(労相省女性局長から都道府県労働局長あてH12.6.16付け女発第185号通達別添)
コース等で区分した雇用管理についての留意事項
T 趣 旨
U 均等法に違反しないために留意すべき事項
V コース等で区分した雇用管理が実質的な男女別の雇用管理とならず適正かつ円滑に行われるようにするために留意すべき事項
W 均等法等に照らし女性の能力発揮のために行うことが望ましい事項
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T 趣 旨
1 コース等で区分した雇用管理とは
雇用管理の方法として、いわゆる「コース別雇用管理」を導入している事業場がみられます。ここで、「コース別雇用管理」とは、企画的業務や定型的業務等の業務内容や、転居を伴う転勤の有無等によって幾つかのコースを設定して、コースごとに異なる配置・昇進、教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます。典型的には、基幹的業務又は企画立案、対外折衝等総合的な判断を要する業務に従事し、転居を伴う転勤があるコース(いわゆる「総合職」)、主に定型的業務に従事し、転居を伴う転勤はないコース(いわゆる「一般職」)、「総合職」に準ずる業務に従事するが転居を伴う転勤はないコース(いわゆる「中間職」)等のコースを設定して雇用管理を行うものです。また、例えば、一般職群や専門職群等一定の業務内容や専門性等によってコース類似の複数の雇用管理グループを形成し、そのグループごとに賃金、配置、昇進等の面で異なった取扱いをするものや、勤務地のみに着目し、採用した事業場の周辺等に勤務地を限定するとともに、勤務地に限定のない者とは異なる雇用管理を行うもの等いわゆる典型的なコース別雇用管理に類似した雇用管理を行うものもあります(以下、これらをまとめて「コース等で区分した雇用管理」といいます。)。
2 コース別雇用管理をめぐる動き
いわゆるコース別雇用管理は、昭和61年の「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」といいます。なお、当時の法律名は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」)の施行前後に、それまでの男女別の雇用管理制度を改め、総合職、一般職のコースを設定し、コースごとの処遇を行う等のシステムとして、金融機関等の大企業を中心に導入されてきたものでした。
その後も大企業を中心に導入が進み、最近においては中堅企業へも拡大をみせているところです。コース別雇用管理の導入により、基幹業務を担い、将来の管理職候補となる総合職として女性が採用され始め、また、従来補助的業務に従事していた女性についても、転換制度等により、職域を拡大させたり、昇進する女性が現れる等企業における女性登用の一つの契機となったと考えられるところです。
しかしながら、一方で、本来は労働者を意欲、能力、適性や成果等によって評価し、処遇するシステムの一形態として導入されてきたものであり、性別による雇用管理システムではないはずのコース別雇用管理について、その運用において男女異なる取扱いがなされたり、固定的役割分担意識等の結果として、例えば、総合職のほとんどを男性が占め、一般職を女性のみとするなど、事実上の男女別の雇用管理として機能させている事例も多く見られます。また、総合職と一般職の業務内容の違いが必ずしもはっきりしておらず、コース区分の合理性が明確でない事例、一般職の勤続年数が長期化する中でコース区分の合理性やコース間の処遇の格差についての納得を得られにくくなっている事例など、コースごとの職務内容とそれに対する評価や処遇の在り方等が必ずしも実態にそぐわなくなっている面もみられ、現にそうしたことに着目して必要な見直しを行っている企業もみられます。
3 均等法等の趣旨を踏まえた雇用管理の在り方
一般に、企業間の競争が激化する中で、優秀な人材の確保に向け、年功的、集団的な労務管理を個々の職務内容や業績をより反映させた処遇システムに見直したり、特定分野のエキスパートである専門職に対する評価や処遇を高めていくなど、人事システム全体を見直す動きが進んでいますが、これらの見直しに当たっては、均等法の趣旨に沿った雇用管理を徹底することが必要です。
さらに、今後、企業が急速な環境変化に対応していくためには、制度面を改善し男女均等なものとすることに加え、真に性別にとらわれず個人がその能力を発揮でき、処遇される仕組みを整備することが重要です。また、これまでの職場の慣行等により女性の能力開発が十分になされていない場合もあることに留意し、コース等で区分した雇用管理を行う場合においても、女性労働者の能力の積極的な活用に向けポジティブ・アクションに取り組むとともに、どのようなコース等の区分を選択した者についてもその能力を存分に発揮して働き続けられる環境づくりに取り組むことが望まれます。
