[資料番号] 00160
[題 名] 労災保険の民営化問題資料(2) 官製市場改革WG議事「労災保険について」H15.9.30
[区 分] 労災補償
[内 容]
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労災保険の民営化問題関係資料〔2〕
第6回構造改革特区・官製市場改革WG 議事概要
1. 日時:平成15年9月30日(火) 12:30〜14:30
厚生労働省ヒアリング
テーマ○労災保険について
○雇用保険三事業の現状について
2. 場所:永田町合同庁舎2F 総合規制改革会議大会議室
3. 出席者:
(労働基準局)
労災管理課 杉浦課長
労災管理課 南労災保険財政数理室長
労働保険徴収課 白川課長
(職業安定局)
総務課岡崎課長
雇用保険課 生田課長
(職業能力開発局)
雇用保険課 妹尾課長
総務課 室川課長
(委員)
八代主査
安念専門委員
福井専門委員
(事務局)
内閣府河野審議官、宮川室長他
4.議事概要
(厚生労働省関係者入室)
○八代主査
本日はお忙しい中お出でいただきましてありがとうございました。構造改革特区・官製市場改革ワーキンググループを開催したいと思います。
本日は労災保険についてディスカッションしたいと思います。かなり大部な資料をいただいておりますので、最初、30分をめどにご説明いただいて、途中で細かい点などありましたら、ご質問させていただこうと思いますが、よろしくお願いいたします。
○杉浦課長
予めご質問頂いた項目に沿いまして説明をさせていただきたいと思います。
1ページの1の(1)でございます。ご質問は、労災の保険料率が必ずしも業種別に適正に定まっていないのではないかというご趣旨かと思います。
私どもの考えとしましては、そもそも労災保険と申しますのは、労働基準法で定められております事業主の無過失賠償責任であります災害補償責任を肩代わりする法律上の保険であるということで、すべての産業にわたり適用され、事業主すべてがその費用を負担するという、社会保険として運営を国自ら行っているわけでございます。
社会保険につきましては、私保険と異なりまして、保険料については危険に応じて定められるべきという原則は貫徹されないということで、給付と反対給付とは必ずしも均衡しないという考えであるというふうに承知をしております。
労災保険におきましては、2ページにございますように、安全衛生行政と相まって事業主の災害防止の自主的努力を促進するという政策的な意味、それから、事業主間の保険料負担の公平を考慮する必要があるということから、業種別に保険料率に差を設けることにしておりますけれども、今申し上げました2つの政策目的が達成できれば、必ずしも業種別に収支が均衡する必要はないと考えております。
このため、具体的な保険料率の設定、改定に当たりましては、災害が急に多く発生するとか、産業構造が急に変化するといった場合が生じたときには、激変緩和といったことも考慮いたしまして、そういった社会経済状況を考えながら業種間での調整を行ってきているところでございます。これらにつきましては、その手続としまして、保険料の負担を行う使用者、受益者たる労働者、公益の三者から構成される審議会において全体的な判断が行われているということでございます。
また、具体的な算定に当たりましても、短期の部分については過去3年の保険給付をもとに業種別に設定するというのが基本でございますけれども、短期のうちの3年を超える長期療養者分及び長期給付で災害発生時から初回受給が3年を超える部分については、先ほど申し上げたような観点も踏まえまして、業種のみの負担ではなくて全業種一律の負担で算定しているところでございます。
こういったことから、業種ごとの災害発生率とか収支率のみから保険料率が設定・改定されているわけではございませんので、その判断あるいは手続は今申し上げたような手続であるということをご承知おきいただきたいというのが第1についてでございます。
5ページにまいりまして、(2)通勤災害でございます。ご質問の趣旨は、通勤災害の料率についても業種別にメリット制と言いますか、差を設けるべきではないかということかと思います。
通勤災害におきましては、業務災害と異なりまして、通勤そのものが事業主の直接の支配管理下にない。一方で、住居の選択とか、通勤手段、経路の選択といったことも業種に関係なく、労働者が自由に決められることでございますので、事業主がそういったことに対して災害防止努力を具体的にやるということは考えられないという配慮から、保険料率については業種に関係なく一律の負担としているということでございまして、これらについて業種別のメリット制をとるということは困難であろうと考えられます。
6ページの(3)のご質問は、労災福祉事業の関係の料率で計算いたしますと、事業費すら賄えないのではないかというご趣旨かと思います。
これは質問された方のご認識と我々の考え方の説明が食い違うというか、説明が不十分かもしれませんけれども、平成13年度決算における労働福祉事業の支出内訳、これは既に8月8日に出しておりますが、次のページをご覧いただきますと、労働福祉事業費等が2,740億円ございます。ただ、そのうちの福祉施設給付金1,273億円、さらにそのうちの特別支給金1,267億円につきましては、労働者災害補償保険法の施行規則の四十三条、条文は10ページにつけておりますが、この四十三条の条文の1行目から2行目にございますように、「労働福祉事業(労働者災害補償保険法特別支給金支給規則の規定による特別支給金の支給に関する事業を除く。)」ということで、特別支給金の部分につきましては、本体給付、労災の保険給付とあわせて業務災害と非業務災害にかかる料率算定に含まれることになっておりまして、いわゆる労働福祉事業の金額の中からは除いて計算する仕組みになっております。
したがいまして、先ほどの7ページの数式で申しますと、@の2,740億円から特別支給金のAの1,267億円を引いた1,473億円、これがBでございまして、これに事務費の754億円をプラスした合計額が2,229億円となります。
6ページに戻っていただきまして、そちらで計算された賃金総額から見た1.5/1000ということになりますと、2,234億円でございますので、その2,234億円のうちには含まれているという形になります。ですから、そこで労働福祉事業が赤字になっているということにはならないということでございますので、その辺をご理解いただきたいと思います。
それから、11ページの(4)でございます。(4)も問1と似たような、収支率から計算された場合に、改定が十分になされていないのではないかというご趣旨かと思います。
料率の設定にかかる考え方につきましては、ご指摘のような業種ごとの収支率をもとに設定されているわけではございませんで、(1)で述べたようないろいろな配慮、さらには長期給付分も踏まえた計算方式により算定しているところでございまして、一定の手続のもとに判断をして計算しているというのが我々の考え方でございます。
なお、労働政策審議会の労働条件分科会の労災保険部会に、毎回、料率を改定する際にご審議を願ってご了解をいただいているところでございまして、そこに関係の資料を出し、ご議論いただいておりまして、それを公開しておりますけれども、今後とも必要な資料について公開していく所存でございます。
なお、前回と前々回の資料並びに当時の料率改定にかかる議事録を、参考資料として12ページから21ページまでにつけてさせていただいております。
それから、22ページの2の労働福祉事業についてでございます。(1)として、労働福祉事業で行われている特別支給金が、わざわざ本体給付とは別勘定で行われている理由というのがご質問の趣旨かと思います。
特別支給金については、例えば休業補償給付のように、本体給付に20%上乗せをするといった形で本体給付に上乗せをする部分と、CとDのように賞与などの特別給与を算定の基礎として計算しているものとがございます。これらはいずれも実質的には保険給付と相まって、それを補うという所得的な効果を持つものでございますけれども、被災労働者の援護を図るためということで公労使三者の合意により、保険給付により満たされている労働基準法上の補償の水準、あるいはILO勧告の補償の水準以上に支給を行っているものであるため、労働福祉事業で行っているものでございます。
具体的には、23ページに労働基準法とILO勧告の条文を載せております。基準法では、例えば療養の場合には平均賃金の60/100の休業補償となっておりますし、ILO勧告では、(a)とか(b)にありますように、三分の二というのが1つの基準になっておりまして、いわゆる法律上の補償に対する本体給付としてはこれらのレベルということで支払っておりますけれども、それらを上回る被災労働者の援護、社会復帰を促進するというところについては、労働福祉事業という形で支払っているという考え方の整理でございます。
