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[資料番号] 00114
[題  名] 労働者の健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会中間取りまとめ
[区  分] 健康管理

[内  容]

労働者の健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会
中間取りまとめ
2000.7.14労働省発表



【資料のワンポイント解説】

1.労働省「労働者の健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会」(座長 保原喜志夫 天使大学教授)が行った検討結果のり中間取りまとめとして、平成12年7月14日労働省から発表されたもの。

2.通読してみて、この問題の取扱いは、微妙かつ相当にむつかしいことを実感した。

3.最近、労働者の健康管理を巡って大きな二つの流れがある。一つは、判例(裁判)が使用者の安全配慮義務を広く捕らえようとする傾向にあること。(このことは使用者が行う、労働者の健康情報に基づく就業上の措置のより適正化を求める。) 一つは、労働者の健康情報が基本的に個人情報であり、プライバシーとして保護されるべきものであるとする理念の浸透である。いずれも正当でありながら、二つの理念は衝突する局面も多く、その調整に大きな困難を伴うことが予想される。

4.今回の中間取りまとめは、現状における「当面の対応(処理)」方針を取りまとめたものということもあって、本質的な部分の議論に関しては、問題解決に向けた方針・対応が示されている訳ではない。実務処理においてよく生じる問題点(例えば、法定健診と精密健診・再検査の関係など)や法的な位置づけについて、個別にかつ具体的にその対応方針を整理していく必要がありそうだ。







mokuji

1 労働者の健康情報に係るプライバシー保護に関する動向
2 労働者の健康情報の範囲について
3 用語の定義
4 労働者の健康情報保護の基本的な考え方
5 労働者の健康情報の処理について
6 健康情報の開示
7 小規模事業場における固有の問題
8 その他




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1 労働者の健康情報に係るプライバシー保護に関する動向

(1) 個人情報の保護

 我が国における個人情報の保護に関する法令としては、昭和63年に「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」が制定され、また地方公共団体において個人情報保護条例が制定されているところもある。
 民間部門が保有する個人情報の保護に関しては、自主規制としていくつかの分野におけるガイドライン等が策定されているが、全体を包括的に対象としたものはないのが現状である。平成11年7月、個人情報の保護・利用の在り方を総合的に検討するため、政府の高度情報通信社会推進本部に「個人情報保護検討部会」が設置され、同年11月中間報告が取りまとめられた。それを受け、平成12年2月に個人情報保護の基本法制定に向け「個人情報保護法制化専門委員会」が設置され、さらに検討が行われている。
 これに対して、近年諸外国においても、欧米諸国を中心として個人情報保護法制等の整備が進んでおり、1980年代以降、経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development:OECD)、欧州連合(European Union:EU)等において国際的な基準等が相次いで策定されている。
 


(2) 労働者の個人情報の保護

 我が国の労働者の個人情報保護システムの在り方については、平成9年度から労働大臣官房政策調査部における「労働者の個人情報保護に関する研究会」において検討されており、平成10年6月にまとめられた同研究会報告書では、各企業を含めた関係者が労働者の個人情報保護について認識を高め、幅広く議論・検討がなされることや個人情報保護のための基本的な視点について報告している。
 その中で、労働者の健康・医療情報については、センシティブデータ(特別に機微な情報)の一つとして、その収集・利用について特に制限的に扱うことが必要とされている。
 また、平成11年6月に職業安定法及び労働者派遣法の一部が改正され、有料職業紹介事業者、派遣元事業主等に対する求職者、派遣労働者等の個人情報の適正管理、秘密の厳守の義務について明文の規定が設けられた。国際的には、1996年に国際労働機関(International Labour Organization:ILO)から各国の法令、規則、労働協約等を策定する際に参考とすることができる「労働者の個人情報の保護に関する行動準則(Code of practice on the protection of worker's personal data)」(ILO行動準則)が公表されている。



(3) 労働者の健康情報の保護

 我が国においては、諸外国と異なり、労働安全衛生法及びじん肺法(以下「安衛法等」という。)に基づき、事業者には健康診断の実施、その結果の記録の作成・保管、その結果に基づく就業上の措置の実施等が義務付けられている。
 さらに事業者には、民事責任を十分に果たす上で、労働者本人から提出された診断書等による健康情報も含め、幅広く労働者の健康情報を把握することが求められている場合もある。
 そして、公法上の規制として、安衛法等における健康情報についての守秘義務が、健康診断の実施の事務に従事した者に課せられ、また、保健婦(士)、看護婦(士)を除き、医療関係の法的な資格を有する者には、刑法やそれぞれの資格要件を定める法律の中に守秘義務が規定されている。
 さらに、コンピュータシステムのネットワーク化による情報の目に見えない形でのやり取りが可能となり、労働者の健康情報がより頻繁かつ容易に使用されうるようになったことも、事業場における労働者の健康情報に係るプライバシーの保護の必要性が指摘される背景の一つとして挙げられる。
 このような状況の中で、平成8年1月の中央労働基準審議会建議「労働者の健康確保対策の充実強化について」において、健康診断の実施、再検査の実施、結果の活用、メンタルヘルスの相談に当たって、プライバシーの保護等の問題に十分配慮すること等が指摘されている。さらに、平成8年10月に労働安全衛生法第66条の5に基づき労働大臣が公表した「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」において、事業者は、個々の労働者の健康に関する情報が、個人のプライバシーに属するものであることから、その保護に特に留意する必要があることや就業上の措置の実施に当たって、関係者へ提供する情報の範囲は必要最小限とする必要があるとされている。
 また、日本産業衛生学会、ILO、職業保健国際委員会(International Commission on Occupational Health:ICOH)の倫理規程や指針の検討等、国内外の専門家団体においても労働者の健康情報のプライバシー保護の在り方が検討されている。これらの検討ではいずれも、労働者の健康情報は、正当な目的に従って収集されなければならず、医師その他の専門職が保管し、これらの者のみが使用すべきものとしている。