このため、従来から示してきた「コース別雇用管理の望ましいあり方」について、改正後の均等法に沿った内容とするとともに、女性の能力発揮を促進し、その有効な活用を図るための積極的な取組を推進する観点も加え、コース等の区分を見直したりコース別雇用管理を廃止する企業もあるという最近の雇用管理の実態をも踏まえた上で、典型的なコース別雇用管理に類似した雇用管理についても対象とした通達として、今回新たに「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」として、次の事項について示すことにしました。
(1) 均等法に違反しないために留意すべき事項
(2) コース等で区分した雇用管理が実質的な男女別の雇用管理とならず適正かつ円滑に行われるようにするために留意すべき事項
(3)均等法等に照らし女性の能力発揮のために行うことが望ましい事項
この内容を参考として、適正な雇用管理が行われることを期待します。
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U 均等法に違反しないために留意すべき事項
次に掲げるような事項については、それを行うと明らかに均等法に違反することになりますので、制度運営に当たっては、男女均等な取扱いを確保することが必要です。
○ 「総合職」は男性のみ、「中間職」や「一般職」は女性のみといった制度を作るなど、 一方の性の労働者のみを一定のコース等に分けるといった制度運営を行うこと。
○ 「総合職」をはじめとするいずれのコース等についても男女とも配置とすることがあり得る制度とするなど、形式的には男女双方に開かれた制度になっているが、例えば、「総合職」は男性のみとする慣行があるなど、実際の運用において男女異なる取扱いを行うこと。
○ コース等の各区分における募集、採用の際に、男女別で選考基準や採用基準に差を設 けた上で行うこと(例えば、転勤があることが条件になっているコース等に応募した者のうち、女性に対してのみ、面接等において転勤の意思を確認すること等)。
○ コース等の各区分における配置、昇進、教育訓練等の雇用管理について、男女別で運用基準に差を設けた上で行うこと(例えば、「総合職」であっても女性については営業業務から排除すること等)。
○ コース等で区分した雇用管理を導入、変更又は廃止するに当たって既存の労働者をコース等の各区分に分ける際に、性別を理由に一律に分けたり、一定のコース等に分ける場合に女性にのみ特別な要件を課す等、男女で異なる取扱いをすること(例えば、女性労働者をすべて「一般職」に分けること、男性は全員「総合職」とするが、女性は希望者のみ「総合職」とすること等)。
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V コース等で区分した雇用管理が実質的な男女別の雇用管理とならず適正かつ円滑に行われるようにするために留意すべき事項
ここでは、運用によっては実質的な男女差別的取扱いとなり均等法に抵触する可能性があることから雇用管理上留意すべき事項や、コース等で区分した雇用管理をめぐる労使間のトラブルを未然に防止するという観点も踏まえ、均等法上の均等取扱いを一層進め、より適正かつ円滑な制度運用をするために雇用管理上留意すべき事項を掲げています。
1 コース等で区分した雇用管理による人事制度の適正化、明確化のために留意すべき事項
(1) 労働者の意欲、能力、適性や成果等に基づいて処遇する制度であること
コース等で区分した雇用管理は、本来、労働者を意欲、能力、適性や成果等によって評価し、処遇するシステムの一形態として導入されてきたものですが、実際の運用をみると、職場における固定的な性別役割分担意識等もあって、実質的に性別による雇用管理になってしまっている場合も多くみられます。このような事態にならないためには、固定的な性別役割分担意識を払拭することが重要ですが、それと併せてあらかじめコース等で区分して雇用管理を行う必要性や処遇の違いの合理性についても十分に検討することが肝要です。
また、女性労働者についても、男性労働者と同様にその意欲、能力、適性や成果等に応じて均等な取扱いをすることが均等法上義務づけられており、企業は、性別にとらわれず、個々人の意欲、能力、適性や成果等に応じた雇用管理を実施することが肝要です。仮に、コース等の区分が形骸化し、コース等で区分した雇用管理が実質上男女別雇用管理になっているという実態があるならば、適正な雇用管理がなされるよう、当該事業場における雇用管理制度の見直しを行うほか女性労働者を含め職場全体の意識を変える努力をする等の措置を講ずる必要があるでしょう。
(2) コース等の各区分における職務内容や処遇について、合理性、透明性を高めること
