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[資料番号] 00100
[題  名] 労働者災害補償保険制度の改善について(労災保険制度検討小委員会報告)
[区  分] 労災補償

[内  容]

労働者災害補償保険制度の改善について
              労災保険制度検討小委員会報告

【資料のワンポイント解説】

1.労災保険制度検討小委員会が、平成12年1月18日に労災補償保険審議会に対して行った報告書。
2.報告は、「労働者の健康確保支援の在り方」及び「今後の労働福祉事業の在り方」に関し、次の具体的提言を行っている。
・健康確保支援給付については、両論併記ながら創設の方向
・労災病院及び病院関連施設の統廃合、さらに、休養施設については廃止の方向で検討
・家庭介護等労働者を新たに特別加入の対象に加える方向で検討。

なお、引き続き検討を進めるとしている項目は以下のとおり。
(1) 給付基礎日額の年齢階層別最低・最高限度額については、平成12年度の設定時には限度額の設定方法を改善する方向で検討を行う。

(2) 
労災保険給付と民事損害賠償との間の調整の在り方については、法律の専門家による検討結果を踏まえ、引き続き検討を進める。また、社会保険給付との間の調整の在り方については、老齢厚生年金など他の公的年金の制度改革の動向も勘案しつつ、引き続き検討を行う。

(3) 
未手続事業や「労災かくし」対策、あるいは適用業種区分や労働者性の判断については、労災保険制度を運営する上での基本事項であり、必要に応じて地方機関に対する指導、周知を図り、引き続き適正な実施に努める。

(4) じん肺症患者に発生した肺がんの補償の在り方や障害等級の認定基準については、新たな医学的知見等を踏まえつつ検討を行う。また、はり・灸等の東洋医学の適用の取扱いについては、健康保険制度における取扱いの今後の動向を見守りつつ、必要に応じ対応を図る。

(5) 建設の事業におけるメリット増減率については、建設の事業における平均料率の上昇の可能性にも配慮しつつ、他産業並に拡大することについて検討を行う。

(6) 労災事故が生じた責任は労災事故が発生した時点の事業主集団が負うべきとの観点から、現行の積立方式(充足賦課方式)は引き続き維持する。また、平成元年度からの30年間の計画で積立を行っている過去債務分については、当初予定を相当程度上回る額が積み立てられていることから積立の計画期間を延長すべきとの意見がある一方、保険料負担のさらなる転嫁を避けるため当初の計画を維持すべきとの意見があるため、引き続き検討を深める必要がある。

(7) 
複数の企業と雇用関係を有する、いわゆる「二重就職者」等が増大しているといわれているが、現行の通勤災害保護制度においては、就業の場所と就業の場所との間の移動中の災害については補償の対象となされていない。まずは、行政当局において、その就業実態や災害状況等についての実態を把握することが望まれる。


(資料)


労働者災害補償保険制度の改善について

2000.1.18
労災保険制度検討小委員会




1 労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)は、昭和22年に創設されて以来、度重なる制度改善により、保険給付における給付内容、給付水準の向上が図られるとともに、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者及びその遺族の援護、労働安全衛生の確保並びに適正な労働条件の確保を図るために行う労働福祉事業についても充実が図られてきた。


2 しかしながら、近年の経済社会情勢の変化に伴い、労災保険制度を取り巻く環境も大きく変化していることに対応し、本小委員会としては、次のような考え方により、下記の制度改善を行う必要があるとの結論に至った。


(1) 定期健康診断における有所見率が高まっているなど、健康状態に問題のある労働者が増加している中で、業務による過重負荷により基礎疾患が自然経過を超えて急激に著しく増悪し、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)を発症して死亡又は障害状態に至ったものとして認定された件数は、近年増加傾向にある。脳・心臓疾患は生活習慣病といわれ、偏った生活習慣に起因することが多いが、一方、労働衛生に関するILO/WHO合同委員会により作業関連疾患の一つと位置付けられており、業務に起因するストレスや過重な負荷によるものもある。働き盛りの者の脳・心臓疾患の発症は、本人やその家族はもちろん、企業にとっても重大な問題であり、社会的にも「過労死」として取り上げられ、企業の責任問題や労災認定を巡っての争いなど様々な社会問題を惹起している。今後、労働者の高齢化がさらに進展し、脳・心臓疾患に係る労災請求事案の増加が懸念される中、労働者や企業等に起こり得る甚大な被害の発生を防ぐことの重要性が増している。

 一方、医療の分野においては、予防の重要性が広範に認識されるようになっているが、脳・心臓疾患については、労働安全衛生法で定める定期健康診断により、その発症の原因となる危険因子の存在を事前に把握し、かつ、適切な保健指導により発症を予防することが可能である。

