最新「最低賃金のQ&A」
■HOMEPAGE
■全国の最低賃金
2009年版
問01 最近では平成19年に最低賃金法の改正がありましたが、わが国における制度改定と最低賃金決定の経緯について説明してください
問02 最低賃金の「適用除外」の制度が廃止されたのは、どういった理由からですか。過去に、適用除外の許可を受けていた場合でも当該許可は無効となりますか
問03 最低賃金の減額特例制度の「許可基準」の要点について説明してください
問04 最低賃金の「減額特例」の制度において乗じる「一定の率」は、どのように運用されますか
問05 最低賃金が今後「時間額」のみで設定される意義はどこにあるのでしょうか
問06 地域別最低賃金の決定に当たっての「考慮要素」並びに「生活保護」の水準との関係について
問07 従来の産業別最低賃金は「特定最低賃金」に衣替えするとのことですが、どのような特徴がありますか
問08 「派遣中の労働者」には、派遣先の地域に適用される最低賃金を適用する(取扱を変更)
問09 最低賃金法における罰則規定の変遷と取扱いについて
問10 H19年改正(H20.7.1施行)で初めて監督機関に対する申告規定が整備されたということは、従来、最低賃金法違反について、行政官庁へ申告(訴え)は出来なかったのでしょうか
問11 支給されている賃金が、最低賃金額以上であるかどうかは、どのようにチェックするのでしょうか、その方法を教えてください
問12 使用者と労働者が内緒で「最低賃金額未満」の賃金で労働契約を結んで働いていた場合は、どうなりますか
「最低賃金のQ&A」
問01 最近では平成19年に最低賃金法の改正がありましたが、わが国における制度改定と最低賃金決定の経緯について説明してください。
答01 昭和22年4月制定の労働基準法では、第28〜31条に最低賃金の規定が置かれていましたが、この労働基準法時代は実際の最低賃金決定の実績が残っておりません。昭和34年4月に最低賃金法が制定され、最低賃金の決定方式として、@業者間協定方式、A労働協約拡張方式、B審議会方式、の3つが設定されていましたが、その中心は「業者間協定方式」でした。
その後、昭和43年6月に最低賃金法が改正され、業者間協定方式が廃止され大くくりの業種にまとめて「産業別最低賃金」へ移行、昭和46年からは「地域別最低賃金」を順次拡大し、昭和51年には47都道府県のすべてに最低賃金の適用が図られる状況に至りました。
昭和53年からは、地域別最低賃金について、全国的な整合性を確保する観点から、中央最低賃金審議会において「目安制度」による運用が図られることとなりました。
同時に、「産業別最低賃金」も、昭和57年を境に、従来の大くくり方式から、小くくりの「新産業別最低賃金」(労働条件の向上や公正競争の確保の観点から、関係労使が必要と認めるものに限定して設定)への転換が図られて行きました。
直近、平成18年度の地域別最低賃金は、47件が決定され、5,024万人が適用を受け、産業別最低賃金は、250件が決定され、401万人が適用を受けています。
問02 最低賃金の「適用除外」の制度が廃止されたのは、どういった理由からですか。過去に、適用除外の許可を受けていた場合でも当該許可は無効となりますか。
答02 最低賃金の一律適用が困難である場合、適用除外の制度が設けられることがありますが、一般的には、最低賃金制度そのものを適用除外するより、仮に、減額した最低賃金であっても最低賃金制度の適用を図る方が、労働者保護に資するものと考えられます。
H19年改正(H20.7.1施行)において、旧法が設けていた最低賃金の適用除外規定(*1)を廃止し、最低賃金の減額特例の制度が設けられました。
これは、@精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者、A試用期間中の者、B認定職業訓練中の一定の者、C軽易な業務に従事する者、D断続的労働に従事する者、について、都道府県労働局長の許可を受けたときは、最低賃金額から省令で定める一定の率を乗じて得た額を減額した額を最低賃金として適用することができるとしたものです。
なお、H20.7.1の改正法が施行される以前に、最低賃金の適用除外許可を受けていた事業主は、当該労働者について、施行日から1年の間に、新たに減額特例の許可を受ける必要があります。(改正法附則2条)
(*1) 使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは「最低賃金の適用を除外する」趣旨の規定であり、前記@ABCのほか、所定労働時間が特に短い者を対象として運用されて来ました。
