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労働債権確保の行方は?
担保・執行法制の見直しに関する要綱
法制審議会会長から法務大臣への〔答申〕
平成15年2月5日
【資料のワンポイント解説】
1.2月5日、法制審議会から「担保・執行法制の見直しに関する要綱」の答申があった。
2.これによれば、労働債権の取扱に関しては以下のような改正が図られる方向となった。
(1)民法第308条の改正が図られる。現行第308条 雇人給料ノ先取特権ハ債務者ノ雇人カ受クヘキ最後ノ六个月間ノ給料ニ付キ存在スを改正して、商法第295条「・・会社ト使用人トノ間ノ雇傭関係ニ基キ生ジタル債権ヲ有スル者ハ会社ノ総財産ノ上ニ先取特権ヲ有ス」の規定を取り入れる。(商法第295条は削除の予定)
この改正は、つぎの2つの効果を持つ。
@労働債権の先取特権の範囲が「最後の6ヶ月の給料」→「その全額」に拡大される。
A民法の規定として整備する方向になったことから、適用労働者の範囲(※)が拡大される効果を持つ。
※ 民法の先取特権の適用労働者の範囲は、「雇人」。これに対して商法は「使用人」。商法の「使用人」は株式会社、有限会社の社員のみが対象となるのに対して、民法の「雇人」は、会社に限らず医療法人のような法人や個人業での従業員も含むなど、労働者の適用範囲が広かった。今回、範囲の広い民法に合わせることになったものだ。
〔資料〕 担保・執行法制の見直しに関する要綱(H15.2.5)
第一 主として担保法制に関する事項
一 雇人給料の先取特権
民法第三百八条の先取特権の被担保債権の種類及び範囲について、商法第二百九十五条における「(会社)ト使用人トノ間ノ雇傭関係ニ基キ生ジタル債権」と同じ内容にするものとする。
二 指名債権の債権質
指名債権(その譲渡に証書を要しないものに限る。)をもって質権の目的とする場合においては、その債権につき債権証書があるときであっても、その証書の交付を質権設定の効力発生要件とはしないものとする(民法第三百六十三条の改正)。
三 抵当権
1 不動産の収益に対する抵当権の効力等
(一) 抵当権に基づく強制管理類似の手続の創設
(1) 不動産を目的とする担保権の実行の手段として、不動産競売のほかに、強制管理類似の手続(以下「担保権に基づく強制管理」という。)を創設し、これらの手段はそれぞれ独立して申し立てることができるものとする。
(2) 担保不動産についての担保権に基づく強制管理による差押えの後は、担保権の効力が天然果実及び法定果実に及ぶものとする。
(3) 担保権に基づく強制管理については、基本的に、民事執行法第四十四条(管轄)、第二章第二節第一款第三目(強制管理)及び第百八十一条から第百八十三条まで(担保権実行の開始文書等)の規定を準用するものとし、第百九十四条(強制執行の総則規定の準用)の適用があるものとする。
(二) 強制管理における配当受領者等(担保権に基づく強制管理にも準用される。)の見直し
(1) 強制管理において配当等を受けるべき債権者として、担保権に基づく強制管理の申立てをした差押債権者(一般の先取特権以外の担保権にあっては、最初の強制管理の開始決定に係る差押えの登記前に登記がされている場合に限る。)を追加するものとする(民事執行法第百七条第四項の改正)。
(2) 強制管理において配当要求をすることができる債権者として、民事執行法第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者等を追加するものとする(同法第百五条第一項の改正)。
(三) 物上代位等と管理手続との調整
(1) 収益の給付義務を負う第三者に対し強制管理又は担保権に基づく強制管理(以下「強制管理等」という。)の開始決定の効力が生じたときは、その収益の給付請求権に対し既にされている次に掲げる手続の効力は、停止されるものとする。ただし、a及びbの手続にあっては、民事執行法第百六十五条各号に掲げる時までに強制管理等の開始決定の効力が生じた場合に限り、その効力が停止されるものとする(新設)。
a 民事執行法第百四十三条に規定する強制執行
b 同法第百九十三条第二項において準用する第百四十三条の規定による担保権の実行及び行使
c 民事保全法第五十条第一項に規定する仮差押えの執行
(2) (1)aからcまでの手続の効力が停止される時までに、これらの手続において差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした債権者は、民事執行法第百七条第四項の規定にかかわらず、強制管理等において、配当要求等の格別の行為を要することなく配当等を受けるべき債権者になるものとする(新設)。
2 滌除
(一) 滌除権者の限定
抵当不動産につき地上権又は永小作権を取得した第三者を滌除権者から除外し、抵当不動産につき所有権を取得した第三者に限り、抵当権を滌除することができるものとする(民法第三百七十八条の改正)。
