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「破産法等の見直しに関する中間試案」
法務省法制審議会倒産法部会
労働債権の取扱い〔案〕
@ 破産宣告前の一定期間内に生じた給料債権は,財団債権とするものとする。
A 退職手当の請求権は,退職前(破産宣告時に退職していない場合にあっては,破産宣告前)の一定期間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の一定割合に相当する額のいずれか多い額を限度として,財団債権とするものとする。
【資料のワンポイント解説】
1 2001年度の一年間に約4,400件の企業が破産宣告を受けている。
現行法制でも定期賃金・退職金などの労働債権には、一般の先取特権が認められているのだが、これが”いざ、倒産”となると実質的保全の面では極めて心許ないのが実態だ。倒産企業の場合、粗方の資産は借入金担保として抵当権等が設定済みであったり、売掛金なども債権譲渡や税金・社会保険料等の差押えが先行し、労働者は有効な手立てを講じ得ないケースが非常に多い。
労働債権は”いざ”となってみれば、実は十分な保護が図られているとは言えないのである。
2 法務省法制審議会倒産法部会が、10月4日、「破産法等の見直しに関する中間試案」を示した。9月13日の試案(素案)に対する部会審議の後、9月27日の一部修正審議を経て公表されたものである。冒頭に紹介した@Aが労働債権の取扱に関する試案の骨子であるが、ここにある〔一定期間又は一定割合をどの程度にするか〕が今後の焦点となる。
3 企業倒産時において、多く、有名無実化していた労働基準法第23条、第24条(使用者の賃金支払義務)に実効性をもたせる上でも、「労働債権の優先順位の取扱い」は重要であり、今後の見直し審議に注目してゆきたい。
4 ここでは、「破産法等の見直しに関する中間試案」のうち、”租税債権”と”労働債権”に係る部分のみを抜粋して資料掲載した。最終の部会議事録の一部も併せて抜粋掲載しているので、参考としてください。
〔2002.11.13労務安全情報センター〕
mokuji
(法制審議会倒産法部会)
●平成14年9月13日の「破産法等の見直しに関する中間試案(素案)」に係る審議
●平成14年9月27日の一部修正案に係る審議
●「破産法等の見直しに関する中間試案」
●「破産法等の見直しに関する中間試案」・補足説明
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○「破産法等の見直しに関する中間試案」
以下は中間試案の全体項目である。このうち第3部第2の「各種債権の優先順位」の中から、”租税債権”と”労働債権”の部分を抜粋掲載している。
第1部 破産手続
第3 多数債務者関係
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○「破産法等の見直しに関する中間試案」補足説明
以下は中間試案の第3部第2「各種債権の優先順位」の中から、”租税債権”と”労働債権”の部分の補足説明を抜粋掲載している。
補足説明
第2 各種債権の優先順位 1 租税債権 (1)破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権 【見直しの要点】 破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権を一定の要件の下で優先的破産債権とする。 【説明】 1 現行法の内容及び問題点 現行の破産法では,破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権については,国税徴収法及びその例により徴収することができる請求権の全額が財団債権とされている(第47 条第2 号本文。)これは,租税が国又は地方公共団体の存立及び活動の財政的裏付けとなるものであり,実体法上も一般の優先権が付与され(国税徴収法第8 条等,抵当権等の約定担保権との関係においても,法定納期限等の)後に設定された約定担保権に優先する地位が付与されている(国税徴収法第15条,同法第16 条等)こと等を考慮したものであるといわれている。 しかしながら,租税債権の取扱いについては,従来から,(a)破産宣告前の原因に基づいて生ずる租税債権の全額が原則として財団債権とされている結果,破産者に一定の財産がある場合であっても,破産債権者に対する配当がされることなく破産手続が財団不足によって廃止される事例が多く存在し(第353 条第1 項参照,このような事例では破産管財人の努力によって収集された財産の大半が租税債権の弁済に充てられているといった指摘や,(b)財団債権は,共益費用等破産,債権者が共同して負担するのが相当であると認められるものに限定すべきであり政策目的によって特定の種類の債権を財団債権とするのは相当でないといった指摘がされ,現行の破産法における租税債権の取扱いについては,立法論的な批判がされてきた。 