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[資料番号] 00101
[題  名] 企業組織変更に係る労働関係法制等の在り方について(労働省研究会報告)
[区  分] その他

[内  容]



企業組織変更に係る労働関係法制等の在り方について
企業組織変更に係る労働関係法制等研究会報告(平成12年2月10日)

【資料のワンポイント解説】

1.商法改正案を受けて、@会社分割法 A合併 B営業譲渡 の場合について、それぞれの労働関係法制の在り方について取りまとめられた労働省の標記研究会報告である。
2.@の会社分割法制下では、「部分的包括承継」の考え方を取っていることから、労働契約・労働協約の継承について一定の立法措置が必要との結論を出している。そのポイントは、以下のとおり。
イ.「承継営業を主たる職務とする労働者」のうち承継させる労働者については、従事していた職務と切り離される場合がほとんど想定されない。また、合併と同様に雇用及び労働条件の維持が図られる。また、会社分割の必要性を考慮し、かつ、民法第625条第1項の類推適用がないことを明確にするため、当然に承継されることとすることが適当。

ロ.「承継営業を主たる職務とする労働者」のうち残留させる労働者及び「承継営業を従たる職務とする労働者」のうち承継させる労働者については、異議申立の機会を付与し、異議を述べたときは、それぞれ承継され又は承継されないとする効力を与えることとすることが適当。

ハ.労働組合の組合員が承継された場合は、設立会社等と当該労働組合の間で同一の内容の労働協約が締結されたものとみなすこととすることが適当。

ニ.また、組合事務所の提供等債務的部分であって分担可能なものについては、分割会社と設立会社等の負担割合を定めることができることとすることが必要。

ホ.イ.ロ.の労働者及び労働組合に対して、分割前に分割に関する情報を書面で通知しなければならないものとすることが必要。

ヘ.なお、これらの立法措置を講ずることと併せ、会社分割における労働関係の承継につき、分割に際して労使が留意すべき事項等について法律に基づく指針を策定することも必要。
(以上は、労働省要約の該当個所を転載)
3.なお、「合併」及び「営業譲渡」については、特別の立法措置は不要としている。
4.本報告書を一読しての感想では、「会社分割法制」と「合併」についての研究会報告の結論は、妥当なもののように思われる。
一方、「営業譲渡」について立法措置を不要とする本報告書の結論には多少の疑問がなくもない。
営業譲渡に伴う「労働者の範囲をめぐるトラブル」は多発しているし、「労働者の同意」も、営業譲渡と同時に労働契約の内容変更を行う新規労働契約の提案がなされ、労働者がこれに抗すべき手段を事実上、取り得ないことによって、労働条件の継承がされない問題については、何らかの立法的措置を講ずるとする考え方もあり得たのではないか、と思われる。









第一 はじめに
第二 労使の意見
第三 企業組織変更に係る労働関係法制等の在り方について
 T 会社分割法制について
  1 会社分割法制における権利義務の承継の特徴
  2 会社分割法制における労働契約の承継について
  3 会社分割法制における労働協約の承継について
  4 立法措置の要否等
 U 合併について
  1 合併における権利義務の承継の特徴
  2 合併における労働契約の承継について
  3 合併における労働協約の承継について
  4 立法措置の要否等
 V 営業譲渡について
  1 営業譲渡における権利義務の承継の特徴
  2 営業譲渡における労働契約の承継について
  3 営業譲渡における労働協約の承継について
  4 立法措置の要否等
第四 おわりに

(参考)商法等の一部を改正する法律案の概要


企業組織変更に係る労働関係法制等研究会報告
      

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第一 はじめに


 第145回通常国会における産業活力再生特別措置法案の国会審議において、衆・参両議院の委員会採決の際に、「企業の組織変更が円滑に実施され、かつ、実効あるものとなるためには、従業員の権利義務関係等を明確にする必要があることにかんがみ、労使の意見等を踏まえつつ、企業の組織変更に伴う労働関係上の問題への対応について、法的措置も含め検討を行うこと。」との附帯決議が、それぞれなされた。

 また、先般の臨時国会における民事再生法案の国会審議において、衆・参両議院の委員会採決の際に、「企業組織の再編に伴う労働関係上の問題への対応について、法的措置も含め検討を行うこと。」との附帯決議が、それぞれなされた。

 さらに、企業の組織変更の一形態である会社分割に係る法制の検討を行っていた法務省の法制審議会商法部会において、去る1月21日に、同法制の創設を内容とする「商法等の一部を改正する法律案要綱案」(以下「法律案要綱案」という。)が取りまとめられ、今後、法制審議会から法務大臣への答申を経て、今通常国会に商法等の改正案が提出される予定となっている。

 このような状況を踏まえ、これまで労働省においては、企業の組織変更に伴う労働関係についての判例や事例の収集・分析等を行ってきたが、昨年12月から本問題について、更に専門的に調査研究を進めるため、労働法、商法及び経済学の学識経験者の参集を求め、「企業組織変更に係る労働関係法制等研究会」(以下「研究会」という。)を開催してきた。