(二) 抵当権実行通知義務の廃止
抵当権者は、抵当権を実行しようとする場合に、あらかじめ第三取得者に抵当権を実行する旨を通知することを要しないものとする(民法第三百八十一条及び第三百八十七条の削除)。
(三) 滌除をすることができる時期
(二)に伴い、第三取得者が滌除をすることができる時期について、抵当権実行通知を受けるまではいつでも可能であるとされているのを、競売開始決定に係る差押えの効力が生ずるまではいつでも可能であると改めるものとする(民法第三百八十二条第一項の改正)。
(四) 競売申立期間の伸長及び増価買受義務の廃止
(1) 抵当権者が第三取得者から滌除の申出を受けた後の競売申立期間について、一月とあるのを、二月に改める(二月以内に競売の申立てをしないときは、第三取得者の提供を承諾したものとみなす)ものとする(民法第三百八十四条第一項の改正)。
(2) 抵当権者は、この競売の申立てをする場合、もし競売において第三取得者が提供した金額より十分の一以上高価に抵当不動産を売却することができないときは十分の一の増価をもって自らその不動産を買い受けるべき旨を付言することを要せず、この競売手続において買受義務を負わないものとする(民法第三百八十四条第二項及び民事執行法第百八十五条から第百八十七条までの削除)。
(3) この競売において買受けの申出がなく最終的に競売手続が取り消された場合(民事執行法第六十三条第三項及び第六十八条の三参照)、民法第三百八十四条第一項の承諾擬制の効果が生じないものとする(新設)。
(五) 競売申立ての取下げ
(四)の競売の申立てをした抵当権者がその申立てを取り下げるには、登記をした他の債権者の承諾を得ることを要しないものとする(民法第三百八十六条の削除)。
3 一括競売
(一) 土地の抵当権者は、抵当権設定後に抵当地に建物が築造された場合は、抵当権設定者以外の者がその建物を築造した場合であっても、建物を抵当地とともに競売することができるものとする。ただし、建物所有者が抵当地について抵当権者に対抗することができる権利を有するときは、この限りでないものとする(民法第三百八十九条本文の改正)。
(二) 建物が抵当地とともに競売されたときは、土地の抵当権者は、抵当地の売却代金についてのみ優先弁済を受けることができるものとする(民法第三百八十九条ただし書のとおり)。
4 短期賃貸借
(一) 抵当権に後れる賃貸借は、その期間の長短にかかわらず、抵当権者及び競売における買受人に対抗することができないものとする。
(二) 抵当権の登記後に登記された賃貸借は、これに優先するすべての抵当権者が同意をし、その同意について登記がされたときは、(一)にかかわらず、当該抵当権者及び競売における買受人に対抗することができるものとする。
(三) 抵当権者に対抗することができない賃貸借により建物を占有する者(競売による差押えの後に強制管理等によらずに占有を始めた者を除く。)に対しては、建物の競売によりその所有権が買受人に移転した時から三月間の明渡猶予期間を与えるものとする。
5 根抵当権
(一) 根抵当権者の主導による元本確定
根抵当権者は、担保すべき元本の確定を請求することができるものとする。ただし、担保すべき元本が確定すべき期日の定めがある場合は、この限りでないものとする(新設)。
(二) 元本確定の登記
(一)の本文により元本が確定した場合の元本確定の登記は、根抵当権者が単独で申請することができるものとする(新設)。
(三) 元本不発生に係る確定事由
担保すべき債権の範囲の変更、取引の終了その他の事由により担保すべき元本が生じないこととなったことは、根抵当権の担保すべき元本の確定事由にはならないものとする(民法第三百九十八条ノ二十第一項第一号の削除)。
第二 主として執行法制に関する事項
一 いわゆる占有屋等による不動産執行妨害への対策
1 民事執行法上の保全処分に関するもの
(一) 民事執行法第五十五条関係
(1) 要件の緩和
ア 民事執行法第五十五条第一項の要件につき、「著しく」を削除し、「不動産の価格を減少する行為又はそのおそれがある行為」(価格減少行為等)をするときに保全処分を発することができるものとする。ただし、価格減少行為等による価格の減少又はそのおそれが軽微であるときは、この限りでないものとする。
イ 民事執行法第五十五条第二項の要件につき、同条第一項の命令に違反したかどうかを問わず、また、同項の規定による命令によっては不動産の価格の減少を防止することができないと認めるべき特別の事情があるかどうかを問わないで、価格減少行為等をするときに保全処分を発することができるものとする。ただし、価格減少行為等による価格の減少又はそのおそれが軽微であるときは、この限りでないものとする。
(2) 相手方の特定
民事執行法第五十五条第二項の保全処分又は(4)アの保全処分を発する場合において、相手方を特定することが困難である特別の事情があるときは、執行裁判所は、相手方を特定しないで、その執行の時において不動産を占有する者を相手方として保全処分を発することができるものとする。
