|
○中山委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、労働基準法の一部を改正する法律案及びこれに対する鍵田節哉君外二名提出の修正案を一括して議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、社団法人日本経済団体連合会常務理事紀陸孝君、静岡大学人文学部法学科教授川口美貴君、北海学園大学法学部教授小宮文人君、全国労働組合総連合副議長・全日本金属情報機器労働組合中央執行委員長生熊茂実君、有期雇用労働者権利ネットワーク事務局長高須裕彦君、以上五名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人の皆様方に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。よろしくお願いいたします。
次に、議事の順序について申し上げます。
最初に、参考人の皆様方から御意見をそれぞれ十分以内でお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
なお、発言する際は委員長の許可を受けることとなっております。
それでは、まず紀陸参考人にお願いいたします。
○紀陸参考人 御紹介賜りました日本経団連の紀陸と申します。
本日は、私どもの基準法改正に関する考え方を述べさせていただく機会を賜りまして、先生方に改めて御礼を申し上げます。よろしくお願いいたします。
今回の法改正のまず基本的な点を冒頭に述べさせていただきまして、有期の労働契約、それから解雇法制のルール化、さらに裁量労働制、この三点に絞って私どもの見解を述べさせていただきたいというふうに存じます。
まず最初に、総論的な観点からの今回の改正に対する評価でございます。
御承知のとおりでございましょうけれども、現在、働く人たちの就労ニーズが非常に多様化している。さまざまな働き方を求めている方々が従来と比べると非常にふえてきております。また一方で、企業は、非常に国際競争の激化の中で、何としても生き残るという方向を迫られておりますけれども、企業もいわゆる広い意味でのリストラが必要となっている中で、この基準法を含めた労働法制につきましても、企業が経営の効率化を一層果たしやすいような形で法改正を進めていただければありがたいというふうに存じます。
そこで、まず第一点目の有期の労働契約の改正に関する部分でございますけれども、基本的に、私ども、今回の契約期間の上限の引き上げという問題につきましては、ただいま申し上げました働く人の雇用形態の多様化、さらには経営側の経営効率の向上というこの両方の観点から、非常に望ましい方向ではないかというふうに考えております。労使双方のニーズに沿うものであるというふうに理解しているわけであります。
ただし、この三年とか五年の契約期間の上限ということの活用がこれからどのように行われていくのか、企業の中でもどのように多様な雇用形態を組み合わせていくかという具体的な活用は、これからではないかというふうに思います。どういう仕事が望まれるか、どういう仕事のところに一番需要供給のニーズが発生するか、これは、これからいろいろ世の中の動きに沿って、いわば市場のニーズに応じて決められていく問題ではないかというふうに存じます。
ただし、これに沿いまして、雇用形態の多様化によって常用労働者の代替が非常に進むという懸念がありますが、私どもは、それは大きな懸念のし過ぎではないかというふうに思っております。基本的に、企業は、基幹労働者を核にして、そのわきにいろいろな労働者の雇用の多様化を組み合わせるわけでございますけれども、一気に常用代替が進むという懸念は杞憂ではないか。
さらに、雇用多様化というのは、若い人だけではなくて、女性の方々、高齢者の方々、さまざまな人たちを対象にします。市場の動きに合わせて雇用形態の多様化というものをゆっくり、じっくり進めるべきではないかというふうに考えます。
さらに、解雇法制のルール化という二点目の問題でございますけれども、私ども、経営者の団体に属しておりまして、経営者の皆様方の御意見をよく耳にいたしますが、可能な限り雇用を守るべきである、そういうお考えをたくさん聞きます。日本経団連自体としても、組織の主要なメーンメッセージとして、雇用を守るのは経営者の責任であるというようなことを主張してきております。
万やむを得ず、企業が労働者の方々を解雇するという場合にも、できるだけ労使で十分話し合う。さらに、裁判になっても、いわゆる解雇権の濫用法理で妥当に解決されている現状ではないかというふうに思っておりまして、この法理自体は妥当なものだというふうに私ども理解しております。
今回、政府案として提出されている内容は、この解雇権濫用法理というものを忠実に表現したものでありまして、そういう意味で、政府案に沿った方向でのルール化を望みたいというふうに存じます。
このルール化によって、安易な解雇が進むというような懸念を表明される向きもございますけれども、現状がこの法律化によって変わるとは私ども思っておりません。解雇のルールを法律化したことによって現状を変えるというようなことがあり得るはずではございませんので、安易な解決がこのルールの法律化によって進むというのは杞憂ではないかというふうに考えております。
さらに、今回の法案の対象にはなっておりませんけれども、建議の段階で出されました金銭解決の仕組み、これは、現状でも裁判が非常に長期化しておりまして、一たん解雇された方が非常に不幸な事態になるのを避けるための仕組みでございますので、このルール化を逆にお願いしたいと存じます。
最後に、裁量労働制の問題でございますが、これは、現在仕事の成果が労働時間に比例しない仕組みで報酬が決まっておる仕組みを促進しようという意味がありまして、できるだけ裁量労働制の運用しやすい形での活用が望まれるというふうに存じます。要件の緩和をお願いいたしまして、最終的にはエグゼンプション、ブルーとホワイトの方々を一緒にしている現行規制をいま一段規制緩和の方向に進めて、できるだけ適用除外の領域を将来的に広げていく、そのための一歩にもなろうかと存じまして、この原案どおりの裁量労働制の緩和をお願いしたいと存じます。
先生方の御尽力をよろしくお願いいたしたいと存じまして、これで終えさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○中山委員長 どうもありがとうございました。
次に、川口参考人にお願いいたします。
○川口参考人 まず、解雇について述べさせていただきます。
私は、静岡労働局の紛争調整委員会の委員と静岡県の地方労働委員会の公益委員をしております。その経験に照らして、特に中小企業の経営者は判例法理を知らない場合が多く、解雇予告さえすれば解雇できると考えて解雇し、紛争の原因となっている場合も見られます。したがって、いかなる場合に解雇できるか、これを法律上明文化することは重要な意義を有します。
その際に、重要な課題は二つあります。第一は、解雇には正当事由が必要であること、例えば、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当と認められる場合に限り有効であるということを明確化することです。第二は、解雇の正当事由の証明責任は使用者が負担することを法律の規定として明文化することです。なぜなら、解雇に正当事由がないことの証明責任を解雇に関する資料や情報を有していない労働者に負担させることは、公平とは思われないからです。これらはいずれもフランス法等においては既に立法化されていることです。
与野党の共同修正案は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合を解雇における権利濫用の要件として法文上明記した点では、高く評価することができます。ただ、客観的に合理的な理由と社会的相当性の証明責任を使用者が負担しないと解釈される余地も残っており、この点、将来問題が生じることを危惧いたします。
なお、今後の検討課題としては、客観的に合理的な理由の内容をより具体化すること、解雇の通知は書面により解雇理由を明記し、明記されていない解雇理由を裁判所で援用できないこととすること、一定の期間以前の労働者の行為を解雇理由としてはならないとすること等を指摘することができます。これらもフランス法においては既に立法化されております。
次に、期間の定めのある労働契約についてですが、まず確認しなければならないのは、期間の定めのある労働契約は、雇用が不安定で、かつ、退職の自由が制限され、労働者にとってメリットのない雇用形態であるということです。期間の定めのない労働契約であれば、労働者には退職の自由があり、法令及び判例法理による解雇の制限によって一応雇用の安定が保障されます。
したがって、第一の課題は、フランス、ドイツ法等のように、期間の定めのない労働契約を原則とし、期間の定めのある労働契約は、派遣労働契約とともに、例外的で限定されるべき雇用形態であるとして位置づけることにあると考えます。具体的には、期間の定めのある労働契約を利用できる場合を限定し、一定の事業の完了に必要な期間を定める場合と満六十歳以上の労働者との間で締結される労働契約のほかは、例えば休業中の労働者の業務の補充、一時的な業務の増大への対応、業務の性質上一時的な労働等、一時的に労働力が必要な場合に限定することが必要です。契約期間は、事業の完了に必要な場合と満六十歳以上の労働者の場合を除いては、上限一年、契約更新は一回限り一年とすべきです。
今回の改正案は、有期雇用の利用の限定がなされず、むしろ期間の上限の延長により有期雇用の拡大につながるおそれがあります。少なくとも、あらゆる場合において、契約締結一年後の労働者の退職の自由を保障すべきであると考えます。
第二の課題は、期間の定めのない労働契約により雇用されている労働者との均等待遇です。フランス、ドイツ等では、期間の定めのある労働、派遣労働、パートタイム労働等、その雇用形態を理由とする差別的取り扱いを禁止する法制が展開されています。私は、日本においても、使用者は、合理的な理由がある場合を除き、有期雇用の労働者の労働条件については、同種または比較可能な業務に従事している期間の定めのない労働者との差別的取り扱いを禁止すべきであると考えます。これらの課題は、速やかに検討が開始されるべきです。
最後に、裁量労働制についてですが、現行法制と今回の改正案の問題点及び今後の検討課題についての意見の詳細は、お手元に配付されている資料で、西谷敏ほか編、旬報社発行予定の「変容する企業社会と労働法」所収の私の論文「ホワイトカラーの働き方――裁量労働制を中心として」で展開しておりますが、ここでは要点だけ述べさせていただきます。
裁量労働制の第一の課題は、対象の労働者を合理的な範囲に限定することです。ここで確認したいのは、労働者が業務の遂行に裁量を有し、したがって実労働時間の長さと労働の成果が比例しないということは、成果主義型賃金を導入する理由にはなっても、実労働時間規制を排除する理由にはならないということです。成果主義型賃金と実労働時間規制は矛盾せず、実労働時間における労働の成果を評価して賃金を決定すればよいからです。
私の知る限り、日本のような裁量労働制はフランス等のヨーロッパ諸国には存在せず、制度の存在そのものに疑問を持っていますが、もしこの制度を日本に残すならば、労働時間の始業・終業時刻のみならず、業務の遂行手段や時間配分等を自由に決定し、使用者の労働時間管理を受けずに遂行できる業務に従事し、かつ労働時間を管理されずに自由に労働することを希望する労働者のみを対象とすべきであると考えます。
したがって、裁量労働制については、その適用対象労働者を少なくとも現行の範囲以上には拡大しないこと、企画業務型、専門業務型ともに裁量労働制を適用する時点での労働者の同意を適用の要件とし、かつ一定の予告期間を置けばいつでも適用拒否できることを法令上明記すべきであると考えます。
第二に、裁量労働においても、業務の内容、量、期限は使用者により決定されるので、労働者はその労働時間の長さを自由に決定することはできず、長時間労働の危険性は回避できません。したがって、労働者の健康と自由時間保障のためには、実労働時間規制にかわる法令上の最低基準を定めた規制が必要であると考えます。
私は、健康管理の強化、苦情処理制度等のほか、特に以下の二点を提言したいと思います。一つは、EC指令のように十一時間の休息時間を規制し、例えば夜十一時まで働けばその十一時間後、つまり翌日の始業時刻は十時以降でなければならないとし、一日の実労働時間が長時間に及ぶことを回避することです。いま一つは、休日に関する特別規制として、例えば、最低週一日の休日を含む一週当たり二日相当の休日プラスアルファの休日の付与を使用者に義務づけ、一日の実労働時間数のかわりに実労働日数を規制することです。
以上で意見陳述を終わります。(拍手)
○中山委員長 どうもありがとうございました。
次に、小宮参考人にお願いいたします。
○小宮参考人 小宮でございます。
私は、労働法を専攻しています。そして、特に雇用終了の問題を中心に勉強してきました。アメリカ、イギリスというような比較的解雇の甘い国について、特に研究対象にしてきたわけです。このことから、きょうは、労働基準法の改正案につきまして、解雇それから有期契約というものについて若干述べさせていただきたいと思います。
まず、解雇規制に関するこの法案の十八条の二に関してでございますが、これは我が国においては画期的なことでありまして、実態的な面から解雇を法律をもって規制するというのは非常に画期的なことであると私は思います。