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2 労働者の健康情報の範囲について

(1) 健康情報の種類・区分

 一般的に、個人情報とは、個人に関する全ての情報であって、かつ、その個人が特定され得る情報であると考えられる。このような考え方によると、労働者の健康情報の範囲としては、安衛法等に基づく健康診断の結果、保健指導や健康相談の記録、こころと体の健康づくり(トータル・ヘルスプロモーション・プラン:THP)に関する情報(健康測定結果、健康指導内容等)、健康保険組合が実施する保健事業(人間ドック等)に関する情報、療養の給付に関する情報(受診記録、診断名等)、医療機関(健康診断を実施する医療機関も含む。)からの診療に関する情報(診断書等)、有害因子への個人のばく露歴等が挙げられる。
 本中間とりまとめにおいては、労働者の健康情報を、その実施等についての法令上の義務付けの程度に応じて、次の4つに分類する。

   a 法定健診結果

    安衛法等に基づいて、その実施が事業者に義務付けられている健康診断(以下「法定健診」という。)に関する情報


   b 努力義務に係る健康情報

    安衛法等及び関連する指針等に基づいて、その実施について事業者に努力義務がある健康診断、健康測定、保健指導等に関する情報


   c 任意の健康情報

    事業者が実施したa及びb以外の健康診断、保健指導等に関する情報(健康診断、健康測定及び保健指導時に実施された、安衛法等及び関連する指針等に基づいて定められている項目以外の項目を含む。)
    a〜cは、事業場内の健康情報である。


   d 事業場の外からの健康情報

    事業者が実施主体ではない健康情報(診断書等の療養内容や健康保険組合の入通院状況等の医療情報を含む。)


(2) 作業環境測定結果について

 作業環境測定結果そのものは健康情報ではないが、特定の労働者がその作業環境下で従事していることが明らかな場合には、個人のばく露歴に類する情報となり、当該労働者に係る健康情報として取り扱われるべきものである。
 しかしながら、直近の作業環境測定結果を作業場内に掲示する等、当該作業環境の状況を当該職場の労働者及び作業環境管理に関係する者に周知することは、労働者の健康障害を防止するために必要不可欠であるため、これらのデータは保護すべき健康情報とは区別して取り扱われるべきと考えられる。



(3) 上司と部下の間の個人の信頼関係に基づく健康情報

 部下から上司に対して個人的に相談された内容については、保護すべき健康情報と一律に位置付けるのは適当でない。しかし、相談を受けた上司が、業務上の必要性からその情報を書面等で保管した場合には、個人情報として位置付けられるべきであり、その処理は他の健康情報と同様に行う必要がある。




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3 用語の定義

  本中間取りまとめにおいては、労働者の健康情報に関する用語を以下のように定義する。


  (1) 健康情報の処理

    健康情報の「処理」とは、当該事業場における事業に関連して行われる健康情報の収集、保管(開示を含む。)、使用をいう。



  (2) 健康情報の収集

    健康情報の「収集」とは、事業者及び担当者が、健康情報を当該事業場における事業に関連して集めることをいう。



  (3) 健康情報の保管

    健康情報の「保管」とは、事業者及び担当者が、収集した健康情報を保存・管理し、その健康情報を廃棄することをいう。



  (4) 健康情報の開示

    健康情報の「開示」とは、当該事業場における事業に関連して収集、保管された健康情報を、本人の請求に応じて、労働者本人にその内容等を示すことをいう。
    なお、開示については、新しい概念であり固有の問題もあることから、本中間取りまとめでは、健康情報の処理とは別項に分け記載することとする。

  (5) 健康情報の使用、利用及び提供

    健康情報の「使用」とは、収集された健康情報が利用及び提供されることをいう。健康情報の「利用」とは、当該事業場における事業に関連して使われることをいい、健康情報の「提供」とは当該事業場における事業に関連しない活動等に供することをいう。




