次の資料 前の資料


[資料番号] 00106
[題  名] 平成12年度 労働基準行政の運営について
[区  分] 労働基準

[内  容]


【資料のワンポイント解説】
1.労働基準行政、すなわち、
  ○労働条件の確保改善対策
  ○労働時間対策
  ○安全衛生対策
  ○労災補償対策 の課題別に、それぞれの重点対策を説明している。
2.率直に言って、行政の運営方針というのは通読するに”しんどい”のも事実だが、この行政は、『賃金・解雇』、『労使トラブルの解決』、『職場の安全衛生』、『過労死』といった、労使にとって比較的身近な対象を取り扱っているから、関心のある方にはざっと通読されることをお奨めする。

3.この文書を読んでみて、一番の注目点はつぎのような記述だろう。
 『労働基準関係法令に基づく、@労働契約締結時の労働条件の書面交付による明示、A時間外労働・休日労働協定の適正な締結、B時間外労働等に係る割増賃金の適正な支払い等が実施されていないという問題も認められることから、労働条件の明確化等の基本的な労働条件の枠組みの確立や労働時間等に関する法定労働条件の遵守等労働時間管理の適正化等を図る』
 この記述は、業種・規模等の前提を置かないで書かれている。すなわち、このような違法、不適切な取扱いが蔓延しているということであり、それを行政が率直に認めた、ということだろう。
 労基法制定以来50有余年、”行政は何をやってきたのか”と言いたい向きもあろうが、ここしばらくは、『一般労働条件の確保・改善対策を(注:具体的には労働時間管理の適正化等。)、労働基準行政の重点対策の一つとして位置付け、積極的に推進していく』との決意と取組状況に注目することとしたい。


資料


平成12年度
労働基準行政の運営について

労働省労働基準局






1 労働基準行政を取り巻く情勢と課題

1 社会経済情勢


(1)概説

 我が国経済の現状を概観すると、各種の政策効果の浸透に加え、アジア経済の回復などの影響もあり、緩やかな改善が続いている。しかしながら、所得の低迷、相次いで発表される企業の人員削減計画が雇用に与える影響等を考えると、消費が持続的に回復する状況には至っていない。特に、経済の自律的回復の鍵を握る民間需要の動向は、依然として弱い状況にある。
 雇用情勢は、所定外労働時間の増加といった動きがあるものの、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しい状況にある。

 このような状況を踏まえ、政府としては、経済の自律的回復に向けて、民間部門の活力の発揮を促すことが重要であるとの認識の下、多様で活力のある中小企業・ベンチャー企業の振興や、成長分野や事業活動の基盤に係る規制緩和・制度改革等に取り組むほか、雇用の創出・安定に資する雇用対策の実施により、雇用不安の払拭を図ることとしている。


(2)労働基準行政を取り巻く情勢

 このような社会経済情勢の下、労働基準監督署においては、労働基準関係法令の違反に関する申告や、解雇、賃金・労働時間等の労働条件の引下げ等に関する相談が数多く寄せられている。
 また、産業構造等が大きく変化する中で、企業の再編・事業の再構築が今までにないスピードと規模で行われており、これに伴い出向、配置転換、退職勧奨等の問題が社会的にもクローズアップされている。

 平成11年における年間総実労働時間は1842時間、所定内労働時間は1709時間と前年に比べそれぞれ37時間、33時間減少し、いずれも過去最低となった。

 労働災害による被災者数は、長期的には減少しているものの、今なお年間約57万人を数え、平成11年の死亡災害については、前年と比較して増加が見込まれる状況にある。
 加えて、東海村ウラン燃料加工施設の災害に代表されるような、社会的に大きな影響を与える災害が発生している。
 一方、労働者の健康を取り巻く状況をみると、職業性疾病の発生は、長期的には減少しているものの、前年と比較すると微増であり、じん肺、腰痛、有機溶剤中毒等の疾病も依然として後を絶たない。
 また、高齢化の進展、産業構造の変化等に伴い、脳や心臓の疾患につながる所見を始めとする何らかの所見を有する労働者が4割を超えるとともに、現下の厳しい経済情勢の中で、職業生活に関する強い不安やストレスを感じている労働者の割合が増加している。

 さらに、最近の労災請求事案をみると、近年の厳しい雇用環境等を反映し、「過労死」事案や精神障害等に係る事案が増加傾向にあり、社会的にも大きな関心を集めているところであるが、今後も、これらの労災請求事案が増加することが懸念される。