というのは、一九六〇年代、六三年のILOの百十九号勧告以来、欧米諸国においては非常に厳しい解雇規制というものが立法によってなされてきているわけです。その結果、今多くの国において解雇規制というのが一般化したわけです。これを前提としまして、一九八二年にILOが百五十八号条約というのを採択しまして、そういうわけで、今は、アメリカ合衆国を除くほとんどの先進国においては、かなり厳しい解雇規制が立法をもってされているというふうに考えられるわけです。
アメリカにつきまして若干述べさせていただきますと、アメリカというのは非常に解雇が簡単なように言われておりますが、しかし、これを子細に見ますと必ずしもそうではありませんで、暗黙のうちの雇用保障の約束というものがあるというふうにされますと、それに反する解雇というのは債務不履行というものを構成する。あるいは、公序に反するような内容のものであれば、それは不法行為を構成する。さらには、アメリカで発展している公正取り扱い義務、そういう義務に違反すると、これはやはり不法行為を構成する。しかも、不法行為を構成しますと、この損害賠償は、陪審を通じて非常に厳しい懲罰的損害賠償というものが課せられる、こういう状況にあるわけです。
こういう国際的な状況のもとで、我が国においては、法律上は明確な解雇の規制規定というものは存在していない。一般的な解雇の規制というものは存在していない。民法の六百二十七条には、期間の定めのない契約というのはいつでも解約することができるという趣旨のことが規定されています。このいわば古めかしい規定というのは、十九世紀の末、要するに欧米先進国で自由放任思想というのが華やかだったころの規定である。
実は、考えてみますと、解雇の制限と労働者がやめる辞職の制限というのはかなり違う性格を持っているわけですね。辞職というのは、自分から拘束を解くという意味で、人身拘束というものを解くという意味を持っているわけです。しかし、解雇の規制というのはそういう趣旨はありません。また、解雇と辞職というのは、労働者がやめた場合と使用者に労働者がやめさせられた場合を考えればわかるとおり、これはその性格が相当異なる、こういうふうに言うことができるわけです。
こういう状況がありましたから、裁判所は戦後間もなく解雇権の濫用法理というものを発展させて、そして最高裁の、日本食塩事件、それから高知放送事件、これは資料のところに載っているわけですが、こういう事件によって判例法理というのが集大成されるということになったわけなんです。
そこで述べられている法理というもの、実は今回の法案の十八条の二の改正のところで、ただし書きのところに示されているわけです。「解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」こういうふうになっているわけですね。これがまさに、最高裁の日本食塩事件の判旨をそのまま条文化したということになるわけです。
もっとも、最高裁が集大成した権利濫用法理は、さきに述べましたような民法の六百二十七条の規定の存在という制約のもとで形成されたものでありますから、解雇の合理的な理由の立証責任というものをだれが負うかについては極めて重要な問題を提起してきました。
現代において、その妥当性というか法的正当性というか、そういうものが疑わしくなっている先ほどの古めかしい民法六百二十七条の規定と民法一条の権利濫用の原則、この形式からいえば、論理的にはこの立証責任は労働者が負うということにならざるを得ないんですが、そもそも解雇理由が何であるかというのは使用者が最もよく知っているはず、つまり使用者の頭の中にあること、しかも、これこれの理由がなかったというような消極的な事実というものを労働者に証明させろといっても、これは非常に難しいことである。さらには、解雇というのは、もうあなた要らないよということで、労働者の生活現状を使用者が一方的に変更することであるわけですから、したがって、最高裁はこういった観点を念頭に入れて、実質的に解雇の合理的な理由の立証を使用者に転換しているというふうに解されてきたわけでして、しかも、実務もそのように処理してきたわけであります。
ですから、例えば実際に日本食塩事件の担当調査官、この食塩製造の事件につきまして、説明としては権利濫用という形をとっていますが、解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返したようなものであり、実際の運用は正当事由説と大差はないと見られるというふうに解説しているわけです。
先ほどのILO条約は、立証責任を労働者のみに負わせないようにすることを要求しています。また、先進国中、アメリカ合衆国に次いで恐らく最も解雇規制が弱いと思われる、私の特に専門にやっているイギリスの不公正解雇法においてさえ、解雇理由の立証責任を使用者に課しているわけです。改正案のように、使用者は労働者を解雇することができるという原則論をわざわざ示しては、裁判実務が長期の努力で国際基準に合致するものとして形成した解雇権濫用法理の実を失わせることになりかねないと思います。
また、労基法は罰則を伴う取り締まり法規でありまして、解雇権を濫用したものとして無効とするという文言自体が、同法の規定としては極めて不自然だと言わざるを得ないわけです。また、解雇規制は、国民から見てわかりやすいものであるということが絶対的な要請と思われますが、多くの人々にとって、この本文とただし書きの関係はどのように理解できるのでしょうか。
ところで、この点、民主党の修正案は、解雇権濫用法理の根底にある考え方を立法的に発展させたものと評価できますし、その内容は極めて理解しやすく、解雇規制を司法にゆだねざるを得なかった立法府の今なすべき道を示すものとして高く評価されるというふうに私は思います。そして、このことは、実は同様にこの改正のところに示されている二十二条の二項、つまり理由を示すというその規定と整合性を持っていると言わざるを得ません。ただ、現行の解雇権濫用法理は、合理的な理由の存在と解雇の社会相当性の立証責任というのを区別しているというふうに見ることができますので、この点をどう考えるかというのがなお問題になるというふうに思います。
解雇規制の内容の強弱というのは、今後時間をかけて立法化するものと考えられますが、今はともかく、解雇に正当事由が要求されるという国際基準を明確に宣言するときではないかと思います。
もう一つは有期契約に関してですが、今回の改正では、有期契約の期間延長という本質的には副次的な問題しか議論がなされていないということが問題であるというふうに思います。有期契約には、拘束する機能、保障する機能、それから契約の自動終了機能の三つの機能がありますが、現在、最も重要なのは自動終了機能であると考えられます。それは、雇用調整の手段としてのみならず、その時点時点における企業の労働力自由調達手段、いわゆるジャスト・イン・エンプロイメントの手段として活用されているわけです。ここでは、人は物でないという労働法の基本哲学が欠如してしまうおそれがあります。
この点についても、裁判所が苦心して形成した雇いどめ規制法理というものがあります。しかし、この法理は、黙示の自動更新の合意または雇用継続の合理的期待を証明することにより、権利濫用法理が類推適用されるというものでありますが、この類推適用による濫用性判断は、通常の解雇の濫用性判断よりも相当緩いものであるということが言えます。しかも、この通常の場合との格差は、何年、または下手をすると何十年勤続しようと、完全に解消することはできません。いわばこれは身分的なものとして残るわけです。これを解消するためには、少なくとも一定の期間雇用継続をしたら期間の定めのないものとみなすというような立法措置がとられる必要があると考えます。
このことはさておき、今回の改正法案では、必ずしも過半数の企業が一年ないし三年の有期契約期間を延長しよう、こういうふうに希望しているという統計上の根拠はありません。そうした延長を行おうとするということにつきましては、当然のこととして、一方でその規制、雇いどめの濫用というものを規制する措置が必要であるというふうに考えるわけです。
なお、拘束機能と保障機能というのは裏腹の関係ですから、調整は非常に難しいのですが、労働者が必要以上に損害賠償請求の可能性を恐れて職場をやめられないという人身拘束的な結果が生じないようにするための情報付与や相談システムの設置が必要ではないかというふうに考えます。
以上、報告させていただきます。(拍手)
○中山委員長 どうもありがとうございました。
次に、生熊参考人にお願いいたします。
○生熊参考人 御紹介いただきました全労連の生熊と申します。
私は、きょう、全労連百四十万人の組合員と職場で働く多くの労働者の気持ちを代弁して、今、職場で、労使の間で何が起こっているのか、こういうことを中心に意見を述べたいというふうに思っております。
まず、私は、今度の労働基準法の改正案が労働基準法そのものの趣旨に反するのではないか、こういう思いを持っております。
一つは、第十八条の二で解雇できるというように規定される、これは労働者保護法と全く矛盾をするというふうに私は思います。今、与党と民主党の間で修正協議がされているようですけれども、それは最低の修正のものとして評価しつつも、私は、この労働基準法の変質について非常に憂慮するものであります。
また、労働基準法の第二条では、労働条件は労働者と使用者が対等の立場に立って決定する労使対等原則が規定されております。しかし、今回の解雇の問題やあるいは有期雇用の問題を考えますと、労使の対等な原則を崩すというふうに私は考えています。この点からも、労働基準法の趣旨に反するのではないか、こういうふうに思います。
それでは、具体的に今、今回の改正法案によって労働者はどんな被害を受けるんだろうか、どんなことが今職場で起こっているんだろうか、このことに入っていきたいというふうに思います。
まず第一に、私は、解雇できるというふうなものがもし法案に決められるならば、解雇が大幅にふえるというふうに考えています。
率直な話、私は何人かの経営者とお話をしました。その中で、これまで解雇はできないと思っていたけれども、これからできるようになるんだ、経営の厳しい中小企業の中では、経営者は、ほっとした、こういうことを言っている。これが事実なんです。
厳しい中小企業の経営状態のもとでも、これまで労使双方が努力をして雇用確保を図ってきました。こういうもとでこういう改正法案が通るならば、雇用維持の努力はされなくなり、解雇がふえることは明らかだと思います。これが間違ったアナウンスの結果だというならば、解雇できる、これを削除する以外にその間違いを正す方法はありません。
昨年、ある大企業の下請会社で、仕事が少なくなるので解雇をしたいということがありました。事件になりましたけれども、県経営者協会のアドバイスなどもあって、裁判もせずに十二名の労働者が職場に戻って、今企業の再生に向かって努力をしています。しかし、解雇できるという条文が労働基準法に明記されたら、解雇そして裁判という労使双方にとって不幸な事態がふえることは目に見えているんではないでしょうか。
不当解雇されても裁判で争う、こういう労働者は決して多くありません。裁判の結論が出るまでの家族を含む生活を考えたら、泣き寝入りせざるを得ない、これが実態だと思います。これ以上解雇、失業者をふやさないでください、泣き寝入りする労働者をふやさないでください、これが職場で働く労働者の一致した気持ちです。
二つ目に、有期雇用契約期間の上限延長で、劇的に常用労働からの置きかえが進むという問題です。
一般労働者に三年の有期雇用が合法化されたら、これからの新入社員はほとんど三年有期雇用になると考えられます。一年の臨時雇用では常用労働を全面的に置きかえるのは困難ですが、三年有期になれば、経営者が労働者を見きわめる上で十分な期間となり、三年たって役に立たない、あるいは気に入らないとなったら、無条件で雇いどめにできる、こういう危険があります。これはまさに若年定年制あるいは試用期間の三年への延長ともいうべきものであって、一年を三年にすることは決定的に質が変わるということに注意をいただきたいというふうに思います。派遣労働者の期間延長や製造業への派遣解禁とあわせて考えるならば、日本の労働者の多くが不安定雇用となる、こういう劇的な変化が起こりかねない、こういう案ではないだろうかというふうに考えております。
今、派遣の延長やあるいは雇用などについても、労働者のニーズとか働き方の多様化というふうに言われています。しかし、労働者の大多数が願っているのは安定した雇用です。決して期限つきの雇用ではありません。
五月三十日に、内閣府が国民生活白書を発表しました。その中でも、若年フリーター、十五歳から三十四歳のパートやアルバイトなどの期限つき労働者や派遣労働者のことですが、二〇〇一年には四百十七万人にも上りました。このフリーターのうち、正社員になりたいと言っている方が七二・二%、もともとパートやアルバイト、派遣を希望した労働者は一四・九%にすぎないのです。白書でも、やむを得ずフリーターになっている人が多いというふうに述べています。これが動かしがたい事実ではないでしょうか。
契約期間が三年に延びれば雇用が安定するかといえば、そうではありません。あくまでもそれは上限であり、会社の都合でどうにでもできるということになります。三年雇うなら、期限のない雇用にするべきではないでしょうか。
三つ目に、裁量労働の要件緩和は、ただ働き、不払い残業の合法化になると思います。
