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[資料番号] 00163
[題  名] 労災保険の民営化問題資料(5) 労災保険民営化問題に対する各界の意見等 H15.11-12
[区  分] 労災補償

[内  容]

労災保険の民営化問題関係資料〔5〕






労災保険民営化問題に対する各界の意見等

【資料のワンポイント解説】

1.総合規制改革会議において、労災保険の民営化問題が議論になって以降、各界からさまざまの意見等が表明された。その主だったものを収録した。

2.収録意見等はつぎのとおり。
 なお、第3次答申が出される直前、12月16日の第9回総合規制改革会議〔答申案文審議〕の議事において、清家委員の「労災保険民営化の項目そのものを答申案から削除すべきだとする意見」及びそれに対する各委員の対応については、ぜひ、目を通されるようお奨めする。


収録意見等
2003年11月17日労災保険の民営化・民間開放に関する全労働の考え方(見解)全労働省労働組合中央執行委員会
2003年11月20日労災保険の民間開放の促進」について(意見)労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会
2003年11月26日労災保険制度「民営化」推進の暴挙に厳重抗議する談話日本労働組合総連合会事務局長
2003年12月 4日労災保険の民営化「絶対に容認できない」 坂口厚労大臣に意見書全国社会保険労務士会連合会
2003年12月 7日<労災保険>総合規制改革会議の民営化案に厚労省など反発毎日新聞
2003年12月 9日厚労相、労災保険民営化「受け入れるつもりない」日本経済新聞
2003年12月 9日【談話】 総合規制改革会議による労災保険の民営化方針について全国労働組合総連合事務局長
2003年12月10日労災保険の民営化など労働者・国民犠牲の規制改革に反対する(談話)日本国家公務員労働組合連合会書記長
2003年12月10日労災保険の民営化に反対する意見書日本労働弁護団
2003年12月16日労災保険の民間開放について検討することは、当会議の見識を示すことにならない総合規制改革会議少数意見(清家委員ほか)
2003年12月18日経営効率を最優先する労災保険民営化には反対 日医が要望書日本医師会
2004年 1月 6日「民間開放」は事実上先送り/労災保険の扱いで結論出せず/総合規制改革会議が答申連合通信隔日版




団体等の名称
労災保険民営化問題に対する各界の意見等

2003年11月17日             
         
全労働省労働組合中央執行委員会


労災保険の民営化・民間開放に関する全労働の考え方(見解)

1 総合規制改革会議が求める労災保険の民営化・民間開放

 内閣府の総合規制改革会議は、この間、労災保険の民営化・民間開放の検討に着手し、本年7月及び9月に行われた厚生労働省へのヒアリング(官製市場WG)では「労災保険の対象とするリスクは、民間損害保険と同質であるから、自賠責保険と同様のスキームで民営化しても問題はないのではないか」などと主張しています。
 また、10月7日には、「規制改革推進のためのアクションプラン」の改訂を行い、「労災保険の民間開放の促進」を「重点検討事項」の一つに追加することを決定しています。

2 労災保険の民営化・民間開放に関する全労働の考え方

(1) 自賠責保険の目的は民事上のリスクの分散、労災保険の目的は労働者の人権保障
 労災保険法は、罰則をもって強制される労働基準法上の「労働者の業務上負傷、疾病に対する使用者の無過失賠償責任」を実効あるものとするために創設されました。
 かつて、恩恵的・救済的扶助義務の履行とされていた労災補償制度は、戦後、新憲法の要請を受けて労働基準法上に規定された「人権保障」を担う重要な制度となったのです。人権保障の担い手は国ですから、その運営は国の責務と位置づけることがもっとも相応しいと言えます。
 一方、自賠責保険は、民事上の損害賠償義務を肩代わりするもので、そのリスクを分散させることを目的とし、労災保険とは根本的に性格を異にしています。労災保険を「リスクは民間損害保険と同質」などととらえて、民営化しようとする議論はあまりに乱暴です。

