 労働基準法・個別労働関係法のあらまし
 労働基準法・個別労働関係法のあらまし
| 労 | 働 | 基 | 準 | 法 | ・ | 個 | 別 | 労 | 働 | 関 | 係 | 法 | の | あ | ら | ま | し | 
| 1 | 労働保護法の歴史 | 
| 2 | 労働基準法 | 
| 1) | 最低賃金法 | 
| 2) | 労働安全衛生法 | 
| 3) | 労災保険法 | 
| 3 | 労働契約法 | 
| 4 | |
| 5 | 労働条件の確保 | 
| 1) | 労働基準の直律効 | 
| 2) | 罰則 | 
| 3) | 監督行政と違反の申告制度 | 
| 4) | 労働相談・労働審判等 | 
| 6 | 個別労働関係法 | 
| 1) | 男女雇用機会均等法 | 
| 2) | 育児・介護休業法 | 
| 3) | パートタイム労働法 | 
| 4) | 労働者派遣法 | 
| 5) | 家内労働法 | 
| 6) | 賃確法 | 
| 7) | 雇用対策法 | 
| 8) | 高齢者雇用安定法 | 
| 9) | その他、間接的にも労働基準に影響を与える法律 | 
| 7 | 保険関係法 | 
| 1) | 労災保険法 | 
| 2) | 雇用保険法 | 
| 3) | 健康保険法 | 
| 4) | 厚生年金保険法 | 
| HOMEページ | 
1 労働保護法の歴史
 1947年4月7日、労働基準法(法律第49号)が成立した。
   
 
  昭和22年政令第170号「労働基準法の一部施行の件」に基づき、その大部分を昭和22年9月1日から施行、残余の部分が昭和22年政令第227号により同年11月1日から施行された。 
   
 
  労働基準法は、戦前のわが国の特殊な労働環境に対する強い反省を踏まえて誕生した経緯がある。すなわち、わが国は、明治後半の一時期、国策として製糸・紡績を支える労働力を農村の余剰労働力に頼っていた。 
   
 
  この時期のわが国の労働関係は、長時間労働、身分拘束、非衛生等において、後世に語り継がれるほどの前近代性・封建制を持っていたのであり、過酷な紡績女工の労働実態をはじめ、炭鉱におけるたこ部屋、人身売買的な年季奉公等は、その一端が表層化したものにすぎない。 
   
 
  昭和22年の労働基準法については、総則及び労働契約の章における一部規定には、強制労働の禁止(5条)、中間搾取の排除(6条)、契約期間(14条)、賠償予定の禁止(16条)、前借金相殺の禁止(17条)、強制貯金の禁止(18条)に見られるように、戦前の反省と劣悪な労働関係から決別しようとする意思が読み取れるのである。 
2 労働基準法
   憲法第27条第2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定。この規定を受けて制定された法律の中心となるものが労働基準法(昭和22年4月7日法律第47号)である。
  
   全13章121箇条の本文からなる法律で、労働条件にかかる基本原則の宣言に始まり、労働契約、賃金、労働時間・休日、休暇、安全衛生、年少者、妊産婦等、技能者養成、災害補償、就業規則、寄宿舎、監督機関、雑則、罰則について定める。 
  
   昭和60年男女雇用機会均等法の制定とあわせて、見直しが進められた一般女子保護規定の撤廃に発し、昭和62年労働時間規定の大改正を経て、その後、平成10年新たな裁量労働制の導入、15年に有期労働契約、裁量労働制、解雇規定に関する重要改正が行われた。 
  
   平成19年には労働契約法が制定されたほか、平成20年時間外労働の割増率及び年休の時間単位付与について、法改正をみて今日に至っている。
1) 最低賃金法
   昭和34年最低賃金法の制定により労働基準法の規定が分離された。現行、労働基準法第28条に連携・根拠規定を残している。
  
