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平成15年12月25日
石油化学工業協会会長
石油連盟会長
社団法人日本自動車タイヤ協会会長 殿
社団法人日本鉄鋼連盟会長
産業事故災害防止対策推進関係省庁連絡会議
総務省消防庁審議官
厚生労働省労働基準局安全衛生部長
経済産業省原子力安全・保安院審議官
産業事故災害防止対策の推進について
最近、我が国を代表する企業の産業施設において火災、爆発事故等の重大災害が多発しており、設備の老朽化、設備の維持補修投資の減少、省力化・合理化による製造現場の人員の減少等の影響が懸念されている。
このような状況にかんがみ、総務省消防庁、厚生労働省労働基準局及び経済産業省原子力安全・保安院では、10月に3省庁共同で「産業事故災害防止対策推進関係省庁連絡会議」を設置して、各省庁の最近の取組みに関する情報交換、産業界からのヒアリング等を行い、産業事故災害防止対策について検討を行ってきたところである。
今般、本連絡会議では、産業事故災害防止対策の推進について、別添のとおりとりまとめを行った。各業界団体及び各企業においては、事業所の安全確保は各企業が責任を持って取り組むべき課題であることを踏まえ、今後、関連事項について着実に取り組むとともに、それらの取組状況について適宜本連絡会議と意見交換を行うよう要請する。
(別添)
産業事故災害防止対策の推進について〜関係省庁連絡会議中間とりまとめ〜
1.趣旨
最近、我が国を代表する企業の産業施設において火災、爆発事故等の重大災害が多発しており、設備の老朽化、設備の維持補修投資の減少、省カ化・合理化による製造現身の人員の減少等の影響が懸念されている。
このような状況にかんがみ、総務省消防庁、厚生労働省労働基準局及び経済産業省原子カ安全・保安院では、消防防災、労働安全、産業保安等の観点からそれぞれ取組を進めてきたとごろであるが、10月に3省庁共同で「産業事故災害防止対策推進関係省庁
連絡会議」を設置して、各省庁の最近の取組に関する情報交換、産業界からのヒアリング等を行い、産業事故災害防止対策について検討を行ってきたところである。
今般、本連絡会議では、産業事故災害防止のために各業界団体及び傘下各企業が取り組むべき事項、本連絡会議及び関係省庁において取り組むべき事項等について、下記の
とおりとりまとめを行った。今後、本とりまとめ結果に基づき、産業事故災害防止対策を一層推進していくものとする。
2.産業事故の動向
近年、産業事故は増加傾向にある。
総務省消防庁の調査によると、危険物施設の火災・漏洩事故は平成6年(火災・漏洩 事故件数:287件)頃を境に増加傾向に転じ、平成12年に過去最多の511件を記録した。その後もほぼ横ばいの状況である。特に石油コンビナート区域内で発生した危険物施設の事故件数の推移を見ると、平成3年の32件から平成14年には68件となり、顕著な増加傾向を示している。
厚生労働省の調査によると、労働災害による死亡者数は長期的には減少傾向にあるものの平成15年は10月末日現在で1,225人と前年同期の1,211人から増加に転じ、特に爆発・火災によるものが35人と、前年同期の8人に比べ、大幅に増加している。また、一度に3人以上の労働者が死傷する重大災害(交通事故を除く。)は、発生件数が71件から88件へ、死亡者数が29件から34件へと増加しており、中でも
爆発・火災によるものは発生件数が14件から25件へ、死亡者数が3人から25人と、前年より大幅に増加している。
経済産業省の調査によると、電気事業及びガス事業に係る事故件数はほぼ横ばいで推移しているが、高圧ガス災害については平成10年(89件)から一貫して増加傾向に
あり、平成14年は137件と、過去最高の件数となっている。
このように、分野ごとに多少の差異は見られるものの、産業事故は幅広い分野において近年増加傾向にあり、関係機関等の間で連携して、迅速・的確に対策を講ずることが必要な状況となっている。
3.産業事故災害防止上の論点
このような憂慮すべき現状の下、各省庁の最近の取組や一連の事故災害に係る調査状況等に関する情報交換を行うとともに、産業施設における実情を把握すべ<関係業界団体(石油化学工業協会、日本鉄鋼連盟、石油連盟、日本自動車タイヤ協会)からヒアリングを行い、以下のとおり産業事故災害防止上の論点を整理した。