 本研究会においては、労使からの意見聴取などを行った上で、本問題について、専門的見地から、必要な立法措置を講ずることも含めた検討を行ってきたが、このたび、検討の結果を取りまとめた。





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第二 労使の意見


  本研究会においては、企業組織変更に係る労働関係法制等に対する労使の考え方を把握するため、労働者側として日本労働組合総連合会から、使用者側として日本経営者団体連盟から、以下のとおり、それぞれ意見を聴取した。



 (1) 労働者側意見の概要


 ・ 営業譲渡、合併、会社分割等の企業組織の再編に際して、労働者の雇用や労働条件の保護を図る必要がある。このため、以下に掲げる事柄を主な内容とする「企業組織等の再編に伴う労働者保護法」(仮称)の制定を求める。



@ 企業組織の再編に際して、労働契約並びに労働契約に基づく権利義務は、原則としてすべて承継されるものとすること。ただし、本人の同意がない場合は、原則として、それまでの契約が継続すること。
A 企業組織の再編を理由とする解雇等は禁止されるものとすること。
B 企業組織の再編に際して、賃金、労働時間などの労働条件は、原則として承継されるものとすること。
C 退職金、年休等の勤続に伴う諸権利や労働債権等について、使用者は連帯して、承継や確保のための措置を講ずること。
D 企業組織の再編に際して、労働協約は従前の水準で維持されるものとすること。
E 過半数労働組合代表をはじめとする労働者代表、労働組合の権利義務は、企業組織の再編に際して、承継されるものとすること。
F 企業組織の再編に際して、事前の労使協議を行うものとすること。
G 労使協議においては、労働者代表に、企業組織の再編に関する情報提供が行われるものとすること。等

 なお、会社分割だけでなく、従来から存在する合併、営業譲渡も含め、労働者保護のための措置が必要であるとするのは、雇用と労働を取り巻く環境が急変してきているためである。つまり、これまでは、営業譲渡等が行われても、社内教育等により従業員の配転活用が図られるなど、雇用の受け皿がある場合もあったが、雇用と労働条件が損なわれるケースも見られた。現在は、企業においては従業員の配転活用を行うゆとりがないこと等を主張し、即戦力を求める風潮が出てきており、産業活力再生特別措置法など企業再編のための法律の制定が続いていることから、これらに対応した労働者保護の必要性が高まっているためである。

 (2) 使用者側意見の概要


 ・ 経済環境に迅速に対応し、国際競争力を維持強化するためには、企業組織の柔軟な改編・再編が不可欠であるが、会社分割法制はこれを可能とするものである。

 ・ 「上記の会社分割に際し、本来、民法第625条が当然適用されるところ、労働契約の承継等に関する法律により、はじめて労働者の個別同意が不要となり、労働契約は原則として当然に承継される。」というのであれば、このような法律は会社分割を簡易・迅速にするものとして理解できる。

 ・ しかしながら、仮にこのような考え方に基づき労働関係の承継等について立法措置が講ぜられる場合であっても、会社分割に際しての労使合意に基づく労働条件の不利益変更、雇用調整及び事前の配置転換等を阻害するようなものではなく、これまでに確立した判例法理に影響を与えるものでないことが必要である。

 ・ また、一定の範囲の労働者の意向を反映するための措置を講ずるとする場合には、意向を反映させなかったことにより、会社分割自体は無効とならないような措置とすべきである。

 ・ さらに、その立法の適用範囲は、会社分割に限られ、営業譲渡、合併等に適用ないし類推適用されないものとすることが必要である。

 ・ また、会社分割と営業譲渡は、前者が組織法的な行為であり、後者が取引法的な行為であるという差異はあるが、実態としては類似したものと理解しており、営業譲渡においては、残留する労働者については同意が不要であるということにかんがみれば、会社分割において本人の意向を反映すべき労働者に、残留する労働者を含めることには疑問がある。仮に、この点について十分な立法事実があり、このような措置を講ずる場合には、対象労働者を可能な限り明確なものとすることを要望する。

 ・ なお、会社分割に際しては、その円滑な実施のため、実際上、労使自治により、使用者が労働者に事前に情報提供を行うものと思われるが、その時期について、仮に法律により使用者に通知が義務づけられるのであれば、情報漏洩の危険等も考慮し、株主総会招集通知発送時と同時期に設定されることを要望する。


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第三 企業組織変更に係る労働関係法制等の在り方について


 本研究会においては、企業組織変更の主要な形態である会社分割、合併及び営業譲渡に係る労働関係法制上の主たる問題として、労働契約及び労働協約の承継について検討を行った。

 その際、企業組織変更が行われる目的等を尊重しつつ、労働者の保護と労働関係承継のルールの明確化を図ることができるよう、企業組織変更に係る労働関係上の問題点やその解消のための立法措置の必要性の有無について、上記の労使の意見や裁判例、外国法制等を踏まえつつ検討を行った。