   最低賃金法は以下の事項を中心に大幅に改正され、平成20年7月1日から施行されている。 
  
  (1) 最低賃金は「時間」によって定める。日、週又は月の設定は削除
  
  (2) 地域別最低賃金-地域労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金
  
  
  支払い能力を考慮して決定(第9条A)。なお、生計費の考慮に当たっては、生活保護費との整合性に配慮(第9条B)。
  
  (3) 最低賃金の減額特例-「適用除外」を廃止して「減額特例」(許可制)を新設。対象は、
  
   a 精神、身体の障害により著しく労働能力が低い者
  
   b 試用期間中の者
  
   c 認定職業訓練であって厚生労働省令で定める者
  
   d 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者
  
   (最低賃金の時間額一本化に伴い、「所定労働時間の特に短い者」は減額特例の対象から除外された。)
  
  (4) 派遣労働者の最低賃金適用-派遣労働者の最低賃金は派遣先事業場の所在地の最低賃金を適用する(第13条)
  
  (5) 労働協約に基づく地域的最低賃金等の廃止(旧法第11条〜第16条の3)
  
  (6) 特定最低賃金-労働者又は使用者の代表者が「一定の事業若しくは職業に係る最低賃金」を決定するよう申し出ることによって設定(15条)。
  
  (7) 地域別最低賃金違反の罰金額の上限が2万円から50万円に引き上げられた(40,42条)。また、労働者の申告権が明定された(34条)。
2) 労働安全衛生法
 昭和47年労働安全衛生法の制定により労働基準法の規定が分離された。現行、労働基準法第5章安全及び衛生第42条に連携・根拠規定を残している。
  
   最近、労働安全衛生法は以下の事項を中心に大幅に改正され、平成18年4月1日から施行されている。 
  
  (1) リスクアセスメント条項の新設(28条の2新設)
  
  (2) 製造業等の下請混在作業現場における統括安全衛生管理(作業間の連絡調整)(30条の2新設)
  
  (3) 化学物質の製造・取扱設備において分解、内部立ち入り作業を伴う仕事の注文者は、危険有害情報を文書交付によって提供する義務を負うこと(31条の2新設)。
  
  (4) 化学物質の表示・文書交付制度の改正と有害物ばく露報告制度の新設(安衛則95条の6)
  
  (5) すべての健康診断結果の労働者への通知(積み残し案件=特殊健診結果の通知義務を追加)
  
  (6) 長時間労働者に対する医師の面接指導制度の新設(66条の8,9新設)
  
     [関連]健診事後措置の追加改正(産業医の意見の委員会等への報告)、産業医の職務の追加(規則改正)、秘密の保持義務の追加 
  
  (7) 安全衛生マネジメントシステムの実施事業者に対する計画届の免除(88条改正)
  
  (8) 委員会の調査審議事項の追加、総括安全衛生管理者の職務・安全管理者資格の見直し、職長教育カリキュラムの追加(17-19条、10条、11条、60条)
  
  (9) 免許・技能講習制度の見直し
  
(10) 衛生管理者及び安全管理者の「事業場専属の者」とする要件の見直し
 3) 労災保険法
 労災保険法は、昭和22年4月7日制定されている。
  
 使用者の労働災害補償責任は、労働基準法第8章(75条〜88条)に規定されているが、使用者に資力等がないような場合、実際上の補償が行われないおそれがあることから、原資を使用者が共同負担し、政府が管掌する保険「労働者災害補償保険」によって、危険の分散を図り、補償が確実に実施されるようにするために設けられた。現在、労災保険法は、「業務災害」と「通勤災害」をカバーしている。 
3 労働契約法
 
  平成19年11月に成立した労働契約法が平成20年3月1日から施行されている。労働契約法は、同法第1条の目的条項にも規定があるように、「労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約の基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにする」ねらいがあった。しかし、労使団体の代表が加わった議論の過程では、意見がするどく対立する事項が多く、法制化の見送りが続出した。
  
 
最終的に、法制化された事項は、判例法理を確認する形で規定化されたもの(*1)、解雇条項のように他の法律から移しかえた(*2)規定が中心になっている。  
 
労働契約法の構成は、第1章総則(1-5条)、第2章労働契約の成立及び変更(6-13条)、第3章労働契約の継続及び終了(14-16条)、第4章期間の定めのある労働契約(16条)、第5章雑則(18.19条)の全19箇条からなっている。労働契約法は、公務員及び使用者が同居の親族のみを使用する場合には、適用されない。  
[編注]
  