私たちは、この間、職場から不払い残業やただ働きをなくすために努力をしてきました。厚生労働省は、最近、五月二十三日付でも、賃金不払い残業の解消を図る指針を通達しました。改正法案は、これらの努力を無にするものではないでしょうか。
企画業務型裁量労働について事業場を特定しない、これは、本来の企画業務や裁量という概念を超えて、事務系業務の大半を裁量労働に位置づけることになります。これは、残業という概念がなくなる、労働時間という概念がなくなる、それによって不払い残業がなくなるというもので、実際には長時間・ただ働き労働を野放しにするというふうに言わなければなりません。
四つ目に、こういうことを総体として考えると、私たちの働く職場は一体どうなるんだろうか。物が言えない職場になり、労使対等原則が崩れて、過労死の危険もふえる、こういうふうに思います。
改正法案は、解雇や雇いどめなど、こういう切り札、絶大な力を経営者に与えます。労働者は文句を言わずに働くことを強いられるのではないでしょうか。
解雇や雇いどめを恐れる労働者は、会社に気に入られようとし、労働組合に加入しないということさえ生まれます。そうすれば、職場における対等な労使関係が崩れ、労働条件対等決定の原則は有名無実のものになります。
また、不払い残業の大きな原因は、成績査定と結びついた差別賃金にありますが、これが労働者を不払い残業に駆り立てています。裁量労働と成績主義賃金や年俸制が組み合わされたときに、一層みずからを長時間労働に追い込む労働者がふえ、悲惨な過労死の増大につながる危険は大きくなります。
大きな三つ目ですが、私は、今回の改正法案は、単に労働者の権利にとどまらない、一層日本経済を悪化させるものだというふうに考えます。
日本リサーチ総合研究所が四月上旬に調査をした消費構造変動調査というものがあります。この中で、今後一年間に消費支出を減らすと考えている人は四八・一%で最悪水準にあります。節約したい理由は、給与や事業収入が伸びないが六五・一%、医療費の負担がふえたが三七・九%、失業や仕事の継続に不安がある、三三・三%となっています。
朝日新聞が五月二十六日に発表した世論調査でも、国民が小泉内閣に求めているのは、景気や雇用対策を優先してほしいということです。これは実に六七%を占めます。今何よりも政治に求められているのは、国民生活を守るために景気・雇用対策を強め、引き下げられた社会保障をもとに戻すことではないでしょうか。
改正法案は、それに逆行をして、労働者の雇用不安を高め、失業をふやします。また、雇用される労働者のほとんどが短期雇用や派遣という不安定雇用になり、労働者の所得も大きく減少することは明らかです。日本の労働者は五千三百万人です。その家族も含めれば八千万人というこの多くの国民の状態がどうなるのか、これはまさに日本経済の問題だというふうに思います。改正法案は、一層日本経済の悪化につながり、国民が求める生活と雇用の安定とは反対の方向に進む危険があると思います。
改正法案は、現在の熾烈なコスト競争を激化させ、中小企業の経営を一層困難にします。大企業は改正法案のもとでコスト計算を行って、中小下請企業への発注単価や発注価格の引き下げを押しつけるようになるでしょう。人減らしをし、有期雇用、派遣労働者を使い、裁量労働を導入すれば、こういう価格でできるはずだということになるわけです。これでは、中小企業にこれまで以上の単価引き下げ、短納期が押しつけられることになります。中小企業は、これでは、人件費削減なども強いられるわけですが、物づくり技術や技能が失われかねないということも含めて、経営の破綻に追い込まれかねません。
労働法制の改悪については、国会審議の場では想像もつかない事態が現場ではあらわれます。労働契約承継法でも大きな問題が起こりました。
これ以上失業者をふやさないでください。中小企業を倒産させないでください。日本の労働者、国民の暮らしと雇用の実態を踏まえた慎重な審議をこの国民の声のもとでお願いしたいというふうに思っております。
私は、解雇ルール、有期雇用の三年への上限延長、裁量労働の要件緩和について抜本的修正が行われなければ、この法案は廃案にすべきものである、このように考えております。
以上で終わります。(拍手)
○中山委員長 どうもありがとうございました。
次に、高須参考人にお願いいたします。
○高須参考人 有期雇用労働者ネットワークの高須といいます。
有期雇用労働者ネットワークにつきましては、私の出しました資料の方に詳しく載っておりますので、紹介の方は略させていただきたいと思います。
私自身は、全国一般労働組合東京南部という地域労組の役員としまして、未組織労働者や有期労働者からの労働相談、労働組合づくりや解雇撤回闘争の支援などに十三年ほどかかわってきました。現場で本当に悪戦苦闘しながら毎日毎日頑張っているわけですけれども、その経験と有期雇用労働者ネットワークでの活動を踏まえて、今回の法改定の中で有期労働契約の期間延長の問題と解雇ルールに関して意見を述べさせていただきたいと思います。
まず最初に、有期労働契約についてお話をしたいと思います。
そもそも有期労働契約とは何でしょうか。期間の定めのある労働契約のことをいいますが、その期間の持つ意味についてぜひ考えていただきたいと思います。私は、契約期間というものを労働者の拘束と排除を意味するものだと思います。拘束と排除という言葉は非常に難しい言い方ですけれども、労働者は契約期間中退職できない、会社は必要な期間、労働者を拘束できる、しかし契約が満了すれば期限切れで契約更新拒否という方法でいとも簡単に首を切れる、必要な期間が終われば労働者を企業から簡単に排除できる、こういう特徴を持っているのが有期労働契約だと思います。
もちろん、使用者の言動や契約の反復更新、さまざまな諸事情により雇用継続に合理性があれば、期限切れの解雇の場合も解雇法理が準用されるという判例法理があります。しかし、これは極めて限定的に適用されており、現実は、使用者が解雇したいと思えば期限切れで簡単に首を切れる、そういう状況であろうと思います。終身雇用の正社員、いわゆる期間の定めのない雇用と比較すれば、労働者にとっていかに不利な雇用形態であるかは一目瞭然です。正社員であればいつでも退職ができます。解雇法理によって雇用も保障されています。
有期労働契約を悪用すれば、契約更新時の労働条件の切り下げは簡単です。契約更新という関門があるために権利主張もできない。有給休暇をとったり、例えば組合づくり、組合結成などしたら、契約更新拒否という名の解雇が待っていると思います。
原則として、有期契約には育児休業、介護休業が残念ながら適用になっていません。産前産後の休暇の権利はありますけれども、契約更新がひっかかってなかなかとることができないというのが実態だろうと思います。
契約期間中に退職すれば損害賠償をかけるぞというおどしをかけられたり、退職月の賃金が払われなかったり、残っている年次有給休暇がとれないなどの嫌がらせを受けることも多くあります。
資料の二ページに、有期契約をめぐるトラブルや悪用事例を詳しく掲載しておきました。
この最初に載っていますA航空会社の契約客室乗務員の解雇事件は、これは典型的な有期雇用を悪用した事件ですけれども、採用面接のときに、今回は契約社員としてしか採用できませんが、長期に働き続けることができます、行く行くは正社員にしますといって採用して、契約更新を繰り返す。ところが、契約が満了する直前に突如、賃金を半分に下げます、乗務時間の上限規制を撤廃して大幅に延長します、こういう新しい改悪された労働条件を提案して、それを拒否した十二名の客室乗務員を契約期間の満了で解雇した事件です。
この事件の場合は、解雇から四年、御本人たちが頑張って、いろいろな組合の支援を受けながら闘って、東京高裁で完全勝利判決をとって、和解交渉の末、最終的には正社員で復帰ができました。しかしながら、大変な苦難の中で闘った事例であります。この場合も、契約更新時に労働条件の切り下げを迫って、それを拒否すれば解雇、こういうふうな形で、有期雇用を悪用すればこのようなひどいことができるということをぜひ知っていただきたいと思います。
ほかにもB専門学校の事例とかC社の事例を載せておきました。これは組合つぶしをねらった期限切れの解雇事件ですけれども、これらを初め、たくさんの有期雇用をめぐる紛争やトラブル、さまざまな解雇事件等が起きています。すべてを御紹介する時間はありませんが、これらのほんの一例を見ただけでも、有期契約を悪用すればこのような事件がどんどん起きることをぜひ知っていただきたいと思います。資料の三ページ以下に、また詳しく有期契約をめぐる問題点についても資料を添付しておきましたので、ぜひごらんいただきたいと思います。
このように、労働者にとってメリットが全くない雇用形態が有期労働契約です。退職の自由がない雇用形態を求める人がどこにいるでしょうか。契約更新のたびにびくびくしなければならない有期契約を求める人がいるでしょうか。短時間働きたいという、パートで働きたい、こういう人たちは確かにいますし、そういうニーズはありますが、有期契約とは明らかにニーズが違うということをぜひ知っていただきたいと思います。労働者の側から有期契約をぜひしたいという人はいないと私は思います。
しかしながら、現実には有期契約労働者の数はどんどんふえています。総務省の労働力調査によれば、九〇年代後半からどんどんふえています。昨年は七百二十七万人、一三・六%だと言われています。実態はもっと多いのではないかと私は思います。使用者のニーズで契約社員の仕事しか募集されない、やむを得ず、結局この契約社員の仕事を選択せざるを得ない。とりわけ女性や高齢者の場合は、契約社員やパートや有期の嘱託社員の募集しかないと思います。
今回の上限延長に関して、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用契約として活用されるようにしていくためというふうに理由が説明されています。しかし、私は、労働者にとって何のメリットもないと思います。三カ月とか六カ月の契約を結んでいるパートや臨時労働者の雇用が延びるわけではありません。ここはぜひ注目いただきたいと思います。
現在であれば正社員として採用されたはずの人たちに、三年とか五年契約が導入されてくるのは明らかだろうと思います。例えばソフトウエア開発のシステムエンジニア、こういった人たち、二十代、三十代の若いときだけ会社側は使いたいと思っているんですね。こういう人たちに多分どんどん導入されるでしょう。あるいは、一定の教育訓練が必要な職種やいろいろな技術者あるいは外国人労働者にどんどん積極的に導入されるんじゃないかと思います。
契約期間中は原則としてやめられない、したいときにも転職できない、しかし契約満了と同時に首を切られる。その弊害は契約期間の上限延長によって一層大きくなるだろうと思います。とりわけ、五年契約のような長期の契約の場合、その期間、退職の自由がないというのは非常に大きな問題であろうと思います。これは今の修正協議の中でも、残念ながら、五年の場合は退職の自由は認めない方向で進んでいるようですけれども、この点については非常に問題だろうと思います。
厚生労働省は、現行法解釈として、仮に五年契約を締結しても、一年を超えた期間について退職の自由が認められ、雇用保障期間であることが明らかであれば、五年契約は労働基準法の十四条に違反ではないという解釈を出しています。それなのに、なぜ労働契約の上限延長が必要なのでしょうか。期間が来たら解雇できる、しかし期間中は労働者を拘束したい、やめさせたくない、こういう使用者のニーズにこたえるということが理由としか思えません。私はこの改定に反対ですけれども、少なくとも上限五年までを含めてすべての有期契約に退職の自由を認めるべきだというふうに考えます。
次に、解雇ルールについてお話しします。
私自身、数多くの解雇事件の相談や解雇撤回闘争の支援にかかわってきました。会社都合による離職者数、これは、統計上出てくるのは、ここ数年百万人を超えているというふうになっています。その中のほんの氷山の一角の人たちが、それでも多分数万人の人たちが、都道府県の労働局や労政事務所あるいは地域労組やユニオンに相談に来られています。私の組合でも、年間百件を超える解雇相談を受けて、そのうち半分ぐらいの方々には組合に加入してもらって、解雇した会社と団体交渉をやっています。
団体交渉において、まず私どもが使用者の方に言うのは、解雇の理由は何ですかと尋ねていきます。正当な理由がないと解雇できません、客観的に合理的な理由がありますか、その理由が解雇に相当しますか、行き過ぎではありませんかというふうにやりとりをやっていきます。
決して組合側から、使用者に解雇する権利があるけれども権利濫用ですよ、こんなことは言いません。会社だって、会社に解雇する権利があるということなんて言いません。確かに、解雇法理を知らないでいろいろ議論する経営者の方もいますけれども、まともな会社だったら、会社側にはちゃんと理由があるんだ、こうこうこれこれこういう正当性があるんだという説明をするんですね。そういう中で、団体交渉を通じて解決もしていけるわけです。
しかし、労基法に、使用者は労働者を解雇できると書いたらどうなるでしょうか。特に私が危惧するのは、中小零細企業の経営者たちがこの労基法を振りかざして、自信を持って、解雇する権利があるんだということを言って労働者を解雇するんじゃないか、どんどん乱発するんじゃないかということを大変危惧してきました。この点については、今回の修正の中で修正がされそうだというふうに聞いています。