(2) 公平・公正な立場での全面適用は、民間保険会社の業務になじみません
 労災保険は、労働基準法上の災害補償責任を保険集団化することで、被災者等の保護(補償)を確実にするものです。そのため、未手続事業場に対する強制適用や保険料未納事業場に対する滞納処分等を内容とする「強制保険」でなければならず、公権力の行使が当然に必要となります(※1)。
 他方、民間保険会社では、保険料を支払わない使用者を切り捨てざるを得ず、できる限り災害リスクが少なく、保険料納付が確実な使用者を扱う傾向にならざるを得ません。しかし、こうした傾向は、被災者保護に欠けるばかりか使用者間の公平も保てません(※2)。
 また、民間保険会社による自賠責方式ではかえって費用がかさみ非効率となることも明らかとなっています(※3)。
※1/自賠責保険は、車検時に加入を確認する仕組みを持っています。しかし、現実には、車検を受けずに使用されている車両が存在し、こうした車両や車検を要しない「自動二輪(一部)」「原付」では、自賠責保険は強制保険ではないため、多くが無保険となっています。
※2/生命保険等を取り扱う民間保険会社が、経営の「健全性」を追求するため、保険料を支払わない者との契約を解除し、できる限りリスクの少ない者との契約を望むのは当然と言えます。
※3/自賠責保険では、損害給付に充てられる「純保険料」の他に、損害調査や契約事務処理に充てられる「社費」、保険会社が代理店に支払う「代理店手数料」等が保険料全体の実に30%程を占めています。他方、これに対する労災保険の保険料収入に対する「事業運営費」は、5%程に止まっています。

(3) 被災者等に立証責任が重く課せられる可能性が高い
 労災保険の適用、給付等をめぐっては、常に使用者と労働者(被災者等)との間で「利害関係」が発生しますが、労働者は使用者に対して社会的、経済的に劣位にあり(例えば、労災認定に必要な情報収集力の格差は労使間で歴然)、労災認定等の判断にあたっては、労使の利害を超えた公平な立場に立って、斉一的な処理を担いうる第三者が行うことが必要です(※4)。
 労災保険の実務では、使用者の協力が得られない場合も多く、事実関係の解明のために国が積極的に調査権限を行使し、被災者等の「立証責任」を補完して適切な補償に努めています。
 他方、民間保険会社が保険者となった場合には、自ら被災者等と「利害関係」に立つことから、損害保険等の実務がそうであるように被災者等の「立証責任」が強く求められることになり、被災者等の保護が十全に確保されない可能性が高いのです(※5)。
※4/国の労災認定等の判断の公正、公平を担保する制度としては、各種調査権限(報告、出頭、受診等の命令権、診療担当者への関係書類等の提示命令権等)と国家公務員法上の守秘義務、行政不服審査制度、情報公開制度等が存在します。また「迅速」を担保する制度としては、行政手続法等が存在します。
※5/民間保険会社にとって、いわゆる労災隠しを進んで摘発し、被災者等を保護しようと言うインセンティブが働くことは少ないと言えます。

(4) 「民間開放」は「利益優先」の弱者切り捨て
 総合規制改革会議のいう「民間開放」の中身は必ずしも明かではありません。「リスクの少ない特定の産業、特定の企業だけを扱うことを認めるべき」「政府管掌保険との併存なら、セーフティネットをなくすことにならない」と言うのかもしれません。しかし、こうした考え方は、極端な「利益優先」の発想ではないでしょうか(※6)。
 「人権保障」を担う労災保険制度を健全に運営するためには、すべての企業、産業の相互協力を確立することが重要です。これを否定するなら、結局、弱者切り捨てとなることを見逃しています。
 また、総合規制改革会議は、労災保険制度を単に収支を均衡させる「保険」の運営と見ているのかもしれません。今日の労災保険制度は、疾病の予防などを目的とした二次健診給付の創設や使用者負担の枠組みを利用した未払賃金立替払制度の創設などの面で発展を遂げています。「民間開放」の議論はこうした点も見逃しています。
※6/政府管掌保険と民間保険の並存のスキームは、健康保険組合の設置を認めた健康保険制度(健保組合、政府管掌、国民健保の並存)に見ることができます。しかし、前二者を補完する位置にある国民健康保険の収支悪化の実情を見るならば、こうしたスキームが弱者への「しわ寄せ」を容認することになることは明らかです。