問03 最低賃金の減額特例制度の「許可基準」の要点について説明してください。
答03 改正最低賃金法第7条による最低賃金の減額特例制度の運用に当たって、「許可基準」が示されています。その要点は次のようなものですが、詳細はH20.6.1基発第0601001号「最低賃金法第5条の現物給与等の適正評価基準及び同法第7条の最低賃金の減額の特例の許可基準について」を参照してください。
第7条の最低賃金の減額特例の許可基準の概要
(1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
当該業務の遂行に支障の程度が著しい場合にのみ許可されます。支障の程度が著しいとは、労働能率の程度が、類似の仕事をしている労働者のうちでも最低位の能力を有するものの労働能率の程度にも達しないような場合をいいます。
(2) 試の使用期間中の者
当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間(最長6カ月を限度とします)に限定して許可されます。
(3) 認定職業訓練を受ける者
1日平均の生産活動に従事する時間が、認定職業訓練の時間より長く所定労働時間の3分の2程度以上である訓練年度については、許可されません。また、訓練期間が2年又は3年であるものの最終年度については、原則として許可されません。
(4) 軽易な業務に従事する者
従事する業務負担の程度が、当該労働者と異なる業務に従事する労働者のうち最も軽易な者の負担の程度と比較してもなお軽易である者に限って許可されます。(常態として身体又は精神の緊張の少ない監視の業務に従事する者などが該当します)。
(5) 断続的労働に従事する者
常態として作業が間欠的であるため労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ない者が許可対象になります。
問04 最低賃金の「減額特例」の制度において乗じる「一定の率」は、どのように運用されますか
答04 最低賃金の減額特例は、都道府県労働局長の許可(許可申請書は所轄監督署長を経由して提出しますー最賃則4条)の下で、最低賃金額から省令で定める一定の率を乗じて得た額を減額した額を当該者の最低賃金として適用するものです。
この場合の一定の率は、当該者それぞれの職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を勘案して定めるものとされており(最賃則5条)、具体的には、以下のとおりです。
@ 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者−(当該掲げる者と同一又は類似の業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するものの労働能率の程度に対する当該掲げる者の労働能率の程度に応じた率を百分の百から控除して得た率)
A 試用期間中の者−(20%以下の減額率)
B 認定職業訓練中の一定の者−(1日当たりの平均時間数を当該者の1日当たりの所定労働時間数で除して得た率)
C 軽易な業務に従事する者−(当該軽易な業務に従事する者と異なる業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なものの当該負担の程度に対する当該軽易な業務に従事する者の業務の負担の程度に応じた率を百分の百から控除して得た率)
D 断続的労働に従事する者−(当該者の一日当たりの所定労働時間数から一日当たりの実作業時間数を控除して得た時間数に百分の四十を乗じて得た時間数を当該所定労働時間数で除して得た率)
問05 最低賃金が今後「時間額」のみで設定される意義はどこにあるのでしょうか
答05 最低賃金はこれまで、時間、日、週若しくは月単位又は出来高若しくは業績の一定の単位によって定めることとされていましたが、H19年改正(H20.7.1施行)によって、今後の最低賃金は「時間」単位に定めることに統一されました。(*1)
これは、時間給の適用を受ける労働者の増加があり、一方では、所定労働時間の異なる労働者間の公平、最低賃金の分かりやすさも考慮した結果であるといわれています。したがって、今後は、最低賃金が「日額」で決定されることはないこととなります。
(*1) もっとも旧法に基づく地域別最低賃金も平成14年度からは、時間額表示に一本化され運用されていました。
問06 地域別最低賃金の決定に当たっての「考慮要素」並びに「生活保護」の水準との関係について