2 労働基準行政の課題


(1)現下の厳しい経済情勢下での労働条件の確保・改善

 経済社会が大きな変化を遂げ、企業経営を取り巻く環境も厳しさを増している中で、労働条件の引き下げ、会社都合による解雇等が増加しており、これらに関連した法定労働条件の履行を確保する上での問題が増加しているなど、今後もこの傾向が強まることが懸念される。

 しかしながら、法定労働条件は、いかなる経済情勢下においても確保されるべきものであり、特に現下のような状況においては、労働条件の確保に関する国民の関心は、今まで以上に強いものとなっている。
 このため、これまで以上に労働条件の確保を図るための監督指導の果たすべき役割が重要となっていることを踏まえつつ、一般労働条件の確保・改善対策については、これを積極的に推進していくことが必要である。

 また、労働条件に関する紛争に関しては、その自主的解決を促進するための必要な情報提供や紛争解決援助制度の積極的な運用等を行い、労働基準行政に対する国民の期待に応えることが求められている。


(2)労働時間に関する課題

 平成11年7月に閣議決定された「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」において重要な政策方針として掲げられている年間総実労働時間1800時間の達成・定着を図るためには、なお一層の労働時間の短縮を図らなければならない。
 これらの状況を踏まえ、原則の週40時間労働制や労働基準法に基づく「時間外労働の限度基準」など労働時間に関する基準の遵守の徹底を図る必要がある。
また、労働基準法に基づく企画業務型裁量労働制が的確かつ効果的に活用され、企業の本社等において企画等の業務に従事する労働者の労働時間管理が適正に行われ、当該労働者の自律的、創造的な働き方により能力を発揮できる環境が整備されるよう、周知、啓発、指導を進める必要がある。

 さらに、特例措置対象事業場の法定労働時間の短縮に向けた助成制度の周知等、業種、規模ごとの実情を踏まえた労働時間短縮に向けた労使の自主的取組の促進を図る必要がある。


(3)労働者の安全と健康の確保に関する課題

 死亡災害が増加に転じるなど、依然として多発する労働災害の発生状況等を踏まえ、第9次の労働災害防止計画に基づき、死亡災害が多発している建設業対策を始めとする労働災害の大幅な減少を図るための施策を引き続き展開する。
また、東海村ウラン燃料加工施設における事故等を契機に政府に設置された「事故災害防止安全対策会議」の報告書において提言されている「組織と個人が安全を最優先にする気風や気質」、すなわち「安全文化」の創造について積極的に取り組む必要がある。

 さらに、労働者の健康管理の充実や産業保健活動の推進、化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)を活用した化学物質管理の推進等労働者の健康を確保するための施策や、労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進等、事業場が自主的に安全衛生水準の向上を図るための施策を推進していく必要がある。


(4)労災補償の課題

 近年、定期健康診断における有所見率が高まっているなど、健康状態に問題のある労働者が増加している中で、業務による過重負荷により脳・心臓疾患を発症する事案が増加しており、社会的にも「過労死」として取り上げられていることから、労災保険制度においても、脳・心臓疾患の発症を予防する観点から、労働者の健康確保を支援するための措置を講ずる必要がある。

 あわせて、労働福祉事業については、労働災害の減少、第3次産業化の進展等に加え、最近における長引く不況の影響等に伴い保険料収入が減少していくことが見込まれる一方で、事業の主要な対象である労災年金受給者が増加傾向にあること等に対応し、効率的な事業運営に努めるとともに、事業の透明性及び安定性の確保を図る必要がある。

 また、「過労死」や精神障害等の複雑・困難な労災請求事案については、被災労働者及びその遺族の的確な救済という労働者災害補償保険法の基本理念に基づき、より一層、迅速・適正な労災補償の実施に努める必要がある。
 さらに、重度被災労働者に対する介護施策については、近年の核家族化の進展や重度被災労働者及びその介護に当たる者の高齢化等により、家族の負担が大きくなっていることにかんがみ、体系的に施策を推進していく必要がある。



第2 平成12年度労働基準行政の重点対策

1 厳しい経済情勢下での労働条件の確保・改善


(1)一般労働条件の確保・改善対策

 現下の厳しい経済情勢等により、労働環境にも大きな変化が見られ、労働者の労働条件に関しては、賃金・労働時間等に係る労働条件の引下げ、会社都合による退職や解雇等が増加している傾向にあるが、労働基準関係法令に基づく法定労働条件は、どのような経済状況下にあっても確保されなければならない事項である。
 こうした状況を踏まえると、すべての労働者が適法な労働条件の下で安心して働くことができるようにするためには、一般労働条件の確保・改善対策を、労働基準行政の重点対策の一つとして位置付け、積極的に推進していくことが重要である。