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   T 会社分割法制について




1 会社分割法制における権利義務の承継の特徴


 前述したとおり、会社分割法制については、去る1月21日に、法務省の法制審議会商法部会において、法律案要綱案が取りまとめられ、今通常国会に商法等の改正案が提出される予定となっている。

 法律案要綱案においては、次のとおり制度設計がなされている。

(1) 会社分割法制は、営業の全部又は一部を承継させる制度であり、企業再編のための法整備の一環として創設されるものである。同法制においては、円滑・容易な会社分割の必要性等にかんがみ、対象となる営業の全部又は一部を構成する権利義務(契約上の地位を含む。)の承継については、いわゆる部分的包括承継、つまり当然承継であって部分的承継という概念が導入されている。

 (注) 会社分割法制において包括的に承継される権利義務とは、会社分割により承継させる営業の全部又は一部(以下「承継営業」という。)を構成するものである。したがって、「承継営業」を構成しない権利義務は、同法制の対象外であり、仮に分割計画書又は分割契約書(以下「分割計画書等」という。)に記載したとしても包括承継の効力は生じず、承継させるためには別途契約行為等を必要とする。



(2) 分割計画書等に記載された権利義務は分割会社から設立会社又は承継会社(以下「設立会社等」という。)に包括的(一括して法律上当然)に承継されるものであり、権利義務の承継を行うに際しては、債権者の同意を得ること等承継のための特段の行為をする必要はないとされている。
 ただし、債権者、株主については、債権者保護手続、株主総会における特別決議や分割無効の訴えの手続等が用意されており、分割手続の円滑な進行との調和を図りつつ、権利の保護が図られている。


(3) 労働関係の権利義務(契約上の地位を含む。)は、特に明文の規定はないが、会社分割法制における権利義務の範囲に含まれるとされている。また、同法制上、「承継営業」を構成する労働関係の権利義務は、他の継続的契約関係に基づく権利義務と同様、分割計画書等に記載された権利義務については、分割会社から設立会社等に包括的に承継され、記載されなかった権利義務は承継の対象とならないとされている。

 もっとも、既往の労働に対する賃金債権や退職金(一時金及び年金)債権、社内預金債権等を有する労働者については、債権者として、債権者保護手続、分割無効の訴えの手続が用意されている。





2 会社分割法制における労働契約の承継について


(1) 労働契約の承継について

 労働契約については、13に記載したとおり、権利義務として分割計画書等に承継する旨が記載されたときは、その記載に従い当然に承継される。このとき、労働者としての地位及び契約内容(労働条件を含む。)がともに承継されると解される。また、個々の労働契約を全体として承継させ又はさせないとすることしかできず、その契約の一部(賃金や労働時間など個々の契約内容の一部)だけを取り出して承継させることはできないとされている。
 なお、分割計画書等の作成と並行して、別途労働者の個別の同意を得て労働契約の内容を、会社分割の効力発生を停止条件とするなどにより、会社分割の効力発生時に合わせて効力が生ずるように変更する契約が締結された場合は、会社分割の効力発生と同時に労働契約の内容が変更される。しかし、この契約は、あくまで分割とは別個の法律行為である。


(2) 会社分割法制における労働契約の承継の問題点等


 @ 会社分割法制においては、権利義務の承継について、部分的包括承継とする構成を採用しようとしていることから、労働契約の承継について労働者の同意を必要としないこととなる。
 また、同法制においては、「承継営業」を構成する範囲内においては、分割会社の意思(吸収分割の場合には分割会社及び承継会社の間の合意)のみにより会社があらかじめ分割計画書等に記載する権利義務を選択することができることから、承継される労働者の範囲をも労働者の意思とは無関係に定め得ることとなる。
 このため、同法制においては、会社の意思のみにより、労働契約の承継を望まない労働者が承継されること(以下「承継される不利益」という。)と労働契約の承継を望む労働者が承継されないこと(以下「承継されない不利益」という。)が一部の労働者に生ずる場合が想定される。


 A 会社分割法制においては、分割計画書等により承継される労働者の範囲を会社の意思のみで定め得ることから、「承継営業」に分割計画書等の作成時において従事している労働者が、分割計画書等の記載から除外されることにより、設立会社等へ承継されないという場合が想定される。また、「承継営業」への従事がその労働の一部しか占めておらず、「承継営業」以外の営業に主として従事する労働者(以下「承継営業を従たる職務とする労働者」という。)については、その労働契約が設立会社等に承継される場合が想定される。このように、労働者によっては、分割計画書等の作成前に従事していた職務の全部又は大部分と切り離されて分割会社に残留させられ、又は職務の大部分と切り離されて設立会社等に承継させられる場合が生じ得る。


 B 会社分割法制における労働契約の承継については、部分的包括承継とされており、労働関係上特段の法的措置を講じない場合には、当該労働者の同意なく承継できる法制とされているが、この法制に係る裁判上の解釈として、事例によっては実態としての営業譲渡との類似性から、民法第625条第1項(使用者がその労働契約を譲渡するに際して労働者の同意を必要としている。)が類推適用される可能性は否定できない。このため、労働契約の承継をめぐって、関係者に混乱が生ずるおそれがある。