しかし、権利濫用という言葉が依然として残っています。権利濫用と言われても、普通の人たち、普通の労働者や庶民には、全く何のことかわかりません。そもそも、労基法は、だれが読んでもわかりやすく書かなければならないと思います。
また、権利濫用という以上、解雇する権利、自由があるということが前提になってしまいます。やはり解雇する権利がひとり歩きするのではないかというふうに私は大変危惧をしています。不当解雇だというなら組合側が説明しろと言われかねないと思います。
解雇権濫用法理について、最高裁は、これは正当事由説の裏返しだというふうに説明をしています。だからこそ、私たちは、解雇の理由を説明してください、客観的で合理的な理由があるんですかというふうに経営側に尋ねることができるんだろうと思います。裁判実務上の主張立証責任の問題も非常に重大な問題ですけれども、改正された法律が、その書き方一つで現実の労使関係、職場にいかなる悪影響を与えるか、ぜひもう一度見直していただきたいと思います。
労働基準法は、労働者にとってかけがえのない法律です。これによって労働者の権利が辛うじて守られているという実態をぜひ知っていただきたいと思います。法律の改正で直接影響を受けるのは、最も立場の弱い、労働組合に加入していない未組織の労働者だろうと思います。
今回の改定は、労働者の権利、最低労働基準を定めた労働基準法を大きく変質させるものだと言わざるを得ないと思います。有期労働契約期間の上限延長を行わず、そして客観的に合理的な理由がなければ解雇できないルールにぜひ抜本的に修正いただきたいと思います。
以上で終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
○中山委員長 どうもありがとうございました。
以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○中山委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山谷えり子君。
○山谷委員 保守新党、山谷えり子でございます。
参考人の皆様方、どうもありがとうございました。
解雇にかかわる規定の整備についてお伺いしたいというふうに思います。
日本経団連の紀陸参考人は、可能な限り雇用は守られるべきである、守るのは経営者の責任だ、解雇がふえることはないというふうにおっしゃいましたけれども、小宮参考人は民主党の修正を評価され、また生熊参考人、高須参考人は、現場の状況、実態などをるるお述べになりました。
こうしたことをお聞きになられまして、改めて紀陸参考人にこのあたりのことをお伺いしたいと思います。
○紀陸参考人 山谷先生から御質問いただきまして、ありがとうございました。
私どもは、先ほど申し上げましたように、基準法に解雇ルールを新しく設定することによって、現実の解雇をめぐる労使紛争がふえるとは思わないという考え方であります。
現実に、仮に例えば中小企業の経営者の方々が、基準法を全然知らなくても、言葉は悪いですけれども、安易な、しかも理由のない解雇をされた場合に、その解雇が地元で紛争を招いたり、あるいは裁判になって負けたりしたらば、その経営者は、地域の中できちんとした経営を継続できないということにもなります。
基準法で解雇できるというふうに書くかどうか、もう民法にそういう規定がありますので、しかも、修正をされている方向の中でも、経営者の権利というものを、この解雇権というものを認めていただくというような方向になっておりますけれども、基本的には、法律の成否によって現実の社会の動きがそんなに大きく変わるとは思わない。仮にいいかげんな解雇をやったらば、その経営者は、その地域における経営の存続というものに対して信用を失うということであります。
従業員にきちんと雇用の安定というものを保障しながら経営の効率を上げる、それによって本当の意味でその企業の将来発展の存続が評価されるんだというふうに私どもは考えております。
○山谷委員 他の参考人の中では、中小企業の経営者で解雇する権利があるというふうにとらえられるのではないかというような意見もございましたが、就業規則の作成及び届け出の義務改正で、記載事項のうち、退職に関する事項に、解雇の事由を含むことということに改正がなされるわけでございますけれども、この辺で日本経団連は、中小企業対策等々、相談窓口とか、何かやっていらっしゃるのでございましょうか。
○紀陸参考人 今回の改正で、就業規則の整備をきちんと行えという点は、非常に重要な点だというふうに思っています。これは、今お話のございました、解雇ルールを安易に運用してはならないという前提にもなります。
私どもは、いろいろな機会を通じて、特に各県に地方経営者協会という組織がございます。そこの経営者協会を通じて、傘下の会員企業のみならず、いろいろな中堅中小の企業の経営者の方々に法改正の趣旨を徹底してまいりたいと存じますし、これまでもいろいろな形で基準法等の労働法制の内容を周知してまいったつもりでございますので、今後もこの努力を重ねて徹底してまいりたいというふうに考えております。
○山谷委員 続きまして、有期労働契約の上限改正について、紀陸参考人と小宮参考人にお伺いしたいと思います。
有期労働契約のあり方の改正で、高須参考人は、さまざまなトラブル実例、不条理、問題点を指摘されました。また、生熊参考人は、若年定年制になるというようなことも含めて、上限改正についての意見をお述べになりましたけれども、この辺について、日本経団連の主張する雇用の多様化、雇用ポートフォリオの観点から、今回の上限改正についてどう思うか。
そしてまた、小宮参考人に関しては、新しい労働政策の中でのこれをどう位置づけられるかをお伺いしたいと思います。
○紀陸参考人 お答えをいたします。
有期労働契約の多様化というのは、私ども、非常に大きな意味を持っていると思いまして、有期、無期、さらには短時間とか長時間とか、いろいろな雇用形態の多様化の選択肢が拡大すると思っております。
今、現実に、あるいはこれから先、ちょっとの期間かもしれませんけれども、今の経済、景気の状況の中で新しい雇用機会を創造するというのはなかなかに容易ではないというふうに思っております。そういう状況の中で、雇用形態を多様化することによって、現実には、高齢者の方とか女性の方とか若い人に向けていろいろな雇用の機会が増大するであろうというふうに思っております。これを後ろ向きにとらえる考え方は、従来の労働環境というものに余りに拘泥し過ぎているんだろう。これから労働環境も大きく変わってくる。
現実に、労働力供給がどんどん細ってまいりまして、今、既に労働力需給のミスマッチがありますが、このミスマッチがもしかすると今後一層拡大、あるいはミスマッチがもっと顕在化する可能性があるのではないかと私どもは危惧しておりますが、それを防ぐのは、もちろん雇用機会自体をふやすことも大事でございますけれども、その手段とあわせて雇用の多様化というものを組み込まないと、受け皿がふえないであろうというふうに私どもは考えております。
○小宮参考人 私は、この期間の延長というもの自体について、実はそれほど危惧の念は持っていないのです。先ほど申しましたように、つまり雇用の保障ということから見ると、何回も更新されて、要らなくなると捨てられるという、そのところをむしろ重視すべきだ。この点は、今回の法改正について十分な検討がされているように思われないわけなんです。
そして、先ほどの点につきましては、ある意見によりますと、例えば年数を延ばすということから人身拘束的な側面が出てくるということをおっしゃっている。確かに、事実上そういう側面がないとは言わないわけでして、先ほど私が述べましたように、そういうことがないようにするためのいろいろな情報システム、相談システムというものを設けるということによって、それはある程度防止できるのではなかろうかというふうに思うわけです。
この点につきまして、いや、そんなことはないので、民法の損害賠償の問題があるじゃないか、損害賠償を請求されたらどうするんだと。例えば、一年から三年というふうに延ばした場合ですね。
しかし、この点につきましては、実は、通常一つの仕事をある労働者に丸投げするというようなことがあれば別ですが、これはむしろ労働者とは言わないわけでして、そういうものでない限りは、およそ日本の企業のいわば処理の仕方というのは、プロジェクトを組むとか、一定の人数で物をやるわけでありまして、そういう状態で損害賠償の立証というのは、ほとんどこれは不可能に近いのではないか。
もしそれが可能であったとしても、そういう労働者というものはある意味では入れかえ可能ですから、つまりほかの労働者を探すということになりますから、そこにおける損害というものは、やはり過失相殺とか損益相殺という法的な処理によって相当程度緩和されてしまう。ですから、それにもかかわらずなおかつ訴訟に出るというような使用者がいるとすれば、それはむしろ非常に希有であるというふうに私は考えておるわけです。
したがって、そこの人身拘束というところを余り重視し過ぎて、雇用保障というところを無視してしまう結果になるというのは好ましくないというふうに私は思っております。
○山谷委員 川口参考人に今と同じ質問、有期労働契約の上限改正について、さまざまな参考人の意見もございましたし、いかがお考えでございましょうか。
○川口参考人 私は、有期契約の期間の上限の延長には反対いたします。
少なくとも、一年以上の契約期間を設ける場合は、一年経過後は退職の自由はまず必ず保障されるべきだと思いますけれども、それとは別に、雇用保障の機能という点について私は疑問があります。
つまり、今まで一年以下の契約期間で雇用されていた方が、三年になったからといって、三年契約で雇用されるはずはありません。むしろ、今まで期間の定めのない労働契約によって雇用されていた方の一定部分が、三年間の期間を定めた労働契約によって雇用される危険性が非常に高いと思います。したがって、私は、少なくとも現行どおり期間については原則は一年。
あと、私は、正直に言いまして、六十歳以上の労働者の方を除いて、なぜ専門的な知識があるというだけで期間の上限が三年になるのかということについての合理的な理由は一切ないと思いますけれども、少なくとも、それを五年に延長し、かつ退職の自由がないという改正については賛成しかねます。
○山谷委員 続きまして、紀陸参考人にお伺いいたします。
生熊参考人が、賃金不払い残業について、改正法案はマイナスの方向に戻していくのではないかというふうに指摘なさいましたけれども、これに関して日本経団連としてのお考えを聞かせていただきたく思います。
○紀陸参考人 お答えいたします。
賃金不払いについて、私どもは本来そういうことがあってはならないというふうに思っております。実際に労働して、その対価がきちんと払われないような職場では、仕事の遂行自体もいいかげんなものになっているのではないかという危惧すら感ずるわけであります。
先ほどの話の繰り返しになりますけれども、経営者の方々には、きちんとふだんからの労働時間管理と申しますか、賃金と労働時間のつなぎをきちんと行うように、いろいろな形で私どもPRをさせていただいているつもりでございます。この法改正によって不払い残業がふえるとか、それと次元がちょっと違うのではないか。法改正の問題と、現在ある好ましくない不払い残業の問題は、ちょっと別の次元の問題ではないかというふうに考えております。
○山谷委員 小宮参考人にお伺いしたいと思います。
専門業務型の裁量労働制、労使の決定を行政がチェックするような部分があるわけでございますが、厚生労働省令で定める事項の追加、何が労使にとってよいのかという柔軟な判断が必要なわけでございますが、この辺についてはどのような意見をお持ちでございますか。
○小宮参考人 私は、裁量労働制というのは、やはり企画型の裁量労働制というものについてはおよそ賛成しかねるわけでして、このようなことを言うとあれですが、このような制度を設ける趣旨、理由がどこにあるのかということが私はむしろ疑問と思っているわけなんです。
これは、そもそもは恐らくアメリカとかフランスで、アメリカではエグゼンプト、そしてフランスではカードル制というふうに言われているわけですが、一定の権限を持って決定をできるレベルの人に関しては労働時間の規制を及ぼさない、そういう制度というものを前提にして、我が国においてはいわゆる管理監督者という範囲が相当限定されていることにかんがみて、その穴埋めをするという目的のために使われているというふうに考えるわけです。
むしろこういった技術的な、極めて技術的である、ですから逆に使われていないような制度、こういう制度はない方がいいのであって、私は、こういう判断が不可能なような制度ではなくて、やはり端的にエグゼンプトならエグゼンプトという形で規制を行うべきなのではなかろうか、こういう趣旨に立っていますので、いろいろな、全員一致だとかあるいは五分の四だとか、非常に細かいことで規制しなければならない、つまり、言ってみれば、規定はあるけれどもほとんど使えない、使ったらどうなるかわからないというような、そういうものはむしろ基準法の規定としては好ましくないのではなかろうかというふうに考えております。
○山谷委員 では、最後の質問でございます。
紀陸参考人に今後の抜本改革について、ホワイトカラーエグゼンプション制度の導入についてもおっしゃいましたけれども、一言お願いいたします。
○紀陸参考人 今、非常に企業間の競争が激しくなっておりまして、要するに成果でもって企業の競争力が決まるというふうに考えます。