 具体的には、労働基準関係法令に基づく、@労働契約締結時の労働条件の書面交付による明示、A時間外労働・休日労働協定の適正な締結、B時間外労働等に係る割増賃金の適正な支払い等が実施されていないという問題も認められることから、労働条件の明確化等の基本的な労働条件の枠組みの確立や労働時間等に関する法定労働条件の遵守等労働時間管理の適正化等を図るため、管内の動向を注視しつつ、引き続き積極的に推進する。
 また、労働基準関係法令違反に対しては、厳正に対処する。


(2)解雇、賃金不払事案等に対する的確な対応

 経済、雇用情勢や企業の動向を注視し、企業倒産、事業場閉鎖、人員削減、労働条件の引下げ等に伴う法定労働条件の履行確保上の問題が懸念される事案に対しては、早期に情報を把握し、賃金債権の確保や社内預金の保全等について、早い段階から迅速かつ的確な対応を図る。

 また、労働基準関係法令上の問題が認められる賃金不払い等に係る申告・相談がなされた場合には、申告・相談者が置かれている状況に意を払い、その解決のための迅速・的確な処理を行うとともに、労働基準関係法令上の問題が認められない場合であっても、その内容に応じ、申告・相談者に対しては、その自主的解決を図るため、関連する裁判例等の情報の提供や適切な相談先の教示等を行うなど懇切丁寧な対応に努める。


(3)紛争解決援助制度の積極的な運用

 景気・雇用の動向を反映し、解雇、賃金、労働時間等の労働条件の引下げ、出向、配置転換、退職勧奨等労働条件に関する労使間の紛争に係る申告・相談事案が、今後とも増加するものと予想されることから、これらの事案に対しては、都道府県労働局と労働基準監督署との連携の下、労働基準法第105条の3に基づく紛争解決援助制度の積極的な運用を図り、労使の自主的な紛争解決を促進する。


(4)未払賃金立替払事業の迅速かっ適正な運営尊

 厳しい経済情勢に対応し、企業倒産等により賃金の支払いが受けられない労働者に対する未払賃金立替払事業について、対象となる中小企業事業主の範囲の改正にも留意しつつ、その迅速かっ適正な事務処理に努める。
 また、企業倒産等の場合における労働債権の取扱いについては、関係省庁とも連携を図りつつ、労働者保護の観点から適切に対応する。


(5)最低賃金制度の適正な運営

 地域別最低賃金については、平成11年度より開催されている中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会における検討結果を踏まえ、地域の実情に応じた適正な改正を行う。
 産業別最低賃金については、平成10年12月に取りまとめられた中央最低賃金審議会産業別最低賃金に関する全員協議会報告を踏まえ、各産業における企業経営や賃金の実態等に応じた円滑な改正等を行う。
 また、依然として厳しい経済情勢の下で、最低賃金法違反が増加することのないよう、最低賃金制度のより一層の周知徹底に努めるとともに、問題のある地域、業種を的確に把握しつつ、その遵守の徹底を図る。


(6)賃金・退職金制度改善の推進

 平成11年度より全都道府県で実施されている「中小企業賃金制度支援事業」を中心として、企業に対する的確な情報提供等を行うことにより、相談・援助の充実を図る。


(7)特定の労働分野における労働条件確保対策

 イ 外国人労働者、技能実習生の労働条件確保対策の推進

 外国人労働者にも労働基準関係法令が適用されることについて周知徹底を図るとともに、「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」に基づく啓発・指導等により、引き続き外国人労働者の適正な労働条件及び安全衛生の確保対策を推進する。

 また、技能実習生については、労働契約締結時の労働条件の書面による明示、賃金支払いの適正化等労働基準関係法令に基づく法定労働条件の履行確保を図る。


 口 派遣労働者の労働条件確保対策の推進

 平成11年12月1目から改正労働者派遣法が施行され、労働者派遺事業の対象職種が大幅に拡大されていることから、職業安定機関との連携に配慮しつつ、派遣元及び派遣先の事業主双方に対して労働基準関係法令の遵守の徹底を図る。


 ハ 最低年齢に係る改正労働基準法の円滑な施行

 平成12年4月1目から施行される最低年齢に係る労働基準法の一部を改正する法律及びその関係省令について、関係行政機関等に対する協力依頼、広報活動等を実施し、また、集団指導時、窓口での応対時等あらゆる機会をとらえて周知を行い、その円滑な施行を図る。