 以上の点から、格別の立法措置を講じない場合には、会社分割法制は、労働契約の承継について労働者の保護や労働関係承継のルールの明確化に欠けることとなるのではないかと考えられる。





3 会社分割法制における労働協約の承継について


(1) 労働協約の承継について


 労働協約の法的性質については、いまだ議論があり、また、労働協約の権利義務については他の権利義務と異なる性質を有する面も見られ、他の権利義務と同様に分割計画書等に記載できるか否かは疑義がある。「承継営業」のみに適用される労働協約について、契約の一種として他の権利義務と同様に分割計画書等に記載できると解した場合、記載することによって規範的部分(労働条件その他の労働者の待遇に関する基準)と債務的部分(規範的部分以外で、例えば、ショップ条項、団体交渉及び労使協議のルールの条項等)の双方にわたって一体として設立会社等に包括的に承継される。
 なお、21に記載したとおり、労働契約が承継されるときは労働契約内容も承継されると解されるため、労働協約の規範的部分に係る内容は、労働契約内容に入り込むかこれを外部から規律するかという法律構成を問わず、労働協約が承継されない場合であっても実質的な労働契約内容として当然に承継されると解される。


(2) 労働組合の組織変更があった場合について

 会社分割と同時に設立会社等において労働組合の組織変更が行われた場合には、労働協約が分割会社から設立会社等に承継されたとしても、設立会社等との間に効力を有するか否かは、組織変更が実体において同一性の変更を伴うか否かという労働組合法や判例の解釈によることとなると解される。



(3) 法により効力発生要件が定められている場合の労働協約の承継について労働組合法第17条に規定する労働協約の一般的拘束力、ユニオン・ショップ協定及び労働基準法に定められている労使協定である労働協約については、組織状況を効力発生要件としていることから、その扱いについては以下のとおりと解される。

 @ 労働組合法第17条に規定する労働協約の一般的拘束力及びユニオン・ショップ協定の有効性については、設立会社等の事業場における労働組合の組織状況に従うこととなる。

 A 労働基準法上の労使協定については、たとえ、労働協約として承継されるとしても、労働基準法上の免罰効については、設立会社等の事業場における労働組合の組織状況に従うこととなる。




(4) 会社分割法制における労働協約の承継の問題点等


 3(1)に記載したとおり、労働協約を他の権利義務と同様に分割計画書等に記載できるものと解することについては疑義があるが、記載することができるものと解したとしても以下のとおり問題点が存在する。


 @ 会社が分割計画書等へ特定の労働者の労働契約のみを記載し、労働協約を記載しなければ、前者は承継させるが、後者は承継させないとすることが可能となる。そこで、当該労働者が当該労働協約を締結した労働組合の組合員であり続ける場合は、労使関係の中で労働者が獲得してきた権利を失い、例えば、労働協約の規範的部分に係る内容について実質的な労働契約内容として承継された場合であっても、設立会社等において、就業規則を変更することにより、会社の意思のみで労働条件等を変更することが可能となるなど、労働者が不利益を被るおそれが大きい。


 A また、労働協約は一つの営業に限らず複数の営業又は企業全体に適用されるものがあるが、会社分割法制における権利義務と解し、分割計画書等に記載された場合には当然承継されるとしたときは、労働協約が設立会社等に対してのみ適用され、分割会社においては、労働組合員が存在する場合であっても労働協約の適用がなくなるという不合理な結果となる。


 B さらに、労働協約については、その適用下にある組合員の一部は分割会社に残留し、一部は設立会社等へ承継されるという事態も十分に想定され、その場合には、組合事務所の提供等について、分割会社と設立会社等との間で、権利義務を分担することが適当である場合がある。しかし、一つの労働協約の権利義務の一部だけを承継させることは会社分割法制上可能でない。


 以上のとおり、労働協約については他の権利義務と同様に分割計画書等に記載することが可能かという点に疑義があるため、その明確化を図ることが必要である。また、分割計画書等への記載を可能と解した場合であっても、会社分割法制上の手続において他の権利義務と同様の取扱いをすることには問題がある。





4 立法措置の要否等


(1) 基本的考え方

 会社分割法制における労働契約及び労働協約の承継については、前述の問題点が存在していることから、その解消を図ることが必要である。しかし、一方では、同法制においては、円滑・容易な会社分割の必要性等にかんがみて、権利義務の承継について、部分的包括承継とする法制が採用されようとしていることを尊重することも必要である。



(2) 労働契約の承継に係る立法措置について

 (1)の基本的考え方を踏まえると、会社分割法制における労働契約の承継については、「承継営業」に専ら又は主として従事する労働者(以下「承継営業を主たる職務とする労働者」という。)の労働契約については、分割計画書等に承継する旨記載された場合には、当然に承継されることとし、「承継営業を主たる職務とする労働者」で労働契約が承継されないこととされた者及び「承継営業を従たる職務とする労働者」で設立会社等に労働契約が承継されることとされた者については、労働者本人の意向を反映させるための立法措置を講ずることが適当である。

