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生産性の低下 | 労災・事故等のリスク発生 | 従業員満足度の低下 | 製品・サービスの質の低下 | その他 | 不明 |
53.9 | 27.3 | 10.6 | 5.3 | 1.9 | 1.1 |
資料
自殺防止対策有識者懇談会中間とりまとめ
「自殺予防に向けての提言について」
平成14年8月
厚生労働省・自殺防止対策有識者懇談会
I.はじめに(自殺防止対策有識者懇談会設置の経緯と趣旨)
○ 自殺による死亡者は平成9年23,494人から急増(平成10年以降3年連続、3万人を超え、死因順位では男性6位、女性8位―厚生労働省人口動態統計)。
○ 特に中年男性の自殺死亡数が増加。若年者の自殺も近年、増加。高齢者の自殺死亡数も従来から多く、人口の高齢化を考慮にいれると今後も増加の懸念。
○ 自殺増加の背景には、大きな思想や将来への展望を先進諸国が見失ってしまった転換期現代の「生きる不安」や「ひとりぼっち」の孤独感が存在。
○ 効果的な自殺予防対策を実施することは緊急の課題。
○ 自殺を取り巻く問題を考慮し、精神医学的観点のみならず、心理学的観点、社会文化的観点などからの多角的な検討と包括的な対策が必要。
○ 検討に基づく提言を行い、社会全体として自殺予防対策に取り組む契機とするために、幅広い分野の有識者による自殺防止対策有識者懇談会を設置。
II.自殺予防対策の理念
○ 自殺を考えている人は、同時にいかに生きるかを考えている。自殺予防対策は、自殺を考えている人を含めてすべての人々に対し、生きるための勇気と力を与えるような支援体制・環境づくりをすること。
○ 国民全体の心の健康の保持・増進が自殺予防のためにも重要。
○ 自殺予防対策を立案するに当たっては次の視点が重要。
1.個人に対する対策とともに、地域での支援・環境づくりやコミュニティの支援・機能強化なども含めた、社会全体での対策を実施していく視点
2.自殺には多くの背景が関与しており、これら、自殺を取り巻く問題に応じた対策を実施していく視点 3.自殺を考えている人や、自殺未遂者、その家族・友人等、さらに自殺死亡者の家族・友人等を対象とした、ニーズに応じた支援と環境づくりを行う視点 4.自殺の原因などを評価し、自殺が起こることを予防すること(事前準備や教育:プリベンション)、現に起こりつつある自殺の危険に介入し、自殺を防ぐこと(危機介入:インターベンション)、不幸にして自殺が生じてしまった場合に他の人に与える影響を最小限とし、新たな自殺を防ぐこと(事後対策:ポストベンション)の3つの段階で自殺防止対策を検討する視点 5.自殺の背景として重要な「うつ病」「抑うつ状態」についての対策を推進していく視点 6.心の健康問題に関して一般国民へ普及・啓発する視点 7.国民、保健医療福祉関係機関、教育関係機関、マスメディア、企業、ボランティア団体、関係省庁、国及び地方公共団体等がそれぞれの特性を活かした役割分担を図りつつ、連携を重視する視点 |
○ 2000年に策定された「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」においても、2010年までに自殺による死亡数を2万2千人に減らすことを当面の目標に設定。
III.早急に取り組むべき自殺予防対策
○ 自殺には多くの背景が関与しているが、中でも
1. 自殺者の多くがその前に心に悩みを持っていたり、抑うつ状態、うつ病等の精神医学的な問題を有していること 。
2. これまで、新潟県松之山町などにおいてうつ病等対策を中心とした自殺予防対策が一定の効果をあげていること
等により、早急に取り組むべき具体的対策は、
1.心の健康問題に関する国民への普及・啓発、
2.地域、職域におけるうつ病等対策
と認識。
1.心の健康問題に関する国民への普及・啓発
○ 自殺を考えることや、抑うつ状態、うつ病などの心の健康問題は、誰もが抱えうる身近な問題であることを国民一人一人が認識することが自殺予防にとって重要。