成果を生み出す場合に、特に技術開発であるとかホワイトカラーのいろいろなノウハウをアウトプットに結びつけるということが大事だと思っておりまして、ここの部分は、今先生もお話しでございましたけれども、裁量労働の世界をもう少し先に進めていかないといい成果が出ない、日本が欧米だけでなくてアジアの企業にも負けてしまうという、そこまで追い込まれている状況かと思いますので、もう一段踏み込んだエグゼンプションの制度の導入に向けて御尽力を賜りたいというふうに存じます。
○山谷委員 いわゆる日本型経営は、計画的な能力開発、雇用の安定、労使一体のチームワークにより、我が国の経済や産業にプラス面がございました。今回の改正が、日本型経営のよい面を生かしつつ、多様化と国際競争力を高めるための法改正としなければならないことを思い、質問を終えたいと思います。ありがとうございました。
○中山委員長 次に、大島敦君。
○大島(敦)委員 参考人の方には、当委員会まで来ていただきまして、まことにありがとうございます。
まず、川口参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほど日本経済団体連合会の紀陸参考人の方から、ホワイトカラーエグゼンプションというお話がございました。今から十年ぐらい前の日経ビジネスのトヨタを扱った記事の中で、トヨタ自動車さんには、ホワイトカラーとともに、その中でゴールドカラーがあるというお話が書いてあったんです。恐らくホワイトカラーエグゼンプションというのはこのゴールドカラーに当たる人かなと私は考えています。
特に川口参考人はフランスの労働法が御専門ですよね。私が知っているドイツの社会では、あそこはディプローム、日本でいうと大学院を卒業したレベル、プラス兵役がありますから二年間、二十六ぐらいから二十七ぐらいで実社会に出て活動される。大きな会社の特にトップを目指す方はドクターまで取られますから、三十ぐらいまで勉強されて実社会に出られる。
ヨーロッパ、特に大陸ヨーロッパの社会は非常に機能的な社会だと私は理解しておりまして、機能的だというのは、会社の運営に対して企画をして指示、命令を出す一部のマネジャーの方と、その指示、命令を受けてそれを具現化する方と役割分担がしっかりして、合理的な社会かなと思っているんです。
合理的な社会ですから、むだがない。したがいまして、総労働時間も千五百時間ぐらいですか、非常に短くて済んでいる社会がヨーロッパの社会かなと理解しているんですけれども、そのような理解でよろしいかどうかということと、ホワイトカラーエグゼンプションの私の理解、恐らくイメージ的にはヨーロッパのディプロームあるいはドクターを取った人の仕事かなと思っているんですけれども、その点、いかが考えればよろしいでしょうか。
○川口参考人 基本的には、御質問のあったとおりだと思います。
フランスの場合も、一定の管理監督者は確かに労働時間の規制の適用を除外されておりますけれども、それは例えば事業所の長プラスごく一握りの、ごく数名のいわゆるマネジメントを担当していらっしゃる方であって、それ以外のいわゆる管理監督者については労働時間の規制は適用されております。
ただ、フランスの場合、一定の管理監督者、特に事前に時間外労働をすることがあるかどうか必ずしも予測できないような管理監督者につきましては、これは趣旨は全然違いますけれども、日本の裁量労働制と同じように、一日の実労働時間の規制はありません。
ただ、注意しなければいけないのは、先ほどもちょっと例に出しましたけれども、フランスの場合は、ドイツもそうですが、いわゆる休息時間、つまり一日の勤務時間の終業時間から次の勤務時間の始業時間までの間は必ず十一時間あけなければいけない、もちろん休日、週休が重なる場合は三十五時間になりますけれども、そういうことになっておりますので、いわゆる拘束時間、在社時間が長くても十三時間に規制されるということになっています。
かつ、注意しなければいけないのは、労働日数が上限二百十七日と定められています。上限二百十七日の労働日数というのは、週休二日プラス年次有給休暇五週間プラス二十日の休日であります。このような形で、一日の実労働時間の規制を緩和する場合は実労働日数を制限する、それによって長時間労働を回避し、労働者の健康と自由時間を保障するというシステムになっております。
したがって、例えば日本で昨今議論されておりますようなホワイトカラーエグゼンプションというのは、もちろんどこまでの方を含めていらっしゃるのかわかりませんけれども、もし一握りのマネジメントの方以外の、いわゆるホワイトカラー一般の方を対象にされているのであれば問題だと思います。
繰り返しますけれども、労働時間の長さと成果が比例しないということは、成果主義型賃金を導入する理由にはなっても、実労働時間規制を緩和する理由にはなりません。
確かに、時間外労働に対する割り増し賃金支払い義務がありますから、時間外労働をさせれば、その分、割り増し賃金を支払わなければならないので、成果に見合わないような賃金を支払うというように思われるかもしれませんが、時間外労働に対する割り増し賃金の支払いは、いわば労働者に保障された自由時間を侵食したことに対する補償として支払われるものであって、成果とは別個に考えられるべきです。
そもそも時間外労働というのは例外的な場合に限定されるわけですから、法定労働時間内で働かせていれば、割り増し賃金を支払う必要はないわけです。したがって、そもそも法定労働時間を超えて働くことを前提として、それで成果に見合った賃金以上の賃金を支払わなければいけないといったような御主張は、説明にはなっていないと思います。
以上です。
○大島(敦)委員 そうしますと、次に日本経済団体連合会の紀陸参考人に伺いたいんですけれども、先ほどのホワイトカラーエグゼンプションを日本経済団体連合会が進めたい理由と、その対象とされる方は具体的にどのようなイメージを持たれているのか、お知らせください。
○紀陸参考人 お答えをいたします。
先ほどの繰り返しになるかもしれませんけれども、特に研究開発の分野、私ども、いろいろ経営者の方から要望を受けておりますが、そこの部分の開発競争というのはすさまじいレベルでありまして、欧米だけではなくてアジアの企業も追い上げがすさまじいものですから、その中で、いわゆる現行の法制のような、ブルーカラーの方もホワイトカラーの方も一律に同じ労働時間管理の中では、十分な研究開発の時間がとれない。それが結局は裁量労働の枠の中に入って、かつ、それに入らないところはオーバータイムの規制も受けますので、結果的にはコスト増になってしまう。
それは非常に苦しいものですから、逆に日本の企業からある程度のレベルの技術者の方が既にヨーロッパにも行くしアジアにも行く、そういう人材引き抜き競争すら起きておりまして、それに日本が少しずつでも国際競争に負けている事態が出ているということであります。これは単にお金の問題だけではなくて、労働時間の管理の問題もきついからというような理由が私どもはあるというふうに伺っております。
そういう意味で、ごく一握りの経営幹部のサポートをする人たちだけではなくて、競争力強化という面から、必要な人材が十分に働けて、かつそれが国際的に競争できる、コストの面で見合うような範囲、そういう層までエグゼンプション制度の対象にすべきではないかというふうに考えております。
○大島(敦)委員 今回の労働基準法の改正案の中で、企画業務型の裁量労働制というのが、改正の案が出ております。私も紀陸参考人が所属されていらっしゃる日本経済団体連合会に加盟している会社に働いていたことがございまして、非常に労使関係がよく、企画業務型の裁量労働制についてまず直観的に思ったのは、必要ない制度だなと思いました、やはり余計な仕事をつくってしまったのかなと。
会社の人事の方はエリートの方が多いですから、どうも会社の人事の方はいろいろな諸制度をよく見直したがるんです。毎年毎年諸制度を見直しますから、かえって現場が混乱してしまうというのが人事の弊害でございまして、今回の厚生労働省さんの方も、ちょっと会社の人事部に見られるような余計な制度変更をして、余計な仕事をつくって私が審議に臨まなくちゃいけないのかなという気持ちが非常にしておりまして、その中で、紀陸参考人の方に伺いたいのは、企画業務型の裁量労働制の労働者、対象となる方の具体的なイメージをちょっと手短にお述べいただけると助かります。
○紀陸参考人 企画、立案、調査という、言ってみればそういう分野に携わる係長さん以上ぐらいの中堅の管理職層というふうに言っていいかと思います。会社のポリシーを決める分野でございますね。そういう方々が対象になっていて、かつ、今度はある程度事業所の枠も広げられるということで、これは状況の変化に合わせた改正かというふうに存じますが、いま一つ、いろいろ分社化ですとか会社の権限委譲が進んでおりますので、ここをもう一つ進めていただければ、さらにもう一つ、先ほど申し上げましたエグゼンプションの制度にまでつなげていただけたらばというふうに考えております。
○大島(敦)委員 残りの時間も五分となりましたので、今度は解雇のことについて伺いたいと思います。
まず、解雇について考えますと、川口参考人の方からまず伺いたいんですけれども、解雇について、私は、今の働き方、今私は四十代なんですけれども、二十代、三十代の方と、例えば働くという用語、一生懸命働いてくださいという用語、時間を守れというその用語、この用語の使い方のお互いの具体的なイメージが非常にずれがあると感じているんです。
そうすると、確かに今回の修正案の中にも、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合とあるんですけれども、これを労働者側も経営者側も僕はしっかりと認識した方がいいのかなと。個々の会社によって企業風土も違いますし、やっている業務も違いますから、就業規則、あるいは私のイメージとしては、就業規則の別添で一冊解雇に関する細かい規程集があって、例えばうちの会社は解雇ルールの五版を使いますよとか、私の会社は流通業の解雇ルールブックの六版を使いますとか、そのように具体的に細かく解雇のルールについて書いた方が、経営者側も楽ですし、労働者側も楽だと思うんですけれども、その点についてどうお考えでしょうか。
○川口参考人 おっしゃるとおりだと思います。
実は、先ほど行われた労働法学会の報告におきましても、解雇、もちろん正当事由が必要であるということを明確にするということは大事ですけれども、しかし、具体的に、言い方はいろいろあると思うんですけれども、正当な理由あるいは客観的に合理的な理由があって、社会的に相当と認められる場合の具体的内容をさらに明確化するということは、おっしゃいましたように、使用者にとっても労働者にとっても無用の紛争を防ぐ非常に重要なことであると考えております。
私が例えばフランスに注目しておりますのは、フランスの労働法典におきましては、フランスの言い方は違うんですけれども、現実かつ重大な理由があって、かつ法律上の所定の手続を履行したことというのが正当な要件でありますけれども、具体的に、現実かつ重大な理由というのはどういう場合にあるのか。例えば経営上の理由であれば、どういうような状況があって、それでこうこうこういうような解雇回避義務を尽くして、再配置義務を尽くしてということが詳細に定められております。あるいは、手続についても詳細な規定があります。
実は、このような形で解雇の有効性要件が労働法典上、つまりだれが見ても明確であるということが、フランスの労働裁判所制度において、非職業裁判官が裁判をできるということにもつながっているのかなと思いますけれども、そういう観点では、次のステップとしまして、客観的に合理的な理由があり、社会的に相当と認められる場合というのはどういう場合であるのかということを法令上明確化するということが非常に重要だと私は思います。
○大島(敦)委員 続きまして、紀陸参考人に同じ質問なんですけれども、私も、経営者側からもしも立てば、具体的に明確に会社の中で決まっていた方がこれから楽な時代になるかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○紀陸参考人 基本的には就業規則に定めた事由が原則になりますが、問題は、それ以外の事態が生じる場合が間々あるということだと思うのでございますね。基本的なことは就業規則の事項に書き込みますけれども、それ以外の事態が出来した場合にどうかということが間々ありますし、それは経営側としてもなかなかにその状況を予測できない場合があります。
かつ、どういう形で解雇せざるを得ないかというのは、その事業所とか従業員の方々とか、いろいろな条件を見ながら決定をしなければいけませんものですから、それが具体的に、個々の会社の中でどこまで予測ができて書くかというのは、ある程度難しい面もあるのではないか。できるだけ就業規則に事由を列挙していただくのは望ましいんでしょうけれども、場合によってはそういうことができにくい部分も含めざるを得ないのが現実ではないかなというふうに思ってはおります。
○大島(敦)委員 ありがとうございました。
これから司法制度改革で、司法に従事される方が非常にふえます。ですから、立法府としては、特に今回のような労働基準法の見直しということについても、事細かく立法府の意思を中に書き込んだ方が私は正しい姿かなと考えるということを若干つけ加えさせていただいて、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
○中山委員長 次に、武山百合子君。
○武山委員 自由党の武山百合子です。
きょうは参考人の皆様、貴重な時間をいただきましてありがとうございます。