 なお、労働者本人の意向を反映させるための措置としては、当該労働者に一定期間、異議申立の機会を付与し、異議を述べたときは、分割計画書等にかかわらず、「承継営業を主たる職務とする労働者」で労働契約が承継されないこととされた者については承継され、また、「承継営業を従たる職務とする労働者」で設立会社等に労働契約が承継されることとされた者については承継されないとする効力を与えることが必要である。

 さらに、異議を述べる機会を与える等のため、分割会社は、当然に承継される労働者も含めこれらの労働者に対し、分割前に分割に関する情報を書面で通知しなければならないとすることも必要である。





 このような措置を講ずべき理由は、以下のとおりである。

 @ 「承継営業を主たる職務とする労働者」であって労働契約が承継されることとされた者について「承継営業を主たる職務とする労働者」であって労働契約が承継されることとされた者については、「承継営業」が承継されるため、従事していた職務と切り離される場合がほとんど想定されない。また、合併と同様に雇用及び労働条件の維持が図られる。一方で、円滑・容易な会社分割の必要性が要請されていることを併せかんがみれば、当然に承継されることとする法制をあえて修正する必要はない。そこで、会社分割法制における当然承継のルールを明確にするとともに、このルールとは両立しない民法第625条第1項の適用(類推適用を含む。)がないことを確認すべく、この点を法律上規定することが適当である。



 A 「承継営業を主たる職務とする労働者」であって労働契約が承継されないこととされた者について

  イ 会社分割法制によれば、労働契約の承継については、「承継営業」を構成する範囲内で、会社の意思のみにより承継される労働者と承継されない労働者の範囲を定めることができる。したがって、同法制には労働者に「承継される不利益」と「承継されない不利益」が生ずることが想定されるが、労働契約の承継又は非承継に関するこのような会社の権限の存在は、労働契約が包括的に承継されることにより「承継されない不利益」が生じない合併や、民法第625条第1項により労働者の同意が必要とされることにより「承継される不利益」が生じない営業譲渡と比較して、労働関係の取扱いにおいてバランスを欠くこととなる。


  ロ 会社分割法制における権利義務が包括承継とされる根拠は「承継営業」を単位として一括して承継されることとされているためであり、労働契約の承継においても「承継営業」を単位として原則として一括して承継されることが想定されている。労働契約の承継に係る労働者の利益状況の在り方については、包括承継という同じ法律構成を採る合併との整合性を重視すべきであり、「承継されない不利益」が生ずる場合があり、また、従事していた職務と切り離されることから、一定期間、異議申立の機会を付与し、本人の意向に反する場合は承継されるとすることが必要である。


  ハ なお、一定期間、異議申立の機会を付与する労働者の範囲を、労働契約上、職種、勤務地等が限定され、残留した場合、それらの変更の必要に迫られる者等に限るべきとする考え方もある。しかし、このように個々の労働契約の解釈によって個別に異議申立の機会を付与するか否かを判断することとすると、その労働契約の解釈は、分割会社及びその他の利害関係者にとって明確でなく、円滑・容易な会社分割を阻害することとなる。そこで、「承継営業を主たる職務とする労働者」で労働契約が承継されないこととされた者という客観的に確定できる者に対して、一律に一定期間、異議申立の機会を付与することが適当である。



 B 「承継営業を従たる職務とする労働者」であって労働契約が承継されることとされた者について

 「承継営業を従たる職務とする労働者」であって労働契約が承継されることとされた者については、会社の意思のみで承継されることによる「承継される不利益」が生ずる場合があり、また、当該労働者が主として従事していた職務と切り離されることから、一定期間、異議申立の機会を付与し、本人の意向を反映させることが必要である。

 なお、「承継営業」に全く従事しない労働者の場合には、会社分割法制の効果として承継されることがないため、労働関係の移転には、民法第625条第1項が適用され、労働者の同意が必要となる。




(3) 労働協約の承継に係る立法措置について

 (1)の基本的考え方を踏まえると、会社分割法制における労働協約の承継については、分割会社と労働組合の間に労働協約が締結されている場合、労働契約が承継された労働者が当該労働組合の組合員であるときには、当該労働協約は、設立会社等と当該労働組合の間で同一の内容で締結されたものとみなす立法措置を講ずることが適当である。

 しかし、労働協約の債務的部分の承継については、@組合員の範囲、Aショップ条項、B団体交渉及び労使協議のルール、C組合事務所その他便宜供与、D組合専従者等の種々の条項がある。前述のような立法措置を講じた場合、これらのうち、複数の組合事務所の設置を定めた条項など分割会社及び設立会社等の間で分担することが適当と考えられる場合についても、両社が併存的に義務を負うこととなる。このため、債務的部分であって、分担の可能なものについては、分割会社と設立会社等の間の負担割合を分割計画書等で定めることができるようにすることが必要である。

