社内の保険制度
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■社内保険援助制度の採用状況
判例
■本人に無断の団体定期保険(Aグループ保険)は無効−−H9.3.24静岡地裁文化シャッター事件
■(企業受取−死亡保険金制度)ワンポイント解説
続報---その後、和解が成立(文化シャッター事件)/809万5800円+1650万円(保険金の50.3%で)









・社内保険援助制度の採用状況(H8年)
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社内保険援助制度の種類別採用企業割合(付き、保険料の負担状況)

種類/年・企業規模
昭和62年 平成8年 1,000人以上 100〜999人 30〜99人
社内保険援助制度 全企業に対する割合 39.0 51.5 45.8 46.5 53.7
採用企業=100 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
労働者任意加入生命保険 採用割合 6.9 9.2 13.4 10.7 8.5
保険料を全額負担する企業の割合 43.0 69.9 8.6 58.0 78.0
団体定期生命保険 採用割合 62.9 66.0 82.3 70.2 64.0
保険料を全額負担する企業の割合 92.5 94.5 80.2 93.4 95.4
団体信用生命保険 採用割合 4.1 4.0 7.6 3.1 4.2
保険料を全額負担する企業の割合 73.4 81.4 66.3 51.9 90.1
交通傷害保険 採用割合 27.9 30.8 12.1 26.8 32.8
保険料を全額負担する企業の割合 80.4 86.9 65.5 76.5 90.2
災害保険 採用割合 38.3 44.1 20.3 40.7 46.0
保険料を全額負担する企業の割合 90.5 92.8 85.4 90.8 93.6
その他 採用割合 9.2 12.7 10.9 14.7 12.1
保険料を全額負担する企業の割合 75.2 76.3 44.1 59.6 84.4
平成8年賃金労働時間制度等総合調査より、抜粋編集。








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本人に無断の団体定期保険(Aグループ保険)は無効
−−h9.3.24静岡地裁文化シャッター事件



<事件の概要>
Mさん(当時41歳)は、文化シャッター静岡工事センター所長だった1988年6月くも膜下出血で死亡。
同社は遺族には退職金のほかは弔慰金として10万円を支払っていた。しかし、同社はMさんを含む従業員全員を被保険者とし、会社を保険金受取人とする団体定期生命保険を(8社の生命保険会社と)契約したており、Mさんの死亡により団体定期生命保険4,892万円をうけとっていた。
のちに、これを知った遺族が提訴(1992年7月)して争われていた事件。

・遺族は、夫の死で会社が保険金を受け取るのは不当とし、会社が受け取った保険金の全額引き渡しを求めた。
・会社と生命保険会社との間には、団体定期生命保険の締結に当たって「保険契約の趣旨を明記した『書面』が取り交わされ、これには”本契約は会社の福利厚生に基づく給付に充当することを目的に締結されたもので、会社は給付金等の全部又は一部を弔慰金規定に則り支払う金額に充当する”と定めた条項があった。

<判決(結論要旨)>
従業員個々人の具体的同意のない団体定期生命保険契約は、(契約自体が)無効である。
したがって、保険契約が無効である以上、保険会社と被告会社が、それぞれ保険料と保険金を返還する義務を負う。原告(遺族)も保険金を受け取ることはできない。
ポイントとなった従業員の同意に関する争い
−−−同意がなければ無効、、、その余は判断の必要がない




実は、本人の知らないうちに生命保険をかけておいてそれを闇から闇に(他人が)受け取ることはできないのが原則。ちょっとカタカナ混じりで読みにくいが、商法のつぎのような条文があるからだ。

商法第674条(他人の生命の保険)
一、他人ノ死亡ニ因リテ保険金額ノ支払ヲ為スヘキコトヲ定ムル保険契約ハ其者ノ同意アルコトヲ要ス但被保険者カ保険金額ヲ受取ルヘキ者ナルトキハ此限ニ存ラス

判決では「この同意」に関して、つぎのように判示。

1、商法第674条第1項(本文)の趣旨について
この条文は
(イ)この種の保険は一般に被保険者の生命に対する犯罪の発生を誘発する危険性があること。
(ロ)保険契約者ないし保険金受取人が不労所得を得るために利用する危険性があること。
(ハ)一般・社会的倫理として同意を得ずに他人の死亡をいわゆる射幸契約上の条件とすることは、他人の人格を無視し、公序良俗に反するおそれがあること。
などからこれを防止するための趣旨である。

2、(文化シャッターの)従業員各人がその保険契約の存在を知らされていないとするならば、(商法第674条第1項本文)が同意を必要とした趣旨を損ない、公序良俗に反する結果になることは(団体定期生命保険契約であっても)他の場合と少しも異なるところはないので、同意は被保険者個々人の個別具体的なものでなければならない。
同意の有無に関する会社の主張
保険契約締結に際しては、個別同意は得ていないが、団体的同意を得ている。(会社職制−各支社の統括部長による口頭通知によって団体的同意を得ていた。)
この会社の主張に対して判決は、

3、各支社の統括部長からそれ以下の個々の従業員に保険契約を締結することを周知し、これに応ずることを確認することまでが予定されていないので、とうてい商法第674条第1項本文の要求する被保険者の同意とみることはできない。
したがって、本件団体定期生命保険契約は無効である。
その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。







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ワンポイント解説

(1)「会社と保険会社は、それぞれ保険金と保険料を返還し、契約を白紙に戻せ(無効)。遺族も保険金を受け取ることはできない。」という意外性のある判決となったが、保険契約の効力発生要件である従業員の同意があったかどうかは事実認定の問題であり、事件毎に異なるのはやむを得ないだろう。

