規制緩和の国の労働事情 −−アメリカ編
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プロローグ(アメリカを見て日本を考える)
アメリカ編
■アメリカ労働事情の特徴
■所得格差の拡大で雇用不安の広がるアメリカ
■米国東海岸のパート事情
■米福祉、リストラの荒野
■雇用多様化、米好況支える
■米産業界、求人難に直面「米企業の経営課題は『顧客』から『従業員』に移る
■求む管理職!「受難の時代」様変わり


プロローグ

米国モデルとは何か!




80年代は「日本的経営」、90年代は「規制緩和・米国モデル」がもてはやされている。いずれも好調な経済を背景としていた。
好調な経済には秘密があるだろうと考えるのは自然だし、どちらにも傾聴すべきものがあったと理解するのが素直であろう。
これだけ経済のグローバル化がすすむと一国の制度の特殊性は経済の弱点ともなりかねない。しかし、それでもなお、生産性の向上はその国民性にあった方法によって最も達成できるのだろう。「日本的経営」が省みられることも久しくなくなり、事実、それが変容を迫られている現実はあるにしても、わが国の「長期安定雇用、優れた人材育成手法」「組織として結果を出す協調型の生産性向上手法」などは、産業の多くの分野で依然その有効性を失わないであろう。

ところで、米国モデルとは何なのだろうか!経済的規制の撤廃、産業構造の転換への対応、先端技術を生み出す力から多くを学ばなければならない。しかし、一方で、彼らは社会・労働政策で見せるべきモデルを提示し得ていない。というより、『富める者がますます富み,貧しいものがますます貧しくなるなかで,米国では中間所得層が消失してしまう危機に瀕している。』。実は、これこそ、回避すべき最大の政策課題なのであるから、むしろアメリカは反面教師の姿を見せているといったとらえ方も重要である。
●アメリカ・イギリスのように賃金格差が大きな社会問題となるなど、国民の不平等感が渦巻く社会
●いつも先の見えない『雇用不安』に苛まれる社会
は、社会・労働政策の敗北を意味する。
日本人の立場から見ているせいなのかも知れないが、国造りのモデルにアメリカの姿を描くには、やはりアメリカは特殊な国に過ぎるように思われる。


★このページでは、アメリカの労働事情を継続的にフォローして見ることにしたい。











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アメリカの労働事情(1997.11まとめ)


1 失業率の低下と雇用者数の増加


近年のアメリカ経済は極めて好調である。92年から95年にかけて失業率が低下。(92年7.5%→95年5.6%)
この間に約730万人の雇用者数の増加があったとされる。
しかし、この雇用者数の増加は、
●賃金水準の低い「医療サービス、人材供給サービス等のサービス業」(374万人)が中心。
●賃金水準の低い「非熟練労働者、派遣労働者、パートタイム労働者」の増加が顕著。
など、「労働市場の流動化」が「良質の雇用機会の創出を図る」というより不安定雇用の創出サイドに働いている点を否定できない。


2 賃金格差の非常に高いアメリカの社会

参考/アメリカは以下のように業種間の賃金格差が極めて高い社会である。
−−1995年3月現在の業種別賃金格差(週当り賃金)−−−−−−−−
鉱業            131.3
建設業           110.7
製造業           100.0(510.83ドル)
運輸公益業         107.6
卸売業            91.1
小売業            42.3
金融保険不動産業       84.9
サービス業          71.6
(内、人材供給サービス)   55.3
(内、医療サービス)     79.1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
資料出所:アメリカ労働省「Empiyment and Earnings」


所得格差の拡大
OECD「Economic Surveys United States 1996」によれば、アメリカは、73年から93年にかけて下位10%の
貧困世帯で所得が21%減少、中間世帯で5%増、上位10%の富裕世帯で22%の所得の増減があった
とされる。

所得別に分けた勤労者の上位10%と下位10%の賃金の格差は過去20年間に、男性の場合が3.6倍から5.25倍へ、女性が3.8倍から4.3倍へそれぞれ拡大している。(国際経済研究所IIE)