 なお、分割会社における労働協約の適用対象である組合員の労働契約が承継されることやそれにより法により効力発生要件が定められている一般的拘束力等が失効する可能性があることを考慮すれば、労働組合員の承継に関し労働協約の締結主体として利害を有する労働組合が、団体交渉等によって、労働協約の適用対象の変動や分割に際しての労働条件の変更等につき関与する契機を与えるため、分割会社は、事前に労働組合に対して分割に関する情報を書面で通知しなければならないとすることも必要である。



(4) その他

 以上述べたような立法措置を講ずることと併せ、会社分割における労働関係の承継につき、実務において適切な処理を行うことができるよう、会社分割に際して、労使が留意すべき事項や実施することが望まれる事項等について、法律に基づく指針を策定することも必要である。


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   U 合併について



1 合併における権利義務の承継の特徴

 合併においては、合併の効力発生のときに現に存在する解散会社のすべての権利義務は、存続会社又は新設会社に包括的に承継される(商法第103条(合名会社)、商法第147条(合資会社)、商法第416条第1項(株式会社)、有限会社法第63条(有限会社))。




2 合併における労働契約の承継について

(1) 労働契約の承継について

 合併においては、合併の効力発生のときに現に存在する解散会社のすべての権利義務が存続会社又は新設会社に包括的に承継されるため、解散会社の全労働者の労働契約上の地位と内容(労働条件を含む。)は存続会社又は新設会社に包括的に承継される。また、民法第625条第1項の適用が排され、承継に際し、労働者の個別の同意は不要である。裁判例や学説も同様の考え方に立っている。

 なお、合併契約の締結と並行して、別途労働者の個別の同意を得て労働契約を、合併の効力発生を停止条件とするなどにより、合併の効力発生時に合わせて効力が生ずるように変更する契約が締結された場合は、合併の効力発生と同時に労働契約の内容が変更される。しかし、この契約は、あくまで合併とは別個の法律行為である。


(2) 合併における労働契約の承継の問題点等

 合併においては、民法第625条第1項の適用が排されるため、本人の意向にかかわらず、すべての労働者が承継される。しかしながら、合併に際しては、元の会社が消滅するため、存続会社又は新設会社にしか労働者の雇用を求めることができず、雇用継続の観点を考慮すれば、実質的には「承継される不利益」が生ずる場合はほとんど想定されない。

 また、すべての権利義務が包括的に承継されることから、消滅会社の全労働者の労働契約も承継されるため、「承継されない不利益」が生ずる場合は想定されない。

 さらに、営業や労働契約を含めすべての権利義務が包括的に承継されることから、労働者において、これまで従事していた職務に継続して従事することが十分可能であるため、個々の労働者が従事していた職務と切り離されてしまう等の事態が起こる場合はほとんど想定されない。

 以上のとおり、合併それ自体によっては、労働者に不利益が生ずる場合はほとんど想定されない。




3 合併における労働協約の承継について

 合併においては、すべての権利義務が包括的に承継されるため、解散会社の労働協約はその内容を維持したまま存続会社又は新設会社に承継されるので、労働者にとって不利益が生ずる場合は想定されない。また、合併においては、このように解散会社の労働協約が承継されるため、存続会社や他の解散会社に労働協約が締結されている場合は、存続会社又は新設会社に2以上の労働協約が併存することとなると解され、実務においても、このような事例はしばしば見られるところである。




4 立法措置の要否等

 合併に伴う労働関係の承継については、包括的に承継されることが現行法制において明確であり、かつ、2、3に記載したとおり、労働者に不利益が生ずる場合はほとんど想定されないため、立法措置を講ずることは不要である。


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   V 営業譲渡について



1 営業譲渡における権利義務の承継の特徴

 営業譲渡においては、権利義務の承継の法的性格は特定承継(営業の譲渡が個々の権利義務の個別的な合意による移転の総和として行われるもの)であり、権利義務は、譲渡会社と譲受会社の間の合意に加え、債務の移転について債権者の同意等を必要とする等、法律や契約に定められている譲渡の手続を経た上で個別に承継される。





2 営業譲渡における労働契約の承継について

(1) 労働契約の承継について

 営業譲渡においては、労働契約の承継の法的性格も他の権利義務と同様に特定承継である。したがって、労働契約の承継については、譲渡会社と譲受会社間の個別の合意が必要とされるとともに、労務者の権利義務の一身専属性を定めた民法第625条第1項が適用され、承継には労働者の個別の同意が必要である。また、特定の労働契約を譲渡する以上、契約内容(労働条件を含む。)もそのまま承継されると解される。

 最近の裁判例や労働法の学説も営業譲渡の性格を特定承継と解して、労働契約の承継については、譲渡会社と譲受会社間の合意と労働者の同意を必要とする考え方が主流である。

 なお、裁判例においては、労働契約の承継について、譲渡会社と譲受会社間の合意や労働者の同意を必要としつつも、営業譲渡に際して特定の労働者の労働契約が承継の対象に含まれていなかった事案においては、明示の合意はなくとも、事業の同一性がある等個々の事案の解決の妥当性を図る観点から労働契約の承継を認めるべきと考えられる場合については、黙示の合意の推認や法人格の否認の法理等を用いることにより、おおむね具体的妥当な解決が図られている。