2 見直しの内容及び趣旨 「(1)」は,破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権の取扱いに関して,財団債権とする範囲を破産宣告の日以後に納期限が到来するもの及び破産宣告の前の一定期間内に納期限が到来するものに限定するものとし,それ以外の租税債権については優先的破産債権とするものである。このように,財団債権となる租税債権の範囲に時期的な制限を設けるものとしたのは,破産手続において優先権を認めることの影響が個別執行の場合に比して格段に大きいと認められることにかんがみ,租税債権者が国税徴収法等により付与されている自力執行権等を合理的期間内に行使しなかった場合には,債権者間の衡平を図る観点から,財団債権の地位を引き下げることに一定の合理性が認められること等を考慮したものである。また,租税債権は,破産者の一般財産を引当てとしている点で別除権となる担保権とは異なる性質のものであり,債務者の総財産に対して優先権を有するという点では一般先取特権のある債権に類似する性質を有するものとみることは可能であるから,自力執行権等を合理的期間内に行使しなかったと認められる場合について一般先取特権のある債権と同様に優先的破産債権とすることには一定の合理性が認められると考えられる。 上記のような考え方をとるものとした場合には,財団債権となるか優先的破産債権となるかの「分水嶺」となる「破産宣告前の一定期間」をどの程度にするかという点が最も問題となる。この点については,審議会においても意見が分かれているところであり,今後更に検討を進めていく必要があるので,試案においてもその旨を注記している。また,試案において「納期限」とあるのは,法定納期限を意味するものではなく,いわゆる具体的納期限(国税通則法第36 条第2 項等参照)を意味するものである。 なお,優先的破産債権とされた租税債権と他の優先的破産債権との優先関係については,現行の破産法と同様,実体法上の順位に従うこととなるから,優先的破産債権の中では租税債権が最優先になると考えられる(国税徴収法第8 条等参照。) (2) (1)の租税債権の破産宣告後に生じる附帯税 【見直しの要点】 破産宣告前の原因に基づいて生ずる租税債権につき破産宣告後に生じる附帯税については,その基因となる租税債権が財団債権となるものは,その附帯税も財団債権とし,その基因となる租税債権が優先的破産債権となるものは,その附帯税を劣後的破産債権とする。 【説明】 「(2)」は「(1)」において破産宣告前の原因に基づいて生ずる租税債権の取扱いを見直すこととした場合に,それに合わせて,当該租税債権につき破産宣告後に生ずる附帯税の取扱いについても見直すこととするものである。 この点については,改正検討事項では,その全額を劣後的破産債権とする考え方が取り上げられていたところである(第4 部・第2 ・2(1)イ)が,ここでは,「(1)」により財団債権となる租税債権の附帯税は財団債権とし「(1)」により優先的破産債権となる租税債権の附帯税は劣後的破産債権とすることとしている。 これは「(1)」で示した考え方を前提とすると,破産宣告前の原因に基づいて生ずる租税債権については,財団債権となるものと優先的破産債権となるものとに区分されることになるところ,附帯税の発生の基因となる租税債権が財団債権となるものについては,当該租税債権につき随時に弁済を受けられる地位にあるのであるから(第49 条,その弁済が遅延したことに伴って生ずる破産宣告後の)附帯税についても,財団債権とするのが相当であると考えられることによるものである。他方,附帯税の発生の基因となる租税債権が優先的破産債権となるものについてはその附帯税部分は宣告後の利息・損害金に相当するものであるから他の優先的破産債権についてと同様,劣後的破産債権とするのが相当であると考えられる。 (3)破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権 【見直しの要点】 破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権については,破産財団の管理,換価及び配当に関する費用の請求権(第47 条第3 号参照)に該当すると認められるものに限り,財団債権とするものとし,それ以外のものについては,劣後的破産債権とする。 