、技術職」(19.2%)が多いのが特徴である。
 また、その他有期では「事務職」(36.0%)に次いで「サービス職」(18.0%)が多い。
 男女の比率をみると、有期契約労働者全体では男性35.7%に対し女性64.1%と女性の方が多い。ただし、雇用形態による差が大きく、パートタイマーでは女性が86.8%を占めており、特に短時間パートタイマーでは90.9%が女性である一方で、臨時雇では男性が52.6%、契約社員では男性が60.4%と男性の方が多くなっている。
 年齢については、有期契約労働者全体では、60〜64歳が18.9%であるほかは、どの年齢層(20歳未満〜70歳以上までの5歳刻み)も10%程度となっている。ただし、契約社員では、60歳以上の者が42.8%とかなり多く、職種も60歳以上では専門・技術職、管理職の割合が高い(60〜64歳37.4%、65歳以上35.8%)のに対し、29歳以下の者(17.7%)については事務職の割合が高い(53.8%)。
 税込み年収をみると、雇用形態による差が大きく、契約社員は年収500万円以上の者が17.4%を占めているなど相対的に高くなっている*5。
 有期契約労働者の生活費の主な収入源についてみると、有期契約労働者全体では自分の収入である者が45.7%、配偶者の収入である者が39.8%となっている。
 これを雇用形態別にみると、短時間パートタイマーでは自分の収入が主である者は16.2%にとどまっているのに対し、長時間パートタイマー(45.7%)、臨時雇(60.5%)、契約社員(71.3%)では自分の収入が主である者が多くなっている。
 なお、その他有期については、親の収入が主である者が22.7%と他の雇用形態に比べ高い。



2−2 企業が有期契約労働者を雇い入れる理由及び雇用調整時の位置づけ


<有期契約労働者を雇用する理由は「人件費節約のため」が多いが、雇用形態によるちがいも少なくない>

 事業所調査で有期契約労働者を雇用する理由(複数回答)をみると、「人件費節約のため」を挙げた事業所がパートタイマーで67.6%となっているほか、臨時雇42.5%、契約社員32.3%、その他有期30.1%と有期契約労働者の各雇用形態に共通して高い割合となっている。しかし、人件費節約以外の理由についてみると、雇用形態により異なっており、パートタイマーでは「1日・週の中の仕事の繁閑に対応するため」(41.1%)、臨時雇では「臨時・季節的業務量の変化に対応するため」(57.8%)、契約社員では「専門的な能力を活用するため」(49.6%)及び「経験等を有する高齢者の活用のため」(44.6%)が多い。
 なお、有期契約労働者の今後の活用について事業所調査でみると、「現状維持」がほぼ半数を占めるが、その他の回答をみると「一層積極的に活用していきたい」が「今後は活用を縮小していく方向で検討している」を上回っている。*6

<過半数の事業所は雇用調整を有期契約労働者から行うと回答>

 経済的事情により必要になり雇用調整の人員削減を行う場合、人員整理の対象については、有期契約労働者と正規社員を区別しないとする事業所が31.9%と少なくない一方で、有期契約労働者から先に行うとする事業所が54.0%と、有期契約労働者の立場が不安定であることがうかがえる。



2−3 労働者が有期労働契約を締結する理由


<有期労働契約を積極的に選択した者は3割、消極的に選択した者も3割>

 一方、労働者が有期労働契約をどのように受け止めているかについて、労働者調査で有期労働契約を選択した理由をみると、「その他」と回答した者が33.4%と少なくないことや、雇用形態等により差異があることに留意する必要はあるが、「望んだため」とする者が29.5%(臨時雇では35.6%とやや高い)、「やむなくが34.1%(長時間パートタイマーでは39.0%とやや高い)と、いずれも約3割となっており、積極的に有期労働契約を選択した者の割合が消極的な選択をした者の割合を若干下回っている。なお、年齢別にみると、60歳以上では「やむなく」の比率が低く(60歳代21.2%、70歳以上11.5%)、「望んだため」の比率が相対的に高く(60歳代37.1%、70歳以上42.3%)なっている。

<有期労働契約で就業している具体的理由は、勤務場所の都合や家計の補助が多いが、雇用形態によるちがいも少なくない>

 労働者調査で、有期労働契約で就業している具体的な理由(複数回答)が何であるかをみると、有期契約労働者全体では「勤務場所の都合がよかった」が39.7%と最も高く、パートタイマー、臨時雇、その他有期ではそれぞれ48.8%、41.2%、43.0%と4割を超えて最も高くなっているが、契約社員では「これまでの経験を活かせるため」が40.0%と最も高くなっている。また、有期契約労働者全体では、これに次いで「家計を補助するため」が31.6%と高く、特に短時間パートでは「家計を補助するため」が47.6%と高い。これに対し、長時間パートでは「正社員として働ける職場(会社)がないから」が41.2%と高い。なお、「契約期間が自分の希望に合っていたから」は有期契約労働者全体で14.8%であるが、臨時雇では26.1%とやや高くなっている。



2−4 契約期間満了後の希望


<契約期間は「6カ月超1年以内」が多い>

 事業所調査で、有期契約労働者の1回当たりの契約期間の長さをみると、6ケ月超1年以内の者の割合がいずれの雇用形態でも最も高く、とりわけ契約社員では76.8%と4分の3以上を占めている*7。一方、契約期間6カ月以内の者の割合はパートタイマーや臨時雇、その他有期では約3分の1を占めるが、契約社員では1割弱となっている*8。

<有期契約労働者の3分の2は契約期間満了後の更新を希望>

 現在の労働契約期間が満了した後の希望を労働者調査でみると、「契約を更新したい」とする者が65.9%と最も多い*9。これに対して、「現在の勤務先で正社員に登用してもらいたい」は8.9%、「別の会社で正社員として働きたい」は5.0%と相対的に少ないが、これらを合わせた正社員への希望は、長時間パートタイマーと臨時雇ではそれぞれ21.7%、20.9%と、他の雇用形態よりも高くなっている。


*3 「有期契約労働者に関するアンケート調査」

 労働省の委託に基づいて株式会社三和総合研究所が平成11年10〜11月に実施。
 調査手法及び調査結果については、報告書参考資料1を参照されたい。
 同調査では、有期契約労働者を雇用形態別に次のように分類している。

