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「長期休暇(L休暇)」の普及に向けて
【資料のワンポイント解説】
1.「長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議の報告書」である。
提言内容は、特に目新しいものはない(ゆとり休暇推進要綱の焼き直しといったところのようだ。) いうならば、日本人の休暇取得問題に係るネック(問題点)は、既に指摘され尽くしているということでもあろう。
2.大企業で働く労働者に、休暇の取得を自らの昇進と不必要に絡めて考える傾向は依然根強いものがある一方、中小、特に小零細事業場に至っては「(有給)休暇制度」自体が適正に運用されていないことが多い。(小零細事業場にとって、労務問題のうち、いま、何に触れられたくないか、と問われればそれは「休暇問題」なのである。)働く環境、企業規模によって抱える問題点には相違があるが、「家族・家庭生活の在り方」や「地域社会との関わり」といった視点を軽視、欠落させる姿には、共通するものがある。
3.報告書の提言のポイントは、「1週間程度を最低単位として2週間程度の休暇が、労使の負担を著しく増やすことなくとれるように」という点にあるのだが、過去の経緯からするなら、これを、目に見える形で定着させるためには相当の困難を克服する必要があるだろう。
「長期休暇(L休暇)」の普及に向けて −しっかり休み、生き生き働く「いきいきライフ」の提案− 平成12年7月31日 長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議 政府は、平成11年11月に策定した「経済新生対策」において、ゆとりある勤労者生活の実現、家庭と地域の連携強化等により少子・高齢化社会に適切に対応するため、長期休暇制度の早期実現に向けた国民的な運動を展開することを盛り込んだ。本国民会議は、この「経済新生対策」を受け、労働大臣の委嘱を受けて開催されたものである。広く国民各層を代表し、家庭生活との関係を念頭に長期休暇の普及に向けて国民的な合意形成を図るため、平成12年1月31日より5回にわたり、休暇の取得状況と働く人の意識、長期休暇を視野に年次有給休暇の取得・活用を進める仕組みづくり、長期休暇の意義や効果など広範な論点について論議を重ねてきた。 我が国経済は、厳しい状況をなお脱していないが、景気は緩やかな改善が続いており、各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響に加え、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが徐々に強まっている。一方、雇用情勢は求人が増加傾向にあるなど改善の動きが見られるものの、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しい。 こうした中、「休暇」の普及促進を論ずること自体、種々の困難を伴うことは参集者全員が認識しているところである。しかし、経済・雇用情勢が厳しい時期であるからこそ、「雇用の安定」という差し迫った課題に取り組むことに加え、「休暇」に関する職場におけるルールづくりの工夫を通じ、目前に迫った新しい世紀に向けて明かりをともすような取組が必要であるとの考えの下、以下のとおり意見を集約したものである。 1 休暇の取得状況と働く人の意識 (1) 年次有給休暇はどの程度取得されているか 政府は、年間総労働時間1,800時間の実現に向けて、週40時間労働制の定着及び所定外労働の削減と並んで年次有給休暇の取得促進のための取組を、労使関係者の理解と協力の下推進してきた。その結果、我が国の平成11年度の年間総実労働時間は1,848時間となり、10年前に比べ240時間の減少となった。これをドイツ及びフランスと比較すると300〜450時間程度長いものの、アメリカを下回り、イギリスと並ぶ水準となっている。 しかし、年次有給休暇に限れば、その付与日数は、平成5年の16.3日から平成10年の17.5日へと、1.2日増加しているにもかかわらず、実際に取得された日数は、平成5年、平成10年共に9.1日で変化していない。その結果として、取得率は56.1%から51.8%へと低下している。 欧米では、休暇は高い割合で消化されている。我が国では、年次有給休暇は労働基準法に基づく労働者の権利であり、原則として任意の時季に取得できるものでありながら、現実には十分に取得されておらず、結果として5割程度しか取得されない状況となっており、この点で欧米との差が顕著となっている。 (2) 休暇の取得について働く人はどのように考えているか 当国民会議として労使を対象に休暇をめぐる意識等について調査研究(注1)を行ったところ、年次有給休暇取得に関する姿勢について「たくさん休む」と答えた労働者は2割程度に過ぎず、「基本的には休まない」、「周りの人が休む程度には休む」がいずれも4割程度あるなど、約8割の労働者は主体的に休もうとはしていない。さらに、年次有給休暇取得について「ためらい」を感じている労働者は68.6%にのぼり、その理由として「みんなに迷惑がかかると感じるから」、「後で多忙になるから」と回答している。 こうした結果の背景にあるものとして、働く人の中に「働くこと」にのみ生きがいを見出すという意識、価値観があるのではないか、また、「働く」ということと「生活」が切り離せず、仕事の面白さにのめり込み、結果的に、たとえ有給であっても休暇を取らないことにつながっているのではないか、との指摘もある。 他方、こうした意識については、若い世代を中心に近年変化が進んでいるとも考えられる。同調査研究によると、賃金が減少しても休暇が増加することを選好する層が3割程度いることも注目すべき結果である。 (3) 休暇がとれた場合にどのような活動を行うか 休暇が取れた場合にどのような活動を行うかでは、休暇の長さによって活動内容に明確な差が現れる。同調査研究によると「1〜3日」の短期の休暇では「休養」を挙げるものが多い。これに対し、休暇日数が「1〜2週間」では、「旅行」が他を引き離して圧倒的に多く、「1〜2か月」では「旅行」が減少し、代わりに、「研修コースへの参加」、「海外等への短期留学」などが増加する。このように、まとまった日数の休暇を取得できれば、単なる休養ではなく、旅行や自己啓発など目的を決めて活用したいという労働者が多い。 長期の休暇が有意義なものとして定着するためには、家族を含めて過度の費用負担を伴うことなく充実して過ごせる「受け皿」が必要であると考えられる。例えば、家族全員で保養のため施設に長期滞在することを想定した場合など、費用の増嵩が原因で活動を断念する可能性があり、希望にかなう活動にあてられないことが、休暇取得の意欲を損なっていると考えることができる。 2 しっかり休み、生き生き働くために−「長期休暇(L休暇)」の提案− (1) 休暇の効用を発揮しやすくするための社会としての取組の必要性 我が国において休暇取得が1にあるように低調となっている理由としては、有給であることが保障されていても企業の人事・労務管理の在り方や経営管理の在り方に起因し、生じる休暇の「見えないコスト」の存在があげられる。さらに、その背景には日本人の勤労に係る意識や価値観を反映した我が国の社会システムの在り方があるものと考えられる。 こうした企業経営や社会システムについては、永久に不変なものではなく、現に動的に変化しつつある。とはいえ、個人や個別企業のレベルにおける努力に期待するのみでは、こうした構造的要因に起因すると思われる休暇の取得が低調である状況の改善が進むことは望めない。 また、休暇には様々な効用が考えられるところ、それらがより発揮されるようにするためには、突発的に断片的な日数の休暇が取得されるよりも、計画的にまとまった日数の休暇が取得される方が有効と考えられる。そのための何らかの「仕組み」をつくり、これが定着するよう、社会全体として取り組むことが必要である。 (2) 「長期休暇(L休暇)」の提案 本国民会議は、上記(1)を踏まえ、活力をもって生き生きと働くためにも、しっかりと休み、働き方や家族・地域社会との関係を含めて生き方(Life)を考える契機となるような長期(Long)の休暇として、以下のような「長期休暇(L(エル)休暇)」の仕組みが社会のルールとして普及・定着するよう取り組むことを提案したい。
休暇の使途、効用は様々であるが、少なくとも1週間を単位とし職場から離れることによりその幅が広がるものと考えられる。一方、これまでも触れているとおり、経済情勢をみると景気は緩やかな改善を続けているが、雇用・失業に係る情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど依然として厳しい。こうした中、週休2日制の普及状況と年次有給休暇の平均的な取得残日数(8日程度)からすれば、週休日(土、日曜日)と年次有給休暇とを組み合わせた2週間程度の連続した休暇を目標に、そこに至るステップとして1週間程度のものに分けることも含め、まとまった日数の休暇の実現を目指すこととしてはどうか。
