大きな特徴のひとつは、退職後の競合他社への移籍などに制限を加える競業禁止の明記だ。法案の16条は、使用者が、事業上の秘密を知り得る職位にある労働者と労働契約を結ぶ場合、その労働者が退職後に競合する同業他社に再就職したり、競合する企業を自ら設立することを一定期間(最長2年まで)または一定の地域で制限する条項を労働契約に盛り込むことを認めた。しかも、使用者側に競業を制限する代価としての経済的補償を義務づける一方、違反した労働者への違約金支払いを義務づけた。
日本では、競業禁止は一般に誓約書提出や就業規則への明示という形を取る。また職業選択の自由との絡みで、競業禁止が有効か無効かについての判例も分かれている。この点、中国の法案の方が、日本より強く使用者を保護しているようにみえる。ただ一方では「競業禁止期間は日本ではだいたい5年ぐらいが上限。2年までとしている中国の法案の方が労働者に有利」(在中国の日系法律関係者)という指摘もあり、どちらが使用者有利かは一概にはいえないようだ。
また15条は、使用者が費用を提供した上で、6カ月を超えて職務の現場を離れさせて研修を受けさせる契約を労働者と結んだ場合も、労働者が契約を履行しなかった場合の違約金支払いを義務づけている。労働契約不履行について違約金を定めることを禁じている日本の労働基準法と大きく異なる。長期研修を受けさせた社員の辞職や移籍に悩まされている企業にとっては朗報だ。
■みなし規定も
法案は労働契約について、職務の内容、作業条件、労働時間、賃金などを記載すると定めている。契約は文書化が規定されているが、9条に「労働関係(雇用関係)が既に存在している場合は、労働者側から意思表示がない限り、文書による労働契約がなくても期限がない労働契約が成立しているとみなす」という日本にはない労働者に有利なみなし規定が盛り込まれているのが特徴だ。
■試用期間は職種で区分
試用期間については、現行労働法は「最長6カ月」と規定しているだけ。法案は13
条で労働契約期間が3カ月を超える場合に試用期間を設けることができるとし、期間の長さについても非技術系の職位は1カ月以内、技術系の職位は2カ月以内、高度または専門的な技術系の職位については6カ月以内と、職位に応じて差を設けた。試用期間は認めているものの、具体的な期間の上限を定めていない日本の労働基準法とは異なる。
解雇については、法案は労働者が使用者の規則に重大な違反をした場合、使用者に深刻な損害を与えた場合などは予告なしの即時解雇を認めた(31条)。日本の「労働基準監督署長の認定義務」のような規定はない。疾病で規定の療養期間後も職務に復帰できない場合、労働者が職務の任に堪えられないことが証明された場合などは、30日以前の通告または1カ月分の賃金特別支給によって解雇可能としている(32条)。日系法律関係者は、「法案が無修正で施行された場合、日系企業に最も影響しそうなのは解雇の規定だが、現行法令とそう大きく変わっているともいえない」と話している。
法案は4月20日まで、全人代常務委法制工作委員会で各界の意見を受け付けている。現在は試用期間規定の在り方など様々な意見が寄せられており、今後の修正動向に注目が集まりそうだ。<全国>