 また、営業譲渡の実際の処理においても労働者の同意を要することを前提として、手続が進められる場合が多いことが認められる。

 また、営業譲渡契約が締結される際に、民法第625条第1項による労働契約の譲渡に際しての労働者の同意と併せて、別途営業譲渡及び労働契約の譲渡の効力発生時に合わせ効力が生ずるよう、労働者と譲渡会社又は譲受会社との間で労働契約内容の変更を行う契約が締結されることがあり得る。この場合は、営業譲渡及び労働契約の譲渡と同時に労働契約内容が変更される。

 しかし、この契約は、あくまで労働契約の譲渡についての労働者の同意とは別個の法律行為である。

 なお、実際は労働契約の譲渡及び労働契約内容の変更についての労働者の同意は同時に求められ、その際には、労働契約内容の変更についての労働者の同意が得られることを、譲渡会社と譲受会社間の合意において労働契約譲渡の効力発生の条件としたものが多いと思われる。この場合には、労働者が労働契約の譲渡についてのみ同意を与えても労働契約は譲渡されず、労働契約内容も変更されないと解される。


(2) 営業譲渡における労働契約の承継の問題点等

 労働契約の承継については、民法第625条第1項が適用され、労働者の個別の同意を必要とすることから、「承継される不利益」が生ずる場合は想定されない。

 一方、譲渡される労働者の範囲は譲渡会社と譲受会社間の合意により画されることから、会社の意思のみにより、特定の労働者の労働契約を譲渡対象としないことが可能であるため、労働者によっては、「承継されない不利益」が生ずる場合が想定される。

 また、これらの労働者については、従事していた職務が存在しなくなる可能性があるため、個々の労働者が従事していた職務と切り離される場合が想定される。





3 営業譲渡における労働協約の承継について


(1) 労働協約の承継について

 営業譲渡は、労働協約の承継についても、その法的性格は特定承継である。したがって、労働協約の譲渡には、譲渡会社と譲受会社間の合意とともに、譲渡会社と労働組合間の契約として当該労働組合の同意を要すると解される。この場合、書面作成、署名又は記名押印という法定の効力発生要件を欠くこととなれば、労働協約としての効力は発生しないことになると解される。なお、労働契約が承継されるときは契約内容も承継されると解されるため、労働協約の規範的部分に係る内容は、労働契約内容に入り込むかこれを外部から規律するかという法律構成を問わず、労働協約が承継されない場合であっても実質的な労働契約内容として当然に承継されると解される。

 裁判例は、労働協約の承継に関するものは少なく、一定の傾向を見いだすことはできない。

 学説についても、労働協約の承継に関するものは少なく、「営業譲渡の場合には、・・・・・・労働契約そのものが当然に譲受人に引き継がれるものではないから、とくに労働契約関係の引き継ぎが協定されない限り、労働協約は当然に失効するものである。」とするもの(石井照久「新版労働法」)がある程度である。


(2) 営業譲渡における労働協約の承継の問題点等

 営業譲渡においては、特定の労働者の労働契約は譲渡されるが、労働組合の意思にかかわらず、譲渡会社と譲受会社の合意のみにより労働協約が譲渡されないことが起こり得る。

 しかし、前述のとおり、労働契約の譲渡については、基本的に労働者の同意が必要であることが明確であるため、多くの場合には、労働者には、労働協約が譲渡されるかどうかを含め、自らの労働条件についての利益を考慮することが可能である。さらに、労働契約が譲渡される場合は、労働協約の規範的部分に係る内容が実質的な労働契約の内容として承継されると解されることから、労働協約が承継されないことによる不利益は小さい。





4 立法措置の要否等

(1) 営業譲渡における権利義務の移転については、2(1)に記載したとおり、特定承継であり、かつ、労働者の同意を必要とする。また、裁判例を見れば、営業譲渡が多様な内容と紛争形態で争われているため、その判旨は、一見、複雑多様であるが、これを仔細に検討すれば、近年においては、特定承継の基本ルールに則りつつ、譲渡会社と譲受会社間の黙示の合意の推認や法人格の否認の法理等を用いることにより、個別的な事案に即して具体的に妥当な解決を図っていると見ることができる。

 したがって、労働関係における基本的ルールの明確化や個別事案の柔軟な解決という観点からは、現時点において立法の必要性は認めがたい。


(2) また、労働協約についても、32に記載したとおり、労働協約が承継されないことについて、立法による手当をする必要性は認めがたい。


(3) さらに、「承継されない不利益」が生ずる場合が想定されること、個々の労働者が従事していた職務と切り離される場合が想定されること及び労働契約が承継されて労働協約が承継されない場合が想定されることなどに対応して、労働契約及び労働協約について、当然に承継することとする立法措置を講ずることについては、以下の点から現時点においては疑問といわざるを得ない。