 二 障害者である労働者の労働条件確保対策の推進

 障害者である労働者の労働環境の整備が強く求められる状況の中で、引き続きその法定労働条件の履行確保を図るため、関係機関との連携の下、これら労働者を使用する事業主に対する啓発・指導に努めるとともに、的確な情報の把握を行い、問題事案の発生の防止及ぴ早期是正に努める。


 ホ 短時間労働者の労働条件確保対策の推進

 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律及ぴ「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」の趣旨及び内容についての周知・啓発活動を重点とした対策を推進し、事業主による自主的な取組を促進する。
 また、「パートタイム労働者の労働災害防止事業」の円滑な推進を図る。


 へ 出稼労働者の労働条件確保対策の推進

 「出稼労働者対策要綱」等に基づき、適正な賃金の支払の確保、有給休暇制度の普及促進、労働災害の防止、健康管理の充実等を重点として、引き続き出稼労働者の労働条件確保対策を推進する。



2 労働時間対策の推進

(1)労働時間に関する法定基準の遵守の徹底等

 イ 法定労働時間の遵守の徹底等

 (イ)週40時間労働制の遵守の徹底

 週40時間労働制については、今なお未実施で残っている事業場に対して監督指導、集団指導等を実施し、その遵守の徹底に努める。

 (ロ)特例措置対象事業場の法定労働時間についての周知・指導等

 常時10人未満の労働者を使用する商業・サービス業の特例措置対象事業場の法定労働時間については、平成13年4月1目より週46時間労働制から週44時間労働制へ短縮することとされている。移行のために準備を尽くす期間が残り1年となったことを踏まえ、助成制度の周知を含め、週44時間労働制への円滑な移行のための指導・援助に努める。

 (ハ)自動車運転者の労働時間等の改善

 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の遵守の徹底により引き続き自動車運転者の労働時間等の労働条件の改善を図る。


 ロ 労働基準法に基づく「時間外労働の限度基準」等の遵守の徹底

 長時間の時間外労働の実効ある抑制を図るため、労働基準法第36条第2項に基づく「時間外労働の限度基準」等が労使当事者に遵守されるよう指導を行う。


(2)企画業務型裁量労働制の適正な実施の確保

 企画業務型裁量労働制が平成12年4月1目から施行されることから、関係省令及び指針を含めた制度全体について周知、啓発を推進し、導入予定事業場における円滑な導入を促進するとともに、制度の適正な実施が確保されるよう導入事業場に対して必要な指導を行う。


(3)労使の自主的取組の促進、気運醸成等による労働時間短縮の促進等

 イ 所定時間外・休日労働の適正化のための普及・啓発

 休日労働の適正化に向けた労使の取組に関するガイドラインを追加して示すとの観点から「所定外労働削減要綱」を改正するとともに、改正された要綱の広報・啓発により所定時間外・休日労働の適正化に向けた労使の取組を促進する。

 ロ 深夜業に関する労使の自主的な取組の促進

 業種別の関係労使による自主的な取組により職種、勤務形態等に応じ深夜業に従事する労働者の就業環境等の整備が進むよう「労使による深夜業に関する自主的ガイドライン作成支援事業」を引き続き実施し、主要業種ごとの自主的ガイドラインの作成に向けた関係労使の話合いを促進する。

 ハ 計画的付与制度の活用等による年次有給休暇の取得促進等

 「ゆとり休暇推進要綱」に基づき、年次有給休暇の取得促進のため、広報・啓発及び計画的付与制度の活用等の労使の自主的取組に対する指導・援助を行う。
 また、業種・地域別の事業主団体が業界、地域の特性に即した年次有給休暇の積極的かつ有効な活用を促進するための必要かつ効果的な条件、体制を検討し、その実現のための手法を開発する「活力とゆとりをめざす休暇推進モデル事業」を推進する。
 また、ゆとりある勤労者生活の実現、家族の団らんやきずなの回復、地域社会との連携の強化等により少子高齢化社会に適切に対応するため、長期休暇制度の早期実現に向けて、「長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議」の開催等を行う。

 二 労働時間短縮支援センターの活用等による指導・援助等

 労働時間短縮支援センターの実施する「中小企業時短促進援助事業」等を活用し、完全週休二日制の普及促進、年次有給休暇の取得促進に向けた中小企業の自主的な取組の促進を図るため、指導・援助を効果的に実施する。
 また、引き続き、「労働時間短縮実施計画」の承認制度を活用するとともに、平成13年4月からの特例措置対象事業場の週44時間労働制への円滑な移行が図られるよう、事業主及び事業主団体による助成制度の活用を促進する。

