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[資料番号] 00145
[題  名] 労働基準法改正国会審議-衆議院厚生労働委員会 会議録第17号(H15.5.23)
[区  分] 労働基準

[内  容]

衆議院厚生労働委員会第17号 
平成15年5月23日(金曜日)

 

 

中山委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、労働基準法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 この際、お諮りいたします。
 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣府政策統括官坂篤郎君、法務省大臣官房審議官深山卓也君、民事局長房村精一君、厚生労働省厚生労働審議官大塚義治君、医薬局長小島比登志君及び労働基準局長松崎朗君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
中山委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
中山委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。長勢甚遠君。
長勢委員 おはようございます。
 労働基準法改正案の審議になったわけでございますが、今SARS等が大変やかましいわけで.........(中略)
長勢委員 全く質問に答えておらないので不愉快ですけれども、審議をとめるわけにはいきませんので続けます。
 それでは、今回の労働基準法の改正について議論をしたいと思いますが……(発言する者あり)
中山委員長 御静粛に願います。
長勢委員 今回の基準法の改正は、総合規制改革会議の強硬な主張が根底にあったものと理解をしております。総合規制改革会議と当時の厚生省あるいは厚生労働省とでは意見の相違があって、厚生労働省が抵抗勢力としていわれなき非難をされておったということについては私は同情しておるわけであります。しかし、ここに、このたび関係審議会の熱心な議論を経て法案の提出を見るに至ったことには敬意を表しておるものでありまして、当委員会として、この法案が早急に成立する、可決されるということを期待しております。
 そのような経過を踏まえての法案と考えておりますので、法案の中身の前に総合規制改革会議の考え方についてまずお伺いし、確認をしておきたいと思います。
 総合規制改革会議の基本的な考え方というものをまず確認をしたいと思いますが、基本的な考え方は、自己責任と市場原理に立つ自由で公正な経済社会の構築を目指すということにあって、それを踏まえて、雇用労働に関しては、長期的な経済社会の構造変化のもとで労働市場の状況や雇用のあり方は大きく変わってくるということから、一つは、円滑な労働移動を可能とする規制改革、二つ目に、就労形態の多様化を可能とする規制改革、三番目に、新しい労働者像に応じた制度改革、こういうものを推進すべしということで、能力開発ですとか職業紹介ですとか、あるいは労働者の募集、採用ですとか派遣の問題ですとか、有期労働契約、裁量労働制、解雇基準、社会保険制度、個別労使紛争など、各般にわたって提言を行ってこられたと思っております。
 これらの会議の答申に盛られた個別の文言はそれなりにきれいになっておるというふうには理解しますけれども、それを通ずる基本原理は、あらゆる社会システムについての自己責任と市場原理の貫徹、それらの最優先というところにあると思われます。雇用労働についても、そのことが繰り返し強調されてきたと思われます。もちろん、経済社会構造の変化に対応して変えるべきものは変えるのは当然ではございますけれども、雇用労働について市場原理最優先という考え方はいかなものであろうか、この規制改革会議がどういう労働市場、どういう雇用関係にこれからの日本をしようとしておるのか、大いに疑問に思ってきたところでございます。
 私は、企業の生産性の向上維持のためにも、国民生活の安定のためにも、長期雇用を基本とすることが最も適切であると考えております。世界各国ともこの方針で苦労してきておる、こういうふうに思っておりまして、そういう中で、唯一と言っていいくらい日本だけが、日本本来の集団主義文化を踏まえて格段に長期雇用慣行を達成し、各国にうらやまれてきたのが今日である、こういうふうに評価をしております。
 これに対しまして、総合規制改革会議は、従来の終身雇用制の弊害をあげつらうというだけではなくて、長期雇用そのものをも否定して、労働移動の促進に極めて熱心な考え方に立っておるというふうに思われます。しかし、この姿勢というのは、一般には達成し得ない個人の能力開発に対する自己責任を根拠としておる、そしてこれに対応して企業の市場原理を貫徹しようとするものであると思いまして、まさに日本を個人主義文化の社会に変容しようというのが基本的な考え方であると思っております。
 したがって、この総合規制改革会議の目指すところというのは、企業は必要に応じて必要な労働者を外部労働市場から調達する、つまり、必要な労働者を状況に応じて取っかえ引っかえするようにするということではないのだろうか、必要な労働者をアラカルトでそろえて企業経営をするのがいいんだというふうに言っておるとしか思われないわけであります。それで、必要な労働者が確保されないと、つまり、外部市場にいないと、このシステムは動かないということになるわけですから、能力開発、職業紹介、雇用関係法制全般にわたってこの方向での改革を求めるというのが総合規制改革会議の基本的な方向であるというふうに思わざるを得ません。
 こんなことで生産性の高い企業経営というのは行えるんだろうか、またこんなシステムで勤労生活を全うできる労働者はどれだけいるんだろうか、まして、総合規制改革会議の赴くところ、一部の労働市場関連分野の企業本位としか思えないものがたくさんあるわけでありまして、こういうことを考え合わせますと、この方向でどんどんいきますと、日本はどんな社会になるんだろうということを考え、まさに慄然とした思いがいたします。
 きょうは坂統括官においでをいただいておるわけでありますが、統括官の立場上、議論というわけにはいかないのかもしれませんけれども、ずっと総合規制改革会議の議論をフォローされてこられたというお立場から、総合規制改革会議の基本的な考え方についての私の理解に誤解や間違いがあったら、ひとつ御指摘をいただければありがたいと思います。
坂政府参考人 必ずしも誤解や間違いということではないんだろうと思いますが、御指摘になりましたような立場から、総合規制改革会議での議論をちょっと御紹介をさせていただきたいと思います。
 総合規制改革会議は、十三年十二月の第一次答申あるいは昨年十二月の第二次答申でさまざまな分野について答申をいたしておりますけれども、雇用労働市場についても答申をいたしたわけでございます。
 その答申の考え方を御紹介させていただきますと、経済とか社会がいろいろ構造変化をしている、そういうもとで労働市場もあるいは雇用のあり方も現実も大きく変わっている、そういうことも考えて雇用や労働市場をめぐる規制のあり方も変化すべきではないだろうか、こういう問題意識かと存じます。
 やや具体的に申し上げますと、例えば、経済が非常にグローバル化して競争環境が激化している、あるいはITなどの新しい技術革新というのもあった、そういう中で個別の企業とか産業とかの栄枯盛衰のテンポも非常に速くなっていて、場合によると人間の一生よりも企業の一生の方が短いというようなこともある。そうしますと、一企業で雇用を保証するというのもなかなか現実には難しいというケースもたくさんあるだろう、こういうことでございます。そうすると、労働市場全体として雇用を保証するという考え方に移行していかなくてはいけないんじゃないだろうかということでございます。
 また同様に、個人の側でも、いろいろな専門能力を有するホワイトカラー層ですとか、あるいはパートタイムで働きたいという人たちですとか、あるいは派遣がいいんだという人たちとか、個人の働く方の側の望みというか需要の方もいろいろなタイプの方が出てきていらっしゃる、こういうこともございます。
 そういうようなことから、就労形態もだんだん多様化しておりますし、その多様化を可能とするような規制改革というのも必要なのではないだろうか、そういうような観点から、職業紹介規制でございますとか、さっき先生が御指摘になりましたようなさまざまな規制改革を提案したということでございます。
 別に長期雇用慣行をいけないと言っているわけではございませんで、さまざまなスタイルがあっていいのではないだろうか、それが経済社会構造の変化に対応した規制なのではないだろうかという考え方かというふうに承知いたしております。
長勢委員 今おっしゃったように、専門分野が出てきたとか企業のいろいろなスパンが短くなったとか、いろいろなことがありますが、それに対応するあるいは多様な働き方に対応していくということが必要な部分が全くないと私も思っているわけではありませんけれども、それに事寄せて、それを奇貨としていろいろなことを言い過ぎである、逆にそれが中心であるかのごとき提言がどんどんなされておって、その根底には先ほど申し上げたような基本的な戦略があるのではないか、こういうことをそのまま許しておると日本の国はどうなっていくんだろうということを私は指摘をいたしたいわけであります。
 総合規制改革会議での議論には厚生労働大臣も大変御苦労いただいておると承知をいたしておるわけでありますけれども、これからの日本というのは労働で支えていかなきゃならないわけで、その労働のあり方をきちんとしたものにしていくために、さらに御努力をいただけるものと期待をいたしております。
 総合規制改革会議の基本的な考え方について、今私も意見を申し上げましたし、坂統括官からも御答弁があったわけでございますが、ここでの議論について、厚生労働大臣からもひとつ御感想でもあれば、お伺いをさせていただければありがたいと思います。
坂口国務大臣 長勢議員の御主張になりましたこと、私も考え方といたしましては大きく違わない、そんなつもりでおります。
 いつかもここで申し上げましたとおり、これから、雇用というものを重視していかなければならない、そういう社会になってくるというふうに思っております。その中で、日本が現在の経済状況の中で労働生産性を高めていかなければならないことは紛れもない事実だというふうに思いますが、その労働生産性を高めるためには、技術の開発でありますとか、新しいシステムの開発でありますとか、そうしたことによってこれは高めていくべきものであって、労働条件を悪化させる、あるいは労働時間の延長を行わせる、そうしたことによって労働生産性を上げていくというのは、これは少し本末転倒しているのではないかと実は思っております。
 したがいまして、労働者の働く条件を守りながら、そして、一方において、技術開発によって他の国々に打ちかっていく、そういう方向性を日本は打ち出さないといけないのではないか。そちらの方の規制改革が必要ならば、私はどんどんやっていただいて結構というふうに思っておりますが、どうも現在の規制改革、そうした経済に対します規制改革のことが余り少なくて、十項目ぐらいあります中で、六項目も七項目も厚生労働省に関することが列挙されているというのは、いささか偏り過ぎていないかと私も考えております一人でございます。それは、経済諮問会議におきましても率直に私の意見を述べているところでございまして、これからも述べ続けさせていただきたいと思っているところでございます。
長勢委員 労働に絞って、規制改革会議の議論というか、話をさせていただきますと、今大臣おっしゃったように、私は、企業経営の生産性を向上する基本は、基本的には長期雇用慣行が一番ベストである、こう思っておりまして、しかし、従来、終身雇用制の弊害も徐々に出てきている部分もありますし、その長期雇用慣行をどうやって再構成していくかという観点からのいろいろな議論は、当然みんなで、労使協力してやっていくべきことだと思っておりますが、一部の、ある種少数の、ある種特殊な専門職の方々だとか、そういう方々を中心にした、それを前提にした、そういう社会にしようというがごとき議論というのはまことに不適切、社会の実態からかけ離れた間違った思想だと私は思っております。大臣にも御理解をいただいておる部分が相当あるようでございますので、何とぞ今後ともひとつ頑張っていただきたい、心から御期待を申し上げる次第であります。
 そこで、基準法改正の内容について、若干の質疑をさせていただきたいと思います。
 今回の改正は、有期労働契約、あるいは解雇ルール、あるいは裁量労働制についての三点が主な内容だと思いますが、まず、有期労働契約関係について御質問させていただきます。
 有期労働契約期間の上限延長でございますけれども、こういう改正を行う趣旨、目的というのは何なんだろうか。今までの私の質問とも絡みますけれども、どうもこの趣旨、目的というのは、専門職などについて働き方の選択肢をふやすとか、雇用機会の拡大を図るとかということがうたわれておるようでございますけれども、どれほどの必要性がそのことのためにあるのかということについて、私は極めて疑問に思っております。そんなことだから、この規定がリストラのために使われるのではないかという無用の批判まで出ておる始末なのではないかと思います。
 技能、技術などの変化の中で、三年の有期労働契約が適切な場合ということが生じておる、にもかかわらずそれを法律で縛るというのでは困る、合わなくなっているということがあり得るということは十分理解できます。したがって、今回の改正は、そのような例外的な場合に対処するための法改正であるというふうに理解すべきものと考えます。
 この改正によって、リストラの方策として有期労働契約への切りかえが行われたり、あるいは期間の定めのない契約による長期雇用は例外というような風潮が生じたり、三年契約が当然というような採用が行われたりというようなことは、私は起こってはならない、また、そういうことが起こらないように改正の趣旨の徹底が一番肝要だと思います。もし間違ってそういう風潮が起こるということになれば、健全な経営の上からも決してよいわけではありませんから、そういう誤解が生じないように経営者団体からもきちんと指導させるべきだと思っております。
 基準局長にお伺いしますが、この改正の施行に当たって、今私が申しました問題点というか、理解の徹底についてどのように対応されていく方針か、お伺いをさせていただきます。
松崎政府参考人 まず、今回の有期労働契約の上限の延長の影響でございますけれども、これはまず基本的に私どもが考えておりますのは、各企業におきましていわゆる常用労働者と有期契約の労働者、これをどういうふうに組み合わせていくかということは、やはりそれぞれ企業の事業戦略、そういったものを遂行していくための人材戦略として考えられていくわけでございまして、人員構成でございますとか配置、キャリア形成のあり方などいろいろなものを総合的に判断して進められていくというふうに考えております。したがいまして、法律制度上、この上限を延長されたからといいまして、直ちにそれが個々の企業につきまして常用からの代替が起こるということは少ないんじゃないかというふうに考えております。
 確かに、御指摘のような懸念につきましては、本案を検討いただきました労働政策審議会におきましても、そういった御指摘のような懸念が表明されたわけでございますけれども、これに対しまして、使用者側の委員の方からは、やはり企業においては基幹労働力というのは基本的に期間の定めのない雇用としておって、今回の見直しに伴ってそういった基幹労働者の方、これを有期労働者にかえるということは、企業という組織を健全に運営していく上からもそういったことは普通考えられないといったような意見表明もございました。
 ただ、公労使一致しての建議におきましても、この上限を延長することに伴いまして、企業におきまして、期間の定めのない労働者、こういった方を、合理的な理由がなく有期労働契約に変更することがないようにすることが望まれるといった建議もいただいております。したがいまして、御指摘のように、この制度の趣旨、そういったものにつきましては、この施行に当たりまして、どういう具体的な方法、そういったことについてこれから検討していきたいというふうに考えております。
長勢委員 今回の法案はそういう趣旨のものとして、私も賛成をしておるわけでありますが、誤解もあるようでありますし、どうしても法律についてしゃくし定規に読む人が出てくるといろいろなことが起きますから、今御答弁になった趣旨、特にこれは例外的な話なんだよということは徹底して御指導いただくようにお願いをしたいと思います。
 次に、解雇ルールについて、若干質問をさせていただきたいと思います。
 解雇については、労使それぞれ全く相対立する、片一方は自由に解雇したいということでしょうし、片一方はめったやたらに解雇されては困るというか、解雇は制限をしてもらいたいということでありますから、その中に立って、最高裁の判例でルールを形成してきたというのが今日までだと思います。今回の改正はその判例を法文化をするものでありまして、現下の雇用不安のもとで法律上もこのことを明確にしておくということは、不当解雇を防止する上でも時宜を得たものだと思っております。
 ただ、この条文というか改正をめぐっては、大変多くの議論が見られるわけであります。基準法というのは基本法ですから、そういうことは仕方がないのだなとは思いますけれども、正直言って、どうも議論が法律家中心の法律論に偏しておるというか、それに偏っておる。どれだけ実態に関係のある議論が行われているのかなと疑問に思うこともあるわけでございます。
 現実には、経営者の中には、不況の中で、金輪際解雇はできないのだと思い込んで大変困っておるという人もおられますし、一方、労働者の中には、いつ不当に解雇されるか冷や冷やしているというか、不安に思っておられるという方も見られるわけであります。まして、最高裁判例の四条件とかといったようなことを理解しておる向きというのはほとんどおられないのではないかと思います。そういう中でのこの法改正であります。ぜひ、この改正を契機に、解雇に関するルールの周知を図るということが、労使ともの不安を解消するという上で極めて大事なことだと思います。
 ところが、この改正によって、間違うと、解雇は何でも自由にできるんだという経営側の誤解が生じたり、あるいは、解雇というのは今までよりもきつく制限されるようになったんだという誤解が生ずるというようなことがあっては、私は、大変趣旨に反する、間違ったことが起こる、このように思います。
 せっかくの改正が労使双方にきちんと理解されて、労使ともに、解雇についての最高裁判例が形成してきたルールがきちんと徹底できれば、まことに効果があるというか、この改正の意味があるわけでありますから、こういうことについての周知徹底について特段の方策を講じていただきたいと思いますが、どういう対応を考えておいでになるか、お伺いしたいと思います。
松崎政府参考人 御指摘のように、解雇に関しましては、労使、非常に意見の隔たりがございました。ただ、そういった中で、具体的に検討いただきました労働政策審議会におきましても、少なくとも唯一一致いたしましたのは、解雇が労働者に与える影響の重大性、それから解雇に関する紛争が増大している、こういった現状にかんがみて、とにかく解雇に関する基本的なルール、そういったものをあらかじめ明確にすることによりまして、解雇に際しまして発生するトラブル、こういったものを防止して、その迅速な解決を図るということが必要であるということは一致したわけでございます。
 そのためにどうするかという方策でございますけれども、これは御指摘のように、現在、昭和五十年のリーディングケース以来三十年間定着しておりますいわゆる解雇権濫用法理というものを、これは俗に言えば足しもせず引きもせず、そのまま立法化すべきじゃないかという御提言をいただいたわけでございまして、その趣旨を、趣旨といいますか最高裁判例、この解雇権濫用法理を立法化するに当たりまして、これは御指摘のように、かなり法技術的な面がございました。そういったことからいろいろ誤解を生むといった面もあろうかと思いますけれども、そういった誤解のないよう、この法制化に当たりましては、特にこれは基準法の中に書くということになりますと、やはりいろいろPRも積極的にできますし、また、私ども現場の監督署におきましても、最終的な無効かどうかの判断というのは裁判所になるわけでございますけれども、具体的な説明、そういったものも積極的にできますので、労使双方に誤解のないように、きちんと周知徹底というのは図っていきたいというふうに考えております。
長勢委員 質問時間が終了したようですが、ちょっと一言だけ。
 今の御説明は、最高裁の判例をそのまま条文化をしたという説明だったと思うのですけれども、何かいろいろな議論が世の中にあるようですが、最高裁の判例と違う考え方があって、そういう反対の議論もあるのでしょうか。それだけ教えてください。
松崎政府参考人 解雇に関するルールといった場合に、もちろん現在では御指摘のように最高裁におきます確立しております解雇権濫用法理というものがありますけれども、これは逆に、政策論といたしましては、例えば解雇制限法のように、正当な理由がない場合には解雇できないといったような立法例も諸外国にはございます。そういったように、政策論としてはいろいろな法がございますけれども、現状において労使当事者が一応納得をしてといいますか、理解をして進められるものとして、解雇権濫用法理を条文化するという道を選んだわけでございます。
長勢委員 どうもありがとうございました。

 

中山委員長 次に、桝屋敬悟君。
桝屋委員 公明党の桝屋敬悟でございます。久々にこの委員会で質疑を行わせていただきます。
 いよいよきょうから労働基準法の一部を改正する法律案の審議が始まったわけであります。この国会で、労働界といいますか、今連合の皆さんや、最大の関心を持って見ておられる法律の一つがやはりこの労働基準法ではないか、こう思っております。
 今回の改正は、少子化による労働人口の減少、あるいは経済の国際化であるとか、あるいは情報化等の進展によりまして、産業構造が変化をしておる、あるいは労働市場が変化をしておる。そうした変化の中で、経済社会や労使の要請にこたえるものとして今回の改正案が準備をされたものであるというふうに理解をしております。
 こうした変化の時代にあって、この法律の今回の改正の心といいますか、どのような経済社会あるいは労働市場を志向しておられるのか、そのあたりから、先ほどの長勢委員の議論でもありましたけれども、厚生労働省サイドから、まずその基本についてお伺いしたいと思います。
鴨下副大臣 今委員おっしゃっていますように、まずはとにかく、現在、経済が国際化して、そして個人そのものの意識も、さまざまなライフスタイルでそれぞれお考えになっている、こういうようなことでありまして、ある意味でさまざまな状況が大きく変化していく、こういうような中で経済の活力を維持していかなければいけないわけでありますし、さらに、先生御指摘のように、産業構造そのもの、それから企業活動の変化、そしてさらに労働者そのものの就業意識の変化、こういうようなものに対応していくというようなことを大前提としまして、個人が持てる力を有効に発揮できる、こういうような社会を志向していく、こういうようなことが前提になっているんだろうというふうに思います。
 その中で、今回の基準法の改正は、労働者が主体的に多様な働き方を選択できるようなさまざまな可能性を拡大しよう、こういうようなことと、もう一つは、働き方に応じて適正な労働条件を確保できる、こういうような観点から改正を行おう、こういうようなことでございます。
桝屋委員 ありがとうございます。
 最初に申し上げましたけれども、今大変な変化の時代であるというふうに私は思っております。先ほど長勢委員の議論の中でも、やはり変化に応じて法律も変わっていくということはあっていいわけでありますが、ただ、その方向性が問われているんだろうと私も思っております。
 先ほどの議論ではありませんが、自己責任、それから市場原理のみの発想で法律改正が進むということはこれは慎重でなきゃならぬ、そこはしっかりこの委員会で今回の改正について審議をしなければならぬというように思います。
 今も副大臣がおっしゃったように、選択の幅が広がるといいますか、多様な働き方ができるということが一方では確かに求められている。ただ同時に、そうした非常に変化に富んだ労働市場の中で、やはり適正な労働基準といいますか労働環境というものが用意されなきゃならぬ。ここは本当に二つのバランスが非常に難しい点だな、こういうふうに思っております。
 それで、きょうは時間も限りがありますから、一つは解雇ルールの法制化の問題、それから裁量労働制、それから時間がありましたら有期労働契約の期間の問題、この三点に絞って議論をさせていただきたいというふうに思います。
 最初に、解雇ルールの法制化であります。
 先ほどの長勢委員の議論でもありましたように、今回、解雇ルールの法制化ということが一つのテーマであります。今回の改正の最大の論点だろうというふうに私は思っております。
 解雇をめぐる紛争が多く発生をしておるという話をよく聞くわけでありますが、まずは現状について、この紛争の状況について御報告をいただきたいと思います。
松崎政府参考人 解雇をめぐる紛争の状況でございますけれども、これは、各都道府県に労働局がございますが、ここに寄せられましたいわゆる個別労使紛争に関係いたします相談の状況でございますけれども、解雇に関する相談を見てまいりますと、一番直近の平成十四年度下半期でございますけれども、これは一万七千二百六十九件ということで、全相談数の最も大きな割合、約三〇%を占めております。また、相談件数自体も、個別労使紛争解決制度の発足以来、大体一四%ぐらいの伸びで各期ふえているという状況でございます。
桝屋委員 ありがとうございます。まさに時代を反映する傾向だろうと思います。
 そんな中で、今回、解雇をめぐる紛争の状況等に対応するために、解雇ルールを法制化しようという作業であるわけでありますが、私も、あの厚い資料に随分目を通しまして、いろいろ今日までの議論を読ませていただきました。
 結果的に、労働側あるいは使用者側の法制化することについてのコンセンサスは得られた。ただ、先ほど紹介もありましたけれども、規制緩和という大変な流れも一つは確かにあったんだろうというふうに私は思っておりますが、とりあえず、解雇ルールを法制化するということになったわけであります。問題は、その法形式上の規定ぶりであるのではないかと、こう思っております。
 私も読んでみまして、まさに十八条の二、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」。こういう十八条の二を今回新たに入れるということであります。
 私は、この十八条の二をいろいろ眺めておりまして、これは何とも言えない書きっぷりだなと、こう思っているわけであります。
 ただ、法律はなかったんだけれども、今日まで積み上げてきたそうした判例の法理はあるわけでありますし、あるいは民法上の規定もある。そうした中でこうした表現になっておるのかなと、こういうふうに理解をしておるわけであります。解雇ルールを法律で書くとなるとこんな表現になるのかなと、こう思っているんであります。
 つまり、解雇を権利濫用として無効にするという権利濫用法理を用いた表現ということなのかなと思っております。端的に言うと、正当な理由がなければ解雇できないというような表現だってあるわけでありますし、ここは今日までの議論があったんだろう、こういうふうに思っております。
 こうした表現ぶり、規定ぶりになったという、この整理を、きょうは最初の議論でありますから、まず御説明いただきたいと思います。
松崎政府参考人 この十八条の二でございますけれども、これは御指摘のように、最高裁におきます解雇権濫用法理をそのまま書くという趣旨でございます。
 これは、リーディングケースとしまして昭和五十年の日本食塩製造事件の判決がございますけれども、ここで言っておりますのは、そこの部分だけ申し上げますと、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」という書き方でございます。
 しかし、そこの部分を法律に書こうとする場合、これは権利の濫用ということが重要でございますけれども、書く場合に、権利の濫用といった場合に何の権利の濫用かということになりますので、これは法律上、技術的な面が非常に大きいわけでございますけれども、解雇権というもの、解雇できる権利というもの、そういったものをまず書いて、それがこういった場合には権利の濫用になるんだというふうに書く、そういうふうな書き方になった、かなり法技術的な結果だということでございます。
桝屋委員 まさに、五十年の判決、それをそのまま、十八条の二というこの条文で、先ほど私が読み上げた条文に整理したということを御説明いただきました。やはり、解雇権を前提としてこういう表現になるという御説明でありました。
 今、判例上の権利濫用法理の話がありました。それを重ねて活用して、今回のルールをこういうふうな規定ぶりに表現されているわけであります。であれば、権利濫用法理については、通常、権利が濫用されているということを挙証するといいますか立証するのは、やはり、濫用された方がその立証責任を負うというふうに考えるわけであります。
 恐らく、御説明では、今回のこの条文の中でも、労働者側が、解雇された方が立証責任を負うという御説明になるのかもしれません。ただ、今までの判例上の取り扱いを考えてみますと、やはり、労働者と使用者という立場もあるんでしょう。実際に積み上げてきた今までの流れを見ますと、使用者側に正当理由の立証というものが相当求められている、こういう流れがあるだろうと思います。その辺はどのように御説明をされるのか、お伺いしたいと思います。
松崎政府参考人 権利濫用法理におきましては、もう御指摘のように、権利を濫用されたという者が法律上の立証責任があるということでございますので、解雇権濫用法理におきましても、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないということを基礎づけます事実の立証責任は労働者側にあるというのは、従来から変わっておりません。
 したがいまして、今回の改正におきましても、これは最高裁判決を踏まえまして、その解雇権濫用法理をそのまま規定にしているわけでございますので、これによって主張立証責任の所在というものは変わらないということでございます。
 ただ、具体的な訴訟におきましては、法律上の主張立証責任を、どれだけ主張立証活動を行えばそれを果たしたと見るかといった、訴訟指揮に基づく問題がございます。
 こういったことで、実際上の裁判所実務におきましては、御指摘のように、使用者と労働者の間の情報量に差がある、力の差があるといったようなことから、実際上の裁判におきましては使用者の側により多くの主張立証活動を行わせるといった扱いがなされている例が非常に多いわけでございまして、そういった裁判例というのが定着しているということでございます。
 したがいまして、具体的な主張立証活動につきましても、今回の規定というものもこの最高裁の解雇権濫用法理をそのまま規定にしているわけでございますので、当然、現在の裁判実務上の扱いを変更しようというものでもありませんし、変更になるというものでもないというふうに考えております。
桝屋委員 今の御説明で、大変わかりやすいといいますか、わかりにくいといいますか、今までの判例上の権利濫用法理を今回この条文の書きっぷりの中でお使いになる。そうしますと、やはり労働者側に立証責任はある。ただ、実態として、裁判上の今までの取り扱いというのは、より多くの正当理由の説明、主張を使用者側に求めてきた、こういう実態もある。そうすると、にわかに、ああ、そうですかということが、私の頭ですぐにイコールにならないのでありまして、ちょっと条文の書きっぷりが、相当理解が難しいなと。
 ただそこは、私もあえてこういうことを申し上げるのは、やはり先ほども、解雇ルールの説明というのはきちっとしなきゃいかぬ、その法律ができればしっかりそこは正しく理解をしてもらわなきゃいかぬ、それは使用者側にも労働者側にも大事なことですよ、こういう御指摘がありましたが、やはり理解をしていただく上で、非常にわかりやすくなきゃいかぬわけでありまして、ここはまさに、今回の解雇ルールの規定によって、場合によっては、先ほど指摘があったように、使用者側は解雇しやすくなるという理解をする可能性もありますし、その危惧というのは当然出てくるのではないか。
 やはり今回のこの質疑の中で、委員会のこの審議の中で、こうしたこともしっかり、その懸念に対してこたえていかなきゃならぬ役割があるのではないか、こう思っておりますが、ここはぜひ大臣にお聞きしたいんですが、今回の解雇ルールの規定によって、この規定ぶりというのは、決して使用者側が解雇しやすくなる、こういう環境を整えるものではないということはぜひ御説明をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 私は、この法律をつくるに当たりまして、最高裁の判決というものが動かないようにしてほしい、プラスもマイナスもしない、もうとにかく今までの判決がそのままこれからも継続をするという前提でひとつつくってほしいということを申し上げたわけで、それを法律専門家がつくり上げたらこういうことになりました、こういう話でございまして、法律の文章でございますから、私も専門でございませんので、自分の文章の書き方や何かからいきますと、もうちょっとこう書いたらどうだ、ああ書いたらどうだという気はいたしますけれども、しかしそうではなくて、やはり法律専門家がそのプラスもマイナスもしないという趣旨のもとに書けばこういうことになるというふうに言います以上、やはりそれはそういうふうに理解をする以外にないというふうに思っているわけでございます。
 しかし、裁判が例えばあって、これは裁判官が考えて、いや、これは違うというのであれば、それはその書き方を変えなきゃいけないというふうに思いますけれども、現在のこの書き方は、専門家から見て、これは法制局にも何度も何度も見てもらっておるわけでありますから、現状を決して動かすものではない、こういうふうに言い切っておみえになるわけでありますから、素人の私がそれ以上なかなか申し上げることはないというふうに思っております。
 したがいまして、現在のこの状況が今後もそのまま継続するというふうに理解をいたしておりますし、御心配になりますように、労働側がこれによって不利になるということはあり得ない、またそうさせてはいけないというふうにも思っているところでございます。
桝屋委員 今大臣が、五十年の判決、これを足しも引きもしない、こういう御答弁をいただきました。重ねて、労働側がこれによって不利をこうむるようなことがあってはならないし、そうさせてはならないという、この大臣の発言を私は受けとめさせていただきたいと思います。
 やはり今回、労働基準法の中に初めて解雇ルールが明文化されるわけでありますから、その法律によって、裁判はともかくも、裁判以前の、法廷以前の、個別紛争処理でありますとか、あるいは実際の現場における労働相談等、そうした一つ一つに影響を与えるわけでありますから、そういう意味では、きょう以降しっかりとこの部分についてはこの委員会でも議論をしなきゃならぬ、こういうふうに思っております。
 それからもう一点が、裁量労働制でございます。
 私も旧労働委員会にも参加させていただいて、大変な議論の中で、裁量労働制、特に企画業務型の裁量労働制で、導入のときも随分議論をいたしました。それ以来今日まで、企画型の裁量労働制がなかなか実態として定着をしない。これは定着しない方がいいか、いろいろ議論もあるところでありましょうが、いずれにしても、今日までの議論の中で、対象事業場の限定を取り払うとか、あるいは手続についても緩和をするという、私も最初の議論のときに、いささか複雑な手続だな、こう感じてはいたわけでありますが、ただ、ここは慎重に導入しなきゃいかぬ、こういう議論があったことを記憶しておりますが、ありていに言いますと、いわゆる使い勝手をよくした、よくするという改正ではないかな、こういうふうに感じておるわけであります。
 この委員会でも随分サービス残業の問題も言われておりますけれども、まさにこうした使い勝手のいい企画型の裁量労働制、ここの規制を緩和するということはまさにこのサービス残業を合法化するというのではないか、こういう危惧の声、批判の声もあるわけでありますが、この声にどのようにおこたえになるのか、お伺いしたいと思います。
松崎政府参考人 企画業務型の裁量労働制でございますけれども、これは労働者の側から見た場合に、労働者一人一人の方が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するためにということで、その選択肢の一つとして導入されたというものでございますが、この制度がより有効に今後発揮いたしますように、この制度の導入、運用についての要件、手続を一部見直し、あるいは緩和しようというものでございます。
 ただ、その後におきましても、この制度の導入に当たりましては、労使の十分な話し合い、こういったものが必要とされておりますし、これは具体的には労使委員会というものがあるわけでございますけれども、そういったことから、この制度の基本的な枠組みは従来と変わっておりません。したがいまして、今回の改正によりまして、いわゆるサービス残業の合法化につながるといったことはないのではないかというふうに考えております。
桝屋委員 今、松崎局長の方から、そうしたことはないというお話でありますが、にわかにそうですかとなかなか言えないぐらいに時代は厳しい状況を迎えているわけでありまして、この委員会でも随分何度も議論が出ておりますけれども、やはり私も現場を回ってみますと、労働の現場では本当に厳しい状況があるわけであります。まさにある意味では社会的な問題になっているサービス残業ではないかなと私は思っておりますが、これはやはり解消を図らなければならない。従来から行っている指導監督の強化はもちろんでありますけれども、やはり労使による主体的な取り組みというものが何よりも重要ではないか、私はこのように考えております。
 こうした労使による主体的な取り組みということをぜひ積極的に促すという意味も含めて、私は、総合的な対策を講じていく必要があるのではないか。時代が厳しければ厳しいほど、この部分は今こそやはり手をつけなければならぬ、このように感じておりますが、総合的な対策という意味で、大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 サービス残業というのは、これは労働基準法に違反をするわけでございますし、あってはならないものであり、これを解消するためには、家族との触れ合い等も含めまして、生活と労働のバランスのとれた国民生活を実現する、いわゆる雇用重視型社会実現のために極めて重要なものだというふうに思っております。
 現在、厚生労働省でまとめつつありますデータを見ておりますと、四十七都道府県別に見ましても、労働時間が長い県ほど少子化が進んでいる、有意の関係にある、そういうデータが出ておりまして、日本全体で見ましたときにも、長時間労働、ましてやサービス残業というのは、やはりどうしても日本が乗り越えていかなきゃならない、ここはどうしてもやらなきゃならない仕事の一つというふうに思っている次第でございます。
 そうした観点から、厚生労働省といたしましてもさらに一歩これは進めなきゃならないというふうに思っているところでございまして、サービス残業をなくしていきますために、これは企業の本社と労働組合が一体となって、企業全体として主体的に取り組むことも促進をしてもらわなければならないというふうに思います。
 的確な監督指導の実施、これまでの行政によります対応は、さらに強化をしなきゃいけないというふうに思っております。賃金不払い残業総合対策要綱というものをつくりまして、本日、各都道府県の関係者に発送したいというふうに思っているところでございます。
 これは、一つは、各企業において労使が労働時間管理の適正化と賃金不払い残業の解消のために講ずべき事項を示した賃金不払い残業解消対策指針というものを新たに策定いたしまして、その周知を図るということがその中心でございまして、そのほか、残業解消のキャンペーン月間を設ける、あるいは重点月間を設ける、監督月間を設ける、こうしたことも設定をいたしまして、この対策を強化していきたいと考えているところでございます。
桝屋委員 今大臣がおっしゃった、きょうですか、各都道府県にお示しになった賃金不払い残業解消のための対策要綱というものについてはぜひ私も見させていただいて、これは、大臣の御説明がありましたように、企業側の労使の主体的な取り組みということももちろん大事でありますので、その内容をしっかり見させていただいて私どもも取り組みを進めたい、こう思いますが、大きな成果を上げ得ることを期待しておきたい、このように思います。
 いささか時間が早うございますが、これで質問を終わりたいと思います。有期労働については、また後日議論させていただきたいと思います。
 ありがとうございました。
中山委員長 午後零時四十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