次が(2)の義肢・義眼等の費用を労働……。
○八代主査
すみません、途中ですけれども、今のご説明の意味を確認したいと思います。
ILOとか労働基準法では今の法律上の水準というふうに決まっているけれども、政策的判断によってそれ以上必要であるという判断をされたから、それは福祉事業だということなのですが、なぜ政策上の判断で本体の水準を高めてはいけないのかという点がよくわからないのですが。
○杉浦課長
いけないということではないのですけれども、あくまでも労働基準法という法律が最低基準を定めるという思想に基づいておりますので、その最低基準に対する保険の給付は本体給付でやりましょうと。さらに、それを上回る部分についての被災労働者の援護とか社会復帰の促進といった政策的な意味の部分については労働福祉事業でやろうというのが、考え方の整理となっているものでございます。
○八代主査
それだとよくわかるのですが、ここで問題になっているのは休業支給金という、単にリハビリとか回復という余分のではなくて、まさに金額自体を上乗せしているわけで、それは事実上本体給付と変わりはないわけですよね。
○杉浦課長
実際の支給の場面では変わりはなくなりますけれども、そこはあくまでも基準法の最低補償といった考え方に基づく給付と、さらにそれに付加する部分の給付という考えを分けているということでございます。
○八代主査
なぜ分けなければいけないのかというご説明がもうひとつよくわからないのですが、手厚く補償するというのは何も悪いことではないので、労働基準法の最低給付という水準を単に20%増しのものに変えるという議論はなかったのですか。
○杉浦課長
詳しく過去の経緯を調べたわけではございませんけれども、労働基準法そのものが労働条件全般について最低条件を定めるということで、それ以上の部分については労使で定めるというのが基本的な考え方になっておりますので、法律で最低基準を補償するといった考え方が労災保険にも使われてきているというふうに理解しております。
それを法律上も8割にすればいいではないかというのは方法論としてはあるかもしれませんけれども、基準法上の補償責任とリンクした考え方できているということでございます。
○八代主査
もうちょっとわかりやすい解釈をすると、一たん上げてしまったら、法律で下げるのは大変だから、とりあえず余裕があるときに福祉事業という形で上げておけば、万一またこれを下げるのはやりやすいとか、そういう判断もあったというふうに理解していいですか。
○杉浦課長
そういう考え方はありません。
○八代主査
わかりました。
○杉浦課長
次、24ページの(2)、義肢・義眼等の費用を労働福祉事業で行うことの合理的な理由についてお示しいただきたいということでございます。
ただいま申し上げましたように、労災保険は、本体給付としては必要な保険給付、さらに被災労働者の社会復帰の促進という観点で、労働福祉事業という考え方でやってきております。例えば療養そのものに必要とされるコルセットとか補装具といった治療用の材料については、元来から療養補償給付の対象としているところでございますが、これ以外の義肢等の補装具については、治療の遂行上必要ではないということで、療養給付の対象にはなっておりません。これは健康保険と並びの考え方でございます。
義肢等につきましては、治療を終えて、それからさらに症状が固定化した後の援護とか社会復帰促進のための必要な用具という考え方でございますので、その部分については労働福祉事業で手当てをするという考え方の整理でございます。
25ページが労災保険の民営化についてということで、労災保険を現行の自賠責保険とほぼ同様のスキームで民営化した場合において考えられる問題点及びその理由等についてというご質問でございます。
最初の質問にもございましたけれども、労災保険というのは労働基準法上の刑事罰をもって担保されている災害補償責任を肩代わりするものとして、法律で定められている制度でございます。一方、自賠責保険というのは、あくまでも民事上の責任の担保という制度でございまして、交通事故における刑事責任とは全くリンクするものではないというのが1つの違いでございます。
さらに、労災保険は、先ほど申し上げましたように、すべての産業にわたり適用され、事業主すべてが費用を負担している保険として国が行っているものでございます。このために、強制保険としまして、適用・徴収については、未手続事業主に対する職権で保険関係を成立させるとか、保険料を滞納している事業主に対しては、滞納処分をかけるということで、強い手段を背景にしております。これは権力的な行政行為でございまして、国自ら執行すべきものと考えております。
こういったことがございまして、私どもとしては労災保険を民営化することは困難であると思っておりますが、その問題点としましては、次のページ以降に縷々述べさせていただいております。
問題点の前に、私どもで整理させていただきました自賠責保険の特徴としましては、保険者は民間の損害保険会社でございます。強制保険等ということで、契約を締結する、車の使用者が保険会社と契約を締結するということを法律で強制している。それから、保険会社に対しては、引受義務を課しておりまして、拒否はできないことになっております。それから、保険給付は、一定の定型・定額化された支払基準に基づいて支配額を決定する仕組みになっておりまして、法令によって限度額が設定されております。それから、保険料率の設定については、ノーロス・ノープロフィット、利益も損失も出さないということで、一定の料率を設定しているというふうに整理をしております。
これを労災保険に当てはめた場合、大きく分けて4つの問題点が考えられると思われます。1つは、制度運営が非効率になるのではないかというおそれでございます。自賠責の関係の資料を取り寄せてみましたところ、民間の損害保険会社を保険者として運営を行わせることになりますと、保険会社の社費と代理店手数料といったコストが生じてくることは避けられないわけでございます。現在、保険料率の約3割が付加保険料という形で徴収されているという資料がございます。
次のページにそのグラフ並びに数字を載せてございます。労災保険の場合には、13年度で申しますと、収入全体に対して業務取扱費等は754億円でございまして、割合としては5.2%でございます。これに対して自賠責の場合は、12カ月契約と24カ月契約で資料が分かれておりましたけれども、いずれにしても3割前後を社費・代理店手数料として、本体の保険料とあわせて徴収しております。ですから、単純な比較はできませんけれども、これを比べて見た場合、相当の事務的コストがかかるのではないかというおそれがあります。
28ページでございます。問題点の1の2番目の問題点としましては、再保険または共同プールといった仕組みが不可避ではないかと考えられます。民間会社においては事業運営が破綻するというリスクは避けられないわけでございます。特に労災保険の場合は年金給付を行っておりまして、自賠責は一時金でございますけれども、年金を長期間にわたって支払うわけでございますので、その途中で民間会社が破綻した場合の手当をどうするかということが大きな問題としてあり得るのではないかと思います。
このために考えられますのは、損害保険会社は責任準備金といったような積立金を設けるとか、再保険とか共同プールといった仕組みが避けられないと思いますけれども、それに対して一定のコストというか費用がかかってくるわけでございまして、果たしてそれが損になるのか得になるのかということは十分考えなければいけないと思われます。
注意書きで書いてありますのは、最近話題になっておりますカリフォルニア州の例で申しますと、1995年以来25を超える労災保険会社が破綻し、清算手続等を行っているということを情報として得ております。こういった場合の手当も含めて考えなければいけないということでございます。
3つ目としまして、政府管掌保険・民間管掌保険は併存せざるを得ず、効率性が問題となるということでございます。民間企業において必ず保険適用させるという仕組みを講ずることは、後ほど申しますけれども、これはこれで多大なコストを要することが考えられるわけでございます。さらに、未手続の事業場、契約に入ってなかったところの事業場で災害が起こった場合には、その労働者を放っておくわけにはいきませんので、それに対する何らかの手当が必要となってまいります。そういった場合には、自賠責の場合でも、政府管掌の一定の保障事業をやっているわけでございますけれども、一部においては政府が手を加えてと言いますか、最後のフォローをしなければいけないということになってまいりますので、その部分が効率的であるかどうかということは十分に見極める必要があるのではないかというのが私どもの考えでございます。