【説明】 現行の破産法では,租税債権は,破産宣告後の原因に基づいて生じたものであっても「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」は財団債権になるものとしている(第4 条第2 号ただし書。しかしながら,判例は,同号ただし書について,破産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属するものであって,破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当であるものに限って財団債権とする趣旨であり「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは,破産財団を構成する財産の所有・換価の事実に基づいて課せられ,あるいは右財産から生ずる収益そのものに対して課せられる租税その他の破産財団管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指す」と判示している(最判昭和62 年4 月21 日民集41巻3 号329 頁参照。)。 「(3)」は,上記の判例の考え方を規定上明確化するものであるが,再生法及び更生法では,手続開始後の原因に基づいて生ずる租税債権は債務者の財産の管理及び処分等に関する費用の請求権(再生法第119 条第2 号及び更生法第208条第2 号)に該当するものに限り共益債権になると解されており,破産法においても,規定ぶりも含め,これらの法律と平仄を合わせることになるものと考えられる。 また、「(3)」では破産宣告後に破産財団に関して生じた租税債権であっても破産財団の管理,換価及び配当に関する費用の請求権に当たらないものについては,劣後的破産債権とすることとしている。これに該当するものとしては,破産法人の清算所得に対する予納法人税(各事業年度の所得に係る部分。上記最判昭和62 年4 月21 日参照)や別除権者が把握している価値に相当する部分に対する土地重課税等が考えられる。現行法上,これらの租税債権をどのように取り扱うべきかという点については争いがあるが,学説上は罰金等に準じて劣後的破産債権とすべきであるとする見解が有力である。これは,これらの租税債権が劣後的破産債権にもならないとすると,法人破産の場合には,法人の自由財産を肯定しない限り,当該債権の引当てとなる財産が存在しないこととなる点等を考慮したものであると考えられるが「(3)」は,これを立法的に解決するものである。もっとも,自由財産に関して破産宣告後の原因に基づいて生じた租税債権は,手続外の債権であって破産手続の制約に服さないこととなる。なお,個人破産の場合においては,破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生じた租税債権につき「破産財団の管理,換価及び配当に関する費用の請求権」に該当しないものは想定しにくく,このような問題は生じないものと考えられる。 (4)租税債権に基づく滞納処分 【見直しの要点】 破産宣告後は,新たに租税債権に基づく滞納処分をすることを認めない旨の明文の規定を設ける。 【説明】 1 見直しの趣旨 現行の破産法は,破産手続と滞納処分との関係に関し,破産宣告前に既に破産財団に属する財産につき滞納処分がされている場合について「破産ノ宣告ハ其ノ,処分ノ続行ヲ妨ケス」と規定するのみであり(第71 条第1 項,破産宣告後に新)たな滞納処分の着手が可能かどうかについては明文の規定を置いていない。 この点について,判例は,第71 条第1 項の反対解釈等を理由として,破産宣告後新たに滞納処分をすることはできない旨判示している(最判昭和45 年7 月16 日民集24 巻7 号879 頁「(4)」は,この判例の考え方を規定上明確化するものである。 2 新たな滞納処分の着手を認めない根拠 「(1)」の考え方を前提とする場合には,租税債権の中に財団債権となるものと優先的破産債権となるものとがあることになるから,新たな滞納処分の着手を認めない理由も,それぞれに異なると考えられる。 まず,財団債権となる租税債権については,財団債権に基づく強制執行等の可否の論点と関連するものと考えられる。この点について,試案では,財団債権に各種債権基づく強制執行を否定する方向で検討するものとしており、(「第2」の「(各種債権の優先順位関係後注1)、このような考え方をとることを前提とすれば,優先順位関係後(注1)財団債権となる租税債権に基づく新たな滞納処分の可否についても,他の財団債権に関する取扱いと平仄を合わせたものということになると考えられる。 