現在でもゴールデンウィークや夏季、年末年始を中心に連続した休暇を独自に制度化している企業が相当数存在しており、これらの時期には、学齢期の子を含め家族がそろって行動しやすい、職場での理解が得やすいなどの長所がある。 他方、休暇の時期的な集中に伴い、鉄道、航空、道路などの交通機関やレジャー・宿泊施設の混雑、それに伴う交通費・宿泊費等の高騰などの短所もみられる。特に季節的要因などによる業務の繁閑の差の大きい職場では、業務のピークの時期に多くの労働者が集中して休暇を取得すると、事業の運営に大きな支障をきたす。 このため、労働者の希望と使用者の業務上の都合とをうまくマッチさせ、両立させる工夫として、例えば、四季の変化に富む我が国の風土的な特性を生かせるよう、輪番で各個人が連続して休暇を取得する希望の時期を調整し、計画化するなど休暇時期の分散化を図ることにより、休暇中の渋滞、混雑を緩和し、休暇の「品質」を高めるとともに、業務遂行との両立に十分配慮することとしてはどうか。
「長期休暇(L休暇)」については、当該事業場の全ての労働者が取得できることが望ましい。現下の経済・雇用失業情勢の下、企業の規模、業種、地域等の事情により、全員が毎年取得することは当面困難とする事業場は少なくないものと見込まれるが、このような事業場においても、合理的かつ公平なルールの下に休暇の必要性が高い対象者を絞り込み、こうした者から順次計画的に取得を進めていくこととしてはどうか。 例えば、現状では休暇が取得しにくいと考えられる中高年齢者、とりわけ管理職や業務が集中している者について、まず、休暇が取得できるような仕組みとすることが考えられる。 また、育児・介護を行う者(育児・介護休業法による休業から職場復帰し、なお、仕事との両立に課題を残している者など)、ボランティア活動従事者などについては、目的別の休暇制度の整備状況もみつつ、この「長期休暇(L休暇)」の対象とすることも考えられる。加えて、職業生活が長期化する中で、職業生活の節目に「長期休暇(L休暇)」を取得し、国内外の大学院に通うなど長期にわたり自己啓発・能力開発を行うことも重要と考えられる。
「長期休暇(L休暇)」の仕組みについては、職場における関係者の合意と納得があって初めてルールの形成・定着が可能になる。このため、労働基準法に規定する計画年休制度も活用しつつ、職場の労使間で十分なコミュニケーションの下、実情に即した工夫によりルールづくりを図っていくこととしてはどうか。 3 関係者に期待される取組 2で提案した「長期休暇(L休暇)」の仕組みは、関係者の取組により社会の雰囲気が醸成され、普及・定着が進んでいくことが期待されるものであり、各企業において労使の話し合いを通じて仕組みが具体化され、個々の家庭において家族の話し合いを経て有効に活用されることが望まれるものである。 本国民会議は、上記2の「長期休暇(L休暇)」の仕組みの普及・定着が進むために、関係者がそれぞれの場所において次のような対応をすることを提案したい。 (1) 個人・家庭−休暇について家族と向き合いながら個人が考える− 働く人は必ずしも雇用労働者に限られず、また、いわゆる「会社人間」型の人ばかりではない。1日は24時間という誰にとっても共通の条件の下、働き方を含めた生き方は多様であることに留意したい。 まず、休暇の目的については働く人それぞれが考えることであり、その際、家庭、家族と向き合い、休暇が家族全員のためのものとなるようにすることが望まれる。 また、家族の中で、特に高校生や大学生になった子供の場合、旅行など家族で過ごす機会が少ないものと見られるが、これは、「個の確立」や自立の意味を誤解して、子供が家族からやたらに離れたがり自立しているつもりで孤立していることが多いのではないかと考えられる。 このように「個の確立」という観点は、家庭、職場を通じ休暇の取得の際に重要なものであると考えられる。また、同時に休暇の取得が「個の確立」を促すであろう。 (2) 職場の労働者と使用者−企業全体の在り方を見直す− 年次有給休暇の取得に「ためらい」を感じる理由として、「みんなに迷惑がかかると感じるから」、「後で多忙になるから」をあげる人が多いことから、休暇の取得を促進するためには、単に休暇制度を設けるにとどまらず、労務管理や業務遂行体制、組織、社内風土等を含め企業全体の在り方について労使が話し合いを重ね、合意形成を図りつつ改善していくことが必要と考えられる。 こうしたことから、労使で「長期休暇(L休暇)」を導入するに当たっては、これをとりやすいよう業務遂行体制・組織・社内風土等の在り方の見直しを進めることが必要である。具体的には、業務内容の共有化・標準化、情報機器の一層の活用や労働者の能力開発による業務の効率化を図ることが考えられる。 