 パートタイマー…調査事業所でパートタイマーとしている者のうち有期労働契約の者
 短時間パートタイマー(正規社員より勤務時間の短いパートタイマー)と長時間パートタイマー(正規社員と勤務時間が同じまたはそれ以上のパートタイマー)に分けて集計した箇所がある。

 臨時雇……………臨時的・季節的な業務量増加に対応するため、臨時的に雇用している者で、正社員と1日の所定労働時間及び1週の所定
労働時間が同一の者(期間工、季節工等)

 契約社員…………専門的又は特定の職種に従事させることを目的に、期間を定めた契約に基づき雇用している者(嘱託等を含む)
 その他有期………有期労働契約の者で、パートタイマー、臨時雇、契約社員のいずれにも該当しない者(アルバイト等)

 なお、正規社員は「雇用している労働者のうち、特に雇用期間を定めていない者」と定義した。



*4 労働力調査における定義は次のとおりである。

 雇用者:会社、団体、官公庁又は自営業主や個人家庭に雇われて給料、賃金を得ている者及び会社、団体の役員
 臨時雇:雇用者のうち1か月以上1年以内の期間を定めて雇われている者
 日雇:雇用者のうち日々又は1か月未満の契約で雇われている者



*5 平均年収は、パートタイマー145.8万円(短時間パートタイマー124.7万円、長時間パートタイマー215.1万円)、臨時雇238.5万円、契約社員334.4万円、その他有期163.0万円。



*6 各雇用形態の有期契約労働者を雇用している事業所についてみると、「現状維持」はパートタイマー57.0%、臨時雇61.2%、契約社員59.0%、その他有期32.1%、「一層積極的に活用していきたい」はパートタイマー30.2%、臨時雇14.9%、契約社員21.5%、その他有期17.5%、「今後は活用を縮小していく方向で検討している」はパートタイマー6.2%、臨時雇13.8%、契約社員9.3%、その他有期8.5%となっている。



*7 パートタイマー55.9%、臨時雇49.3%、契約社員76.8%、その他有期27.6%。

*8 パートタイマー37.1%、臨時雇38.4%、契約社員7.5%、その他有期31.3%。

*9 パートタイマー69.5%(短時間パートタイマー74.0%、長時間パートタイマー55.3%)、臨時雇53.3%、契約社員64.6%、その他有期54.7%。





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3 有期労働契約の更新・雇止めの状況



3−1 有期労働契約の更新に関する状況


<有期労働契約は、多くの場合、更新の可能性があることを前提に締結されている>

 契約の更新についての一般的な傾向を事業所調査でみると、「契約更新をしない」とする事業所は、臨時雇で11.9%と他の雇用形態に比べやや高いものの、いずれの形態でもかなり少ない*10。一方、「個々のケースごとに判断する」は各雇用形態で約半数を占めているほか*11、「労使のいずれからも終了を申し出なければ自動的に更新する」も2〜4割あり*12、一般的には、企業側も更新の可能性があることを前提にして有期労働契約を締結している。

<契約更新について実情と合わない説明を行っている例がみられる>

 最初の契約締結時において労働者に更新に関して説明した内容について、事業所調査でみると、「特に説明していない」とする事業所が各雇用形態とも4〜5%程度ある*13が、「原則として更新しない旨説明」した割合は少なく*14、「期間満了の都度、更新の可否を判断する旨説明」*15と「特別の事情がなければ自動的に更新する旨説明」*16とで大半を占めており、更新についての一般的な傾向の状況とほぼ同様の結果を示している。
 しかしながら、事業所調査による更新の一般的な傾向と労働者に対する説明内容とをクロス集計してみると、例えば「契約の更新はしない」傾向にあるとした企業でも「特別の事情がなければ自動的に更新する旨説明」している割合が、パートタイマーで16.1%、その他有期13.3%、契約社員で11.8%となっているほか、「個々のケースごとに判断する」傾向にある企業で「特別の事情がなければ自動的に更新する旨説明」とする割合がその他有期で19.4%、契約社員15.1%、臨時雇で14.0%みられるなど、更新の一般的傾向よりも更新されやすい旨を労働者に説明しているケースが少なくない。

<1割の労働者は契約更新について説明を受けていない>

 一方、労働者調査で、会社から受けている現在の契約の更新についての説明をみると、「原則として更新しない旨の説明」は3.2%と少ないのに対し、「期間満了の都度、更新の可否を判断する旨の説明」が44.6%、「特別な事情がなければ自動的に更新する旨の説明」が35.6%と多く、概ね事業所の説明状況と合致する結果となっている。ただし、「特に説明はない」がその他有期で21.5%、臨時雇で18.3%など、有期契約労働者全体でも13.2%あり*17、契約の更新について何ら説明を受けていないとする者が少なくない。

<有期労働契約を更新する場合には、平均4〜6回の更新により4年程度の勤続>

 事業所調査で、有期労働契約を更新する場合の平均的な更新回数をみると、パートタイマー6.4回、臨時雇5.9回であるのに対し、契約社員は3.8回、その他有期は3.7回と差があるが、契約社員の契約期間はパートタイマーや臨時雇に比べ相対的に長いことから、平均勤続年数はパートタイマー4.3年、臨時雇3.9年、契約社員4.2年と、その他有期(2.5年)を除き約4年となっている。また、契約を更新する場合に事業所が想定している有期契約労働者の勤続年数は、その他有期で3.3年とやや短いのを除き、他の雇用形態では5年程度となっている*18。

<契約を更新された労働者は6〜7割、その場合の平均更新回数は6回>

 労働者調査で、実際に有期労働契約が更新されたかどうかをみると、現在の勤務先で更新されている者が68.1%となっており(調査時点で更新されていない労働者についても、期間満了時に更新される可能性はある。)、更新されている場合の平均更新回数は6.4回となっている。
 また、以前の勤務先で有期労働契約を「会社が更新してくれなかった」または「初めから一定の更新回数が決まっており、当該回数に達した」ために当該契約の更新ができなかった労働者(以下「過去に雇止めの経験がある労働者」という。
*19)について、以前の勤務先での有期労働契約の更新状況*20をみると、1回も更新されなかった者が29.4%、1回以上更新された者が59.2%となっている。1回以上更新された者の平均更新回数は6.1回となっている。