○ 心の健康問題を抱えた場合に自分で気づくことができることも自殺予防にとって重要。
○ 心の健康問題を抱えた場合、地域・職域における相談場所・機関(保健所、精神保健福祉センター、児童相談所、市町村、医療機関、学校、事業場、労災病院、産業保健推進センター、地域産業保健センター等)に相談することが重要。
○ これらの心の健康問題に関する普及・啓発の実施には、地域・職域における健診や健康教育の機会、「いのちの日」、ポスター、パンフレット、インターネット等、あらゆる場を活用することが必要。
○ 長期的な視点では、子どものころから、自らの困難や挫折、ストレス等を克服し、適切に対処する力や、他の人を支援する力などを養うことが重要。
○ 人の心が豊かに育ち、交流することができるような、社会づくりが必要。
○ 地域におけるサポートグループの活動など身近な支援体制も重要。
2.地域、職域におけるうつ病等対策
○ 自殺者の多くがその前に抑うつ状態、うつ病等の精神医学的な問題を有していることが知られている。このような問題の早期発見、早期対応が重要。
○ 自殺者の多くが自殺をする前に何らかの身体症状を主訴として精神科以外の医療機関を受診していることから、精神科医だけでなく、かかりつけ医、産業医等の役割も重要。
○ 地域・職域ともに、まず専門家等の資質の向上が重要であり、具体的には、
(1) マニュアル・研修等を利用し、うつ病等の診断および治療、専門家への紹介が適切に実施できるように、かかりつけ医・産業医のうつ病等に関する知識・技術の向上や生涯教育の推進。
(2) かかりつけ医・産業医から精神科医等への円滑な紹介等が推進できるように、かかりつけ医・産業医と精神科医等との日頃からの連携強化。
(3) 症状が悪化する前の早い段階で相談に応じたり、場合によっては専門家を紹介するなど、適切な対応をすることを通じて、自殺予防ができるように、マニュアル・研修等を利用し、地域や職域の保健師、看護師、精神保健福祉士、教諭、養護教諭、スクールカウンセラー等のうつ病等に関する知識の向上・対応技術の向上。
(4) これらの心の健康問題に関わる専門家が自身のストレスを軽減できるように専門家が支え合える機会を持つように努力することも重要。
○ 地域での体制づくりとしては、
(1) 支援体制づくりとして、保健所、精神保健福祉センター、市町村、医療機関、学校、事業場等関係機関における対応の向上と日頃からの連携推進が重要。
(2) 保健所等による訪問指導の充実により、自殺のリスクが高い者の早期発見と適切な対応が必要。
(3) 地域における健康づくり計画の策定にあたっては、休養・心の健康づくりに関する計画を盛り込むことが望ましい。
○ 職域での体制づくりとしては、
(1) 事業場における心の健康づくり体制の整備等を内容とする心の健康づくり計画の策定と推進が重要。
(2) 研修等による管理監督者や産業保健スタッフ等の知識等の向上が必要。
(3) 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰の支援が重要。
(4) 事業場内の相談体制の充実に加え、プライバシーに配慮した事業場外のメンタルヘルス相談体制の整備が重要。
○ 本人の了解に基づいた地域と職域の切れ目のない支援体制が重要。
IV.懇談会において、引き続き検討すべき課題
○ 自殺予防対策の推進
1.自殺に関する調査研究・情報収集・事業評価
・自殺は、国民の健康に関する問題であると同時に社会状況等に大きく影響を受けることから、自殺死亡、うつ病の有病率、相談内容等の自殺に関する実態把握を行うことは、適切な自殺予防対策の基盤となるのではないか。
・実態把握は、国立の研究機関等が中心となって、精神保健福祉センター、保健所、救命救急センターを含む医療機関、事業場等との連携により多角的に行うべきではないか。
自殺の実態を地域、年齢、職業等の観点から分析し、対象集団の特性に応じた対策を行うべきではないか。
・自殺予防対策の効果評価を行うべきではないか。
2.各種関係機関・団体、関係省庁、国及び地方公共団体等の緊密な連携