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4 労働者の健康情報保護の基本的な考え方

(1) 個人情報保護の捉え方

 個人情報の処理には、少なくとも明確な使用目的が必要であり、原則的に目的外に処理されるべきものではない。
 個人情報保護の捉え方について、高度情報通信社会推進本部の「個人情報保護検討部会」による中間報告書においては、「個人情報の保護については、私生活をみだりに公開されないという従来の伝統的なプライバシー概念と、近年の情報化の進展した社会においてその侵害を未然に防止する観点から、自己に関する情報の流れを(自らが)管理(コンロトール)するという積極的・能動的な要素を含むプライバシー概念の2つがあるといわれている。」としている。



(2) 労働者の健康情報の保護の捉え方

 健康情報は個人情報の中でも特別に機微な情報として慎重に取り扱われるべきものであり、収集から、保管、使用の各段階において、その保護の在り方について検討しておく必要がある。
 安衛法等では一定の健康診断の実施、結果の記録及びその結果に基づく就業上の措置の実施等が事業者に義務付けられており、また、事業者は民事責任を十分に果たす上で、幅広く健康情報を収集することを求められる場合もある。そのため、プライバシーの保護に対するより一層慎重な対応が求められ、また、事業者は労働者の健康を守る義務と労働者のプライバシーの保護のバランスについて配慮する必要がある。




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5 労働者の健康情報の処理について

(1) 全般的事項

イ 現状と課題

<1> 健康情報に対する関心と認識

 法定健診については、事業者が実施する就業上の措置に必要なのものと位置付けられていることから、健康診断の実施及びその結果の記録・保存については事業者の義務となっている。しかしながら、同時に個人の健康診断結果は労働者の個人情報であることに留意する必要がある。
 ところが、労働者は、法定健診による場合は別として、事業者が何をどのように収集、保管しているのか必ずしも知らないことが多い。また自己の健康情報がどのように使用されているかについても関心が低い傾向にあり、自身で健康情報を保護する必要性の認識が必ずしも高くないのが現状である。
 一方、事業者は、法定健診については法令等に基づきプライバシーの保護に一定の対応を行っているが、それ以外の健康情報については、労働者のプライバシーの保護や健康情報の処理についての認識が必ずしも高いものとはいえない。事業者が任意の健康情報や事業場の外からの健康情報を収集し使用する際には、その収集目的が本人に説明されていなかったり、同意を得ていないケースもある。


<2> 各事業場における処理のルールの不統一

 各事業場における健康情報等の処理に関する内部規定等のルール化が、現在のところ不十分である。そのため、担当者が事例ごとに判断する際に混乱を生じたり、労働者が自らの情報の処理について、不安や疑問を抱く事例が生じている。     



ロ 当面の対応

<1> 関係者の認識の向上

 労働者は、事業場内で自己の健康情報がどのように処理されているのかに関心を持ち、健康情報の保護の必要性について認識を持つべきであると考えられる。また、事業者も、事業場で処理している健康情報すべてが、労働者の個人情報であることに留意し、その保護の必要性を認識する必要がある。
 行政は、関係者の認識向上のために健康情報保護の必要性について啓発を行うことが重要である。第一に、事業者及び労働者双方への啓発を行う必要がある。第二に、産業医、その他労働者の健康管理等を行う医師(以下「産業医等」という。)に対して、プライバシーの保護の観点から、健康情報の処理の在り方等を、産業医研修等を通じて周知させる必要がある。第三に、健康診断を実施する医療機関に対し、各種の健康情報についての保護の重要性を周知させる必要がある。


<2> 処理のルール化

 各事業場においては、前述のa〜dの情報区分ごとに、健康情報の処理の各段階における管理体制等について衛生委員会等で審議し、産業医等や衛生管理者等の参画のもと、ルール化することが必要である。その中では、健康情報を使用する際の使用目的の明確化や、健康情報の事務的な管理等の責任者を明記する等が盛り込まれるとともに、産業医等や衛生管理者等の役割を明確化する必要がある。なお、衛生管理者等に事務的な管理の責任者としての任を行わせる場合には、併せて当該者の守秘義務をルールの中に盛り込むべきである。また、保健婦(士)等は、衛生管理者等の任になくとも、職務の性質上、家庭問題や対人関係といったものまで含めた労働者個人の健康に関わる情報を収集する機会が多いため、事業場の保健婦(士)等の健康情報に対する役割や義務について、事業場におけるルールの中に盛り込むべきである。
 事業者は、事業場で処理している健康情報の保護の必要性や、事業者が必要とする健康情報は必ずしも検査値や病名そのものではなく、就業上の措置や適正配置の観点から必要最小限の情報であることを認識し、これらを踏まえ、健康情報の処理に関するルール化を行う必要がある。