<更新の判断基準としては、「労働者の勤務成績・勤務態度」「本人の意思」などが多い>

 事業所調査で契約更新をするか否かの判断理由(複数回答)をみると、総じて「労働者の勤務成績・勤務態度による」「本人の意思による」「期間満了時の景気変動などに対応した仕事の量による」の割合が高くなっている*21。ただし、契約社員では、「必要な能力を持った人材かどうかによる」の割合が50.1%と、他の雇用形態では2〜3割であることと比べ高い一方、「期間満了時の景気変動などに対応した仕事の量による」は37.4%と、他の雇用形態では約半数を占めているのに比べ低い。
 また、更新回数や勤続年数について上限を設定している企業は1割以下とわずかであるが、年齢については、約4分の1の企業で雇用の上限年齢を設定している*22。



3−2 有期労働契約の雇止めに関する状況


<雇止めをしないとする事業所は約1割>

 事業所調査で、雇止めの有無及び雇止めを行う場合の理由(複数回答)を尋ねたところ、まず「雇止めはしない」とする割合は各雇用形態とも約1割にとどまる*23。すなわち、先にみたように有期労働契約は更新の可能性があることを前提として締結することが多いのであるが、その一方で雇止めの可能性があることを念頭に置きつつ契約を締結していることが確認できる。

<雇止めの理由としては、「労働者の勤務成績・勤務態度の不良」「景気要因などによる業務量の減少」などが多い>

 雇止めを行う理由(複数回答)を事業所調査でみると、各雇用形態とも「労働者の勤務成績・勤務態度の不良」と「景気要因などによる業務量の減少」が3〜6割と多く、これに「労働者の傷病などによる勤続不能」が次いでおり、「プロジェクトの終了など従事していた業務の終了・中止」は1割程度にとどまっている*24。

<事業所側の雇止めの理由と労働者側の認識の相違>

 労働者調査において、過去に雇止めの経験がある労働者(当該契約について1回以上の更新がされていた場合に限る。)に以前の勤務先における当該雇止めの理由(複数回答)を聞くと、「契約期間の満了」が45.9%と最も多く、「経営状況の悪化」(28.7%)、「景気要因などによる業務量の減少」(26.8%)が続き、「勤務成績・勤務態度」は1.3%に過ぎない。なお、「担当していた業務・職務の終了」が18.5%、「特に説明なし」が3.2%となっている。
 この結果と、先に見た事業所調査の雇止めを行う場合の理由とを比較すると、労働者調査では個別具体的な契約についての回答であるのに対し、事業所調査では雇止めを行う場合の一般的な理由についての回答であること、また設問の対象となっている契約が全く異なることから、単純な比較はできないものの、企業側が勤務成績・勤務態度の不良などを実質的理由として雇止めを行っている場合であっても、労働者には契約期間の満了という形式的理由のみを伝えている場合が少なくないものと推測される。

<雇止めに関してトラブルがあった事業所は1割に満たない>

 事業所調査でみると、有期契約労働者の契約の更新をしなかったことでトラブルがあった事業所は9.2%と1割に満たず、77.8%の事業所はトラブルとなったことがない。トラブルがあった事業所においても、その8割近くは本人との円満な話し合いにより解決している。
トラブルがあった事業所についてその原因をみると、「雇止めの理由について納得してもらえなかったため」(36.0%)、「更新への期待についての認識の違い」(23.8%)、「雇止めの人選について納得してもらえなかったため」(12.2%)となっており、契約の更新への労働者の期待と事業所側の認識のギャップがトラブルの要因として大きなものであるといえる。

<過去に雇止めの経験がある労働者の過半数が雇止めに不満>

 一方、労働者調査により、過去に雇止めの経験がある労働者(「自分からやめた」とする者を除く。当該契約について1回以上の更新がされていた場合に限る。)*25に当該雇止めの際の感想を聞いたものをみると、「非常に不満だった」25.5%、「多少不満を感じた」31.2%を合わせて、過半数の者が不満を感じている。
 また、雇止めの際の感想と更新回数の関係をみると、更新回数が多くなると「非常に不満だった」又は「多少不満を感じた」とする者の割合が増加する傾向がみられる*26。勤続年数との関係についても同様の傾向にある*27。
 一般に、契約の反復更新がなされている労働者ほど、次回も契約が更新されるとの期待を生じやすくなることから、雇止めを告知された際に不満を感じやすくなるものと考えられる。



3−3契約更新・雇止めの手続の状況


<契約更新の手続は書面で期間満了前に行われるのが8〜9割>

 まず、事業所調査で契約更新の手続の時期をみると、各雇用形態とも約8〜9割の事業所で契約期間満了前に行っており、雇用形態別に差はみられない*28。
 一方、「契約期間満了後」に行っている事業所や「原則として特段の手続きはとらない」とする事業所も雇用形態ごとにそれぞれ4〜9%、5〜11%と若干存在する。
 また、更新手続の形式をみると、約8〜9割の事業所で「書面」で行っている*29。

<雇止めの場合、多くの事業所では30日以上前に労働者に予告>

 つづいて、雇止めをする場合に、雇止めに先立ってどのような手続を行っているかを事業所調査でみると、契約期間の満了前にあらかじめ更新しない旨を伝える事業所が各雇用形態ともに7割程度(書面によるものが2割、口頭によるものが5割程度)と多い*30。また、あらかじめ契約を更新しない旨を伝えるとした事業所について、期間満了時から何日程度遡って契約しない旨を労働者に伝えたかをみると、9割以上の事業所で30日以上前に労働者に伝えている*31。

 なお、「契約を更新しない旨をあらかじめ伝えることはしないが期間満了時に一定の手当を支払う」とする事業所は各雇用形態について1%未満と少ないが、「期間満了時に、雇止めの旨を伝えるのみ」とする事業所は雇用形態ごとに2〜8%程度ある。