 


中山委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。城島正光君。
城島委員 民主党の城島正光でございます。
 きょうは、今回の労働基準法改正についての質疑、持ち時間は私一時間半でありますけれども、大変重要な、しかも問題意識を強く持たざるを得ない改正案でありますので、今回も大臣を中心に真剣に論議をさせていただきたいと思います。
 私たち民主党は、特に、今回の労働基準法改正に当たっての審議会が開かれるたびに並行しながら、我々としても、厚生労働省からのヒアリング等も含めて改正案に対する関心を持ち、チェックをしてきたということであります。この審議の途中、特に後半段階から、今回の改正案というのは、率直に申し上げますと、どうも日本の将来に禍根を残す大改悪になるんじゃないかという懸念を持たざるを得ない状況になってきたのが、今までの我々の検討してきた経緯であります。
 金銭による労働契約の終了という案も一つありましたけれども、その案は建議の段階で削除されたということでありました。しかし、その後も次から次へと、この法案がいかに問題の多い、ある面でいうとずさんな形でつくられていっているのかということについて、大変な危機感を持たざるを得なかったということであります。その問題点が、以前私が出させていただきました質問主意書の答弁なんかからも明らかになってきているというふうに私は思っております。
 この労働基準法は、言うまでもなく、雇用されている人たちすべてにかかわる法律であります。しかも今回は、特に解雇ルールということを中心とした改正でありまして、我が国で働く何千万人という労働者の皆さん方に、その働き方はもとよりでありますけれども、生活あるいは生きざまといったところにも大変大きな影響を与える可能性を秘めているということであると私は思っております。
 勤労者の立場に立つべき厚生労働省が、本当にそうしたところに目線をしっかりと置いた中で、あるいは軸足を置いた中でこの改正案づくりに臨もうとしたのかどうかということについて、私は、この問題についてもと言った方がいいわけでありますけれども、甚だ疑問に思っているわけであります。
 こうした改正案が出てきますと、旧労働省、厚生労働省こそが、ある面で、働く人たちの立場に立ってしっかりとした労働行政をしていく、そういう必要があるにもかかわらず、どうもそうじゃないんじゃないか。本当に厚生労働省というのは必要なのかどうかという、ある面では根元的な問題にまで突き当たるような問題を、特に今回の解雇ルールについては秘めているというふうに私は思っております。坂口労働大臣に冒頭私はそのことを申し上げたいわけでありますけれども、結論的に申し上げますけれども、この改正案、政府原案が原案どおり成立していくとすれば、本当に歴史上、厚生労働大臣として一大汚点を残すことになりかねないというふうに私は思っております。
 私は、坂口厚生労働大臣とかつて一緒に同じ党の中で政治活動をさせていただき、先輩としても大変尊敬をしてまいっておりますし、その人格も含めてでありますけれども、今段階も尊敬を申し上げているわけであります。
 坂口厚生労働大臣は、時として、特に医療分野においては毅然とした態度をとられて、私も拍手喝采を送っているところでありますけれども、この労働分野において、厚生分野というのでしょうか、医療分野における高い識見による毅然とした姿勢というのがいま一つ感じられないのは率直に言って残念だなというふうに思うわけであります。
 この法案については、まだ時間があるわけでありますから、これからの論議の中で問題点を指摘させていただきますから、抜本的な修正に向けての大臣としてのリーダーシップをぜひ発揮していただきたいと、冒頭お願いを申し上げたいというふうに思います。
 まず、就業規則に関する改正ということから論議に入らせていただきたいと思います。
 第八十九条の三号は、これまで「退職に関する事項」としか書かれていなかったわけでありますが、コンメンタールなどを読みますと、解釈、通説としては解雇の事由も含むとなっているわけであります。
 すなわち、「「退職」とは、日常用語としては期間満了による自然退職や労働者の意思に基づく任意退職等の場合を指し、使用者の意思に基づく労働契約の終了である解雇を含まないのであるが、ここにいう退職は、解雇を含め労働契約が終了するすべての場合を指すと解すべきである。したがって、「退職に関する事項」とは、任意退職、解雇、定年制、契約期間の満了による退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項をいう。」これは「改訂新版労働基準法」に出ている文言であります。
 これまでの私どもに対する厚生労働省からのレクにおいては、厚生労働省は、今回の改正によって、解雇をめぐるトラブルが減るとおっしゃっているわけでありますけれども、私は、最初に申し上げましたように、今回のこの改正、その認識は極めて甘いというふうに思わざるを得ません。逆に、こういう条文になりますと、トラブルがどんどんふえる、改悪の引き金になるんじゃないかというふうに思っています。
 というのは、就業規則の退職に関する事項に該当する理由がない解雇が無効かという、日本の解雇ルールの根幹、裁判実務の根幹にかかわる問題について、実はこの改正案は、本会議でも指摘をさせていただきましたけれども、何ら触れていない。そしてまた、法案作成過程において検討すらされていないということであります。
 例えば、従業員からすれば、就業規則というのは使用者が決めるものであって、法律でもありませんし、使用者がいわば独自に決めることのできる職場のルールであります。その就業規則に解雇の事由を書きなさいと、今回わざわざ労働基準法にさらに徹底して書くということになりますと、当然、働くサイドからすると、ある面でいうと、ここまでは大丈夫だ、いわゆる解雇されないんだというような意味合いを持つ。すなわち、このことは限定列挙というふうに言われているわけでありますが、それは限定列挙と受け取ることは当然予想されるわけであります。
 例えば、遅刻三回までならば大丈夫というようなニュアンスの書かれ方をされているとすれば、二回過ぎたら気をつけようじゃないかというのが通常の受けとめ方になるというふうに思うわけであります。ところが、三回まで大丈夫と言ったはずが、それはあくまでも例示列挙なんだ、一つの例にすぎないんだ、二回の遅刻でも会社側に多大な迷惑をかけたんだから解雇だ、例えばこう言われたら、なぜそうなるんだ、こんなはずじゃないんじゃないかというふうに疑問がわくということは、当然従業員側からは起こるわけであります。
 そこで、さきに、私は内閣に対する質問主意書を出しまして、例えば、今申し上げたような、三回の遅刻で解雇というふうに就業規則に書いてあるならば、二回の遅刻では解雇されないと労働者が理解するのではないかという趣旨の質問をしたわけであります。そうすると、そういった理解は誤りであるという回答がなされたわけであります。
 資料がお手元に出ていると思いますが、五ページ目をおあけいただきたいと思います。
 ここに、五ページ目に、下の方にありますけれども、
  第八十九条第三号に「解雇の事由」を付加した場合、労働者は、就業規則の所定の「解雇の事由」の趣旨に関して、「就業規則所定の解雇の事由に該当しなければ解雇されることはない」と理解する可能性が高いが、かかる理解は誤りであるというのが内閣の見解か。
こういう質問を出しました。これに対する内閣の答弁は、そこにありますが、
  第八十九条第三号は、就業規則において「解雇の事由」を記載することを義務付けるものであるが、当該就業規則に使用者がどのように「解雇の事由」を記載するかまでを定めたものではなく、また、
ここですね、
 当該就業規則に記載された「解雇の事由」以外の事由によって使用者がその使用する労働者を解雇することを制限するという法律効果を有する条文ではないと解している。
  したがって、
云々と、こうなっていますね、
  したがって、具体的な解雇の効力については、就業規則に記載された内容も含めて、
実はここも大変大事なんですけれども、
 第十八条の二の規定に基づいて判断されることとなる。
 大臣にまずちょっとお尋ねしたいんですけれども、この部分です、すなわちこの答弁書は実は二つのことを言っているわけです。一つは、この解雇の事由を就業規則に記す意味というものは、今までコンメンタールに記載された解釈を括弧書きで法文に載せたにすぎず、書かなければならないが、書いたからといって効果がどうこうなるわけではない、単なる行政が指導するときの根拠にすぎないと言っているに等しいわけです。
 というふうに理解してよろしいのかどうか、まず一点目にこれをお尋ねしたいと思います。
松崎政府参考人 今、質問主意書についての御質問がございましたけれども、これは法律的にお答えすればこういうことになるということでございます。
 ちょっと敷衍させていただきますと、確かに、就業規則というものは、制限列挙説、それから例示列挙説、ございます。ございますけれども、それは、当該就業規則全体を見た場合の総合的な判断によってどうなるかということでございまして、全体から見た場合に、当該就業規則のその解雇事由のところが、制限列挙であるというふうに解される場合もあるし、また例えば、極端な場合かもしれませんけれども、懲戒解雇事由しか書いていないといったような場合には、では普通解雇はあり得ないのかといった問題が通常ございます。
 そういったことで、極端な例を申し上げましたけれども、そういった場合には、懲戒解雇しかあり得ないのではなくて、普通解雇というものも場合によってはあり得るということで、例示列挙ととらえる場合もございます。
 そういったことで、制限列挙になるか例示列挙になるかという、当該就業規則に書かれております解雇事由以外の事由で解雇された場合に、それが有効かどうかといった問題につきましては、ひとえにその就業規則の解釈になるということになろうかと思っております。
 そういったことで、八十九条三号で、解雇に関する事由というものを明示させるということで、就業規則の中に解雇の事由を書くということを義務づけた場合におきましても、それがすべて一〇〇%書かれるかどうかといったところまではこの条文は要求はしておらないわけでございますので、そこはあくまでも民事上の判断によって効果が出てくるということでございますので、そういったものをトータルとしてお答えしたのが、八十九条の三号は、それ以外の事由で労働者を解雇することを制限する法律効果を直接有する条文ではないというふうにお答えしたところでございます。
城島委員 今、もう本当に、最初から詭弁なんですよね、全く。だから、例示全体を見て判断するんだと。そうじゃないじゃないですか。今我々が論議しているのは、基本的には普通解雇のことを言っているわけですよ。しかも、それは、普通解雇の条項があった場合、最初から論議になるんですけれども、限定列挙というふうに基本的にはなっているわけですよ、法律的な中では、いわゆる裁判の中では。今おっしゃったのは、例えば、いわゆる懲戒解雇もあるんじゃないか、あるいは普通解雇及び列挙されていない就業規則もあるんじゃないかと。それはそのとおりですよ。
 だから、もう少し真っ当に、私が言っていることをちゃんと理解していただいて答えていただかないと、全体を見て判断というのは、それは当たり前のことですから。今、そういう就業規則に普通解雇の事由が書いてあるときのことを前提に話をしているわけですから。しかも、限定列挙か例示列挙か、そこのところに限定した話をしているんですから。詭弁をやめていただきたいと思います。
 しかも、その質問主意書の答弁は、就業規則に解雇の事由が書かれているからといって、解雇事由以外の事由、これも解雇は、懲戒解雇等ではありませんよ、普通解雇のことを言っているんですけれども、解雇の事由以外の事由によって使用者が労働者を解雇することを制限するわけではないと、今もちょっと触れられましたけれども。すなわち、就業規則はそういう意味の普通解雇についても例示列挙だと、そういうふうにこの答弁は明確に言っているわけです。これは重大な誤りじゃないですか、重大な誤り。
 これは、私、その審議会の議事録、三十一回まで、全部目を通しましたよ。これはどうも、これだけの解雇ルールが、後でも触れさせていただきますけれども、これはほとんど論議すらなっていない。私は、どう見てもこれは確信犯じゃないかと思うぐらい、何にも論議になっていないわけです。
 それで、質問主意書の答弁で、もう一つ重要な答えになっているわけですね。最後に読ませていただきましたけれども、「具体的な解雇の効力については、就業規則に記載された内容も含めて、第十八条の二の規定に基づいて判断されることとなる。」これは一体どういうことなんだと、これが現行の解雇に関する裁判実務を極めて大きく揺るがすことになるというふうに思いますが、いかがですか。
松崎政府参考人 いろいろ御質問ございましたけれども、最後の、答弁書の「したがって、」以降のところを、最終的には「十八条の二の規定に基づいて判断される」という面についてちょっと御説明させていただきますと、これは、先ほど申し上げましたように、就業規則について、その中身を総合的に判断して、例示列挙となる場合と制限列挙と解される場合とございます。
 そういった場合があるわけでございまして、では具体的に、解雇に関する訴訟が起こった場合の典型的な流れというものを考えてみますと、通常、労働者側から訴えがあるわけです。その場合に、請求の原因としましては、まず労働契約が成立しておる、具体的には、例えば何月何日からこの会社に雇われたという事実、それから訴えの利益を言わなければいけませんから、使用者による解雇の意思表示といいますか、労働契約終了の主張があったということ、そういったことを請求原因として主張するわけでございます。
 それに対しまして、使用者側、会社側の抗弁としましては、意思表示をした、解雇したということがあるわけでございますけれども、その場合に、就業規則がまさに自分の解雇権を制限したというふうにみなされます、いわゆる制限列挙的に解された場合、就業規則はそれ以外の、就業規則に書かれております解雇事由以外では解雇はしないと、要するに、極めて網羅的に書いておって、そういうふうに解せられる場合、そういった場合には、これこれこれに当たるから解雇の意思表示をしたんだという抗弁をしないといけないわけでございます。
 それに対しまして、それが認められれば一応解雇は有効というふうに認められるわけでございますけれども、そこで、先ほど言いました、では、本当にそれは、形式的には就業規則の当該条項に該当して、一応有効と見られるけれども、じゃ、これが今度は民法の一条三項によります権利の濫用かどうかというところ、そういったところを今度は労働者の方から、形式的には当たるかもしらぬけれども、それは権利の濫用であるということを言う。それで、今度は権利の濫用法理の判断になってくるということになってまいります。
 それからもう一つ、例示列挙と解される場合、極端な例ということでおしかりを受けましたけれども、例えば、懲戒解雇しか規定がないといったような場合に、普通解雇の意思表示を行ったといった場合、そういった場合には、それに対しましては、この根拠というものは、例示列挙でありますと、労働者側からはそう言えませんので、いきなり、使用者の解雇の意思表示に対しまして、それは権利の濫用であるというふうに労働側から再抗弁をされるということで、いずれにしましても、最終的には権利の濫用法理というものの判断にいくということになるわけでございます。
 さっきのにつけ加えますと、先ほど、制限列挙、限定列挙で就業規則が書かれている場合、その事項に当たるということを会社の方が主張立証せないかぬと言いましたけれども、そこが立証されない場合には、権利の濫用法理へいかずに、もちろん、そこでおしまいといいますか、解雇の意思表示は無効といいますか、解雇は無効という判断になって、それ以上は権利の濫用法理へは進まないという流れになるというふうに理解しております。
城島委員 それでは聞きますけれども、例示列挙か限定列挙かというのを入り口で判断するんですか、裁判は。例示列挙説というのは、今どこにあるんですか。
松崎政府参考人 これは、民事は私は詳しくございませんけれども、民事裁判は当事者主義でございますので、当事者がどの段階で言うかということによろうかと思います。
城島委員 御承知だと思いますけれども、裁判実務上は、就業規則については、これはもう限定列挙じゃないですか。限定列挙説だし、あえて言えば、学説に一部、それは例示列挙説がありましたよ、もう過去形で言った方がいいと思いますけれども。今はありませんよ、ほとんど。だから、これはあえて持ってきましたよ、「労働法」第五版、第六版。これは、例示列挙説を言っていたのは、いわゆる判例ではないんだけれども、学説としてあった、唯一この東大の菅野教授じゃないですか。
 この方は、これは資料にも載っけたと思いますけれども、二十二ページをおあけいただきたいと思いますけれども、この第五版の方では、確かにここに、この菅野教授はこう書かれています。二十二ページの後半部分の線を引っ張っていますから、後ろから四行目、四百四十五ページのところをコピーしていますが、大臣もぜひお目通しください。「学説・裁判例上は限定列挙説が優勢であるが、解雇権濫用法理が解雇の自由を基礎としてこれを制限する理論であることを考えると、例示列挙と解すべきである。」これは就業規則上の問題。それで、この菅野教授は東大法学部長ですけれども、この方も、確かに今日までこういうふうに、裁判例上は限定列挙説、こう言っているわけです、これが大勢と。唯一学説として、今局長が言ったように、例示列挙説があった。その唯一、しかも影響力が大きいのはこの菅野教授なんです。
 ところが、この菅野教授は、第六版で今回の主張を変えられたわけであります。二十六ページをおあけいただきたいと思いますが、これは第六版です。ここに、線を引かせていただきましたけれども、「使用者が就業規則に解雇事由を列挙した場合は、使用者が自らそれら事由に解雇の自由を制限したものとして、労働契約内容が定められるので、列挙された以外の事由による解雇は許されないこととなろう。解雇が民法上自由であるとしても、それに制限を加えることは契約自由として許されるからである」しかも、御丁寧に括弧して「(第六版において理論的立場を改める)。」こう書いてあるんです。
 学説においてももう既にない学説というか、学説だけですよ。これは、菅野教授は、裁判例上はもう既に限定列挙が優勢であると既に述べていて、唯一あった学説を唱えられた菅野教授も変えられていることを、局長はさっきから主張されている。そういうことを論拠にしてこの法案が成り立っている。こんなばかな話はないでしょう。どうですか。
松崎政府参考人 まず、裁判でございますけれども、最高裁の判例として、この解雇の効力について直接、限定列挙、制限列挙と言った判例はないというふうに承知しております。
 下級審判決におきまして、それは確かにおっしゃるとおり、実際に具体的な就業規則の判断について、具体的な裁判例では制限列挙と解した事例が圧倒的に多いということも、承知しております。
城島委員 では、菅野教授が言っているのは何なんですか。優勢であるというのは何を根拠に言っているんですか。
 では、もう既に、古い第五版でも教授が、裁判例上は既に限定列挙説が優勢というのは、何で言っているんですか。うそなんですか、この教授が言っているのは。
松崎政府参考人 民事裁判でございますので、具体的な事例でそういったものが圧倒的に多いといったことを言ったと思っております。
城島委員 すなわち、限定列挙と解する、裁判の判例ではもう確立しているわけですよ、大臣。
 いいですか。従来、最高裁が形成した解雇ルールというのは、大きく分けて二つあるんです。これは本会議でも主張させていただいたし、質問もさせていただきました。すなわち、一つは、解雇権濫用法理ですね。もう一つが、就業規則の中の解雇条項による解雇規制なんです。
 大臣も御承知のとおり、まさに日本においては、解雇についての法整備はおくれている。したがって、解雇に関するルールは判例で確立をしてきたんですね、長年の判例で。しかし、その裁判実務においては、仮に、解雇は自由だ、これは民法の六百二十七条をベースに、解雇は自由だという立場を裁判実務上はとるにしても、これに制約をかける、当然ですね。制約をかける原理として、いわゆる権利の濫用というのが一点。それから二点目が、どの教科書にも出てきますよ、使用者は労働協約、就業規則による解雇権の制限がある。つまり、就業規則の所定の解雇事由に該当する具体的な事実が存在することを証明しなければ、使用者は敗訴する。これは、解雇ルールの裁判のいわゆる実務上における解雇ルールに関する基本中の基本なんですね。
 先ほどもちょっと菅野教授の本も出しましたけれども、就業規則に掲げる解雇事由を限定列挙と解することによって、使用者に解雇の理由とその正当性などのいわゆる証明責任を負わせている。これが、解雇に対するまず入り口規制なんですよ。これは、先ほど局長もそういう趣旨のことをおっしゃいました。ただ、内容が全然違って、それは限定列挙ととらえられるか、例示列挙ととらえられるかによって違うと言ったんですけれども、原則は限定列挙なんです。これが入り口規制としてまずあるわけですよ。
 当然といえば当然なんですけれども、使用者が定める就業規則、職場のルールに書かれた解雇の事由に当てはまる事実がない解雇は、当然無効だということになるわけですね。厚生労働省はこうした判例を、今もちょっとあれですけれども、当然御存じだろうと思いますけれども、その最高裁判例では次のようになっているわけです。
 十四ページをおあけいただきたいと思いますけれども、これは二重線のところをおあけいただきたいんですけれども、「最高裁判所判例解説民事編」昭和五十年度版、越山調査官が書かれたものとして有名なものでありますけれども、全体を読めば一番いいんですけれども、ポイントのところだけ読ませていただきますと、「そこで、更に、ユニオン・ショップ条項に基づく解雇は、」特にここからが大事ですけれども、「解雇は、使用者の本来的に有する「解雇の自由」に基づくものであるという立場に立つとしても、これを制約する原理として、(a)権利の濫用(解雇権の濫用)と(b)労働協約、就業規則による解雇権の制限の問題を考える必要がある。」特にこの入り口規制の就業規則については次のようなくだりがあるわけですね。「労働協約又は就業規則において解雇事由を限定した場合には、その限度で解雇の自由は制約を受け、その制約に反する解雇は無効となる。」
 同じ資料二十一ページをおあけいただきたいと思います。ここに、ちょっと横線で引っ張っているわけでありますけれども、二十一ぺージの上の方に、「就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行われるものであり、したがってその効力も右解雇事由の存否のいかんによって決せらるべきであるが、右事由に形式的に該当する場合でも、それを理由とする解雇が著しく苛酷にわたる等相当でないときは解雇権を行使することができないものと解すべきである。」これは、有名な東芝の臨時工解雇事件最高裁判決文にこう書いてあるわけです。
 つまり、就業規則の解雇事由に該当する事実が存在するかについてはまず、何度も言うように、入り口規制があって、該当する場合は、その解雇権の行使が権利の濫用かどうかということがもうそこで判断されるわけであります。該当している場合、その解雇権の行使が権利の濫用かどうかというのは次に判断される。これが、もう何度も出てきております七五年の日本食塩製造事件の最高裁判決で確立された、今度厚労省が一生懸命言っている解雇権濫用法理ということになるんですね。次にあるルールですよ。
 これは解雇に、ここはまた後で論議をしたいわけでありますけれども、客観的に合理的な理由があって社会的に相当でなければ使用者の解雇権行使を権利濫用として無効にするものである。先ほどの「最高裁判所判例解説民事編」ではこの判決について、この解雇権濫用法理の判決について次のように解説しているんです。
 十五ページをおあけいただきたいと思います。十五ぺージにはどう書いてあるかというと、これはこの裁判を担当した越山調査官が書いたものです。「説明として解雇権の濫用という形をとっているが、解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返えしたようなものであり、実際の適用上は正当事由必要説と大差はないとみられる。」これは大事なところですね。これが解雇権濫用法理、これが出口規制なんですよ。入り口規制や就業規則があって、それに合致したものが、これは先ほど局長もおっしゃいましたよ、合致した場合は、次にこの解雇権濫用法理でこれは出口規制。いずれにしろ、これは二つあるわけです、二つ。