(5) 安全衛生行政・監督行政との緊密な連携が不可欠
 労働災害に対しては、「災害防止」と「労災補償」の両面からの対策を講じることが合理的かつ効果的です。特に、災害発生事業場に対しては、再発防止のための迅速な安全衛生指導が求められますが、「災害防止」と「労災補償」の分離は、こうした契機を失うことになります(※7)。
 同様に、監督行政による使用者への責任追及の契機も失いかねず、不正受給やいわゆる労災隠し(労働安全衛生法違反事件)等の防止にも支障をきたします。
 労働者性や平均賃金等の判断にあたっては、日常的に監督行政・安全衛生行政と連携することで迅速な保険給付が可能となっていますが、これらを分離することとなれば労災認定事務を極めて非効率にします(※8)。
「過重労働による健康障害防止のために事業主が講ずべき措置」に基づく行政指導は、脳・心臓疾患にかかる認定基準に即したもので、労災保険制度が、監督行政、安全衛生行政と不可分に展開されていることを示しています。また、費用徴収制度、保険料率のメリット制度、過去の災害発生状況を反映した業種別保険料率の設定なども、使用者の労働災害防止の努力を促す制度であり、監督行政や安全衛生行政と一体で運営される必要があります(※9)。
※7/「災害防止」と「労災補償」の分離は、使用者にとっても、同一の労災事故に対して、異なる機関から同様の調査を受けるという新たな負担を負わせることになります。なお、重大な労災事故については、発生直後に労働基準監督署によって災害調査(あるいは実況見分等)が行われるので、この時点で災害発生状況等に関する詳細かつ正確な情報収集が可能となっています。
※8/労災保険制度は、労働基準法の使用者責任を確実に担保するためのものであることから、事業場(適用単位)、労働者性、平均賃金などの解釈は労働基準法に基づいており、同様に労働基準法に基づく監督指導等を行う監督行政と齟齬があってはならず、一体として運営される必要があります。また、療養期間中及びその後30日間の解雇制限、休業4日未満の休業補償など、監督行政と密接に連携が求められる分野も少なくありません。
※9/費用徴収制度は、労働安全衛生法等の法違反の有無が運用上の要件となっており、また、「特例メリット制」は、労働安全衛生法上の一定の措置を行うことで保険料率  を増減できる仕組みであり、いずれも「災害防止」と「労災補償」を一体的にとらえた制度の一例です。

(6) 結論
 以上から、全労働は、労働者の重要な権利を大きく脅かす、労災保険の民営化・民間開放には反対です。
その上で、憲法の要請を受けて労働基準法上に規定された「人権保障」を担う労災補償制度をその趣旨に即して充実させる立場から、労災保険制度を不断に見直し、改善していくことが必要であると考えます。
特に、過労死(脳・心臓疾患)、過労自殺(精神障害)等に関する認定基準は、この間の判例の水準に即して直ちに改めるべきです。また、未手続事業場への適用促進の強化、迅速かつ公正な保険給付等にむけた行政体制の拡充、被災労働者の職場復帰にむけた社会復帰制度の充実等をはかることが重要です。

3 アメリカにおける労災保険制度の目を覆うほどの荒廃ぶり(補論) 