(*1) 労働契約法は、労働条件の不利益変更について、使用者が一方的に作成する就業規則に法的拘束力を認めた最高裁判決(昭43秋北バス事件)を取り入れ、法制化したが、一部には、使用者が一方的に作成する(が故に議論を残す)就業規則への法的評価を立法で固定化してしまったことには根強い批判がある。
(*2) 労使の交渉力の現実を考慮することなく、労働契約に関する民事的ルールを法制化し、その解決を多く民事係争問題として制度化することが労働者保護につながるとは限らない。罰則及び労働監督制度を基本として、法律の履行確保の措置を講ずる労働基準法だが、正確には、そのすべてが罰則付き条項であった訳ではなく、民事的ルール、効力を規定した条項をちりばめながら、全体を形成していたのである。労働基準法に規定し、行政の監督指導制度のもとで運用した方が実効性を期待できると判断されるものは、原則、労働基準法に規定していくという考えに立つのでなければ、労働者保護の実質的後退を招く可能性がある。
4 労働条件の基本原則
 労働基準法は、第1条から第7条にかけて、つぎのような労働条件の基本原則を規定している。
  
  (1) 労働条件の決定原則
  
   「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」(1条、関連憲法25条)また、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから(向上を図るよう努めること)」(1条2項、関連憲法27条2項) 
  
  (2) 労働条件の労使対等な立場での決定の原則等
  
   労働条件の労使対等な決定(2条1項、関連契約法3条1項)と労働協約、就業規則、労働契約の遵守義務(2条2項、関連契約法3条4項) 
  
  (3) 均等待遇及び男女同一賃金の原則
  
   均等待遇の原則は、(イ) 国籍、信条または社会的身分による差別的取扱いの禁止=均等待遇(*1)(3条)、(ロ)女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない(*2,3)(4条)と規定している。 
  
   この均等待遇の原則は、その後の「男女雇用機会均等法」(昭和61年4月1日施行)として発展、平成11年4月、及び平成19年4月の改正施行を経て今日に至っている。 
  
  (4) 強制労働の禁止と中間搾取の排除の原則
  
   「労働者の意思に反して労働を強制してはならない」(5条、関連憲法18条)「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」(6条) 
  
  (5) 公民権行使の保障(7条)
  
 法令に根拠を有する選挙権、非選挙権をはじめとする公民としての権利の行使がこれに当たるほか、「公の職務」(議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、審議会の委員、民訴271条の証人、選挙立会人、労働審判員、裁判員等の職務)を執行するために必要な時間が保障される。 
[編注]
  
  (*1) 労働基準法第3条は、性別による差別的取扱いを規定していないが、これは、労働基準法が制定当時、多くの女子保護条項を規定していたからであるといわれる。しかし、女性保護の原則撤廃がなされた平成9年改正(11年4月施行)以降においても、第3条に性による差別的取扱いが規定されることはなかった。
 
なお、労働基準法第3条は強行規定であり、抵触する契約は無効、かつ、民事上、当該差別的取扱は損害賠償責任を発生させるところとなる。  
(*2) 男女賃金差別については、過去、例えば、(1)賃金表の男女適用差別 (2)コース別人事管理 (3)一時金の支給係数、基本給の上昇率 (4)昇格差別に基づく賃金差別 (5)家族手当の支給差別等の形で裁判所の争いとなっている。
(*3) 賃金以外の性による差別的取扱いは、裁判上は、男女平等取扱いの法理が形成され、結婚退職制、女子若年定年制さらには男女別定年制を公序良俗に反し無効とする判決等につながっている。
5 労働条件の確保
 1) 労働基準法の強行法規性と直律的効力
 労働基準法は、自らが定めた労働基準の確保を図るために、法律に一定の仕掛けを行なっているが、それが第13条の規定が持つ「強行法規性」と「労働契約が法定基準に達しないために無効とされた部分について、法定基準に置き換える=直律的効力」である。 
 労働基準法の強行法規性 
  