また、休暇の取得を妨げる要因としては、業務量との関係での要員の問題も大きい。このため、「長期休暇(L休暇)」の導入を図る機会に、「集中して密度濃く働き、無駄な仕事はしない」という意識を労使が共有する下で、衆知を集め仕事の仕方に関し創意工夫をこらし、適正な要員配置に向けた見直しや派遣労働者の活用等多様な雇用形態の導入による代替要員の確保などに配慮することが望まれる。 (3) 関係行政の役割 「長期休暇(L休暇)」は、その性格上、法令による強制によって普及・定着させることは期待できない。政府は「長期休暇(L休暇)」の積極的意義を明確にし、その普及に取り組む姿勢を明らかにした上で、誰にとっても一日は24時間という共通の前提の下で、多様な個性を持ち主体的かつ有意義に活動したい働く人や企業をサポートするよう努めることが必要であろう。 実際に労使が「長期休暇(L休暇)」の仕組みについて工夫するに際し、その意義・効果や導入手法等について議論を深めるに当たっては、すでに連続休暇を実現している先駆的な企業の取組例などが参考となると考えられる。 加えて、休暇の実績、例えば、有給休暇の取得率と従業員満足度、顧客満足度の関係などを含め、政府は休暇と生産性、経営との関係を研究するとともに、そこでの成果を上述の先駆的な企業の好事例と合わせて積極的に周知啓発することが必要であろう。 特に、現在の厳しい経済情勢、とりわけ厳しい経営環境にある中小企業において「長期休暇(L休暇)」を普及・定着させることには困難が伴うものと見込まれる。 このため、「長期休暇(L休暇)」の仕組みを先駆的に導入する中小企業でモデルとなりうるものに対して地域性を考慮し支援を行うとともに、そこでの導入の成果や問題点の克服の状況を積極的に広報して、特に中小企業において「長期休暇(L休暇)」の仕組みの導入に向け取組が進むようにすることも一案であると考えられる。 4 「長期休暇(L休暇)」への期待 本国民会議としては、提案に係る「長期休暇(L休暇)」が定着することにより、我が国社会に以下のような効用をもたらすことを期待している。
休暇は働く人の心身のリフレッシュをもたらす。特に技術革新、情報化の進展等による労働環境の変化や国際競争の激化により増大する働く人の精神的疲労やストレスを解消し、健康を維持増進する効果が考えられる。職業生涯の長期化や職業環境の急速な変化の下、職業生涯を通じて健康で充実した職業生活を送るため、節目節目に一定期間職務を離れることにより、心身の疲労回復を図り、その後の人生設計をじっくりと考える機会をもたらすことも期待される。
仕事と家庭の両立支援のために、育児休業、介護休業などの特定の目的に関する休暇(休業)の制度は既に法制化がなされている。「長期休暇(L休暇)」は、これらを補完し、育児、介護を含め広く家庭責任の遂行を容易にし、仕事と家庭の両立を促進する効果が見込まれる。 また、家族で過ごす時間が増加し家庭の団らんやきずなの回復につながるため、育児、介護、教育を始め、家庭内暴力なども含め家族が直面する課題について主体的に取り組み、対処する契機となりうるものと期待される。
ボランティア活動やNPO活動などについて社会的な関心・期待が高まっているが、「長期休暇(L休暇)」は働く人がこうした活動に打ち込むことができる時間的な余裕を与える。こうしたボランティア活動、NPO活動などは、家族が直面する育児、介護、教育などの問題に、家庭が主体的に取り組み、解決する契機となることが期待でき、今後我が国が直面する少子高齢化社会への適切な対応につながると期待される。 また、環境問題の解決やまちづくりなどにも寄与するものと期待される。
「長期休暇(L休暇)」は、国内の学校、教育訓練機関等に通学することや海外への留学など自己の能力を高める活動に活用できる時間を創造する。また、各 種教育訓練機関等で学ぶに至らなくても、趣味やレジャー、旅行などを通じて、日頃職場では体験できない経験をし、職場以外の人的ネットワークを形成することが見込まれる。これらにより、働く人の知識のみならず心身も成長させるような多面的な効果が期待される。