次に,優先的破産債権となる租税債権については,破産債権に基づく個別的権利行使の禁止を定めた第16 条に反するものとしてこれを否定することになるも のと考えられる。 3 破産宣告前に着手した滞納処分の続行を認める根拠 現行の破産法では破産宣告前に滞納処分による差押えがされている場合には当該手続の続行を認めることとされている(第71 条第1 項)が,この取扱いについては,これを維持するものとしている「(1)」の考え方を前提とすると,当該滞納処分に参加した租税債権の中に優先的破産債権となるべきものが含まれ得ることになるが,その債権を含めて滞納処分の続行を認めることについては,次のとおり根拠付けることが可能と考えられる。 (a)租税債権は実体法上優先徴収権を有しておりその徴収に必要な範囲内で個別財産を滞納処分により差し押さえた場合には,その財産から一般の債権に優先して満足を受けることができ,かつ,その財産が差押え後に第三者に譲渡された場合であっても,その財産に対する追及効があるという点において,特定財産に対する担保権(破産債権者に対抗することができるものに限られる)。と同様の地位を有しているものといえる。このような観点からすると,破産宣告前に着手した滞納処分については,別除権と同様に,破産宣告後も手続外での権利行使を認めるのが相当であると考えられる。 (b)租税債権について納税の猶予等の徴収緩和措置をとる場合には,原則として担保の提供を受けるものとされているところ,徴収緩和措置をとって担保の提供を受けた場合であっても破産手続上は別除権者として取り扱われることからすると,原則的徴収手段である滞納処分による差押え(又は参加差押え)が破産宣告前にされている場合には,少なくとも,納税の猶予等により担保の提供を受けた場合と同程度の優先的地位が与えられるべきであると解される。 2 労働債権 (1) 破産宣告前の未払の給料債権及び退職手当の請求権 【見直しの要点】 破産宣告前の未払の給料債権及び退職手当の請求権について,その一部を財団債権とする。 【説明】 1 現行法上の取扱い 現行法上,給料債権及び退職手当の請求権等のいわゆる労働債権については,民法及び商法において,一般の先取特権が認められている(民法第308 条及び商法第295 条。なお,民法第308 条では,雇人給料の先取特権の範囲を最後の6 か月間の給料に限っているのに対して,商法第295 条では,株式会社とその使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権の全額について先取特権を認めている。破産手続における各種債権の優先順位においても,このような実体法上の順位が反映されており,一般の先取特権がある債権については,優先的破産債権とされている(第39 条。) 2 見直しの趣旨 前記1 のとおり,労働債権は,労働者の生活の基盤となるものであり,保護の必要性が高いこと等の理由から,実体法上も一般の先取特権が認められているところであるが,使用者が破産した場合において当該破産手続が財団不足によって廃止されたときは,労働債権については全く配当がされない結果となり,労働債権の保護が十分でないとの指摘がされている。 そこで「(1)」においては一般の先取特権の対象とされた労働債権のうち(a)未払給料債権については,破産宣告前の一定期間内に生じたものを,(b)退職手当の請求権については,退職前(破産宣告時に退職していない場合にあっては,破産宣告前)の一定期間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の一定割合に相当する額のいずれか多い額を,それぞれ財団債権とするという考え方を提案している。 3 労働債権を財団債権とする根拠 このような考え方をとる場合には,労働債権の一部を財団債権とすることの正当化根拠等について合理的な説明をする必要があり,審議会でも様々な意見が出されたところである。この点については,今後更に検討をする必要があると考えられるが,一般の先取特権の対象とされた労働債権の中でも,その要保護性の程度は一律ではなく,特に破産宣告後の一定期間の生活の維持に必要な部分についてはその要保護性の程度が高いとの指摘がされている。 4 労働債権を財団債権とする場合に検討すべき問題点等 労働債権の一部を財団債権とすることについては,審議会においても,これによって財団債権の総額が膨らみ,財団不足による破産廃止(第145 条第1 項及び第353 条第1 項)が増加するおそれがあること,他の倒産処理手続と同様,破産手続における財団債権も,共益費用等破産債権者が共同して負担するのが相当であると認められるものに限定すべきであり,政策目的によって特定の種類の債権を財団債権とするのは相当でないこと等の理由から,これに批判的な意見や慎重論が述べられたところであり,今後これらの問題点についても検討する必要がある。 