ハ 将来的課題

<1> 安衛法等の健康情報に係る守秘義務の拡大についての検討

 現行の安衛法等では、健康診断の実施の事務に従事した者に対し守秘義務が課せられている。しかしながら、事業場で処理される労働者の健康情報は法定健診結果のみではなく、様々な健康情報が処理されている。
 そこで、安衛法等における守秘義務は、法定健診結果のみではなく、努力義務に係る健康情報、また任意の健康情報、事業場の外からの健康情報についても、その処理に関わった者に守秘義務を拡大することについての検討が必要である。なお、その際には、健康情報の範囲を、当該事業場において安衛法等に基づき労働者の健康確保のために知り得た情報とする等、より明確に示す必要がある。


<2> 労働者の健康情報の管理を産業医等が一元的に担うことの検討

 前述したように、日本産業衛生学会、ILO、ICOHの倫理規程等では、労働者の健康情報は、医師その他の専門職が保管、使用すべきものとしている。これらの考え方から、法定健診結果も含め、労働者の健康情報の処理については、産業医等が責任を持つ体制を検討すべきではないかとの意見もある。例えば、フランスにおいては、産業医の独立性・中立性が保たれつつ、厳しく情報管理が行われており、事業者は、法定健康診断を実施しても労働者の生の健康情報を入手することはできず、適正配置に必要な情報のみを産業医から得ている。
 しかし、このような考え方については、事業者に健康診断の実施及びその結果に基づく就業上の措置等を課す現行の安衛法等の規定や、判例における民事責任の基本的考え方と相容れない面がある。このため、事業者と産業医等について、それぞれの労働者の健康確保等に関する責任の範囲についての検討が併せて必要であり、これら関係者等の十分な理解と合意が得られるよう慎重な検討がなされなければならない。



(2) 健康情報の収集

イ 現状と課題

<1> 法定健診以外の検査による健康情報の収集

 事業者が健康診断として法定健診以外の検査(以下「法定外健診」という。)を実施した場合(法定健診時に同時に実施される場合も含む。)、これらの健康診断の実施や結果の収集等について、労働者本人の同意の取り方が曖昧になっている現状がある。
 また、労働者の生活習慣の改善は産業保健活動の一つとして重要であるが、健康診断の問診の中で、法定項目(既往歴及び業務歴の調査や自他覚症状の有無の検査)以外の、就業上の措置等に直接関係のない家族歴(労働者の血縁関係者が罹患している病名・既往歴等)や生活習慣に関する情報までも、労働者の同意の確認もなく機械的に収集している例がみられる。一方、労働者のほとんどが、このような健康情報の収集について問題意識を感じていないようである。
 このように、事業者、労働者双方ともに法定外健診等による健康情報の収集を、慎重に実施すべきこと等の意識が稀薄なのではないかと思われる。


<2> 事業場における診断書や医療機関からの健康情報の収集

 労働者が病気休業や健康状態を証明する診断書等を上司等に提出する場合がある。このような情報に関しては、例外はあるものの医療関係の法的な資格を有する者には、刑法やそれぞれの資格要件を定める法律の中に守秘義務が規定されているが、それ以外の者についての法的な守秘義務はない。
 また、労働者が病気休業した場合、職場の上司が部下の健康状態について、本人の同意を得ずに医療機関に問い合わせる場合がある。また、産業医等と医療機関の間で、労働者の病状等について本人の同意を得ずに情報の提供が行われている場合がある。


<3> 健康診断実施の場におけるプライバシーの保護

 巡回集団健康診断の会場や事業場内診療所等における健康診断に際し、問診等において医師と受診者との会話が第三者に聞こえる等、受診者のプライバシーが十分に保護されていない場合がある。



ロ 当面の対応

<1> 事業者が法定外健診結果を収集する場合の労働者の同意

 安衛法等において、事業者は、労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めることとされており、労働者も事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとされている。これらの努力義務に係る健康情報については、労働者と事業者が事前に協議し、その情報の収集についてのルールを策定しておくことが必要である。
 また、任意の健康情報についても、事業者がその結果を収集する場合には、本人の事前の同意を得る必要がある。
 なお、事業者に実施及び結果保存の義務がある法定健診と異なり、事業場の外からの健康情報を収集する場合、事業者は何らかの方法により労働者の同意を得ておく必要がある。さらに、健康診断を行う医師は、法定項目ではない家族歴や生活習慣に関する情報等の収集にあたっては、医学的な必要性を充分吟味、判断した上で収集すべきであるとともに、受診者の意思で情報の提供を拒否することもできるよう配慮が求められる。     


<2> 医療機関からの健康情報収集のルール化

 労働者が事業場に提出する診断書等の健康情報については、プライバシーの保護の観点から、誰がどのように収集するかに関して、事業場におけるルールを策定し、そのルールを遵守する必要がある。
 その際に対象となる医療機関からの医療情報については、例えば、「カゼをひいた」といった日常的で直接上司が取り扱っても問題がない場合と「がん」や「HIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)感染症」、「精神分裂病」といった専門家の介在が望ましいものまで範囲が広いため、本人の意向を尊重し、その提出先(上司、人事担当者、衛生管理者等、産業医等)を選択できる等、その収集方法を考慮すべきである。
 また、職場の上司が、原則的に本人(労働者)の同意なしに医療機関から労働者の健康情報を収集すべきではない。
 労働者から提出された診断書よりも詳細な内容(診療経過等の医療情報等)について情報を収集する必要がある場合は、産業医等が、労働者の同意を得た上で、医療機関の医師に対して情報提供を求めるよう事業場内でルール化しておく必要がある。