 以上のような状況を踏まえ、業務による過重負荷に伴う脳・心臓疾患の発症の予防を的確に行うため、労災保険制度の法定給付として、労働者について、プライバシーにも配慮しつつどのような健康状態にあるかを把握した上で、事業主が、その状態に応じて就業上の措置を講ずることを促進するような仕組みを創設すべきとの意見があった一方、脳・心臓疾患は基本的に私病であると考えられることから、労災保険制度の法定給付として新たな給付を創設することは適当でなく、今後、脳・心臓疾患の予防対策について、労働安全衛生対策、健康保険制度、労災保険制度などの幅広い分野において検討すべきであるとの意見があった。いずれにしても、こうした幅広い分野の検討の中で、労災保険制度においてどのような取組みができるかについて引き続き検討を進める必要がある。

 なお、仕事や職業生活に強い不安、悩み、ストレスを抱えている労働者が増加していることから、メンタルヘルス対策の重要性が高まっているものと考えられる。しかしながら、メンタルヘルスの問題については、現在、多くの事業場において行われている集団健康診断では、医師との信頼関係の構築に時間を要すること等の問題から、個別の対応の必要な者の把握は難しい。さらに、プライバシーに配慮する必要性が特に高いという問題もある。このため、脳・心臓疾患と同じ仕組みによる対策を講ずるにはなじまない面があり、別途、行政当局において対応策についての検討を行い、速やかな対応が図られることが期待される。



(2) 労働福祉事業については、事業主の努力や労働者の協力による労働災害の減少、第3次産業化の進展等に伴い保険料収入が減少していくことが見込まれる一方、事業の主要な対象である労災年金受給者は増加傾向にあり、このような状況に対応していく必要がある。また、これまで事業の実施状況等についての情報開示は必ずしも十分ではなかったと考えられる。

 このため、これまで以上に各種施策の必要性等を精査し、適正な規模により効率的な事業運営に努めるとともに、透明性を確保する観点から、労働福祉事業の実施について労使の意見を十分に反映したものとするとともに、情報開示を図る等の措置を講ずる必要がある。特に、労働条件確保事業については、目的・効果等の観点から、その範囲が不明確になるおそれがあることから、事業そのものの見直しを行うとともに、事業内容をより明確化すべきと考えられる。

 また、保険料収入等が減少する中で、現行の限度額設定方式については、料率設定の考え方との対応関係が不明確な面もあることから、適正規模による事業の実施、透明性及び安定性の確保の観点から運用面を含めその在り方について検討を行うことが必要である。併せて、未払賃金立替払事業に要する費用については、現在、臨時的に限度額の対象から除外しているが、景気の動向によって所要額が大きく変動すること、政府は立替払いの請求に応じることとされていること等の事業の性格も考慮して、当該取扱いを継続すべきかどうかについて検討を行う必要がある。



(3) 今後、雇用と異なる多様な就業分野の拡大が見込まれる中で、これらの者が安心して働くことのできる条件の整備を図ることの重要性が増している。
 特に、高齢化が進展する中で、介護サービスを担う人材に対する需要が増大するものと考えられるが、家政婦紹介所の紹介等により個人家庭に雇用され介護や家事援助に従事する労働者(以下「家庭介護等労働者」という。)については、労働基準法上の労働者とされておらず、労災保険制度の適用対象とされていない。

 このため、これらの者が安心して働くことのできる条件整備を図る必要性が高まっている。







3 本小委員会においては、過去の審議会における建議において指摘を行った事項と併せて、労使各側から労災保険制度に関連する要望事項の提出を求め、そのうち優先的に検討すべきものとして、以下の事項について対応の在り方の検討を行った。これらの事項については、以下のとおり、さらに検討を深め、あるいは、運用上の対応を図るべきであると考えられる。

 なお、使用者側からは、優先的に検討すべき事項以外の事項についても要望が提出されているところであるが、これらについては、別途の機会において改めて労使各側から要望事項の提出を求めた上で検討を行うことが適当である。


(1) 給付基礎日額の年齢階層別最低・最高限度額については、平成12年度の設定時には限度額の設定方法を改善する方向で検討を行う。


(2) 労災保険給付と民事損害賠償との間の調整の在り方については、法律の専門家による検討結果を踏まえ、引き続き検討を進める。また、社会保険給付との間の調整の在り方については、老齢厚生年金など他の公的年金の制度改革の動向も勘案しつつ、引き続き検討を行う。