4番目としての参考資料でございますが、主要諸外国と比べた保険料率は、日本が圧倒的に低いと考えられます。また、30ページは、アメリカにおける州全体の資料から見た推算でございますけれども、先ほど申しましたように日本が5.2%ぐらいの事務的コストでやっているのに比べまして、2割強ぐらいの事務的コストがかかると推計されております。主要諸外国の中でも民間が参入しているのはアメリカだけでございますけれども、こういったところでも果たして民営化が効率的になるのかどうかということの見極めが要るのではないかと思われます。
次は31ページ、問題点の2でございますが、自賠責のような加入を担保する仕組みを労災保険でとることは非常に難しいのではないかと思われます。すなわち、自賠責の場合には、車を運行の用に供するに当たりまして、自動車検査証を交付するということで、検査証がなければ車は走らせられないですけれども、その前提として自賠責に入らなければいけないという手続になっております。しかも、検査証には有効期限があって、2年ないし3年で車検を受けなければならないということになって、定期的に相手を捕捉することがほぼ100パーセント可能になるわけでございます。
労災保険の場合には、事業を開始したときに届出をさせるということに法律上なっております。もちろん保険料を適正に払っていただければそれはわかるわけでございますけれども、100パーセントそれを継続的に捕捉するといった手続にはなっておりません。仮にそれをさらにいろんな形でやろうとすれば、それなりのコストあるいは手続的なこともかかってまいりますので、かえって規制強化になる場合も考えられるのではないかと思われます。
このような形で、仮にそういったことで何らかの形で講じられたとしましても、最後の段階で事業主が保険を契約していなかったという場合にあっては、そこは基準法上の責任として使用者が責任を果たせばいいのですけれども、保険が払われないということになれば被災労働者の保護に欠けるということに結果としてならざるを得ないわけでございまして、そこはなかなか難しいのではないかという考えでございます。
それから、問題点の大きな3としましては、多種多様な災害に対し公平な認定を行うことが困難となるケースがあるということでございます。自動車事故の場合は、衝突による怪我が保険事項になるわけでございますけれども、労災の場合にはいろんな事業の中における怪我だけではなく疾病もございます。
特に職業病のような場合には、それを外形的に判断することは非常に難しいわけでございまして、そこの中での業務起因性、事故と病気との因果関係、それから、業務遂行性、支配管理下にあったかどうかということを見極めることが大事になってくるわけでございます。そういったことをしっかり判断するためには、資料も集めなければいけませんし、具体的に調査をしながら決めていかなければならないということになってくるわけでございまして、自動車事故と同列に語ることは難しいのではないかということでございます。
2番目としまして、個別の事例の認定基準のあてはめに当たっても、全国どこでも公平に扱う必要がございまして、今申し上げました業務起因性とか業務遂行性の判断につきましては、個別具体的な判断が出てまいります。しかも、それは公平にやらなければいけないわけでございますので、全国のさまざまな認定事例から得られる情報を蓄積した行政機関が斉一的かつ迅速にやることが必要ではないかというのが私どもの考えでございます。
3番目、給付に当たりましても、個々の労働者の給付基礎日額、平均賃金ですが、それをもとに算定して、個々人に対する給付が大幅に違ってまいります。一方、自賠責というのはある程度定型化されておりまして、被害の程度等によって決まったお金を払うということでございますので、その辺の手間ひまと申しますか、事務量もかなり違うのではないかということでございます。給付基礎日額の算定に当たっても、監督署の職員が必要に応じ事業所に立ち入りして調査をし、決定するということを現実に行っているわけであります。
最後の大きな4番の問題点としましては、労働基準監督行政・安全衛生行政との一体性でございます。最初の方で申しましたように、労災保険事業というのは基準法上の災害補償責任の裏打ちとしての保険制度でございまして、あわせて災害防止努力を促進するという考慮もされた上での制度になっております。こういった観点から、1番に書いてあることは、保険給付のための事業場調査をやりますけれども、そういった中で労働基準法の問題、あるいは、安全衛生法上の問題が出てきた場合には、そういったものを迅速に把握することができますし、それに対する的確な指導を行うことができると思われます。これに対しまして、民間がやる場合には保険の申請、手続は民間がやり、安全衛生に対する行政は監督署がやるということになりますと、そこでの連携がうまくいくのだろうかという懸念があるわけでございます。
そこに事例としてありますのは、例えば労災の給付申請をチェックする中で、監督署の職員が機械の不備等を発見して調査をするという事例、あるいは、事業主が不正受給をたくらんで、労災隠しということで、監督署には報告義務違反をしないということを、届出先が2つになっているというようなことで、連携がうまくいかないのではないかということでございます。
それから、2番目に書いてありますのは、災害が発生した場合には、労働基準監督署の職員が現場に出向きまして、因果関係の調査等をやるわけでございますけれども、そういった事例の集積が労災保険における認定給付の材料として大いに役立っている部分があるわけでございます。そういったことから、立入り権限のある部署と同じ組織が労災保険もやっているということで、未然に不正受給を防止できる抑止効果もあるのではないかと思われます。事業主にしてみれば、保険を出す相手と、監督署というサーベルを持った機関が別々になっているよりも、1つの役所に申請を出すということでの心理的抑止効果というものは大いにあるのではないかと考えておりますので、そういったことが民間部門と切り離した場合にうまくいくのかという懸念でございます。
以上が、ご質問の事項でございます。あと3点ほど、資料としてご要望があったものもありますけれども……。
○八代主査
事務ベースで質問があれば、後で聞かせていただきます。
今までお話いただいた点について質疑応答を始めたいと思いますが、安念先生、ありますか。
○安念専門委員
自賠責との違いですが、自賠責の場合は法律上のスキームは国家がつくって、オペレーションを民間会社がやっているという形ですね。ここでの労災も民営化できないかというのはそういうことを意図している話だろうと思うのです。その場合、現在は国営でやっているわけだから、それを仮に民営にするとした場合、トランディショナルな移行期に非常に大きなコストがかかるというのであれば、全くそうだろうと思うのだけれども、仮に更地から制度をつくったとした場合どうでしょうかね。
自賠責の場合と労災とそんなに違いますかね。事実上どちらも無過失責任だろうし、それから、保険会社の破綻についても自賠責だって同じことですよね。だとすると、何が決定的に違いますかね。
○杉浦課長
現実に、先ほども説明しましたような事務的コストの比率から比べても違う部分はあるわけでございますし、そもそもそれは同じような種類だからということもかもしれません。つまり、労災保険というのは何を保護するための保険かというところで我々は考えているわけでございまして、それは先ほど申しました基準法とのリンクの中で労働者保護を考えるための保険制度ということが基本にあるというのが私どもの理解です。
○八代主査
後で聞こうと思ったのですけれども、事務的コストが安く済んでいるというのは理解できないのです。労災保険を担当しておられる公務員の方の給料は事務的コストに入っているのですか。
○杉浦課長
入っています。
○八代主査
それはすべてですか。
○杉浦課長
基本的に厚生労働省本省にいる人間にはいろいろな業務が重なっておりますけれども、労働基準監督署の窓口でやっている職員のコストはこれに含まれております。
○八代主査
立入りとか認定とかをしておられる方ですよね。
○杉浦課長
はい。
○八代主査
民間で言えば保険給付というか、その辺は特定だけでなくて、民間と同じような業務の運営というのは本省でやっておられるのですかね。まさに労災保険でも料率を算定したり、審議会の運営をしたりという人も、広い意味の労災関係者であるわけで、その部分は当然反映されなければいけないわけですよね。
○杉浦課長
そういう人たちの部分はもちろん入っています。ただ、管理職などでほかの部分と共通の部分がありますから、そういう人たちは一般職の人間もおりますけれども、専ら労災をやっている職員は労災保険からの金でやっております。
○福井専門委員
民間でやる場合の人件費のデータは何を使っておられるのですか。