 大臣に質問したいんですけれども、政府は、この労働基準法に新設する改正案の規定によって、いわゆる資料八ページにあるように、解雇に関するルールが社会全体に認識され、解雇をめぐるトラブルの防止、解決につながる、こういうふうに本会議で答弁されておりますけれども、今私が説明したように、これまで判例で確立をしている、入り口、出口、二つの解雇に関するルールがあるわけですけれども、政府の見解ではこの解雇に関するルールというのは、私は二つあると言ったんですけれども、政府が言う、今本会議答弁を言いましたね、解雇に関するルールが社会全体に認識されと言うんですけれども、この政府の言う解雇に関するルールというのは、一体どういうルールなんですか。
松崎政府参考人 まさに解雇のルールといいますのは、日本食塩製造事件、これをリーディングケースとする解雇権濫用法理というものでございます。
城島委員 大臣、お聞きになりましたか。このどの教科書を見ても、あるいは先ほどの判例のものを見ても、ここがもう決定的に間違えているんですよ。
 解雇に関するルールと言いながら、今おっしゃったように、解雇権濫用法理だと。現実は、今何度も言ったように、就業規則の入り口論が現実に裁判してあるんだ、確立しているんだ。しかも、それは限定列挙ということで確立をしているルールがあるんです。その就業規則と出口論としての解雇権濫用法理、これの、今もおっしゃったでしょう、解雇権濫用法理しか法律上に明確にしていないんですよ。就業規則に関する判例法理はすっかり抜け落ちているんじゃないですか。大臣、いかがですか。
松崎政府参考人 就業規則の規定の問題でございますけれども、どうもお伺いしていると、私のお答えしていることと先生の御質問とは大差はないんじゃないかというふうな気がしてまいりまして、実は同じことを言っているんじゃないかというのは、実質的な問題、確かに実際の就業規則というのは、厳密に書けば書くほど制限列挙的になるということで、現実に、裁判例で最高裁まで上がる例とか、裁判で弁護士を立てて争うような例については、かなりきちっと書いているものが多いので限定列挙があると思いますけれども、世の中の就業規則すべてが、何というか、アプリオリに限定列挙だというふうに解することはできませんし、また、それも現行の労働基準法の八十九条では強制はしておらないということでございます。
城島委員 いや、そんなことは当たり前の話じゃないですか。しかも、就業規則というのは十人以上のところじゃないと強制していないわけですから、ないところはいっぱいあるわけですよ。しかし、それは不備なことだってあるんですよ。そんなことは当たり前の話で、だからといって、例示列挙説をとるというのは、これは論外ですよ、話として。最初から言っておきますが、そんな論外の話をされても困るんだよ、本当に。
 それでは、しかし、では三十一回も審議会の中で、僕はずっと読みましたけれども、ちらっとしか出てこないんですね、就業規則は。どういう文で出てくるかというと、これはインターネットでしか僕はわからないので、だれが言っているか、名前は消されているからわかりませんから、恐らく使用者側のだれかだと思いますけれども、就業規則で、今おっしゃったのと同じような、かなり限定的に縛られると困るというところ以外は、この就業規則について、では今おっしゃったようなことを含めてどれだけ論議したんですか。この就業規則を解雇ルールの中でどう位置づけるかという論議が、一体いつどういうふうに行われましたか。
松崎政府参考人 まず、今回の八十九条ですが、就業規則に関係する部分の改正の議論でございますけれども、これは今御指摘の労働政策審議会の労働条件分科会において議論が若干あったわけでございますけれども、この議論におきましては、もともと労働契約の終了に際して発生する紛争を防止する観点から議論されたという経緯がございます。そういったことで、就業規則そのものについてはなかなか議論が深まらなかったという点があるかもしれません。
 ただし、この点につきましては、現在の取り扱い、退職に関する事項のところに、解雇に係る事項を含むということになっておりまして、実際上の取り扱いというのは現在と変わらない、それを明示するだけだという論点で進んだのではないかというふうには考えております。
城島委員 大臣、じっくりお聞きになっていると思いますけれども、何を言っているかというと、ほとんど論議していないということを言っているんじゃないですか、これだけ重要なことなのに。
 では、もう一回聞きますよ。解雇に関するルールと言ったわけですね、解雇に関するルールを明確化しようと。その中で、この三十一回にもわたる審議会の中で、何回目のどこにどういう就業規則についての論議がありますか。
松崎政府参考人 三十一回について、私、すべて参加しているわけではございませんので、今直ちに何回目ということは記憶にございません。
城島委員 では、何回目はいいですよ、何回目かは聞かないけれども、どういう論議をどれぐらいやられましたか。
松崎政府参考人 その議論の場というのは記憶にないんですけれども、確かに、就業規則については、ほとんどこちらからの説明、要するに、今まで実施しております解釈通達、そういったもので現場で扱っております実行上の扱いというものをより明確に、今度は法律、基準法に書くということによって、労働者なり当事者の予見可能性が高まり、紛争の防止に資するのではないか、そういうことを期待して、こういうふうにしたいという説明をし、了解をされたというふうに認識しております。
城島委員 だから、論議していないということですよ。では、説明をして、理解されたということですね。論議を徹底的にしたということはないということを今言っているわけですよ。大臣、本当によく聞いておいてくださいよ。
 その結果、どうなっているか。もうこれはひどいんですよ。質問主意書の答えに私は唖然としたんですね。資料五ページ目に、この就業規則の論議が抜け落ちて、しかも就業規則に関する入り口のルールがないがゆえに、具体的な解雇の効力については、就業規則に記載された内容も含めて、この十八条の二の規定に基づいて判断されることになると。大臣、すなわち、入り口規制の、今まで裁判実務上確立していた、就業規則に合致しているかどうかということでまず入り口でチェックしていたものが、全部吹っ飛んじゃっているわけです、もうありませんと。それも含めて、この十八条の二の規定に基づいて判断することにより、そこに全部押し込められちゃっているんです。これはとんでもないことじゃないですか。
 何度も言いますけれども、せっかく今までは、まず入り口で、就業規則に合致しているかどうかのチェックがあったんですよ。それに合わなければ、もう最初から基本的によほど就業規則が不備だというのはありますよ。さっきから局長はそのことばかり言っているんですけれども。通常の就業規則でちゃんと普通解雇が列挙されていれば、それに合わなければ、ほとんどそれは解雇無効だということで、それで終わりです。ただ、それに合致したとき、それは就業規則に確かに合致しているといって、次に、でも、それは合致しているけれども濫用になっていないかどうかというのを解雇権濫用法理ということでやってきたわけです。今度は、この入り口論も、解雇権濫用法理と同じで、その中で判断されることになる。私が言っていることはおわかりいただけると思います。そういうふうにこれは答弁しているわけですよ。私はもうこれにびっくりしたんです。
 したがって、先ほど引用した最高裁判所裁判の例が覆される、そういう可能性がここで大きく出てきているという大変重大な問題があるんですね。大臣、どうでしょうか。ちょっと大臣の感想でいいから聞かせてください。
坂口国務大臣 城島先生の難しい論理、先ほどからずっと聞かせていただいていて、基本的に言えますことは、解雇四要件、あるいはその濫用、そうした今まで裁判上ずっと引かれてまいりましたルールは守りますということで、ずっと来ているわけでございます。したがいまして、守るというその守り方の過程の中では、今おっしゃったようないろいろの、これはもう裁判のことでございますから、論理の積み重ねがあるんでしょう。その積み重ねの上に結論が出されているということだろうと思うんですね。
 それで、その積み重ねの中で、今までの裁判とは全く違う結果になるというようなことがもし仮にあなたがおっしゃるように本当に含まれているのなら、検討を要するというふうに思うんですが、城島議員がおっしゃるようなことが果たして起こるのかどうかということについては、私も専門家じゃないものですから、もう少し検証しないとちょっと理解できにくい。少し検証させていただきます。
城島委員 審議会三十一回で、僕は本当に悪く見れば意図的じゃないかと思うほど、この就業規則、論議がされていない、事務局が提起していない。これはもう一回少なくともきちっと論議をして、では、なぜこの十八条の二の中でいいというふうになるのかと。それは間違いなく、さっきから何度も言われているけれども、もう学説でも基本的になくなっている例示列挙説をいまだに言われているわけですよ。僕に言わせれば、これは厚労省だけですよ、就業規則が例示列挙説だと言うのは。もうだれもいない。そこに論拠を置いているがゆえに、ああいう説明になっているし、この入り口論が吹っ飛んでしまっている。
 ここはもっとやりたいんですけれども、解雇権濫用法理もあるので、ちょっと法務省にお尋ねしたいんです。
 法務省所管の法制審議会において民事法の整備のための審議をする際、この前聞かせていただいたんですけれども、法律上想定されるあらゆる論点を抽出し、少なくとも、この論点を一つ一つ、最低二巡程度検討した上で法案要綱の作成に至っているというふうにお聞きしたんですけれども、それに間違いありませんか。
深山政府参考人 御指摘のとおりでございます。
城島委員 大臣、こういうことなんですよ。少なくとも、あらゆる論点を抽出して、二回ですよ、最低二回以上。
 そうすると、僕は支持しませんが、仮に例示列挙説でもいいですよ、仮に百歩譲ってそういうことであっても、就業規則というのはなぜ論議されていないんだと。今回の労働基準法改正案の作成に際して、最高裁判所が形成した解雇法理の二つの柱の一つである就業規則の解雇条項については審議会で完全に無視をされている、検討は一切されていない。今法務省が答えられましたけれども、これは法案作成上の致命的な欠陥があるというふうに私は言わざるを得ないんです。したがって、我々民主党は、そのことも含めた修正案というものを用意して出す準備をしているわけであります。
 大臣先ほどお答えになったんですけれども、ぜひもう一度ここは、これだけ多くの勤労者に与える影響が大きい労働基準法の、しかも解雇に関するルールですから、解雇というのはゼロか一〇〇かになるわけですよ、基本中の基本なので、ここはしっかりと、短時間の中でもいいですから、もう一度検討していただきたい。大臣、ぜひお願いしたいと思いますが、いかがですか。
坂口国務大臣 今るる御説明になりました点につきまして、法案の作成過程でどのような議論が行われたのか行われなかったのかということも私はもう一度見直しますけれども、その行われた行われなかったということよりも、先ほど申しましたように、今までの解雇ルールというものをプラスもマイナスもしない、そのままずっとそれは継続するようにするという大前提の上での法律でありますから、それと本当に違っているというようなことがあれば、そこは私たちも十分に検討しなきゃならないというふうに思います。
城島委員 ですから、今までの解雇ルールから、私が主張しているのは、私が主張しているんじゃなくてこれは一般的にそうなんですけれども、入り口での解雇ルール、就業規則ルールがすっぽり抜け落ちてしまっている。審議も全くされていない。大臣も、三十一回はちょっと膨大になりますけれども、議事録をお読みいただくと、そのことが、少なくとも就業規則については論議はされていないということだけはおわかりになると思います。ぜひお目通しをいただきたいというふうに思います。
 局長、では、厚労省のよって立っているその例示列挙説ですよね、ある面で言うと。限定列挙か例示列挙かということをおっしゃっている。例示列挙というのは、今、どこでだれが唱えているんですか。
松崎政府参考人 何回もお答えしておりますが、その前に申し上げたいのは、厚生労働省は、すべての就業規則というものについて、一般的、基本的に例示列挙だと言っているわけではございません。例示列挙のものもある、制限列挙もある、そういうことを言っているわけでございますから、それを、すべてが例示列挙だと言っているわけではございませんことは、まず御認識いただきたいと思っております。
 それから、学説にしては、たしか私の記憶では、萩澤先生の学説が例示列挙もあり得るということだと思います。
 また、これは、就業規則について、就業規則というものの性格づけを真っ正面からしたといいますか、具体的な判断ではなくて、就業規則とはこういうものだという性格づけをした最高裁判決といったものはないというふうに記憶しております。下級審におきましては、御案内のように、具体的に中身を見て、多数のものが、就業規則は限定列挙しているというふうに解すると、中には、少数ではございますけれども、これは例示列挙にすぎないというふうに解せざるを得ないという判断をした例もあるということでございます。
城島委員 いかにも、就業規則に例示列挙的なことがあればそうだというふうにおっしゃっていますけれども、原則は、よほど変な就業規則でない限り、それはどんな就業規則もありますからそういうことが言えるかもしれませんけれども、就業規則に明示した以上は、さっきの解釈にもあるじゃないですか、明示した以上は、それでなければ解雇されないというふうに思うというのが普通であって、したがって、よほど変な、だれが見ても例示列挙と思われるような書き方以外、基本的には、限定列挙というのが、就業規則の場合の今確立した判例じゃないですか。しかも、学説じゃないですか。
 それで、私も、またこれは古いもので、山川先生の中に下級審の裁判例でそういうのがあったからこれも取り寄せてみたんですけれども、旧理論ですよ。これは資料の二十八ページに挙げておきましたけれどもね。この就業規則の、今おっしゃったような理論的な見解に裏づけられるのは、これはこの山川隆一先生の旧理論ですね。二十八ページに挙げておきましたけれども。調べた限りにおいて見ると、これは、一九九九年から二〇〇〇年の東京地裁判決程度のものしかありませんよ、もう読み上げませんけれども。先ほど言ったように、その中心的だった菅野先生も既に限定列挙に変えられている。ですから、学説的にいってもそうですし、この山川先生のものも、これは探したんですけれども、旧本の方はどうももう絶版になっていました、これは図書館から取り寄せたんですけれども。
 というように、大臣、もう一回言っておきますけれども、例示列挙というのは、局長は一生懸命言う、これはほとんど学説もないんです、どんなに言ってもほとんどないんです。判例では、よほどそれは変な就業規則は別として、一般的に、普通の就業規則に明示されていればそれは限定列挙と解するようになっているんです。そのことによって、入り口論としてそういうふうに規制をしているというのが解雇ルールの一点目だということを、大臣、ぜひもう一回心にとめていただきたいというふうに思います。
 したがって、もう一度言いますけれども、今回、この就業規則がこういうふうな政府提案になると、すなわち、十八条の二で、「この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、」こういうふうに十八条の二に規定しているわけです。そうすると、今度は、この就業規則というのは、私質問主意書でも聞いたんですけれども、では、その他の法律は入りますかと聞いたら、入らない、こう言っているわけですね。だから、就業規則に当てはまろうが当てはまるまいが、今度は、まず原則解雇できるようになっちゃう。
 今言いましたように、就業規則は「この法律又は他の法律の規定」に合致しますかということに対して、就業規則は合致しません、入りません。ということは、就業規則に合致していようと合致していまいと、まず解雇することができるということになっちゃうんです。おわかりだと思いますね。
 あえてこの文言の中へ今までの解雇ルールを入れるとすれば、「使用者は、この法律又は他の法律の規定及び就業規則により」とかいうのを入れればまだ別ですよ。すると、就業規則の入り口が全部吹っ飛んじゃって、まず就業規則に、限定列挙であれ何であれ、まず原則はこの条文しかなくなるわけでありますから、解雇することはできるということになるという重大な欠陥が出てくるわけであります。
 それは、資料四ページに、お目通しをいただければ、今申し上げたように、私の質問主意書に対して、この質問主意書は、就業規則は「第十八条の二でいう「この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合」に該当すると解するのか否か。」ということに対して、回答の中にありますね、最後のところに。「就業規則中に「解雇の事由」が記載されていることは、「この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合」に該当しない。」
 つまり、改正案がこのまま成立するとすれば、使用者は、就業規則所定の解雇事由に該当する具体的事実に関する証明責任を負う必要は全くなくなるんです。すなわち、法律ではない就業規則の規定は、例示列挙、さっきから局長が一生懸命主張している例示列挙の意味しかなくなるわけですよ、現実的には。この十八条の二の条文ができることで、使用者が、就業規則所定の解雇事由に該当する具体的事実に関する証明責任を負うのか否かという点で、これまでとこれからは決定的に異なることになるわけでありまして、これは重大な裁判実務の変更であるということはここの点でも明らかだというふうに思います。
 すなわち、就業規則は限定列挙だということが原則だということを完全に無視されていると同時に、この十八条の二の本文の「この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、」解雇できるという条文が存在するために、政府の改正案というのは、入り口規制を取っ払ってしまって、資料五ページの質問主意書にあるように、出口の解雇権濫用法理によって、今まで入り口で規制していたものもそこで審査をするということだというふうに言い切らざるを得ないというか、そういうふうに言っているわけであります。
 すなわち、これも資料五ページを見ていただくとわかると思います。もうかなり時間が超過しましたので読み上げませんが、質問主意書の三の1の質問に対する答え、すなわち、就業規則に対する答えで、答弁はですよ、
 お尋ねの場合の解雇の効力については、第十八条の二の規定に基づいて判断されることとなる。
  なお、第十八条の二は、御指摘の本文を規定するのみならず、ただし書において「その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定するものであるから、お尋ねの場合の解雇の効力は、第十八条の二の本文とただし書に規定する内容を併せて判断されるものである。
これは、今までの裁判実務の変更でなくして一体何なんですか。もう一度、では局長、現行の裁判実務とは一体何ですか。
松崎政府参考人 解雇に関する裁判実務は、先ほど申し上げましたように、就業規則がある場合を想定いたしました場合に、就業規則が、全体的に判断して、これが、どの段階で主張するかは別にしまして、制限的な、制限列挙として、これ以外では解雇しないということを事業主が宣明したというふうに解される場合には、そこでどういう事由に当たるかということを事業主の方で立証しなければならない。立証されなければそれで事業主は負けるわけでございますけれども、立証されたら次の段階でそれが権利の濫用になるか判断されるということになります。詳しい、挙証、立証の話は飛ばしまして。
 また、それがどう見ても、具体的に書いてございます解雇事由に不備がありまして、それ以外の事由でもって、社会的にやむを得ないなという事由でもって解雇したといったことが認められるという場合、いわゆる例示列挙だというふうに解せられる場合にはいきなり解雇権濫用法理が適用されるということで、就業規則が例示列挙と判断されるか、また制限列挙と判断されるかにしましても、いずれにしても、最終的には、労働者の側から見た場合には権利濫用法理で二重に守られるということがあるために、質問主意書のお答えとしましては、最終的な出口というもの、それで、この出口というものはまさに最高裁の判例、二つ続きましたけれども、それによって、それ以降三十年にわたって定着している。
 ただ、就業規則の解雇事由についての効力といったものについては、確かに、先生のおっしゃったのは東芝の柳町工場事件だと思いますけれども、これは、臨時工について、臨時工だけに適用される特別の就業規則があるということで、かなり詳細にきちんと書かれておるということで制限列挙というふうに解せられたんだと思っております。そういったことで、それが一般論として定着しているというふうにはコンセンサスは得られておらないということで、現在の解雇法制、そこの十八条の二につきましては、現在の裁判において確立しておる部分だけをとって、ほかの現行の取り扱いというものに一切影響しないようにと。
 おっしゃるように、就業規則の性格を制限列挙とすべきだということで、就業規則に書かれておらない解雇事由による解雇は無効だということは、確かに、就業規則の性格上、政策論としてはあり得ますけれども、それは現行の取り扱いを変更するということになって、これはコンセンサスを得られておらないということで私どもは提案いたしませんでしたし、そういったことについての議論はなかったということでございます。
城島委員 そんなことはないでしょう。さっきの説明とまた違いますよ、本当に。であるから提案もしなかったと。百歩譲って、提案すればいいじゃないですか、そういうことじゃないかと、解雇ルールの中で。しかも、それだったら菅野教授のこの本は間違えているんですか。裁判実務上は限定列挙が優勢であると書いているじゃないですか、この人だって。
 こればかりやっても、私の持ち時間が三十分切って、あと、解雇権濫用法理も大事な問題なのでやらなきゃいかぬのですけれども。
 実際、こういうことになると、裁判ではとんでもないことが起こっていくわけですよ、本当に。今までは、就業規則に合致しているかどうかということで入り口論であったんですけれども、これが消えてしまうということで、それでは、ちょっと中身を飛ばさざるを得ないんですけれども、二十八ページをお目通しいただきたいんです。ここに挙げておいたんですけれども、要するに、就業規則というのは法律でないんだから、就業規則の解雇事由に該当しようがしまいが使用者は自由に労働者を解雇できる、使用者は解雇したというふうに主張すればまず十分だという状況になっていくわけです。使用者がこう主張し続ければ、労働側がこれを覆すということは並大抵じゃなくなるという事態に陥ってくるということなんです。
 二十八ページに挙げておきましたけれども、一九九九年から二〇〇〇年、東京地裁労働部若手裁判官の、よく反乱と言われるんですけれども、若手裁判官の反乱にこの条項は、今度こういうことをやりますと、理論的根拠を与えるわけです。同様の判決が続出していくおそれが大であると言わざるを得ないんです。
 条文は、これは本会議でも質問させていただきましたけれども、特に裁判官というのは、当然ですけれども、憲法と法律に忠実というかそれに拘束される。後の解雇権濫用法理のところでも論議になると思いますけれども、立法者意思、これは参考意見ですね。法務大臣も、重要な参考意見と言いました。当然、参考意見の一つですけれども、この条文ができると、裁判官は、率直に条文を読んで、例えば就業規則列挙の普通解雇事由の意味に関して、「限定列挙の趣旨であることが明らかな特段の事情がある場合を除き、例示列挙の趣旨と解するのが相当」、それから、「被告ら(使用者)は解雇の意思表示をしたことを主張立証すれば足り、解雇の理由について主張立証する必要はなく」といった、東京地裁労働部の若手裁判官のような判決を書くことになるんじゃないですか。
