|
労働安全衛生マネジメントシステム(指針)
【資料のワンポイント解説】
1.労働省が平成11年4月30日に告示した「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」。
同日付けで発せられた労働省通達(基発第293号)を併せて掲載した。
2.労働安全衛生マネジメントシステムは、これからの労働安全衛生対策を、「計画Plan−実施Do−評価Check−改善Act」の基本サイクルに組み込み、スパイラル状にレベルアップを図って行こうとするもの。
3.労働災害の発生という現実を前にして、反射条件的に(再発防止)対策を講じ、また、そのことによって事業場にノウハウを蓄積してきた従来の手法が、労働災害の相対的減少のなかで一つの壁に突き当たっている。今後は、労働災害、とくに、その潜在的危険性の低減に向けて、どのようなアプローチをかけていくかという点に、関係者の関心が集っている。安全衛生マネジメントシステムは、安全衛生「管理」に関する仕組みを標準化してを示しているものであり、職場の安全衛生管理を「システム化」し、再構築することによってあたらなチャレンジを試みようとするものであろう。
4.と同時に、現状において安全衛生マネジメントシステムへの取組を通じて、事業場や関係者に、共通の取組目標を与える効果が期待できる点も大きいと思われる。
労働安全衛生マネジメントシステム
|
労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針について
(通達)【平成11年4月30日付け基発第293号】
労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年労働省告示第54号。以下「指針」という。)は、平成11年4月30日に公表されたところである。
ついては、下記事項に留意の上、あらゆる機会をとらえ、事業者及び関係事業者団体等に対して指針の周知を図るとともに、その適切な運用が図られるよう遺憾のないようにされたい。
なお、関係事業者団体等に対しては、本職より別添(省略)のとおり要請を行ったので了知されたい。
記
第1 指針制定の趣旨
労働災害の発生状況を見ると、長期的には減少してきているものの、今なお多数の労働者が被災し、その減少率に鈍化の傾向がみられる。
また、最近、労働災害が多発した時代を経験し、労働災害防止のノウハウを蓄積した者が異動する際に、安全衛生管理のノウハウが事業場において十分に継承されないことにより、事業場の安全衛生水準が低下し、労働災害の発生につながるのではないかということが危慎されている。
さらに、これまで無災害であった職場でも「労働災害の危険性のない職場」であることを必ずしも意味するものではなく、労働災害の危険性が内在しているおそれがあることから、この潜在的危険性を減少させるための継続的な努力が求められている。
一方、健康診断における有所見者の増加、高年齢労働者の増加等に伴って、労働者の健康の増進及び決適な職場環境の形成の促進が求められている。
このような中で、今後、労働災害の一層の減少を図っていくためには、事業場において安全衛生担当者等のノウハウが確実に継承されるとともに、労働災害の潜在的危険性を低減させ、労働者の健康の増進及び快適な職場環境の形成を促進することにより、事業場の安全衛生水準を向上させる必要があり、「計画−実施−評価−改善」という一連の過程を定めて、連続的かつ継続的に実施する安全衛生管理に関する仕組みを確立し、生産管理等事業実施に係る管理に関する仕組みと一体となって適切に実施され、運用されることが重要である。
また、諸外国の状況を見ると、イギリス、オランダ、オーストラリア等において、「労働安全衛生マネジメントシステムの指針」等が公表されているほか、他のいくつかの国々においてもその開発が進められており、こうした安全衛生管理に関する仕組みは、国際的にも新たな潮流を形成しつつある。
このような状況を踏まえ、今般、指針が公表され、事業場における労働安全衛生マネジメントシステム(以下「システム」という。)の確立に資することとされたものである。
第2 全般的事項
1 指針の目的
この指針は、事業者が事業場においてシステムを確立しようとする際に必要とされる基本的事項を定め、事業者が労働者の協力の下に行う自主的な安全衛生活動を促進し、事業場における安全衛生の水準の向上に資することを目的としており、事業者に対し、強制的にシステムを実施させ、運用させようとするものではないこと。
2 システムの概要
システムの過程は、概ね次のとおりである。また、システムにおいては、安全衛生管理が継続的に実施されるよう、主要な過程は手順を定めるとともに、文書にして管理することとされている。
なお、システムの流れ図を別紙(省略)に示す。
(1)安全衛生方針を表明する。
(2)機械、設備、化学物質等の危険又は有害要因を特定し、それを除去又は低減するための実施事項を特定する。併せて、労働安全衛生関係法令に基づき実施事項を特定する。