また,労働債権の一部を財団債権とすることとする場合には,その範囲をどのように定めるかという点が最も問題になるものと考えられる。この点については審議会においても,清算型の手続である破産手続の場合には「再建のための労働意欲の確保」という再建型の手続の特質に基づく要請はなく,更生法と同程度の優先性を与える必要はないと指摘されたところである。 さらに,労働債権を財団債権とすることの問題点として先に触れた点と同様の問題意識に基づくものであるが,破産の場合には,基本的に全員が退職することとなるので,更生法と同程度の優先性を与えることとすると,破産財団を圧迫して財団不足による破産廃止の増加をもたらすこととなるとの問題点が指摘されている。この点は,退職手当の請求権の一定割合に相当する額を財団債権とするも注のとした場合に特に問題となるものとも考えられることから試案においても,「注1」において「A」に掲げた考え方を修正し,給料債権及び退職手当の請求権の合計額のうち,破産宣告前の一定期間の給料の総額に相当する額を限度として財団債権とするとの考え方についても取り上げている。 このほか,審議会においては,給料債権及び退職手当の請求権のそれぞれにつき,破産宣告前の一定期間の給料の総額に相当する額を財団債権とする考え方についても,審議がされたところである。 「注2」では,破産宣告時に退職していない場合及び退職手当の請求権が定期金債権である場合における退職手当の請求権の額は,破産宣告時を基準時として換算した額とすることを注記している。退職手当の請求権は,一般には停止条件付債権であると解されており,条件が成就しない限り破産手続における配当を受けることはできないので,必ずしも破産宣告時を基準時として換算した額に現在化する必要はないが,退職金請求権の算定方法は,退職した時における俸給額を基準とする例が多く,破産宣告後の俸給を基準とすると退職金の額が減少することがあり得ること,破産宣告後の労働の対価としての給料の後払的性質を有する部分については当然に財団債権になると考える余地があること等を考慮したものである。 また,冒頭に記載した,労働債権の一般先取特権の範囲についての民法及び商法の不一致に関する問題については,現在,担保・執行法制部会において検討がされているところであり(担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案第1 ・2(1)参照,同部会においてこの点の見直しがされた場合には,破産手続におけ)る優先的破産債権の範囲も自動的に変更されることになる(第39 条参照。) なお,改正検討事項では,更生手続において,手続開始の申立てから更生計画認可までの間に退職した使用人の退職手当の請求権は,全額を共益債権とするものとするとの考え方についても取り上げられていた(第4 部・第2 ・2(2)イ)しかし,この点については,審議会においても,このような考え方によると,会社の手元流動資産が大幅に減少するおそれがあるとともに,労働者が更生会社を見切りやすくなって,会社の更生を著しく阻害するおそれがあるとの意見が大勢を占めたことから,試案においては取り上げていない。 (2) 労働債権に対する弁済の許可 【見直しの要点】 給料債権及び退職手当の請求権について,裁判所の許可を得て,配当が確実に見込まれる額の範囲内において配当前の弁済を許可する制度を設ける。 【説明】 「(1)」において,給料債権及び退職手当の請求権の一部を財団債権とすることとした場合でも,配当手続に入るまでに相当程度の期間を要する場合には,労働債権を有する破産債権者の生活を維持するために労働債権に対する配当前の弁済が必要となる場合があるとの指摘がある。 そこで「(2)」では,労働債権を有する者が,その弁済を受けなければ,その生活の維持に著しい困難を生ずるおそれがある場合には,裁判所の許可を得て,配当前に弁済を受けることができるものとし,破産債権の個別的権利行使の禁止を定めた第16 条の例外を設けることとしている。 もっとも「(2)B」では,労働債権に優先する債権を有する者や他の労働債権を有する破産債権者の利益を害することがないようにするため,弁済の許可をすることができる範囲を配当が確実に見込まれる額に限定するとともに,配当前の弁済を受けた場合には,他の労働債権を有する破産債権者が自らの受けた弁済と同一の割合の配当を受けるまでは,破産手続における配当を受けることができないものとし,配当の調整を行うこととしている。 