コース等で区分した雇用管理は、個々人の事情や希望に応じた複数の働き方の選択肢を設けることにより、意欲、能力に応じた人材活用を図るためのものであり、労働者が意欲を失うことなくその能力を十分発揮するようにするためには、男女ともに働き方に応じた適正な評価、処遇を受けられるような環境を整備することが重要です。このため、コース等の区分間の職務内容や職務遂行上求められる能力を明確にするとともに、コース等に分ける区分の基準やコース等の各区分間の処遇の差異については、それが職務内容等に見合った合理的なものとなるよう十分考慮することが必要です。また、コース等の区分における職務内容や賃金、資格制度上の位置づけ等を十分に説明し、労働者の納得が得られ、また、労働者が長期的な職業設計を立てることができるように制度運営がなされることが肝要です。採用時にはコース等に分けず、一定の勤務経験を経た後に労働者の意欲、能力、適性等にかんがみてコース等に分けるということも一つの方法として考えられます。
また、このコース等の区分間の差異については、コース等により区分して労働者を募集する場合や、コース等の区分間の転換の機会を与える場合等に十分説明し、応募者が適切なコース等を選択しうるよう配慮することが大切です。
2 コース等の区分の新設、変更又は廃止に当たって留意すべき事項
業務内容は従前の業務とさして変わらないのに、コース等で区分した雇用管理が導入、変更又は廃止されたために将来の賃金や昇格への期待が絶たれてしまうのでは、労働者の就業意欲を低下させるばかりでなく、コース等の区分間の労働者の摩擦の原因ともなりかねません。労働者の意欲を高め、能力を発揮させるためには、男女ともに労働者の能力や成果等を十分評価し、それに見合った賃金等の処遇をすることが必要です。例えば、コースの新設、変更又は廃止に際して、それに伴い処遇を変更する場合においては、その変更内容や必要性を十分に検討するとともに、労働組合及び対象となる労働者本人に対しても十分に説明した上で慎重に行う、あるいは転換制度を活用する等の経過的な措置を設けることにより柔軟な運用を図るといったことが考えられます。
特に、経営合理化の中で、補助的、定型的な業務を行う一般職の廃止を行う事例がみられるところですが、コース等で区分した雇用管理が事実上の男女別雇用管理として運用されていた場合、結果的に女性のみに不利益な効果が生ずることとなることも考えられ、事業主の意図等に照らして均等法上問題となることもあり得ることに留意する必要があります。このような運用がなされていたような場合には、これまでの雇用管理の結果、女性の能力開発が十分に進んでいなかったことも踏まえ、教育訓練の実施等により他のコース等への転換が円滑に図られるようにするなど十分な配慮を行うことが必要です。
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W 均等法等に照らし女性の能力発揮のために行うことが望ましい事項
ここでは、必ずしも均等法上の均等取扱いに抵触するものではありませんが、どのようなコース等の区分を選択した者についてもその能力を存分に発揮して働き続けられる環境づくりが重要であることから、均等法に照らし女性の能力発揮の確保等の観点から行うことが望ましい事項と、育児・介護休業法の趣旨等に照らして行うことが望ましい事項を掲げています。
1 コース等で区分した雇用管理による人事制度の適正化、明確化のために行うことが望ましい事項
(1) コース等により区分する基準において女性が事実上満たしにくいものについてはその必要性等について十分検討すること
男女共通の基準であっても、例えば全国転勤を必要とする等、家事・育児の負担等を考慮すると女性が事実上満たしにくいものがあります。そのような基準を設けている場合には、それが職務遂行やキャリア形成上どうしても必要なものかどうか改めて検討することが望まれます。また、職務遂行やキャリア形成上どうしても必要なものであっても、募集・採用の際に、当該事業場における転勤の頻度等の実績や個々人のライフサイクルに応じた個別事情への配慮の可能性等を示すことにより、将来の職業生活の設計を踏まえた自主的な選択が可能となるような情報提供を行うことが望まれます。
(2) 制度の運用に際しては、各コース等の区分について適正な処遇とするよう配慮すること
従来、ある程度勤続年数が短いことを前提として職務内容等が設定されていた一般職の勤続年数が長期化する中で、その積極的活用が大きな課題となる一方、コース等による区分の合理性や、コース等の区分間の処遇の格差についての納得を得にくくなっている事例もみられます。例えば、一般職についても相応の経験や能力等を要する業務に従事させる場合には、適切に職業訓練等を行うことでその能力の向上、発揮を図り、もって円滑に業務が遂行されるように努めるとともに、例えば労働者の意欲、能力、適性等に応じ総合職への転換を積極的に進めること等により、その経験、能力を十分に評価した処遇が行われるよう配慮するなど、労働者の就業意欲を失わせず、適正な処遇を維持するよう努めてください。
2 労働者をコース等に分ける際に行うことが望ましい事項