(2)この判決はむしろ、団体定期生命保険の契約のありかたに影響を与えた。

(3)その意味では、会社を受取人とする死亡保険金の分配を巡って争われたこれまでの判例の流れとは様相を異にするものがある。
これまでは、
『会社が受け取った保険金の全部又は相当部分を、退職金・弔慰金として支払う合意があったことを前提としたものであった。すなわち、団体定期生命保険契約は同意があるから有効(それを前提に)、=遺族に支払う金額は、保険契約の趣旨・目的、支払われた保険金の額、支払った税金の額、保険料の負担状況、従業員の死亡時の給与・貢献度その他諸般の事情を考慮して相当額を決定すべきである』とするものであった。
例えば、
判例1 布目組事件(名古屋地裁、H7.1.24判決) 1、保険金を弔慰金として支払うとの合意があったと認定(このケースでは、「生命保険契約付保に関する規定」なる文書が作成され「付保に合意した被保険者は以下のとおりである。」として原告の夫たる従業員Sの署名押印がなされていた。)
2、会社は保険金1000万円を受領、保険料として80余万円、一時所得税として200万円弱を支払っていたが、遺族には死亡保険金を支払わなかった。
3、1000万円の全額は過大である一方、会社に多額の利得を得させる結果も許されるべきでない。400万円を遺族に支払うのが妥当。
判例2 東京大林計器事件(東京地裁、H7.11.27判決) 1、生命保険金の一定額を死亡退職金または弔慰金として遺族に支払う旨の合意が成立していると認めるのが相当。
2、死亡保険金3000万円のうち相当額は、死亡従業員の勤務状況、貢献度等の諸般の事情を考慮し既払額(1000万円)を除き500万円とするのが相当。
判例3 東映視覚事件(青森地裁弘前支部、H8.4.26判決) 1、本件は他人の生命の保険契約(商法第674条)であるから、当該条項の趣旨は契約自体の規律にとどまらず、受領後の保険金の適正な内部分配等の解釈にあたっても指針となるべきもの。その他諸般の事情を考慮し、社会通念上相当な金額の死亡退職金及び弔慰金を支払うべき契約を成立させるものであったと解するのが相当。
2、(本件のケースは)死亡保険金944万1360円。既払額300万円を控除し、残額644万円余の全額を遺族に支払え。
といった判例である。

(4)同意の在り方については、判例1(布目組事件)のように従業員個々人の同意署名押印のあるケースは、団体定期生命保険の契約自体が無効とされることはないとしても、例えば、労働組合のある企業で、労働組合代表者の一括同意で足りるとするか、あくまで従業員個々人の具体的同意が必要かといった点が問題点として残りそうだ。

(5)もう一つの問題点としては、多くの企業で、就業規則等によって制度内容が周知されていないことがある。他人の生命にかかる保険契約である以上、制度内容のオープン化は最低限必要であろう。
また、死亡保険金の全額を遺族に支払う場合は別として、一部の支払いに限定する以上、『相当額はいくらか』ということが絶えず争点となる。
会社が受領する「死亡保険金」と遺族にわたる「退職金及び死亡弔慰金の合算額」のバランスが、社会通念上許容されるものかといった観点から制度内容に再検討を加えることも大切であろう。

相当額をいくらとするかは、前記判例等を参考に決定すべきであるが、商法第674条の趣旨に照らすとき、制度内容は「遺族への給付を主体としたものであるとの評価」が得られるものにする(=5割以上の遺族給付が下限ラインか)必要があろう。

(6)97年4月から従前の団体定期生命保険(Aグループ保険)は販売停止されている。なお、これに変って出された新商品は、これまでの裁判の争点を踏まえたものとなっているようだ。

(7)新商品への切り替えは、現時点での一つの解決策かも知れない。








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続報−その後1年
保険金の50.3%を遺族に支払−−−文化シャッター事件・和解成立

「会社と保険会社は、それぞれ保険金と保険料を返還し、契約を白紙に戻せ(無効)。遺族も保険金を受け取ることはできない。」という意外性のある判決では、双方とも納まりが悪かったようで、その後、注目の文化シャッター事件は控訴審の東京高裁で和解が成立した。

和解内容は、
(1)会社は、退職金・弔慰金など既に遺族に支払った809万5800円を除き、1,650万円を遺族に追加支払。
(2)原告はその余の請求を放棄する。
(3)訴訟費用は、1・2審とも各自の負担とする。
というもの。和解金額は、文化シャッターが受け取っていた保険金の50.3%に当たる。

和解交渉の前提となったのが次のような会社の釈明文。

文化シャッターが釈明文書
(裁判所へ提出)
1、被控訴人(会社)としては、これまで加入してきた団体定期保険を平成9年8月1日付けで新型商品である総合福祉団体定期保険に加入することとし制度移行しました。
 保険契約は、生命保険会社7社の共同取扱で、商品の仕組みは、企業の弔慰金・死亡退職金・法定外労災補償を保障する主契約のみとしました。
2、控訴人(遺族)らが問題としているヒューマン・ヴァリュー特約は、労働組合の意見を確認したところ、付保について難色を示し、また、遺族の理解が十分得られるかどうか疑問があったので、付保しておりません。
3、なお、保険契約の具体的内容は次のとおりです。
 契約内容
 1,加入範囲   役員、社員(出向者含む)、嘱託者
 2,対象規定   退職金規定、弔慰金規定、法定外労災補償規定
 3,決定基準   職能資格規定の資格(10ランク)ごとにそれぞれ保険金額を設定
 4,周知方法   社内通達、電子メール(掲示板)

解説
A型グループ保険による係争中の事件は、全国に20数件あると言われる。文化シャッター事件の1審判決とその後の東京高裁での和解の成立は、係争中の他の事件への影響大。
多くの係争事案が和解に動きだす公算が強い。いずれにしても、A型グループ保険は事実上の消滅!












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