*10 パートタイマー2.8%、臨時雇11.9%、契約社員1.6%、その他有期6.1%。

*11 パートタイマー49.5%、臨時雇53.4%、契約社員59.2%、その他有期37.8%。

*12 パートタイマー40.1%、臨時雇23.5%、契約社員32.2%、その他有期17.1%。

*13 パートタイマー4.3%、臨時雇4.5%、契約社員4.0%、その他有期5.3%。

*14 パートタイマー2.5%、臨時雇13.1%、契約社員1.9%、その他有期4.9%。

*15 パートタイマー54.3%、臨時雇49.6%、契約社員58.4%、その他有期28.0%。

*16 パートタイマー34.2%、臨時雇22.0%、契約社員29.9%、その他有期19.5%。

*17 パートタイマー15.4%、臨時雇18.3%、契約社員9.1%、その他有期21.5%。

*18 パートタイマー5.1年、臨時雇4.9年、契約社員5.2年。その他有期3.3年。

*19 労働者調査で以前の有期労働契約をやめた理由をみると、「自分からやめた」72.1%、「会社が更新してくれなかったため」13.3%、「はじめから更新回数が決まっており、当該回数に達したため」11.7%となっている。

*20 調査方法上の制約(労働者調査の調査票を事業所調査実施事業所の有期契約労働者に配布)により、このような設問となっている(サンプル数は265)。

*21 「労働者の勤務成績・勤務態度」は、パートタイマー67.3%、臨時雇68.9%、契約社員63.4%、その他有期59.2%。「本人の意思」は、パートタイマー61.5%、臨時雇52.1%、契約社員60.6%、その他有期57.7%。「期間満了時の景気に対応した仕事量」は、パートタイマー55.2%、臨時雇63.0%、契約社員37.4%、その他有期48.6%。

*22 雇用の上限年齢を設定している割合は、パートタイマー25.7%、臨時雇24.7%、契約社員29.6%、その他有期19.0%。雇用の上限年齢を設定している事業所において、上限年齢が60〜64歳である割合は、パートタイマー56.7%、臨時雇42.6%、契約社員37.3%、その他有期25.9%であり、上限年齢が65〜69歳である割合は、パートタイマー26.3%、臨時雇40.7%、契約社員49.3%、その他有期44.4%。

*23 パートタイマー10.2%、臨時雇6.7%、契約社員9.1%、その他有期7.3%。

*24 「労働者の勤務成績・態度の不良」パートタイマー57.6%、臨時雇49.3%、契約社員56.5%、その他有期32.9%。
「景気要因などによる業務量の減少」パートタイマー51.5%、臨時雇53.0%、契約社員41.0%、その他有期30.5%。
「労働者の傷病などによる勤続不能」パートタイマー37.5%、臨時雇36.6%、契約社員41.7%、その他有期19.1%。
「プロジェクトの終了など従事していた業務の終了・中止」パートタイマー8.4%、臨時雇14.9%、契約社員12.9%、その他有期6.5%。

*25 過去に雇止めの経験がある労働者の定義については、*19の本文を参照されたい。(サンプル数は157)。

*26 更新1〜2回45.9%、3〜5回57.5%、6〜9回63.2%、10回以上73.3%

*27 勤続1年未満28.6%、1〜3年未満52.7%、3〜5年未満56.1%、5〜10年未満62.9%、10年以上77.8%。

*28 パートタイマー85.6%、臨時雇77.6%、契約社員88.4%、その他有期78.9%。

*29 パートタイマー87.2%、臨時雇82.2%、契約社員88.2%、その他有期76.8%。

*30 「あらかじめ、契約を更新しない旨を書面で伝える」パートタイマー20.1%、臨時雇19.0%、契約社員22.2%、その他有期19.0%。
「あらかじめ、契約を更新しない旨を口頭で伝える」パートタイマー51.2%、臨時雇49.8%、契約社員48.9%、その他有期54.0%。

*31 契約しない旨を伝える事業所において「30日以上前に伝えている」
パートタイマー94.3%、臨時雇91.8%、契約社員94.8%、その他有期90.2%。






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4 雇止めに関する裁判例の類型化

 第二の検討事項である「雇止め等有期労働契約の反復更新に係る裁判例の動向の把握及び分析」のため、本研究会では、有期労働契約の雇止めが争点となった最近10数年の裁判例にこの分野のリーディングケースを加えた計38件の裁判例を収集したところ、当該契約関係の状況に対する裁判所の認定(判断)を概ね類型化できるのではないかと考え、4つのタイプへの分類を試みた*32。また、裁判所が当該契約関係の状況を判断するに当たっての判断要素を6項目に整理し、各裁判例における6項目に関する状況を4タイプごとにチェックすることにより、裁判例の傾向を分析した。
 なお、個々の事案ごとに有期労働契約を取り巻く状況、当該契約の内容等が異なるため、当該契約の雇止めに対する評価は、まさに多種多様な判断要素を総合的に勘案して判断されている。したがって、ここで試みた類型化は確立したものではないことはもとより、個別具体的な有期労働契約一つ一つについて、6項目それぞれに関する状況を整理しても、当該契約が4タイプのいずれに該当するかを必ずしも直ちにかつ明確に判断できるものではない。しかしながら、有期労働契約の雇止めの問題を考えるに当たって、このような類型化は一定の意義を有するものと考える。



4−1 雇止めに関する裁判例の分類


<有期労働契約の4タイプと6項目の判断要素>

 有期労働契約は、民法の原則のもとでは、期間の定めがある契約であるという契約の本旨にしたがって、契約期間の満了により契約関係は当然に終了するものである。
 しかしながら、有期労働契約の雇止めについて争われた裁判例をみると、原則どおり期間満了により契約関係が終了すると判断している事案ばかりではなく、実質的には期間の定めのない契約であると認めたもの、契約更新への労働者の期待が合理的なものであると認めたものなど、期間満了による契約の終了に対して何らかの制約を加え、有期契約労働者の保護を図っている事案も少なくない。
 そこで、裁判所が、当該契約関係の状況について判断している記述をもとに裁判例の整理を試みると、原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するとしているタイプ(<1>)、契約関係の終了に制約を加えているタイプ(<2>〜<4>の3タイプ)の計4タイプに整理することができる*33。

<1>純粋有期契約タイプ   裁判所により、次の<2>〜<4>のいずれにも該当しない契約であるとされたもの*34

<2>実質無期契約タイプ   裁判所により、当該有期契約は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められたもの*35

<3>期待保護(反復更新)タイプ   裁判所により、<2>とは認められなかったものの、雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ、その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの*36

<4>期待保護(継続特約)タイプ   裁判所により、<2>とは認められなかったものの、格別の意思表示や特段の支障がない限り当然更新されることを前提として契約が締結されているとし、期間満了によって契約を終了させるためには、従来の取扱いを変更して契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情の存することを要するとするなど、雇用継続への合理的な期待が、当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの*37