(3) 公示命令
執行裁判所は、民事執行法第五十五条の保全処分を発する場合において、必要があると認めるときは、当該保全処分が発せられていることを執行官に公示させることができるものとする。
(4) 占有移転禁止の保全処分の効力等
ア 民事執行法第五十五条に基づき、相手方に対し、不動産の占有の移転を禁止し、及びその占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずるとともに、執行官にその不動産の保管をさせ、かつ、相手方がその不動産の占有の移転を禁止されている旨及び執行官がその不動産を保管している旨を執行官に公示させることを内容とする保全処分が発せられ、その執行がされたときは、買受人は、引渡命令に基づき、その保全処分の執行がされたことを知って不動産を占有した者に対し、引渡命令の執行をすることができるものとする。保全処分の執行後にその執行がされたことを知らないで相手方の占有を承継した者に対しても、同様とするものとする(民事保全法第六十二条第一項参照)。
イ アの保全処分の執行後に当該不動産を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定するものとする(民事保全法第六十二条第二項参照)。
ウ アの引渡命令につきアの相手方以外の者に対する執行文が付与されたときは、その者は、執行文の付与に対する異議の申立てにおいて、買受人に対抗することができる権原により当該不動産を占有していること、又はその保全処分の執行がされたことを知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由とすることができるものとする(民事保全法第六十三条参照)。
エ アの保全処分は、申立人に告知された日から二週間を経過したときは執行してはならないものとし、相手方に送達される前であっても執行することができるものとする(民事執行法第五十五条第七項及び第八項参照)。
(5) その他
執行官が不動産の保管のために要した費用は、共益費用(民事執行法第五十五条第九項参照)とするものとする。
(二) 民事執行法第六十八条の二関係
民事執行法第六十八条の二の保全処分について、(一)(2)、(3)及び(5)と同様の措置を講ずるものとする。
(三) 民事執行法第七十七条関係
民事執行法第七十七条の保全処分について、(一)(2)から(4)までと同様の措置を講ずるものとする。
(四) 民事執行法第百八十七条の二関係
民事執行法第百八十七条の二の保全処分について、(一)(1)から(5)までと同様の措置を講ずるものとする。
2 不動産の内覧
(一) 執行官は、民事執行法第五十五条第二項の保全処分により不動産を保管する場合等には、買受けの申出をしようとする者(売却不許可の事由がある者を除く。)のために不動産の内覧を実施することができるものとする。
(二) 執行官は、(一)の不動産の内覧の実施に関し、秩序維持の権限を有するものとする。その権限の内容は、民事執行法第六十五条を参考として定めるものとする。
3 明渡執行の実効性の向上
(一) 占有移転禁止の仮処分における債務者の特定
不動産の占有移転禁止の仮処分命令は、債務者を特定することが困難である特別の事情がある場合には、債務者を特定しないで、その執行の時において不動産を占有する者を債務者として発することができるものとする。
(二) 承継執行文における承継人等の特定
(1) 不動産の引渡し又は明渡しの請求権についての債務名義につき、これに表示された当事者以外の者を債務者とする執行文を付与する場合において、債務者を特定することが困難である特別の事情があるときは、執行文は、債務者を特定しないで、その執行の時において不動産を占有する者を債務者として付与することができるものとする。ただし、不動産の占有移転禁止の仮処分等があらかじめ執行されている場合に限るものとする。
(2) (1)による執行文が付与された日から四週間を経過したときは、その執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行は、することができないものとする。
(三) 明渡しの催告
(1) 不動産の引渡し又は明渡しの強制執行において、執行官は、債務者が不動産を占有しているときは、債務者の不動産に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる期限を定め、その期限(以下「引渡期限」という。)及び(4)により債務者がその不動産の占有の移転を禁止されている旨を債務者の占有する不動産に公示することにより、その強制執行を開始することができるものとする。
(2) 引渡期限は、(1)による強制執行の開始の日から一月後の日とするものとする。ただし、執行裁判所の許可を得た場合には、一月後の日より後の日とすることができるものとする。