 これらの判決はすべて高裁判決でつぶれて、学会で批判され、その後登場していないんだけれども、逆に、この改正案がこうした判決の方が正しいんだということを惹起することになるということなんですよ、大臣。これは大変重要なことなんですよ。
 言葉がないほど実は重大な、ここにおいても、解雇権濫用法理の前に、大変重要な就業規則についての入り口規制がなくなってしまうということになれば、仕方なく労働者側が、就業規則に反する乱暴な解雇であることについて、解雇権濫用の主張の一部とこれをせざるを得なくなってしまう。独立した就業規則ということじゃなくなってしまうということを法律上明確にしているということになるわけです。つまり、出口規制を使って裁判に訴えた場合は、今度、後で論議しますけれども、証明責任論議になりますが、使用者が就業規則所定の解雇事由に該当する具体的事実を証明しないという理由で敗訴する危険がなくなっちゃうわけです。これは大変なことなんですよ。証明責任が今までと全然、転換されるわけです。
 そして、この場合は、使用者は、就業規則の解雇事由に該当しなくても解雇せざるを得ないんだ、やむを得ない理由がたくさんあると延々といろいろなことを主張して、労働者側の解雇権濫用の主張に対する反論、反証を重ねていくということはもう容易に推測できるわけですね。
 そして、大事なことは、労働者の解雇権濫用の主張について裁判官がグレーの心証形成しかできない場合は労働側が敗訴する。解雇権濫用法理について、証明責任は、これは質問主意書の答弁でも書いてあるように、解雇権濫用法理についての形式上の証明責任は労働側にあると言い切っているし。この条文は、だれが見ても労働側に証明責任がありますからね。そうすると、就業規則問題も労働側に証明責任がある、こうなってくるわけであって、現行の裁判実務からは大きく後退していくということがもう明らかだと言わざるを得ないということであります。
 ということで、今回のこの問題、大変重要な問題をこの点も秘めているということを強く申し上げたいと思います。
 それから、途中までになると思いますけれども、また次回にさせていただきますが、次に解雇権濫用法理について、出口規制のところに移らせていただきます。
 すなわち、先ほどから、午前中からの答弁でも局長は、解雇権濫用法理を足しも引きもしないで条文化したんだと。正確に言えば、私に言わせると、今まで確立している解雇ルールを足しも引きもしないでルール化するというのが本当は正しいと思うんですけれども、そこは、先ほどから相変わらず、今やだれも唱えていないと言った方がいいような例示列挙説に立った就業規則論を言われているので、百歩譲ってそういう意味だと解して、ここはおきたいと思いますが、解雇権濫用法理を足しも引きもしない、何か、わかったようなわからないようなことなんですね、実は。
 解雇権濫用法理を足しも引きもしないという、まずそこから聞きたいんですけれども、解雇権濫用法理というのは何ですか。
松崎政府参考人 これは、俗に解雇権濫用法理と言われているわけでございますけれども、具体的には、先ほども先生からの御質問の中にもありました、昭和五十年の最高裁判決、日本食塩製造事件における判決の中で一般的にこの法理を述べた部分がある、その部分を指しているということだと思います。
 その部分は、概略申し上げますと、使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当であると。そういって最高裁判決の中では一般論として述べております。これが解雇権濫用法理の先行事例でございまして、これがそれ以降の下級審判決、そういったものの判例として三十年間定着してきている。その部分を法令化するといったのが今回の改正でございます。
城島委員 大臣、ここも、だから、申し上げないけれども、今、判決文をお読みになりましたよね。解雇権濫用法理とは一体何ですかと僕は聞いたんです。
 いや、私も門外漢ですよ。でも、本当に調べて、勉強させていただきましたけれども、解雇権濫用法理のへそは何だというと、実は、今おっしゃった部分はそれは判決文であって、それは基本的には、一言で言うと、最も重要なことは、使用者が、客観的に合理的な理由ですよ、実はここが大事なところで、使用者が客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性について主張、立証を尽くす必要があって、客観的に合理的な理由なんです、これが欠けているんじゃなくて、使用者が客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性について主張、立証を尽くす必要があって、実は大事なのは、この点について裁判官がグレーの心証形成しかできない場合は、使用者は敗訴するということが解雇権濫用法理のへそなんですよ。これが本質なんですよ、ここが。判例文じゃなくて、それが一体何を指しているかというと、そういうことなんです。
 したがって、さっき読み上げたじゃないですか。越山調査官の中にも、これは正当事由説を裏返したようなものだと。これは一番わかりやすい解説かもしれない。それは何かというと、使用者が客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性について主張、立証を尽くす必要があって、やはり法律ですから、裁判官が何をもって判断するか。解雇だから、ゼロか百かということはあり得ないわけですね、大臣。これは、一方的にどっちかが正しくてどっちかがゼロということはあり得ないから、それは難しいわけですよ。
 そのときに、やはり裁判官ですから、きちっとある法律に基づいてそれを判断するというときに、今言った点が大事、使用者に合理的な理由があるのかと。いわゆる逆説的に言うと、合理的な理由がないということを労働側に証明責任を求めるんじゃなくて、合理的な理由があるかどうか、社会通念上相当かどうかということを、一生懸命主張立証活動をどんどんさせる、すなわち現実的には証明責任ということになるわけですけれども、そのことによって裁判官の心証がどうもグレーだなといったら、これは使用者側が負ける、これが解雇権濫用法理の骨子なんですよ、実は。
 私は、そういう点からいうと、この問題点、今回の第十八条の二の問題点を申し上げますと、時間がないので骨子だけ申し上げますが、形式的証明責任は労働者にあり、実質的な証明責任、これは最近、ここも僕は問題あると思っているんですけれども、厚労省は主張立証活動というふうに表現を去年からことしになって変えられているんですけれども、それは後で論議になるとすればちょっとやりたいんですけれども、実質的な証明責任は使用者にあるという、判例法理で確立した、今申し上げた解雇権濫用法理が条文化されていないということなんです。この条文は完全に、だれが見ても、これは素人が見ても、証明責任は労働側にあるということに尽きるわけですね。
 二番目。審議会で厚生労働省と公益委員は、解雇権濫用法理について、実質的な証明責任は使用者だと実は説明をしているんだ。
 それから三番目が、しかし、条文では、労働者が証明責任を負担することだけが明確になっているんですね。実質的証明責任を主張立証活動ということにどうもちょっと矮小化した上に、これをどのように行わせるかは裁判所任せだという。これは、私の質問主意書に対する、その判断は裁判所だという内閣答弁。
 ポイントでいうと、この三点に、私はこの解雇権濫用法理の部分、出口の問題についてあるというふうに思っています。
 政府案は、これはどう読んでも、率直に言って、解雇自由説ですね。まず本文が明確に、「使用者は、」「解雇することができる。」ですから。これは本文。解雇自由説。条文の要件と効果の間に、すなわち、「できる」とか、あるいは要件の中に権利濫用という言葉が入ってくるわけです。そのために、形式的な証明責任が労働者にあるという解釈しかできないわけですね、これは、どこを読んでも。したがって、証明責任がどこから見ても労働側にある。それを、先ほど言った、転換する、すなわち使用者側にその証明責任を転換するのは立法者意思だと、どうもこういうふうにおっしゃっているわけです。
 解雇権濫用法理というのは、先ほども言ったように、一番大事なのは、実質的な証明責任を使用者が負っているということなのであって、それを明らかにしなきゃならないんです、立法者意思じゃなくて、条文に。条文として、実質的な証明責任を使用者が負っているということを明らかにしたときに、初めて足しも引きもしないことになるんですよ、大臣。足しも引きもしないというのは、一番大事な証明責任が実質的に転換しているということをあらわす文章にしなければ、足しも引きもしないどころじゃない、引き算しかない。
 入り口規制も取っ払って、今度はこの条文も、実質的な証明責任は、とにかく、こういう答弁でとか、あるいは通達でもいいや、何とかその立法者意思――この論議で、いや、そういう思いはない、大臣も一生懸命本会議で、そういう意図はない、そういう考えはない、それはそのとおりだと思いますよ。それはそのとおりだけれども、それは民事法ですから、これは裁判官は、先ほども言ったように、憲法と法律に忠実でなきゃならない、それに拘束されるわけですから。それは独立したものですからね。
 それは、行政法なら立法府の意向を縛ることは可能ですよ。だけれども、立法者意思でなければ転換できない、この一番大事なところは、立法者意思に頼っているという、これは引き算ですよ。引き算以上ですよ、これは。足しも引きもしないというどころじゃなくて、ここに一番問題がある。
 資料十五ページ、おあけいただきたいと思いますが、最高裁が、「説明として解雇権の濫用という形をとっているが、解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返えしたようなものであり、」先ほど読み上げたところと同じですが、「実際の適用上は正当事由必要説と大差はないとみられる。」と語っているのは、実質的な証明責任を使用者に負わせているからなんですよ、大臣。実質的な証明責任が一番大事なんだ。
 ところで、二十九ページをおあけいただきたいと思いますが、十二月十七日の第二十七回労働条件分科会における議論で、これはインターネットの中に、厚労省のホームページに記載されておりますが、次のようなくだりがある。これは審議会のあれです。
 大事なので、ちょっと急ぎ足で読ませていただきますが、労働委員、
  ここで一番の心配は、正当な理由が、解雇をした側、いわゆる使用者側に立証責任、挙証責任があるのか、あるいは不当だと言っている労働者側が、これは不当だよ、あるいは正当ではない、というのを立証しなければいけないのかというのが大きな争点になってくると思うのです。
今の論議です。
  そういう意味では、○○委員がおっしゃった見解の中で、自明であれば、「労働者が解雇ができるが」
これはもともとは「できる」で丸じゃなかったんですね。「できるが」で続いているわけでありますが、
 自明であれば、「労働者が解雇ができるが」というのは外してもいいだろうと思います。また、その立証は使用者側に、これで負わせることができるのかどうなのか先生の意見をお聞きしたいと思います。
今の質問を公益委員に聞かれている。公益委員と思われる方が、
  民法では、「当事者が解約の申入れをすることができる」となっていて、解雇と退職がいっしょくたになっているわけです。特に使用者側の解約について、正当な理由が必要である、そうでないと客観性合理性が認められませんよ、ということを書くためには、民法の解約という中から解雇を取り出して、それについて正当な理由がなければ権利濫用として無効になるというふうに、一つの完結した文章にしなければ、前提を省略しろというのは、ルールの全体像としておかしいような気がしているのです。
  それから
ここです。
 立証責任の問題ですけれども、権利の濫用については、濫用を主張する側が一応立証する必要があるだろうと思います。つまり、労働者が、自分はこういう理由で解雇されたけれども、その覚えはないと。しかし、それは一応の立証で、
「一応の立証」、ここが大事ですね。
 実質的には正当な理由に基づくものだということを使用者が具体的な事実や理由を挙げて、主張立証しなければ濫用の推定が働くということに当然なっていくわけですので、実質的な主張立証の負担は、やはり解雇権者
すなわち使用者ですね。
 やはり解雇権者の方が負うことになっていくだろうと。
そして、もう一人の公益委員と思われる人も、
  私も同じ意見ですが、三頁に書いてあることは、現在の判例法理をそのまま条文の形でルールの透明化を図る、ということで盛り込もうとしているわけです。現在の裁判実務における立証責任は、もちろん権利の濫用は、濫用を主張する方が主張立証するというのが民法上の原則ですが、こと労働関係について解雇の濫用を争う場合には、濫用だということを労働者の方で主張すれば、それが濫用に当たらないということを使用者が立証する、これが現在のほぼ確立した判例の取扱いでありますので、この文言はそれを踏襲するという立法者の意思で書かれているということです。労働者の方で、これは濫用に当たる、ということをすべて立証しなければいけないという解釈には、この条文はならないと考えております。
公益側の先生方と思いますけれども、使用者の実質的な立証責任についてはっきり述べております。
 厚労省にお聞きします。このお二人の認識は正しいんでしょうか、間違っているんでしょうか。
松崎政府参考人 挙証立証責任につきましては、先ほどのお話、まさにこの権利濫用法理のへそにも関係するわけでございますけれども、この権利濫用法理の中心というのは、まさにこの名前にあるとおり権利濫用ということで、先ほどの裁判の判決の中で申し上げましたように、権利の濫用としてというところが中心でございます。これがなければ、いわゆる正当事由説になるということになるわけでございますので、そこが中心でございます。
 したがいまして、権利の濫用ということでございますので、民訴法上の主張立証責任、これは現在でも労働者にありますし、今後も労働者にあるというところは全く変わっておりません。これは、前段の「解雇することができる。」という規定は、民法の六百二十七条の一項の条文を書いたものですから、問題はございません。したがいまして、この主張立証責任を具体的にどういう活動、どういう証拠等の提出によって果たすかということが主張立証活動ですから、これを実質的な主張立証責任というのであれば、そういう意味で使ったということで、この両先生の認識は正しいと思っております。
城島委員 いや、どういう意味で使ったかどうかじゃなくて、この意見は正しいんですかどうですかだけ、正しいかどうかだけでいいです。もう一度。
松崎政府参考人 まさに、実質的な主張立証責任というのは具体的な裁判指揮のもとで行われる主張立証活動の責任ということで、正しいと思っております。
城島委員 では、いわゆる実質的な証明責任は使用者側にあるということですね。
松崎政府参考人 法律上の責任は労働者側にあります。
城島委員 いやいや、実質的なというのが大事なんだから、さっき言ったように。さっきから何遍も言っているように、解雇権濫用法理の一番大事なところはそこにあると言っているんじゃないですか。形式上はわかっていますよ。形式上はどうかとわかった上で聞いているんです。実質的なところを聞いているんです。
松崎政府参考人 法律上の責任について、その法律上の責任と別に実質上の責任があるというふうな解釈はないと思っております。具体的に法律上の責任を果たすためにどれだけ訴訟上具体的な挙証立証活動を行うか、それによって裁判官がどういう心証を得るか、それによって挙証責任を果たしたことになるかということの判断によって実質的な判断ができるということであります。
城島委員 それではお聞きしますよ。この十八条の二ができたとしますね。そのときに、今おっしゃったようなことで、主張立証活動、どうでもいいですよ、裁判官がどっちにやらせるかどうか、それもあれにしましょう、では裁判官が主張立証活動を促した、でも裁判官の心証がグレーだったときに、この条文だったらどっちが勝つんですか。
松崎政府参考人 これは民事訴訟法、民事上の挙証立証責任の責任の配分からいえば、現行どおり、労働者が不利をこうむるということになります。
城島委員 何ですか、グレーのときはどっちが勝つんですか。裁判官の心証がグレーだったときはどっちが勝つんですか。一番大事なところなんだ。
松崎政府参考人 結論として、グレーのときは使用者側が勝つということになります。
城島委員 大臣、お聞きになりましたか。グレーのときは使用者側が勝つ、これは今と全く逆なんですよ。グレーのときは今使用者が負けるんですよ、解雇権濫用法理は。いいですか。なぜならば、先ほど言ったじゃないですか、そういう客観的に合理的な理由の存在を証明しなきゃいかぬわけですよ、今の解雇権濫用法理では。だから、証明できない、すなわちグレーのときは使用者が負けるんですよ。
 この条文で、今局長はいみじくも言いましたよ、グレーだったら労働側が負ける。これは、だから百八十度後退した形なんですよ。プラス・マイナスにならないんですよ。今、本当に大事な答えですよ、これは。一番本質的なものだ。こんなの何でプラス・マイナス・ゼロですか。とんでもないですよ。
松崎政府参考人 私が申し上げましたのは、途中経過は省略してといいますか、最終的にそういう判断になった場合ということを申し上げたわけで、具体的な訴訟指揮におきましては、通例の裁判において、現行法におきましても、御案内のように、先ほど冒頭申し上げましたように、使用者が解雇の意思表示をしたといったことに対しまして、そういう抗弁に対しまして再抗弁として、権利濫用法理であれば、自分は通常の仕事をしておって別にそういうことに当たらないということを、そういう極めて簡単なといいますか、そういうことを言うことによって訴訟指揮の中で実質的に主張立証責任が使用者の方により重きを負わしているということになるわけです。
城島委員 グレーの判断はどうですかと聞いているんじゃないですか。そうやった後を聞いているんです。裁判官の心証がグレーだったときどっちが勝ちますかと聞いているんです。本当に、それを聞いているんですよ。どうですか。それはさっきは使用者だとおっしゃったじゃないですか。これは大変な判断なんですよ。今の裁判実務と百八十度違うことになるんですよ、これは。
松崎政府参考人 これは法律上からいえば、最終的に裁判官がグレーの心証であれば、権利を主張するといいますか、解雇権濫用を援用する方が不利益をこうむるということになるわけでございますけれども、実際の運用についてはそうではないような運用がなされているということだと理解しています。
城島委員 だから、どっちが勝つんですかと聞いているんです。これが一番大事なところなんだから。(発言する者あり)これが法律をつくるときの一番の根幹じゃないですか。裁判官の判断になるようにしなきゃいけないので。だから、グレーのときどうするかというのは、基本的なスタンスがない限り、法律をつくる意味がない。今の方がよっぽどいいじゃないですか。
中山委員長 松崎局長、もう少し丁寧に答えてみてください。(発言する者あり)
 松崎局長、もう一回答弁してください。
松崎政府参考人 ちょっと言葉遣いで微妙なのかもしれませんけれども、裁判におきまして、当事者主義でございますので、双方が立証を尽くして、これが前提でございます。双方が立証を尽くして、なお権利の濫用についてグレーである場合は、これは使用者が勝たざるを得ないということになります。
 ただ、双方の立証を尽くした場合、濫用というものを判断すれば、シロとみなして、労働者を勝たせているということでございます。
坂口国務大臣 私は法律の専門家じゃございませんから、そのつもりで聞いてください。
 先ほどからお話がありますように、訴訟が起こって、そしてグレーでというお話がございましたけれども、グレーもいろいろでございますから、そしてまた、そこでどちらが勝つかということは、これは裁判所が決めることで、国会の中でどちらが勝つかということは、私は、なかなかそこは難しいと思う。
 ただ、訴訟において、現実に当事者にどのような主張立証活動を行わせるかということは、裁判実務上の取り扱いとして大きな問題だと思います。
 それで、これまでの解雇に関する訴訟におきましては、使用者と労働者との間の情報量にかなり差がある、そういうことを考慮して、使用者により多くの主張立証活動を行わせるというのが、これは裁判実務上の取り扱いがなされているというふうに理解をいたしております。したがって、裁判実務上から、使用者側が、主張立証活動が十分に行われなければ、それは当然のことながら敗訴するということになるのではないかというふうに私は思います。
城島委員 大臣、物すごく大事な点、違うんですよ。いわゆるグレーのときに、それは裁判官の問題じゃないんですよ。立法するそれこそ意思として、グレーだったらどっちかというのを決めるから法律があるんですよ。しかも今、グレーは、要するに解雇権濫用法理では使用者が負けるとなっているんですよ。だからここは、立法者、我々がどういうことで条文をつくるかということですから、条文を読めば、グレーだったら使用者が勝つとか負けるとか、これははっきりしなければならぬわけですよ、ここが一番大事なんですよ。それを裁判所の中でと言うんだったら、はっきり言えば、今この法律はない方がよっぽどいいということになるんです。
 これは、最後の最後の、その一番大事なところだけ聞いていて、これはだめですよ、大臣。裁判官に任せちゃだめです。これをはっきりしなければ条文はできません。
松崎政府参考人 今回の十八条の二の改正条文でございますけれども、これは刑罰の裏づけがなくて、いわゆる民事効力を定めているという構成をとっております。そういったことで、民事効力を定めたものでございますから、この法律の適用に当たっては、当然、最終的に民事裁判による決着ということをもともと想定しているという条文でございます。
城島委員 何度も言っているように、一番大事なのは、解雇については特にゼロか百かがないから、これが一番法律をつくる意味があるんじゃないですか。だから、ルールを明確化してトラブルを防止しようというときには、裁判になったときは裁判官が自分として、ではどっちを選ぶんですか。ある裁判官は、グレーの度合いがこんなことだからおれは使用者が勝つんだとか、いや労働者が勝つんだと、これは裁判官が一番困りますよ、裁判官は法律をつくれないんだから。だから、一番大事なグレーのときにどうかということが今は解雇権濫用法理では明確になっているんじゃないですか、使用者は負けだと。これを踏み外しているから、こんな、あとは裁判所任せ。だったら法律をつくらない方がいい。
松崎政府参考人 挙証責任につきましては、これは条文の解釈によるわけでございますから、当然、今の解雇権濫用法理そのまま条文化いたしました十八条の二によれば、権利の濫用ということを援用している以上、この権利の濫用を主張する者が責任を負うということになって、これはもうどういった裁判所におきましても、グレーについては立証責任を負っている方が負けるわけでございます。
 ただ、実際に、グレーのときについて、今までの裁判例は、グレーについて労働者を勝たせているのではなくて、きちんと権利の濫用というものを双方が主張立証を尽くした場合、双方判断して、結果として権利の濫用があったということで、グレーではなくてシロということで、労働者側勝訴ということにしているわけでございます。
城島委員 シロとかクロとか、ないんですよ、解雇には。何言ってるんですか。シロとクロはないんですよ、本当に。
 ゼロか百かなんて、それは裁判は簡単だよ、本当に。でも、最後はシロかクロかにするために、グレーのときどうするか。真っ白になれば、それは簡単ですよ。一番大事なところはそこなんだから。大半はそれじゃなかなか判断できないから、そのかわりどっちに挙証責任を求めるか、そのためにやっているわけでしょう。十八条の二によればと、当たり前ですよ、自分たちがつくった十八条の二によればそうだけれども、それはだから、今までの解雇権濫用法理を足しも引きもしないことになっていない。
 一番なっていないのは、だから、今の最終的な部分で、グレーのときにどうかということがあやふやだ。しかも、それを裁判官に任せるという、とんでもないことを言っている。それはだめですよ、こんな法律は。とんでもないことになっちゃう。
中山委員長 城島正光君に申し上げます。
 時間が参っておりますので、まだこの審議は始まったばかりでございますから、以後の審議において議論を深めていただきたいと思います。
城島委員 では、また次回、ちょっと引き継ぎさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