所得格差の拡大要因として指摘されているのは、
●労働需要が高技能、高度教育を受けた労働者に有利にシフトしていること。
−−産業社会がコンピュータ革命で技術偏重に変化したため、教育が高く経験を積んだ熟練労働者がそうでない労働者よりも多く必要とされ、当然収入も多くなった。−−
●国際競争、産業の空洞化の影響(NAFTA発効による隣接メキシコとの関係等)
●労働供給の増加(移民の増加等)
−−技術水準も賃金も低い国からの輸入と移民の増大によって非熟練労働者があふれ、相対的所得を押し下げている。−−
●労働組合の弱体化(組織率73年24%→94年15%)
●最低賃金の長期据置き(実質価値が67年に比較して95年では24%低下している。)
●解雇に対する規制がほとんど存在しないこと
●労働市場の流動化が進み過ぎたこと。


3 経済、雇用情勢が良好な中で、なお進む企業のリストラ
−−リストラのターゲットはホワイトカラー、高学歴者に転換−−


経済、雇用指数が良好ななかで、アメリカの企業はなおリストラの継続。最近のリストラでは、高齢者、
ホワイトカラー、高学歴者がリストラのターゲットになっている。
96年2月26日のニューズウィーク誌は「一昔前までは大量解雇は恥ずべきことで、事業の失敗を意味
した。しかし、今日では企業が従業員を解雇すればするほどウォールストリートが喜び、その企業の株価
が上昇する」と述べているようなアメリカの株式市場の特異性もある。


参考/(アメリカの解雇率は80年代不況(3.9%)と90年代不況(3.8%)時で大差がない中で、ブルー
カラー解雇率(7.3→5.2)25歳〜34歳解雇率(5.0→3.8)が低下しているのに対して、ホワイトカラー
解雇率(2.6→3.6)45歳〜54歳解雇率(3.0→3.8)が増加している。
大統領経済諮問委員会「新規雇用と雇用機会」(1996年4月)



4 アメリカの失業事情


●若年者の高失業(10代の失業率80年17.8%→95年17.3%と一貫して高失業率にある。
●黒人・ヒスパックの高失業(96年白人4.7%,黒人10.5%,ヒスパック9.0%)
●ホワイトカラーの失業の高まり
(80年と95年対比における失業者に占める割合)
ブルーカラー  48%→34%
ホワイトカラー 26%→35%
ホワイトカラー失業の増加は、リストラによる管理・専門職の解雇並びに事務職のコンピュータネットワ
ークへの置換えによるところが大きいといわれている。

●失業の長期化(再就職の困難性)
93年〜95年の3年間において、3年以上の長期勤続者の解雇(労働者数)  420万人(アメリカ労働統計局)

この420万人は96年2月時点で、74%が再就職をはたし、13%が失業を継続しているとされる。
再就職の困難性は、女性、高齢者においてより高い。
420万人中270万人がフルタイム職からの解雇され、再びフルタイムに就職したのは220万人(82%)
だが、以前の職より賃金水準が低下した者の数が多いといわれる。







no タイトル アメリカの労働事情
所得格差の拡大で雇用不安の広がるアメリカ  96年4月23日に米国大統領経済諮問委員会は労働省と連名で「新規雇用と雇用機会」と題する報告書を公表した。そこでは,クリントン政権が発足した1993年以降,米国では850万人の新規雇用が創出され,G7諸国のなかで最も高い雇用の伸びが記録されたことが報告されるとともに,「ダイナミックな労働市場は,新規雇用を創出する一方で,一定の雇用を必ず消失させる。失業のコストは甚大で持続的である。ダイナミックな経済の利益をフルに享受するために,我々はそうした調整コストを削減しなければならない」と述べて,解雇を抑制するよりも,失業のコストを減らしていく政策か主張されている。