 @ 営業譲渡における権利義務の承継の法的性格が特定承継であることと相反するものであり、また、当然承継としつつ労働者に拒否権を付与するとすれば、他の権利義務との均衡を失するばかりでなく、労働関係の取扱いにおいても一貫性を欠くこととなること。
 一方、営業譲渡がなされた場合は単に当然承継され、拒否権を認めないこととすれば、譲受企業の状況によって、「承継される不利益」が生ずる可能性があり、このような法制は労働者側にとって必ずしも有利とはいえないこと。

 A 営業譲渡が資本・株式の面でつながりのない会社へ譲渡されることが相当あることを考慮すると、営業譲渡契約の成立に重大な支障を及ぼすこととなる。また、労働契約を当然に承継することを義務づけることは、譲受会社の採用の自由を制約し、営業譲渡を行う目的の大きな一つである企業の再編成を制約しすぎることとなる可能性があり、営業譲渡後の企業活動に重大な制約を加えることとなること。

 B 商法上の営業譲渡に限定してこのような立法措置を設けることとした場合にも、立法の趣旨・目的からして、例えばノウハウ等を含まない生産設備等の売買や商法上の営業以外の事業の譲渡や新規の業務委託等についても準用ないし類推適用される可能性も否定できない。そのような場合、各種事業活動や労働関係に大きな影響を与えるとともに、相当の法的不安定を招来するおそれが大きいこと。

 以上を総合すると、営業譲渡に伴う労働関係の承継については、現時点においては立法措置を講ずることは不要である。



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第四 おわりに



   以上のとおり、企業組織変更に係る労働関係法制等の在り方について、労働契約及び労働協約の承継の問題を中心に検討を行ったものであるが、合併、営業譲渡については、現時点において立法措置を講ずることは不要であるとの結論が得られた。

   一方、会社分割法制については、労働契約の承継等について、同法制の目的を尊重しつつ、労働者保護の観点とともに労働関係承継のルールの明確化を図るための立法措置を併せて講ずることが必要であるとの結論に達した。

   このため、今通常国会において、同法制の創設を内容とする商法等の改正案が提出される予定となっていることから、労働契約等の承継についても商法等と一体となった立法措置が講ぜられることが適切である。

   この報告を受けて、関係者において、所要の立法措置等を講ずることにより、この報告にある諸課題に適切に対応することが望まれる。

   なお、本報告書は、法律案要綱案を前提として作成したものであり、今後、同法律案の内容等が変更された場合には、本報告書の内容と齟齬が生ずる可能性があり、その場合は、本報告書の結論に必要な修正を加えることが適当である。








企業組織変更に係る労働関係法制等研究会参集者




  
荒木 尚志  東京大学法学部助教授
小田切広之  一橋大学大学院経済学研究科教授
落合 誠一  東京大学法学部教授
菅野 和夫  東京大学法学部教授(座長)
安枝 英、  同志社大学法学部教授
山川 隆一  筑波大学社会科学系教授


   ※ 各参集者の順序は50音順である。









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(参考)



 商法等の一部を改正する法律案の概要

 会社が、その組織の再編成を容易に行い得るようにするため、その営業を新たに設立する会社又は既存の会社に承継させるとともに、これらの会社の株式を分割をする会社又はその株主に割り当てる会社分割法制を整備するため、商法等の一部を改正する。


一 骨子

1 立法の目的

 会社をめぐる最近の社会経済情勢にかんがみ、会社が経営の効率化を図り、その競争力を高めるため、その組織の再編成を柔軟に行い得るよう、その営業を新たに設立する会社又既存の会社に承継させる会社分割法制を導入する。


2 法律案の概要

(1) 新設分割の制度の創設

 分割により設立した会社に、分割をする会社の営業を承継させる「新設分割」の制度を創設する。


(2) 吸収分割の制度の創設

 既に存在する他の会社に、分割をする会社の営業を承継させる「吸収分割」の制度を創設する。


(3) 分社型及び分割型の分割制度の創設

 分割により設立した会社又は既に存在する他の会社が分割に際して発行する株式等を分割する会社に割り当てる分割(分社型)及びこれを分割する会社の株主に割り当てる分割(分割型)の制度を創設する。


(4) 分割の手続

 ア 分割計画書(新設分割の場合)又は分割契約書(吸収分割の場合)の作成

  【記載事項:設立する会社等の定款の規定、分割に際して発行される株式の種類及び数並びにその割当に関する事項、設立する会社等が承継する権利義務に関する事項等】

 イ 分割計画書等の事前開示

 ウ 分割計画書等の株主総会の特別決議による承認

 エ 反対株主の株式買取請求権

 オ 債権者保護手続

 カ 分割の登記

 キ 分割事項を記載した書面等の事後開示


(5) 簡易な分割手続

 株主総会の特別決議を要しない簡易な分割の手続を整備する。


(6) 分割の効果

 分割により設立した会社等は、分割計画書等の定めるところにより、分割をした会社の権利義務を包括的に承継する。


(7) 分割無効の訴え

 分割手続等に瑕疵があった場合等には、株主等は、分割無効の訴えを提起することができる。