それでは、早速、今、日本経団連の方からお見えになりました紀陸参考人に、今のお話の続きなんですけれども、いわゆる経営者側から見た解雇ルール、その点についてお聞きしたいと思います。
私、やはり二重構造というか、法律ではこう定めてあるけれども、現実はこうなんだという日本の労働基準法のもとで、本音のところをきちっと解雇するときに言えない、言わない、そこが問題じゃないかと思うんですよね。きょうは本音で議論させていただきたいと思うんですけれども、本人のためにも、きちっと解雇する理由はやはり言った方がいいと思うんですね。
それで、先ほど大島委員が質問した内容とリンクしますけれども、やはりはっきりと解雇ルールというものを国民にわかりやすく提示すべきじゃないかと思うんですけれども、その辺が、今のお話を聞いていると、確かにケース・バイ・ケース、いろいろあると思うんですけれども、でも国民にとってもわかりにくいと思いますので、ぜひその点の解雇ルールを、経営者側から、きちっとこういう解雇ルールだという議論というものはないのでしょうか。その辺、ぜひ経営者の立場からお話しいただきたいと思います。
○紀陸参考人 武山先生に御質問を賜りまして、御礼を申し上げます。
私どもは、企業の経営者の皆様方にできるだけきちんとした労使関係を築けというようなお願いをしてまいっておりますし、特に、労使紛争を未然に防ぐ観点が大事であろうというふうに常々PRしてきております。
その場合に、日常の労務管理のベースになるのが就業規則でございます。その中に、こうした場合には懲戒解雇になる、こうした場合には懲戒と言わなくても普通の解雇になる、そういう事由をきちんと定めておくというようなお願いをしておりますし、今の基準法の改正、それが実態的にも普通であろうというふうに思っております。
ただし、現実にもう一つ、やむを得ざる経営不振で解雇せざるを得ないような場合が出てくる、そういうことが間々ありまして、そこが紛争の源になる場合があるわけでございますけれども、私どもとしては、組合がない場合にも労使の協議のシステムをちゃんとつくって、そこでできるだけ労使でコミュニケーションを深めて、いろいろな解雇の場合にもトラブルが深まらないように努力を重ねてほしいというようなことをいろいろ企業さんには伝えているつもりではございます。
○武山委員 実は、私も小さな事務所を、武山百合子事務所というものの経営をしておるわけなんですけれども、この社会に入りまして十年、その中で事務員をずっと雇ってきたんですけれども、今社会が、確かに景気も悪い、それから雇用の安定なんて、本当に一部の人しか雇用の安定というものを得られていないと思うんですね。
それはすべて、あらゆる経済情勢、国のいわゆる政治の問題、それから大きな世界的な激変、あらゆる相互作用で今のような状況ができておるんですけれども、でもまた若い人に対する、どんなふうな考え方を持って、仕事に対する意識とかそういうものを見ていますと、年々非常に、私も雇ってみてわかるんですけれども、いろいろな基礎的な自分の知識それから自分の考え方、自分の行動というものが伴っていない人が大変多いんですよね。
そういうものを見ますと、やはり学校教育、家庭教育、社会教育、それから今まで企業は、企業に就職してから教育する、そういうものもあったと思うんですよね。ですから、いろいろな意味で解雇もケース・バイ・ケースだと思います、本音で言いますと。
それで、今、紀陸参考人がおっしゃったような実態は、それは表向きであって、就業規則にはそうなっておると言われておりますけれども、実態はその辺が、キャリアというものがきちっとついていないとか、仕事をする構えが足りないとか、いろいろそれは現実にあると思うんですよね。そこの問題を、これから働く人、働いている人、きちっとやはり明示する、明らかにする、それが非常に大事じゃないかと思うんですけれども、それについてもう一度紀陸参考人にお話を伺いたいと思います。
○紀陸参考人 御指摘のように、働く人たちの、若者だけではなくて女性の方も含めてなのでございましょうけれども、会社との関係といいますか、それが随分変わってきております。その会社へ勤めて、ずっと本当に生涯まで継続して働く気があるのかどうか、そういう意味で、働く人の意識が会社なのか仕事なのか、そういうことで結構分かれているような面があります。
ただ、いずれにせよ、会社としては、これも建前になるのかと思いますけれども、経営者の方々はやはり雇った以上はその人をちゃんと育てるというような一つ投資のコストも負担するわけでありまして、いいかげんな雇用関係を安易に結ぶというようなことは私どもは余りないんじゃないかというふうに思っております。
逆に、それがゆえに、解雇をするときにも、余りいいかげんな解雇というのは、先生おっしゃられますけれども、そんなにたくさんないのではないか。逆に、ある部分が乏しい、少ないから、それが何か全体的なような形で見えてくるのではないかというふうに思っております。
私どもとして、基本的には、できるだけ就業規則に解雇事由を明記すること、それができない場合もやはりありますので、できない部分をできるだけ、逆に規則の書き方としてそこの部分を少なくする。御指摘のように、こういう事由だったらば解雇せざるを得ないんだよということをできるだけ明らかにするという趣旨では全く同感ではございます。
○武山委員 それでは、小宮参考人に伺いたいと思います。
有期労働契約の更新、雇いどめですね。その件に対して、このたび、この法案で基準を設ける、いわゆる根拠規定を置くというふうにされております。それで、基準の内容としましては、事前の雇いどめの予告に関して規定を盛り込むということですけれども、行政機関が指導助言を行うこととされておるということで、これは当然のことだと思うんですけれども、この辺に対する先生のお考えをぜひ聞かせていただきたいと思います。
○小宮参考人 この点につきましては、従前も、確かに法律の根拠というものはございませんでしたが、指針という形で行政が介入するという形をとっていたわけです。
しかし、結局、根本の雇いどめということを規制する法律というものが明確なものがない状況のもとでは、今度新たな根拠規定を置いたとしても、どの程度の行政的な指導ができるのか。つまり、雇いどめは自由なんだという前提になっている限りは、これはそこに行政が介入する限界が当然に存在しているわけでして、そういう意味では、それほど大きな飛躍的な効果というものが出ないのでなかろうか。
それからもう一つ、私、ちょっと前に、今の指針が出ているときに感じたのは、何かそこの指針で書いてあることをやれば必ず雇いどめができるんだという逆の印象を与えている可能性もあるわけですね。つまり、裁判所に行きますと、指針で行ったこと、指針に書いてあることをやったからといって、必ずしも常に雇いどめが有効になるわけじゃないわけでして、これはあくまでも実態的な判断をするということなわけです。それがむしろ逆に、その指針にのっとってやっている、したがってこれは当然に雇いどめができるんだ、こういうふうな逆の効果を持つとすれば、これは非常に不幸なことであるというふうに思うわけです。
ですから、雇いどめというものを規制する根拠規定というのをやはりどうしても置かざるを得ないのではなかろうか。これはもう多くの国々において、特にヨーロッパにおいてはそういった雇いどめ規制というものを行っているわけです。
ただ、そのときに、合理的な理由ということを前提にして規制するというような国もありますが、この合理的な理由というのが、細かく厳格にしていけば今度は有期契約ができなくなっちゃうし、今度緩くしていけば何にも意味はないということになってしまうわけですから、むしろそれは実体規制というよりは、雇用の反復更新に対する回数あるいは継続期間、そういうもので、そこまで雇っているなら、当然のこととして労働者としては将来の期待というのも大きいわけです、それによって生活を維持している限りは。そこまでいくならば、むしろこれは期間の定めのない契約であるとみなすべきだ、こういうふうに私は思うわけです。
ですから、私はここでちょっとこのことまで言うあれはないんですが、できれば、今度の三年あるいは五年というのがもしできちゃったとして、そうしたら、例えば五年を超えた場合、三年を超えた場合には、もう既にこれは期間を定めない契約とみなすんだというぐらいの規定をやはりここで英断をして導入すべきだ、こういうふうに思うわけです。
先ほど述べましたように、解雇の規制も非常にファジーですし、この雇いどめもファジー。どうも日本の社会というのは、ファジーというのは最大の美徳のように感じているようですが、これはもうこれからの社会では通用していかないのじゃなかろうか。司法改革等もここで今問題になっているわけです。そういうことで、非常に透明性の、説明のできる、そういう法制というのをもうここら辺で日本でも導入すべきなんだというふうに私は思います。
○武山委員 今のお話からしますと、あいまいであるということが、いいにつけあしきにつけ、どっちにでもとられて、悪用する人が得みたいな社会に今なっておるわけですけれども、この有期労働契約の中で上限延長、これは不安定雇用労働者というものをやはりどんどんふやしていくんじゃないか、それから有期契約が若年の定年制にやはり利用されていくんじゃないか、それから正社員のかわりに有期契約労働者が結局採用されて、正社員のかわりの代替になっていく、恐らくそういうふうになっていくんじゃないかと思うんですよね。
これについて、小宮参考人にもう一回お伺いしたいと思います。
○小宮参考人 今の状況のもとではそのような心配は十分にある、私もそのように多分なっていくのではなかろうかというふうに思っています。
だから、それは、経営があくまでも利益を追求していくというその本質、本質はそれですから、であるからこそ、今言ったように明確な規定、あいまいな、ファジーなものじゃなくて、明確な規定というものをそろそろ導入すべきであるというふうに私は考えているわけなんです。
○武山委員 それでは、紀陸参考人に、今のお話で、明確な導入に対してはどう思われますでしょうか。
○紀陸参考人 有期雇用契約の延長につきましては、私ども、例えば三年とか五年の契約について、本当に企業がそういう人たちを雇う場合が増加するかどうか。ある程度専門性がないと、そういう雇用契約というのは導入する意味がないだろう。
今でも一年もあります。一年のものは一年のもので継続できるわけですので、ある程度期間の長いものを経営者が選ぶという場合には、やはり働く人との合意がなければいけませんし、その場合にどういう範囲でそれが広がるかというと、ある程度専門性のあるところ。そうすると、そういう契約を結ぶ事由とか、どういう場合にどういう条件でということは、ある程度両方ではっきりしているわけですね。
ですから、法文があいまいだということよりも、どういう形で企業がそういう実例をふやしていくか、あるいはその対象にふさわしい労働者がふえていくか、そっちの実態の動きをきちんと見る方が先ではないかというふうに私どもは考えております。
○武山委員 それでは、小宮参考人にお聞きいたします。
いわゆる裁量労働制の方ですけれども、要件を緩和するということで、手続や要件、これによって対象事業場がどんどん広がっていくんじゃないか、それから裁量労働制で、不払いの残業、そういうものがどんどんふえていくんじゃないかということで、これはやはり無原則な拡大というのは行うべきじゃないと思うんですけれども、これに対してはどのような見解を持っておりますでしょうか。
○小宮参考人 私の理解では、裁量労働制というのが導入されるときから、実は現実にもうサービス残業もいっぱいある。そういうサービス残業というのを野放しにしておくよりは、むしろこういう裁量労働制みたいな形でちゃんと何か枠をはめるべきじゃないか、こういう根底的な発想がどこかにあったんだというふうに理解しているわけなんですね。
ですから、今の状況は、そういうために果たして裁量労働制というのは役に立っているのかというと、必ずしもそうではない。そういう意味でも、先ほど申しましたように、裁量労働制という、これもまた非常に技術的で、何か立派なもののように外形上は見受けられるわけなんですが、これはやはりある意味では折衷的なというか、そこら辺のところがあいまいな規定であるというふうに私は理解していまして、特に今問題になっている企画型のものについては、私は規定自体反対なんです。
○武山委員 時間が来てしまいました。きょうはどうもありがとうございました。
○中山委員長 次に、山口富男君。
○山口(富)委員 日本共産党の山口富男です。
きょうは、参考人の皆さん、貴重な意見、ありがとうございました。
特に、多くの参考人の皆さんから、政府案にあります「解雇することができる。」という規定については、これは修正すべきだという意見が強く出されました。この点につきまして、私も修正が実現するように力を尽くしてまいりたいと思います。
さて、最初にお尋ねしたいのは、川口参考人に二点お尋ねしたいんですけれども、まず一点は、今回の裁量労働制の要件緩和の問題なんです。
これは現実には、労働時間の規制の問題で、その管理の外に多数の労働者を置くことになってしまう、それからまた、定期の報告もかなり中身が薄まっていきますから、チェックも弱まるというふうに私は感じるんですが、今度の改正案での裁量労働制をめぐる問題について、どういう意見をお持ちですか。
○川口参考人 まず、今お話のあった企画業務型裁量労働制導入の要件、手続の緩和についてですけれども、私も現行法制の方がベターであるというふうに考えております。いろいろな点で問題があるというふうに考えております。