 米国の失業率は,96年に入って5%台に低下しており,一見,自由な雇用調整を支えるダイナミックな労働市場が,極めて良好な経済パフォーマンスをもたらしているかのように見える。しかし,実際に米国の労働市場で起こっている事態は,これまでリストラの対象になりにくかったホワイトカラーや高齢者,高学歴者にまでリストラの対象が広げられ,失業率の改善とは裏腹に雇用不安が拡大していることである。「新規雇用と雇用機会」の報告書も認めているように,米国でも労働者が解雇されるとその後の賃金低下は避けられない。フルタイムの仕事を解雇されて,別のフルタィムの職についた労働者は平均で10%賃金が低下しており,しかもその賃金低下は再就職後6年経過しても,一向に解消されていないという。

 ただし,米国で発生している雇用不安は,単に賃金低下の危険性だけではない。この他に,重要な二つの変化が現れている。

 第一は,最近の雇用拡大は製造業の復活に支えられているのではなく,比較的労働条件が劣るサービス産業で行われていることである。産業別にみると,労働者派遣事業を含むサービス業や工場直送のアウトレット・モール等を中心とした小売業で雇用が拡大しているのであり,労働者の種類別にみると,賃金の低い非熟練労働者,派遣労働者,パートタィム労働者などが増えているのである。

 第二は,所得格差の大幅な拡大である。96年2月26日の「ニューズウィーク」誌は,“The Hit Man”と題する記事を掲載し,「一昔前まで大量解雇は恥ずべきことで,事業の失敗を意味した。しかし,今日では,企業が従業員を解雇すればするほどウオールストリートが喜び,その企業の株価が上昇する」と述べるとともに,雇用調整を進めるなかで100万ドルから300万ドルという巨額の給与を得ている大企業の社長たちの写真を給与額を明示して一人ひとり紹介している。つまり,米国では,大量解雇は経営改善への努力とみられて株価が上昇し,それに伴って経営者の報酬も大きく上昇するのである。

 こうした「一人勝ち構造」はすでに統計ベースでも明らかになっており,1973年から92年までの米国の年間平均世帯所得の変化を所得階級別にみると,最も所得の高い第X分位が年率0.93%の伸びを示したのに対して,最も所得の低い第T分位は年率0.69%で所得が減少している。富める者がますます富み,貧しいものがますます貧しくなるなかで,米国では中間所得層が消失してしまう危機に瀕している(図3=略)。

 最近,米国の離婚率は低下傾向にあるが,この原因は伝統的家族が復活してきたのではなく,雇用不安に怯える家族が肩を寄せ合っているのだとする説まで噂かれているほどである。

 最近の米国の雇用情勢から少なくとも明らかになることは,雇用調整が容易な労働市場が,「弱肉強食」の結果を確実に生み出しているということである。
三和総合研究所『流動化問題と今後の雇用システムのあり方』(平成8年12月)より。
米国東海岸のパート事情 日本経済新聞H9.10.3夕刊「生活家庭欄」沢田美和子氏

米国東海岸のパート事情

賃金・待遇に不満強く
企業、見直しの機運も

正社員依存を改め、パートや派遣労働者の活用などでリストラに成功した米国企業。半面、パート活用を積極的に進めていた大手運送業UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)では、この夏、全米を揺るがす労働争議が起きるなどひずみも出ている。ニューヨーク在住のジャーナリスト沢田美和子さんに、東海岸のパートの実情を報告してもらった。