 

中山委員長 次に、鍵田節哉君。
鍵田委員 民主党・無所属クラブの鍵田でございます。
 今、この改正案の根幹にかかわるところの議論がございまして、このことが何かあやふやなままで時間が来てしまって、次回にということになったわけでございますが、これはやはり、今回の改正案なるものがいいかげんな法律であるからこういうことになっておるわけであります。
 先ほどからも城島議員がおっしゃっていますように、これだったら何もない方がいい、従来のままでいいということになるわけでありますから、そういうことを考えますと、これは改正案というよりも、我々にとって現状のままでありますと改悪案だと言わざるを得ないのじゃないでしょうか。そういうことにならないようにしっかり審議をして、そして厚労省としてもちゃんとした対応をしていただきたい。そして、もしそれができないのであればもう廃案にしてもらいたいという思いで質問をさせていただきたいと思います。
 改正案の各条文につきまして、城島議員から詳しく質問がございましたので、私は、法律の専門家でもございませんから、若干書生論的になるかもわかりませんけれども、今日の労働法なり、また厚生行政にかかわります社会政策などにつきまして、最近の傾向につきまして議論をさせていただきたいと思っております。
 先日の質問の中でも若干触れさせていただきましたけれども、昨今の小泉内閣における雇用労働の場におけるやみくもな規制緩和、そうした状況を厚生労働省が指をくわえて黙って見ている、または、それ以上に厚生労働省自身が、規制緩和を内容とした労働法制を立て続けに国会に提出しております。そして、この規制緩和の動きに加担をしているのではないか。そうした法案を審議するのが厚生労働委員会なのか、労働基準局など要らない、職安局もちゃんとした仕事をしておらないんじゃないか、こういうふうな姿勢で先日も質問させていただきました。
 大臣からは、私は、総合規制改革会議で出ている内容に全部が全部賛成ではない、むしろ守旧派と言われておる、そのことを誇りに思っているという答弁をいただきました。なるほど、大臣は、雇用や労働の場における規制緩和に抵抗して頑張っているんだということをおっしゃられたわけでございます。私はそのことを了とし、ほかの法案審議もありましたからそれ以上の言及はいたしませんでしたけれども、今回の労基法の改正案、今の議論を聞いておりましても、明らかに労働、雇用の場における規制緩和路線に即した内容になっておる、それが先ほどの議論になっておるのではないかというふうに思っております。
 先日いただきました衆議院の調査室がつくられた今回の法案の参考資料の中にも、次のような記述がされております。日本においては、むしろ一九九〇年代後半に入ってから規制緩和思想が有力となり、労働法、社会政策分野における規制緩和が提起されるように至りました。経営者や経済学者を中心とする政府の規制改革委員会及び規制改革会議は、その都度、その見解において、解雇規制や労働時間規制の緩和、派遣事業など労働市場規制の緩和を主張してきております。今回の労働基準法改正案は、一面においてはこの規制緩和の流れにさお差すものであるという面がございます。とりわけ、有期労働契約の期間延長や裁量労働制の拡大などはその側面が大きいわけでございます。
 大臣からは、一昨日、規制改革会議から示されたとおりに法案をつくっていると腰を抜かすような内容となる、そこをできるだけ我々の考え方にとどめて、一定の歯どめをかけてやっているんだ、そういう思いを持っているんだという答弁を聞かせていただいたわけでございます。
 しかし、今必要なのは、そのような規制緩和を押しとどめているだけということではなしに、単に受け身ではなく、むしろ積極的に社会的規制の強化の具体策を打ち出していくことであります。そうした攻めの姿勢こそが求められているのではないかと考えております。リストラに苦しむ国民が厚生労働大臣というお立場に対して大きな期待を寄せていますのは、そういう姿勢に対してでございます。
 厚生労働大臣としては、そういう規制緩和の大きな流れに、逆にその歯どめになる覚悟を持って臨んでいただきたいものだ、受け身でこの規制緩和を防止するということだけではなしに、積極的に規制を強化する、そのことも必要なのではないか、経済的な規制の緩和に対して、むしろ社会的な規制を強化していく、そういう姿勢を持って進めていただきたい、このことをお願いする次第でございます。それらにつきまして、大臣の御見解をいただきたいと思います。
    〔委員長退席、宮腰委員長代理着席〕
坂口国務大臣 総合規制改革会議、この最近出されたものを見ましても、重点十二項目というのがあるわけでございますが、その重点十二項目の中で七項目が厚生労働省関係のものでございます。
 私は、先日も申しましたとおり、経済規制こそ今改革をすべきときであって、経済規制改革を横に置いて社会規制の問題ばかり取り上げるというのは、これは違うのではないかということを経済財政諮問会議でも申し述べたところでございます。月曜日か火曜日にまたあるそうでございますので、また言いますけれども、私もそうした思いでいるわけでございます。
 社会規制がありますのは、我々の健康、あるいはまた我々の労働の公平性、あるいはまた労働者保護、そうしたところがありますから社会的規制というのは存在するわけでございまして、そうしたものはやはり大事にしていかなければならない。今までもそういうルールでまいりましたし、ここを全部取り払うようなことになりましたら日本のセーフティーネットは音を立てて崩れてしまうというふうに、率直に私もそう思っているわけでございます。
 しかし、全体としまして、現在の状況を見ましたときに、日本の経済の置かれている立場というものを見ますと、日本の経済がアジアを初めとしまして諸外国と競争をして、その中で打ちかっていかなきゃならないということは紛れもない事実でございます。そうした中で、先日も申しましたとおり、生産性というものを上げていかなければならない。それは私も理解ができるわけで、その生産性を上げることと労働者の保護をするということとを両立をさせながら、他の方法と申しますか、新しい技術の開発でありますとか新しいシステムの開発等によってここは切り抜けていく以外にないんだろうというふうに思っております。
 しかし、昨今、この新しい技術の開発でありますとかあるいはシステムの開発というところが非常におくれている。おくれているものですから、そこをあたかも補うかのごとく、社会保障に対します改革に着手をしようとしている嫌いがある、私はそう思っておりまして、そこは間違いではないかということを主張しているところでございます。
 そうはいいますものの、すべて拒否するというわけにもいかないという現実もあるわけでございますので、そこを、しかし、私の主張、我々の主張というものもちゃんと意見を言いつつ、これからもやっていきたいというふうに思っているところでございます。
 今回のこの基準法の中心になっております解雇ルールにつきましては、実は、これは私が言い出したことでございます。これは、裁判におきます結果として出ているわけでございますが、そしてそれがもう普遍化はされてはおりますけれども、裁判の結果というのは、一つの事例に基づいて出ました裁判の結果でございますから、本当はこの裁判の結果というものを、ただ裁判の結果ではなくて、法律としてちゃんと位置づけられていないのはおかしいというふうに思った次第でございます。民法の中には存在をいたしましたけれども、労働基準法という労働の一番基本になります法律の中にそのことが書かれていないことも、これはおかしいではないかというふうに思ったところでございます。
 最初は、労使双方からつくることに反対の声が上がりましたけれども、そういうことを重ねておりますうちに双方から、そうはいうものの、やはりルールというものはきちっとつくった方がいいのではないかという声が出てきたことも事実でございまして、そして正式に取り上げさせていただくに至ったということでございます。
 先ほどからいろいろと御議論が出ておりますように、それが現状と違うではないかという御指摘につきましては、これは私たちもよく検証いたしますけれども、少なくとも現時点、これは違わないという前提の上につくったというふうに私は自覚をしているわけでございます。しかし、城島先生からも、いや、そうは言うけれども、具体的に見ればこういうところが違うではないかというような御指摘も今あるところでございます。よく我々も整理をして、そして、結論として、やはり今までの最高裁の結論と変わることがないのだ、変わらないようにするのだということが実証できるようにするのが務めであると思っているところでございます。
鍵田委員 大臣の厚生労働行政に対する姿勢につきましては、大変真摯に取り組んでいただいておるということは先日も申し上げたわけでございます。
 規制改革の大きなうねりといいますか、要請に対しまして、やはり、厚生労働省として守るべき規制というものについては、しっかり守っていくという姿勢を明確に打ち出しながら、今後取り組んでいただきたいというふうに思います。
 また、最後にお触れになりました解雇ルールの問題につきましては、経営者が自由に解雇できる、また解雇する、そういう現実があったりいたしまして、解雇をめぐるトラブルが非常に多い。こういうことから、やはり労働側からもちゃんと解雇のルールというものを明確にしてほしいという要請もあったと私は思っております。
 そういう中で出てきた法案が、そういう労働者側からの要求に対して、むしろ逆におつりの方が大きいと言ってもいいような内容になって出てきておる。そして、先ほどのお話にありましたように、グレーであったらそれは労働者側が負けるんだというようなことが局長の口からおっしゃられたわけでございますから、そんな法律を我々としては通すわけにはいかないという強い思いをいたしておるところでございます。これらの問題をどう処理するのかということについてぜひとも真剣にお考えをいただきたい、そのことを申し上げておきたいと思います。
 そして、大臣のお考えも聞きましたけれども、きょうは松崎局長も来ていただいておるわけでございますけれども、厚生労働省の役割、いわゆるお役人の役割ということも大変重要なのではないか。もちろん、いろいろな利害関係者がありまして、いろいろなことを言ってくると思います。しかし、そのときに、自分たちの役割は何なんだということを明確にして、そして、それを押しのけてでも来ることについては、体を張ってでもそれをとめるぐらいの覚悟がなかったらいかぬのじゃないか。
 松崎局長は、旧労働省に入省されて今日まで来られて、局長まで上り詰めてこられたわけでございます。そういうことからいたしますと、一体、どういう思いで局長は労働省や厚生労働省に入ってこられたのか。
 労働基準法が当初できましたときの審議の議事録などを見ておりましたけれども、当時の野党からも、お役人の皆さんも大変御苦労があった、ここまでこの労働基準法という立派な法律をつくってくれた、御苦労だったなあという感謝の言葉が述べられておるところでございます。また、与党の皆さんからも、大変厳しい、戦後のまだ荒廃した経済の中で、こういう労働基準法をつくってもらった、これは大変立派なことだ、厳しいけれどもこれをぜひとも成立させてやっていかなくてはならない、そういう気持ちを述べられておるところでございます。役所の皆さんも与野党からこの法律ができたときに褒められておるわけでございます。
 今日のこの基準法の審議を見ておりますと、全く逆の立場で出席をされているんじゃないかというふうに思います。ぜひとも、松崎局長の方から、どういう思いで今この厚生労働省の労働基準局長としてお務めをいただいておるのか。それらの考え方につきまして、ひとつ思いを御開陳いただきたいと思います。
松崎政府参考人 ちょっとこれは個人的なことも入るかもしれませんが、お許しを願いたいと思っております。
 さっき御質問ございましたように、どういう心構えで入ったかと言われると、余り自慢できるようなことはございませんので省略させていただきますけれども、それ以降、個人的なことでございますけれども、雇用保険法の制定を初め、いろいろな法案の立案制定作業にかかわらせていただきました。その中で、私ども、先輩、上司から教わったといいますか、いろいろ身をもって教えられたことが三点あったかと思っております。
 一つは、よく労働力と言われますけれども、そういう発想ではよくない、だめだと。要するに、血が流れ、涙を流す人格として見なくちゃだめだという点、それが一点でございます。
 それから、二番目は、労働というものは、特に労働の現場というのは、これは物の売り買いとは違って、非常に労使の信頼関係の上に成り立っている、長期的な信頼関係の上に成り立つものであるから、その信頼関係というものをつくり、長もちさせるということを想定して考えなければだめだ、したがって、どんなに頭で考えていいものであっても、現実離れしたり、労使の片っ方がとんでもないと言っているようなことはやはりできないよということを教わったと思っております。
 それから三点目は、これはどこの行政でも一緒かもしれませんけれども、高望みはするなと。白地で考えればいろいろあるかもしらぬけれども、時には回り道もあるかもしらぬ。百歩じゃなくて、二歩でもいい、一歩でもいい、前進というものを考えて地道にやれといったことを私自身は教わったというふうに思っております。
 そういったことで、現在まで仕事をさせていただきましたし、特に最近、基準行政が多いわけでございますけれども、やはり、この仕事の重要性、働く人の命と健康を守るといったことの重要性から、私は非常に幸せであるというふうに思っております。
 今度の基準法の改正の審議におきましても、いろいろ先ほどから大臣からもお話ございましたように、こういう大きな規制緩和の流れの中で、いろいろある中で、どこで、ぎりぎりのところで労働者の保護、幸せというものを守っていくかという点。
 さらに、大臣からもお話ございましたように、解雇ルール。この問題については、労働側の皆さんからは、解雇制限法といったような、正当な理由がなければ解雇できないといったようなものを望む声があり、また一方、使用者側からは、もうこういう時代にこんなことを、もう判例だけで十分であるといったような意見もあり、非常に難航したわけでございますけれども、大臣の後押しをいただきまして、これは百点満点ではもちろんないと思っております。少なくとも二歩か一歩の前進だという気持ちで、今回の基準法改正案はまとめさせていただいたという気持ちでおります。
鍵田委員 私は、松崎局長の思いも、やはり立派な理念を持って取り組んでいただいておると思うんですが、その割に、今度の改正案というのが出てきたということは腑に落ちないわけでございます。やはり、今の思いを生かしていただくための労基法の改正ということにぜひともしていただくような審議にしていただきたいというふうに思っております。
 今回のこの労基法の提案理由についてでございますけれども、現状に対する認識や、後段で、それを踏まえた対応策ということが出ておるわけでございますけれども、前段の「我が国の経済社会を取り巻く状況が大きく変化し、産業・雇用構造の変化が進んでいる中で、」という部分がございます。
 私は、本来、労働法の中核となる労働基準法改正案を提出されようとする場合に、最も考慮しなければならないのは、現在の我が国社会における、主として労働環境の変化であるはずだと思っております。
 言うまでもなく、現在の労働環境は最悪であると言っても過言ではないと思います。賃下げ、リストラの横行、それによる戦後最悪の失業率、過労死の増加、年間三万人を超える自殺者、その中には中高年者の自殺者も大変多いと聞いております。また、ちまたにはホームレスが急増しておる。何万人ものホームレスがいる。多様な働き方という名目のもとで、いろいろな規制緩和がある。そういう中で個別労使紛争も多発しております。こうした労働環境の中で、雇用の場のセーフティーネットをいかに張るべきか、このような観点で労働法制を考えていかなければならないはずでございます。
 また、少子高齢化の進展が労働環境にどのような影響をもたらしているのか。本来、踏まえなければならない社会環境変化はたくさんあるわけでございます。今回の法案のような規制緩和法案が出される背景には、決定的に法改正の前提となる社会変化のとらえ方に誤りがあるものと断ぜざるを得ません。「我が国の経済社会を取り巻く状況が大きく変化し、産業・雇用構造の変化が進んでいる中で、」というふうに言われておりますけれども、具体的に何を意味しているのか。
 先ほど大臣がおっしゃられた国際的な競争力とかそういうものだけではなしに、一体、全体的にどのようなことが環境の変化というふうに把握されているのか。私が先ほど言いました大きないろいろな課題については、その中に入っておらないかどうか、この改正の中にどのように盛り込まれておるのか、そのことについてお尋ねをいたします。
坂口国務大臣 今先生が御指摘になりましたことに十分答えられるかどうかわかりませんが、最近の我が国の経済状況を見ておりますと、海外に生産を移すところがふえてまいりまして、海外生産比率が上昇を来しております。特に、製造業を中心にいたしまして、雇用機会が国内におきまして減少をしてきている。あるいはまた、一方におきましては、介護でありますとか福祉でありますとか、そうした方面におけるサービス業を中心にいたしまして、サービス業の方はかなりふえてきている、これも事実でございます。
 こうした現在の状況が続いておりますが、もう少し中期的に見てみますと、いわゆる労働力というものが、今、ピークの段階から減り始めてきている、あるいはこれからいよいよ減り始めるというふうに申し上げた方がいいのかもしれませんが、労働力が減っている、そういう中にある。
 それから、労働の中身を見てみますと、確かに、常用雇用の皆さん方が七〇%ぐらいおみえになることも事実でございますが、年齢別に見ると、高齢者の常用雇用というのは比較的高いんですが、若年の方にいきますほど常用雇用が少なくなってきているというような事実もございまして、全体として有期契約労働者でありますとかパートの皆さんというものの比率がふえていっていることも事実でございます。
 こうした雇用構造の変化というものが、好むと好まざるとにかかわらず、今そういう状況があるわけでございます。
 これは、中長期的な展望の中でこれをどう克服していくかという問題と、当面ここをどう克服するかという問題と、双方あるだろうというふうに思います。現在のように、常用雇用というものがどうしても得られない、企業の方も今後どうなっていくかということの見定めがもう一つつきにくいといったような状況の中で、常用雇用はできないけれども、パートあるいはまた有期雇用といったようなことで、とにかく様子を見たいという気持ちが強いことも事実だというふうに私は思っております。
 そうした意味では、現在の働く人の中に、そうした状況の中で、一時的な雇用であったとしても、何はともあれ雇用について、そして将来の問題はじっくり考えるという皆さん方もおみえになりますし、あるいは、中にはもうそういう有期雇用のような働き方が自分はいいのだ、そうして、本当にやりたい別のことを、自分は別途勉強もしていくんだというような方もおみえでございますし、生き方もさまざまになってきたというふうに思っております。
 したがいまして、全体といたしましては、そうした多様な価値観に対しましても対応ができるようにしていきたいというふうに思っております。
 しかし、先ほどから御主張いただいておりますように、そういうふうになったといたしましても、どういう働き方をしておみえになったとしても、やはり、働く人たちの社会保障でありますとか、あるいはまた労働条件というものを極力守って、常用雇用の皆さん方と、健康面でありますとか安全面でありますとか、そうしたことについては変わりのないようにしていかなければならない、そういうことに対する気持ちを十分に持って、我々も法律の改正その他に取り組まなければならないと考えているところでございます。
鍵田委員 確かに、多様な働き方ができる、またそれに対応できる労働者もふえてきつつあることは事実でございます。高度な技術を持ったり、また資格を持って、そしていろいろな職場を渡り歩くことによってよりキャリアを深めていく、そういう方もいらっしゃると思いますけれども、それは社会、労働者の中でほんの一握りの人でございまして、そういう人がいらっしゃるからといって、だれでもかれでもそれができるような形に持っていくことが労働者を保護していくことにはならないのではないかというふうにも思います。
 そういう意味では、やはり有期雇用のあり方などにつきましても、非常に限定的でなくてはならないと思うわけでございますが、今日のこの法案の中身からいたしますと、非常に規制を緩和していこうというような状況があるわけでございまして、これらにつきましても、やはり十分な審議をしていただきたいというふうにも思っております。
 そして、現在の経済環境といいますか、そういう中で、大臣もおっしゃったように、開発途上国と言われるところが非常に低賃金で、製造業などを追い上げておる。そういうところで競争に勝っていこうとすると、人件費の削減策なども考えなくてはならないというようなことも考えておられるようでございますけれども、しかし、例えば中国と競争して対等にやっていくだけの人件費ということになると、二十分の一とか二十五分の一とかにしなくてはならないわけで、こんなものはできっこないわけでありますし、じゃ、一割削減したからといって、それで一挙に競争力が上がるわけでもございません。
 むしろ、人件費を削減するよりも、労働生産性を向上させることによって競争力をつけていくというようなことも大切ではないか。二十二年の労基法の改正のときに、保守系の進歩党の議員がおっしゃっておりますように、労働者を犠牲にして産業が発展をするわけがない、労働者に低賃金を強いたり、そして過酷な労働を強いるということは、これはむしろデフレになったり社会不安を与える、そういう側面もあるわけで、労働基準法については、大変これは立派な法律であって、これを守り育てていかなくてはならないというふうな弁論をされておられるわけでございます。
 今日の不況の中で、リストラや賃下げ、このようなことが大変深刻になっておるわけでございまして、景気回復につながるような勤労者の雇用につきまして、一体どのようにお考えになっておるのか、現状における深刻な雇用状況を踏まえて、どのようにお考えになっておるのか、お聞きをしたいと思います。
坂口国務大臣 非常な大枠で言わせていただきますと、高賃金を維持するということになっていきますと、これは先進国全体に共通する話でございますが、どうしても失業者がふえる、失業者を減らそうと思いますと、どうしても賃金の抑制をしなきゃならないという二律背反の苦しみというのがあることは事実だというふうに思っております。もちろんこれは、資本主義社会という前提の上での話でございますが。
 そうした中ではございますが、しかし、中国と競争をするというふうにいいましても、それじゃ日本の国の中でも考えられることはないのかといえば、私は、そうではない、やはり考え得る道もたくさんあるというふうに思っております。
 先日も、NHKの教育テレビを見ておりましたら、あるいはBSだったかもしれませんが、中国のスクーターあるいはまたオートバイといったようなものに対して、日本もやはり対抗していくんだ、中国に進出をするというのではなくて、日本の中に残って、そして日本の中で中国と対抗して勝っていけるようにするんだという、御存じだと思いますけれども、自動車メーカーの一つが、そういう前提のもとにすべての部品の見直しをされ、そして、五万円台のスクーターでしたか、オートバイでしたか、そうしたものを製造するということに向けて努力をされているお姿を拝見いたしまして、やはりそういうふうにおやりになっているところもある。
 それからもう一つは、製造業と、それから、その製品をそれぞれの人の好みに応じたものをつくっていくという、製造業プラスそれに対する付加価値を高めていく。
 自動車ならば、どういう色にする、どういうバックミラーにする、あるいはまた、中のいすをどういう形にするといったようなことをそれぞれお聞きをして、それぞれ、その人に合ったものをつくって販売をするというようなことは、製造業プラスこれはサービス業でございまして、どの皆さんにもそれは理解をしてもらえるし、そして、ある程度高い値段で売ることもでき得るといったことで、そうしたことによって、日本の製造業の生き残る道はあるのではないかといった御議論のあることも承知をいたしております。
 いろいろ知恵を働かせて、世界的に見て賃金が高くなりました日本は日本として、これから、その中でもなおかつ製造業が生きていける、そのためにはどういう方策を選んだらいいかということを考えることが大事であります。もちろん、新しい、どの国のまねのできないようなものをつくり出すということも大事でございますが、現状におきましても行い得ることはあるのではないかというふうに考えている次第でございまして、そうした中で、常用雇用をいかにそこにふやしていくかという努力がやはり必要であるというふうに思っている次第でございます。
鍵田委員 これはまだ議論を深めなくてはならない課題でございますので、この程度にとどめておきますけれども、今回の政府案、改正案を読んでみますと、率直に言いまして、非常に懸念される内容が多いわけでございまして、そもそも厚生労働省というのはという問いかけとともに、そもそも労働基準法というのは一体どういった役割を持っている法律なのか、日本国憲法との関係はどうなのか、委員会審議に当たって、その原点に立ち返る必要があるのではないかというふうに考えております。
 日本国憲法には、御存じのとおり、第二十七条及び第二十八条に労働権、労働基本権が明確に位置づけられているわけでございます。この憲法の要請を踏まえ、個別的な労働関係を規制する法律として労働基準法が、そして、集団的な労働関係を規制する法律として労働組合法や労働関係調整法が制定されておるわけでございます。本法の審議については、いま一度そのことに思いをいたす必要があるのではないかと思っております。
 憲法の二十七条一項には、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と規定されています。この「勤労の権利」というものは、人権体系の中で、自由権と区別された社会権ないしは生存権的な基本権として一般に位置づけられているのでございます。例えば、この第一項については、東大名誉教授でありました宮沢俊義さんが、「国民は、勤労の権利を有するとは、国は、勤労を欲する者には職を与えるべく、それができないときは、失業保険そのほか適切な失業対策を講ずる義務がある、」という意味である、こう書かれているわけです。
 ところが、最近の厚生労働省は、全く逆のことをされているんじゃないか。「勤労を欲する者には職を与えるべく、」どころか、企業の営業譲渡などにおいて労働者の雇用を守るための法律制定には後ろ向きでありますし、今回の労基法の改正案でも、むしろ解雇を行われやすくするのではないかという強い批判が、労働界や日弁連あたりからも行われているところでございます。また、「適切な失業対策を講ずる義務がある、」という点につきましても、先月の雇用保険法の改正案に見られますように、野党の反対にもかかわらず、失業時の保険給付を大幅に引き下げられたわけでございます。
 まさに日本国憲法の要請に逆行している昨今の労働法制の流れに対しまして、私は強く抗議をしたいと思っております。
 そして、労働基準法の根拠規定でもあります憲法二十七条第二項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」という意味について、北大の中村睦男教授がこのように書かれています。労働条件の決定を労使間の契約の自由ないし私的自治にゆだねた場合に、経済的弱者たる労働者に低賃金や過重労働を強いたという歴史的経験を踏まえて、国が労働者の保護のために立法によって介入し、労働条件の基準を決めることにより契約自由の原則を修正することを意味している。労働基準法は、生存権の理念に立脚することを明らかにし、労働条件の基準が労働者の基本的人権を保障するものであることは明らかである。このような憲法との密接な関連が諸外国の労働基準法と比較しても、我が国の労働基準法の特色となっているというふうに書かれておるわけでございますが、果たして、こうした憲法の理念というものが、今日、時代の変化とともに変わってきたのかどうか、これらにつきましても、大臣のお考えをお聞きしたいと思います。
坂口国務大臣 憲法二十五条にいたしましても二十七条にいたしましても、その精神というのはまことに大事なものだというふうに思っている次第でございます。労働者が人たるに値する生活ができるようにしていくということは、これはいつの世でも大事なことでございまして、そのことを忘れてはならないというふうに思います。
 ただ、現在のように経済状況が全体で厳しくなってきた、しかもそれが一時的な、いわゆる循環的な景気の後退、停滞というだけではなくて、かなり構造的なものがあって、すぐにはなかなか立ち直ることができ得ない、かなり改革をしないと前に進まないというような状況のもとでは、特定の労働者は十分に保護されるけれども他の労働者はそうはいかないというような、労働者間で格差が起こってはなりません。したがいまして、全体としてお互いにこれは助け合うと申しますか、支え合うと申しますか、そういう精神でひとつ皆さん方にもお願いをしなければならない、そうして、今までとは、厳しい環境の中でありますけれども、みんなが一歩前進するところを半歩前進をするといったようなことでもひとつ理解をし合わなければならない、そういう事態に私は現在は残念ながら直面しているというふうに考えております。
 こうした時代でございますから、その時代背景によりまして、皆さん方にも御無理をお願い申し上げなければならないことがある。しかし、いつのときにも忘れてはならないのは、やはり公平でなければならない、労働者として公平な条件というものがやはり確保されなければなりませんし、そしてこのセーフティーネットといったようなものにつきましても明確にしていかなければならないというふうに総論として考えているところでございます。
鍵田委員 一企業であるりそな銀行に二兆円を超える救済の資金を提供されるというようなことからいたしまして、確かに銀行でありますから大変社会的な影響力は強いと言われるわけでございますけれども、むしろ勤労者の場合には、数百万の失業者がおって、その人たちの生活の救済をするべき雇用保険というふうなものが、財政が悪化したからといって切り下げられるというふうなことに、我々庶民的な感覚からしますと、大変納得のいかないものがあるわけでございまして、そういう意味では、やはり財政的な面なども多々あるやに思いますけれども、しかし、それはそれ、実際に政府の方の経済システムがあって今日のような不況が長期化しておるわけでありますから、そういう意味では、公的な資金を注入してでもこういう社会保障などにつきましては救済の手を差し伸べるというぐらいの姿勢があってもいいのではなかろうかというふうに思っておるところでございます。
 先ほどの城島議員の時間との関係もありまして、私の持ち時間がなくなってきたわけでございますので、まだたくさん質問残っておるんですが、また次回に回すとして、法務省の方から来ていただいておりますから、二問ほど先にさせていただきたいというふうに思います。
 先日の本会議で法務大臣に来ていただいて、同僚議員が質問をいたしました。立法者意思につきましての質問でございます。
 憲法第七十六条第三項では、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」とされております。立法者意思は条文解釈をする際の判断材料の一つにすぎないのではないかという質問でありましたけれども、これに対する森山法務大臣の答弁は、「裁判官は憲法及び法律にのみ拘束されるものであるとされておりますが、裁判官が法律の条文を解釈するに当たり、立法者意思はその重要な参考資料になるものとされております。」というものでありまして、甚だ不十分な答弁ではないかと言わざるを得ません。
 そこで、法務省に改めてお尋ねいたします。裁判官が法律の条文を解釈するに当たり、立法者意思はその重要な参考資料になるものとされておりますという法務大臣の答弁の根拠はどこにあるのでしょうか。何らかの具体的な調査をしたのでしょうか。一体どれだけの裁判官が法改正時の議事録を読んだり、国会での附帯決議を詳細に見ていると言えるのでしょうか。明確なお答えをいただきたいと思います。
房村政府参考人 法律の条文を解釈するに当たりまして、その立法者意思が重要な参考資料になるということは、広く一般的に法律界において認識されているところであります。
 例えば、団藤重光先生という、東京大学で長く刑事法を講じまして、その後最高裁判事にもなられた方ですが、その方が「法学入門」という本を著しておられます。その中で、制定法の解釈ということで、法の規定の奥にあるものとしてまず考えられるのは、法律をつくった立案者の意思である。例えば、その法律の立案担当者がどのような趣旨でその規定をつくったか、あるいは国会にかけられた場合に、国会の審議の過程においてそれがどのような趣旨において是認されたか、あるいは修正を受けたかということが問題になる。そのような意味で、立案資料あるいは国会の各種の議事録のたぐいが法の規定の趣旨を考える上にしばしば重要な参考資料になる、こういうことを言われております。
 また、実務家が書いたものといたしましては、昭和六十三年に、当時の鈴木重信札幌高裁長官が法律の解釈と判例という題で講演をされておりますが、その中で、条文の解釈につきまして、法律解釈の方法として文言解釈、各条文の文言に沿って客観的に素直な意味内容を探求することである、こういうものと並びまして趣旨解釈、立法者意思による解釈ということで、各条文は立法者がそれによって達成しようとする社会的目的を持っているので、その意思を探求して各条文を解釈することである、こういうことをお述べになっておられます。
 そのような意味で、一般的に、各裁判官が裁判をするに当たって条文の解釈が問題になる、こういうような場合には、何らかの方法でその条文の趣旨、そういったものを理解するその手がかりとして立法者意思を重要な参考資料としていると言えるのではないかと思っております。
鍵田委員 もちろんそれを参考にして判決をつくられるということもあるかもわかりませんが、しかし、たくさんの事例の中に、ほとんどはそこまで見られて解釈されるということはないのではないかというふうに思うわけでございまして、それだけの言葉でその立法者意思が十分生かされておるという証明にはならないんじゃないかというふうに私は思うわけでございますけれども、いかがでしょうか。
房村政府参考人 まず、何よりも条文の文言に従った解釈をするわけでございますし、争われている裁判の中には、条文の解釈よりも専ら事実認定が争いになっているという事件も多うございますので、条文の解釈が真剣に争われて、しかも、その解釈を決するために立法者意思までさかのぼって参考にしなければならないという事件は、それは裁判の中で必ずしも多いものではないだろうとは思います。
 ただ、その条文の解釈が本当に問題になった場合には、やはりその立法者意思までさかのぼるということは間々あるわけでございまして、特に、比較的新しい立法につきましては、そういう法律が問題になったときには、裁判官は一般的にその立案担当者等が書いたものを参考資料として読みますし、その中には、立案の趣旨であるとか国会の審議の過程、あるいは附帯決議等があればその附帯決議に触れて解説がされているのが通常でございますので、そのような形で、立法者意思を踏まえて条文の解釈を行っているというのが実態だろうと思っております。
鍵田委員 時間が参りましたので終わりますけれども、まだ、具体的に、どこでどういうふうにそういう立法者意思が生かされたのかというふうな事例につきまして十分なお答えをいただいておらないというふうに私は感じますので、また改めて質問をさせていただくことになるかと思います。また、きょう残しました質問につきましては、次回以降の審議の中で質問させていただきます。ありがとうございました。

 