(1)全体的事項
ア経営トップの認識、取組等
○経営トップの認識や取組が安全確保を図るうえで非常に重要であること。例えば、事故の少ない安全面における優良企業として業界内で認知されているところでは、経営トップを中心とした全社的な取組が功を奏している事例も見られるが、
その一方で事故が発生した産業施設では危機管理意識が希薄と思われる事例も見られること。
○設備の省力化や自動化の進展に伴って生産活動に従事する人員数や経費は相対的に減少傾向にあるが、厳しい経済状況下における経営合理化の必要性の中、生産性のみを考慮して無秩序に合理化が進められてしまうと安全管理のレベル低下を招くことが懸念されること。
イ安全確保に関する体制
○各級管理者の安全確保に係る権限と責任の範囲が明確化されていない、又は明確化されていても相互の連携が十分に図られていない事例が見られること。
○業務のアウトソーシング化の進展により、下請け、二次受け業者等が保安関連業務を行う事例が増加しているが、これらの業者に対する安全確保面での連携が十分行われていないおそれがあること。
ウ危険性の把握〜安全対策の計画・実施
○各事業所内の各エ程乃至は各施設の潜在危険性を洗い出し、それらを評価する作業が必ずしも十分になされていない事例があること。また、その前提となる書類やデータ管理についても、適切に行われていない例がみられること。
○業界内で事故情報や優良企業の事例等を共有することにより、より一層の産業事故防止が図られている例が存するが、一方で取組が遅れた分野が見られること。
(2)個別事項
○近年の新規採用人員の絞り込み等により、製造現場での安全確保に関する技能伝承が確実に行われなくなり、一方で事故防止対策を自らの体験等に基づき実践してきたベテラン労働者が退職の時期を迎えていること等から、安全確保に必要な知識・技能の取得レベルが相対的に低下しているおそれがあること。
○事故が多発していた昭和40年代からみると事故災害の発生件数が減少し、危険を直接経験することが相対的に少なくなった結果、若年労働者等を中心に、個々の従業員の危険に対する感受性が低下し、安全手順無視の事例が見られること。?
○自動化・省力化の進展等に伴って定常作業がブラックボックス化し、製造現場の従業員が現場作業に接する機会が少なくなっており、工事等の非定常作業の熟度が落ちているおそれがあること。特に、下請け業務の増加と相まって、非定常作業中の事故が多くなっていること。
○設備の維持管理について、科学的な裏付けによらない経験則的な合理化の積み重ねにより、安全確保に係る許容範囲を逸脱し、安全性が損なわれることが懸念されること。
○大規模・複雑な施設では、その位置、髄設備等の状況から、人的手段により火災等の早期覚知、初期消火等を行うことが困難な場合が多<、災害発生時に被害が拡大する事例が散見されること。
以上の論点の背景を整理すると、一般的に個々の産業施設における火災・爆発等の発生頻度は比較的小さいため、潜在的危険性や安全対策の重要性が認識されにくいことがあげられる。また、近年産業技術の進展等に伴い施設インフラや操業・管理方法等が高度化・自動化しており、一般従業員が危険を体感する機会が極めて少なくなっていることから、いわゆる「安全への慣れ」が製造現場で起こっていると考えられる。
一方で、産業技術の進展等による高度化・自動化、アウトソーシング化等により合理化が図られているが、これに対応した安全対策の見直しが十分図られているとは言い難い面がある。また、これら合理化に付随して産業施設に精通した者が減少等し、安全確保面での知識や技術が次世代に円滑に伝承されにくくなってきているとともに、従業員の災害発生時の適切な対応に困難が生じているという面がある。
4.各業界団体及び各企業がとりくむべき事項
各業界団体及び各産業施設においては、このような状況を踏まえ、次に掲げる事項に基づき産業事故災害防止対策を推進することが必要である。
(1)全体的事項
ア経営トップの安全確保に係る責務
○産業事故災害を防止するため、経営トップは安全確保を企業基盤の最重要事項の一つとして位置づけ、その旨を明らかにすること。