<3> 健康診断を実施する医療機関に係るプライバシーの保護

 健康診断を実施する医療機関は、巡回集団健康診断の会場等における受診者のプライバシーの保護について、マニュアルの整備等により適切な対策を講ずるべきである。また、事業者は健康診断を実施する医療機関との契約に際して、受診者のプライバシーの保護方策を盛り込んでおくことが望ましい。



(3) 健康情報の保管

イ 現状と課題

<1> 保管の責任と管理体制

 現状では、各事業場で健康診断結果や労働者から提出された診断書等の健康情報がどのように保管されているのか明確ではなく、その保管状況もまちまちである。また保管の担当責任者が誰であるのか明確ではないとの指摘がある。


<2> 一般診療上の健康情報と産業医等として収集した健康情報の保管

 産業医等が当該事業場の労働者に対する一般診療活動を産業医等自身の診療所等で行っている場合に、産業医等として収集した健康情報と一般診療上の情報が明確に区別して保管されていない場合がある。このため、診療情報が、本人(患者)の同意なしに事業場で使用されているケースがある。



ロ 当面の対応

<1> 保管体制のルール化

 事業場では、法定健診結果、努力義務に基づく健康情報、任意の健康情報、事業場の外からの健康情報に分けて保管体制を定めておくことが望ましい。
 保管方法についても、事業場においてルール化し、これを遵守するとともに、健康情報を保管する担当部門は、健康情報の処理の状況(誰がどのような目的で使用したか、等)を記録し、併せて保管しておく必要がある。なお、ルールに基づく健康情報の保管は、産業医等又は衛生管理者等が責任を持って行うことが望ましく、さらに可能な限り事業場組織内で一部門として独立していることが望ましい。


<2> 外部機関における保管責任の明確化

 事業者は、健康診断を実施する医療機関との契約に際して、その機関で収集された労働者の健康情報の保管に関して、プライバシーの保護の観点からの規定を盛り込んでおくことが必要である。


<3> 一般診療記録と健康管理記録の保管

 産業医等が、一般診療活動(事業場内外の診療所における診療)も併せて行っている場合は、産業医等の活動としての健康管理記録と臨床医としての一般診療記録を区別して保管し、事業場への情報提供等に当たっては、いずれの情報か明確に区別した上で必要な対応をする必要がある。



(4) 健康情報の利用

イ 現状と課題

<1> 健康情報の目的外利用

 事業場における労働者の健康情報は、労働者の健康を保持することを目的に、事業者が行う労働者の就業上の措置の実施に利用されるべきものである。
 しかし、実際には事業場において健康情報の利用に関するルールが不十分なために、例えば健康情報が安易に解雇等の理由に利用されるといった労働者の不利益となる利用をされる等の懸念がある。事業場における労働者の健康情報が医学的に正しく理解されないと、その解釈や評価を誤るおそれがあり、過度に就業上の措置を加えてしまう等の場合もある。


<2> コンピュータシステムの課題

 コンピュータの利用が普及したこと等によって、健康情報がコンピュータシステムで取り扱われることが多くなっている。
 外部からのアクセスが可能なシステムで健康情報を取り扱うことは、外部から第三者が不正に健康情報にアクセスできる危険性もある。また、コンピュータシステムの管理に従事する者は、すべての電子情報にアクセスすることが可能であるにもかかわらず、守秘義務に関するルールが明確となっていない。



ロ 当面の対応

<1> 健康情報の利用のルール化等

 事業場で保管している健康情報の利用目的は、事業者が行う就業上の措置に活用することであり、目的に合致しているかどうかの判断基準や、その判断をする者を事業場のルールで明確にする必要がある。
 このルールに基づき個別の事例について判断する者としては、産業医等や衛生管理者等が適当であると考えられる。


<2> 健康情報の目的外利用の取扱い

 労働者個人の健康情報の目的外利用は、原則的に認められない。しかし、労働者の同意が得られた場合には、例外的に利用されうる場合もある。


<3> コンピュータシステムの管理に従事する者の守秘義務と管理体制

 健康情報を取り扱うシステムは、外部からの接続ができないようなシステムとすることが原則と考えられる。
 また、コンピュータシステムの管理に従事する者に対しては、社内規程等で健康情報に関する利用制限とコンピュータ管理上の必要性から情報に接した場合の守秘義務を定めることが必要である。
 なお、コンピュータシステム管理を外部に委託する場合は、委託契約等に守秘義務を盛り込む必要がある。



(5) 健康情報の提供

イ 現状と課題

<1> 労働契約が承継された場合の健康情報の提供

 現状においては事業場内での健康情報の保管の実態も様々であるため、会社の営業譲渡、合併等により労働者の労働契約が別な事業者に承継される場合、元の事業場から承継先への健康情報の提供のされ方も様々である。