○杉浦課長
自賠責から取り寄せた資料でございます。
○福井専門委員
労災保険で必要となる人件費にどういうふうに換算しているのですか。
○杉浦課長
27ページで先ほどご説明したとおりでございます。中ほどにございますけれども、労災保険の場合には、保険料収入全体に対する業務取扱費等は全部事務的コストとして計算した場合に5.2%
という計算でございます。それから、自賠責の方は、12カ月契約と24カ月契約がございますけれども、下の方に書いてございます付加保険料が事務的コストだと考えられますので、それを考えると3割前後の数字というふうに承知をしております。
○八代主査
こ
れは自賠責と労災という全然違う保険を単純に比較したものですけれども、仮にやってみたら、運営費のコストが労災の方が低いという資料ですが、労災事故の方が圧倒的に自動車事故よりも可能性としては少ないわけですね。そういう面もあって、これ自体は比較できないので、自賠責のような民間の形をとった労災保険をつくったらどうなるかということとは全然関係のない資料ですね。
○杉浦課長
それにしましても、一定の事務的コストはかからざるを得ないわけですね。それは単に労災保険の場合と比較したらどうなるかということで出させていただいております。
○福井専門委員
労災を民間でやったとしたときに必要であろう事務的経費と現在の事務的経費の比較がないと。一般的に言えば公務員が営む事務的経費の方が民間より安いというのは、通常の直観からすると異常な結論ですので、そうではないということはよほど実証的なデータをいただかないと一概には納得しかねるということがあります。
○杉浦課長
もともと我々は政府がやるべきものと思ってやっておりますので、民間が最初からやるという前提の資料は、残念ながら持ち合わせておりません。
○福井専門委員
そういうそもそも論の話ではなくて、事務的に高くなるというのであれば、同じことをやるとしたときにそれでも高くなるというデータが要ると思いますね。
○安念専門委員
国営である根拠ですが、データに基づく実証を要する問題だから、理論的に言ってもしようがないので、調べるしかないのですが、仮にこうだとして、オペレーションコストが安いことが理由であるのか、それとも制度の思想から淵源しているのか。ちょっとわかりにくいところがあったのですが。
○杉浦課長
基本的には制度の思想ですね。それは自賠責と同列には考えられないのではないかと。あくまでも国が権力的行為をもってやる処分の裏打ちとしての保険制度だという認識なので、それを単純にコストが安いとか効率性が高いとかいうことだけで、同列に民間でやってもいいということにはできないと我々としては思っております。
ただ、コストの比較の仕方はいろいろご意見があるでしょうけれども、民間にした場合にはそれなりのコストがかかるだろうということでございます。
○福井専門委員
思想的というところなのですが、自賠責は加害者の補償責任を担保するためですね。
労災は事業主の補償責任を担保するため。この場合に自賠責の加害者と事業主というのは思想的に何が違うのですか。
○杉浦課長
自賠責は民法上の、民事上の損害補償責任ですよね。労災保険の場合には、冒頭ご説明申し上げたところなのですけれども、労働基準法という最低基準で規定した刑罰上の法律がございまして、その責任を肩代わりするための保険ということで成り立っているというのが思想的に全く違うところでございます。
○福井専門委員
労災と言いますか、事業主の災害補償責任は民法上の責任ではないということですか。
○杉浦課長
いや、労働者に負わせた民事上の責任は当然発生しますけれども……。
○福井専門委員
労働者じゃなくて、事業主です。
○杉浦課長
あ、事業主に発生いたしますけれども、法律で最低基準として無過失で補償責任を労働基準法で定めております。その部分についての保険制度は労災保険がやるという仕組みになっております。
○福井専門委員
それはちょっとトートロジーなのです。要するに、今ある制度から今の制度の合理性を説明することはできないのでね。法令の選択というものは立法裁量があるわけですから。同じ民事上の責任だと、ベースは公法上のものではなくて、民事上のものだということが前提となっているときに、その責任をどういう形で分散させたり分担させるのかというのが、政策論的に話題になっているわけですから、今の制度がどうなっているというのではなくて、今の制度が思想的に別物として扱っていることに合理性があるのかということをお聞きしているのです。
○杉浦課長
労災保険と自賠責との比較という発想ではなくて、労働基準法で定められております労働条件全般について使用者が果たすべき責任は何かと。それを刑事上罰則をもって担保しているというのが基準法でございます。その基準法上の無過失の災害賠償責任を担保するために今の労災保険制度があるわけでございます。ですから、民事上の災害補償責任を労災保険でカバーしているというものではございません。
○福井専門委員
ですから、具体的に現在の制度の中で国、いわば内閣が責任をもってつくった制度の中に自賠責と労災と両方あるわけです。自賠責の方が民事上の責任で、なおかつ民間の自賠責の形で運営されている。もう1つの労災がそうではない形で運営されているということの合理性の説明は何か。
どこが違うのかということを具体的に解明していただかないと、政策の違いや合理性が説明できないですね。そもそもの話ではなくて、どこが違うのですか。
○杉浦課長
それは先ほどご説明したところなのですけれども、もう一度やりますか。
○福井専門委員
ポイントを教えていただけますか。
○杉浦課長
26ページに、我々が承知しております自賠責保険の特徴として考えられておりますのは、民間の保険会社が保険者となっているということ。それから、強制保険ではありますけれども、契約を締結するということを強制しているということでございまして、当然に保険関係を強制するというものではない。最終的な契約の締結が前提となっているということ。それから、保険会社に引受の義務がある。これは拒否ができないということでの保険会社の引受義務があるということ。それから、保険給付としましては、定型・定額化された支払基準に基づいて支払額を決定しているということ。
○福井専門委員
わかりました。ここにあるようなものが思想的な違いの根拠だという趣旨ですか。
○杉浦課長
いや、思想的なことを申しているつもりはありません。これは現在の制度で、私どもの所管ではございませんので、本を読んで理解している特徴としてはこういうものだと。
○福井専門委員
ですが、安念委員のご質問は、技術的にどう設計することももちろん関係はありますが、根幹的に制度設計の思想として自賠責の制度設計の思想と労災の制度設計の思想が違うとおっしゃったから、思想が違うことの根拠は端的には何でしょうかという、その違いをお聞きしたいのです。
○杉浦課長
そこは何度も申し上げておりますけれども、自動車事故に伴う民事上の損害賠償責任を補完と言いますか、法律で規定する自賠責と、基準法上の無過失責任を法律上で肩代わりする労災保険というところの違いです。
○福井専門委員
いや。基準法上の責任でも民事上の責任でしょう、さっき話をしていたのは。
○杉浦課長
違います。それは刑事上罰則がついております。
○福井専門委員
いや。被害者に対する補償という部分の根拠は何ですか、民事ではないのですか。刑事で被害者補償というのはできないでしょう。
○杉浦課長
補償をしなければ、責任は事業主に科されます。刑事上の責任……。
○福井専門委員
だから、民事上の責任を担保するために刑事罰があるとおっしゃりたいわけですか。
そこが違うということですか。
○杉浦課長
そういうことを言っているわけではないのです。どういうふうにご説明すればよろしいのですかね。
○八代主査
自動車事故でも被害者が死亡や怪我をすれば、警察が刑事罰を適用するわけで、労働者にけがをさせたら労基法上の刑事罰が適用されることと対応しているのではないですか。だから、福井委員が言っているのは、それは別に置いといて、民事だけのことを言えば同じではないですかということなのですね。
○福井専門委員
無過失とおっしゃるけれども、無過失にするかどうかというのは、第2ステップの政策判断としてはありますが、思想の根本とおっしゃるから。それであれば、それを刑事罰で担保するのか、無過失という形で厳しく担保するのかはともかくとして、被害者救済という点では全く共通の制度だとお見受けするのです。それにもかかわらず、片や自賠責でよくて、片や政府直営でないといけないということに結びつく論拠がよくわからないのです。
○杉浦課長
被害者救済という面ではもちろん同じでございますけれども、何のために労災保険をつくったというところで、我々は先ほどから申しております基準法上の責任を。こういった保険制度がなければ、急に事故が発生した場合に責任を果たせないだろうということで、保険制度をつくったということでできている保険でございますから。