 ホ フレックスタイム制等の普及促進及び指導・援助

 労働者が職業生活と家庭生活との調和を図りながら、より自律的、創造的かつ効率的な働き方をすることを実現するため、フレックスタイム制等の弾力的労働時間制度の普及促進を図るとともに、これらの制度の適用を受ける労働者について適正な労働条件が確保されるよう事業主に対する指導・援助を行う。



3 労働者の安全と健康確保対策

(1)事業場における安全衛生水準の一層の向上を図るための施策の展開

 イ 労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進

 「労働安全衛生マネジメントシステム普及促進事業」の充実を図るとともに、労働災害防止団体等とも連携し、製造業、建設業等に幅広く労働安全衛生マネジメントシステムの普及を図る。

 ロ 自主的安全衛生管理活動の推進

 安全衛生管理活動を積極的に行おうとする中小企業に対して安全衛生相談等を実施するため、試行的に相談体制の整備等を図る。
 また、「小規模事業場等団体安全衛生活動援助事業」の実施により、引き続き小規模事業者団体及びその構成事業場の安全衛生活動の活性化を図る。

 ハ 安全衛生意識の高揚等

 労働災害防止の鍵を握る職長クラスの安全管理に対する意欲を高めるため、安全優良職長に対する顕彰制度を引き続き実施するとともに、「安全優良職長ネットワーク事業」の円滑な実施等により、安全優良職長を核とした労働者の安全衛生意識の高揚を図る。
 技能講習修了後、一定期間経過した者に対する安全作業の徹底、作業の危険性の再認識等のため、車両系建設機械(掘削用)に係る再教育の普及促進を図る。
 また、安全衛生委員会の活性化を図る。

 二 安全衛生情報提供機能の充実

 事業者が行う安全衛生教育の充実等に資するため、安全衛生情報センターにおいて、災害事例、化学物質情報等の安全衛生情報を提供するとともに、高度視聴覚媒体を活用した効果的な安全衛生教育を実施する。



(2)労働災害を大幅に減少させるための施策の展開

 イ 建設業における労働災害防止対策の推進

 「建設業における総合的労働災害防止対策の推進について」に基づいた対策を引き続き的確に実施する。
 特に中小総合工事業者に対しては、「中小総合工事業者指導力向上事業」の円滑な実施等により、安全水準の向上を図る。また、平成12年度から新しいサイクルに入る「専門工事業者安全管理活動等促進事業」の円滑な実施等により、専門工事業者の安全管理能力の向上を図るとともに、安全衛生責任者に対する安全衛生教育を推進する。
 木造家屋等低層住宅建築工事については、「足場先行工法に関するガイドライン」の周知徹底、「木造家屋等低層住宅建築工事安全対策推進モデル事業」の円滑な実施等により足場先行工法の普及・定着を図り、墜落災害の防止を徹底する。
 また、保守・点検・改修工事等における工事施工業者及び設備所有者による安全管理のあり方について検討を行う。
 さらに、店仕と現場とが一体となった管理が必要な建設業の特性を踏まえ、建設業における労働安全衛生マネジメントシステムの普及を図る。

 ロ 交通労働災害防止対策の推進

 「交通労働災害防止対策のためのガイドライン」の周知・徹底を図るとともに、「交通労働災害防止対策推進事業」を推進する。
 また、交通労働災害防止担当管理者及び自動車運転業務従事者に対する教育を推進する。
 さらに、「交通労働災害防止関係機関連絡協議会」の開催等を通じて、警察、陸運支局等の関係行政機関及び関係団体との連携を強化する。

 ハ 第三次産業における労働災害防止対策の推進

 第三次産業における労働災害防止対策を総合的に推進する。
 また、業種別の労働災害防止のためのガイドラインの周知・徹底を図る。
 さらに、新たに「成長産業における安全衛生活動基盤整備事業(仮称)」を実施する。

 二 機械設備の労働災害防止対策の推進

 木材加工用機械、プレス機械による労働災害を防止するため、当該機械の一層の安全化、作業の安全化等を推進するとともに、クレーン等による災害の中で玉掛けに係る災害が占める割合が高いことから「玉掛けの安全作業に係るガイドライン(仮称)」の周知を図る。
 また、機械設備による災害を防止するため、すべての機械設備に包括的に適用される安全基準に係る指針等を策定し周知を図る。
 さらに、メーカーからユーザーに対する「危険情報の開示のガイドライン(仮称)」を策定し、その周知を図る。