答06 最低賃金法のH19年改正(H20.7.1施行)では、地域別最低賃金の決定要素として、@地域における労働者の生計費、A賃金、B通常の事業の支払能力を考慮しなければならない(最賃法9条2項)。また、同9条3項において、前記@の労働者の生計費を考慮するに当たっては、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」と特記されています。
法律の規定の趣旨から、地域別最低賃金は今後、生活保護の水準を下回らない水準での決定が考慮されることになりそうです。(改正最低賃金法のH20.7.1施行の時点で、12都道府県(*)の地域別最低賃金が同地域の生活保護の水準を下回っており、今後3から5年で逆転現象を解消する方針が示されました。)最低賃金が生活保護費の水準より低いことについては、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブの低下やモラルハザードの観点からも問題視されていました。
(*) 平成18年データに基づく生活保護費と最低賃金額との乖離額
「神奈川県(108円)、東京都(100円)、北海道(63円)、埼玉県(56円)、大阪府(53円)、京都府(47円)、広島県(37円)、兵庫県(36円)、千葉県(35円)、宮城県(31円)、青森県(20円)、秋田県(17円)」。これらのデータは、手取り額である最低賃金額と若年単身世帯の生活扶助基準の都道府県内人口加重平均に住宅扶助の実績値を加えたものとにおいて比較されています。
問07 従来の産業別最低賃金は「特定最低賃金」に衣替えするとのことですが、どのような特徴がありますか
答07 旧法における「産業別最低賃金」を衣替えして、地域別最低賃金の補完的役割を持たせることとし、労働者又は使用者の全部または一部を代表する者は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対して、一定の事業若しくは職業に適用される最低賃金の決定を申し出ることができます(15条)。また、この方式で決定される特定最低賃金は、地域別最低賃金を上回るものでなければならない(16条)とその関係を明らかにしています。
なお、特定最低賃金は、一定の事業若しくは職業の関係労使によって自主的に設定される民事的な取り決めとして位置づけられるものとなり、最低賃金法における罰則の適用は行われない(船員に適用される特定最低賃金を除く。)こととなりました。
問08 「派遣中の労働者」には、派遣先の地域に適用される最低賃金を適用する(取扱を変更)
答08 H19年改正(H20.7.1施行)によって、派遣中の労働者に対する最低賃金の適用については、「派遣先の事業場の所在地を含む地域に適用される地域別最低賃金や派遣先の事業場の属する事業等に適用される特定最低賃金を適用する」ことに改められました。
@派遣先事業場と派遣元事業主の所在地域が異なり適用される地域別最低賃金額が異なる場合や、A派遣先事業場に旧産業別最低賃金の適用があり、派遣元事業主にはその適用がないような場合において、どちらの最低賃金を適用するかは、従来から問題になっていたところです。
この点について、派遣元事業主の労働者に対する雇用主責任(賃金支払い責任)の観点からは、議論もあるところですが、現に、派遣先事業場から指揮命令を受けながら業務に従事している派遣中の労働者が、同様の他の労働者を異なる最低賃金の適用を受ける状態を解消することを重視した結果となりました。
問09 最低賃金法における罰則規定の変遷と取扱いについて
答09 最低賃金法の罰則は、従来から極めて変則な取扱いがなされてきました。すなわち、旧法では最低賃金違反(5条違反)の罰則が2万円以下という微罪として運用されていました。
最低賃金法の実効性を確保する上でも、罰則の見直しは必須事項でしたが、H19年改正(H20.7.1施行)を機に、最低賃金違反(4条1項違反=地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に限る。)に対しては、労働基準法の賃金不払いの罰則30万円以下を上回る「罰金50万円以下」に引き上げられたところです。
特定最低賃金(船員に係る特定最低賃金を除く。)については、最低賃金法の罰則は適用されません。(ただし、賃金の全額払い違反が成立するところから、労基法第24条違反として同法の罰則の適用は受けます。)