ただ、一応何とか最低限の枠といいますか、五分の四以上の賛成というのは、使用者の選出した委員が全部賛成して、かつ労働者の過半数が賛成しているとかいうような形で、それから労働者の同意が必要である点は変わっていないので、最低限の枠は何とか維持されているのかなという気はしますけれども、しかし、現行法制と比べれば改悪であるというふうには考えております。特に、労使委員会の委員につきましては、単に過半数代表の指名だけではなくて、やはり過半数の従業員の支持を直接必要とするべきではないかと思います。
それに対しまして、専門業務型の裁量労働制の問題ですけれども、今回、健康・福祉確保措置と苦情処理措置が労使協定の必要記載事項として入りました。もちろんこれ自体、本来は、私は、単に労使協定で書けばいいと言うと失礼ですけれども、そうではなくて、法令上最低基準を定めて、健康・福祉確保措置、苦情処理措置、あるいは先ほど言いましたような実労働時間規制にかわるようなさまざまな措置を、法令上最低基準を定めるということは非常に重要だとは思いますけれども、ただ、こういう言い方をしたら失礼かもしれませんが、今まで何もなかった専門業務型裁量労働制について健康・福祉確保措置、苦情処理措置等の導入がされたということについては、一歩前進かなという気はいたします。
○山口(富)委員 企画業務型につきましては、現行と比べましたら改悪というお話がありました。
それで、私がちょっと危惧いたしますのは、現実に大手の企業で、従業員の三割まで裁量労働を導入したところがあるんですね。そうしますと、政府や日本経団連は、いわゆるホワイトカラーエグゼンプション、事務系労働者を労働時間の規制の枠外に置くという方向の検討を打ち出しているわけですけれども、裁量労働制の導入拡大というものがこのホワイトカラーエグゼンプションの方向の現実の通路になってしまう危険があるというふうに考えるんです。この点についてはどういう見方をお持ちですか。
○川口参考人 確かに、企画業務型の裁量労働制についての導入の要件、手続が緩和されたことは、さらなる緩和あるいは、さらにはホワイトカラー一般について、場合によってはもっと端的に、労働時間規制の適用を外すというような方向に行きかねないので、私としては、この点について、小宮参考人もおっしゃいましたけれども、そもそも企画業務型裁量労働制自体の存在に非常に疑問を抱いておりますので、それがさらにもっと端的に、みなし制とかいうことではなくて、労働時間規制の対象から外すということになることについては非常に危惧しております。
確かに、いろいろ企業間競争が激化していて、企業の方も大変だということはわかるわけです。しかし、ホワイトカラーであっても労働者であって、一定時間以上休息しなければ生活できないわけで、確かに企業の方からの観点というのはわかるわけですけれども、しかし、労働者から見れば一定の実労働時間規制というのは必要なので、だからこそ法令で最低基準を定めて、すべての企業がこの最低基準を守ってください、だれかが抜け駆けをして、いわば良心的な経営者、良心的な企業が倒産するというようなことにならないように、だからこそ労働基準法は最低基準をすべての者が遵守すべき基準としてしているわけですから、それについては、すべての企業が守れば、企業間競争のためにこういうことをしなきゃいけないということにはならないと思います。
もちろん、今は国際間競争も厳しくなっておりますので、日本だけの問題ではありませんけれども、だからこそ国際基準というようなものがあるわけですし、なかなか大変だ、これだけ口で言うのは大変簡単だというのはわかってはおりますけれども、むしろ日本というのは、そのような国際労働基準を引き上げるような形で、国際的な企業間の競争を社会的に公正なものとしていくべきであると考えます。
以上です。
○山口(富)委員 続いて、生熊参考人に何点かお尋ねしたいんです。
まず初めに、今も裁量労働の問題になったんですが、政府は、派遣労働、裁量労働、有期雇用、こういう問題を、労働者の側のニーズなんだ、これにこたえたものなんだというふうに盛んに言っているんですけれども、この点については、労働組合の側としてはどういうふうにごらんになりますか。
○生熊参考人 お答えします。
まず、事実から申し上げたいんですが、本当に派遣労働や短期雇用が労働者みずからのニーズなのかというのは、先ほど数字もお示ししたとおり、そうではないと思っています。
私も、ある企業で、大学、新卒の方が派遣労働者で見えました。その人にお話を聞きました。何で最初から派遣なんだと聞きました。そうしたら、就職先がないんだ、それで派遣会社の講習に行った、講習に行ったら、そこで帰ろうとしたら、登録しないで帰るんだったら二千円の講習料をよこせと言われた、それで私はやむを得ず登録した、今それが続いているんだということを言うんですね。
あるいは、私の知人の息子ですが、やはり専門学校を卒業した後仕事がない、その後、半年以上たってやっと見つかった仕事が、実はNTTのリストラの後の、一カ月の雇用契約の連続による契約社員なんですね。時給千三百円、社会保険も何にもない、こういうような状態です。
そういう面でいえば、私は、やはり就職先がないからやむを得ずそういう形になっているんだ、このことが事実ではないだろうかというふうに思っています。
○山口(富)委員 生熊参考人に引き続きお尋ねいたしますが、先ほどの意見の陳述の中で、有期雇用をめぐって、三年の上限というものを導入すると、これは決定的に変質することになるのだという指摘をされました。この点、もう少し具体的に、どういう変質になるのか示していただけませんか。
○生熊参考人 お答えします。
これも具体的な事実でお示しした方がいいかもしれませんが、時計でいうならシチズンという会社があります。ことしの四月から、新入社員はすべて三年の年俸制です。三年後にその年俸を大幅に見直すということが条件になっています。
私は、そのことを考えたときに、私自身の経験でもそうですが、新入社員で一年間で一体どれだけのものになるんだろうかというと、やはり私自身の経験からしても、そんなに仕事がわかるものではないというふうに思うんですね。経営者の方からしても、一年間でこの労働者がどういう労働者かというふうに見きわめるのは、やはりそれは決して簡単なことではないだろうと思うんですね。そこにやはり三年という意味が私はあるというふうに思います。三年間この労働者がどういう状態なのかということを、期限つきで雇ったときに、その後この労働者をどのようにしていくのか、もうここで雇いどめにするのか、あるいはその後これは使えるから雇用を延長するのか、さまざまな形で、言ってみれば、私は、労働者の選択肢じゃなくて企業側の選択肢がふえる、こういうふうに考えております。
ですから、一年間の臨時雇用ではできなかったことが、三年になることによって大幅にふえる。その危険が、現実の問題として、三年間の年俸制というふうな形の中で既にあらわれているのではないだろうかというふうに思っています。
○山口(富)委員 生熊参考人に、座ったところ申しわけないんですが、もう一点お尋ねします。
先ほどの陳述の最後に、今度の労働法制の改正の問題というのは、労働分野だけでなくて、日本の経済にも非常に大きな影響を与えるんだというお話がありました。そのときに、五千三百万人の労働者と、家族を含めたら八千万人の方がいらっしゃると。
そうすると、先ほどのお話ですと、一方では過労死が起こる、サービス残業も広がる可能性があると、さまざまな問題を指摘されましたけれども、日本経済という視点だけではなくて、二十一世紀の日本の社会という面から見ましたら、今度の一連の労働法制の改悪、これについてはどういう問題が生まれてくるというふうにお考えですか。
○生熊参考人 お答えをします。
大変いろいろな問題が起こってくると思いますが、内閣委員会でも少子化対策というのが今既に審議が始まっているようであります。その中では、企業での出会いの情報とか不妊治療というふうなこともされているようですが、先ほど御紹介をした国民生活白書、これを読んでみますと、やはり子供を育てるにはお金がかかる、だから子供が少ないんだ。結論として、この国民生活白書でも、結局、雇用を拡大することによって、少子化を加速しないようにすることが大事だというふうに述べているんですね。私は、本当に、この後の日本社会、例えば次代を担う子供たちを本当に安心して育てられるような、そういう子供たちを育てられるような状況になるのかということで、大変大きな問題が起こるというふうに思っています。
二つ目に、社会保障システムの問題です。
今、年金やあるいは健康保険の問題が次々に、私たちの言葉でいえば改悪をされています。この原因が、少子化というふうなことが言われています。しかし、少子化だけではありません。いわゆる正規雇用、期限のない雇用で働いている人たちの保険料と、あるいはこれが派遣や有期雇用になって労働条件が低下をしていったときの社会保障システムというのは一体どうなんだろうか、こういう保険料を払うシステムが本当に成り立っていくんだろうかということを私は強く感じています。
そういう点で、私は、単に現在の経済不況の問題だけではなくて、将来にわたって、少子化やあるいは社会保障システムの問題で非常に大きな悪影響が起こりかねないというふうに考えています。
それから、済みません、もう一言言わせてください。
実は、先ほどから国際競争力の問題などでいろいろ議論があります。確かに、今非常に厳しい競争下にあります。しかし、私は、経営者自身が言っていることに耳を傾けたいというふうに思っているんです。
日本経済新聞で、主要な経営者にアンケートをとりました。昨年の十一月二十九日付の日本経済新聞に発表されていますけれども、日本の大企業の経営者の八割近くが、技術開発力を中心に国際競争力を高める考えであることが明らかになった、中国の台頭などに対抗、大競争を生き抜くに当たり、技術開発力や知的資産という企業価値の基盤を充実させて難局を突破する決意が浮かび上がってくるというふうに言っています。
ですから、コスト問題は決してないがしろにできません。重要な問題です。しかし、大事なことは、やはり日本の物づくり、技術開発力、そして信用、ブランド力、こういうものを大事にしない限り、コストだけで日本の産業は生き抜くことはできないだろうというふうに私は考えておりますし、大企業の経営者の多くもそう考えているのではないだろうか、このアンケートの結果を見てもそう思います。
そういう面で、私は、コストだけで日本の労働者の働く条件を切り下げていくというこの流れに対して、どうしても、その結果は、実は労働者の問題だけではなくて、日本の企業そのものの内容にもかかわる、今後の発展にもかかわる大きな問題である、このようにも考えているところです。
○山口(富)委員 そうしますと、紀陸参考人にお尋ねしますが、先ほど、雇用を守るというのは経営の側の責任だというお話もありました。私は、当然、常用雇用がその中心になるべきだと思っているんですけれども、雇用を守るどういう努力をなさっているんですか。
○紀陸参考人 雇用を守るというより、人件費負担の支払いがきちんとできるかということが大事でありまして、結局、付加価値を上げて、その付加価値を人件費と利益に分配するというのが企業の行動でございます。今現在、企業で行われているのは、できるだけ利益を削って借金の返済をして、それでもなおかつ人件費が出てくるのは最後。賃金は下方硬直的な性格がありますので、実態の統計を見ても、そういうような傾向があらわれております。そういう意味で、できるだけ付加価値を高めるような努力を企業はされておられるんだというふうに私どもは考えております。
○山口(富)委員 リストラが一番大きい部分は大手の企業のところですから、私は、雇用を守るという責任は引き続き果たしていただきたいと思います。
小宮参考人にお尋ねしたいんですが、今度の解雇の規定の中で、就業規則の中に解雇の事由を明記するということになりました。これについてはどういうふうに評価されていますか。
○小宮参考人 これについては、従来から、一般的にはそのようにむしろ理解されてきたのではなかろうかと思います。そのことを明文化したというふうに考えているわけです。
就業規則にやはり解雇の事由を明示するということは、先ほどから数人の参考人の方が述べられたように、これは極めて大事であるわけです。ただ、就業規則にすべて書くということは果たしてできるかというと、やはりそれは限界があって、最終的には包括条項みたいなものが最後につくということになりますが、いずれにしても、そこのところにちゃんと規定があれば、その包括条項の内容の絞りもそこから解釈上できるわけですから、これは非常に重要なことであって、このことを明確にしたという意味では非常に意味があるのではなかろうかというように思います。
それだけではなくて、先ほど私ちょっと触れましたように、二十二条の二項、これとの関係で、やはり解雇するときの理由というものが明確になるということが今度の立法では非常に重要な目玉であるように私には思えるわけです。つまり、従前、退職証明の一部として規定されてきたこと、これだと、もし違った理由を後から出してきたとき果たしてどうなるんだというようなことは、法的には争いになり得るわけです。今回のような書き方、二項を設けた書き方によれば、これはやはり相当明確に、それ以外の理由というものを持ち出すことは一般にできないというふうに理解することができるというふうに思います。
○山口(富)委員 小宮参考人がおっしゃった評価からいきますと、やはり十八条の二の解雇の規制のところの問題をきちんと修正するというのが大事になると思います。