 ホ 爆発・火災災害防止対策の推進

 化学工業における爆発・火災災害の防止対策の徹底を図るとともに、「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」の周知を図る。また、廃棄物処理に伴う爆発・火災災害の防止を図る。

 へ 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進

 高齢化の進展により、今後高年齢労働者が一層増加していくことを踏まえ、人間工学等の観点から、高年齢労働者が働きやすい職場環境に関する調査研究等を実施する。



(3)労働者の健康を確保するための施策の展開


 イ 深夜業に従事する労働者の健康管理の充実

 「自発的健康診断受診支援事業(仮称)」の利用の促進等により、深夜業に従事する労働者の自発的健康診断制度の円滑な施行を図る。

 ロ 小規模事業場における健康確保対策の充実

 地域産業保健センター事業の活性化・サービスの充実、産業医の共同選任の促進、健康診断受診率の向上等を図る。

 ハ 産業保健スタッフに対する支援策の充実

 産業保健スタッフに対する実務研修の実施体制の総合的検討及び都道府県産業保健推進センターの整備を図る。

 二 中小規模事業場における健康保持増進対策の推進

 心身両面にわたる健康保持増進対策(THP)の一層の普及を図るため、新たに「中小規模事業場健康づくり事業」を実施する。

 ホ 職場における精神的ストレス等への積極的対応

 「心の健康づくり指針(仮称)」を示し、職場における精神的ストレス対策に関する支援体制の整備等を図る。

 へ 労災病院におけるメンタルヘルス面を中心とした勤労者への支援及ぴ労災指定医療機関との連携強化

 労災病院にインターネットや電話によるメンタルヘルスの相談体制を整備するとともに、労災病院が有しているメンタルヘルスに係る知見・ノウハウを労災指定医療機関、産業医、都道府県産業保健推進センター、地域産業保健センター等に広く提供する。また、労災病院を核としたメンタルヘルス面における病診(病)連携登録医制度の在り方について検討を行う。

 ト 職業性疾病予防対策等の推進

 粉じん障害防止対策については、第5次粉じん障害防止総合対策の一層の推進及び「粉じん障害防止モデル事業」の円滑な実施を図るとともに、ずい道建設工事における粉じん対策を推進するため、「ずい道建設工事における粉じん対策に関するガイドライン(仮称)」の策定・周知及び改正される防じんマスク等の構
造規格の周知を図る。

 鉛中毒予防対策の推進については、鉛等の発散の防止の措置としてプッシュプノレ型換気装置導入を図るため、鉛中毒予防規則等の改正及びプッシュプノレ型換気装置の定期自主検査指針を策定し、それらの周知を図る。
 また、近年のVDT作業を取り巻く状況の変化等を踏まえ、「VDT作業のための労働衛生上の指針」の見直しを図る。

 チ 原子力施設等における安全衛生管理対策の強化

 改正電離放射線障害防止規則等の円滑な施行による原子力施設における核燃料物質等の取扱い業務に係る被ばく管理対策等労働災害防止対策の徹底を図る。
 また、国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告の取入れ等に伴う電離放射線障害防止規則等の見直しを図るとともに、平成13年4月1目からの円滑な施行に向けての周知・指導等を行う。

 リ 化学物質に係る健康障害防止対策の推進

 化学物質による労働者の健康障害を防止するため、MSDSを活用した化学物質管理の推進を図る。
 また、ダイオキシン類による健康障害防止のための対策要綱の周知を図るとともに、廃棄物焼却施設における労働者の健康状況等の調査を引き続き行う。


(4)職場環境の快適化の推進

 労働者の意見の把握等に基づく継続的かつ計画的な快適化の取組のための管理手法の策定・普及を図るとともに、職場における喫煙対策担当者に対する教育カリキュラムの見直しを行い、職場における喫煙対策の一層の推進を図る。


(5)国際化に対応した安全衛生対策の推進

 ILO労働安全衛生マネジメントシステムのガイドライン策定に協力するとともに、機械等の基準認証制度について相互承認等国際的な動きに対応する。
 また、国際安全衛生センターにおける海外安全衛生の情報提供事業等を推進する。


(6)規制緩和への対応

 「規制緩和3か年計画」(平成10年3月31貝閣議決定)に規定された事項について、適切な対応を図る。


(7)安全衛生分野における科学技術研究等の推進

 産業安全研究所及び産業医学総合研究所においては、独立行政法人への移行に取り組むとともに、労働災害及び職業性疾病の減少等を図るための研究、技術革新の進展等に伴う安全衛生問題に関する研究等を総合的に推進する。