○福井専門委員
それはわかります。そうすると、自動車事故だって、もし自賠責がなければ、資力の ない加害者に轢き逃げされたときには被害者がかわいそうではないか。全く同じです。何が違うのですか。
○杉浦課長
基準法上の場合には、責任を果たさなければ罰則がかかりますから、そこは刑事上の担保はついているわけです。
○福井専門委員
もう一回整理しますと、民事上の責任、あるいは、被害者救済の必要性の点では同じなのだけれども、罰則がついて担保されているから、こっちは政府直営でなきゃいかぬ。そういうことですか。
○杉浦課長
罰則がついているからということではないのですけれども、それは基本になっていると思います。
○福井専門委員
罰則があるとなぜ政府が直営でないといけないのですか。
○杉浦課長
それは国が決めている罰則ですからね。それを担保するためとして、制度を運営するのは国がやるのが一番……。
○福井専門委員
さっき八代委員が言いましたけれども、自動車事故だって業務上過失致死で逮捕されて起訴されて有罪になる人はいくらだっているわけです。
○杉浦課長
業務過失致死というのは刑事上ですけれども、自賠責の責任というのは民事上の問題です。
○安念専門委員
厚生労働省のお立場からすれば、自賠責は自分が作ったわけではないのだから、あまりそれと比較されても困るということになるだろうと思うのだけれども、そうすると使用主が労働者に対して負っているはずの労働災害補償債務とでも言うのでしょうか、あるいは、補償責任というのは、原始的には使用主が労働者に対して負っているはすのものですよね。
○杉浦課長
そうですね。
○安念専門委員
この法律上の性質について、これは一般の民事上の法行為責任や不履行責任とは異質のものだという出発点がおありになると考えていいわけですか。
○杉浦課長
そうですね。そこはまさに労働基準法という刑罰をもって担保されている法律があって、その最低基準は確保しなければいけないという中に、無過失の災害補償責任も決められているわけですから。
○福井専門委員
刑罰がなぜ政府直営と結びつくのかよくわからない。どうして刑事罰で担保すると、直ちに運営管理も含めて全部政府が直営でやらないといけないことになるのですか。飛躍がないですか。
○杉浦課長
それは、我々は自然な流れだと思っておりましたけれども。
○福井専門委員
具体的に、刑事罰を科してでも担保させないといけないような民事上の責任の補完措置たる保険業務は、政府直営でなければならないという命題の論拠を知りたいのです。
○杉浦課長
必ずしも100パーセント、政府直営でなければならないということにはならないと思います。諸外国の例を見ても必ずしも全部直営でやっていないところも現実にはございます。公的な法人みたいなところがやっているところもございますし、アメリカのように州とか民間が一部参入しているところもあるわけですから、何が何でも政府直営でやらなければならないという命題があるわけではないと思います。
ただ、先ほどから縷々申しておりますような法律的な思想、あるいは、行政としての抑止的効果も含めた指導能力ということも踏まえて、政府がやった方が効率的であり、効果的であろうということから今やっているわけです。
○福井専門委員
とすると、そもそも論で、制度の限度、ドグマからしてそういう命題が成り立つわけではないとすれば、どちらの制度がよく動くか、うまくワークするかという問題なわけです。その観点で言うと、さっきの事務費というのは、ご主張はわかりましたけれども、それ以外に政府がやらないと、民間でやった場合には明らかにより弊害が発生する領域というのは何なのですか。
○杉浦課長
もう一度ご説明するわけですか、先ほど縷々説明させていただいたところなのですけれども。
○福井専門委員
よくわからないのです。
○八代主査
いろんなポイントがあるので、1つ焦点を絞ってやると、補完性の原理があると言われているわけですね。つまり、もともと災害賠償とは無関係に労働者の安全保護のために立入り検査をしている公務員がいる。これは公務員しかできない。だから、ついでに、ついでにと言っては失礼かもしれませんが、その人の知識を生かして同時に労災保険業務もやらせた方がいいのではないかと、こういう主張になりますね。
これに対してどう答えるかということなのですが、逆にダブルでやった方がよりきちっとチェックできるのではないかという論理もあるのではないか。つまり、公務員は数も限られていますし、非常に忙しいわけでそうしょっちゅう行けない。しかし、保険会社とするとビジネスですから頻繁に行く。もし保険会社が立入りを拒否されたら、後ろめたいことがあるに違いないということで、直ちに労働基準監督署に通報して公務員が出かけていく。こういう補完性と言いますか、つまり、すべてを官でやるというのは余りにも高コストである、だから小泉首相もできる限り官から民へという思想があるわけです。そういう補完性というものが一方的に事務コストが高くなるだけで何の意味もないというお考えかどうかということなのです。
○杉浦課長
確かにそこの部分は、その面をとらえれば限られた人数でやっているわけですから、仮に民間部門が多い手間ひまをかけてやることができるということならば、そういう面はおっしゃるとおりかもしれません。しかし、先ほど申しましたように、例えばそういったものを認定するにあたっても、非常に多くの種類の病気があるとか、そういう複雑性といったこともあるわけですから……。
○八代主査
認定の複雑性というのは現に公務員がやっておられるわけですね、それは何らかのマニュアルに基づいている筈ですが、そのマニュアルがあれば、なぜ民間は同じことができないのかということなのです。公務員も頻繁にローテーションしているわけで、労災担当に新規に参入するし、新人訓練もやっておられるわけです。きちっとした認定基準を明確にしていただければ、それに従って保険会社の人も同じような作業をできるのではないか。
認定基準をつくるのは官しか駄目だけれども、その認定基準にあてはめるという仕事は民ができないようなものなのでしょうか。
○杉浦課長
民間の部分が果たして、こちらが期待するだけの手間ひまというか、それだけのコストをかけて、しっかりした形でやっていただけるかということはあるのではないでしょうか。
○八代主査
それはコストの問題ですよね。
○杉浦課長
都会はともかく地方にいけば代理店も相当少なくなるでしょうし、そういったところの人間が山の中の事故までしょっちゅう出かけていくようなことが、果たして迅速にやっていただけるだろうかと。そういう事例は幾らでもあるのではないでしょうか。もちろん普遍的な議論の比較としては大いにあり得るかもしれませんけれども、それはよく見極めないといけないのではないかと思います。
○八代主査
今、2点ありましたね。1つはユニバーサルサービスの話を持ち込まれて、これは郵政民営化とよく似ているのですが、その議論はさておいて、例えば都市部で民間が非常にやりやすいような部分から部分的に始めてみるということも、全国でやるかあるいは全くやらないかという、“オール・オア・ナッシング”ではなくて補完的なやり方も当然ある。それはコストの比較であって、それはそれとして、先ほどから議論している経済的な問題というふうに考えていいのかということですね。もし民間の方がコストが安ければやってもいいとお考えなのかどうかと。
○杉浦課長
そこは先ほど申しましたような、全国的な斉一性、公平性というのは我々としては重視したいと思っています。
○八代主査
公平性の基準はそちらがつくられるわけで、民間が、保険会社がバラバラに基準をつくるわけではないのですが。
○杉浦課長
ただ、具体的なあてはめの段階に際しては、結局、どんな細かい基準をつくろうが、最後のあてはめの段階にあっては、個々人が、担当者が見てやるわけですから。
○八代主査
それは労働基準監督署だって同じではないですか。
○杉浦課長
ええ。ただ、民間の保険会社が仮にやった場合には、同じだと言っても一定の差異は出てくるのではないかと思います。
○八代主査
それは地域ごとの基準監督署の差異とどれだけ違うのか。もし大きな差が出れば調整するような、お互いの情報交換ないし、そういう仕組みが現に自賠責でもあると聞いています。それは技術的な問題だと思います。
○福井専門委員
労働基準監督行政と一体だからというご趣旨なのですけれども、労働基準監督行政と労災は関連はありますが別の政策目的があって独立の制度になっているのではないのですか。
○杉浦課長
労働基準監督というのは、労働条件を確保する、あるいは、災害を防止する、抑制するということの一つの裏打ちと申しますか、そういう政策効果も十分あります。保険ですから、制度が別かと言えば別かもしれませんけれども、災害を防止するとか、労働条件を確保するといった政策目的に資している部分は、保険制度の部分も大きいと思います。
