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これからの労働時間短縮のための対策
【資料のワンポイント解説】
1.時短促進法の5年間の延長
(*)着実に時短は進んだが、なお、1800時間労働が未達成であること。
(*)この間、週休2日制は導入が進んだが、1800時間労働を達成するために欠かせない「年次有給休暇の取得促進」、「所定外労働の削減」の対策は、十分な成果が見られない。
(*)従って、今後は、この2つの対策に重点を移したうえで、労働時間短縮のための対策を推進する、としている。
(注)1800時間労働の達成に関しては、ここのところ、パートタイム労働者の比率が年々上昇していることから結果として達成される可能性はあるかもしれない。(1800時間と言う場合、統計上、パートタイム労働者を含んだ年間平均総実労働時間をさす。)今後、労働時間短縮の面では、一般労働者の労働時間の推移に注目する必要がある。
2.新たに時短対策として打ち出された「長期休暇(L休暇)の普及」だが、わが国の現状からは、短期間に多くを期待することは難しそうだ。
3.その他の労働時間対策では、この建議に基づいて「サービス残業の解消」と「休日労働の削減」に係る対策が具体化されていくものと思われる。
4.一方、時間外労働等の「限度基準の水準」や「割増率」は、今後の検討にゆだねられた。
労働時間短縮のための対策について(中央労働基準審議会・建議)
当審議会は、平成12年10月から労働時間短縮のための対策についての検討を労働時間部会において行ってきたところ、今般、別紙のとおり同部会の報告が取りまとめられた。
当審議会としては、この報告の趣旨に沿い、労働時間短縮対策の充実を図るため、所要の措置をとることが適当であると考えるので、この旨建議する。(平成12年11月30日)
(別紙)
労働時間短縮のための対策について(労働時間部会・報告)
1 労働時間短縮については、昭和63年以後累次の閣議決定により「年間総実労働時間1800時間」を政府目標として掲げ、平成4年に労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(以下「時短促進法」という。)を制定してからは、同法に基づき労使の自主的な取組を促進してきたところである。労使による真摯な取組と、こうした取組に対する行政の指導援助により、平成4年度に労働者1人当たりの平均年間総実労働時間が1958時間であったものが、平成11年度には1848時間と着実に労働時間短縮が進んできた。
これは主として、法定労働時間の短縮や法定労働時間の短縮に先立って所定労働時間を短縮する事業主等に対する時短促進法に基づく助成制度等を通じて、所定労働時間の短縮に向けた労使の自主的な取組による成果である。
これまで、政府目標の実現に向けて
<1> 年次有給休暇の取得促進
<2> 完全週休2日制の普及促進
<3> 所定外労働の削減
を柱として労働時間短縮の取組を進めてきたところであるが、上記のこれまでの成果から、取組の柱のうち<2>(完全週休2日制の普及促進)については一定の成果が見られるところである。
しかしながらその一方で、年次有給休暇の取得状況は依然として5割程度で推移し、所定外労働もこの7年間で労働者1人平均10時間の減少にとどまっているなど、上記の取組の柱のうち<1>(年次有給休暇の取得促進)及び<3>(所定外労働の削減)については十分な成果が見られていない。このためいまだ政府目標は未達成であり、同法の廃止期限である平成13年3月31日までに達成することは困難と考えられる。
したがって、これまで十分な成果が見られない<1>及び<3>に重点をおき、引き続き労働時間短縮のための施策を講じていく必要がある。この点について、現行の経済計画「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」においても、引き続き「年間総実労働時間1800時間の達成・定着」が掲げられているところである。
2 このため、労働時間短縮に向けた労使の自主的努力を促進するための措置を規定している時短促進法の施策スキームを維持することが必要であり、現行経済計画が平成11年から21世紀初頭までの10年間程度における指針であることから、労働時間の現状等を踏まえると、その前半に集中的に施策を講じて政府目標を達成することを目指し、同法の廃止期限を5年程度延長する必要がある。
なお、延長に伴い上記<1>及び<3>に重点をおくことを明確化するなど、上記1の趣旨を明らかにすることが望まれる。
併せて、所定外労働の削減については、労使自治で進める「所定外労働削減要綱」が示した指針を踏まえた労使の取組が推進されることが必要と考える。
3 年次有給休暇の取得促進及び所定外労働の削減について重点を置いた今後の労働時間短縮のための施策として、行政が検討している次のような取組については、おおむね妥当であると考える。
(1) 自律的、効率的に働くための弾力的な労働時間制度の導入等労働時間制度の改善の支援
労働時間制度は平成10年の労働基準法改正に至るまでの種々の改正により多様化し、弾力的な労働時間制度の選択肢が拡充されてきており、各事業場において、多様な労働時間制度の中からそれぞれの労働実態に応じた労働時間制度を導入することにより、原則的な労働時間制度の下では所定外労働とされていたものを削減することが可能となった。