「理想像」は一握り
 「今の会社にはとても満足している。会社は私の能力を重視し、必要としたからこそ、パートという私の働き方を理解してくれたのだと思う」
 ワシントンDCにオフィスを置く大手会計事務所のビジネス倫理部。パートのシニアマネジャーとして週に三日働くしレベッカ・ドナヒューさん(32)は話す。
 ドナヒューさんはロースクールを卒業後、非営利団体体や法律事務所に倫理問題の専門家として勤務し、キャリアを積み上げてきた。妊娠七カ月半の時に勤務先からスカウトされたが、面接の時に「仕事もしたいが、子供の養育や家庭も大切」というライフスタイルを主張し、パートを希望した。
 週三日勤務でも、仕事内容や責任はフルタイムの正社員と変わらない。健康保険や失業保険、年金などの福利・厚生も正社員と同じで、入社後にすぐ出産休暇を取った。彼女のケースは理想的なパート勤務と言えるだろう。
 米国では労働時間が週三十五時間未満の労働者をパートと定義している。時給や待遇なとの細かな取り決めは州や職種、必要とされる能力で異なるが、労働省によると一九九六年年のパート労働者は全労働者の一八・ニ%のニ千三百十七万人、約六八%が女性だ。七〇年代初めと比べると二倍に増えた。パート労働者の割合や女性比率は日本とほぼ同じだ。
 小売業やサービス業が就業先として目立ち、一部にはドナヒューさんのような高収入の知的労働者もいる。しかし彼女のように、双方の利害が一致し、高い収入が保証されるケースは極めて珍しく、多くは低賃金に廿んじている。
派遣労働者も同様
 ポートレート写真家を目指すアリアナ・ガレシさん(25)は、生活費を稼ぐため月の半分を一日六時間プリント係や雑用のパートとして現像所で働いている。時給は八ドル。パートの平均時給七ドル五十四セントをわずかに上回るが、フルタイムの平均時給十ドル八十五セントには及ばない。 「でも暗室が無料で使えるので文句は言えない。私はまだ若いから」と肩をすくめる。
 パート労働の人材供給源は、若者、高齢者そして女性。都市部には米国の最低賃金五ドル十五セントを下回る時給で働く移民も多い。
 パートとともに目立つのが派遣労働者の活用だ。勤務条件が厳しいことはパートとほぼ同様だ。
 「健康保険もなく、仕事も不安定。いつも正社員の口がないか探している」と話すのは三十代前半のレジーナ・ミッチェルさん。外資系テレビ局のリサーチャーとして勤務していたが業務内容を変更されたため退職した。現在、フリーのリサーチャーとして働くかたわら、事務員としてニカ所の人材派遣会社に登録している。昨年の収入の三分の二は派遣によるものだが、ごく短期間の仕事以外は受けない。
 「どうして正社員になれないの?と、派遣先の社員に軽んぜられる。大した仕事も与えられず、屈辱的」とミッチェルさん。やりがいのある仕事がしたい、責任ある仕事をする自信もある。彼女の心の中では、こうした声が渦を巻いている。
好景気を支えたが
  ここ六年、米国では好景気が続いた。企業がリストラを進める一方で、パートや派遣労働者を増員したのが原因と言われている。ただ、彼らの賃金や待遇は正社員に比べ、低く据え置かれたまま。 この状況に波紋を投げかけたのがパート労働者たちが正社員化の要求を掲げ、それを認めさせたUPSのストライキだった。 もっとも、労働省のエコノミスト、ジェイ・マイゼンハイマー氏はこうした声は一面にすぎないとみる。「世の中全体に、パートで働く人は何らかの不満を持っているという誤解がある。しかし、正社員になれない不満をもっているのは二に%だけだ」 企業の姿勢に変化も出ている。会計事務所のKPMGピートマーウィックのシニアマネジャーで企業の人事・報酬の専門家メイ椋田さんは「企業は、顧客にこれまで以上にフレキシブルな対応を求められ、パートをその役割に投入するようになる。企業はやっとパートの待遇改善問題に注目し始めたところだ」とみる。
米福祉、リストラの荒野 日本経済新聞平成9年9月2日地球回覧ワシントン支局長 小孫 茂

米福祉、リストラの荒野(好況頼みのカゲで質低下)