時間が参りましたので、終わります。
○中山委員長 次に、金子哲夫君。
○金子(哲)委員 社会民主党・市民連合の金子です。きょうは、五人の参考人の皆さん、ありがとうございました。
高須参考人にお伺いしたいと思いますけれども、有期雇用の問題で契約満了時にさまざまなトラブルが発生するということ、事例も挙げていただいておりますけれども、具体的に、主なこういうことがいつも問題になるんだというようなことがもしあれば、何点かお示しをいただきたいと思います。
○高須参考人 特に雇いどめをめぐってトラブルになるときに一番あれなのは、結局、その有期契約の性格がどういう性格なのかということですね。
通常、大概契約書をつくっておりますけれども、雇用の継続性のところで会社側がどういうふうなことを言っていたのか、長期に勤め続けられると言っていたのか、それとも一年限りと言っていたのか、それとも自動的に更新していくというふうに言っていたのか、その辺が大概文書に残っていません。
口頭でのやりとりはいろいろされているわけですね。当然、会社側からいえば、いい人材については長く残っていただきたいと思っていますから、いいことを言うわけですよね。ところが、いろいろ言質をとられない発言をしていたり、あいまいな発言をして労働者側に長く勤められるんだなと思わせたり、いろいろなことがあるんです。それが、いざ雇いどめになったときにトラブルになって、行き違いになってくるということだと思います。
○金子(哲)委員 そのことと重ねてお伺いしたいんですけれども、つまり、何回かの更新が行われている、それで、数回の更新があったにもかかわらずそういう雇いどめによるトラブルが発生するということはあるんでしょうか。
○高須参考人 もちろん、長い場合ですと、一年契約を二十年やったとか、六カ月契約を十何年とか、そんなケースがありますから、当然、十回二十回の更新をされている事例はたくさんあると思います。
○金子(哲)委員 そのときに、例えば労働者の側から、働く人の側から定めのない雇用にしていただきたいというような要望があって、それが無視されるとか、そういうこともあるんでしょうか。それともそういうときには、労働者の側からは、仕方がないということで全くあきらめているということなんでしょうか。
○高須参考人 当然、労働者の側から、気持ちとしては期間の定めのない契約にしていただきたいということがあると思いますけれども、結局、では次の更新がどうなるかわからないということもあって、大変びくびくしながらなかなかそういう主張もできないということで、現実の問題としては、長期に勤めたとしても、何度も何度も契約更新をしたとしても、期間の定めのない契約形態に変えていただける、あるいはそのことをちゃんと要求して変えてもらうということはなかなか難しいと思います。
○金子(哲)委員 そうしますと、先ほど川口参考人の最初のお話のときに、今回有期雇用については一回限り一年とすべしというようなことをおっしゃったと思いますけれども、そういう一定の制限をしっかりと法律上に明記をして、回数の重ねの場合には、二度三度になれば当然定めのない雇用に転換すべきだということを明示することが、やはりそういうトラブルを防ぐということにつながるということだと思いますけれども、その点について、もう一度お伺いしたいと思います。
○高須参考人 EUの有期労働指令だとか、あるいはILOの使用者の発意による雇用終了条約の勧告の方にも、契約の更新の場合のことが出ています。特にILOの勧告の方は、一回または二回更新した場合は期間の定めのない契約とみなすことというようなことが入っていますけれども、そういうことも踏まえて、やはり一定の更新を経た有期契約については期間の定めのない契約にみなすべきだ、そのことによって、雇いどめをめぐる紛争のトラブル等にならないように、そういうふうな法的な規制を考えていくべきだろうと思います。
○金子(哲)委員 もう一つだけお伺いしたいんですけれども、先ほど契約書の話が出まして、契約書のときには、一年か、まだ続きがあるかのような話だったんですけれども、例えばその契約書の中には、本来ですと、有期契約を結ぶわけですから、どういう理由があるから有期にしなきゃいけないと、例えばこういう臨時の作業があるために有期にするとか、だれかの産休の代替のためにやるとかいう理由がはっきりしているのが本当は本来の姿だと思うんですよ、有期雇用をやる際。そういうことは、契約書上明確にはっきりと事由が記載をされるようになっているんでしょうか。
○高須参考人 私、さまざまな有期契約の労働者の契約書を見てきましたけれども、まず、臨時的、一時的な業務だということが明確に言われているような場合というのはほとんどないです。仕事自身は恒常的にあって、常用であるにもかかわらず、今回の場合は契約社員の採用だということで期間が区切られている、そういう実態があると思います。
○金子(哲)委員 川口参考人にお伺いしたいんですけれども、私は、有期雇用の問題について、先ほどのお話は同意見だと思って聞いておりましたけれども、特に、先般委員会でも討論になったんですけれども、実はこの三年ということが女性の若年定年制に代替の形でいくのではないか。先ほどお話しになった一年ということが守られれば別なんですけれども、一回ということになりますと、実は三年、三年、六年。二十二歳の大学卒業生で二十八歳で、一回更新するとほぼもうこれで雇いどめにすれば、実際上、事実上の若年定年制につながるのではないかということが危惧をされているわけですけれども、その辺について、何かお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
○川口参考人 私も先ほど言いましたように、期間の上限が三年になったからといって、今まで半年や一年間で雇われていた方が三年間で多少雇用の保障になるということではなくて、今まで期間の定めのある労働契約で雇用されていたであろう方、特に、先ほどおっしゃいましたように、私自身は、女性の若年定年制が衣をかえてといいますか、復活するのではないかということについては大変危惧をしております。
ただ、先ほど私が契約の更新を一回認めると言ったのは、あくまで契約期間の上限が一年であるということを前提としておりますので、それをお含みいただきたいと思います。
特に私が念頭に置いておりますのは、先ほども少し言いましたようなフランスの法制度でして、フランスの場合は入り口規制で、使用者の方がまさに一時的に労働力が必要な場合にのみその利用を限定していて、かつ更新は一回で、更新を含めてトータルで一年半を超えてはいけないということになっておりますし、利用事由から外れた乱用的な利用や、あるいはそもそも期間の定めのある契約ですよというようなことを契約通知書に書かなかったような場合、あるいは上限を超えて雇用した場合は、期間の定めのない労働契約を締結して労働するものとみなすというふうになっておりますので、それを念頭にして先ほどのお話をさせていただきました。
あくまで、更新の一回というのは、上限が一年であるということの前提ということになります。
○金子(哲)委員 今回の一連の、この国会での労働法制のいろいろな改正提案されたものは、実は、派遣労働もそうですけれども、この有期労働もそうですが、期間の延長をする。しかし、実際に、そちらの方は非常に幅広く採用するようになったんですけれども、それと対になってやるべき労働者の側の均等処遇などのかかわりについては、全くと言っていいほど手はつけられていない、実質上使用者側の言いなりのやりようだというふうに私は思っております。
先ほど、ヨーロッパの場合、いろいろ例が出ましたけれども、実際、まずその前に均等処遇というものがあって、もともと有期雇用とか派遣をやっても余りメリットがない。しかし、日本のように、賃金は低い、そして、雇いどめでいつでも自分の思いどおりに首切りができるというような制度を放置したまま期間を延長するなんということは、本来あってはならないというふうに思うんです。
その点について、参考人の皆さんに一言ずつ、今回の法改正の中で、労働者に対する待遇改善というか処遇改善、本来延長しなくてもやらなきゃいけないことまで放置したままだと私は思っていますけれども、その点についてどのようにお考えか、一言ずつお聞かせいただきたいと思います。
○紀陸参考人 私ども、基本的には、同一価値労働同一賃金という考え方に立っております。
ただ、この問題で、同一価値というふうに判断をどういうふうにするかという物差しづくりが、企業の中でも、あるいはいろいろな職種の中でもはっきりしておりませんので、そこをまず先にやって、そういう作業の中で、だんだんと今の同一価値労働同一賃金というものが部分的に広がっていくのではないか、そういうふうに考えております。
○川口参考人 先ほども話をさせていただきましたように、まずは均等待遇の実現が前提となると思います。
例えば日本の場合ですと、差別的取り扱いは、例えば性別とか思想信条といったいわゆる労働者の人的な理由による差別的取り扱いの禁止法制しかなくて、例えばパートタイム労働者であるとか期間の定めのある労働契約によって雇用されているといったような雇用形態による差別的取り扱いの禁止法制というのは、法令の明文上一切ないというのは非常におくれている状況であると思います。
均等待遇ということを実現しますと、本当に、例えば、派遣労働者や期間の定めのある労働者を雇用するのは一時的にしか仕事がないから、パートタイム労働者を雇用するのは短時間の労働しか必要がないからということになるはずであって、そういう意味では、非常に中立的な意味合いを持つということになると思いますので、おっしゃるとおり、期間の定めのある労働契約につきましては、三年後にまた見直しがなされるということもお伺いしておりますけれども、期間の定めのある労働契約の位置づけとともに、雇用労働条件、特に均等待遇についてはぜひ検討していただきたいと思います。
○小宮参考人 その問題に関しましては、期間の定めのない雇用契約を論ずる場合に、当然に、ほかの非典型の契約における今言った均等待遇、これがやはり解決される必要があるというふうに当然考えております。先ほど紀陸参考人が、価値の判断をどういうふうにするのかというようなことをおっしゃっておりましたが、例えばイギリスなんかで、女性と男性の違い、これについての労働評価については、専門家が鑑定するというような制度を設けているわけですね。だから、それだって全く不可能なわけじゃないわけです。
それから、もう一つちょっとまたつけ加えさせていただきますと、私が先ほど、有期契約は期間の定めのないものとみなすんだ、そう言っている趣旨は、実はもう均等待遇をにらんだ発想なんです。つまり、期間の定めがあるから均等待遇というのは及んでいないんだ、こういう弁解はきかなくなるということが私の基本的な趣旨なんです。
以上です。
○生熊参考人 雇用形態による均等待遇の差別の問題は法的にはないんですが、私どもが取り組んできた事件があります。長野にある丸子警報器というところの事件なんですが、これは、長期に働いているパート労働者が均等待遇を求めて争った事件であります。裁判では、期間の定めのない労働者と比べて八割以下は公序良俗に反して違法となるという判決をいただきまして、その後和解をして、これを解決しています。
しかし、これだけでは私たちは足りないというふうに思っています。少なくともヨーロッパ並みに、パートであろうと何であろうと時間単位の賃金は同じにする、これがやはり基本的な原則であろうというふうに思っております。
それからもう一つは、雇用の問題でも、今でも、一年ごとの雇用の繰り返しは期限の定めのない雇用とみなすというふうになっておりますけれども、仮にもしそういう短期雇用というものが行われていくならば、次に雇用契約を更新するときには定めのない雇用にするべきである、こういうふうにも考えております。
○高須参考人 先ほども実態の話をいろいろしましたけれども、有期雇用労働者は本当に権利主張もできないし、権利主張をすればいつ雇いどめになるのかわからない、こういう事態の中で、やはり均等待遇の問題は非常に重要な問題であろうと思います。それを法的にやはり、これはパートや派遣や他の非正規労働者の問題と一緒ですけれども、含めて、均等処遇をきちっと法制化して、そのことによって逆に有期雇用を使っているメリットもなくなってきますからね。差別的労働条件であって、安く使い捨てができるから有期雇用が使われてくるわけで、その意味で、均等待遇という視点からきちっと規制をしていくことが、最終的には有期雇用の規制にもつながるんじゃないかと思います。
こういった問題も含めて、雇いどめの問題、それから先ほど言いました退職の自由の問題等も含めて、きちっと法整備が必要だろうと思います。
○金子(哲)委員 ありがとうございました。
いずれにしても、これから派遣や有期を含めて不安定雇用の労働者が事実上ふえてくるわけですから、それに歯どめをかけていくような均等処遇の問題は、これから大きな課題だということを改めてお聞きして感じたことを申し上げて、終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
○中山委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、一言ごあいさつを申し上げます。
参考人の皆様方におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。
次回は、明四日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時十七分散会