(3) 執行官は、(2)による引渡期限の経過前においては、執行裁判所の許可を得て、(2)による引渡期限を変更することができるものとする。
(4) (1)により強制執行が開始されたときは、債務者は、債権者に対し不動産の引渡し又は明渡しをする場合を除き、不動産の占有を移転してはならないものとする。
(5) 執行官は、引渡期限前においては、債務者以外の者が不動産を占有する場合であっても、その者に対する承継執行文の付与を要しないで、(1)の強制執行を続行することができるものとする。ただし、その者が、(1)による強制執行の開始を知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由として、強制執行の不許を求めることを妨げないものとする(民事保全法第六十二条第一項参照)。
(6) (1)による強制執行の開始後に不動産を占有した者は、その開始がされたことを知って占有したものと推定するものとする(民事保全法第六十二条第二項参照)。
(7) 債務者以外の者に対して(1)の強制執行が続行されたときは、その者は、執行官の執行処分に対する執行異議の申立てにおいて、債権者に対抗することができる権原により不動産を占有していること、又は(1)による強制執行の開始を知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由とすることができるものとする(民事保全法第六十三条参照)。
(8) 引渡期限前において執行官が民事執行法第百六十八条第四項に規定する者に同項の動産を引き渡すことができないときは、執行官は、その動産を直ちに売却することができるものとする。
(四) その他
執行官は、不動産の引渡し又は明渡しの強制執行をするために執行の場所にいるときは、不動産の占有関係について調査するため、不動産にいる者に対し、質問をし、又は文書の提示を求めることができるものとする。
4 罰則
いわゆる占有屋等による不動産執行妨害を排除するためのその他の方策として、罰則(例えば、民事執行法第百九十六条以下)の強化をするため、所要の規定を整備するものとする。
二 強制執行の実効性の確保
1 間接強制の適用範囲の拡張
(一) 物の引渡債務についての強制執行は、直接強制の方法(民事執行法第百六十八条から第百七十条まで)だけではなく、間接強制の方法によっても行うことができるものとする。代替執行の方法(同法第百七十一条)によって強制執行を行うことができる作為債務又は不作為債務についての強制執行は、その方法だけではなく、間接強制の方法によっても行うことができるものとする。
(二) 間接強制の方法と他の強制執行の方法が認められるときは、債権者は、その方法を自由に選択して申し立てることができるものとする。
2 財産開示手続
次のような財産開示の手続を設けるものとする。
(一) 申立権者
財産開示手続の申立権者を次のように定めるものとする。
a 金銭債権についての債務名義(民事執行法第二十二条第二号、第四号若しくは第五号又は確定判決と同一の効力を有する支払督促を除く。)を有する債権者
b 一般の先取特権を有する債権者
(二) 手続の開始要件
財産開示手続は、強制執行の一般的な開始要件(一般の先取特権については、その存在を証する文書の提出)を充足し、かつ、次のいずれかに該当する場合に、開始するものとする。
a 強制執行(一般の先取特権については、その実行)を試みたが不奏功に終わったこと
b 債権者に判明している債務者財産に対する強制執行(一般の先取特権については、その実行)を行ったとしても請求債権の満足に足りないことが疎明されたこと
(三) 手続の概要
(1) 財産開示事件は債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄し、財産開示の申立てについての裁判は執行裁判所の執行処分とするものとする。
(2) 財産開示手続は、公開しないものとする。
(3) 債務者は、財産開示の期日に出頭し、宣誓をした上で、自己の財産状況を開示しなければならないものとする。
(4) 債務者は、その責任財産(動産についてはその所在場所を含む。)のすべてを開示しなければならないものとする。ただし、次のいずれかに該当する場合は、裁判所は、債務者の申立てにより、その責任財産の一部の開示義務を免除することができるものとする。
a 債権者の同意がある場合
b 債権者の債権の満足に支障がないことが明らかである場合
(5) 財産開示の期日においては、裁判所のほか申立債権者も、債務者に対し質問をすることができるものとする。
(四) その他
(1) 財産開示手続が行われた後三年間は、その開示の対象となる財産を開示しなかったこと、又は開示の対象となる財産を新たに取得したこと等を疎明しなければ、当該債務者についての財産開示手続の申立てをすることができないものとする。