○福井専門委員
たまたま重なっている部分はあるかもしれませんけれども、それがどれぐらいの評価できるのかは相当疑問だという印象なのです。
○杉浦課長
たまたまとは私どもは考えていませんで、そこは相当部分連携してやっていると……。
○福井専門委員
そこも民間のノウハウを使う余地だってあるわけです。要するに、統合的な主体がやれば効率的だというのであれば、全部行政が統合的にやらないといけないという必然性はないのではないですか。
○杉浦課長
それはサービスのパーツ、パーツで分かれているというのは、今でも各省庁の業務が分かれているのと同じようなことですから。どういう形で切り分けるかというのは、行政の守備範囲の決め方の問題だと思いますよ。そんなことを言ったら、全部、保険は一本でやったらいいという話になってしまうわけですから。
○福井専門委員
選択肢として考えるべきは、統合の利益があるのだとすれば、全部行政か、バラバラで行政と民間に分属するか、という論点がもう1つあるわけです。全部ないしはほとんど民間にやらせるという選択肢も、コストの点から言えば考えないと、同じ土俵に乗りにくいというのが1点です。
それから、保険のコストのことであれば、民間がやってもっと安いコストでできるというのならやらせてあげて、何か支障があるのですか。
○杉浦課長
コストの問題は先ほど出した資料で比較をしているだけであって、仮に現実にそうだということになればコストの問題はクリアするかもしれません。先ほど申しました災害防止目的とかいった行政効果を保険制度がそれなりに資しているということの目的を、我々としてはすぐに民間でやらせてもいいのではないかということにはならないと思います。
○福井専門委員
民間でやるのだったらもっと機敏に、危険な事業所だったら保険料率を上げるとか、医療過誤だって同じような問題を抱えているわけですけれども、きっちりした審査をやることになる。
保険料の支払にかかわる保険会社にとってみれば、その事業所がどの程度ちゃんとしているのかというのは、一般的に言えば公務員のインセンティブなしでやる検査よりは、はるかに真剣にやる動機づけがあるわけです。それよりも直営の方がいいということの論拠がさっぱりわからない。
○杉浦課長
法律の話はここの自賠責との比較の中では特に触れておりません。コストの面、あるいは、迅速にやるからと申しましても、民間の人を悪く言うわけではないのですが、商売として成り立ち得るような制度であるならば、ちゃんとプロフィットを出してペイするだけのものがあれば、保険として成り立ち得るかもしれませんけれども、冒頭の問にあったようにそれが成り立ち得ないような業種も全部カバーしているわけですから、そういうところを民間に任せてといった場合に、民間が拒否された場合のことも考えなきゃなりません。
○福井専門委員
スキームは、さっき八代主査が言ったようにユニバーサルサービスなり、あるいは平等の問題なのですけれども、少なくとも大都市の、しかも非常に標準的な業種のところでは、民間だって喜んで保険を引き受ける可能性は高いわけです。そういうところで、もっと安くできますよといって、やらせてあげて、そっちの方が安いと思ったら、そっちの方にも加入できるというふうにして、コストの点を前提にすれば何の支障があるのでしょうかということです。
○杉浦課長
そういうことでやると、おいしいところは民間がやって、おいしくないところは政府が最終的には負担しなければいけないということになってくるのではないかと思うのですね。
○福井専門委員
それは当然そうではないのですか。だって、ユニバーサルサービスというのはもともと政府の責任でやるべきことです。
○杉浦課長
それはもちろんです。労災保険というのは社会保険の一種ですから、そこは全体の相互扶助という考え方で成り立っているというふうに我々は理解しています。おいしいところだけ取り上げられて、業として成り立たない部分を政府がやるといったら、相当にコストがかかることに……。
○福井専門委員
そこはまた別の大きな論点です。ただ、単に負担の公平ということで考えれば、大都市のおいしいところを民間でやったって、そこから課税なり課徴金で再分配財源をつくることだって政策的に仕組むことはできるわけですから、誰から誰に内部補助などを強いるかという論点と、運営そのものをどこにやらせるのが効率的で低コストかということは独立の問題です。
今は後者の議論をしているわけです。後者の観点から言えば、民間で安くてきるのにというところでは、その上がりをどう分けるかはさておくとしても、より安いところにやらせるのは、社会的にも事業主にとっても被害者にとっても結構なことではないのですか。
○杉浦課長
コストの点からだけ見ればそういったことは議論としてはあるかもしれませんけれども、我々としては労災保険を何のために行政目的にやっているかというところでスタートして考えておりますので、そこはそのことだけで一概に民間にやらせた方がいいということにはならないと思います。
○福井専門委員
何のためというのは、そもそも何が違いますか。
○杉浦課長
先ほどから申しておりますような、基準法上の災害賠償責任を担保するための社会保険として成り立たせるというものです。
○福井専門委員
担保をする程度が強いから政府直営でないといけないということですか。
○杉浦課長
政府直営でやった方がよりいいだろうということですね。なければならないということではないというのは先ほど言ったとおりです。
○福井専門委員
当否の問題として、なぜその方がいいのですかね。そこがよくわからないですね。
○杉浦課長
これまで縷々、問題点の中で申し上げたような点がポイントになるのではなかろうかと思います。
○福井専門委員
例えば自賠責方式も、責任のとらせ方について、罰則がないとすれば、あるように制度設計を仕組むことだってできるわけです。それと比べてなぜ政府直営の罰則付きの方がいいのかというのはどうですか。
○杉浦課長
それは、自賠責の方はまさに民事の責任として法律が組み立てられているわけでして、それを刑事とリンクさせた方がいいかどうかの議論は私どもができることではありません。
○福井専門委員
いや。例えば未加入者がいるわけですよ。自賠責にも加入していない車で事故を起こすのがいるけれども、そっちの刑事罰をうんと強化すれば、ここで今おっしゃっているような基準法上の罰則のある責任というものとパラレルになるのです。その点では。そういうふうにして民間に任せたままで、だけど、不払いなり責任をとらない事業主に対して、罰則なり強力な担保措置でやるというのとこの2つを比較して、なぜ前者の方ではまずいと言えるのかということです。
○杉浦課長
前者の補償がまずいかどうかは私どもが判断できることではありません。
○福井専門委員
それを議論しているのではないのですか。
○杉浦課長
担当省の方に聞いていただくべきことだと思います。
○福井専門委員
いや、そうじゃなくて、自賠責の話は仮に持ってきただけで、自賠責的な仕組みで労基法に災害補償責任をうたって、しかも自賠責の事業主の支払責任を罰則なり、あるいは強化された民事責任で担保した上で、だけど運営は民営にやらせるということであれば、さっきから何度も強調しておられる無過失責任を事業主に課しているという、企業の責任というところは同じレベルになるのではないですかということです。
○杉浦課長
しかし、そこは向こうの制度との比較ですから、私どもがどうのこうのとは言えません。
○福井専門委員
違います。向こうの制度と比較していません。さっきから「事業主の責任を罰則で担保しているから、政府直営だ」とおっしゃるのだけれども、罰則でもって担保するのだったら、政府直営でなくて、民間だって政府直営と同等の罰則の担保はあり得ますということを申し上げているのです。
それは自賠責との比較ではなくて制度のバリエーションです。
○杉浦課長
方法論として全くないとは言えないかもしれませんけれども、果たして行政効果を一番高いものとしてやるためにはどこがやった方がいいかということで、今までは政府が責任問題と、それを担保する保険が一体としてやった方がいいだろうということで、保険システムが成り立ってきたわけですから、それは民間の方がいいではないかと言われても、それを比較する材料はありません。
○福井専門委員
現行制度は現行制度の正当化論拠にはならないわけで、なぜそれでなければならないのかという政策論です。
○八代主査
今の関連で。今やっておられる保険の仕組みが、本来の労災の目的である事業主の災害防止の自主的努力を促進するという意味で、本当にいいかどうかという疑問があるわけですね。1ページ、2ページにありますが、事業主の災害防止の自主的努力を促進するという政策的な意味があるとすれば、できるだけリスクに見合った保険料をとった方がいいわけです。それは同時に2番目の事業主の保険料負担の公平を考慮するということにもつながるわけで、そのときに@及びAの政策目的が達成されば、業種別に収支が均衡する必要はないというのが完全に矛盾しているのではないだろうか。