また「(2)A」では,弁済の許可は,破産管財人の申立て又は職権によりこれを行うものとし,労働債権を有する破産債権者の申立権は認めていないが,破産管財人は,労働債権を有する破産債権者から弁済許可の申立てをすべきことを求められたときは,直ちにその旨を裁判所に報告しなければならないものとし,破産管財人が申立てをしない場合には,遅滞なく,その事情を裁判所に報告しなければならないものとしている。これは,再生法第85 条や更生法第112 条の2で規定する弁済の許可の制度と同様の規律にしたものである。 なお「注」では,更生手続においても同様の手当てをするとの考え方の当否にについて取り上げている。この点については審議会においても更生手続では給料債権については,更生手続開始前六か月間に生じた会社の使用人の給料(更生法第119 条後段)が,退職手当の請求権については,退職前六か月間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の3 分の1 に相当する額のいずれか多い額がそれぞれ共益債権とされている(同法第119 条の2 )ことから,このような制度を設ける必要性が少ないこと,更生会社の再建のためには手元流動資金を可及的に維持すべき要請が高いこと等を理由として,慎重な意見が述べられたところであり,今後更に検討する必要がある。 3 その他の各種債権 (省略) |
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■法制審議会倒産法部会
平成14年9月13日の「破産法等の見直しに関する中間試案(素案)」に係る審議
(編集注)租税債権及び労働債権に係る部分のみを抜粋した。
次に,「第2 各種債権の優先順位」の「1 租税債権」のうち,「(1) 破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権」は,破産宣告前の原因に基づいて生ずる租税債権について,一定の要件のもとで優先的破産債権とするものです。優先的破産債権とする要件については,納期限が破産宣告の日以後又はその前の一定期間内に到来するものとしておりますが,一定期間をどの程度にするかについては,今後の検討課題としております。
「(2) (1)の租税債権の破産宣告後に生ずる附帯税」は,破産宣告前の原因に基づいて生ずる租税債権の破産宣告後に生ずる附帯税の取扱いに関して,附帯税の発生の起因となる租税債権が財団債権となるものについては,その附帯税部分も財団債権とし,その起因となる財団債権が優先的破産債権となるものについては,その附帯税部分を劣後的破産債権とするものです。
「(3) 破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権」は,これも破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権については,破産財団の管理,換価,及び配当に関する費用の請求権に該当すると認められるものに限り,財団債権とするものとし,それ以外のものについては劣後的破産債権とするものです。従前の分科会資料からは,条文の規定ぶりを意識して,その書きぶりを変更はしておりますが,実質的な内容に変更はないと考えております。
「4 租税債権に基づく滞納処分」は,破産宣告後は,新たに租税債権に基づく滞納処分をすることを認めない旨の明文の規定を設けるものです。
次に,「2 労働債権」の「(1) 破産宣告前の未払給料債権及び退職手当の請求権」でございますが,破産宣告前の未払給料債権及び退職手当の請求権について,その一部を財団債権とするものです。財団とする範囲に関しては,未払給料債権については破産宣告前の一定期間内に生じたものとし,退職手当の請求権については,破産宣告前の一定期間の給料の総額に相当する額,又はその退職手当の額の一定割合に相当する額のいずれか多い額としておりますが,一定期間又は一定割合をどの程度にするか,また給料債権及び退職手当の請求権の合計額のうち,破産宣告前の一定期間の給料の総額に相当する額を限度として,財団債権とするものとするかどうかについては,今後の検討課題としております。
「(2) 労働債権に対する弁済の許可」は,労働債権について,裁判所の許可を得て,配当見込額の範囲内において配当前の弁済をすることができる制度を設けるものです。
なお,表題については,これまで「随時弁済」という用語を用いておりましたが,資料ではその実質に合わせて,「労働債権に対する弁済の許可」としております。