 米オハイオ州コロンバス。周辺には本田技研工業をはじめ多くの自動車関連産業が立地し、中間所得層が多い。いつもは静かなこの地方都市の夏が、今年はストライキ騒ぎで過ぎていった。
州専門職がスト
 八月上旬、約四千五百人の州職員が十数年ぶりのストに踏み切った。一般職ではなく、ソーシャルワーカーや医師、看護婦といった福祉・医療の専門職ばかりだ。
 折しも米貨物輸送ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のストライキに全米の関心が集まり、こんな地方のストはほとんどニュースにもならなかった。しかし、職員労組のD・レーガン委員長は「UPSのストが安上がりな一時雇用ばかりを増やす効率経営への抗議だったのに対し、我々は安上がりな福祉や医療のしわ寄せに抗議している。どちらも米経済のカゲの部分だ」という。
 確かに同州の福祉・医療担当専門職の賃金は低いうえに、専門家不足のあおりで残業が多い。州当局は三年間にわたり年率三%の賃上げ案を提示したが、同時に年功俸給の凍結や病欠補助の削減も通告、もはや我慢できないと医師までがピケを張った。
 六年半にも及ぶ景気の長期拡大と記録的な株高で、米国は強さと自信を回復したようにみえる。貧富の差を放置しているとの指摘もあるが、米政府のまとめだと今年五月現在の米国のいわゆる生活保護世帯人口は全人口の四・○%に低下、約三十年ぶりの低水準になった。
 この比率が五%台半ばでピークだった九三年と比べると生活保護人口は百五十万人近く減った。米大統領経済諮問委員会(OEA)の追跡調査によれば、この減少の理由の約四○%は景気回復。好況の持続こそ最大の福祉政策というわけで、それが続く限りはクリントン大統領のいうように「旧来型の福祉という言葉は死語」ともいえる。
強引な削減競争
 しかし、手放しで喜べない裏の事情がある。昨年施行された福祉改革法の影響だ。「福祉より職場を」を合言薬とする同法は、生活保護受給者に短期間での就職を義務付けるなど、いわば自助努力を迫るシステムだ。州など地方当局にもこれまで以上に独自の制度改革権限を与えた。
 これをきっかけにウィスコンシン州ミルウォーキーでは福祉事務所が「雇用センター」と名前を変え、カリフォルニア州の郡部ではソーシャルワーカーが「雇用カウンセラー」となった。モンタナ州当局は銀行と提携、生活保護受給者を雇った企業に無利子融資をする特典も新設した。
 生活保護受給者の雇用確保のアイデアを巡って、州当局間に競争原理も働き始めた。ただ現実には、「担当者が得点を稼ごうと受給者の事情を無視して仕事を押し付け、受給条件も厳しくする強引な福祉削減競争いう面もある」とマサチューセッツ州の当局者は明かす。
 米民間調査では改革法施行後、福祉事務所を訪れた人の二〜三割は条件の厳しさや職探しの強制を嫌って受給をあきらめるという。 そうした安上がり福祉の波が担当者の待遇悪化や人減らしにも及んだ結果がオハイオ州でのストだった。同時に福祉・医療関連の犯罪の増加要因にもなっている。低下した審査体制を突く悪質な業者や担当者が増えた。
不正受給千億ドル
 「医療費補助だけで不正受給額は年間約一千億ドル(約十二兆円)に達する」と米会計検査院は警鐘を鳴らす。日本の特別養護老人ホームや保険診療をめぐる不正事件以上の深刻さだ。そのせいで犯罪防止奨励金や米連邦捜査局(FBI)を動員しての秘密捜査など、不正を防ぐための経費がかさむといういたちごっこも起きている。
 福祉・医療は高齢化の進展と民間委託の増加で今後最も成長する産業といわれる。しかし、長期の景気拡大に頼って、福祉・医療行政の大きな枠組みを変えずに、減らせばいい、働かせればいいといった小手先の改革に終始しているうちに、この新産業の環境は荒廃しつつある。
 「抜本改革の先送りを続けると福祉は死語どころか死に体になる」(米ヘリテージ財団のR・レクター上級研究員)との言葉はもはやジョークではない。
雇用多様化、米好況支える 日本経済新聞H9.6.8

雇用多様化、米好況支える
【リース社員】数年で200万人突破
【契約労働者】シリコンバレーは4割

【ニューヨーク7日=実哲也】米国では雇用形態の多様化が一段と進み、これが好景気と物価安定を支えているとの見方が増えてきた。労務管理を請け負う企業に転籍して働く「リース社員」から企業にプロジェクトごとに雇われる「契約労働者」まで非正社員層は、パートタイム労働者を除いても一千万人台に達している。この仕組みの活用で米企業は余剰人員を抱えずに必要な時に人材を集める「人の無在庫化」を進め、生産性を向上させている。