リスクの多い業種ほど高い保険料を課すことによって、保険料を減らすために事故を防止する、そのために投資をするという事業主のインセンティブを促進するというのが労災の重要な役割ですね。それが極めて曖昧な分類によってモラルハザードが起こっているのではないかと。それを民間にやらせれば、こういうことはきちっとやるわけで、なぜ収支を均衡させなくてもいいとかいう議論が出てくるのかというのがよくわからないのです。
○杉浦課長
業種別に保険料率に差をつけるというのは、災害発生率から見て、それに見合った形でやっているというのが基本でして、それを全く無視して一律にやっているわけでもないし、逆のことをやっているわけでもないわけです。相対的に事故発生率の高いところは当然のことながら高くなっていますし。
○八代主査
ただ、いただいた数字を見ると全然そうなってない。こちらでいただいた数字をもとに試算しますと、今の労災の黒字の半分以上がその他の各種事業、主としてオフィス事務ですよね、ここがリスクの割には高い保険料をとられている。それから、16%が建築事業で、これは事故も多いでしょうけれども、それをはるかに上回るような高い保険料を課されているから黒字になっている。
こういうふうに業種別に大きく黒字、赤字があるのがおかしいので、これはきちっと均衡しなければ、本来の事故率に見合った保険料をとってないという明確な証拠なわけですね。しかも、この資料はそちらの審議会には出されておらず、こちらがお願いして初めて出てきたわけです。そちらの審議会では料率が書いてあるだけで、その料率の根拠となる収支は今まで出しておられないわけですね。そういう極めて重要な情報がなぜ今まで議論されなかったのか。そんな議論もなしにこの審議会でどうやって料率が決められるのか理解できないのですが。
○杉浦課長
1つは、2ページの3番のところにあります。
○八代主査
いや、この話はわかっています。おっしゃるのは年金だけでこんなに大きな差があるということなのですか。
○杉浦課長
もちろんそれだけではございません。年金の部分が入っているから、単純にそちらが試算されたものは、おそらく単年度の収支率で計算されていると思いますけれども、そういったことだけではありません。
○八代主査
そうでしょうけれども、年金だけでこの差が説明できるかどうか、その資料もいただけませんか。
○杉本室長補佐
この試算ですが、一部、訂正させていただきたいのは、先ほどのご説明で初めてわかったのですけれども、特別支給金の部分を、先ほどそちらにもお配りさせていただいたかと思いますけれども、実際の給付額の中にこれは含まれておりませんので、特別支給金の分は足してもう一回やり直します。これは先ほど申し上げた単年度の入りと出だけで計算しているわけではなくて、いわゆる当該年度に頂戴した保険料に対して、当該年度に発生した事故を、将来の給付も見込んで、割引現在価値と言いますか、現在に価値を直して額の比較をしているわけで、単純に当該年度の出と入りを計算しているわけではございません。そこだけ訂正させていただきます。
○八代主査
要するに、民間の保険会社なら当然やっているような収支計算が、官がやっているから極めて甘くなっているのではないかという疑問があるわけです。ですから、おっしゃったように単なる人件費とかのコストだけではなくて、保険のきちっとした運営を、独占事業である官でやっていることによってできているのかどうかということで、その点について、なぜ業種別の収支を均衡させなくていいのか、年金の問題は残してですね。
年金の問題以外について均衡しているというなら結構ですけれども、してないのだったら、なぜそれを均衡させないのかということをお聞きしているわけです。
○杉浦課長
それについては、全部の答えになるかどうかわかりませんけれども、2ページの上から7 〜8行目に書いてありますように、一定の業種について、特に短い年度の中で多くの災害が起こった場合には、災害発生が……。
○八代主査
激変緩和のことを言っているのではないのです。それは一時的な話であって、もっと中期的に見たら均衡しているということなのですか。我々は一時点しか見てないから、こんな大幅な差があるけれども、これはあくまでも災害がある年に集中したとか、そういう一時的な変化によるものだというご説明ですか。
○杉浦課長
ですから、それは、中長期的には均衡の方向にもっていくというのが我々の基本原則でございまして、いつまでも乖離があっていいということを申しているわけでは全くありません。
○八代主査
この原則がきちっと担保されていますか、今までの。
○南労災管理課労災保険財政数理室長
それについては徐々にやっていると思います。あと、問題としては、産業構造の変化が非常に大きいということがあるかと思います。ここで倍率が、そちらで計算された1,600というのは石炭産業とか金属鉱業でございますけれども、石炭産業も含んでいるところがございまして、かつては40万とか50万いたような業種が、今はいなくなっているというか、金属鉱業だけでも1万人を下回っているような業種がございます。
その業種について、30年代、40年代の話ですけれども、その労働環境に基づくじん肺の長期療養者が今までも発生していると、それをこの業種だけで負担させるのはどうなのかという問題があろうかと思うのです。そういった問題もあって、産業相互扶助の考え方を導入してやっているところでございます。
○八代主査
その相互扶助の考え方と、事業主の災害防止の自主的努力は矛盾してしまうのではないですか。相互扶助をされればされるほどモラルハザードが起こってしまう、そういうことは当然議論されているわけですね、審議会では。
○南室長
その点については、全部の業種に均衡させるというのは、金属鉱業などを考えると難しいわけでございまして、最近の災害の状況に応じて災害が高いところは高くしないといけないのかもしれませんが、災害の減少の程度を見た上で料率を改定しているという状況でございます。災害防止努力をしていただければ、その分、料率を下げるということもあります。また、個別事業であれば個別メリット制というものを導入しておりますので、その辺で個別事業主の災害防止努力を反映するような形でメリット制を運用しているところでございます。
○八代主査
メリット制があることは知っていますが、それが甚だ不十分ではないかというのがこちらの認識です。
○福井専門委員
災害防止努力については個別に認定されるわけですか。
○杉浦課長
個々の事業所で何年間か収支率が大幅に改善すれば、最大限、基本的に40%なのですが、基本的に定められた料率よりも低く設定をするという、個別事業所に対するメリット制というのはございます。
○福井専門委員
そのように認定をしてメリット制を出しても、なおかつ業種別に不均衡があるということは、災害防止努力が実際の災害発生を評価したほどには貢献しないということの反映ではないのですか。
○杉浦課長
いや、決してそういうことにはならないと思います。現実に事故が起これば、今までメリットをもらっていた何パーセントが元に戻ったり、さらには逆になったりすることは、翌年度から直ちに起こり得ることでございますので、個々の事業所にとってメリット制というのは大いに活躍していると理解しております。
○福井専門委員
災害とじかに結びつくかどうかわからない指標と比べて、災害が起これば、例えば保険であれば、料率が上がることによって、もう一回均衡し直させるという自律機能があるわけです。後者でやる方が災害防止義務が高まるというのが普通の常識なのです。なぜそうではない、災害の発生や災害発生に伴うリスクを換算した料率で調整するよりも、メリット制の方がなおかつ災害防止の効果が上がっているということを論証できるのですか。
○杉浦課長
「の方が」ということの論証はできないと思いますけれども、両方相まって災害防止努力に貢献しているということは言えると思います。
○福井専門委員
普通は、八代主査がさっき言いましたように、保険というのは一回事故を起こすと、例えばアメリカの医者は一回医療過誤で巨額の賠償金を保険を使って払うと医師を廃業することも結構あるわけです。日本だって、一回事故を起こすと等級が下がって、保険料がかなり上がる。保険の審査機能自体が、気をつけて運転しようとか、医者であれば気をつけて手術しようという重大なインセンティブになっているのです。それは、まさにここで言う業種別均衡があって初めてそのリスクに見合ったインセンティブを相手に与えることができるということと表裏一体なのです。
○杉浦課長
むしろそれは個々の事業主のメリット制の方がより効果は高いと思います。
○福井専門委員
その具体的な証拠は?