 
  「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」(第13条前段部分) 
 直律的効力 
  
 「この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による」(第13条後段部分) 
 2) 罰則
 罰則もまた労働基準法の履行確保を図る上で、重要な役割を果たしている。労働基準法は、第117条〜第121条に最高1年以上10年未満の懲役から30万円以下の罰金までの罰則を規定している。
  
 労働基準法は、直接、法律の違反行為を行なった行為者を罰するほか、法人に対しても罰金刑を科すという処罰の仕組みを採用しており、これを「両罰規定」という。 
 3) 労働監督と違反の申告制度
 さらに、労働監督制度と労働者の申告権が、労働条件確保において欠かせない役割を担っている。
  
   「労働監督」 
  
 
  労働基準法の監督行政機関として、厚生労働省労働基準主管局の下に、都道府県労働局-労働基準監督署の体制が敷かれている。 
  監督行政機関には、労働基準監督官が置かれ、事業場の臨検など行政権限の行使を行なう(101条)ほか、労働基準法違反の罪について刑事訴訟法に規定する司法警察員の職務を行なう(102条)。 
  
   「違反の申告制度」  
  
 
労働者は、「事業場にこの法律に違反する事実がある場合においては、その事実を、行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」(104条1項)、使用者は、労働者が申告したことを理由として不利益な取扱をしてはならない(104条2項)。 
4) 労働条件の確保に関連したその他の制度
 [1] 都道府県労働局の個別労働関係紛争の総合相談窓口
  
   個別労働関係紛争の解決促進法(平成13年10月1日施行)に基づく、労働条件その他労働関係に関する事項に係る労使の紛争を迅速かつ適正に解決するための制度として、都道府県労働局(労働基準監督署)に、総合相談窓口が設置されている。 
  
 事案に応じて、相談・情報提供から都道府県労働局長による助言及び指導、紛争調整委員会によるあっせん等が行われている。 
 [2] 労働審判
  
   労働審判法が平成18年4月1日から施行されている。 
  
   労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について労使間に生じた民事紛争の解決を図ることを目的とする。 
  
 労働審判委員会が当事者の申立てにより事件を審理し、調停の成立見込みがあればこれを試み、調停の成立による解決の見込みに至らない場合は、労働審判手続に移行する。申立ては、相手方事務所等の所在地又は、就業事業所の所在地を管轄する地方裁判所に行う。
6 個別労働関係法
 1) 男女雇用機会均等法
 男女雇用機会均等法は、昭和61年制定施行されて以来、雇用における機会均等、母性健康管理の実質担保、セクシュアルハラスメント対策等の分野に大きな影響を与えてきた。
   
  
   法の目的のうち、差別禁止の関係だけを見ても、昭和61年制定時には「教育訓練、福利厚生、定年・退職及び解雇について、女性であることを理由とした差別を禁止」していた状況から、平成9年改正(平成11.4.1施行)では、前記差別禁止対象に「募集、採用、配置・昇進」を加えたほか、ポジティブアクション、セクシュアルハラスメントに関する規定を創設している。 
  
 最近の改正となる平成18年改正(平成19年4月1日施行)では、女性差別禁止から性差別禁止へ方針の基本転換を果たし、差別禁止の対象項目に「降格、職種変更、雇用形態の変更、退職勧奨、雇止め」を追加したほか、間接差別禁止の規定が導入された。(詳細は、第10章Vを参照) 
 2) 育児・介護休業法
 平成4年4月1日から施行された「育児休業法」。平成7年に育児休業法の改正の形で「介護休業」の法制化(介護休業の義務化は平成11.4.1。同時に法律名も「育児・介護休業法」に改称)が図られている。
  
   その後、育児・介護休業法は、勤務時間の短縮等の措置を導入した(平成4年、介護休業は平成11年)ほか、男女共通の時間外労働及び深夜労働の制限を規定している。 
  
   平成16年改正で、育児休業、介護休業の対象が、雇用が継続することが見込まれる「期間の定めのある労働契約」で働く労働者にまで拡大された。 
  
   また、育児休業について、子が1歳を超えて1歳6ヶ月に達するまで可能となり、介護休業について、「対象家族1人につき、要介護状態に至るごとに一回、通算93日まで」と期間・回数の柔軟化が図られるなどしている。(詳細は、第6章Vを参照) 
 3) パートタイム労働法(平成20.4.1改正施行)
 パートタイム労働法は、法制定以来の大幅改正を経て平成20年4月1日施行に移されている。
  