(8)事故災害防止安全対策会議への対応

 最近の事故災害の多発にかんがみ、政府に「事故災害防止安全対策会議」が設置され、事故災害防止安全対策会議報告書が公表されたところであり、これに基づき、安全衛生意識の高揚、組織管理、教育訓練等についての適切な対応を図る。



4 労災補償対策の推進

(1)労働者の健康確保に向けた労災保険制度の改善

 平成12年1月の労働者災害補償保険審議会の建議を踏まえ、労働者災害補償保険法の改正を行うなど労災保険制度の改善を図るとともに、その施行に向けた準備を行う。


(2)労災保険給付の迅速・適正な処理

 労災保険給付の処理に当たっては、基本的業務の徹底を図ることはもとより、業務上疾病の複雑・困難事案等については、その事務処理に長期間を要しているものも見られることから、その解消を図るために的確な調査計画の策定、管理者等の適切な進行管理の徹底、地方労災医員等の効果的な活用等により、迅速・適正な事務処理を推進する。
 なお、近年、精神障害等に係る労災請求事案については増加傾向を示していることから、昨年9月に策定された精神障害等の判断指針の的確な運用に努める。
 障害等級認定基準等については、最近の医学的知見の動向を踏まえ、引き続き、これらの見直しに向け検討を行う。
 労災診療費の審査については、(財)労災保険情報センターとの連携により的確な審査を行うとともに、特に、医療機関からの誤請求については、労災診療協議会の活用等による都道府県医師会等の協力の確保、誤請求の多い医療機関に対する指導の強化等により、その解消に努め、柔道整復師の施術料金についても的確な審査に努める。
 第三者行為災害については、適正な求償に努めるとともに、的確な納入督励や時効中断措置を講ずることにより適正な債権の管理を図る。


(3)重度被災労働者に対する介護施策の実施

 在宅での介護に関する専門的な相談援助を行う「労災ケアサポート事業」、在宅の重度被災労働者に対して介護サービスを提供する「労災ホームヘルプサービス事業」、必要な介護機器を提供する「介護機器レンタノレ事業」を推進するとともに、労災特別介護施設(ケアプラザ)を活用した短期滞在介護サービス等を提供する。


(4)被災労働者の早期社会復帰対策の総合的推進

 長期療養者については、症状固定後の職場生活順応への危倶、健康維持への不安等が社会復帰の阻害要因となることが多いことから、各種援護金、アフターケア及び義肢等補装具支給制度の活用により、早期の社会復帰を促すとともに、併せて個々の症状に応じた適正給付対策を行うことにより、療養から社会復帰までの一貫した総合的な対策を推進する。
 なお、近年増加している精神障害の事案についてもアフターケア制度の対象として拡充を行う。


(5)行政争訟に対する迅速・的確な対応

 審査請求事案の処理については、3か月以内の迅速処理を図るため、管理者による的確な進行管理及び審査官に対する一層の支援体制の確立に努める。
 行政事件訴訟の追行に当たっては、関係機関との密接な連携の下に、早い段階で訴訟追行方針を策定し、十分な主張・立証を行えるよう医証等の確保に努めるなど、その的確な処理を図る。



5 求人開拓、雇用創出への相談・支援の実施

 依然として厳しい状況にある雇用失業情勢の中で、労働行政が総力を挙げて雇用対策に取り組むことが必要であることから、昨年6月に策定された緊急雇用対策に盛り込まれた「公共職業安定所と労働基準監督署の連携による求人開拓、雇用創出への相談・支援の実施」について、引き続き職業安定行政と連携の上、求人開拓、雇用創出の支援等について積極的な運用に努める。




第3 労働基準行政展開に当たっての基本的対応


1 計画的・効率的な行政の運営

 労働基準行政の運営に当たっては、限られた人員の中で、現下の厳しい経済情勢、管内の労働災害の発生状況等に的確に対応するためには、管内事情を継続的に把握しつつ、これに即した重点課題を自主的かつ的確に選定し、重点指向に徹した運営を図ることが求められる。その際、監督指導計画、安全衛生指導業務計画、労災補償業務計画等を局署間の調整結果を踏まえて作成し、これに基づき計画的な運営に努める。
 また、重大事故等の発生に対しては、局内各課・署内各課(方面)の連携、協力の下に、局署一体となって迅速かつ的確に対応するとともに、労働災害の多発等管内事情の変化に対しセは、機動的に対応するものとする。
 さらに、それぞれの重点課題への対応に当たっては、他の重点課題について実施される集団指導等の場を積極的に活用する等行政の効率的推進を図る。