しかしながら、中小企業を中心にこうした労働時間制度の改善に取り組むためのノウハウが必ずしも十分ではないことから、労働時間短縮に向けて、フレックスタイム制、裁量労働制等の導入に取り組む事業主に対する支援が必要であり、具体的には、こうした事業主に対し、制度導入のための研修や相談指導、コンサルタントの活用の促進を行うこととする。
(2) 「長期休暇」や連続休暇の普及促進その他の年次有給休暇の取得促進
年次有給休暇の取得は労働者の権利行使に係るものであるが、その取得を促進させるためには、労働者の権利行使を容易にするための措置を事業主が講じることも重要であり、あらかじめ年休取得日を計画的に定める計画年休制度の導入が有効である。
しかしながら、中小企業を中心に計画年休制度の導入に取り組むためのノウハウが必ずしも十分ではないことから、同制度の導入に取り組む事業主に対する支援が必要であり、具体的には、中小企業事業主等こうした事業主に対し、制度導入のための研修や相談援助、コンサルタントの活用の促進を行うこととする。
また、年休と週休日等との組合せにより2週間程度連続する「長期休暇(L休暇)」の普及・定着について、本年7月には「長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議」から提言されていることから、「長期休暇制度」の普及に向けた啓発のほか、先行して取組を行うモデル中小企業及び中小企業事業主団体に対し支援を行うこととする。
(3) 効率的に働き労働時間短縮を図るための企業内の体制整備
上記(1)(2)に掲げた労働時間制度の改善や計画年休制度の導入、「長期休暇制度」の導入に当たっては、労使一体となった取組が不可欠であることから、中小企業を中心に当該体制の整備が必ずしも十分ではないと思われる事業主等に対し研修等の支援を行うこととする。
4 さらに、労働時間短縮のための対策について、従来から実施している施策に加えて上記3に掲げた新たな取組を実施することのほか、次の項目についてそれぞれ以下のとおり検討を行った。
(1) 時間外労働の限度基準の水準
時間外労働の限度基準については、女子保護規制の廃止や男女共同参画社会における新しい働き方・労働時間の設定という観点からその見直しを求める意見と、時間外労働に関する労使協定における限度時間を限度基準で定める時間と同一としている事業場が多い実態等にかんがみると、現時点での見直しは適当ではないとの意見があった。
これらの意見を踏まえ本項目について検討すると、当該基準は昨年施行されたばかりであることや実態にかんがみると、当面現行基準を維持し、一定期間経過後それらの実態を見た上で見直しの必要性について検討することが適当である。
(2) サービス残業の解消
労働基準法に定める割増賃金の全部又は一部が支払われていないなどのいわゆるサービス残業は、解消に向けての積極的な取組が課題である。
時間外・休日・深夜労働の割増賃金を含めた賃金を全額支払うなど労働基準法の規定に違反しないようにするため、使用者が始業、終業の時刻を把握し、労働時間を管理することを同法が当然の前提としていることから、この前提を改めて明確にし、始業、終業時刻の把握に関して、事業主が講ずべき措置を明らかにした上で適切な指導を行うなど、現行法の履行を確保する観点から所要の措置を講ずることが適当である。
また、具体的な問題があれば、同法に基づき、労働者からの申告事案に迅速かつ適切に対応することはもとより、事業場に臨検監督を行うことにより、今後とも法定労働条件の履行確保を十分に図る必要がある。
(3) 休日労働の削減
休日労働に関しては、そのガイドラインについて専門家会議における議論を踏まえた上で、審議会において検討を行うこととする。
(4) 時間外・休日労働及び深夜業の割増率の水準
平成9年12月の当審議会建議において、「時間外・休日労働の割増率については、特に中小規模の事業場における労使の自主的取組による引上げの状況や、週40時間労働制の定着状況を見極める必要があることから、平成10年度の実態調査結果を見た上で、引上げの検討を開始することが適当である。」「深夜業の割増率についても、併せて検討することが必要である。」とされ、平成10年度の実態調査結果を踏まえ、当部会としては平成12年度の実態調査結果を見てから割増率の水準の見直しについて検討するとしていたところである。今般平成12年度の実態調査結果によると、多くの事業場で法定割増率と同じ割増率であった平成10年度の実態に変化は見られなかったところである。
こうした実態にかんがみ、諸外国の水準に比べて相当に低いことや割増率の水準を引き上げることにより実態を変えていくべきであることから水準の見直しを求める意見と、実態に照らし現時点での見直しは適当ではないとの意見があった。
これらの意見を踏まえ本項目について検討すると、割増率の現状にかんがみると、当面現行の水準を維持し、一定期間経過後中小規模の事業場における労使の自主的取組による引上げの状況や週40時間労働制の定着状況を見た上で見直しの必要性について検討することが適当である。
なお、(1)及び(4)については、時間外労働の実態等を踏まえるべきであることから、限度基準の水準や割増率の水準を早急に見直すべきであるとの意見が労働者側委員からあった。