(2) 財産開示事件の記録中、財産開示の陳述に関する部分については、その閲覧等の請求をすることができる者(民事執行法第十七条参照)を財産開示事件の当事者及び財産開示手続の申立権を有する他の債権者に限るものとする。
(3) 財産開示を受けた債権者(財産開示の陳述に関する部分の事件記録の閲覧等をした債権者を含む。)は、債務者財産に関する情報を民事執行の用に供する目的以外に使用してはならないものとする。
(4) 債務者が、正当な理由がないのに、財産開示の期日に出頭せず、宣誓若しくは財産開示の陳述を拒み、又は虚偽の陳述をした場合につき、所要の罰則を設けるものとする。(3)の債務者財産に関する情報を目的外に使用した場合についても、所要の罰則を設けるものとする。
3 少額定期給付債務の履行確保
(一) 弁済期到来前の差押え(予備差押え)の許容
扶養等の義務に係る定期金債権についての強制執行においては、弁済期の到来した定期金についての差押えと同時に、弁済期の到来していない定期金についての差押えをすることができるものとする。ただし、弁済期の到来していない各定期金についての差押えの対象は、給料その他継続的給付に係る債権(民事執行法第百五十一条参照)であって、その弁済期が当該定期金の弁済期より後に到来するものに限るものとする。
(二) 履行確保をより充実させるための方策
扶養等の義務に係る金銭債権についての強制執行においては、民事執行法第百五十二条の規定により差押えが禁止されている債権であっても、当該債権の支払期に受けるべき給付の二分の一に相当する部分については、同法第百五十三条による範囲変更の決定を要しないで、差押えをすることができるものとする。
三 その他
1 動産競売
(一) 動産を目的とする担保権の実行としての競売(動産競売)は、債権者が執行官に対し、目的動産を提出し、又は占有者の差押承諾文書を提出した場合(民事執行法第百九十条参照)のほか、(二)の許可がされた場合にも、開始することができるものとする。
(二) 債権者は、執行裁判所に対し、担保権の存在を証する文書(証明文書)を提出して、動産競売の開始の許可の申立てをすることができるものとする。ただし、目的動産が民事執行法第百二十三条第二項に規定する場所にない場合は、この限りでないものとする。
(三) (二)の許可がされたことに基づく動産競売は、その決定書が、あらかじめ、又は同時に、債務者に送達されたときに限り、開始することができるものとする。
(四) (二)の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができるものとする。
(五) (二)の許可がされたことに基づく動産競売においては、執行官は、動産競売を開始するに際し、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において、又は債務者の占有する金庫その他の容器について目的動産を捜索することができるものとし、この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸及び金庫その他の容器を開くために必要な処分をすることができるものとする(民事執行法第百二十三条第二項参照)。
2 差押禁止財産
(一) 標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額の見直し
民事執行法第百三十一条第三号(差押禁止金銭)及び同法第百五十二条第一項(差押禁止債権)に基づき民事執行法施行令が規定する「政令で定める額」について、標準的な世帯の必要生計費の推移等を踏まえて、その額を引き上げる見直しを行うものとする。
(二) 差押禁止動産の範囲の見直し
差押えが禁止される金銭の範囲について、「標準的な世帯の一月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」(民事執行法第百三十一条第三号)とされているのを、「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」に拡大するものとする。差押えが禁止される食料及び燃料の範囲について、「債務者等の生活に必要な二月間の食料及び燃料」(同条第二号)とされているのを、「債務者等の生活に必要な一月間の食料及び燃料」に縮小するものとする。
3 不動産競売に関するその他の見直し
(一) 物件明細書の備置き
物件明細書を一般の閲覧に供する方法として電磁的方法を利用可能とするため、執行裁判所にその写しを備え置く方法(民事執行法第六十二条)に代えて、最高裁判所規則で定める方法によることができるものとする。
(二) 差引納付に係る代金の納付時期
配当異議の申出等があった場合における差引納付に係る代金の納付時期(民事執行法第七十八条第四項)につき「直ちに」とあるのを、「配当異議の申出等があった日から一週間以内に」と改めるものとする。
第三 その他
その他所要の規定を整備するものとする。