(3)安全衛生方針に基づき、安全衛生目標を設定する。
(4)安全衛生目標を達成するため、上記(2)で特定された実施事項等を内容とする安全衛生計画を作成する。
(5)安全衛生計画を実施及び運用する。
(6)安全衛生計画の実施状況等の日常的な点検及び改善を行う。
(7)システム監査を実施し、必要な改善を行う。
(8)定期的にシステムの全般的な見直しを行う。
(9)(1)から(8)までを連続的かつ継続的に実施する。
3 労働者の意見の反映
事業場においてシステムを適切に実施し、運用する責任は事業者にあるが、これをより有効なものとするためには、労働者の理解と協力が必要であり、システムの導入、見直し、安全衛生目標の設定、安全衛生計画の作成等の際は、安全衛生委員会の活用等を通じ労働者の意見を聴取し、これを反映することが必要である。
第3 細部事項
1 第2条関係
(1)この指針は、すべての業種及び規模の事業場を対象とするものであること。
なお、システムは事業場を単位として確立することを基本とするが、建設工事現場と当該現場に係る店杜を統合したシステムや本社と各工場を統合したシステムを確立することとしても差し支えないものであること。
(2)「危険又は有害要因等」の「等」には、労働安全衛生関係法令、通達による安全衛生に関する各種の指針等があること。
2 第3条関係
この指針は、事業者が講ずべき具体的な措置を定めるものではなく、安全衛生管理に関する仕組みを示すものであることから、個別の機械、設備、化学物質等に対する安全衛生対策は、第6条から第10条までに基づき、システムが実施され、運用される中で、各事業場の実態に応じて特定され、実施されるものであること。
3 第5条関係
(1)事業者は、自らの安全衛生に関する基本的考え方を安全衛生方針として表明し、労働者、その他関係者に広くに周知させることにより、安全衛生に対する姿勢を明確にすることが必要であり、第2項の各号は、安全衛生方針に盛り込むことが必要な事項として特に掲げたものであること。
(2)第2項の「労働安全衛生関係法令、事業場において定めた安全衛生に関する規程等」の「等」には、通達による安全衛生に関する各種の指針等が含まれること。
4 第6条関係
(1)第1項の「危険又は有害要因を特定」する場合には、機械、設備等に係る仕様書又は取扱説明書、化学物質等に係る安全データシート(MSDS)等の危険有害性情報、災害事例、ヒヤリ・ハット事例、健康診断結果等を活用するとともに、必要に応じ、セーフティ・アセスメント手法、リスク・アセスメント手法等を用いること。
(2)本指針の「手順」とは、いつ、誰が、何を、どのようにするか等について定めたものであること。
(3)第2項の「特定された危険又は有害要因を除去又は低減するために実施すべき事項」としては、次のようなものがあること。
イ 労働安全衛生関係法令等に規定された措置の実施
口 機械、設備等の安全装置の設置
ハ 無害又は有害性の低い化学物質への変更
二 局所排気装置の設置
ホ 作業方法・作業手順の改善
へ 安全衛生教育の実施
(4)第1項の「危険又は有害要因を特定する」及び第2項の「危険又は有害要因を除去又は低減するために実施すべき事項を特定する」に際ては、関係部署の意見を聴取し、これを反映することが望ましいこと。
5 第7条関係
(1)「安全衛生目標を設定する」に当たっては、特定された危険又は有害要因を踏まえるほか、過去における安全衛生計画の実施及び運用状況、安全衛生目標の達成状況、労働災害の発生状況等も考慮すること。
(2)「安全衛生目標」は、例えば安全衛生方針の内容を具体化したものがあること。また、「安全衛生目標」は、事業場としての目標を設定するほか、これをもとにした関係部署ごとの目標も設定することが望ましく、達成の度合いを客観的に評価できるよう、できるだけ数値で設定することが望ましいこと。
6 第8条関係
(1)「危険予知活動等」の「等」には、ヒヤリ・ハット事例の収集及びこれに係る対策の実施、安全衛生改善提案活動、健康づくり活動等があること。
(2)「安全衛生計画」は、実施事項の担当部署、必要な予算等も含めて作成すること。
なお、安全衛生計画の作成に当たっては、安全衛生方針、安全衛生目標、過去における安全衛生計画の実施及び運用状況、安全衛生目標の達成状況、日常的な点検の結果、労働災害、事故等の原因の調査結果、システム監査の結果等を考慮すること。
(3)「安全衛生計画」は、期間を1年(年間計画、年度計画)とするのが基本であるが、これに限るものでないこと。
(4)機械、設備、化学物質等を新規導入する場合等、安全衛生計画の期間中に状況が変化した場合は、必要に応じ「安全衛生計画」を見直し、必要な変更を行うこと。
7 第9条関係
(1)「安全衛生委員会の活用等」とは、労働安全衛生法により安全衛生委員会の設置が義務づけられている事業者にあっては、当該委員会(安全委員会及ぴ衛生委員会を含む。)の場を通じて労働者の意見を反映する趣旨であること。また、同委員会の設置が義務づけられていない事業者にあっては、労働者の意見を聴くための場を通じて労働者の意見を反映する趣旨であること。