○杉浦課長
証拠ですか。業種別の保険料率というのは業種全体の事故発生率で計算するわけですから、ほかの事業主がやったって高くなるわけですね。ただ、事業主のメリット制というのは、自分の事業所で災害が発生しなければ下がっていくし、一回発生すれば高くなるわけですから。
○福井専門委員
わかりました。こういうことでしょう。要するに、個別事業所にメリット制が正しく認定されていれば、業種横断でくくるよりもずっと正確なはずだとおっしゃりたいわけでしょう。
○杉浦課長
いや、業種との比較を言っているわけではございません。
○八代主査
そこは二重基準になっているわけですね。
○福井専門委員
もし個別にリスクが正確に判定されているのであれば、個別の集積である業種だって不均衡が出ないような保険料の収支になっていないと変だということになるはずです。でも、不均衡が出ているということは、何らかの意味で個別メリット制の運用に歪みがあるのだという論旨の有力な証拠になるはずです。
○杉浦課長
もちろん個別の事業主の集合が業種になるわけですけれども、一つひとつの事業所をとらえた場合には、その業種の災害防止努力によって災害が発生したかどうかの変動が、直ちに3年ごとに認定している業種ごとの料率にはね返るということには必ずしもならないと思います。理論的にはそうなるかもしれませんけれども、影響度がどのくらいあるかは業種の大きさによっても違いますから。
○福井専門委員
そこの判断は、人間の動機づけについての洞察にかかわるわけで、個別に「あなたの事業所はちゃんとやっていますよ」、あるいは、「ちゃんとやってないですよ」という、政府の審査の集積の方が、いわば事故発生率という統計学的なデータで見て料率を定めて、その料率に見合ったリスク管理をしようとする事業者のインセンティブによる働きよりも、優れているという前提が成り立たないと、おっしゃるような命題は成り立たない。そこはかなり懐疑的に見ざるを得ないというのが普通の見方だと思います。
○杉浦課長
そちらのご見解はそうかもしれませんけれども、我々は両方のメリット制を使って、事故防止の抑制効果は働いているというふうに認識しています。
○八代主査
メリット制からちょっと外れまして、5ページ目の「通勤災害」のところで、「住居の選択等は労働者の自由であり」というところですが、問題は通勤手段であって、特に事故が起こっているのは車での通勤が多いわけですよね。ですから、こういうふうに労働者の自由だから全くメリット制の対象としないことによって、大量に自動車を通勤手段に使うような従業員のいる事業主が得をしているというか、それだけ低い保険料率でモラルハザードが起こっているということがあるのではないだろうか。
ですから、事業主は少なくとも通勤手段については、事故防止のために車での通勤は控えるようにという指導はできるわけであって、これもメリット制の対象にしないと事業主間の不公平がかなり起こるのではないか。あるいは、通勤事故が起こりやすい車を安易に使うような事業主が、それを防ぐインセンティブを落とすのではないかと考えられるわけですけれども、これが一種タブー視されている理由は何なのですか。
○杉浦課長
そうは申しましても、車を使わざるを得ない労働者だってたくさんいるわけでございまして、そういった人は車しか使えないけれども、高い料率を設定することに対して社会の人に理解していただけるかという問題があるのではないですか。
○八代主査
だけど、車を頻繁に使っていれば電車で通う労働者より事故率が高いのは当たり前ので、それに見合った保険料率を事業主が負担するのはむしろ公平ではないでしょうか。
○福井専門委員
危険な道具を自分の選択で使わせている事業主に、その危険な分を払わせないという方がよほど社会的に非常識な結論だというのが、普通の世論の感覚だと思いますけどね。
○八代主査
なぜそうなったのかというこれまでの議論を教えていただければと。
○杉浦課長
これまでは特に通勤手段がどうとか、距離とかいうことついて、事業主が労働者に「おまえはどういうもので通え」ということを命令するわけにもいきませんし、通勤における事故そのものが事業主の基本的にカバーできる範囲ではないということで、そこは全部一律にやりましょうということでございます。ですから、細かいそこの議論は正直言ってされてないと思います。
○八代主査
今、大都市では時差通勤を奨励するとかいろんな形で、命令はしないにしても、なるべくこういうふうにしてほしいという形で公益性を担保するということもあるわけで、ぜひこれは検討の対象にしていただく価値があるのではないかと思います。
○杉浦課長
災害防止義務として事業主が労働者に持っているものでは必ずしもない部分がございますよね。それから、通勤手段をどうするかという誘因として時差通勤があるかもしれませんけれども、こういったことをやれば必ず、逆に制度としてそれを義務化することになってまいりますので、そこまでの政策的効果はいろんな面から配慮しなければいけないことになるのではないかと思います。
○八代主査
義務化というのは大げさな話であって……。
○杉浦課長
料率が変われば、完全に誘導する効果は出てくるわけですよね。
○八代主査
もちろんインセンティブはありますけれども、それにもかかわらず自動車を使わざるを得ない状況であれば、それは事業主が負担するわけで、そこは事業者の裁量性というのが大きくかかわってくるわけです。まさに、通勤も含めてできるだけ労災を防止しようというインセンティブを働かせるという意味では、これだけ除外するということはないのではないかということだと思います。
○藤原室長補佐
保険料率を決定するときの業種分類のところなのですが、一覧表にして我々も調べてみますと、実際の給付額が非常に低いのみならず、そもそも賃金総額の大きさもその他の各種事業、第3次産業のところがケタ違いに大きいわけですね。このあたりは、いみじくもおっしゃったようにどんどん産業構造が変化していく中で、小売業と広告業とIT産業はみんな違うと思うのですけれども、第三次産業を細分化してきめ細かい議論をされるような方向性の議論というのは、審議会の中にもおありなのでしょうか。
○南室長
その他の各種事業について分けようという話については、特に審議会では議論はございません。
○藤原室長補佐
そうですか。事務的に見ても非常に極端な値が出ているような気がいたしますので。
○南室長
確かに範囲が広いというのは、その他各種、サービス産業とか……。
○藤原室長補佐
また実態上も、労働条件は、小売りとコンテンツをつくっているところとか、広告業とかみんな違うと思うのですけれども、くり返しになりますが、この辺の細分化の議論は今は全くないと考えてよろしいのですか。
○南室長
そうですね、審議会の場ではそういったご意見はございません。あと、産業分類といたしまして、費用負担の連帯とか、業界組織の状況とか、産業実態、災害の種類を見て、総合的に考えているわけでございますけれども、その他の各種についてはそういった議論は、特にご要望は今まで私ども聞いたこともございませんし、審議会でも特に議論になっていないと思います。
○藤原室長補佐
黒字額に大幅に貢献されているセクターだと思いますし、標準産業分類と比較しても、もう少し、本来きめ細かい整理が必要だと思います。
○八代主査
時間もかなりオーバーしていますので。これは第1ラウンドでありまして、こちらももう少し検討して、再度意見交換をさせていただくことになろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。
(労働基準局関係者退室)