 また、裁判例における判断の過程をみると、主に次の6項目に関して、当該契約関係の実態に評価を加えている。

a 業務の客観的内容   従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性、業務内容についての正社員との同一性の有無等)

b 契約上の地位の性格   契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば、嘱託、非常勤講師等は地位の臨時性が認められる。)、労働条件についての正社員との同一性の有無等

c 当事者の主観的態様   継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や、更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)

d 更新の手続・実態   契約更新の状況(反復更新の有無・回数、勤続年数等)、契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法、更新の可否の判断方法等)

e 他の労働者の更新状況   同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等

f その他   有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢等の上限の設定等


<各タイプにおける雇止めの判断に当たっての法的構成及び雇止めの可否の状況>

 まず、検討の対象とした裁判例(34件)を、契約関係の状況について述べている部分の記述によって上記の<1>〜<4>のいずれかに分類し、分類した4タイプのそれぞれにおいて、雇止めの可否を判断するに当たってどのような法的構成をとっているか、結果としての雇止めの可否にどのような傾向がみられるかにつき分析してみると、次のとおりである。

 純粋有期契約タイプ(<1>)に分類された事案は、雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎず、期間満了により当該有期労働契約は当然に終了するものとされている。
 一方、他の3タイプに分類された事案をみると、ほぼ全ての事案において、

○解雇に関する法理の類推適用により*38、

あるいは
○信義則上の要請に照らして*39、

あるいは
○「更新拒絶権の濫用」という枠組により*40

雇止めの可否についての判断を行っている。

 なお、解雇に関する法理が類推適用される場合には、ほとんどの裁判例において、期間の定めのない契約の下にある労働者の解雇の判断において判例上用いられている解雇権濫用法理が類推適用されている。
 このように、純粋有期契約タイプ以外の3タイプについては、雇止めの判断に当たっての法的構成は共通であるが、結果としての雇止めの可否の判断を3タイプごとにみると、次のように一定の差異がみられ、雇止めが認められたケースも認められなかったケースもある。
 実質無期契約タイプ(<2>)の事案では、結果として雇止めが認められなかったケースがほとんどである。
 期待保護(反復更新)タイプ(<3>)の事案では、経済的事情による雇止めの事案で、正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で結果として雇止めを認めたケースがかなりみられる*41。
 期待保護(継続特約)タイプ(<4>)の事案では、当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めないケースが多い。



4−2 契約関係の各タイプごとの判断要素における相違

 次に、各タイプに分類された裁判例における前述a〜fの判断要素の状況を整理することにより、タイプごとに判断要素についてどのような特徴がみられるかを分析することとする。

<純粋有期契約タイプの事案の契約関係の実態>

 まず、純粋有期契約タイプに分類された事案について、契約関係の実態をみると、次の項目について、他の3つのタイプに分類された事案と比較してかなり明確な特徴がみられる。

イ 業務の客観的内容

 業務内容が恒常的である事案が多く、また正社員との同一性が認められる事案もある。これらの点では他のタイプにも同様の事案が相当みられるが、一定期間で作業終了が予定される補助業務についているなど業務内容の臨時性が認められる事案がみられる点では他のタイプと異なる。

ロ 契約上の地位の性格

 非常勤講師、嘱託、臨時工等、地位が臨時的なものが多い。他のタイプにおいても地位の臨時性が認められる事案はあるが、割合としては純粋有期契約タイプで最も高い。

ハ 当事者の主観的態様

 裁判所が当事者の主観的態様に言及した事案をみると、長期間継続雇用する等の言動を使用者がしていない、あるいは契約期間について明確に説明していること等により、労働者が期間満了による契約終了を認識しているものと認められる事案が多い。この点は、他のタイプのほとんどの事案で、継続雇用を期待させる使用者の言動が認められていることと対照的である。

ニ 更新の手続・実態

 更新の手続・実態への言及がみられる事案をみると、必ず期間満了前に契約書を作成しているもの、雇用量調節のための有期契約であることを確認する旨の念書を交わしているもの、期間満了に先立ち所属長が面接して更新希望を調査した上で審査等を経て更新を決定していたもの等、手続の時期・方法が厳格である事案が多い。この点も、他のタイプでは多くの事案で契約更新手続が形式的な処理となっていることと対照的である。ただし、これまでの裁判例における指摘もあり、使用者は雇止めが否定されないよう更新の手続を厳格に行ってきているため、最近の裁判例では、契約関係の判断に当たって更新の手続が厳格であることは必ずしも決定的でないようである*42。

ホ 他の労働者の更新状況

 他の労働者の更新状況への言及がなされた事案をみると、ほとんどの事案で過去に同様の地位にある労働者について当該事業場での雇止めの例がある。この点、他のタイプでは、多くの事案で雇止めの例がほとんどないことと対照的である。


 以上が、純粋有期契約タイプであると認定された事案の特徴であり、<1>業務内容や契約上の地位が臨時的であること又は正社員と業務内容や契約上の地位が明確に相違していること、<2>契約当事者が有期契約であることを明確に認識していると認められる事情が存在すること、<3>更新の手続が厳格に行われていること、<4>同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があること、といった状況が全て認められる有期労働契約は、純粋有期契約タイプに該当する可能性が高いということがいえる。逆に言えば、<1>〜<4>のいずれかを満たしていない有期労働契約であれば、純粋有期契約タイプに必ずしも該当しないこととなり、したがって、期間満了のみを理由とした雇止めは認められず、上記のように別途その適否を判断すべきことが原則となる。

<純粋有期契約タイプ以外の事案の契約関係の実態>

 また、実質無期契約タイプ、期待保護(反復更新)タイプ、期待保護(継続特約)タイプの事案については、次のような傾向がみられる。

<1> 実質無期契約タイプと認定された事案について、契約関係の実態をみると、
aタイプ:裁判所がそのように認定した理由の一つとして相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの又は相当程度の反復更新の事実が認定されているもの
bタイプ:それ以外のもの
とに大別できる。

 aタイプ、bタイプに共通の傾向として、業務内容の恒常性や更新の手続が形式的であることが広く認められるほか、当事者の主観的態様について言及された事案においては、雇用継続を期待させる使用者の言動が認められたものが多く、また、同様の地位にある労働者の更新状況について言及された事案においては、これまでに雇止めの例がほとんどないものが多い。その他の項目については、aタイプとbタイプで以下のような差異がみられる。
 すなわち、aタイプにおいては、契約上の地位が臨時的な事案が多く、更新回数も多い(なかには勤続20年以上の事案もある)のに対し、bタイプでは契約上の地位が臨時的ではなく、更新回数は1〜6回と概して少ないほか、同一会社において正社員から雇用形態を変更した事案、もともとは期間の定めのない契約であった事案など、当該有期契約の締結の経緯等が特殊なものが多い。