 日本の労災保険制度は、諸外国と比べても保険料率の設定が低く、事務運営費も低廉で効率的な運営が行われています(※10)。
 なお、労災保険に民間参入を認めているアメリカの実情を紹介します。アメリカでは、一般的に州法で労災保険制度に加入しなければならない義務はあるものの、民間保険、州保険(小企業向け)、自家保険(企業独自の積み立て)のいずれかに加入すればよいこととなっており、民間保険を選択しているケースが多いようです。
 制度の内容面では、臨時労働者や5人未満の事業場が適用除外となっており、給付面でも、給付期間、給付総額又はその両方が制限されている場合がほとんどです。通勤災害も使用者の提供した車両を使用した時など、例外的な事情がない限り補償の対象とされません。義肢等の支給やリハビリテーションなどのアフターケアも一部にありますが、日本のような労働福祉事業はほとんどないと言ってよい状況です。
しかも近年、アメリカでは、労災保険を扱う保険会社の荒廃ぶりが大きな社会問題となっています。収益悪化や倒産(※11)、保険料の高騰(※12)、詐欺(不正)事件(※13)などが頻発し、民間開放等の問題点が現実のものとなった典型例と言えます。
※10/労災保険の保険料率は、日本が0.74%であるのに対して、諸外国では、アメリカで2.05%、ドイツで1.31%、フランスで2.26%などとなっており、日本の低廉な保険料率が際だっています。また、保険料収入に対する事業運営費の割合は、日本が5.12%であるのに対し、民間開放を認めているアメリカでは22.7%にものぼっています(厚生労働省資料)。
※11/「海外保険情報」(保険毎日新聞社)
  「労災保険は、破裂の危機にある。コストは以上に高騰し、企業を州外に追い出しており、事業を中止に追い込まれている企業もあり、カリフォルニア州の経済に悪影響を与えている」「6月4日には、Fremont
Indemnity社が過去4年間の中で、27番目の労災保険会社として州の保護管理下に置かれた。州の労災保険基金も逼迫した事態に陥っており、労災保険制度は、早急で、総合的、数値で示せる大幅な改革を行わない限り、維持できない状態にある。この制度は、このままでは長続きしないと思われる」。
※12/2003年9月の州議会証言(カリフォルニア州)では、1995年から2003年にかけて、保険料が3倍にあがったことが明らかにされています。NPO団体の調査では、保険料が4.5倍に急騰したケースも報告されています。
※13/「スマート・カリフォルニア労災保険速報・1998年6月19日号」(http://www.sgnpacific.com/hoken/index.htm)
  「カリフォルニア州保険庁は、人材派遣会社、『カリフォルニア優秀人材会社』の社長および副社長を労災保険料詐欺と重窃盗罪で逮捕した。カ州保険庁の詐欺調査官によると、二人は、同社従業員の職種別を偽り、更に従業員の傷害事故を保険会社に報告しなかったという。カ州保険庁は、従業員の職種別を偽ったことにより約100万ドルの保険料を詐取した、また、報告を怠ったため、傷害を被った従業員の多くが保険カバーを否定され、補償を受けられなかったと語っている」。


2003年11月20日部会
意見書は平成15年11月26日提出


労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会

 


労災保険の民間開放の促進」について(意見)

 今般、総合規制改革会議において提示された「労災保険の民間開放の促進」について、当部会としては、公労使全員一致により、下記のとおり意見を表明する。
 当部会としては、貴職が同会議に対し、下記意見を踏まえ、適切に対処されることを望むものである。


 「労災保険の民間開放の促進」については、労災保険の民営化についての具体的な制度設計が示されていない中で、民営化によって生ずる問題点が明らかでなく労働者保護に与える影響も大きいと思われることから、民営化という結論を性急に出すことについては、反対である。


労働政策審議会 労働条件分科会 労災保険部会委員・臨時委員名簿 (平成15年11月26日現在)

区分       氏名      職名
公益代表  保原 喜志夫 天使大学教授
〃      石岡 慎太郎 職業訓練法人日本技能教育開発センター理事長
〃      岩村 正彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授
〃       岸 玲子 北海道大学大学院医学研究科教授
〃       金城 清子 津田塾大学教授
〃       松本 斉 読売新聞社編集局総務

労働者代表  内藤 純朗 日本基幹産業労働組合連合会事務局長
〃       高松 伸幸 全日本運輸産業労働組合連合会書記次長
〃        寺田 弘 日本化学エネルギー産業労働組合連合会事務局次長
〃       真島 明美 日本労働組合総連合会東京都連合会女性局副部長
〃       中桐 孝郎 日本労働組合総連合会雇用法制対策局次長
〃       佐藤 正明 全国建設労働組合総連合書記長