2 各種手法による的確な行政展開

(1)的確かつ厳正な監督指導の実施

 労働基準監督機関における監督指導は、法定労働条件の履行確保を図る上で、労働基準行政の中核をなすものであり、現下の厳しい経済情勢等の下において一層その重要性が高まっている状況にある。
 このような状況を踏まえ、労働基準監督機関としては、的確な監督指導を実施し、重大又は悪質な法違反の事案や同種の法違反を繰り返す事案に対しては司法処分に付するなど厳正に対処する。


(2)行政指導、相談援助等の効果的展開

 現下の厳しい経済情勢に対応し、また、産業・就業構造が変化する状況に対応した労働基準行政の積極的展開を図るため、労働条件の確保・改善を始め、労働時間の短縮、自主的な労働災害防止活動の促進、労働者の健康確保、労働福祉の増進等に関する指導援助等を積極的に実施する。
 また、労働者、事業主が利用しやすい相談窓口を設置する等相談援助体制の充実に引き続き配慮する。


(3)関係団体等との積極的連携等

 イ 的確かつ効果的な広報の実施等

 広報活動は、労使はもとより国民全体の労働基準行政に対する理解と信頼を高めるために重要であることから、行政を取り巻く状況を的確に把握し、適切な時期・手段により、創意工夫した効果的な広報活動を積極的に推進する。

 ロ 労使等のコンセンサスの形成

 労働基準行政の適切、円滑な運営を図っていくため、関係労使団体に対し、施策の推進について、本省から幅広く積極的な働きかけを行うとともに、局及び署においても、経営者協会、中小企業関係団体や労働団体等に対し、各種会議・会合の場や広報誌の活用を図る等幅広く積極的な働きかけを行うことにより、効率
的な行政の運営に努める。
 また、地方労働基準審議会の場を活用する等により、労使に対し行政施策についての理解と協力を求めるように努める。

 ハ 関係団体との積極的連携

 労働基準行政を効率的・効果的に推進していくに当たっては、労働基準協会、労働災害防止団体、労働福祉事業団等関係団体の協力が不可欠であり、これら団体等と必要な情報を共有し、施策の推進を図る等密接な連携を図る。

 二 関係行政機関との積極的連携

 本省においては、事業所管官庁等関係行政機関との連携の強化に努める。局及び署においても、都道府県労働主管部局を始めとする地方公共団体及び関係行政機関との間で、各種施策の遂行について積極的かつ密接な連携を図る。



3 都道府県労働局の設置に伴う女性行政及び職業安定行政との連携

 新たに設置される都道府県労働局は、地方において労働行政を主体的に担う行政機関であり、労働基準行政においても労働者に対する行政サービス及び事業主等に対する指導・監督等を一層効率的・効果的に推進していくことを可能とするものである。
 都道府県労働局においては、総務部門を設置し、管理事務全般を一元的に処理するとともに、労働基準、女性及び職業安定の各行政に係る所掌事務の総合調整、企画、立案等を行うことにより、効率的かつ総合的な行政運営を図ることとしている。
 また、都道府県労働局においては、労働基準、女性及び職業安定の各行政を担当する部門も設置するが、これら3行政が'元的な組織の下で相互に緊密な連携をとることにより、労働行政に関する適切なサービスを国民が享受できるような行政運営体制の構築を図るとともに、各行政に相互に関連する行政課題について、効果的な対応を図ることとする。
 労働基準行政においても、男女雇用機会均等法、労働者派遺法等に関するパンフレット等を活用し、窓口等において関係する法令、指針及び助成措置の周知を図ることを通じて、女性行政及び職業安定行政と適切な連携を図ることにより、労働行政の総合的かつ効果的な運営に貢献していくこととする。



4 情報公開法施行に向けた準備等

 平成13年4月1目の行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)の施行に向けて、文書保存規程の見直し等の行政文書の管理方策の在り方、各行政文書に係る「不開示情報」の有無等の検討等を進め、情報公開に向けた体制整備のための所要の準備を進める。
 さらに、国民の申請負担の軽減を図るため、「押印見直しガイドライン」(平成9年7月3臣事務次官等会議申合せ)に基づき押印の見直しを行ったことについて、その周知及び適正な運用等に努める。