続きまして,「3 その他の各種債権」の「(1) 無利息債権の期限までの中間利息分」についてでございますが,破産手続における無利息債権の期限までの中間利息分の算定方法を簡易化するものです。分科会資料から表現ぶりを変更しておりますが,これは会社更生法改正要綱の表現に合わせたものです。
● 40ページの2の「労働債権」のところの(注1)の中で,一定期間又は一定割合をどの程度にするかについてはなお検討するということですから,これからのパブリックコメント以降の検討課題になるという,そういう認識でいいのかということと,次のところが,この考え方は新しく出された考え方ではないかと思うのですが,「また,この点については給料債権及び退職手当の請求権の合計額のうち」という,これ今まではこういう議論ではなくて,財団債権について賃金についてはどのぐらいの期間がいいのかと,退職金はどうなのかというので分けて議論してきたと思うのですね。これを合計額,合算するというのは今日初めてここに出されたと思うのですけれども,これはどういうことだったのかというのを,少し事務当局の考え方を教えていただきたいと思います。
● まず1番目は御指摘のとおり,これは今後の検討課題だと思いますので,そういう認識でございます。
それから,2番目の問題につきましては,直接的には確かに資料の方には記載しておりませんでしたが,Aの特に退職金の方の問題につきまして,高額化というような指摘もございまして,とりわけ割合の場合の計算方法のことも含めてAに対する問題意識が強かったという認識を事務局としては持っております。そういう点から見ますと,分けてやるというのももちろん会社更生法に倣うやり方として考えられるところだと思いますが,それとは別に,いわば込みで,退職金と給料債権とまとめて一定期間というやり方も,そういう意味では割合という問題は出てこなくなるだろうと思いますけれども,そういうこともあるのではないかという趣旨で,この考え方をお示ししたというところでございます。
● 例えば,そうすると会社更生法では6か月間と,それと退職金は6か月若しくは3分の1,私どもはずっと会社更生法と同じように言ってきたのですが,例えば賃金を6か月で退職金を6か月で12か月,そういう考え方もあり得るという,そういうふうに受けとめていいのですか。
● 6か月・6か月でどうかと言われるとちょっと何ですが,例えば給料数か月で,割合的な退職金は−−割合は期間が長くなった場合にバランスをとるという説明ですけれども,それはやめて,退職金何か月というやり方ももちろんあると思います。
それから,退職金と給料とをまとめて何か月というやり方もあると思います。
● いずれにしても,ここは退職金があるところによってはゼロのところもあるけれども,あるところは高額な退職金になって,それが財団を圧迫するというおそれがあると,したがってそういうことも勘案しながら,どういうふうに範囲を決定するのがいいのか,もう少し次の段階で検討しようと,そういうふうに受けとめてよろしいでしょうか。
● はい。
● では,私どもも新しい考えをまた考えてみます。
● そういうふうに受けとめていただければ結構でございます。
● もう一つ,今まで「随時弁済」と言ってきたものが「労働債権に対する弁済の許可」ということになったのですが,今回これで出していただいていろいろな意見をもう一回皆さんで議論してもらってもいいと思うのですが,ここの@のところに「その生活の維持を図るのに著しい困難を生じるおそれがあるとき」とあるのですが,これは前から私も気になって,1回は言ったけれどもその後言わなかったような感じがするので自分でも反省しているのですが,労働者が賃金が入ってこなければそれはもう著しく生活が困難だというのははっきりしているわけで,少しこの要件はきついのではないかなというふうに感じていまして,例えば賃金が支払われていて,退職金が支払われていない,退職金が問題だというときがあるわけですけれども,退職金は何になるかというと,ローンになってしまうわけですね。私ども,最近の会議で,私は労働組合はここまで責任を負う必要はないと思っているのですが,とにかく倒産になると大変だと,それで労働組合の労働金庫から,要するに労働組合の産別若しくは連合が保証人になって一時的なお金を融資してほしいとか,地方行政にそういう制度を設けるべきだとか,一部の地方行政の中ではそういう制度を持っているところで,退職金というのはそういう意味ではすぐに,とにかく毎月払わなければいけないローンの弁済になっているということについて,この前もお話ししたわけですけれども,是非パブリックコメント以降の更なる議論のときにも,このことを是非考慮していただきたいというふうに思います。
● 分かりました。御指摘の点,考えさせていただきたいと思います。
