42 通勤災害
- 42-01 路面凍結を予想して、通常の出勤時刻とかけ離れた時刻に出勤する途中の災害
【事例】
会社までの通勤所要時間35分のマイカー通勤者が、前日から雪模様の天候のため、翌朝は積雪や路面の凍結があると考え、会社の始業時刻より8時間早い午前0時頃車で自宅を出発、途上で対向車と衝突事故を起こした。
【判断と解説】
「宿直室で始業時刻まで就寝しようと考えたもので、業務に就くための通勤ではなく、一時的に変更した就寝場所に向かったものであり、所定の始業時刻と著しくかけ離れた時刻に出勤することは、就業との関連が失われる」として、通勤災害ではないとされた。
- 42-02 業務終了後、茶道のサークル活動をして帰宅中、暴漢に襲われたが..
【判断と解説】
事業場施設内でサークル活動に要した時間が問題となる。就業と帰宅との直接的関連 性を失わせると認められるほど長時間であるか否かがポイントとなる。
午後5時10分から午後8時まで茶道のサークル活動の後、帰宅中、暴漢に襲われ殺 害されたケースで、2時間50分は長時間であり通勤外と認定されている。
一方、2時間の残業後、労働組合の会計業務に1時間25分従事してバイクで帰宅途 中に被災したケースでは、1時間25分程度の時間は長時間とはいえないとされてい
る。
また、同じく組合活動で2時間5分の用務についたケースでは、「2時間5分という 時間は、一般的には、帰宅と就業との関連性が失われたといえるのであるが、関連性
が失われた時間がわずかであり、その他の事情も勘案されて」通勤災害と認定されて いる。
これらから、事業場施設内での業務外の滞在時間は、2時間以上を持って長時間と判 断されているようである。
- 42-03 業務終了後、事業場施設内で慰安会を行った後帰宅する途中の災害
【事例】
会社の潮干狩りを兼ねた花見が雨で中止になって、弁当の処分会に切り替えられた。 被災者A、B、C、Dは夜勤勤務者。被災者Eも夜勤勤務者であったが当日
休暇を取っていたところ、処分会に参加した。処分会は、業務終了、入浴着替えの後 構内食堂で約1時間行われた。閉会後、同一方向に帰宅するABCDはEのマイカー
に同乗中、対向車に衝突して全員が負傷した。
【判断と解説】
業務終了後に行われた処分会への参加時間は1時間程度であり、長時間とはいえない。 また、潮干狩りが中止になったため、帰宅行為は業務との関連性を失っていないから
通勤災害と認められる。ただし、Eについては、潮干狩りが任意参加であり業務とは いえない以上、当日休暇を取っており、往復行為に就業との関連性が認められないか
ら通勤災害とはいえないとされた。
- 42-04 出勤する途中、交通事情で遅刻しそうになったため、会社の許可を得て休暇を取り帰宅する途中の災害
【事例】
出勤のため自宅を出てバスに乗車したが、前日の積雪のためバスの運行が乱 れ、始業時刻に間に合わないと判断。途中下車して、公衆電話から会社に電話して休
暇の承認を得て、帰宅しようとバスを待ったがなかなか来ないので歩いて帰る途中に 転倒し負傷した。
【判断と解説】
通勤の途中、勤務先へ向かう行為を中断して自宅へ引き返すような場合、引き返えそ うとする行為に就業との関連性が認められるかどうかが問題となる。
このケースのように、通勤そのものをやめて自宅へ帰るのは、その時点で、就業との 関連がなくなると考えられるので、通勤災害とはならない。
- 42-05 休暇中に会社へ給料を受領に行き、その帰宅途中における災害
【事例】
被災労働者は当日、時短休暇を取り休んでいたが、たまたま当日が給料支払日 であったので、車で会社へ赴き、受領して帰宅中、交差点で追突され負傷した。
【判断と解説】
被災当日、就業した事実はなく、単に給料受領のみの目的をもって会社へ赴いたもので あり、通勤と業務との密接な関係を欠くものであるから通勤災害とは認められない。
- 42-06 就業の途中で子供を歯科医へ送り届けた後に、再び会社に向かう途中の災害
【事例】