(3) 未手続事業や「労災かくし」対策、あるいは適用業種区分や労働者性の判断については、労災保険制度を運営する上での基本事項であり、必要に応じて地方機関に対する指導、周知を図り、引き続き適正な実施に努める。



(4) じん肺症患者に発生した肺がんの補償の在り方や障害等級の認定基準については、新たな医学的知見等を踏まえつつ検討を行う。また、はり・灸等の東洋医学の適用の取扱いについては、健康保険制度における取扱いの今後の動向を見守りつつ、必要に応じ対応を図る。


(5) 建設の事業におけるメリット増減率については、建設の事業における平均料率の上昇の可能性にも配慮しつつ、他産業並に拡大することについて検討を行う。


(6) 労災事故が生じた責任は労災事故が発生した時点の事業主集団が負うべきとの観点から、現行の積立方式(充足賦課方式)は引き続き維持する。また、平成元年度からの30年間の計画で積立を行っている過去債務分については、当初予定を相当程度上回る額が積み立てられていることから積立の計画期間を延長すべきとの意見がある一方、保険料負担のさらなる転嫁を避けるため当初の計画を維持すべきとの意見があるため、引き続き検討を深める必要がある。


(7) 複数の企業と雇用関係を有する、いわゆる「二重就職者」等が増大しているといわれているが、現行の通勤災害保護制度においては、就業の場所と就業の場所との間の移動中の災害については補償の対象となされていない。まずは、行政当局において、その就業実態や災害状況等についての実態を把握することが望まれる。




1 健康確保支援給付(仮称)の創設



 労災保険制度において労働者の健康確保を支援するための措置を創設することについては意見の一致をみたが、その方法については次の二つの意見があった。

 まず、新たに法定給付として「健康確保支援給付」(仮称)を創設すべきであるとの立場からは、具体的には、生活上の要因のほか、業務による過重な負荷があった場合に、脳・心臓疾患を発症しあるいは悪化させ得る危険因子を相当程度有することを疑い得る健康診断結果が出た者に対し、循環器系の異常に関する二次的な健康診断と、その結果に基づき、具体的な予防活動を促進するために有効な医師等による指導(栄養指導、運動指導、生活指導)を実施することが適当であり、また、二次的な健康診断については、その項目を効果的なものに限定して、医師等による指導と一括して給付することが適当であるとの意見が出された。

 次に、労災保険制度の法定給付として新たな給付を創設することは適当でないとの立場からは、当面の措置がやむを得ないものとしてどうしても実施するのであれば労働福祉事業の中で実施すべきであり、その際スクラップアンドビルドにも配慮する必要があるとの意見が出された。

 

  健康確保支援給付(仮称)のスキーム案 (省略)





2 労働福祉事業の在り方の見直し



(1) 事業内容の見直し

 労働福祉事業については、今後とも、労働条件確保事業をはじめとする各事業の内容についてその効果等を十分検討するとともに、必要に応じた見直しを行うこと等により、総事業費の縮減に努める。特に、予算と実績の乖離の大きい事業については、各々の事業の性格を踏まえ事業実績に見合った予算規模に見直す。

 また、労災病院については、勤労者医療の中核的機能を高めるため、労災指定医療機関等との連携システムを含め、その機能再構築を図るとともに、労災病院の設置状況や労災患者の利用実態等を勘案し、病院及び病院関連施設の統廃合を含め検討を行うとともに、引き続き、出資金の縮減、民間への事業委託に努める。

 さらに、休養施設については廃止の方向で検討を行う。


(2) 事業の透明性の確保

 労働福祉事業の透明性を確保する観点から、各事業の実施状況について、定期的に審議会に報告を行うこととするほか労使を含め広く国民に明らかにしていく方策を講ずる。特に、労働条件確保事業については、事業内容を法令上明確にする。



(3) 限度額設定方式の見直し

 保険料収入等を基準とする現在の労働福祉事業の限度額の設定方式については、賃金総額を基準とする限度額設定方式に改めることや、平均料率が低下する中では、保険料収入等に乗ずる係数(現行18/118)について必要に応じて柔軟に改定することを検討すべきであるとの意見があった。また、限度額の法的根拠の在り方について検討を行う。

 なお、平成13年度までの間の臨時的措置として限度額の対象から除外している未払賃金立替払事業については、今後の所要額の状況等を踏まえ、当該取扱いを継続するかどうかについて検討を行う。





3 特別加入制度の対象範囲の拡大


 雇用と異なる多様な就業分野の拡大に対応するため、家庭介護等労働者を新たに特別加入の対象に加える方向で検討を行う。