○当該認識の下、経営トップが自らの責任において、関係法令の遵守はもとより、安全確保に向けた実効性のある活動が展開できる仕組みを確立し、その確実な実施を図ること。
イ安全確保に必要な体制整備
○大事故を引き起こした場合の企業経営リスクを含め、幅広く長期的なリスク評価の視点から、産業施設の規模、形態、設置年数等に応じ、適切な保守・保 安に必要な組織・人員、経費等を確保すること。
○労働安全衛生マネジメントシステムをはじめとする産業事故災害防止に関するマネジメントシステムを整備すること等により、体系的かつ継続的な取組を実施すること。また、安全管理状況を客観的かつ定期的にチェックし、所要の見直しを図ること。
○事業所における各級管理者の責任範囲、必要な権限の付与、関係部署の有機的連携等について明確化すること。特に、操業、維持管理、工事等の業務についてアウトソーシングする場合、下請け会社を含めた統括管理・監督体制の整備、教育・訓練体制の整備など、作業現場ごとの管理体制を明確にすること。
○経営合理化や産業技術の進展等により、組織・人員、操業条件、設備・機器の維持管理方法等の変更を計画する場合、変更に伴う潜在危険性の変化に留意しつつ、所要の安全性を確保のうえ当該体制の移行を図ること。
ウ危険性の把握〜安全対策の体系的な計画・実施
○個別施設における事故やヒヤリ・ハット事例のほか、類似施設における事故情報・リスク評価手法等に基づき、潜在危険性(地震その他の災害危険性を含む。)を的確に洗い出すとともにその重要性の評価を行い、これに応じた安全対策計画の策定及びその確実な実施を図ること。この場合において、法定基準の
みならず、必要な事項にういては安全対策計画に盛り込むことが必要であること。
○産業事故災害対策を講ずるに当たっては、災害発生防止とともに、万一の災害発生時における被害軽減策(当該施設内の拡大防止、周辺への影響防止等) についても考慮すること。
○各分野ごとに、産業事故災害に関する調査分析及び関連情報(事故データ、産業事故防止に係る優良施設の取組内容等)の共有化、技術的指針等の開発等を推進すること。
(2)個別事項
○従業員、現場作業員、管理監督者等に対する安全教育・訓練を徹底するとともに、産業施設の安全管理に必要な技能伝承を組織的に担保し、必要な能カを有する者を適切に配置すること。また、必要に応じ体感教育やシミュレーションを取り入れる等して、産業事故災害の危険性に関する認識不足や、時間経過に伴う意識低下を補完すること。
○工事中における火気管理、可燃物管理、作業内容・手順について、現場の関係作業員が安全確保に必要な情報を共有できるよう、連絡調整等を徹底すること。特にエ事、整備などの非定常作業においては、二次下請け、三次下請けなどの業者が工事等を行う場合もあることから、これら実際に工事等に従事する者が事前に教育を受け必要な保安情報が周知されていること、必要な安全対策が現場で実施されているこ.と等の確認が必要であること。
○設備・機器の維持管理を徹底すること。特に、経年した設備・機器を継続して使用する場合には、客観的なデータ等に基づき、ライフサイクルと整合した計画的な点検、補修、交換等を実施すること。
○産業施設の省カ化・省人化、大規模・複雑な施設における人的手段による消火困難性等を考慮し、監視・制御、災害覚知、消火、延焼防止等に係る所要の措置を講じること。
5.本連絡会議及び各省庁で取り組むべき事項
(1)本連絡会議においては、関係業界団体等から報告を求め、現状の把握に努めるとともに、引き続き連携を図り、有機的かつ戦略的に対策を推進すること。
(2)産業事故災害防止対策の実効性を確保する観点等から、本連絡会議による連携のほか、地方との連携、地方における関係行政機関相互の連携、関係研究機関相互の連携等を図ること。
(3)各省庁では、上述の論点を踏まえた対策や、最近の重大災害を踏まえた個別具体の対策を推進するため、それぞれの所管事項を中心に、産業事故災害に関する調査・分析を引き続き進めるとともに、所要の法令・基準・制度の整備、ガイドライン・マニュアル等の策定、データ整備等を行い、産業事故災害防止対策を確実に推進すること。