<2> 期待保護(反復更新)タイプと認定された事案の契約関係の実態をみると、実質無期契約タイプのうちaタイプとの共通点が多い。ただし、業務内容について必ずしも正社員との同一性が認められないこと、過去に同種の労働者について雇止めされた例があることなどの点で違いがみられる。

<3> 期待保護(継続特約)タイプと認定された事案の契約関係の実態をみると、更新回数が0〜5回と概して少ないこと、もともとは期間の定めのない契約であった事案等当該有期契約の締結の経緯等が特殊であるケースが多いことなどの点で実質無期契約タイプのうちbタイプとの共通点が多い。ただし、更新の手続・方法が厳格な事案があるという点で違いがみられるほか、1度も更新がなされていない事案でも契約締結の経緯等により本タイプであるとして雇止めが認められなかったもの*43もあり、更新回数の多寡は契約関係の状況の認定に当たり重視されていないといい得る。



4−3 雇止めの判断基準における正社員との差異

 ここまでみてきたように、契約関係の状況について純粋有期契約タイプ以外のタイプに分類されるケースについては、裁判所は、契約関係の実態を検討し、解雇に関する法理の類推適用等を行って雇止めの可否を判断することにより、有期契約労働者の保護を図っている。

 しかしながら、例えば、日立メディコ事件(期待保護(反復更新)タイプ)*44では、解雇に関する法理が類推されるとしながら、「しかし、臨時員の雇用
関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」としており、また、丸子警報器事件(期待保護(反復更新)タイプ)*45では、反復更新の事実から権利濫用の法理ないし信義則により使用者側の一方的都合での雇止めが規制されるとしながら、「臨時社員の側に雇用継続への期待があるというならば、被告の側にも臨時社員を採用した本来の趣旨であるところの、雇用調整を容易にするために雇止めを機能させるという期待もあったといえるのであって、被告に臨時社員という採用形態を選択することの自由を認める以上は、被告側のこの期待も尊重されなければならない。」としている。このように、裁判所は、解雇に関する法理の類推適用等による実質的
保護を図りながらも、その場合の具体的な判断基準が正社員の解雇の場合と全く同一であるとまではしておらず、正社員との間に一定の差異があることは容認している。

 もっとも、正社員との間に差異が存在すること自体は認められているとしても、その差異の内容は必ずしも明らかではなく、個々の事案の具体的な状況により裁判所の判断も一律ではない。例えば、日立メディコ事件のように正社員との差異を認め、「(正社員の)希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである」として、雇止めに合理的理由を認めた事案がある一方で、三洋電機事件*46のように、正社員と定勤社員(有期契約従業員のうち臨時社員に比べ契約期間及び1日の労働時間が長く、臨時社員としての2年以上の継続勤務等が採用の要件となっている社員)との差異を認める一方で、「定勤社員の雇止めをするとしても、ただ定勤社員であるというだけの理由で直ちに全員を雇止めの対象とすることまで正当化されるとは解し難く、まず削減すべき余剰人員を確定し、定勤社員の中で希望退職者を募集するなどの手段を尽くすべき」とし、雇止めに合理的理由はないとしたものもある。また、丸子警報器事件のように、期間の定めのない労働契約における整理解雇の場合に検討されるべき4点に準じる検討が必要であるとし、そのうちの1つである雇止めについての経営上の必要性について、「それをしなければ企業の維持存続が危殆に瀕するほどに差し迫った程度のものでなければならないとすると、雇用調整を容易にすべく臨時社員制度を採用した意義が損なわれることになり、ひいてはそのような雇用形態を設ける自由をも否定することになってしまうから、そこまで厳格に解するべきではない。」としつつ、雇止めに先立っての希望退職者の募集などの十分な回避措置及び労使間の事前協議を経ていない点で明白な信義則違反があるうえ、経営上の必要性を満たしていると認めることはいささか困難であるとして、雇止めは権利の濫用としたものもある。

 このように、裁判所の判断において認められる差異の具体的内容については、個々の事案ごとには把握できる裁判例もあるが、本研究会において裁判例全体の傾向を明らかにすることは困難であった。


*32 38件の裁判例の概要及び分析の詳細は、報告書参考資料2及び3(裁判例の分析、雇止めに係る裁判例集)を参照されたい。



*33 4タイプに分類し、分析を行った裁判例は、38件中、特殊なケースである4件(私法上の労働契約関係ではないとされたもの2件、期間の定めが試用期間であるとされたもの1件、黙示の更新により期間の定めのない契約として継続しているとされたもの1件)を除いた34件である。




*34 例えば、亜細亜大学事件(昭63.11.25東京地裁判決巻末裁判例集No.6)は、継続雇用を期待させる使用者の言動がなかったこと、専任教員と非常勤講師との職務内容、責任、雇用条件の相違等の契約関係の実態を認定した上で、「以上のような諸事情を考慮すると、原・被告間の雇用契約は、20回更新されて21年間にわたったものの、それが期間の定めのないものに転化したとは認められないし、また、期間の定めのない契約と異ならない状態で存在したとは認められず、期間満了後も雇用関係が継続すると期待することに合理性があるとも認められない」と判示している。

*35 例えば、有期労働契約の雇止めに関するリーディングケースとなっている東芝柳町工場事件(昭49.7.22最高裁第一小法廷判決巻末裁判例集
No.1)は、「実質において、当事者双方とも、期間は一応2ヶ月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当であり、したがって、本件各労働契約は期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければなら(ない)」と判示している。



*36 例えば、日立メディコ事件(昭61.12.4最高裁第一小法廷判決巻末裁判例集No.2)は、「本件労働契約が期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。」としつつ、「柏工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、上告人との間においても5回にわたり契約が更新されているのである」と判示している。