宮腰委員長代理 次に、武山百合子君。
武山委員 自由党の武山百合子です。
 ずっとお話を聞いておりまして、山場というか、一番のこの法案の改正のポイントといいますか、これはやはり解雇に関することだと思うんですよね。この解雇に係る規定の整備について、まず初めにお話を伺っておきたいと思います。
 まず、今回の改正における解雇に関する条文、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。」としておるわけです。それでまた、そこにただし書きで規定されておるわけですけれども、それでは、このたびの法案の改正で、使用者は解雇できるということをつけ加えた、すなわちここを書いた理由をぜひ御説明していただきたいと思います。
鴨下副大臣 先ほどから御論議があるわけでありまして、まさしく先生おっしゃるように、極めて重要な論点かというふうに思います。
 今回の解雇に関する条文は、例えば、使用者の解雇権を抑制する趣旨で、判例で確立された解雇権の濫用法理をある意味で踏襲するものか、それともそうでなくて差し引くものなのか、こういうような議論が今まであったわけでありますけれども、今回の改正における解雇に関する規定の新設は、一つは、解雇に関する基本的なルールを明確にすることというようなことが一義的な目的でありまして、それを言ってみれば裏づけるといいますか、その根拠としては、最高裁の判決で確立されているものの、これまで労使当事者間に十分に周知されていなかった言ってみれば解雇権の濫用法理を法律上明記しよう、こういうようなことであります。
 これの規定を設けるに当たりましては、労働基準法において解雇に関する基本的なルール全体が明確になることが適当である、こういうようなことの趣旨から、民法第六百二十七条の第一項に規定されている内容、すなわち解雇権と、その解雇権の行使が権利濫用となるというようなことについて、一体として規定をしようというようなことであります。
 この規定により、解雇に関するルールが社会全体にいろいろな形で認識され、合理的な理由を欠く解雇が少なくなる、こういうような言ってみれば解雇をめぐるトラブル解決につながる、こういうふうに考えておりまして、先ほどからの御議論のように、使用者が容易に解雇するような事態というようなことを招くことにはならないというふうに考えているわけであります。
武山委員 解雇の問題は、一説によりますと、統計によりますと、年間六十五万件にも及んでおる、それで紛争を処理するのに大変だ、それはよくわかります。
 それで、これはあくまでも司法にゆだねられている、最高裁のいわゆる確立した解雇権濫用法理というものが土台にあるわけですよね。この法理によりますと、まず解雇には、労働不能、懲戒処分該当行為、それから経営合理化や経営不振に伴う人員削減といった正当な理由が必要であるとしておりますけれども、この法理自体は、どこをどう解釈すればいいか非常にわかりにくいと思うんですよね、国民にこういうことをたとえ言ったとしても。実際に言っているわけですけれども。これは最高裁のスペシャリストが考えて考えて考えてこういうふうな考え方を確立したものであって、私たちにとって、私自身にとっても、この法理は具体性に欠けていて、非常にわかりにくいです。法律の専門家以外にはまずわからないというようなことで、これは立法府としてあくまでも紛争を司法にゆだねている。
 立法府の責任は何なのか。法律をつくった以上は、きちっと最後の最後まで、この改正案の中で、正当な解雇の理由を具体的に示す必要があると私は思うんですよ。法律をつくったということは、そこまで責任があるんじゃないかと思うんですけれども、その解雇の理由を具体的に示すということに対してはいかがでしょうか。
鴨下副大臣 先ほどのお答えの中にも入っているわけでありますけれども、要するに、解雇の制限に関する言ってみれば労使当事者の知識の中に、残念ながら現状においては、解雇権の濫用法理そのものがなかなか多くの方々に知られていないというようなことが現状なんだろうというふうに思います。これは、例えば、解雇を制限する法律があるので、それさえ守れば解雇ができるというふうに考えている経営者が七〇%、労働者が六六・七%もある。
 こういうようなことも含めまして、今回の基準法の改正においては、そういう解雇権の濫用法理について、それこそ多くの方々に知ってもらい、法律に明記することによってそれが周知徹底していく、こういうような趣旨で、まさに先生御指摘のことは法改正をもってそれをさせていただきたいというのが私どもの考えでございます。
武山委員 でも、それはあくまでも司法がつくった法理なわけですよ。そこにゆだねちゃっているわけですね。立法府の責任は、もっとわかりやすく、具体的に説明すべきだと思うんですよ。
 それで、立法府では結局ただし書きで、ただしで、「その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」どうにでもとれるし、何にでもとれるし、今、多種多様な状況に雇用の形態がなっているんだったら、どれもこれもとれるわけじゃないですか。ですから、これがあいまいで、わかりにくくて、国民にきちっと説明する責任があると思うんですよ。
 あくまでもこの法理というのは、司法が決めた最高裁の法理なわけですね。立法府の責任はすべて欠けていると思いますよ。立法府が具体的に例示を、こういう場合が解雇だ、こういう場合が解雇だということを示すべきだと思うんですよ。これは法律をつくった方の責任だと思います。それは立法府の責任だと思うんですね。そこなくして、これは司法の手にゆだねたままで、その理由だけ述べているのは、欠けていると思います。
鴨下副大臣 まさに先生おっしゃるように、立法府の責任において法を改正するわけでありまして、決して司法の方に判断をゆだねているということではございません。
 ただ、これは先ほどから先生おっしゃっているように、最高裁の判断として、解雇権の濫用法理につきましては、かねてから判例の中で考えとして多くの共通の認識がある、こういうようなことで、その解雇権の濫用法理をそのまま、先ほど大臣も答弁いたしましたけれども、足しも引きもしない形で法文に書かせていただいたというようなことでありますけれども、これはそれこそ、先生方、立法府の御判断をいただくというようなことになるんだろうというふうに思います。
武山委員 そこで、今の点でまた論争しなきゃいけないわけですけれども、お話し合いしなきゃいけないんですけれども、でも、その根本というのは、足しても引いても何も変わらない、そこの何も変わらない部分というのはどういうふうにしてできてきたわけですか。省庁との調整の中で全部今まで法律というのはできているわけですよ。立法府というのは調整の上にできているんじゃないんですね。政治が議論して決めるということなんだと思うんですよ。
 ですから、もっと私は一歩前進で具体的に、労働不能、どんな労働不能なのか、中身をやはり立法府がきちっと明示すべきだと思うんですよ。どうにでもとれるようなとり方自体に、立法府としての責任があると思うんですよ。
 ですから、そこは、これはあくまでも司法で出た部分ですね。司法の上に立った、調整の上に立ったいわゆるルールなわけですよ。ですから、これにもっと詳しく具体的に解雇の理由を示すということを国民は一番望んでいるわけですよ。それが何かあやふやで、どうにでもとれるというふうにとれるところに問題があると思いますけれども、厚生労働大臣、ぜひその辺を御説明いただきたいと思います。
坂口国務大臣 今まで、裁判所の判例に基づいてこのことが進んできたというのは、これはやはり法律を早くつくらないということが影響していると思うんですね。今までからも、民法には確かにございました。民法に書いてございます。六百二十七条等にも書いてございますし、民法の中には書かれておりますが、しかし、改めてこうして労働基準法等には書かれていなかったということは事実でございます。
 しかし、今までの裁判の中ででき上がりました判断というのは、これは個々のケースをもとにした判断であったことも事実でございます。しかし、その中から、解雇に対します一般的な条件と申しますか普遍的な条件、あるいは基準というふうに申し上げた方がいいのかもしれませんけれども、そういうものを最高裁判所がお示しになったというふうに理解をいたしております。
 しかし、それは、長い間そうした基準がずっと続いてまいりまして、最高裁の判決でございますから、そのことを中心にしながら、日本の労働の中の解雇の問題は動いてきたというふうに言っても過言ではないというふうに思います。
 ただし、先ほど申しましたように、それは全体としての基準にはなっておりますけれども、しかし、それを法律としてちゃんと明記するということをした方がいいというので、この解雇ルールをつくろうということになったわけでございますが、法律でございますから、余り具体的に書くわけにはまいりませんから、根幹にかかわるところを明記するということでございましょう。だから、根幹にかかわるところを今度明記したわけであります。
 それで、それをつくるに当たりまして、それでは今までの解雇ルールというものと比較をして違うものをつくるのか、それとも裁判の中で確立をされたものと同じものをつくるのかということになったわけでありまして、そこは、今まで最高裁で示されたようなルールをそのまま法律にして、そしてそことは変わらないものにしようということにしたわけであります。
 きょうは、先ほどから、そう言うけれども、それが違うじゃないかというような御議論もあるわけでございますが、そこは検証をよくするというふうにいたしまして、我々の思いといたしましては、変わらないものをつくるということ、そしてそれは一つの原理原則を決めるわけでありますから、その原理原則に従って個々のケースは対応をしていただくということになるのは当然でございます。
武山委員 やはり立法府の責任としましては、一歩リードして具体的な例示が示せるような、議論ができるような、そういう立法府であってほしいと思います。
 現実的には司法にゆだねて、司法に責任を押しつけて、紛争は全部そこで解決してもらおうという考え方がありありなわけですね。でも、それは足並みをそろえるというだけであって、国民の代表である立法府としてのリーダーシップを発揮して、そこでもっと具体的にこうだという例示ができないということは、今、政治の貧困だと思うんですよ。
 あくまでも司法で今までこういう判例で判例でと言って、足しても引いてもゼロだというんだったら、何にも変わらない。ただ明記したというだけの、今まで明記されなかったことを明記したというだけのことであって、今、二十一世紀の社会が大きく変わろうとする土台をつくるときに、ただ明記したというだけで、ほとんど何も変わらないじゃないか。
 むしろ、社会が危惧していることは、これによってどんどん解雇されるんじゃないかというふうに、言葉だけ走っていってしまっているわけですよ。ですから、ここに一番のポイントがあって、ここのポイントのところで一番議論をしたいというのが今なわけですよ。
 ですから、その考え方はもう前々から同じで、足しても引いてもゼロだ、同じだという、たまたま判例で出ていたけれども、立法府としてもそれを明記するというだけのことのようにとれるわけなんですけれども、それは本当に、政治の場で議論されてきちっと明記されないというのは、あやふやでどっちにでもとれる。先ほど城島委員が、立証責任の問題でグレーゾーンの質問をしておりましたけれども、どっちにでもとれる。そういうのは全然、ただ明記したというだけで、一歩も前進しないと思うんですね。それを私、指摘だけしておきたいと思います。
 それで、この解雇の件でもう少し質問したいと思います。
 まず、使用者の解雇権、これを抑制するという意味で最高裁の判決によって確立された法理の意義、この法理の意義が、このたびの条文では、逆に意義自体が失われるんじゃないかということも一つとれるわけですね。それから、解雇がこれによって促進されるんじゃないかという見方も出るわけです。
 ですから、この意義を失わせるということと促進されるということ、この二点に対して厚生労働省の見解を聞きたいと思います。
鴨下副大臣 先ほどからの議論の多少繰り返しになる部分がありますけれども、今回の改正において、解雇に関する規定の新設というようなことそのものが、解雇に関する基本的なルールを明確にする、こういうような目的でありますから、先ほどから大臣もお話しになっているように、これはもうあくまでも最高裁の判決で確立しているものを、なかなかこれは労使当事者間で十分にある意味で共通の立場で周知されていなかった、こういうようなことから、法律上明確に書こう、こういうようなことであります。
 それで、今回の規定をするに当たりましては、先ほどから、民法の六百二十七条の第一項に規定されている解雇権と、その解雇権の行使が権利濫用にならないように、こういうようなことを一体にして規定しよう、こういうようなことでありまして、この規定によって、解雇に関するルールが社会全体に認識されて、それこそ合理的な理由がないような解雇ができるだけ少なくなるように、こういうような趣旨を含んでいるわけでありますけれども、解雇をめぐるトラブルの防止、そして解雇につながるようなさまざまな不当な扱いをできるだけある意味ではっきりとした形で、使用者が容易に解雇することができない、もしくは解雇するようなことを不当にしない、こういうようなことの趣旨も含んでいるわけであります。
武山委員 反面、そのお話を聞いておりますと、もっと紛争に持ち込もうという人がふえていくかもしれませんよ、こういうことに周知徹底されましたら。
 それで、今物すごく質も低下しているわけですよね。雇用の状態の中で質も低下しているわけです。それは、いわゆる家庭の崩壊、学級崩壊、それからいわゆる倫理、モラルの崩壊、あらゆる負の遺産というものがどんどん広がっていって、使用者にとっては、逆にこれを紛争の調停にどんどん持ち込む可能性もあるわけですよ。ですから、そういうものに対して、今おっしゃったようになるべく少なくしたいという担保はどこにあるわけですか。
坂口国務大臣 裁判の数は、決してふえたから悪いというわけではなくて、別によしあしと関係ないと私は思うんです。ふえるということが決して悪いことではないというふうに思っておりますが、この解雇ということに対する法律をわからないままで、いろいろのことを条件をつけて解雇をするというようなことが起こって裁判になるというようなことは減らしていきたい。
 だから、こういうことがちゃんとしているから、これに合わせたようにしないと解雇はできませんよということを皆さんが御存じの上でならば、それは、そうした上でもなおかつやはり両者の間の言い分というのは異なることもありますから、裁判というのはふえる可能性というのはあるだろう。しかし、具体的にそれがわからなくて、そしてやるようなことは減らしていかなければならない、そういうことを言っているわけでございます。
武山委員 そうしますと、政府の方でこの法案をつくる考えの土台として、今まで相当の数の紛争があって、それに対して、なるべくこういう法律できちっと周知徹底させようということなわけですけれども、それでは、どんな状況が今まであったんですか。わけて、どんな状況が解雇として行われて、紛争の問題点だったんですか。ぜひそれを幾つか例を出していただきたいと思います。
    〔宮腰委員長代理退席、委員長着席〕
鴨下副大臣 今、例えば個別労働紛争の解決制度の状況の中で、それぞれの年次によって多少違うわけでありますけれども、大体、解雇に関する問題が約三割ぐらいというのがここ数年の現状でありまして、ある意味で、個別労働紛争の中では最も重要な位置を占めるというようなことでもあります。
 そういう意味で、労使ともに、特に労働者の皆様にとっても解雇というのはある意味で一番重要な問題でありますので、そういうことについて今回の基準法改正等も含めてルールを明確にして、そういう紛争をできるだけ回避していこう、こういうような趣旨であります。
武山委員 中には知らないで泣き寝入りする場合もありますし、実際に、今のお話ですと紛争の三割。実態として、紛争全体がどのくらいある三割なんですか。
鴨下副大臣 大体、相談が持ち込まれる件数が半年で五万四千件強であります。その中で、解雇にかかわる問題が一万七千件より少し多い、こういうような現状であります。
武山委員 それは、年々ふえている数字なんですか。それは去年のなんですか。数年間の統計上でお話ししていただけたらと思います。
鴨下副大臣 個別労働紛争の解決制度そのものが平成十三年でありますので、十三年度上半期からの集計としては、件数でいいますと、解雇に関する問題は、十三年度の上半期が一万三千六百六十件、それから十四年の上半期が一万五千百八十五件、そして十四年の下半期が一万七千二百六十九件というようなことで、年々増加傾向にあるというようなことは間違いないんだろうと思います。
武山委員 それで、その訴訟の中で特に著しい、判断の非常にグレーの、それをぜひ例として幾つか挙げていただきたいと思います。
鴨下副大臣 先ほどから御議論があるグレーというような意味が、多分、先ほどの城島委員と松崎局長との間の解釈も多少すれ違っているような部分がありまして、それぞれ労使がある意味でそれぞれの主張立証活動をどうするかというようなことの中で、その活動を行った上で判断がグレーなのか、それともそういうような立証活動そのものが十分でなくてグレーなのかという、このあたりのところの判断が、先ほどの議論の中でも非常に難しい部分がありましたので、どういう形でグレーなのかというのをちょっと先生お示しいただければ、お答えさせていただきたい。
武山委員 約三万ちょっと、ここ平成十三年、十四年で紛争の件数があるわけですよね。その中で最も顕著なものを幾つか出していただきたいと思います。なぜかといいますと、政府の方でこの法律をつくったからです。ですから、その説明をしていただきたいということです。
鴨下副大臣 今の議論の中で私なりに解釈するのは、例えば、これは経歴詐称を理由とする懲戒解雇の是非をめぐる助言指導の事例というのがありまして、これは事案の概要としましては、コンピューターソフトの開発を行う会社の営業職として三カ月勤務していましたが、内臓疾患で障害者認定を受けていることと、履歴書の職歴に記載漏れが発覚して、経歴詐称というようなことで懲戒解雇された、こういうような事案であります。
 しかし、障害を悪化させるような業務内容でなく、また障害が理由で仕事に支障が出たことはないことから、懲戒解雇を撤回するようというようなことで労働局長の助言指導を求めたものでありますけれども、労働局長の指導によりまして、会社は、当該申し出人と話し合った結果、既に他の就職先を見つけていたため、職場復帰は行わず、補償金を支払うことで和解した、こういうような事例がありまして、他の営業職の労働者と同条件で仕事をこなしており、身体上の問題が仕事に支障をもたらした事実が認められないこと、また、会社の労働条件の体系を乱し、健全な企業運営を阻害される等の事実も認められないことから、判例に照らして解雇は無効となるおそれが高いので、申請者に対して行った解雇処分を取り消す、こういうようなケースなどは非常に判断が難しいというようなケースであります。
武山委員 お話を聞いておりますと、健康上の理由ですよね。あとほかにどんな理由があるんでしょうか、顕著なものを幾つか。やはりこういう事例、こういう事例と法律をつくる上で議論したと思うんですよね、政府の側は。ですから、その法律をつくる上で議論した根拠となる議論をやはり聞きたいわけですよ、こちらは。ですから、この法律をつくる上での主な議論の内容を、顕著なものをぜひお示しいただきたいと思います。
鴨下副大臣 一つ一つ顕著な事例を申し上げた方がいいんですか。それとも、もしあれでしたら、先生の方にまた典型的なケースを幾つか類型にしまして御報告させていただきますけれども。
武山委員 こういう委員会で私が質問するという内容は、やはり典型的な、あくまでもこういう事例が多いというものを上位二つ三つ知りたいということなわけですよね。それはもう常識の範囲だと思うんですよ。一々、一から十まで聞くということじゃないわけですよね。三万件もある中で、三万ケースそれぞれ違うと思いますけれども、ある程度、健康問題、いろいろな何かの問題とカテゴリーに分けられると思うんですよ。その分けたカテゴリーを聞きたいわけなんです。
鴨下副大臣 なかなか類型に分けられないところが難しいところでありまして、それぞれ、それぞれの事案によりまして、使用者側そして労働者側に大変な思いがあるわけでありますので、こういう形でというような類型を分けるというのはなかなか難しいんだろうと思います。それぞれケースによっていろいろな場合があると思います。
 ただ、解雇に関する具体的な判例として代表的なことを幾つか申し上げますと、これは普通解雇の場合でありますけれども、一つは使用者側が勝訴したことであります。
 これは平成十二年の判決でありますけれども、長期欠勤、遅刻を常習的に繰り返していた労働者に対して、上司が再三にわたり注意、指導を行ったが、改善しなかったため、労働能力が甚だしく低いとして当該労働者を解雇した。これにつきましては、使用者側が勝訴している。
 それから、労働者側が勝訴したケースとして、これは、放送事業を営むY社のアナウンサーであったXは、担当する十分間のラジオニュースについて、二週間に二回の寝過ごしによる放送事故を起こした。このため、Y会社はXを解雇した。それについて、これは労働者側が勝訴したわけでありますけれども、二週間に二回の寝過ごしによる放送事故を起こしたことはXに非があるが、もろもろの事情を考慮すると、Xに対して解雇をもって臨むことは、いささか過酷に過ぎ、合理性を欠き、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできない、こういうような趣旨で労働者側が勝訴した、こういうようなケースとか、幾つか事例はございますけれども、またもし必要でしたら先生のところにお届けいたします。
武山委員 それはあくまでも司法の方で判断した結果ですよね、その例というのは。紛争に持ち込まれた部分ですよね。それを政府の方でもとにして議論したということですよね。
 ですから、それはあくまでも、先ほどから私、何回も繰り返しになりますけれども、司法と同じことを立法府がやっているというのはおかしいと思うんですよね。司法がそういう判断を下したから我々もそうするんだという、ただ明記をしたということ自体がもう一歩進めないといけないと思うんですよ。
 それで、今回の改正における解雇に関する条文の中で、単に解雇権を濫用した事実に係る主張の立証責任がいわゆる労働者側にあることが規定されているだけですよね。それでは、事実上の立証責任は労働者側、使用者側のいずれにあるかということは、ここでは明記されていないわけですよね。これに対してはどう説明できるんでしょうか。
鴨下副大臣 これも先ほどから議論のあるところでありますけれども、訴訟において現実に当事者にどのような主張立証活動を行わせるかというようなことは、これは裁判実務上の取り扱いの問題であるわけでありますけれども、これまでの解雇に関する訴訟においては、使用者と労働者との間のある意味で情報量の差があるというようなことを考慮することとか、使用者により多くの主張立証活動を行わせるといった裁判実務上の取り扱いがなされている、かように認識しているところであります。
 今回の規定は、これまで判例法理として裁判実務に定着していたものを法律上規定する、こういうようなことで、現在の裁判実務上の取り扱いを変更する、こういうようなことではないわけでありまして、また、今回の規定の新設によって、このような現在の裁判実務上の取り扱いも変わらない、こういうふうな判断であります。
武山委員 それでは、裁判実務上の問題で、事実上の主張立証責任が現在の裁判実務とは異なっているわけですよね。それで、労働者側に転嫁されるおそれがあるんじゃないか。したがって、使用者に事実上の立証責任があることをきちっと法律に明記すべきじゃないか。この見解に対してはいかがでしょうか。
鴨下副大臣 これは先ほどからの繰り返しになりますけれども、この主張立証活動については、今までの裁判実務に定着してきた法律上の規定をするものでありまして、現在の裁判実務上の取り扱いを変更して解釈を変えるとか、こういうようなことではありません。
武山委員 その辺も非常に何かわかりにくいわけですよね。ですから、はっきりとやはり明記すべきじゃないかと思うんですよ。やはり、わからないから紛争が起こり、わからないから長引くわけですよね。それで、わからないから嫌な思いもするわけですよね、労使双方が。ですから、そういう明記というのは、きちっとやはり立法府ですべきことはすべきじゃないかと思います。
 それからあと、解雇の方はきょうはこれくらいにいたしまして、有期労働契約の方を少し伺っておきたいと思います。
 まず、この法案で、有期労働契約、現在原則一年の契約を三年に延長するということになりました。ところが、最近は、正社員がどんどん減少していく一方で、まずパート労働、それから非正規社員、派遣ですね、パート、派遣、そういうものが増加してきている。時々、いろいろな方にお会いしますと、ぱっと十人ぐらいいると、三人ぐらいはパートで、三人ぐらいは派遣で、正社員が三人なんということを現場に居合わせてよく聞くことがあるんですよね。そのくらい今雇用労働状況が変わってきているわけですね。
 それで、この上限を延長することによって、現状の非正規社員、これはもう増加していくと思うんですよ。それから、正社員のかわりに有期契約労働者を採用するという風潮が物すごくあるわけですよ、お話を聞いていますと。それはもう経済の本当に低迷にもかかわりまして。そうしますと、これは有期契約労働者を採用するということに拍車がどんどんかかっていくと思うんですよね。今、経営者は本当に経営に行き詰まっておるわけですから、そうすると、高賃金の社員よりも、派遣労働やパート労働や有期契約者、その方々を採用したい、そういう風潮になっておるかと思いますけれども、そういうことに対してやはり拍車をかけるということになるかなと思っておりますけれども、その辺に対してはどんな見解を持っていますか。
鴨下副大臣 実際には、なかなかそのあたりは難しいところだろうというふうに思います。特に、有期がいいのか、それともパートがいいのか、派遣がいいのかというようなことは、企業側の判断もありますし、それから、かねてからの御議論の中でありますように、特に、それぞれ労働者のライフスタイルだとかニーズも多様化しておりますので、そういう意味で、有期労働契約がいいとか悪いとかというのはなかなか判断が難しいんだろうと思います。
 ただ、先生おっしゃるように、企業側から考えますと、常用労働者と有期契約労働者の構成をどのようにするかとか、企業の人材戦略において、もしくは事業戦略において、有期雇用の方がどれほどいた方がいいのか、それとも常用労働者をどこまで責任を持って働いていただくのかとか、そういうようなことにつきましてはそれぞれの判断があるんだろうというふうに思いますし、そういうようなことを、それぞれの企業そして労働者の判断で定まっていくものだろうなというふうに思っております。
 ただ、今回の法制度上で、有期労働契約の期間等についてもこれから上限が延長された、こういうようなことでもありますけれども、それが、言ってみれば常用労働者から有期契約労働者への代替が直ちに進んでいく、こういうようなことにはつながらないんだろうというふうに思います。先ほど申し上げましたように、その会社にとってのキャリア形成だとか、それからそれぞれの人員、そしてその配置、こういうようなことを総合的に判断して、それぞれがお考えになることだろうというふうに思っております。
武山委員 でも、日本の経済を支えているのは、圧倒的に中小企業なわけですよね。中小企業の皆さんからお聞きしますと、今のお話とは全然違うんですよね。
 ですから、例えば今回の改正が行われた場合、新卒者を三年間の有期労働契約で採用して、その間の働きぶりによって更新するか否か決める、そういう状況だって生じてくるわけですよ。それから、何回かその契約を更新した後、雇いどめをするというような状況だって、それはもう多種多様な形態なわけですから、こういう形態だって考えられるわけですよね。そうしますと、我が国の長期雇用という今までの慣行は明らかに崩壊ということになっていくわけですよね。ですから、今回の改正はいわゆる若年定年制をもたらしていくんじゃないか、長期雇用慣行の崩壊をどんどんどんどんどんどん進めていくものじゃないか、そういうふうにも見えるわけですよ。
 中小企業の皆さんに聞きますと、もうかっているところももちろんあります。努力しているところもあります。しかし、この経済のデフレの現象で物すごく、本当に十人中八人ぐらいは大変だと現実に言っているわけですよ。努力しているところもありますけれども、でも、そうなると助長して、やはり雇いどめをせざるを得ない。こういう状況に対しての認識はいかがでしょうか。
鴨下副大臣 特に新規学卒を含めた要するに若い方々を採用するに当たって、企業そのものがある意味で、即戦力というよりは、むしろ将来的に企業を担うような中核的な人材、そういうことを想定して、その企業の組織の中あるいはその企業の風土の中に定着してもらって、それによって将来的にその企業を支えていただけるような、あるいは活性化するような、そういうような目的が多分若年者の採用には、企業の意図というのはあるんだろうというふうに思っておりまして、単純にそれによって、先生おっしゃるいわゆる若年定年制というようなことにはならないんだろうというふうには思っております。
 ただ、かつて見られたように、特に女性の若年定年制のような制度は、これは現在は男女雇用均等法で禁止されているわけでありますし、有期労働契約が直接そういうようなことで御懸念のような形にはならないんだろうというふうに思っております。
武山委員 私の地元で、タクシー会社に勤めている私の中学の同級生がいるんですね。ある日タクシーに乗りましたら、最近の社内の話が出たんです。最近、タクシー会社で人を雇うときに、若い人を雇わないと会社が活性化しないと彼は言うんですけれども、実際は、年金をもらっている人を優先的に雇っているというわけですよ。
 あらゆるトータルのコストからしますと、年金をもらっているわけですから、会社がかかるコストというのは少なくなりますよね。そうしますと、その同級生の彼は、やはり若い人を雇えないというところが、会社の将来に対して非常に、若い人がいなくなるということは、タクシー会社ですから、運転に支障を来していくということを彼は言っておりましたけれども、そういうふうにして会社自体は経費をやはり節減してある一定の額でしかやれない。それは、売り上げが少なくなっている今の経済の低迷も大変影響しているわけですよね。ですから、そういうふうなもう定年退職した方を雇っているということもあるわけですよ。
 私の前の質問は若年定年ということですけれども、若い人を雇ったら、結局きちっと正社員として雇えないので、派遣や有期やパートになる。また、企業自体も定年退職した人をまた雇わざるを得ない。そういう社会の現実でもあるわけですよね。そういうところが現にお話を聞くとかなりふえていっているということも一つ大変な問題だと思うんですよね。ですから、こういう問題も含めて、現実はそういう現実であるということを踏まえた上で、やはり法律というのはつくっていかなければいけないんじゃないかと思います。
 きょうはこれで一応、時間が来ましたので、終わりにいたします。

 