● 2の「労働債権」の(1)の(注2)ですけれども,前も分科会のときにちょっとお伺いして,22条の関係であるということだったのですが,なおちょっと具体的にお伺いしたいのですけれども。
宣告後であれ退職した場合には,通常は退職金の金額は確定すると思うのですけれども,具体的な例で言いますと,例えば宣告時に退職したと仮定すると1,000万円の退職金だったのが,それから後に退職した場合に例えば勤続年数が20年に達して1,200万円になったという場合に,22条というのが適用されるのかどうかという点。
もう一つは,上がる場合だけではなくて,退職時までに懲戒処分を受けた結果,受け取る退職金が800万円になっていたという場合はどうなるのかとか,いずれにしても議決権がある段階で退職していないために確定できないというようなシチュエーションですと分かるのですけれども,現に退職して,宣告後であれ金額を請求するという時点では確定はしているのではないかという気がするのですが,ちょっとお伺いしたいと思います。
● たしか以前,22条の説明でということでお話したのですが,確かに少しここは説明の仕方があるのかもしれません。
ただ,今言われたように宣告後の減少を反映させるようなことというのはよくないと思いますので,何からの形で固定する時期が必要になるのだろうと思うのですけれども,それを考えるとすると,宣告時でとらえるということだろうと思うのですが……。
そうですね,少し退職金の性格も含めて,中身といいますか,Aの書き方は変わらないのじゃないかと思うのですけれども,説明ぶりを少し検討させていただきたいと思います。
● もう一つは,会社更生法との関係でも同じような問題が起こる。届出時期の関係もあるのですけれども,その点も含めてちょっと御検討いただければと思います。
● それでは検討させていただいて,補足説明でもう少し原案の考え方が分かるように書くようにしたいと思います。
ほかには特に御意見ございませんか。−−よろしゅうございますか。
それでは,租税債権についても先ほど御発言がございましたけれども,ここはこれまでいろいろ御意見がありまして,今後もあるところと思いますけれども,中間試案としてこのとおりで出すということでよろしゅうございますか。
それでは,その点も含めて「第2 各種債権の優先順位」については原案どおりお認めいただいたということにさせていただきたいと思います。
なお,先ほど○○委員や○○幹事から御指摘があった点は,補足説明の方で説明させていただく,そういうことにしたいと思います。
次は,43ページの「第3 多数債務者関係」でございますが,これはちょっと後とつながりませんので,1項目だけでございますけれども,いかがでしょうか。
これもこれまで議論されてきておりますが,これでよろしゅうございますか。
それでは,第3の「多数債務者関係」は,原案どおりお認めいただいたということで中間試案に取り込みたいと思います。
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■法制審議会倒産法部会
平成14年9月27日の一部修正案に係る審議
租税債権及び労働債権に係る部分のみを抜粋した。(編集部注)
次に,「第3部 倒産実体法」についてでございますが,第1から第3までにつきましては修正点はございません。
なお,39ページの第2の「1 租税債権」の(3)につきましては,前回の部会においてこれまでの分科会資料における表現ぶりと異なる点に関しまして,この表現では別除権者が把握している価値に相当する部分に対する土地重課税がこれに該当しないという点まで読み取ることが難しいのではないかという御指摘をいただきましたが,民事再生法及び会社更生法との平仄を考えますと,条文化する場合には,このような規定ぶりになるのではないかとも思われますので,中間試案としてはこの表現とさせていただき,御指摘の点につきましては補足説明で触れさせていただきたいと考えております。
また,40ページの「2 労働債権」の(1)につきましても,財団債権となる退職手当の請求権の範囲については,本文に挙げた考え方や(注1)に挙げた考え方のほか,破産法分科会においては給料債権,退職手当の請求権のそれぞれについて一定期間の給料の総額に相当する額を限度とするという考え方についても取り上げておりますが,このような考え方については補足説明の中で触れることにしたいと考えております。
また,この点に関しましては,退職手当の請求権の総額を算定する場合の基準時を破産宣告時としている点について問題点の御指摘がありましたが,この点につきましては今後の検討課題とさせていただきたいと思います。