コース等で区分した雇用管理を導入、変更又は廃止する際に既存の労働者をコース等の区分に分けるに当たっては、従来の職種のみにとらわれることなく、その時点での労働者の能力を再度評価し、その意思を確認した上で行うことが望まれます。例えば、従来は転勤しないこととされていた労働者であっても、新しいコース等の区分設定によってその処遇の見通し等に変化が生じることにより、転勤のある区分を希望する者もいるはずであり、そうした場合に対応するため、労働者本人の意思を確認した上でコース等に分けることが望まれます。
3 女性の積極的な活用のための取組を行うこと
固定的な男女の役割分担意識に根ざすこれまでの企業における制度や慣行が原因となって、雇用の場において男女労働者の間に事実上の格差が生じている場合において、その格差を解消することを目的として女性優遇の措置をとることは、均等法上許容されるものです。例えば、ある事業場においてコース別雇用管理が行われている場合において、「総合職」の女性が相当程度少ない状況である場合に、「総合職」の採用に当たって女性を積極的に選考することやコース転換制度を積極的に用いて「一般職」女性の活用を図ることも一つの方法として考えられます。
また、過去の経緯から職場で排除されてきた女性に対する採用担当者の固定観念が、企業が求める人材の適正な選考の阻害要因となることを考慮し、例えば研修等を通じて、採用担当者に性別にとらわれず意欲、能力や適性等に応じた採用を行うという方針の徹底を図る等の対策を講ずることも女性の積極的な活用のためには効果的です。
また、応募してくる女性に対し、採用面接の際に女性を活用する意思表示を積極的に行うことも効果的であると考えられます。例えば、総合職で活躍している女性をモデルケースとして紹介することは、意欲のある女性に対する積極的な呼びかけとなるでしょう。
4 コース等の区分間の転換を認める制度を柔軟に設定すること
我が国においては新規学卒採用が中心となっていますが、学校を卒業してすぐの時点では、自分の人生の将来展望もまだはっきりしていないことが多く、実際の仕事についての予備知識も十分とはいえないことから、この段階で一生のキャリアコースを固定的に決めることには無理がある場合も考えられます。実際に働いている中で意欲、能力が培われている場合も多くみられるでしょうし、また、就職から退職までのキャリアの間には、出産や育児、介護等働き方に大きな影響を与える局面に接することもあるでしょう。そのような局面により柔軟に対応できるようにするためにも転換制度を設けるなど、適当な時点で労働者が自らの所属するコース等の区分の見直しをすることができるような制度を整備することは、男女労働者がともにライフステージに応じた選択をすることが可能になるような雇用管理制度を構築するための一つの選択肢といえます。
また、転換制度を設ける場合においても、労働者のニーズを把握した上でどのような転換制度が望ましいのか検討を行うことが肝要です。それに応じて、例えば、
(1)転換が区分間相互に可能であること
(2)転換のチャンスが広いこと
(3)転換の可否の決定、転換時の格付けが適正な基準で行われること
(4)転換者に対しては、これまでのキャリアルートの違いに考慮した訓練を必要に応じ受けさせること
(5)女性の能力活用の観点を含め転換を目指す労働者の努力を支援すること
等に配慮した制度設計を行うことが望まれます。
5 女性の能力発揮に向けての環境の整備を図ること
労働者を個々人の意欲、能力、適性等に応じて処遇していく上で、人事部門のみならず、直属の上司等現場の管理者の意識が重要になってきます。女性が従来行ったことが少ない業務に就く場合などには、必要に応じてバックアップする体制を整えるなど女性の能力が発揮されやすい環境づくりが望まれます。
また、女性の活用のためには、女性が出産・育児に際しても、そのキャリアを中断することなく就業を継続することができるようにしていくことが重要です。そのためには、例えば、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」に基づき休業を希望する労働者に対しては、休業を取得しやすく職場に復帰しやすい環境を作るための制度を整備し、また、休業をせずに働き続けようとする労働者に対しては、短時間勤務やフレックスタイム制などの導入により柔軟な労働時間制度等を整備するなど、実際にどのようなコース等の区分を選択した者にとっても家庭生活との両立を図りながら働くことのできる職場づくりを目指して環境整備をしたり、職業生活と家庭生活の両立支援制度を充実させていくことも重要です。これは、女性のためだけではなく、労働者の充実した職業生活を実現する上で、男女双方に対して役立つものであり、労働者全体のモラール向上や企業にとって必要な人材の確保を図るためにも効果が期待できるものです。
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