(2)安全衛生目標や安全衛生計画を変更する場合においても、労働者の意見を反映する必要があること。
8 第10条関係
(1)第1項の「実施、及び運用する」とは、安全衛生計画に定められた日程等に従って実行し、また、実行が図られるように実施状況の点検、問題点の把握等の活動を行うものであること。
(2)第3項の「前条の規定は、安全衛生計画の実施及び運用について準用する」については、安全衛生委員会の活用のみならず、始業ミーティングの活用等現場と密着した場面でも労働者の意見を聴取し、これを反映することが望ましいこと。
(3)第4項の「取扱いに関する事項を記した書面」には、機械、設備に係る取扱説明書や注意事項を記載した書面、化学物質等に係る安全データシート(MSDS)等があること。また、本項では、事業者が機械、設備、化学物質の譲渡又は提供を受ける場合について規定されているが、事業者が機械、設備、化学物質等を譲渡又は提供する場合には、これらの取扱いに関する事項を記した書面を相手先に交付することが必要であること。
9 第11条関係
(1)第3号の「人材」については、事業場内に必要な知識、技能を有する者が不足する場合には、外部の専門家等を活用することも考えられること。
(2)第4号の「教育」は、システムの確立のための業務を行う者、危険又は有害要因の特定を行う者、安全衛生計画の作成を行う者、システム監査を行う者等システムに関係する者に行う必要があるが、事業場の実情に応じ必要な者として差し支えないこと。
また、内容としては、システムの意義、システムを実施し、運用する上での遵守事項や留意事項、システム各級管理者の役割等があること。なお、教育の対象者、内容、実施時期、実施体制、実施計画、講師の要件等についてあらかじめ定めておくことが望ましいこと。
(3)事業者は、その関係請負人が労働者に対しシステムに関する教育を行う場合は、指導及び援助を行うことが望ましいこと。
10 第12条関係
(1)「文書」により定める意義は、システム各級管理者が異動した際にもシステムが適切に実施され、運用されるよう、本指針において定めるべきとされている手順等が確実に継承されること等にあること。
(2)「文書」は、電子媒体の形式でも差し支えないこと。
(3)第2項の「文書を管理する」とは、文書を保管、改訂、廃棄等することをいうものであること。
11 第13条関係
「緊急事態が発生した場合に労働災害を防止するための措置」には、消火及ぴ避難の方法、被災した労働者の救護の方法等緊急事態が実際に発生した場合の措置のほか、消火設備、避難設備及ぴ救助機材の配備、緊急事態発生時の各部署の役割及び指揮命令系統の設定、緊急連絡先の設定、避難訓練の実施等の事前の準備が含まれること。
12 第14条関係
(1)第1項の「安全衛生計画の実施状況等の日常的な点検」とは、安全衛生計画が着実に実施、運用されているかどうか、安全衛生目標は着実に達成されつつあるかどうか等について点検を行うことをいい、点検により問題点が発見された場合は、その原因を調査する必要があること。なお、「日常的な点検」は、必ずしも毎日実施する必要はなく、計画期間中の節目節目で実施することとして差し支えないこと。
(2)第2項の「労働災害、事故等」の「等」には、ヒヤリ・ハットがあること。
(3)第3項の「次回の安全衛生計画を作成するに当たって、前二項の規定により実施した事項の結果を反映する」とは、次回、安全衛生計画の作成を行う際に、問題点を生じさせた原因を踏まえた改善策を反映することをいうものであること。
13 第15条関係
(1)「システム監査」は、システムが適切に実施され、運用されているかどうかについて、文書、記録等を調査し、又は作業場等を視察して評価するものであること。
(2)「システム監査」は、事業場内部の者が実施することが基本であるが、企業内部の者、企業外部の者のいずれが実施しても差し支えなく、その実施者は必要な能力を有し、公平かっ客観的な立場にあることが望ましいこと。
(3)「システム監査」の頻度は、安全衛生計画の期間も考慮し、年1回〜2回程度、定期的に実施することが望ましいこと。なお、安全衛生計画の期間中に少なくとも1回は実施すること。
14 第16条関係
(1)「安全衛生計画の実施及び運用の状況、システム監査の結果等」の「等」には、特定された危険又は有害要因、教育の実施状況、労働災害、事故等の発生状況等があること。
(2)「記録」は、電子媒体の形式としても差し支えないこと。
(3)「記録」は、保管の期間をあらかじめ定めておくこと。
15 第17条関係
「労働安全衛生マネジメントシステムの全般的な見直し」は、事業場の安全衛生水準の向上の状況、社会情勢の変化等を考慮して行われるものであり、事業者自らがシステムの妥当性及ぴ有効性を評価して判断するものであること。