中山委員長 次に、山口富男君。
山口(富)委員 日本共産党の山口富男です。
 今回、改正の対象となっております労働基準法というのは、職場の憲法ともよく呼ばれております。といいますのも、憲法二十七条に基づいて、労働者保護のための法の規定を定めたものだからです。
 私は、本会議の質問の際にも、一九四五年以前の日本では、労働者が非常に劣悪な労働条件のもとに置かれて、長時間の労働、それから長過ぎるぐらいの契約に基づく労働、そういうものが行われた、その反省に基づいて今の憲法が、国が労働条件の問題ではきちんと基準を示して、そしてそれを守らなければ、罰則も含めて、労働者を保護していくという立場をとったということを強調いたしました。
 それで、私たちが労働基準法の問題を、その中身についていろいろ知ろうと思いますと、最初に大体手にとる本があるんですね。それは、きょう松崎局長が出席しておりますけれども、労働基準局が編集している「労働基準法」というコンメンタールです。このコンメンタールの中で盛んに強調されていることがあるんですけれども、それは、憲法や労働基準法というのは契約自由の原則を修正したんだということを強調しています。
 ここでおっしゃっている契約自由の原則を修正したというのは、どういう意味なんですか。
松崎政府参考人 基本的に、労働する場合には、そのベースになりますのは労働契約ということでございますので、使用者と労働者双方の結びます労働契約がベースになるわけでございます。
 したがいまして、市民法原理におきますと、契約自由の原則ということでございますので、公序良俗に反しなければ、どのような契約でも自由にできるということが原則だということでございますけれども、労働基準法におきましては、これは労働を物と同じに売るのではなくて、やはり人と、生きている人間と切り離せない労働力を売るわけでございます。そういったことから、労働者保護という観点から、今申し上げた契約自由の原則というものをぎりぎりの最低条件の部分については修正して、強制をするというふうに考えております。
山口(富)委員 労働条件の最低基準、あくまで最低基準ですけれども、これを示して、いわば契約自由の原則を修正したんです。
 労働基準法を読んでみますと、そういう使用者の側のさまざまな問題についてはきちんとした制約を課すという特別の法律になっておりますから、各条文を少し読み上げてみますと、例えば第三条、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」これ以降ちょっと中身は外しますけれども、第四条の、使用者は差別的取り扱いをしてはならない、第五条、使用者は労働を強制してはならない、そういう形で、いずれの条文も基本的には、使用者で始まる場合は、何々してはならないという特別の仕組みになっております。
 坂口大臣に改めて確認したいんですけれども、今回の法改正においても、この労働者保護を基本的な内容にいたします労働基準法の基本的な考え方は変更することはないんですね。
坂口国務大臣 それはございません。
 労働者が、先ほども申しましたように、人たるに、労働者に値する基本的な条件というものをやはり守っていくということにおきまして、その変化はございません。
山口(富)委員 今大臣が直接言及されたのは、労基法の第一条にかかわる問題です。そして第二条では、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」というふうに定めました。そして、この実質的な対等を保障するために、国は、労働条件について使用者側にさまざまな制約を課したわけです。
 私は、以下、少し具体的に今回の法改正についてお聞きしたいんです。
 まず最初に、第十八条の二で、解雇に関する規定が新たに設けられたわけですけれども、この内容について説明していただきたいと思います。
松崎政府参考人 この十八条の二の新設の規定でございますけれども、これは書いてあるとおりでございまして、基本的な目的としましては、後段の解雇権濫用法理というところが中心でございます。
 ただ、技術的なことを申し上げますと、権利の濫用としてというところを引くために、何の権利なのかということを出すために、法律上の技術的な書き方として最初に前文がついたというものでございます。
山口(富)委員 私は、今局長が言われた技術的な問題云々というのはちょっとおかしな話だと思うんです。
 労働基準法というのは、先ほど申しましたように、労働者保護を基本的な法律としております。それで、今局長が指摘された解雇権濫用の法理も、実際、客観的な理由を欠いたり社会通念上おかしいというようなものについては解雇権の濫用になるということで、いわば正当な事由がなければ解雇はできないというルールが判例法上も確立してきたと思うんです。
 私も、これを基準法である労働基準法に設ける、取り入れるというのは必要だというふうに考えるんですが、そうなりますと、使用者の義務を定める労基法の立法の趣旨からいきましても、例えばこういう形の規定になるはずだ。使用者は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものであるときでなければ労働者を解雇してはならない。
 労基法の立法の趣旨から考えまして、私は、十八条の二に新設するならばこういう趣旨の規定になると思うんですが、この点はいかがですか。
松崎政府参考人 確かに、政策論としてはそういう規定もあろうかと思います。
 ただ、そういうふうに使用者にいきなり、こういった場合にしか解雇できないというふうな規定を置くということは、正確に言いますと、民法六百二十七条の一項、この原則の特例を設けるという、現在の民法規定の特例を設けるという非常に大きな変更になるということでございまして、そういったものについては、現在のところ、関係者のコンセンサスは得られておらないということで、今回はとっておらないところでございます。
山口(富)委員 局長は、最初に技術上の問題だ、それから今は政策上の問題だということを言われました。しかし、私は、これはそういうことじゃなくて、労基法の基本問題にかかわるんだと。先ほど繰り返し申し上げましたけれども、契約自由の原則を修正して、使用者に何々してはならないという義務を負わせるという基本の仕組みになっているわけです。
 ですから、現行法でいいますと第十九条、これは解雇制限を定めたものですけれども、この第十九条の中でも「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及び」、その後少し略しますが、そういう条件を入れて、「解雇してはならない。」こういうふうにきちんと定めているわけです。
 ですから、今回の政府案の場合、まず最初に使用者の解雇権を認めて、その後「ただし、」というふうにつくわけですけれども、これはやはり労働者保護を基本とする労基法には全くなじまない規定だというふうに私は考えますが、いかがですか。
松崎政府参考人 ただいま御指摘のございました例えば十九条でございますけれども、これはここに書いてあるとおり、使用者の責任による業務上災害とか業務上疾病の場合の休業中の解雇の問題、それからまた女性の産前産後の休業中の解雇の問題、そういったように、非常に具体的、個別的なはっきりした事例について特別の法益を守る。要するに、使用者の責任であります業務上災害、そういった場合に、休んでいるときに解雇されたのでは生活の保障がなくなってしまうといったことから守る、また女性の母性保護といった観点から、産前産後中の休業期間については解雇してはならない、守るというふうに、個別具体的に非常に限定的に、監督権限というものを背景にしながら規制をしているわけでございます。
 今回の基本的な解雇ルールにつきましては、もっと幅広くといいますか、まさに基本的ルールと言っておりますように、もっと幅広く、具体的にいろいろな事情があるわけでございますけれども、そういった解雇権濫用の法理というのが適用される幅広いものについて解雇の効力というものを規制していこう、それは現在判例において定着しておりますものをそのまま規定していこうということで、非常に幅広いもの、基本的ルールを規定していこうというものでございまして、具体的に今挙げられました十九条といったようなものと性格が違うんじゃないかというふうに思っております。
山口(富)委員 この十九条だけ取り出して個別具体的と言うのはおかしな説明だと思うんですね。労基法というのは、全体として全部具体的なことを規定しているんです、具体的に何々してはならないという規定なんですから。ここのところだけを取り出して、これは個別具体的な条項だからおかしいというのは、それこそおかしな話だと思うんです。
 私、きょう最初に局長に尋ねましたけれども、局長自身お認めになったように、契約自由の原則というのを修正したわけですね。そうである以上、その立場に立ちますと、民法で確かに解雇権を規定されております。しかし、それは日本国憲法が一九四五年を経て四六年に生まれ、四七年に施行されたときに修正されたという箇所なんです。ですから、労基法にこの問題を取り入れるんでしたら、やはり使用者の解雇権の行使の制限が明確にわかるように規定する、これが筋じゃないですか。
松崎政府参考人 確かに、おっしゃるように、そういった考え方もあろうと思います。それは、まさに言われておりますように、いわゆる解雇制限法的な考え方、そういったこともございますけれども、これは現在のところ、関係者のコンセンサスが得られておらないというところで、とるには至っていないというところでございます。
山口(富)委員 あなたのおっしゃる関係者のコンセンサスというのはどこなんですか。
松崎政府参考人 これは、端的に言えば、労働契約の当事者であります労働者と使用者でございます。
山口(富)委員 それは、コンセンサスではなくて、使用者と労働者の間の意見の相違があるということでしょう。
 先ほど城島委員が、この要綱について審議した議事録もお使いになりましたけれども、それを読みましても、解雇の問題についてはどう定めるかの大激論ですよ。コンセンサスがないといったら、今の時点で言うと、どのように定めるかのコンセンサスがないということじゃないんですか。
松崎政府参考人 少なくとも、解雇に関する基本的なルール、これを目的としまして、最近ふえてきておりますそういった解雇事案、解雇云々の事例がふえているわけでございますけれども、そういった解雇に伴いますトラブル、こういったものを未然に防止し、また発生した場合には迅速に解決するに資するようにといったことで、基本的なルールを設けようというところはコンセンサスが得られたわけでございます。
 しかしながら、その中身につきましては、やはり一方では解雇制限法的な考え方もありますし、いろいろあるわけでございますけれども、最終的には、現在、最高裁判例以来三十年にわたりまして法曹界なり社会に定着していると考えられております解雇権濫用法理を規定するということに落ちついたということでございます。
山口(富)委員 あなたがいみじくも認められたように、解雇規制のルールを設けるというところでは一致した、しかしその中身まで、どう規定するかまでは一致しなかったというのが事実じゃないんですか。
松崎政府参考人 コンセンサスという言葉が不適切だったかもしれませんけれども、確かに、解雇に関する基本的なルールというものを規定する必要がある、どういうことを規定するかということを議論した結果、現在提案しているものになっているというところでございます。
山口(富)委員 大変弱々しい答弁だと思うんです。
 局長は、私の意見について、それは一つの考え方である、政策的にはあり得るという言葉でお話しになりました。
 坂口大臣に答弁願いたいのですが、この問題については、私は、十八条の二については、労基法にふさわしい解雇権の行使の制限になるように、そういう文面に改めるべきだ、修正することも含めて検討するということを求めたいのですが、見解、いかがですか。
坂口国務大臣 おっしゃっている意味は私も理解できるつもりでおりますし、私もこの文章を見ましたときに、上下逆にならないのかと言うたぐらいでございますから、それは私もよくそこは理解はしているつもりでございますが、ただ、法文上書きます論理と我々が理解をすることとは若干違うんだろうというふうに思っておりまして、そこはやはり法律は法律の文章の書き方というのがございますから、その意味がそういうふうに理解のできることであればいいというふうに私は思っている次第でございます。
山口(富)委員 坂口大臣が、上下反対にした方がいいんじゃないかとか、私が話していることはわかるんだというお話でした。私は、だったら、私たちは立法府なんですから、法律をつくるのは私たちなんですから、この法律をどういう法律にするか、そのことを真剣に聞いていただきたい。
 先ほど局長が繰り返し、最高裁の判例なんだという話をされました。実は、きょうお昼の質疑で城島議員が出した資料なんですが、あの中に入っているんですけれども、一九七五年の解雇権濫用について判定した最高裁の判決ですね。これについての最高裁側の解説の文書があるんです。私はそれを国会図書館で取り寄せようとしましたら、恐らく城島議員が借り出したんじゃないかと思うんですけれども、ありませんで、最高裁まで行きまして、その文書を確認してきました。そうしましたら、こういうふうに述べているんですね。
 「今日においては、「解雇の自由」に基づく解雇権の行使も、なんらかの制約を被ると考えられており、古典的意味における解雇の自由そのものと解する説はほとんどみられないところであって、本判決も、解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるものと解している。」
 ここからなんです、問題は。
 「この考え方」、これは判決のことなんですけれども、「この考え方は、説明として解雇権の濫用という形をとっているが、解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返えしたようなものであり、実際の適用上は正当事由必要説と大差はない」。ここなんです。
 ですから、もし私たちの立法府が今度のこの解雇規制の問題でルールを法文上に定めようとしたら、これに立脚をして、正当な事由がなければ解雇は無効である、そういう法文にすべきだと思うのですが、重ねて坂口大臣の答弁を求めます。
松崎政府参考人 五十年の最高裁判決が、権利の濫用としてということを入れているということは、まさに解雇権濫用法理を規定しているということで、正当事由説ではないということをはっきり言っているわけでございます。ただ、その解説につきましては、実質上こういうふうな、大差がないとか言っているわけでございまして、形式的には違うけれども、意味としてはそういうふうにも意味はある、そういう書き方だというふうに理解しています。
山口(富)委員 局長の勝手な答弁は抜きにしまして、坂口大臣の答弁を求めます。
坂口国務大臣 私は、意味は同じことだというふうに理解をいたしております。
山口(富)委員 そこは再考願いたいところですね。といいますのも、この問題については、労働基準監督行政の現場から、この法律では解雇の規制はできないんだという声も実際に上がっているわけでしょう。それから、これでは解雇をよりしやすくなるような規定になっている、そういう現実の声があるんですから、私は、今の坂口大臣の答弁はいただけない答弁だと、重ねて修正を求めるものです。
 それで、私、もう一点この問題でお聞きしたいのですけれども、整理解雇の問題なんです。
 中身は申し上げませんけれども、整理解雇について、いわゆる四要件という形で判例上確立してきたと思うのですけれども、改正案で言っています、その解雇が客観的に合理的な理由を欠くという場合の客観的に合理的な理由を欠く中身に整理解雇の四要件が含まれているかどうか、これを確認したいと思います。
松崎政府参考人 ただいま御質問ございました整理解雇四要件に関する裁判例でございますけれども、これは多分昭和五十四年の東京高裁の判決だというふうに理解しております。
 これはいわゆる整理解雇四要件についてのリーディングケースと言われているわけでございますけれども、このいわゆる整理解雇四要件につきましては、先ほど申し上げました解雇権濫用法理のもとで、この解雇権濫用法理におきます解雇が無効となる要件、先ほど申し上げました、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と是認することができないことに関して、整理解雇について、下級審がより具体的な判断基準として示したというふうに理解しております。
山口(富)委員 労働基準局の局長としての答弁がその程度だと、私ちょっと驚きましたよ。
 といいますのは、あなたの理解ですと、これは下級審の判断だということでしょう。そうじゃなくて、先ほど法務省が名前を挙げた団藤重光さんが裁判官をやっていた時期に、最高裁で、これは一九八三年ですけれども、あさひ保育園事件というのがありまして、この中で、人員整理がやむを得ない事情などを説明して協力を求める努力を一切しなかったということで、解雇権の濫用として無効になった裁判があるんですけれども、これについては、最高裁が整理解雇をめぐる労働者の権利を守ったというところまで評価されているんです。
 その上、今労働基準監督署を訪ねますと、大体窓口の一番最初に置いてあるパンフが、リーフレットがこれなんです。「厳しい経済情勢下での労務管理の留意点」、これに何と書いてあるか。「労働条件に関する裁判例」というのがちゃんとあって、解雇が無効という最高裁の判決もありますけれども、整理解雇の四要件までここに含まれているんです。
 ですから、単に下級審の判決だということにとどまらずに、実際にはあなた方の行政の中で整理解雇の四要件というものを重視して仕事をしている。だったら、今度の改正案の中で指摘しているこの合理的な理由というところには、当然、整理解雇の四要件は含まれるんじゃないかというのが私の質問なんです。もう一度答弁願います。
松崎政府参考人 これは、全体としまして、解雇の意思表示というものが権利の濫用として無効になるものの規範的な概念として、五十年の最高裁判例の中では、客観的に合理的な理由を欠き云々というのが示されていると思っております。
 ただ、それにつきまして、整理解雇というものについて具体的に下級審が示したというのが先ほどの五十四年のケースでございますし、それから六十何年かの最高裁のことを言われましたけれども、これにつきましても承知はしておりますけれども、ただ所論に違法はないということで、詳しく、最高裁の判決といたしまして、論理構成をきちんとしておらない……(山口(富)委員「何に違法がないの」と呼ぶ)言っていることに違法はないということで、原判決を認めているだけでありまして、きちんと最高裁の判決として、先ほどの五十年の解雇権濫用法理のリーディングケースのように、はっきりと論理を明快に言っておらないので、なかなかちょっと参考にはできないなというふうに考えたわけでございます。
山口(富)委員 その最高裁の裁判について、局長の見解は一つの見解として聞いておきますよ。私が聞いているのは、この合理的な理由の中に整理解雇の四要件は含まれているのか、この点だけなんです。
松崎政府参考人 これを当てはめる場合にはそこに含まれると……(山口(富)委員「含まれているわけですね」と呼ぶ)はい。
山口(富)委員 では、これに整理解雇の四要件は含まれているんだということが確認されました。
 それで、私、きょう委員の皆さんに配付している資料なんですが、先ほど自由党の武山議員の質問の際に、最近の個別労働紛争解決制度の問題で、どのぐらい解雇の相談があるのかということで数字も挙がっておりましたけれども、私がお示ししましたのは、平成でいいますと十四年四月一日から十五年三月三十一日の運用状況について最近厚生労働省が発表した資料ですけれども、これを見ましても、民事上の個別労働紛争に係る相談の件数、これで解雇が占める比率が約三割なんですね、二八・六%。それから、助言指導の申し出の受け付けを行った件数に占める解雇の割合は三六・四%。あっせんの申請の受理を行った件数で四六%。そして、この解雇の中に、普通解雇と並んで大体その二割を整理解雇がいずれの場合も占めているというところを大変重視しなきゃいけないというふうに思うんです。
 その点で、このリーフレットにも整理解雇の問題を書き、そして今の答弁では、今度の改正案では整理解雇の四要件を内容としては含むという答弁がありましたから、私はこの書き方については修正を求めるものでありますが、ここに整理解雇の四要件を含めるのは当然であるということを申し述べて、次に進みたいと思います。
 きょうずっと問題になっております立証責任の問題なんですけれども、これは確認にとどめたいんですが、解雇をめぐる労働裁判では、実際上、使用者の方に立証責任が移っていると言っていいと思うんです。
 日本弁護士連合会が最近出しました会長声明の中で、使用者側が解雇事由を積極的に主張立証し、労働者側がこれに反論するという訴訟運用がなされてきたというふうに指摘しておりますが、本改正案の立法趣旨というのは、この点での立証活動について変更を求めるものではないということをもう一回確認しておきたいと思います。
松崎政府参考人 具体的な裁判上におきます主張立証活動といいますものは、具体的な訴訟指揮の中で行われるものでございますので、法律上のものではございません。したがいまして、この十八条の二におきまして解雇権濫用法理を規定した場合にも、現在と全く変わるところはないというふうに考えております。
山口(富)委員 では、この立証責任の問題については、実際上、使用者側に負わされているということを確認して、次に進めたいと思います。
 次は就業規則の問題なんですけれども、今度の改正で第八十九条の三号の退職に関する事項に「解雇の事由を含む。」というふうにされております。それで、確認したいんですが、就業規則というのはもともと使用者側がつくるものです、一方的にとあえて言っていいと思うんですけれども。そういうものとしてつくった場合に、解雇の事由をとにかく使用者側が一方的につくってしまうというようなことは起こり得ないのかということを聞いておきたいと思います。
松崎政府参考人 労働基準法上、就業規則につきましては、使用者が作成して労働者代表の意見を聞くということになっております。したがいまして、作成権者は使用者ということでございます。
 ただ、具体的には、各事業場におきまして、やはり円滑な労使関係、それを長期的に保つということから、いろいろな協議というものがなされているものと思っております。
山口(富)委員 そうしますと、就業規則の作成に当たって、厚生労働省の側から、こういう場合は不当な解雇になるとか、こういう点については解雇の事由に含めてはまずいとか、そういう具体的な提起というのは行うんですか。
松崎政府参考人 先ほど申し上げましたように、そういった格好でつくられました就業規則を監督署へ持ってくるわけでございますけれども、その際、その中身を一応チェックいたしまして、例えば解雇事由とかいろいろな決めで、これは解雇事由だけに限りませんけれども、いろいろな中身の労働条件が書いてあるわけでございますけれども、そういったものにつきまして、法律違反があるとか、明らかに公序良俗違反になるといったようなものについては指導をいたします。
山口(富)委員 私が尋ねているのは、届け出たときのチェックの問題じゃないんです。その前の段階で、使用者側が一方的な、いわば勝手な解雇事由などを書かないようにきちんと、こういう場合はまずいとか、今回、今労基署に置いてありますリーフレットを持ってまいりましたが、ここにあるような各種の裁判例などを紹介して、不法な解雇を許さない、そういう啓蒙をきちんと行うのかと聞いているんです。
松崎政府参考人 申しわけありません。
 事前に使用者から相談があった場合にはもちろん相談に応じますし、また一般的には、私ども、モデル就業規則といったもの、このモデルをつくっております。いろいろ業種別、特に中小企業向けにいろいろなモデルをつくっておりまして、そういったものをPRすることによって、現在も適正な就業規則というものがつくられるよう、モデルを示していろいろ相談に応じているということでございます。
山口(富)委員 先ほど就業規則の問題で、これは労使間の紛争を未然に防止するという意味もあるんだという説明がありました。となりますと、就業規則で定める解雇の事由に該当する具体的な事実がない場合、当然その労働者の解雇というのは無効になるわけですね。
松崎政府参考人 これも何回もお答えしているかもしれませんけれども、就業規則に解雇事由が書いてある場合、その解雇事由に該当していれば、確かにそれは解雇は有効になるということでございますけれども、その解雇事由に該当していない場合、これは何回も申し上げていますように、ではそれ以外の、解雇事由と書いていない解雇事由では絶対解雇できないのかといった場合に、これは書いた者の責任かもしれませんけれども、いわば不備な就業規則ということで、極端に申し上げれば、懲戒解雇しか書いていないといったような場合、そういったものの場合には、懲戒解雇しか書いていないけれども、普通解雇もできる場合があり得るというふうに解釈されるという、いわゆる例示列挙説というのもあるわけで、例示列挙と解される場合もあるわけでございますから、一概にはそれは言えないと思います。
山口(富)委員 そうしますと、就業規則が届けられたらチェックする、そのチェックはどういう意味があるんですか。というのも、トラブルを未然に防止するために、就業規則の中に解雇の事由を定めるというわけでしょう。ところが、そこに定められたもの以外でも解雇ができるということになったら、これはノンルールということじゃないんですか。
松崎政府参考人 労働基準行政におきましては、まず基準法を施行しているわけでございますけれども、基準法は最低労働条件を決めるということで、いわば監督権限を背景にしてそれを担保しているわけでございます。したがいまして、基準法を初めとしたいろいろな労働者保護法、そういったものに規定されております法律に違反している条項が就業規則の中にないかといったことをチェックすることからまず始まるわけでございます。
 したがいまして、民事的効力について影響があるような条項につきまして、監督機関として一律にチェックをするということは、現実問題としてはなかなか難しいかと思っております。
山口(富)委員 これが、きょうの昼からの議論で大問題になっている現在ある解雇権濫用の法理、そして最高裁の中でも判例として確定しているその中身からいって、先ほど城島議員が指摘されましたけれども、入り口と出口の規制という問題で、局長の答弁でいうと、該当する事実が就業規則で定める事由でなくても解雇ができるという立場を厚生労働省がとるということなんですね。
松崎政府参考人 実際には、今回の改正によりまして、就業規則の必要的記載事項に解雇というものがはっきり明示されるということになりまして、これに基づいて各企業を私どもも指導いたしますけれども、具体的に書くようにという指導、さらには、先ほど申し上げました、もとより就業規則の普及、そういったものによりまして、より具体的に解雇事由が書かれていくことが進みました結果、その結果といたしまして、先ほど申し上げましたように、この就業規則の解雇事由というものが限定的に解されるというものがふえてくることはあろうかと思いますけれども、すべてそういうことになる、すべてそういうことを強制するというわけではございませんので、すべての就業規則がいわゆる限定列挙になるということまでは言えないということを申し上げたわけでございます。
山口(富)委員 私は、就業規則で解雇の事由を定めるとなりますと、一方的なものにならないように、監督行政が重要になる、それからまた、定めた以上、その事項に該当する事実がなければ解雇はできないという形での修正がこの問題では必要だと思います。そして、今求められておりますのは、解雇の問題をめぐって、本当に社会問題になっておりますから、きちんとした解雇規制のルールをこの労基法の中に盛り込んで、労働者の雇用と職場の安定をきちんと図っていくということが大事だというふうに思うんです。
 次に進みますが、裁量労働制の見直しの問題です。
 裁量労働制というのは、結局、幾ら働きましても、みなし労働で、実質の労働時間がどうであれ、実際に働いた労働時間の把握を困難にするという問題を持っておりまして、これが実際には違法なサービス残業や長時間労働の温床になってきたというふうに思うんです。私は、あくまで裁量労働については限定的で、その拡大については厳しく歯どめをかけていくことが大事だというふうに考えております。
 現行の労働基準法なんですけれども、三十八条の四で、労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置をとるというふうになっています。この規定はなぜ設けられたんですか。
松崎政府参考人 御指摘のように、裁量労働制が適用されます労働者につきましても、労働者の健康管理といいますものは事業主の責務であることには間違いございません。また、労働者保護という観点からも、これは今後とも非常に重要な問題であるということにも変わりないわけでございます。したがいまして、使用者につきましては、こういった裁量労働制が適用される労働者につきましても、健康の維持増進のための措置を講ずることが求められるということでございます。
 したがいまして、企画業務型の裁量労働制におきましては、特に使用者が労働時間の配分等に関しまして具体的な指示をしないということにしているわけでございますので、やはり、使用者が気がつかないまま、モラルの高い労働者の方が働き過ぎの状態に陥ってしまうということもあるのではないかといったことから、労働者の健康確保を的確に図るという観点から、使用者が講じます健康確保のための措置というものを労使委員会の決議で定め、その実効性を担保しようとしたものでございます。
山口(富)委員 そうしますと、今回、三十八条の三で、専門業務型についても同様の、健康及び福祉を確保するための措置をとるということが入ったんですけれども、これも同じような意味合いなんですか。
松崎政府参考人 確かに、現行の法律におきましては、いわゆる専門型の裁量労働制につきましては、この健康確保措置というものが要件になっておりません。それを今回いろいろ調査したところ、やはり同じような問題があるということ、それから、さらに具体的に、各企業において、専門型の裁量労働制を採用しております各企業を調べたところ、結構多くの企業、大企業においてはほぼ一〇〇%、平均でも八割以上の事業場におきまして、専門業務型については要件とされておりません健康確保の措置、そういったものが実際上とられておるといった状況がありまして、今回の改正におきましては、企画業務型と同じように、この措置も要件としようというふうにしたものでございます。
山口(富)委員 今局長も言いましたように、裁量労働制というのは働き過ぎが問題になってきますから、健康の問題というのがどうしても、不可避的にこの対策をとる必要があるということだと思うんです。
 それで、昨年の二月に厚生労働省が、いわゆる過労死防止通達というふうに呼ばれる通達を出しました。これは裁量労働者も含めた通達なんですね。
松崎政府参考人 このいわゆる過重労働対策通達でございますけれども、これは、裁量労働制につきましても、この通達の対象とされておるところでございます。
山口(富)委員 この通達を見ますと、こうなっております。私はこれを読んでもらおうと思ったんですが、「事業者は、裁量労働制対象労働者及び管理・監督者についても、健康確保のための責務があることなどにも十分留意し、過重労働とならないよう努めるものとする。」ということなんです。
 となりますと、裁量労働制の場合、労働時間は確かに労働者が管理するという建前になっているわけですけれども、当然、事業主には過重労働にならないように努める義務が生まれてくるわけです。当然、労働者の労働時間の把握が必要になってくると思うんですけれども、裁量労働の場合、事業者はどうやって労働時間を把握しているんですか。
松崎政府参考人 御指摘のように、裁量労働制の対象労働者につきましても、健康確保を図るということから、使用者には、労働時間の状況の把握を行う責務があるということにしております。
 このため、大臣告示におきまして、具体的には、使用者が裁量労働制の適用労働者の労働時間の状況に応じた健康確保措置を講ずる際には、まずその前提として、各労働者の出退勤の時刻または入退室、部屋でございますけれども、入退室の時刻の記録などによりまして、労働時間の状況を初めとした勤務状況を把握するというふうにしておるところでございます。
山口(富)委員 今、指針をお読みになりましたけれども、そこに定められているのはこういうことです。「いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得る出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるもの」、こういうふうに定められています。
 ところが、ごらんいただきたいのは、きょうお届けしました資料の二なんです。これは厚生労働省が調査をいたしました「裁量労働制に関する調査」の中から紹介したものなんですが、労働時間の把握方法の問題で、企画業務型の場合に、自己申告によるというのが六九・八%、十人に聞けば大体七人は自己申告だということになりますが、これは今の指針や法令が定めたものに反する状態じゃないですか。
松崎政府参考人 これは、実際に自己申告がきちんと正確になされ、それを使用者の方がきちんと把握しているということであれば問題ないわけでございますけれども、中には、ややもすると自己申告のところでいろいろカットがあったりということもある場合が考えられますので、自己申告をする場合には、きちんとその自己申告の必要性なり自己申告のやり方、そういったものを各労働者に徹底するようにということを指針の中でもうたっているところでございます。
山口(富)委員 ちょっと耳を疑う答弁ですね。
 きょう坂口大臣は、都道府県の労働局に賃金不払残業総合対策要綱について送付したというお話がありました。私、昼に早速それを取り寄せたんですけれども、趣旨というのがありまして、なぜ総合対策をとるのかという趣旨の中に、労働時間の把握に係る自己申告制の不適切な運用など、使用者が適正に労働時間を管理していないことを原因とする割り増し賃金の不払いなどの状況が見られるということが大きな理由になっているんです。
 そして、この大綱の三ページですけれども、こういうふうに記述されています。「特に、始業及び終業時刻の確認及び記録は使用者自らの現認又はタイムカード、ICカード等の客観的な記録によることが原則であって、自己申告制によるのはやむを得ない場合に限られるものである」。これはいわばサービス残業防止通達の総合版と言ってもいいと思うんですが、この定めと違うんじゃないですか、あなたの考え方は。
松崎政府参考人 労働時間の管理でございますから、これは使用者の責任において行うということで、使用者がみずから現認するとか、またICカードでございますとか出勤簿、そういったものでチェックするのが一番いいわけでございますけれども、それではできない場合には、やむを得ず自己申告という方式を使う場合も認めている。
 ただし、自己申告制で行う場合には、自己申告の趣旨でございますとかやり方、そういったものをきちんと徹底するようにということで運用しているところでございます。
山口(富)委員 坂口大臣にお尋ねしますが、裁量労働制の場合は労働者自身の管理に任せる面はあるんですけれども、いずれにしろ、労働時間がどれだけなのかということは、厚生労働行政の中では非常に大事な問題になると思うんです。
 ところが、きょう各県に届いたというこの要綱では、自己申告制によるのはやむを得ない場合というふうにきちんと書いてあるのに、局長の答弁ですと、このやむを得ない場合というのは、それこそ極めてあいまいな規定のように聞こえるんですが、これはきちんと指導していただけるんですね。
坂口国務大臣 サービス残業という言葉がございますが、何となく、サービス残業といいますと何やらサービスしているような感じになりますので、賃金不払い残業ということに言い方も変えたわけでございます。この方がよくわかるということでございます。
 それで、先ほど仰せになりましたように、できる限りそれは客観的に、だれにもわかるような形が望ましいというふうに思っておりますが、そうはなかなかいかないケースというのも中には存在するわけでございます。しかし、その場合におきましても、これは極力適正にそれが記録されるように指導したいというふうに思っております。
山口(富)委員 きちんとした指導を重ねてお願いいたします。
 それで、今度の改正で、三十八条の四なんですが、その四項のところで、従来、大体半年に一度やった定期報告について、その中身が限定されたんですね。労働時間の状況に応じた健康及び福祉の施策というものに報告事項が限られたわけですけれども、これは、これから一層労働時間の状況に応じた福祉や健康の対策を重視して、どうなっているのかをきちんとつかむ、そういう意味なんですね。
松崎政府参考人 基本的には、いろいろな届け出が多かったということで、この際、整理できるものは整理しようということで、届け出の部分で本当に重要なものを残して整理をしたというものでございます。
山口(富)委員 私は、これは整理したでは困るんですよ。
 といいますのも、坂口大臣の答弁にありましたように、労働時間の把握についてはきちんと行っていくというわけでしょう。だったら、今度、これまでの報告事項を少な目に、幾つか削るというわけですから、少なくする以上、労働時間の状況の把握や福祉や健康の措置について、労基署がきちんと握るというのが基本になるんじゃないですか。重ねて答弁願います。
松崎政府参考人 この報告についてのチェックでございますけれども、これは、ほかの部分を削ったからよりやるとか、ほかの部分をふやしたから手を抜くとかいうものではございませんで、従来どおりきちんとやっていくということでございます。
山口(富)委員 はっきり申し上げまして、従来どおりやられていたのかどうか、これは大問題なんです。このあたりは、私は次の質問も用意しておりますから、たっぷり時間をとって今度やります。
 それで、この問題で、労働時間の把握の問題で私が大変気になりますのは、昨年の一月ですけれども、裁量労働制の業務についていた週刊誌の編集者が、裁量労働者としては初めて過労死を認定されたんです。ところが、これは中央労働監督署の管内ですけれども、この過労死、労災認定の中で、二〇〇一年五月に労基署が労災を認めなかった。そのために御両親が不服審査請求をやって、行政訴訟まで起こされた経過があるんですね。
 厚生労働省に確認したいんですけれども、なぜ当初労災を認めなかったのか、そして、その後認めた経緯、これについて簡潔にお答え願います。
松崎政府参考人 御案内かと思いますけれども、いわゆる脳・心臓疾患に係ります労災認定につきましては、認定基準を平成十三年の十二月に見直しております。したがいまして、見直して緩めたといいますか、直前だけではなくて、もうちょっと前、長期にわたりましてその勤務状況を見るというふうに認定基準を変えております。そういったことから、平成十三年十二月までにおきましては従来の古い基準で行わざるを得なかったということでございますので、結論からいえば、認定がきつかったという面があったかもしれません。
 そういったことで、認定されなかった案件で再審査請求あるいは訴訟に上がっている案件につきまして、やはり労働者のこの認定というものを速やかに進めていくという観点から、新しい認定基準で見た場合に合致するものについては、原処分庁ということで、監督署が第一次の原処分を行うわけでございますけれども、全部引き取りまして、もう一回チェックをして、新しい基準に該当するものにつきましては処分をし直したということで、従来の不支給処分の取り消しを行って支給処分になったというものがあったわけでございます。
山口(富)委員 その問題で重ねてお尋ねしておきますけれども、当初の労基署の対応の中に、裁量労働制を理由にして労災認定をしなかったという話があるんですが、こういうことは許されるんですか。
松崎政府参考人 個別の案件について、私は詳しくすべてを知っているわけではございませんけれども、そういったことはないと思っております。
山口(富)委員 ないというのは、あったら許されないということですね。もう時間がないので。許されないということですね。
松崎政府参考人 おっしゃるとおり、実際に時間をきちんと把握するということで、それに合っておれば、裁量とかなんとかは関係ないということでございますので、きちんとやるということでございます。
山口(富)委員 今度の労基法の改正をめぐっては、解雇の規制の問題それから裁量労働の問題、有期雇用の問題、このそれぞれが、いずれも労基法の基本的な性格にかかわる本当に重要な問題になってまいります。
 きょうは途中で委員長の方から、これから審議を、たっぷりとは聞こえませんでしたけれども、審議をきちんとやろうというお話もありましたけれども、論点になる問題、解雇の規制のルールをどういうふうに労基法に盛り込んでいくのか、就業規則における解雇事由の問題等々について、大事な問題についてきちんとした議論を引き続きやっていきたい、そのことを申し上げて、私の質問を終わります。

 