通常どおり出勤後、午前10時ごろ、子供がかかりつけの歯科医院に予約した ところ空いているとのことであったので、上司の許可を得て近くの幼稚園まで子供を迎
えに行き歯科医院で治療を受けさせた。治療後、子供を幼稚園に預け会社に向かう途中、バイクにはねられ負傷した。
【判断と解説】
就業時間中に業務を一時中断して子供を歯科医院につれていくという行為は、私的事情 によるものであり、就業との関連性が認められないので通勤災害に該当しない。
- 42-07 アパートの階段における転倒災害
【事例】
出社するため、木造モルタル二階建てのアパートの二階の自室(住居)を出て 階段をおりるとき、転倒して負傷した。
【判断と解説】
被災者が居住するアパートの戸外が住居と通勤経路との境界と認められるので、階段は 既に通勤経路であるから、通勤災害である。
なお、本件は往来に面したアパートである。管理人等が常駐し居住者への通行は管理人 からの通報を要するなどの住居形態の場合は、アパートの玄関ないしは道路からが通勤
経路として取扱われる。
- 42-08 自宅敷地内にある車庫での転倒災害
【事例】
当日出勤のため、自宅敷地内にある車庫から車を出そうとしたが、車庫内地盤 の凍結で車がスリップ、妻と二人で車を押出し中、たまたま車庫に立てかけてあった木
そりが倒れてきて左足を負傷した。
【判断と解説】
本件の住居と通勤経路の境界は、公道に面した自宅の門である。車庫は住居内であり、 そこで発生した災害は通勤災害として認められない。
なお、通勤経路は一般の人が自由に通行できるかどうかにより区分されることになって おり、一般的には門又は戸外が境界となる。
- 42-09 夫の看護のため、姑と交替で一日おきに寝泊まりしている病院から出勤する途中の災害
【事例】
手術当日より9日間、勤務を休み、付添看護にあたり、その後被災当日までは 勤務のかたわら母親と一日交替で看護にあたっていた。交替で看護にあたっていた間は、
自宅から勤務先に出勤、業務終了後病院へ。翌日、病院から勤務先に出勤、業務終了後 自宅に帰っていた。
【判断と解説】
入院中の夫の看護のため妻が病院に寝泊まりすることは、社会慣習上通常行われること であり、手術当日から長期間寝泊まりしている事実があるから、被災当日の病院は、就
業の拠点としての性格を有していたことから、通勤災害と認められた。
- 42-10 通常は寄宿舎に寝泊まりしている労働者が家族の居住する自宅から出勤する途中の災害
【事例】
通常は寄宿舎に、休日前夜には自宅に帰り、休み明けの早朝に自宅から会社へ 出勤していた。たまたま、8月15、16が会社の盆休みで、14日夕食後自宅に帰り、
21日まで休暇をとり、22日自宅(距離25キロ、所要時間30〜40分)を出て、 通常の経路で出勤中、ガードレールに激突し死亡した。
【判断と解説】
家族の居住する自宅は、被災労働者が毎週末継続的に帰るほか、週末以外にも月に数回 帰るなど、日常生活の用に供し、そこから通勤していた場所であり、寄宿舎は就業に関
する特殊事情等から寝泊まりしていた場所であるから、双方が「住居」と認められる。 従って、通勤災害である。
- 42-11 マイカー通勤者が、前日泊った婚約者宅から出勤する途中の災害
【事例】
前日の午後7時に業務終了後、Y市にいる婚約者(同僚)宅に泊り、翌日出勤 のため婚約者を同乗させ会社に向かう途中、交差点で右折車と衝突して二人とも負傷し
た。被災労働者は以前にも残業等で遅くなった場合は、しばしば婚約者宅に泊っていた。
【判断と解説】
婚約者宅は、被災労働者の就業の拠点たる住居とは認められないので、通勤災害に該当 しない。婚約者は通常経路での出勤途上と認められるので通勤災害である。
長時間の残業等勤務上の事情や交通ストライキ等の交通事情により、一時的に通常の住 居以外の場所(会社の宿泊施設や最寄りのホテルなど)に宿泊する場合には、やむを得
ない事情で就業のために一時的に住居の場所を移るので、当該場所も住居と認められる ケースがある。
本件は、私的事情と判断されたものである。
- 42-12 会議後場所を変え、料理店で行われた慰労会に出席後に帰宅する途中の災害