・自殺予防対策は、各種関係機関・団体、関係省庁、国及び地方公共団体等の緊密な連携のもとに推進すべきではないか。
・自殺予防対策には、経済政策などの観点と保健医療施策の観点の双方が重要ではないか。
○ 電話による危機介入の充実
「いのちの電話」など、自殺を考えている人が24時間、求めたときに相談できる専用の電話相談は意義深く、電話相談の相談員の確保、資質の向上を図るための、養成研修等を実施するなど、電話相談体制の強化が必要ではないか。
○ 児童、思春期の自殺予防を含めた「心の健康」に関する学校、家庭等における普及・啓発・相談体制の充実
1.長期的な自殺予防対策として、平素からの「自分らしさ」を確立できるような教育の充実が必要ではないか。
2.あらゆる機会や手段を通じて、生命の尊さ、生きることの意味、ストレスへの対処法、自尊心を高める方法などの教育の充実が必要ではないか。
3.短期的な自殺予防対策として、不幸にして自殺の危険を抱えるなど心の健康問題が生じた場合、彼らが気軽に相談でき、適切に対応できることが重要ではないか。
4.不幸にして自殺が起きた場合、周りの児童の心への影響を軽減するために、日頃から担任、養護教諭等が中心となった相談体制の充実が必要ではないか。
○ 児童、思春期の心の健康問題への専門的な相談体制の充実
1.児童、思春期の自殺の危険を抱えるなど心の健康問題が生じた場合、専門的に具体的な対応を行うことができ、また、学校、児童相談所・精神保健福祉センター等の地域の機関からの紹介先として児童思春期精神医療の専門家の役割は重要ではないか。
2.児童思春期精神医療の専門家の増加、これら専門家と一般小児科医や精神科医等との連携等による児童思春期精神医療の実施体制の充実が必要ではないか。
○ 心の健康問題に目をむけた企業ポリシーのあり方と職場での絆づくり
労働者個人のメンタルヘルスにも配慮した企業・職場の管理のあり方を検討することや職場での同僚・上司との絆をつくりあげていくことが長期的にみて必要ではないか。
○ 自殺未遂者、その家族・友人等、自殺死亡者の家族・友人等に対する相談・支援のあり方
1.自殺未遂者、その家族・友人等に対する相談・支援の充実が必要ではないか。特に自殺未遂者が、適切に精神科医等へ紹介されるように、精神科救急の充実および救急医療現場と精神科医等との連携が重要ではないか。
2.自殺死亡者の家族・友人等に対する相談・支援の充実が必要ではないか。例えば、精神科医や臨床心理技術者等が中心となった、自殺死亡者の家族・友人に対する心のケアも重要ではないか。
○ 心の健康問題だけでなく、経済・生活問題や家庭問題なども自殺の背景となるため、様々な相談体制の充実や相談担当者等の自殺予防に関する知識の充実が必要ではないか。
○ 自殺手段、自殺場所・空間を考慮した自殺防止対策が必要ではないか。
○ 報道・メディアに望まれること
1.精神疾患や精神医療に対する偏見のため、気軽に精神科を受診できる状況にない。このため、報道機関においては、精神疾患や精神医療に対する偏見を助長することのないような適切な報道に努めるべきではないか。
2.ある人の自殺が生じた結果、それに影響を受けた複数の人々の自殺が誘発される場合(群発自殺)があり、これは、マスメディアの報道等によりさらに惹起され、自殺予防対策を講ずる上で、重大事項ではないか。
3.マスメディアが自殺予防のための建設的な情報を報道するなど、自殺予防等を考慮したマスメディアによる自殺報道のあり方への留意が必要ではないか。
4.インターネット上の「自殺」関連サイトは、自殺を促す内容から自殺予防の内容に至るまで、様々であり、インターネット上における自殺関連情報にも留意が必要ではないか。
V.おわりに
二十世紀型の「一人が生きる」独立独歩(ゴーイングマイウェイ)の生き方から、二十一世紀型の「共に助け合って生きる」共助の生き方への転換が、国・企業・地域・家族・個人などのすべてにおいて図られねばならない。その対策と教育を通じ、生きる上での「安心の構図」を早急に示すべき時がきている。