<2> 労働力の流動化による健康情報の提供

 雇用慣行の変化と相まって、労働者の職業意識も変化し、今後は自発的に転職するという形で労働者の職場間の移動がより一層活発化すると考えられる。そのような中で、労働者の健康情報がどのように提供されるべきか明確になっていない。
 また、労働者は転職等に伴い、自己の健康情報が提供される可能性があることについて、あまり関心がないのが現状である。


<3> 退職者の健康情報の提供

 現在、在職中に収集・保管された健康情報を労働者の退職後にどのように処理するかについては、ルールがないのが現状である。
 「生涯保健」の観点から、地域保健機関等は、退職者等の「職域」における健康情報の提供を望んでいるようであるが、事業者責任で収集した健康情報をどのように提供することが適当か明確になっていない。


<4> 医療機関に保存されている健康情報の提供

 医療機関等の事業場外に保存されている健康情報については、医療法等の保存義務に基づき、それぞれの機関が保管しているが、誰に、どのような条件の下にその情報を提供すべきかが明確でない。
 例えば、事業者から健康診断を実施する医療機関に対して、健康診断を受診した労働者本人への当該健康診断結果等といった健康情報の開示を禁止する要求が行われていること等が指摘されている。


<5> 個人の健康情報の目的外提供

 本人の同意なしに、生命保険加入時の審査の代用に健康診断結果が提供されている場合がある。
 また、学術的な研究への健康情報の提供に際して、適切な手続きを経ずに個人の健康情報が提供されている場合がある。



ロ 当面の対応

<1> 労働契約が承継された場合

 会社の営業譲渡、合併等により労働契約が承継された場合、事業者が保存している労働者の健康情報のうち、一般定期健康診断に関する情報については、本人を経由して新しい事業者へ提供することが望ましい。
 また、有害因子のばく露等に関する情報や特殊健康診断結果等については、旧事業場で有害作業を行っていた場合、新しい事業場で同様の作業がなければ、当該作業に関するばく露歴や特殊健康診断結果等は新しい事業場で有効に活用される情報とは考え難い。したがって、特殊健康診断に関する情報の提供については、本人の同意を得ることを前提とし、移動前後の作業や作業環境の関連性を考慮し、移動先での健康の保持に重要な情報か否かを産業医等が判断して提供すべきであり、事業者が一律に情報を提供すべきではないと考えられる。


<2> 離職時に健康情報を提供する場合

 本人の意思により、離職等で労働者が事業場から離れる場合は、事業者は労働者本人に健康情報の写しを交付し、新しい事業者や地域保健機関等へ健康情報を提供するかどうかの判断は本人が行うことが望ましい。


<3> 退職後の健康情報管理

 事業者は、定年等による退職者の健康管理を考え、労働者に対し健康情報を自己管理すること等の教育を早期から行うべきであると考えられる。
 また、定年等による退職者の健康情報は、その写しを本人へ交付し、本人を経由して地域保健機関等へ提供することが原則である。本人の同意なく、元の事業者や健康情報を保存している健康診断を実施する医療機関等が地域保健機関等へ直接健康情報を提供することは適当ではない。


<4> 健康情報の目的外提供

 事業者が保存している健康診断結果を生命保険加入時の審査の代用等に提供する場合については、個別に労働者の同意が必要である。 
 公共の利益に資する学術的な研究に個人情報を提供する場合には、何らかの方法で関係労働者の同意を得る必要がある。その際、事業者は、少なくとも研究結果等が公表されるときには、個人が特定できない形となるように、研究者と協議等を行っておかなければならない。




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6 健康情報の開示

(1) 現状と課題

 現行の安衛法等では、事業者に一般健康診断結果を労働者に通知する義務を課している。これは、労働者自身による自主的な健康管理を促すことが目的である。
 また、OECDのガイドラインでは、個人は自己の情報の存在を知らされるべきであるとなっており、事業者は収集した健康情報について、労働者に通知すべきであると考えられる。
 一方、安衛法等に基づく特殊健康診断については、職業性疾病を予防するために事業者が職場環境の整備や予防措置を徹底することにつなぐことが目的である。
 そのため、労働者への結果の通知を義務付けることまでは必要ないとの考え方から、事業者に対して受診者である労働者本人への通知義務は課しておらず、受診した特殊健康診断の結果を労働者本人が把握していない場合もある。



(2) 当面の対応

 事業者が保管している法定健診結果、努力義務に係る健康情報、任意の健康情報、事業場の外からの健康情報は、本人の求めに応じて原則的には開示されるものと考えられる。しかし、産業医等が行った保健指導における記録や、診断名や治療記録等の中には、必ずしも開示することが適切でない場合もあることに十分留意する必要がある。また開示される前提として、事業者は、それらの健康情報の収集・保管状況について、労働者本人が知り得るように配慮しなければならない。
 また、特殊健康診断の結果については、労働者の作業管理への意識の高揚や、作業環境改善への協力を得やすくするため、法令上の通知義務がなくとも、事業者が、労働者本人への通知に取り組むことが望ましい。