   今回改正のポイントは、以下の点である。 
  
   第一に、第1条「法律の目的」を時代状況にあわせて書きかえたこと。 
  
   従来からの適正な労働条件の確保等のほか「通常の労働者への転換の推進」をうたい、「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて」福祉の増進、社会経済の発展に寄与するとして、法律の目的を整理し直している。
 
  
   第二に、パートタイム労働者の就業形態を、「業務の内容及び責任」、「人材活用の仕組みや運用」、「契約期間」の観点から類型化し、その状況に応じて、通常の労働者との均衡処遇を図っていく方針を明確にし、そのために重要ないくつかの事項について事業者に義務化したこと(詳細は、第11章Uを参照)。 
  
   第三に、その他つぎの事項が改正されている。 
  
   (1) 労働条件の文書交付義務として、労基法15 条の事項に加え、特定事項-昇給、賞与、退職金の有無-の明示を義務付けたこと(6 条1項) 
 (2) 通常の労働者への転換のための選択的措置義務として、「募集条件の周知」、「応募機会の付与」、「転換制度の整備」のうちいずれかの措置を講ずる義務を課したこと(12条) 
 4) 労働者派遣法(平成19.4.1改正施行)
 労働者派遣は、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる」(派遣法2条1号)ものである。
  
   労働者派遣では、派遣労働者が派遣先の指揮命令の下で労働に従事しているにもかかわらず派遣先との間に雇用関係が存在しない、いわゆる「雇用」と「使用」が分離する。 
  
   労働者派遣のような就業形態は、労働基準の観点から、「中間搾取」等の問題が生ずることもあり、従来は認められることのなかったものであるが、曲折を経て、昭和61年「労働者派遣法」が制定施行された。 
  
 労働者派遣法は、基本において業者取締法であることから、派遣労働者の労働条件は、労働基準法等の適用を受け保護される。なお、労働者派遣については、労働保護法の適用が「派遣元」及び「派遣先」に、それぞれ二元で適用され、又は「派遣元・派遣先」の双方に適用されることとなり、その適用区分は、同法第44〜47条の2の規定するところに従う(詳細は、第11章Tを参照)。 
 5) 家内労働法
 昭和45年10月に制定された「家内労働法」は、最低工賃、安全衛生その他、主として、家内労働者に仕事を委託する「委託者」に義務を課している。
  
   「家内労働」は、自宅などを作業場として、製造・加工業者や問屋などの業者から物品の提供を受けて、一人若しくは同居の親族とともに、その物品を部品又は原材料とする物品の製造や加工を行うことをいう。
  
   家内労働法が、当事者間の無用の紛争を防止するため、取引の都度、委託条件記入の普及をめざした「家内労働手帳」は、広く普及するところとならなかった。一方、本法の保護対象である家内労働従事者数も、法律が成立した昭和45年には201万人いたが、平成19年には19万人へと減少している(家内労働概況調査)。 
 6) 賃金の支払の確保に関する法律(昭和51.10.1施行)
 事業主に、社内預金及び退職手当の保全措置を講ずべきことを義務付けている(3条、5条)。
  
   また、退職労働者の賃金(退職手当を除く)について、年14.6%の遅延利息の支払いを義務付けた(6条)ほか、企業倒産等に対応し一定の要件を充足する場合において、未払賃金の立替払制度が運用されている(7条)。
  7) 雇用対策法(労働基準との関係では次の2点に注目、平成19.10.1改正施行)
 (1) 労働者の募集及び採用について、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない(10条) 
  
 (2) 外国人雇用状況届の義務化(事業主による在留資格、在留期間その他厚生労働省令で定める事項の確認義務)(28 条) 前記届出情報の法務大臣への提供(29 条) 
 8) 高齢者雇用安定法(労働基準との関係では次の点に注目、平成18.4.1改正施行)
 65歳未満の定年の定めをしている事業主は、高年齢者の65歳(段階引き上げ-H19.4.1=63歳)までの安定した雇用を確保するため、次の@からBのいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならない。(平成18.4.1改正施行)
  