*37 例えば、福岡大和倉庫事件(平2.12.12福岡地裁判決巻末裁判例集No.13)は、「期間の定めのない雇用契約であると解することはできないものの、その期間の定めは一応のものであって、単に期間が満了したという理由だけで雇止めになるものではなく、双方に特段の支障がない限り雇用契約が更新されることを前提として協議され、確定されてきたものである」と判示している。



*38 前出東芝柳町工場事件最高裁判決は、「あたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各雇止めの意思表示は右のような契約を終了させる意思のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示に当たる。そうである以上、本件各雇止めの効力の判断に当たっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきである。」とした原判決を肯認している。

*39 例えば、龍神タクシー事件(平3.1.16大阪高裁判決巻末裁判例集No.14)は「その雇用期間についての実質は期間の定めのない雇用契約に類
似するものであって、申請人において、右契約期間満了後も被申請人が申請人の雇用を継続するものと期待することに合理性を肯認することができるものというべきであり…(略)…従前の取扱いを変更して契約の更新を拒絶することが相当と認められるような特段の事情が存しない限り、被申請人において、期間満了を理由として本件雇用契約の更新を拒絶することは、信義則に照らし許されないものと解するのが相当である」としている。




*40 更新拒絶権の濫用という枠組は必ずしも理論的に確立してはいないと考えられるが、例えば、ダイフク事件(平7.3.24名古屋地裁判決巻末裁判例集No.23)は、「本件労働契約は、…(略)…実質的には期間の定めのない雇用契約と異ならない状態で存続していたものというべきである。それ故、被告から、解雇の意思表示がなされた場合はもとより、単に更新拒絶(の意思表示)がなされた場合においても、少なくとも解雇に関する法理が準用され、解雇において解雇事由及び解雇権の濫用の有無が検討されるのと同様に、更新拒絶における正当事由及び更新拒絶権の濫用の有無が検討されなければならないというべきである。」としている。

*41 例えば前出の日立メディコ事件(巻末裁判例集No.2)がある。4-3参照。


*42 例えば、芙蓉ビジネスサービス事件(平8.3.29長野地裁松本支部決定巻末裁判例集No.26)では、期間を明定した定期社員雇用契約書に労働者本人が更新の度ごとに署名押印して雇用契約を締結するという手続が実践されていた事案について、就業規則の規定や反復更新の事実、他の社員の更新状況等から、「特段の事情のない限り、契約期間満了後も継続して定期社員として雇用することが予定されており、雇止めをするについては、解雇に関する法理が類推され、正当な事由が認められる場合に雇止めが有効になると解すべきである」として、純粋有期契約タイプとは判断していない。



*43 使用者が有期契約は形式的なものであると断言し、期間満了後の雇用については双方に支障がない限り更新を前提に組合と協議する旨の協定が成立していた事案(前出の福岡大和倉庫事件巻末裁判例集No.13)、臨時運転手について、従来、自己都合退職者を除き例外なく契約が更新されてきており、更新手続も形式的であるとともに、本雇運転手の欠員には臨時雇運転手で希望者の中から適宜の者を登用して補充しており、制度導入後、直接本雇運転手として雇用された者はいなかった事案(龍神タクシー事件平3.1.16大阪高裁判決巻末裁判例集No.14)や、パートについて、過去契約が更新されなかった例はなく、特段の事情変更がなければ当然に更新されるのが通例の扱いであった事案(協栄テックス事件平10.4.24盛岡地裁判決巻末裁判例集No.33)がある。



*44 昭61.12.4最高裁第一小法廷判決、巻末裁判例集No.2
*45 平11.3.31東京高裁判決、巻末裁判例集No.37
*46 平2.2.20大阪地裁決定、巻末裁判例集No.8




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5 有期労働契約の雇止め等に関する今後の施策の方向性−まとめ−


<有期労働契約に対する評価>

 アンケート調査で明らかとなったように、有期労働契約を望んで選択した者とやむなく選択した者がそれぞれ約3割いるなど、有期労働契約に対する労働者側の評価は分かれている。また、企業の約7割が有期契約労働者を雇用している一方で、現在有期契約労働者を雇用していない企業においては今後の採用意欲も高くないなど、有期労働契約に対する使用者側の評価も一様ではない。

このように労使の評価は必ずしも一様ではないとはいえ、有期労働契約は広範に利用されており、また、有期契約労働者の約3分の2は契約期間満了後の更新を希望し、使用者も、多くの場合更新の可能性があることを前提に契約を締結しているなど、使用者・労働者とも一定程度の更新を念頭に置いて有期労働契約を締結していることが多い。実際にも、多くの有期労働契約は平均6回程度の更新がなされている。こうした実情から、労働市場において現在の有期労働契約は、その更新による利用を含め、労使それぞれのニーズに基づく制度として相当程度定着しているものと考えられる。


<有期労働契約の雇止め等における問題の存在>

 一方で、アンケート調査からは、更新や雇止めの際の説明やその手続など、雇止め等に関して有期契約労働者の保護に欠けるものと考えられる問題点もいくつかみられた。
 また、裁判例の分析から明らかとなったように、契約の形式が有期契約であっても、反復更新の実態や契約締結時の経緯等により、実質的には期間の定めのない契約と認められた例、実質的に期間の定めのない契約とは認められないものの契約更新についての労働者の期待が合理的なものと認められた例や、格別の意思表示や特段の支障がない限り当然更新されることを前提として契約が締結されていると認められ、実質上雇用継続の特約が存在するといいうる例があり、こうした事案では解雇に関する法理の類推適用等により結果として雇止めが認められなかったケースも少なくない。


<有期労働契約に係る多様なニーズと実態>

 アンケート調査によれば、有期契約労働者の雇用形態や属性は多様であり、また、有期労働契約に対する労使の具体的なニーズも、例えば労働者が有期労働契約で就業している理由としては、全体的には「勤務場所の都合がよかった」や「家計を補助するため」が多いが、契約社員については「これまでの経験を活かせるため」が多くなっていること、また事業所が有期契約労働者を雇用する理由としては、全体的には「人件費節約のため」が多いが、契約社員については「専門的な能力を活用するため」が多いことなど、一様ではないことが示された。また、有期労働契約の更新状況等をみても、雇用形態をはじめ、種々の要因による多様な実態が認められたところである。さらに、裁判例からも、個々の事案ごとに判断要素に係る状況等が異なり、裁判所は、それぞれの状況等を総合的に勘案して判断することから、裁判所の判断も必ずしも一様ではないことが確認された。