 米国で今、急成長しているのが従業員リース業界。企業の従業員をまるごと転籍させ、給与の支払いから、年金、保険、税金の管理まで一括して面倒をみる会社だ。従業員にとっては仕事も職場も変わらないが、身分は元々属していた企業に向けて派遣されるリース社員になる。
 リース社員が誕生したのは数年前だが、二百万人を突破した。「労務部門の仕事を一切任せることで、コストが減らせる」(最大手のスタッフリーシング社)点が人気の的だ。
 ハイテク企業を中心に増えているのはインデペンデント・コントラクター(契約労働者)と呼ばれる人たち。その多くはエンジニアやプログラマーなどで、正社員では間に合わない仕事を引き受け、手数料を受け取る。
 ヒューレット・パッカードではこれら非正社員が常時、正社員の一二%前後に相当する割合で働いている。ハイテク産業の中心地シリコンバレーでは非正社員層が雇用者全体の四○%にも及んでいるという。
 人材派遣会社の対象職種も工場労働者から経営幹部、社内弁護士、研究者まで広がっている。パートを除く非正社員の総数は全雇用数の一〇%以上の一千数百万人になった模様。パートも含めると二千数百万人に膨らむ。こうした傾向は米企業がここ数年、アウトソーイング(業務の外部委託)とともに「人の『かんばん方式』を取るようになったことで加速した」とマンパワー社のフロムスティーン会長は指摘する。
 企業は労働コストを抑制しながら、需要動向などの激しい変化に即応するた、正社員を最低限に抑え、必要な時に直ちに外部の人を活用する作戦に切り替えた。 有力エコノミストのA・サイナイ氏は「人材の流動化は労働コストを減らし、生産性上昇を通じて景気拡大を持続させる力になっている。これで新たな雇用が生まれ、失業率を押し下げるという好循環も起きている」と指摘する。

身分保障に不安も
 柔軟な雇用形態は働く側からみると明るい面ばかりではない。昨秋、米連邦控訴裁判所はマイクロソフトに契約労働者として使っている人たちに正社員と同様のストックオプション(自社株購入権)や企業年金を与えるよう求める判決を下した。事実上正社員と同じ仕事をしているのに差別するのは不当と判断した。
 レイオフした人をそのまま契約労働者として使っている企業も多く、「正社員が福利厚生や身分の保証のない立場に転落しているだけ」との批判もある。契約労働者は仕事の発注がなくても失業者の扱いにはならないので、失業統計に表れないか”家内失業”も増えているとみられる。
米産業界求人難に直面

「従業員満足度」競う時代に
日本経済新聞H9.8.17米州総局編集委員 野村裕知

米産業界 求人難に直面
「従業員満足度」競う時代に


 リストラに明け暮れた米企業が一転、求人難に直面している。景気拡大の長期化で労働受給がひっ迫、情報産業では技術者の争奪戦が激化している。「ダウンサイジングからハイアリング(採用)へ」−−この切り替えのスピードの差が、新たな企業間格差をもたらしつつある。
 「コーポレート・キラー」。AT&Tのロバート・アレン会長がこんな批判を浴びたのは昨年春のことだった。好業績下で四万人人員削減を発表。それが雇用不安に気をもむ米政府を刺激、リストラの是非論にまで発展した。
 それから一年あまり。情勢はまさに一変した。ハイテク産業では求人難が深刻化している。情報革命の進展に加えて、コンピューター「西暦二〇〇〇年問題」が重なる。
 サンノゼ・マーキュリー紙によると、コンピューターの学位取得者は八六年の四万二千人から九五年は二万四千人に減少。その一方で、エンジニアの求人は全米で十六万人に達し、学業が芳しくない学生にもリクルーターが殺到する。