【事例】
親会社の本社ビル3階会議場での会議に出席した後、約300メートル離れた B料理店で行われた慰労のための宴会に出席し、約1時間15分後に帰路についたが、
途中気分が悪くなり、K駅で下車しプラットホームにしゃがんでいて電車に接触し死亡 した。
【判断と解説】
会議場の場において、会議に引きつづいて行われる簡単なものは、業務にふくまれるも のと認められることがあり得るが、本件の場合は、席を変え、料理店で行われ、しかも
1時間15分にわたって行われているのでこのような種類のものとは認められない。
宴会に向かった時点で、通勤行為が「中断」されているから、その後の事故は通勤災害 とは認められない。
- 42-13 自転車に二人乗りして帰宅する途中の災害
- 42-14 バイクの無免許運転で出勤する途中の災害
- 42-15 飲酒後、帰宅する途中の災害
- 42-16 会社を出て駅に向かう途中、薬店、書店、ウインドーショッピングをした後の災害
【事例】
会社を出て通勤経路の駅に向かう途中、約3時間ほど薬店、書店に立ち寄り薬 と図書を購入した後、ウインドーショッピング等をした。その後の帰宅中、被災した。
【判断と解説】
薬や図書を購入したのは、自分や家族が使用する日用品の購入であるから、通勤経路に 復した後は通勤災害と認められるのであるが、その後、ウインドーショッピングに10
0分も費やしているのは、通勤行為は「逸脱・中断」に当るから通勤災害ではない。
なお、「逸脱・中断」があると、その後は一切通勤とは認められません。
- 42-17 帰宅途中、日用品購入のため立ち寄った通勤経路上のストア内での災害
【事例】
業務を終了し帰宅途中、自宅近くの通勤経路上のストアに立ち寄り、夕食のそ う菜と装飾品を購入したが、ストア内の階段で足を踏み外し、負傷した。なお、被災者
は独身女性でありアパートで自炊をしていた。
【判断と解説】
通勤行為の「中断」中に生じたものであるから、通勤災害ではない。
- 42-18 帰宅途中、経路上の喫茶店でコーヒーを飲んだ後の災害
【事例】勤務終了後、午後5時10分退社する際、同僚と会社の隣の喫茶店に立ち寄っ てコーヒーを飲みながら40分雑談し、その後、通勤経路を帰宅中に事故にあった。
【判断と解説】
喫茶店に立ち寄って過ごした行為は、駅構内でのジュースの立ち飲みなどのような労働 者が通勤途中よく行う程度の「ささいな行為」とは評価できず、また通勤途上で行わな
ければならない「日常生活上必要」不可欠な行為でもないから、通勤災害ではない。
- 42-19「逸脱・中断」の取扱に関する基本的な考え方
●経路の近くにある公衆トイレを使用する
●経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する
●駅構内でジュースを立ち飲みする
●大道の手相見に手相を見てもらう
●電話するため公衆電話ボックスへ向かう
●自動販売機で缶ジュースを購入し車へ戻る
●経路上のガソリンスタンドで給油する
などの労働者が通常、通勤の途中で行うような「ささいな行為」は、通勤行為が継続しているとみなされます。一方
●通勤の途中で麻雀を行う
●映画館に入る
●バー・キャバレー等で飲酒する
●デートで長時間ベンチで話し込む
●経路からはずれる
●交通事故写真展や建築物の見学など個人的な興味に基づくものに立ち寄る
などの場合は「逸脱・中断」をみなされます。
「逸脱・中断」があると、その後は一切通勤とは認められません。
ただし、通勤経路上で、やむを得ない事由により行う
●そう菜等を購入する
●クリーニング店に立ち寄る
●独身者が食事のため食堂に立ち寄る
●書店で目的書籍を購入する(最小限度の時間)
●理髪店に立ち寄る
●病院・診療所で診察、治療を受ける
などの行為で最小限度のものは、「日用品の購入などの日常生活上必要な行為」として、当該行為中を除いて、通勤経路に復した時点から再び通勤として扱われることになっています。
- 42-20 マイカー通勤者が同僚の自動車を牽引中の災害