中山委員長 次に、金子哲夫君。
金子(哲)委員 社会民主党・市民連合の金子です。
 労働基準法が今回、重要な部分で改正になりますので、幾つか質問をしたいと思います。
 まず、労働基準法の考え方についてもう一度お伺いしたいんですけれども、先ほど来論議になっておりますけれども、労働基準法というのは、そもそも労働者を保護する、しかも最低の労働条件を定める、そしてそのためには使用者の行為を規制して必要な義務を定めるということで、そういう性格を持って基本的には法律、条文がつくられているというふうに思うんですけれども、その点についてはどうでしょうか。
坂口国務大臣 労働基準法の第一条に「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」こういうふうに書いてあるわけでありまして、このとおりやっていかなければいけない、こういうふうに思っております。
金子(哲)委員 いや、つまり大事なところなので、民法との関係もあるのでお伺いしておりますけれども、先ほど来論議になっておりますけれども、民法に解雇の自由があるということが規定されている。しかし、民法にさまざまなことが規定されておりますけれども、憲法とのかかわりの中で労働基準法を定めたということは、そういう中にあって労働者をどう守っていくのか、ある意味では民法の原則を修正した部分も含めた中身を持つということが立法の趣旨の中にあると考えるんですけれども、その点についてはどうですか。
松崎政府参考人 おっしゃるとおり、労働のベースになっておりますのは労働契約でございますので、ほっておけば市民法原理の契約自由の原則によるわけでございますが、これを労働者保護という観点、そして保護を原則として刑罰法規をもって強制するといった仕組みでもって、市民法原理であります契約自由の原則、その大原則を修正しているという性格のものでございます。
金子(哲)委員 そうしますと、だからこそ労働基準法の各条文は、先ほど来話が出ておりますように、労働者の権利をまず明示し、同時に使用者側に対して義務を負わせるという形式をとっているのは、その今局長が答弁された趣旨というものを生かすためにそういう法理の体系になっている、法律体系になっているというふうに考えていいわけですよね。
松崎政府参考人 繰り返しになりますけれども、労働者を保護するために一定のことを義務づける、または禁止するということになりますので、労働者の相手方の使用者に義務づけを行うということが一般的な規定といいますか、ほとんどそういう規定になっているというのは事実でございます。
金子(哲)委員 そうしますと、今回の改正で、先ほど来論議になっている解雇ルールの条文については、これは、今言われた労働者を保護し、使用者に義務を課すという条文の中身からいいますと、その基本的な考え方、基本的な労働基準法の立法趣旨というものを覆す中身を持っているんじゃないでしょうか。
 つまり、答弁の中では、ただし書きもあって、ただしの方が有効であるようなことをおっしゃっておりますけれども、しかしこの条文は、どう読んでみても、主文は、今回盛られている本文の一番大事なところは、使用者は、この法律または他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制約されている場合を除き、労働者を解雇することができるという解雇権をあえて労働基準法に記載したということは、先ほど何度も答弁されましたけれども、労働者の権利を守るために、本来労働基準法というのは使用者側に対して義務を負わすことを法律の趣旨としていることからいいますと、今回の条文の修正というのは、少なくともただし書きは除いて、本文の中には、いや本文そのものは、そもそも主文が意味を持っているわけで、そのことからいえば、そこで明確に、使用者に義務を与えるどころではなくて解雇権を付与するという、労働基準法としては、本来の今局長が答弁をされている趣旨、理念というものを変えていく中身ということになるんじゃないですか。
松崎政府参考人 まず、労働基準法の基本的な目的であります労働者の保護というところから考えてみた場合に、今回の条文、これは十八条の二、一項全体で一項でございますので、全体を見ていただきたいわけでございますけれども、これは労働者の保護という観点からは外れるものではないというふうに考えています。
 ただし、書き方としましては、まず中身が、労働基準法の場合、通常は、先ほど御指摘のように、使用者は何々してはならないという規定がメーンでございます。しかしながら、今回の十八条の二の規定は、使用者の行動を規制するというのではなくて、使用者の法律上の意思表示を無効にするというところ、要するに民事上の法律効果を規定した条文ということでございますので、従来型の、使用者の行為そのものを規定する、使用者は何々してはならないという書き方ではないということから比べれば若干異質かもしれませんけれども、繰り返しになりますが、労働者保護という目的から外れるものではないというふうに考えています。
金子(哲)委員 今局長がおっしゃったとおり、法律の条文、まさに異質なものが入ってきたわけですよ。それであれば、素直にこういうときにはできないという条文に書けば、きょう来ずっと論議になっていることは明確になるわけでしょう。だれしもわかりやすい、労働基準法のこれまでの性格を変えないで、労働基準法のそのほかの条文とも一致をする内容の書き方に改めるというのが、局長みずからが認められているように、この条文だけ異質なものを何ゆえ今回持ち込まなければならぬのですか。
松崎政府参考人 また異質と申しましたのは、目的は合っているけれども、書き方としては異質だということを申し上げたわけでございますけれども、確かに長い目で、これは私の私見かもしれませんのでお許し願いたいわけでございますけれども、基本的には、いわゆる労働契約法といいますか、労働契約全般にかかわる、労働契約の中身の効力等に係ります労働契約法といったものを想定すべきじゃないかということは、私は考えとしてあるわけでございますけれども、今回、労働契約全般についてそこまで検討することはできませんでして、とにかく解雇をめぐる紛争防止とか、何回も繰り返しております目的のために、この解雇に関します基本的ルールをどこかにきちんと立法上、法律上明確にしたいというところで、労働者の保護法の基本法であります労働基準法の中にこういう規定を設けようとしているということでございます。
金子(哲)委員 労働者を保護するためだったら、だれしもがわかる労働者を保護するような条文に変えればいいんですよ。
 局長が出された当時担当されていたと言われておる一九九四年の、平成六年三月十六日の局長通達というのがあります。これは「解雇、賃金不払等に対する対応について」という、基発第一四〇号というのが出されておりますけれども、この記載の中に、これは何のために出されたか。「現下の経済情勢に伴い、解雇、賃金不払等に関する事案が増加している状況にあることにかんがみ、平成六年度行政運営方針において、これらに対する的確な対処について指示したところであるが、さらに下記の点に留意の上、適切な対応を期すること。」こういうことになりまして、第一に「使用者に対する対応」ということで、第一項には「解雇、賃金不払等に関する関係法令の周知」、そして二項「解雇に関する使用者からの相談への対応」、「事業活動の変動等に伴い、使用者から解雇の取扱いに関する相談がなされる例も多くみられるが、これらの相談がなされた場合には、別添のリーフレットを交付し、労働基準法の定め等について説明すること。」この後ですよ。「なお、この場合、相談者に対し、労働基準法の定めに反しなければ解雇を自由に行い得るとの誤解を与えることのないよう十分に留意すること。」ということを通達で出されているわけです。
 つまり、労働省は、少なくとも当時は、こういう解雇自由の条文をつくろうなどということは考えていなかったはずなんですよ。解雇が安易に行われてはならない、それにつながるような、わざわざ「労働基準法の定めに反しなければ解雇を自由に行い得るとの誤解を与えることのないよう十分に留意すること。」
 そして、きょうお手元に資料で配付しております資料の一の最後のページの一番上を見ていただきたいんですけれども、ここには「参考」として「解雇に関わる裁判例」ということで、先ほど来言われている裁判例を載せていますけれども、その一番最初に、「以上のような労働基準法等の定めに反しなければ、事業主が解雇を自由に行い得るというわけではありません。」ということを明確に書いているわけです。この考え方は変わったんですか。
松崎政府参考人 御指摘を受けて思い出しました。確かに、当時、私が基準局の監督課長のときに中心になってこういった通達をまとめ、またこういったリーフレットの作成を担当したということを思い出した次第でございます。
 これは、まさに書いてあるとおりでございまして、これは現行におきましても、まさに最高裁判例におきます解雇権濫用法理において、労働基準法、ここは労働基準法だけとは言っていませんけれども、ほかにいろいろな、ほかの男女雇用機会均等法もありますけれども、そういった法律の定めに反しなければ解雇を自由に行えるという誤解があるといいますか、そういったものがあることを考えてこういうふうな通達を書いたということでございまして、これは現在でも変わってはおりません。
金子(哲)委員 今局長がおっしゃったとおりですよ。企業主が解雇を自由に行えると誤解してはならない、だからこのことを入れたんだと。これは窓口で、基準監督署で配付をされる、事業主に配付する資料に、先ほど山口委員が示されたような印刷物になって置かれていたわけですよね。
 では、今度の条文は何ですか、これは。「解雇することができる。」というのは、明らかに今局長が心配をされた、事業主に解雇する自由が与えられたかのごとき印象を与える、あなたが心配しているそのとおりのことを今回の条文は示しているんじゃないんですか。
松崎政府参考人 繰り返しになりますけれども、これは多分に、法律、法文というものを正確、厳格に書くというテクニック上の問題があるかもしれませんけれども、少なくとも今先生の御質問があったような誤解がないようにということで、項を分けず、一項の中でずらずらと、丸がついていますけれども、一応、一文ではありませんけれども、ただし書きでずらずらずらっと書いて、なるべく、なるべくといいますか、決して「できる。」というところでとまらないように、一項の中で書いたということでございます。
金子(哲)委員 それはもう言いわけにしか聞こえないですよね。丸で句切って「ただし、」と書けば、最初に出てくる文章が、先ほど私が読み上げた文章が本文になっているのは間違いないじゃないですか。局長がおっしゃったように、課長の当時、この文書を出されて、じゃなぜこの文章のように書かないわけですか。自由に解雇してはならない、ただしこういうときはできますという逆のことになぜならないんですか。それが局長が今までやってこられた労働行政における、労働基準監督行政における考え方の基本じゃないですか。もしまとめていくとすれば、そのような方向のルールづくりになぜ今回まとまらなかったんですか。
 これは、幾ら言われても、この文章をだれが読んでも、一般的に普通に読めば、今回の法案というのは明らかに、解雇をできるということを企業経営側に対して示したもの以外何物でもないじゃないですか。「労働者を解雇することができる。」「この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。」とここでとまっておれば、まさにそのとおりじゃないですか。これは条文を、もし局長が言われるように、かつての、私が示したような資料と同じような条文、考え方であるとするならば、そのような考えがだれしも読み取れる文章に変えていく作業をやはりやらなきゃいけない。だれにもわかりやすい作業というものを、修正をするということが当然考えられてしかるべきだと思いますけれども、どうでしょう。
松崎政府参考人 まず、条文を考える場合に、正確というものを第一に考えざるを得ないわけでございます。したがいまして、解雇に関する基本的なルールというものを労働基準法に明示していこうといった場合、この解雇権濫用法理というものをなるべく正確に書くというためにはどうしたらいいかというところで、こういうふうな条文になったということでございまして、そういった中で、解雇に関する基本ルール、そういったものについては、権利があるけれども、こういった場合には権利の濫用として無効になるといったものを、全体として一体のものとして書いたということでございます。である、そういうことができる、ただしということで、丸で切らないように、先ほどの繰り返しになりますけれども、一気に読んでいただきたいということでお願いしているところでございます。
金子(哲)委員 これはもう、局長の今の答弁を聞けば、書き直さなきゃならないですよ。
 大臣、今の答弁を聞いて、こういうふうに読んでくださいとか、こういうことを言われて、この条文を審議するわけにいかないんじゃないですか。明らかに、もっとわかりやすいように、だれしもが解釈できるように条文を変えていくということが大事じゃないでしょうか。改めて大臣にお伺いします。
坂口国務大臣 この労働基準法というのは、弱い立場に立っております労働者を支援して、事業主と労働者とが対等の立場でやっていけるようにするというのがこの労働基準法の趣旨でございます。この労働基準法の趣旨の中にこの解雇の問題を書いたというところに、私は大きな意味があるというふうに思っております。
 先ほどからお話がございますように、ほかの項目は何ら変わっていないわけで、今までどおりそういう主張の中で来ているわけでありますから、この十八条の二の部分におきましても、先ほど委員がおっしゃいますように、前段だけ読んで、丸まで読んで後を読まないとそれは大変なことになるわけでございますが、「ただし、」も全部一緒に読んでもらえば、それはそういうことではないというふうに私は理解をしております。
 なぜなら、この項目だけがあるのなら、私もそれはちょっとおかしいというふうに思いますけれども、私も実は、この法律をやるに当たりまして、労働基準法なるものを最初から、その理念から何からずうっと一遍勉強をし直しました。勉強をし直した中で、この労働基準法というのは、そういうふうな、労働者保護ということを中心にできた法律であるということが明らかでありますから、その中に位置づけられている以上、今委員が御指摘になるような、そういう労働者を切り捨てるというような意味にこれは解することはでき得ないというふうに私は思っている次第でございます。
金子(哲)委員 それは大臣の思いでしょう。大臣の思いはそうかもわかりませんけれども、そうであれば、大臣が思われているように、労働基準法は労働者を保護していく、守っていくんだという精神がにじみ出るような文章に、条文に変えていく。
 そして、言われるように、解雇にかかわるトラブルをできるだけ少なくしたい、これは我々は一致しているわけですよ。そのことにだれも反対をしているわけではない。しかし、こういう条文だと、幾ら思いの中にそういうものがあったとしても、実際上、世の中に出ていくと、経営の側から見れば、この条文によって解雇の自由というものが認められている、事実上解雇できるとなっているではないか、こういうことになっていくわけです。そして、裁判の問題もありますけれども、結局、それを覆していくのは、労働者の方に負担がかかるということですよ。
 労働者が保護されるべき労働基準法で労働者が切り捨てられていくようなことがあってはならないとおっしゃるわけですから、であれば、局長、私は最初から、さっきから言っておりますけれども、あなたが書かれた、当時、書かれたのか、だれかに書かせたのかは知りませんけれども、最近はだれが書いたかわからないという話もあるようですけれども、少なくとも局長の名前で出された文書、当時は局長でなかったかもわからないけれども、課長としていらっしゃって、重要にかかわってこられたと思うんですよ。それは、やはり解雇の自由というものを、解雇というものが簡単にできてはならないという精神であの文章を書かれたのであれば、そのようなことが出るように文章を変えてほしい、条文を。
 なぜそれが、解雇ができるが最初に出てこなきゃいけないんですか。それは私には納得できません。やはり考え直してください。
松崎政府参考人 繰り返しになりますけれども、先生、やはり基本はただし書きの方でございます。まさに、解雇権濫用法理、それにただし書きをつけて書いただけでございますけれども、そうしますと、順番として、権利の濫用と言うために、何の権利の濫用かということ、そういったことを法律上説明が必要なもので、後に書くわけにいかないので前に書いたということでございますので、これは繰り返しになりますけれども、一気読み、読みおおしていただければ誤解はないんじゃないかというふうに考えております。
金子(哲)委員 とにかくこの論議はまだやらなきゃいけないと思います。今のような答弁で、読み続けてくださいとか言われても、読み続けるわけにいかないですよね。
 私は、きょうは実はそのほかに資料の二と三を配付させていただいておりますけれども、先ほどありました「厳しい経済情勢下での労務管理の留意点」という文書なんですけれども、この資料の二は、先ほど申し上げた裏面の大きな二「労働条件に関する裁判例」というところには、先ほど別添の資料一で読み上げたとおりの文章が、「以上のような労働基準法等の定めに反しなければ、事業主が解雇等を自由に行い得るというわけではありません。」ということが明確に記載をされております。
 ところが、資料の三、昨年の三月に作成された資料でありますけれども、この資料の大きな二、これは表のページになると思いますけれども、「労働条件に関する裁判例(参考)」というところがあります。ここでは、今私が何度も読み上げた文章が、「以上のような労働基準法等の定めに反しなければ、事業主が解雇を自由に行い得るというわけではありません。」という大事な文章が実は消えているんですね。
 これはなぜですか。この辺から変質したんですか。お答えいただきたい。
松崎政府参考人 実は御質問でただいま知ったばかりでございますけれども、実は詳しく知らないわけでございますけれども、前回といいますか、私が課長だった当時のものと確かに違っておりますけれども、当時は、解雇というものと賃金不払いというもの二本立てで、重点化して書いておったということじゃないかと思っております。それから、今現在のパンフレットについては、そのほかにもいろいろ、就業規則の不利益変更でございますとか、そういったものも盛りだくさん盛っておるというところで、少し全体のトーンとして合わせたのではないのかなというふうな気がしております。
金子(哲)委員 この資料は、よく読んでほしいと思いますけれども、そういうことになっておりません。
 確かに局長が出された通達のときの資料一では、言われるとおり、非常に少ない事例が載せられておりますけれども、平成十一年、資料の二、資料の三は、比べて見ていただければわかるように、「(一)就業規則の不利益変更が無効とされた例」「解雇が無効とされた例」という状況で、全く同じことが記載をされているわけです。
 にもかかわらず、この重要な、これは事業主に対して示した文書ですよね、配付をする、労働基準監督署に出された文書、この中から一番大事なところがなくなっているわけですよ。これはこれと同じことじゃないですか、結局のところ今度の条文改正も。
 では、もう一度お聞きしますけれども、なぜこんな大事な文章が、二行がなくなったんですか。
松崎政府参考人 決してこれは何らかの政策の変更とか考え方の変更、そういったものがあって変わったものではございません。ほかに何か理由があるのかわかりませんけれども、現在、私の中ではわかりませんが、今後、もしそういった誤解を与えるということであるのならば、もう一度これは次に印刷するときに考えさせていただきたいというふうに考えます。
金子(哲)委員 もう次に印刷するときは、ひょっとすると労働基準法がもっと変わるんじゃないですか。
 今緊急のことで、つまり、結局のところ、こんな大事なところが一方的に削除されたりしていく。そして、今度の労働基準法の改正の中に先ほど指摘をされているような条文が盛り込まれていく。
 考えてみれば、ちょうどこの一年間ぐらい、こういう労働解雇にかかわるルールの協議が始まるころから、これが消えていっているわけですよ。これは、局長が考えられていたような九四年のころの労働行政とやはり少しずつ変化をしてきて、その結果として、今回この条文の変更にまでとうとう行き着いてしまっている。
 であれば、そうでないとおっしゃるのならば、やはりもう一回もとに戻って、九四年以来経営者側に示してきた、簡単に、勝手に、自由に解雇することはできませんよということをまず労働基準法上で明記をする、そして、こういう事情のときにはやむを得ざる事情ということでできるというふうにやっていくというのがこれまでの一貫した厚生労働省の、もし今回のこういう、そんなに意図があったとは疑いたくありませんけれども、二〇〇二年につくられた資料に盛られるようなことを、誤解を与えるようなこと、そしてそのことに延長するような今度の基準法の大事な部分の改正と見られていくわけですから、僕はやはりきっちりと一番もとに戻って、これまで踏襲した、企業経営者に対して示してきた考え方というものがきっちりと出るように、そして裁判でルール化された法理というものが明示されるような労働基準法の改正に、文章に直していくというのが、改めて言いますけれども、それは当然の作業だというふうに思うんですよ。
松崎政府参考人 決して労働基準行政の姿勢というものが当時と現在で変わっているというふうには考えておりません。
 ただ、当時のパンフレットにおきましてもああいう書き方をしておりますけれども、それは当然のことながら、既にありました最高裁の判例で確立されております解雇権の濫用法理、そういったものを念頭に置いて書いてあるわけでございまして、そういったものを同じように、現在でも同じ考え方によりまして、十八条の二として労働基準法の中に設けようということでございます。
金子(哲)委員 ぜひ、先ほど来言っておりますけれども、そういう考え方が変わっていないなら変わっていないような条文に、やはりわかりやすく、例えば、使用者は正当な理由なくして労働者を解雇してはならないということをまず書いて、ただし客観的、合理的な理由が存在し、社会通念上相当である場合は除くとか、こういうわかりやすい文章に、やはりだれしもが判断できるような文章に変えていくということが今回のこの委員会の役割だというふうに私は思うんですよ。そのことを今後の論議の中でもぜひ申し上げていきたいと思います。
 さらに、今局長がおっしゃっている文章では、先ほど城島委員からも出ましたけれども、いわばこの間の裁判の立証責任というものは、実態上として使用者側にその立証責任が負わせられたと思うんですけれども、今回、このことによって変更になることはないんですか。
松崎政府参考人 これは、現在の定着しておりますいわゆる解雇権濫用法理、こういったものをそのまま条文化しておるというものでございますので、これは民法一条三項の権利の濫用というものを援用しての話でございますので、これに関するいわゆる法律上の挙証立証責任というものは従来どおり労働者にありますし、それをそっくり条文化したということによりましても、全く変更はないというふうに考えております。
金子(哲)委員 これは何度も論議されていることですけれども、そうであれば、結局、今までの裁判判例とか裁判の状況などを盛り込んだ今回の法の改正ということにならないと私は思うんですよ。実態上として労働者側が、これは我々だけが言うわけじゃなくて、昨年の十二月十七日の第二十七回の労働条件分科会などの論議でも、そのことは公益側の委員からも、今回の法改正で実質上、立証責任を労働者側に押しつけることにならない、そうあるべきではないということが論議をされているわけですよね。
 その後、年がかわったら考えが変わったんだというような話もあるようですけれども、基本的には、十二月の十七日に行われたこの分科会では、これまで裁判で、労働者側が十分な証拠資料も提出できないようないろいろな力関係の中で、使用者側に対して立証の義務を負わせてきたということを今度の法律改正に当たっても変えることはないということをまた労働側も求め、公益側の委員もそういう意見を述べられたと聞いておりますけれども、その点についてはどうですか。
松崎政府参考人 多分おっしゃっているのは、去年の十二月十七日の政策審議会の労働条件分科会での論議だと思いますけれども、その際議論になりましたのは、法律上の、いわゆる民事訴訟法上の挙証立証責任論というんではなくて、実際に、今回の議論になっております解雇ルールの規定が実際の裁判実務に影響があるか否かといういわば、繰り返しになりますけれども、法律上の挙証立証責任論ではなくて、裁判実務上の挙証立証活動、どういうふうに裁判実務上、挙証立証活動、そういったものが行われており、それにどういう影響があるかということについて議論があったところでございます。
 そういったところで、公労使ともにこれについて議論をしたわけでございますが、特に、御指摘のように、公益委員の先生方、実質的な挙証立証の負担は、やはり解雇権者といいますか使用者の方が負うことになっていくとか、また、濫用だということを一応労働者の方で主張すれば、それが濫用に当たらないということを使用者の方がまた立証するという、これは事実上でございますけれども、これが現在のほぼ確立した判例の取り扱いであるといったように、裁判実務上の取り扱い、訴訟指揮に基づく取り扱いのことについて議論したというところで、こういった公益委員からの発言もあったということでございます。
金子(哲)委員 ということは、局長は、裁判実務上は、この委員会としては、厚生労働省としてもそのことを裁判に対しては求めていくということですか、今までどおりのことを。
松崎政府参考人 これにつきましては、実際に条文化する際に当たりまして、政府部内、厚生労働省だけではなくて関係省庁とも相談をし、実際に裁判上に与える影響があるのかないのかといったことも相談した結果、こういうふうに書いておけば、それは通常ないはずだということで、こういうふうな条文にしたということでございます。
 したがいまして、今までどおりの取り扱いがなされるということに当然なるものというふうに思っております。
金子(哲)委員 それはどこと確認されたんですか。
松崎政府参考人 これは、条文としては内閣法制局、それから法務省とも相談はさせていただきました。
金子(哲)委員 もう一度確認しますけれども、それは裁判実務上は立証責任は使用者側にあるということを確認したということですか。使い分けをせずに、そこだけ。
松崎政府参考人 こういうふうな条文が、今の条文を設けたことによって、法律上の挙証立証責任、それが変わることもないし、実際上の裁判上の挙証立証活動についても影響はないだろうということは確認しております。
金子(哲)委員 それでは、今のは、局長の答弁は、今出ておりますように、だろうだからどうなるかわからないと。明確にあなたはそのことを、この条文上からこういうふうに読み取れます、条文上、こういう表現はこのことをそういうふうにきちっと証明していますということを言い切っていないわけですよ。だから、それでは結局、裁判所にゆだねていくことになる。
 そして、だれしもが、弁護士さんたちから聞くと、この条文、そのまま読めば、明らかに労働者側に立証責任が負わせられると。局長が言われているように、裁判実務上も、この法律が通ることによって、今までであれば、これまでの裁判実務と同じようなことで、使用者側が立証責任を負わなければいけないけれども、新たにこういう条文をつくれば、今度は労働者側に行くということを危惧しているわけですよ、指摘をされているんですよ。それにこたえていることにならないんじゃないんですか。間違いなくそうであれば、やはりそう読み取れる、使用者側に立証責任があるように読み取れる文章に変えてくださいよ。
松崎政府参考人 先ほど、考えられるだろうと申し上げましたのは、トータルで言ったわけでございまして、もっと正確に申し上げますと、法律上、民訴法上の挙証立証責任については、現在も、権利の濫用を援用する以上、労働者側にあり、これはこうした条文を書いても全く変わらないということは確実であります。
 また、具体的に裁判実務において、裁判長の訴訟指揮の中で、具体的におのおのが挙証立証責任を果たすためにどういった挙証立証活動、具体的には、証人による証言でありますとかまた証拠の提出、そういったものがあるわけでございますけれども、具体的にどういった挙証立証活動を裁判指揮のもとで行わせるかといったものについては、現在のところ、多くの裁判例においては、より多くの責任を、挙証立証活動でございますけれども、使用者側に負わせている。それはこういった条文を書いたことによっては変わらない。もちろん、現在だって、中には逆のような訴訟指揮といいますか、労働者側により多くの挙証立証活動の責任を負わせている、より多くの挙証立証活動を行わせているという裁判もあるわけでございますから、すべてとは言いませんけれども、この条文をつくったことによっては変わらないということは確実でございます。
金子(哲)委員 それは何を根拠にして変わらないと言えるんですか。これは明らかにこの本文は、解雇できるということになっているわけで、どこが言い切れるわけですか、どの文章をもって。
松崎政府参考人 多分、十八条の二の前段のことを言っているように思いますけれども、これは民法六百二十七条一項を確認的に書いただけのものですので、何ら権利の発生の要件でもございませんし、権利の発生を予定しているものでもない。確認規定でございますから、変わらないということでございます。
金子(哲)委員 だから、そのことをなぜ今度は、裁判上ではこれまで使用者側に責任を負わせていたものが、疑問として、労働者側に移行するのではないかという疑問があるわけですけれども、それを、いや、従来どおりですと言い切れるものは何ですか。
松崎政府参考人 これは繰り返しになりますけれども、現在のが、使用者に解雇権があるということは民法六百二十七条から明らかでございますから、それを書いたにすぎないので、全く新しい法律効果が生まれるものではないということでございます。したがって、何ら変わらない、これによっては変わらないということでございます。
金子(哲)委員 この後また質問に立ちますけれども、今の話では全くおかしいと思うんですよ。それでは、最初の論議に戻りますけれども、民法で定められたものをなぜ労働基準法で規制をかけていくのかということになるんですよ。では、意味がなくなってくるじゃないですか。民法がそのまま適用されるんであれば、労働基準法で何でこの条文をつくらなきゃいけないんですか。何の意味もなくなるじゃないですか。この法律にこの条文を入れれば、明らかにこの条文に基づいて判断をしていくということが出てくるのが当たり前じゃないですか。それを、民法で決められているんだからそれを援用してやるということにならないんじゃないですか。
松崎政府参考人 これは実際、最終的な今回の十八条の二の規定の目的としている法律効果、これは後段のただし書きのところでございます。したがいまして、従来は最高裁判決によります判例法理によって出てきたものが、これはそっくりそのまま十八条の二のただし書きで書いてあるわけでございますから、今度は民法の一条三項の権利の濫用という条文を経ないで、いきなり労働基準法十八条の二の規定によって、こういった場合には解雇は無効になるというふうな法律効果が出てくるという意味があるわけでございます。
金子(哲)委員 いずれにしても、今局長の答弁では、今までの裁判における立証活動についてのいわば使用者側に対する責任の問題をこの法律で保障しているという説明にはならないと思うんですよ。
 やはり明らかに、そうであれば、そのような、いわば大臣も言われているように、これまでの裁判例、そしてまたこれまでつくられてきたルール、そういったものを法律に盛り込んだとするならば、それが明確にわかるような法律にするというのが、繰り返すようですけれども、当然の作業だと思うんです。そのことをやらずして、そのことがだれしも読み取れないような法律をつくって、これはこういうふうに解釈できるなんということを、そういう法律はないですよ。そのことを申し上げて、この後まだ委員会審議がありますので再びやりますけれども、次の問題に移りたいと思います。
 有期雇用契約の問題です。
 幾つか質問を用意しておりましたけれども、ちょっと私、さっき武山委員とのやりとりで鴨下副大臣が、今度の有期雇用の三年延長は若年定年制を復活させることになるのではないかということを質問されましたら、いや、そんなことはないんだ、こっちの方は均等法とかで守られているんだからそういうことはないんだと。そういうことをおっしゃったわけじゃないんですよ。
 実質上、この三年延長によって、一回継続すれば六年間、そして雇いどめにすれば、大学卒業二十二歳、六年間、二十八歳、従来行われている、結婚して退職せざるを得なかった状況、若年定年制、そのことを、いわば若年定年制ではないけれども、この有期雇用の延長によって、一回更新によってそのことに実質上なっていくということを言っているわけですよ。
 このことをどうやって妨げられるんですか。実質的な若年定年制につながるこのような改正を、これはどうやってとめるんですか。
鴨下副大臣 有期労働契約を一年から三年にということで、先生がおっしゃるようなことにつきましては御懸念はあるというふうに思いますけれども、これは基本的には、各企業において常用労働者と有期契約労働者との構成をどういうふうにするか、こういうようなことでありまして、企業の人材戦略だとかさまざまな事業戦略の一環として、どういう人員構成そして配置、キャリアの形成、こういうようなことが種々の観点から総合して定まっていくというふうに考えているわけでありまして、一年から三年になった、法制度がこういうふうになったから、それによって先生御懸念のようなことが起こる、こういうようなことではないと申し上げているわけであります。
金子(哲)委員 何の説明にもならないじゃないですか。それをとめる手だてがないじゃないですか。
 つまり、少なくとも今の一年であれば、六年間雇おうとすれば当然のこと六回の更新をしなきゃいけないわけですよ。そうすれば、当然二度、三度で明らかに定めのない雇用に転換していかなければならない。これは今までの判例でもあるわけですね。ところが、実質上これを三年に延長することによって、たった一回の更新で六年間で使い切りという、実質的な、まさにおっしゃるとおり経営の論理で、正規雇用すれば簡単に切れないけれども、こうやっておけばいいということになるんじゃないですか。
鴨下副大臣 ですから、一年で六回反復と、それから三年で二回というようなことで、それは企業の経営判断等も含めて決まることでありまして、その反復契約をする、しないというようなことが、言ってみれば雇いどめそのものを制約するものではないというふうに申し上げているわけです。
金子(哲)委員 そこは、副大臣の考え方がちょっと違うと思うんですよ。
 これまでの雇いどめをめぐる判例では、契約更新を何回も重ねたら実質上有期労働契約は期間の定めのない契約に転化しているんだということで判例があるわけですよ。つまり、六年間もそういうことをやれば、定めのないものとして六年たっても勝手に解雇できないんですよ。ところが、今回のものは解雇できるわけですよ、有期雇用ですから。そういうことに活用されるわけですよ、これは。そこが野放しになっているじゃないですか。
 今、六回やればいいんだということを副大臣言われるけれども、それは六回もできなくなっているんですよ、本来。その結果として、そういう若年定年制を容易にしている、つながりかねない危険性を持っているわけで、もう一つだけお伺いします。
 この法案が本会議で論議をされたときに、いわゆる均等処遇の問題で質問が行われました。小泉総理はこういうふうにおっしゃっているんですね。労働者の待遇は職務内容などに応じて決定されるものであり、有期契約労働者と常用労働者との間で待遇の均一化を一律に図ることは困難でありますという答弁をされているわけです。
 これを見ますと、僕は、一つは、大きなことは、今日の有期契約労働者と常用労働者との間のいわゆる労働条件の格差、有期雇用労働者の劣悪な労働条件の問題に対しこたえようとしていないということがありますけれども、じゃ、もう一方、答弁された、労働者の待遇は職務内容などに応じて決定されるものでありますという部分を引用したら、同一労働していたら、同一の作業、同一の職務内容をやっている人に対しては、やはりちゃんとした待遇をしなきゃいけない、こういうふうに受け取れると思うんですけれども、これはそういうことでいいでしょう。
松崎政府参考人 これは、一つの同一労働同一賃金ということかと思いますけれども、同一労働といった場合に、実際に働いている八時間なら八時間だけ見て判断するわけではなくて、実際にその背後にその人がどういう責任を負っているか、どういう立場にあってどういうことまで考えてやっているかといったことも全部含まれるわけでございます。
 また、さらには、キャリア形成の一環としてやっているのか、また通常業務としてやっているのかといったこともあるわけでございますから、単に現場だけの現象だけで、同一労働同一賃金で待遇の均等ということはなかなか難しいというふうに考えています。
金子(哲)委員 この問題、まだもう一度質問しますけれども、少なくとも小泉総理は答弁の中で、労働者の待遇は職務内容などに応じて決定されるものでありと言われているんですよ。
 そうしますと、じゃ、労働省の中で、職務内容とは一体何を指しているのか、明確にしてください。均等に考えられるという職務内容について、具体的に明示してください。
松崎政府参考人 職務内容は、その言葉どおりまさに職務の内容で、どういったことを行っているか、また先ほど言いましたように、どういった責任においてどういう立場で行っているか、すべてそういったものが入るというふうに考えています。
金子(哲)委員 この次の質問でもう一度そこを詰めたいと思いますけれども、終わります。
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中山委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。
 本案審査のため、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その日時、人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
中山委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
 次回は、来る二十八日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後五時四十分散会