(3) 将来的課題

 個人情報の開示については、労働者の健康情報の場合だけでなく、重要な課題として、現在様々な分野で検討されているところである。このため労働者の健康情報の開示についても、これらの検討の動向等を踏まえつつ今後さらなる検討が必要である。
 また、現行の安衛法等では、事業者に特殊健康診断結果の通知義務を課していないため、労働者が自身の受けた健康診断の結果を知らない場合がある。特殊健康診断結果を通じて、労働者の作業環境管理への意識の高揚や、作業環境改善への協力を得やすくするため、さらにOECDのガイドラインに示されているような国際的な動向にも対応したものとなるように、事業者に特殊健康診断結果の労働者本人への通知義務を課すことを検討する必要がある。




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7 小規模事業場における固有の問題

(1) 現状と課題

 小規模事業場においては、健康診断の実施率が低いことや有所見率が高いこと等、必ずしも労働衛生活動が活発とはいえない状況にある。
 職場における労働者の健康管理には、産業保健スタッフによる衛生管理体制の確立が必要であるが、小規模事業場では、人的資源や経営基盤が十分でないことが多く、事業場内において健康情報の処理体制を整備することが難しいと考えられる。



(2) 当面の対応

 小規模事業場において、健康管理を行う医師や衛生管理者等がいない場合には、健康情報の処理は衛生推進者等がその職務を果たすべきであると考えられる。
 その他に、産業医等や衛生管理者等が選任されている等、健康情報の管理体制が整備されている事業場(本社、支社等)が近くにある傘下の小規模事業場の場合には、これらの事業場で小規模事業場を含めた健康情報の保管を行うことが望ましい。



(3) 将来的課題

 健康情報の管理体制の整備が困難な小規模事業場の場合は、事業場外の機関(例えば健康診断を実施する医療機関や、地域産業保健センター等)に保管を委託する等適切な健康情報の管理方法について検討する必要がある。





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8 その他

(1) 現状と課題

イ メンタルヘルスに関する健康情報の処理

 メンタルヘルスに関する健康情報は、他の健康情報と異なり、本人の自覚と病状との乖離、あるいは誤解や偏見を招きやすいといった側面もあり、周囲に理解されにくく、職場の協力が得られにくいといった問題がある。
 また、メンタルヘルスに関する情報も、軽いストレス負荷がかかっているような場合から入院加療を要した労働者が職場復帰するような場合まで、範囲が広く、情報の内容に応じた処理をする必要がある。



ロ 感染症や遺伝に関する健康情報の処理 

 HIV感染症やB型肝炎等の感染症情報や、色覚検査等の遺伝情報のような誤解や偏見を招きやすい健康情報は、社会的差別につながる可能性が大きい。
 労働安全衛生法に基づく感染症の検査としては、海外派遣労働者の健康診断の中に、医師が必要と認めるときに実施される検査項目として、B型肝炎ウイルス抗体検査がある。この海外派遣労働者の健康診断は、海外に派遣する労働者の健康状態の適切な判断及び派遣中の労働者の健康管理に資するため、海外勤務中に発生するおそれのある疾患、特に肝炎に関する検査項目としてB型肝炎ウイルス抗体検査を実施することとされている。しかし、B型肝炎については、職場において誤解や偏見に基づく問題も現実的に発生している。  
 また海外において就労する場合にHIV感染症に関する情報の提供を要求している国があるため、事業場でHIV感染症に関する情報を処理しなければならない可能性がある。 
 感染症に関する情報については、軽微な感染症(一般のカゼ等)から、職場において他の労働者に伝染させるおそれが著しい感染症(結核等)まで、それぞれの感染症としての軽重を考慮し、その処理を考えるべきである。 
 また遺伝に関する研究の進歩により、個人の遺伝子解析がすすみ、その解析方法も平易となってきている。今後、職域においても様々な遺伝子スクリーニングの利用が拡大するおそれがある。 



(2) 当面の対応

イ メンタルヘルスに関する健康情報の処理 

 メンタルヘルスに関する健康情報の収集、保管については、産業医等や衛生管理者等がその健康情報の内容を判断し、その処理を協議することが重要である。 
 軽いストレス等の精神的負荷の程度が軽く、本人に現状の判断能力がある場合、産業医等やその他の産業保健スタッフ(保健婦(士)、衛生管理者等)は、情報を共有する範囲(内容や人)を最小限にするよう努めなければならない。
 一方、メンタルヘルスに関し病状が重篤な場合、本人が適正な判断を行うことが困難であることも考えられる。このような際には、産業医等や衛生管理者等は、本人の同意とは関係なく、本人の主治医から適切な情報の提供を受ける必要がある場合もある。しかしながら、本人の利益を考えることが出来る家族等の同意を得るよう最大限努める必要はある。また、職場では上司や同僚の理解と協力が必要であるため、産業医等や衛生管理者等は、上司やその職場に適切な範囲で情報を提供し、その職場の協力を要請することも重要であると考えられる。 
 なお、上司が交替した後は、メンタルヘルスに関する情報は、産業医等や衛生管理者等から新しい上司に伝達するようルールを策定することが必要である。