企業が差し迫った経営課題として、「ローコスト経営」の徹底だけでなく顧客満足度の向上を図るに際し、顧客満足度向上に従業員の気持ちを向けるためには、従業員満足度を向上させることが必要である。そのためには、従業員が今後の人生設計をきちんと構築でき、また、家庭や地域社会に根ざした上で働くことが必要であると考えられるが、この観点において、「長期休暇(L休暇)」が役に立つと見込まれる。 また、経営の成功要因は「人」を得ることと言われるが、「長期休暇(L休暇)」は、「いつでも取れる」はずが現実にはとれていない年次有給休暇が確実に取得できる点で、時間的ゆとりを重視する労働者から評価を得、導入企業の人材確保に寄与するものとなろう。そして、従業員に「多忙な会社生活の中で『間』を持つことの重要性」を知ってもらい、従来の勤勉を大事とする価値観のみから、ゆとり、面白さ、人と人との出会いの尊さを求める価値観を併せ有するようにすることが、企業の一員として、目まぐるしく変化する今日の社会に的確に対応することにつながるものと考えられる。 さらに、職場の上司がまとまった日数の休暇を取っている間に、部下が責任を持って仕事を遂行するよう任されることで、その職務遂行能力が高まることが指摘されている。「長期休暇(L休暇)」の波及効果として、職場において徐々に権限委譲の仕組みが出来上がり、職場ごとの生産性が向上し、企業が活性化することが期待される。
休暇取得者の余暇活動によりGDPの6割を占める消費拡大、一種のワークシェアリング効果により生まれる追加雇用需要、業務の効率的処理のための省力化投資による設備投資の促進などの経済効果が見込まれる。 また、心身のリフレッシュにより、労働能率が向上するとともに、「長期休暇(L休暇)」を自らの能力開発に振り向けることによる労働者の能力の向上が期待され、これらは、先進国の中では低いと言われている労働生産性の向上の契機となる。 さらに、21世紀初頭には、我が国において初めて労働力人口の減少が現実のものとなる中で、「長期休暇(L休暇)」により、女性や高齢者など非労働力人口が労働市場に参入することで、我が国の労働力を維持する効果が期待される。 当国民会議として、長期休暇の経済効果に関し調査研究(注2)を行ったところによると、2001年より1人当たり平均の年間休日を毎年6日ずつ増やすと、結果として、経済成長率を1年目で0.8%、5年目でも0.1%上昇させ、就業者数を1年目で8万人、5年目で61万人を増加させる効果が期待される。 5 新しい世紀に対応し、社会の活性化を図るひとつの契機として 20世紀最後の10年は、我が国にとってバブルの崩壊とこれに引き続く経済情勢の低迷が続いた年代であった。現在、景気は緩やかに改善をみつつあり、また、少子・高齢化の進展、女性労働者の増加などの構造的変化は続いており、若年者を中心とした勤労者意識の多様化等に対応して、自律的、主体的な働き方を希望する者が増大している。他方、「家族が大切」という意識は国民に共通しているものの、少子化や核家族化、都市化の進展とともに、これまで子供達に対人関係のルールを教え、自己規律や共同の精神をはぐくみ、伝統文化を伝えるといった役割を担ってきた家庭や地域社会の影響力の著しい低下が指摘されている。このことが、いじめや不登校、少年による凶悪事件の多発、さらには家庭内暴力の問題など様々な社会問題が生じる背景にあることが言われている。 新しい世紀を目前にしたとき、景気の回復を図り、雇用の安定という差し迫った課題に対処するとともに、国民ひとりひとりがしっかり休んで家族と向き合うなどし、活力をもって生き生きと働くことの実現を図ることにより、もって、我が国社会の閉塞感を払拭するひとつの契機としたいと考える。提案に係る「長期休暇(L休暇)」が今後、様々なレベルでの関係者の話し合いを通じ普及・定着することを期待したい。 注1 三和総合研究所「長期休暇に関する労使の意識調査」 注2 三和総合研究所「長期休暇の経済効果に関する調査研究」 長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議参集者 (五十音順、敬称略) 浅地 正一 日本ビルサービス株式会社社長 井戸 和男 天理大学教授 稲上 毅 東京大学教授 岩田 三代 日本経済新聞社生活情報部編集委員 奥井 功 積水ハウス株式会社会長 ◎河合 隼雄 国際日本文化研究センター所長 草柳 文恵 インタヴュアー、キャスター 澤田 浩 レジャー・サービス産業労働組合連合委員長 鈴木 勝利 全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会委員長 鈴木 忠雄 メルシャン株式会社社長 清家 篤 慶應義塾大学教授 高木 剛 ゼンセン同盟会長 立石 信雄 オムロン株式会社会長 津田 淳二郎 情報産業労働組合連合会委員長 南雲 光男 日本商業労働組合連合会会長 野中 ともよ ジャーナリスト 濱中 昭一郎 日本通運株式会社会長 ジョージフィールズ フィールズアソシエイツ代表 宮崎 緑 千葉商科大学助教授 山崎 美貴子 明治学院大学副学長 渡辺 弥栄司 財団法人自由時間デザイン協会理事長 ◎は座長 |