なお、最低賃金法の罰則(42条両罰規定を含む。)は、前記、最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合のほか、次の場合にも科されます。
イ、申告したことを理由として労働者に対し解雇その他不利益な取扱をしたこと(34条2項違反)
ロ、地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金の周知義務違反(8条違反)、虚偽報告等の罪(29条違反)、立入検査の拒否等(32条1項違反)
問10 H19年改正(H20.7.1施行)で初めて監督機関に対する申告規定が整備されたということは、従来、最低賃金法違反について、行政官庁へ申告(訴え)は出来なかったのでしょうか
答10 法律的にはご指摘のとおりです。
労働基準法、労働安全衛生法等におかれている監督機関に対する申告に関する規定、すなわち、「@この法律に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる(104条1項)。A前項の申告したことを理由として労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない(104条2項)」と規定し、さらに、第2項に違反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科すこととされていますが、最低賃金法には、これらの規定が置かれておりませんでした。
第1項の監督機関へ申告する権利は、最低賃金法違反(5条違反)が、同時に、労基法の賃金不払い違反を伴う関係から訴えの受理自体は行われてきましたが、法制上の不備は明らかでした。
このような労働者の権利規定を欠落させた法制は、最低賃金違反の罰則が2万円以下の微罪扱いであったことなどとあわせ、わが国において最低賃金の問題が占める特別な関係を示しています。
H19年改正(H20.7.1施行)によって、これらの規定が整備されたところです。
問11 支給されている賃金が、最低賃金額以上であるかどうかは、どのようにチェックするのでしょうか、その方法を教えてください
答11 実際に支払われている賃金が、最低賃金額以上であるかどうかを調べるに際しては、(1)最低賃金額に含まれる賃金の範囲の問題、(2)賃金が日額又は月額で決められて支給されている場合の換算方法の2点に注意しなければなりません。
(1) 含まれる賃金の範囲
最低賃金法第4条3項は、次の掲げる賃金は最低賃金に含めないとしています。
@ 臨時の賃金及び1月をこえる期間ごとに支払われる賃金(結婚手当、賞与等)
A 所定時間外労働及び所定休日外の労働に対する賃金、深夜労働に対する割増部分の賃金
B 最低賃金に算入しないこととされている賃金-(*精皆勤手当、家族手当、通勤手当等が指定されているケースが多い)
なお、現物給与や食事等の代金徴収に当たっては、これを適正に評価することを求めています。(最賃則5条)
(2) 賃金が日額又は月額で決められて支給されている場合の換算方法
賃金が日額、月額のように時間額以外によって決められている場合は、これを時間額に換算して判断します。(最賃則2条)
なお、具体的換算例については、次の例を参考にしてください。
@ 日給6000円+通勤手当月額8500円、一日の所定労働時間7.5時間、最低賃金額(時間額)が657円の場合
6000円÷7.5時間=800円、これは657円以上の額であるから最低賃金額を満たしていると判断します(通勤手当は指定除外賃金であるから賃金に含めません)。
A 月給112,000円+通勤手当月額8500円、年間所定労働日数255日、一日の所定労働時間8時間、最低賃金額(時間額)が665円
(112,000円×12か月)÷(255日×8時間)=659円、これは665円以下の額であるから、最低賃金法に違反していると判断します(通勤手当は指定除外賃金であるから賃金に含めません)。
問12 使用者と労働者が内緒で「最低賃金額未満」の賃金で労働契約を結んで働いていた場合は、どうなりますか
答12 「最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。」(最賃法4条2項)の規定が適用され、労使が内密に結んだ労働契約の内容はその効力が否定されること(*)に、注意が必要です。
(*) 適用される最低賃金が665円である地域において、最低賃金額に達しない650円を時間給とする労働契約を締結したケースでは、当事者間約定を650円とする部分が無効とされ、これを665円と定めたものとみなすこととなる訳です。