ロ 感染症や遺伝に関する健康情報の処理 

 HIV感染症やB型肝炎等の感染情報や、色覚検査等の遺伝情報の処理は、特に慎重に検討を要する課題である。これらは、本人の努力(治療等)で改善できる健康情報ではなく、また、事業者が就業上の配慮を行うことは、しばしば困難である。そのため、事業者は、それらの情報を積極的に収集すべきではないと考えられる。 
 特定の国における就労に際して、渡航先からHIV感染症等の特定の感染症情報を要求される場合は、労働者本人が任意で処理するべきである。 
 その他の感染症情報については、それぞれの感染症としての内容を考慮し、その情報の取扱いについて産業医等や衛生管理者等が協議した上で判断することが必要である。この場合、軽微な感染症に関する情報まで対象とする必要性はないと考えられる。 
 ただし、他の労働者に伝染させるおそれが著しい結核等の場合、事業者は事業場内で伝染防止対策を講ずる必要がある。そのため、公益性の観点から、産業医等や衛生管理者等、外部の専門家と協議した上で、本人の同意なしに必要な情報を職場内外で使用せざるを得ない場合もある。このように、感染症情報の収集、利用に公益性を優先せざるを得ない場合もあるが、その際にも慎重な取扱いが行われるべきである。 
 遺伝情報については、職域においては処理しないことを原則とすべきである。
 


(3) 将来的課題 

 海外派遣労働者の健康診断において、医師が必要と認めるときに実施される検査項目のうち、B型肝炎ウイルス抗体検査については、海外派遣労働者の健康診断に関する規定の制定当時は、広く日本にB型肝炎ウイルス保有者がいる可能性や、B型肝炎を発症すれば劇症化しやすいと考えられていた。 
 しかし最近は、B型肝炎については、母子垂直感染によるキャリア化を防ぐ事業が実施される等、当時と比べ、B型肝炎ウイルス抗体検査の必要性は低くなっている。むしろ、B型肝炎だけでなくC型肝炎等も含め、日常生活で感染しないことが明らかである感染症については、日頃の注意事項(事故の際の血液取扱い等)に関する健康教育等を実施すべきであり、個人情報の保護の観点からは健康診断項目からの削除を含め、その取扱いを検討すべきである。 



  
おわりに

 労働者の健康情報は、事業者が適正に就業上の措置を行い、労働者が心身共に健康で働くために収集される大変重要な情報の一つであり、かつ個人情報の中でも特別に機微にふれる情報である。そのため、今回の中間取りまとめにおいては、資格要件等を定める法律の中に守秘義務が課せられる者も含め、関係者の認識の向上を図ること、各事業場内のそれぞれの事情を踏まえた上で健康情報の処理に係るルールを策定すること等の提言を行ったところである。これらの内容が参考とされ、それぞれの事業場等における対策が行われることが望まれる。 
 しかし現状では、健康情報が、事業者や健康情報を処理する者の個人情報保護に対する認識が不十分なために、その目的を超えた情報の収集や使用が安易に行われたり、情報の内容が不用意に漏洩する等といった状況がある。そのため、当該労働者の気づかないうちに、プライバシーが侵害されているという事例も見受けられる。このような場合、当事者にはプライバシーを侵害しようとする積極的な意図はなく、むしろ何気ない日常的な行動や発言に起因するものが多いことから、事業者や個々の労働者等が、健康情報が保護されるべきものであるとの認識を持った上で、常に行動することが最も効果的な対策ということができよう。  
 労働者の健康情報の保護については、事業者の民事上の責任とのバランスや、他の分野を含めた個人情報保護に係る政府全体の取り組みの情勢を踏まえ、慎重かつ適切な対応が望まれるものである。そのため、本検討会における中間取りまとめを踏まえて、今後、行政としての対応も含め、さらなる検討が継続される必要があるものと考えられる。


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労働者の健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会メンバー名簿


                                 (敬称略)

 井上 温    日本ビクター株式会社人事部安全健康管理室長
 宇都木 伸   東海大学法学部 法学部長
 加藤 隆康   トヨタ自動車株式会社安全衛生推進部健康サービス室長
 高瀬 佳久   日本医師会常任理事
 鳥井 弘之   日本経済新聞社論説委員
 中桐 孝郎   日本労働組合総連合会総合労働局雇用・労働対策局次長
 中嶋 士元也  上智大学法学部教授
○保原 喜志夫  天使大学教授
 堀江 正知   日本鋼管株式会社京浜保健センター長
 松本 恒雄   一橋大学法学部教授
 柚木 孝士   医療法人崇孝会北摂クリニック理事長

○:座長


                                (五十音順)