<有期労働契約の雇止め等に関する施策の方向性>

 以上を踏まえ、有期労働契約の雇止め等に関する問題点への対処のあり方を検討すると、有期労働契約に対する評価は必ずしも一様ではないものの、その更新による利用を含め、労使それぞれのニーズに基づく制度として相当程度定着していること、有期労働契約に対するニーズや契約関係の実態が多様である現状にかんがみると、有期労働契約の締結、更新、雇止めに対する一律の制約は現時点では適当ではないが、有期労働契約の更新・雇止めについての改善すべき問題が存在し、また、実際にトラブルが生じた場合に、事後的に当事者が裁判を通じて司法的解決を個別に図らざるを得ないという現在の状況は、トラブルの未然防止という観点からは問題もある。

このため、行政において当面必要な対応として、有期労働契約の雇止め等に関するトラブルを未然に防止するため、また労働基準法第105条の3に基づき当事者から紛争の解決の援助を求められた場合等において的確な指導を行うため、具体的には、例えば次のような措置を講じることが適当と考えられる。

<1>トラブルを未然に防止するための措置

(a)裁判例に係る情報提供・助言

 裁判所においては、純粋有期契約タイプと認められる場合を除き、解雇に関する法理の類推適用を行うなどして、有期契約労働者の実質的保護を図っているところである。そこで、トラブルを未然に防止する観点から、行政においては、雇止めに関する裁判例の分析により明確になった裁判例の傾向(有期労働契約の類型化、類型別の具体的な契約関係の特徴・雇止めの可否の判断等)について広く情報提供を行うことが適当と考えられる。 あわせて、行政においては、労使が個別具体的な有期労働契約の更新・雇止めをどのように取り扱うことが適当であるか適切に判断できるように、参考となる裁判例を踏まえ、必要に応じて助言することが適当と考えられる。

(b)留意することが望ましいと考えられる事項に関する周知啓発アンケート調査の結果を踏まえ、トラブルを未然に防止する観点から、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに当たっては、労使当事者が次のイ〜ニの事項に留意することが望ましいと考えられることから、行政においては、これらの事項に関し広く周知啓発を図ることが適当と考えられる。

イ 更新・雇止めに関する説明

 アンケート調査によると、有期労働契約の更新について事業主が実情と合わない説明を行っている例がみられたほか、そもそも説明を受けていないとする労働者もおり、こうした状況が更新に対する労使間の認識のギャップに結びつき、そのギャップがトラブルの発生の大きな要因となると考えられる。
 実際、雇止めに関する裁判例の事案の多くは、まさにこうしたギャップをめぐる事案である。
 このため、使用者は、例えば、契約更新・雇止めを行う際の当該事業場における更新の有無についての考え方、更新する場合の判断基準等を、有期契約労働者に対し、あらかじめ説明することが望ましいのではないか。


ロ 契約期間

 アンケート調査によると、労使ともに一定程度の更新による雇用の継続を念頭に置いて有期労働契約を締結している。
このため、更新による雇用の継続への期待が一定程度認められるような場合の労働者の保護という観点から、例えば更新により1年を超えて継続雇用している労働者については、更新に当たり、その労働契約の期間を定める場合には、不必要に短い契約期間とするのではなく、労働基準法の規定の範囲内で、当該労働契約の実態や労働者の希望に応じ、できるだけ長くすることが望ましいのではないか。

ハ 雇止めの予告

 アンケート調査によると、多くの事業所においては、雇止めに当たってあらかじめ30日以上前に労働者に予告しており、労働者の保護が図られているが、一方で事前の予告を行っていない事業所も多少みられたところである。
 このため、こうした事業所も視野に入れ、更新による雇用継続への期待が一定程度認められるような場合の労働者の保護という観点から、例えば1年を超えて継続雇用している有期契約労働者の雇止めを行おうとする使用者は、解雇の場合の労働基準法第20条第1項の定めに準じて、少なくとも30日前に更新しない旨を予告することが望ましいのではないか。

ニ 雇止めの理由の告知

 アンケート調査によると、雇止めの理由に関する労使間の認識の相違が認められたところであり、そのことがトラブルの大きな要因になっている。
 このため、更新による雇用継続への期待が一定程度認められるような場合の労働者の保護という観点から、例えばロ、ハと同様に1年を超えて継続雇用されている有期契約労働者の雇止めについて、労働基準法第22条の退職証明における解雇の理由の証明に準じて、使用者は「契約期間の満了」という理由とは別に、当該労働者が望んだ場合には更新をしない理由を告知することが望ましいのではないか。
 なお、労働基準法は、有期契約労働者も含め基本的に全ての労働者に適用される法であること、同法により労働契約の締結の際に書面の交付により明示しなければならない事項の一つとして労働契約の期間に関する事項があげられていること(労働基準法第15条)、具体的には、期間の定めのある労働契約の場合にはその期間、期間の定めのない労働契約の場合にはその旨を書面で明示することが義務づけられていること、期間の定めのない契約に係る労働者を解雇する場合には判例上解雇権濫用法理が適用されることについても、引き続き周知を図ることが必要であると考えられる。

<2> 労働基準法第105条の3に基づき紛争の解決の援助を求められた場合等における措置

 行政は、トラブルが生じている有期労働契約の更新・雇止めに関し、紛争の解決の援助を求められた場合等においては、参考となる裁判例を踏まえて、当該契約関係の実態に照らし、上記イ〜ニの諸点を考慮しながら、トラブルの解消のために労使がどのように対処することが適当であるかについて、助言・指導を行うことが適当と考えられる。

 なお、有期契約労働者の処遇などの問題については、本研究会における検討事項ではなかったが、労働市場においていわゆる正社員が減少し、有期契約労働者を含む非正社員が増加する傾向がみられる状況のもとで、雇用形態によっては、正社員として働ける職場がなかったことを理由に有期労働契約を選択した者が多く、あるいは契約期間満了後に正社員として働くことを希望する者が多い形態が見られたこと等の実態を踏まえ、有期契約労働者をめぐるこれらの問題については、今後別途検討することも必要と考える。