 @ 定年の引上げ、A 継続雇用制度の導入、B 定年の定めの廃止 
9) その他、間接的にも労働基準に影響を与える法律
 [1] 労働契約承継法(平成13.4.1施行)
  
 
企業分割に伴う労働者の転籍等のルールを定めた。 
 [2] 個人情報保護法(平成17.1.1施行)
  
 
労働者の個人情報保護(健康管理情報・メンタルヘルス関連情報等)の側面から職場に関係する要素が大きい。 
 [3] 不正競争防止法(平成16.1.1施行)
  
 
退職者の営業秘密の漏えい(同法2条1項4号以下)に対する刑事罰の導入を図った。 
 [4] 公益通報者保護法(平成18.4.1施行)
  
 
公益通報者に対する解雇その他の不利益取扱いを禁ずる規定がある。公益通報者には、労働契約上負っている秘密保持義務が解除されるため、懲戒処分はできないこと等労務管理上の配慮も必要となる。 
 [5] その他
  
 
その他、労働基準の形成運用に、直接間接の影響を与えている重要条項として、例えば、民法における雇用、先取特権、不法行為、債務不履行等に係る規定、会社法における重要使用人(会社法10-14条、362条4項3号)の規定、破産・会社更生関連法、職務発明(特許法35条以下)、職務著作(著作権法15条)等が上げられる。
7 保険関係法
1) 労災保険法
   本章2の3)として記載(参照) 
2) 雇用保険法(平成21年3月31日改正施行)
   労働者が失業した場合及び雇用の継続が困難となる事由が生じた場合等に必要な給付(失業給付)を行うことによって、労働者の生活及び雇用の安定を図りつつ、その就職を促進するものであること。雇用保険法については、給付水準の問題もさることながら、とくに短時間労働者の取扱いを巡って(*1)被保険者の範囲をどうするかについて、議論になることが多い。
  
   給付では、「育児休業給付」「介護休業給付」が雇用保険から支給されている。 
[編注]
  
(*1) 現行、1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ6か月以上(平成22.4.1からは「31日以上」に改定)引き続き雇用されることが見込まれる者は、雇用保険の被保険者として取扱うこととされている。
3) 健康保険法 (大正11.4.22制定)
   健康保険法は、「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行う」(同法第1条)。 
  
   労災保険法が、労働者の業務上の事由による疾病、負傷若しくは死亡に対して保険給付を行うのに対して、健康保険法は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡に対して保険給付を行うものである。 
  
   実務的には、業務上外の判断、すなわち業務上の判断であるが、これを労働基準監督署長が行う。その余は、業務外の判断が行われたことになるから、これに対して、健康保険法による保険給付が実施される仕組みになっている。 
  
 このように、労災保険法と健康保険法は、極めて密接な関連性を有するが、両保険が別建て保険であることは紛れもなく、例えば、「労災かくし」として本来なら業務上災害であるものを、業務外として健康保険法で保険給付していたような場合では、これを正しい保険給付に戻すに際しては、支給済みの健康保険による給付を、一旦、清算して処理保険を労災保険法に切替しなければならない。 
4) 厚生年金保険法(昭和29.5.19制定)
   厚生年金保険法は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行うほか、公的年金制度の2階部分に該当する年金制度である厚生年金制度に関して必要な事項を定めた法律である。
  
   厚生年金保険は、政府が、管掌する(2条)。 
  
   厚生年金保険の強制適用事業所は、法人,5人以上使用する個人事業所,船員保険法の船員である。(5人未満の個人事業所,個人経営で農林水産、理容美容、興行、接客娯楽、法務、宗教事業は、任意適用事業所とされている。) 
  
 また、被保険者になるのは、厚生年金適用事業所で使用される70歳未満の者であり,パートタイマーは所定労働時間、労働日数が一般労働者のおおむね3/4以上の者となる。 
((C)2009 檜浦徳行 「新訂・労働基準の法律」 レーバー・インフォメーション)
(第1章 労働基準法・個別労働関係法のあらまし)