反転の早さ、企業間格差生む
 「米企業の経営課題は『顧客』から『従業員』に移る」。 アーサー・アンダーセンの最高経営責任者、リチャード・ミゼール氏は言う。米企業は九〇年代前半まで顧客満足度を重点テーマに掲げたが、これからは「従業員満足度」を競う時代を迎える。
 ストックオプション(自社株購入権)を導入して、意欲ある人材を引きつける報酬体系を作る。医療など福利厚生を整える。賃金改革だけでは十分ではなく、快適な職場環境はもちろん、面白い知的な仕事を提供できない企業はもう人材を集められない。リストラブームに便乗して従業員を冷遇してきた企業はしっペ返しに遭うだろう。
 メディアが暗い「ホワイトカラー・ブルース」を奏でている間に、米の有力企業は素早く雇用戦略を転換している。
 かつてリストラ経営の代名詞だったIBM。九三年に会長に就任したルイス・ガースナー氏は、「リストラの早期終結」を宣言して一気に大規模なな合理化を実施したが、九五年には早くも雇用者数が増勢に転じ、九六年には二万六千人を新規採用した。終身型雇用にこだわった昔の経営陣では、これほど早く反転できなかっただろう。
 一方、AT&Tは強い非難の中で人員削減を強行したものの、新規事業での人員が予想以上に増加し、前年末の従業員数は結局、前年並みだった。アレン氏を非難するとすれば、リストラ継続か反転か、雇用の方向性を明確に示せなかった失政に対してだろう。

 失業率の高止まりが続く日本に米国の例がそのまま当てはまるとは思えない。が、情報産業の力強い雇用創出力や少子化を考えれば、予想を覆すスピードで求人難に直面する可能性はある。いつまでもリストラ経営の残像を引きずっている企業は、反転時期をを逸するかもしれない。
米企業
求む!管理職

「受難の時代」様変わり?
賃金の伸び目立つ
日本経済新聞H10.1.10ニューヨーク実哲也

米企業 求む!管理職 
「受難の時代」様変わり?

 「ホワイトカラー受難の時代」といわれた米国の労働市場に異変が起きている。事業の拡大に動く新興企業を中心に、管理職に対する需要が急増、失業率が2%を割り込むレベルまで低下してきた。賃金面でもホワイトカラー層の伸びの高さが目立っている。
 ニューヨーク市の郊外にある進行画像表示装置メーカー、FEDコーポレーション。ここではIBM出身の管理職が10人近くいる。その一人であるS・ジンマーマン技術部長は「これから生産を本格開始する段階で管理職がまだまだ足りない状況」という。
 労働省の統計によると、管理職・専門職の雇用数は97年12月までの3年間で10.4%増加、全体の伸びの4.8%を大きく上回った。失業率は97年12月で1.9%と過去5年弱で半分近い水準に低下した。
 その背景には「起業ブームに加え、新興企業の事業拡大の動きが著しく、管理職需要が増えている」(プリンストン大学のクルーガー教授)ことがある。大企業では、イーストマン・コダックが1万人以上のレイオフ計画を発表するなど人員削減が続いているが、一方で成長分野の事業を拡張する動きも出ており、管理職の需要が生まれている。例えば、IBMではソフトウエア部門を、AT&Tでは携帯電話部門などをそれぞれ拡大しており、管理職の採用を増やしている。
 90年代前半は伸び悩み気味だった管理職層の賃金も伸びを高めている。労働省が発表している雇用コスト指数によると、ホワイトカラーの賃金は97年10−12月期は年率で5.8%と全体の4.9%を上回った。ストックオプション(自社株購入権)での報酬も含めれば、伸びはさらに拡大する。
 だが「求人の多いのは一般事務の管理職ではなく、専門分野の能力を持った管理職」という声も多い。例えば、研究開発や財務の経験があるマネジャーに対する需要は突出して大きいといわれる。また、業容のフレが大きい振興企業に勤める管理職が増えているだけに、保養の安定度は決して高まっているとは言えないようだ。
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