使用者代表 川合 正矩 日本通運株式会社代表取締役副社長
〃       紀陸 孝 社団法人日本経済団体連合会常務理事
〃       杏 宏一 石川島播磨重工業株式会社顧問
〃       久保 國興 JFEスチール株式会社専務執行役員
〃       下永吉 優 社団法人全国建設業協会常務理事
〃       早川 祥子 株式会社アイディアバンク顧問


2003年11月26日

日本労働組合総連合会事務局長談話


労災保険制度「民営化」推進の暴挙に厳重抗議する談話

 小泉首相の諮問機関、総合規制改革会議(議長・宮内オリックス会長)は現在、労災保険制度の民営化に向けた検討を行い12月後半には首相に最終答申を行う予定にしている。これに対し、厚生労働省の「労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」は11月20日の部会で、公労使全員一致の意見書をまとめ、「民営化によって生ずる問題点が明らかでなく労働者保護に与える影響も大きいと思われることから」性急な結論に反対を表明し、本日、厚生労働大臣に適切な対処を求めた。

 今回の改革会議の論議が、はじめに民営化ありきの独断からスタートし、労災保険制度の本質を議論することなく、また直接の関係者である労働者や事業主、被災者とその家族、遺族などの意見聴取を行っていないことは遺憾である。

 現行労災保険制度は、多くの労災犠牲者の上に積み上げてきた労働保護のための制度であり、事業主が保険料を納めていなくても、労働者は、誰でも労災に遭った場合に治療や休業、リハビリのための補償を受け、年金制度も備えている。

 一方で、今回の民営化案は、現行の民間損保会社による自動車賠償保険制度と同じ枠組みで実施しようとするため、[1]保険契約のない事業場の労働者は補償されない恐れがある、[2]過労死などの労災認定では過重労働の実態などを強制的に立ち入り調査することができないばかりか公正な認定基準を誰が設定するか問題、[3]事業主の連帯責任として企業倒産時などの労働者への未払い賃金を立て替え払いする制度を廃止するとしているが、労働者は倒産で失業し、賃金ももらえず放り出されてしまう、等々、労働者保護は大幅に後退することが懸念される。
 世界の例でも、米国では労災保険を扱う損保会社が倒産するなど社会問題化し、ニュージーランドでは民営化した制度を再び国営に戻している。

 連合は、労災保険の民営化は労働者の権利を著しく侵害するものであり断固として反対する。


2003年12月4日

全国社会保険労務士会連合会

労災保険の民営化「絶対に容認できない」 坂口厚労大臣に意見書

 全国社会保険労務士会連合会(大槻哲也会長)は4日、総合規制改革会議(議長、宮内義彦オリックス会長)が検討している労災保険の民営化は、「絶対に容認できない」とする意見書を坂口力厚生労働大臣に提出した。
 意見書は、「安全衛生行政、監督行政が一体となった労働者保護が図られるべきだ」として、労災保険の民営化によって行政の連携ができなくなると指摘。
 その上で、労災保険の民営化は、経済原則のみに重点を置き、労災保険本来の目的である「被災労働者保護の観点が抜け落ちている」と主張。本来は国民福祉の向上を目的とする規制改革、構造改革とは「本末転倒の論」だと切って捨てた。
(建通新聞12月10日付6面掲載)


2003年12月7日

毎日新聞

<労災保険>総合規制改革会議の民営化案に厚労省など反発

 政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は、重点検討事項に加えて論議を進めてきた労働災害補償保険(労災保険)の民営化について月内にも答申を出す予定だ。労災認定と監督行政を一体として行ってきた厚生労働省は「生身の人間を扱う労災保険は経済の規制緩和とは違う」と民営化に反発している。長時間労働が社会問題となり、過労死などの労災認定が急増する中、民営化による労働者保護の後退を危惧(きぐ)する声が労働団体などからも上がっている。【東海林智】

 総合規制改革会議が打ち出した改革の方向性は(1)労災保険の民営化(2)(保険料を納入しない)未届事業所の一掃(3)業種リスクに応じた適正な保険料率の設定(4)労働福祉事業の原則廃止の4点で、柱になるのが民営化だ。
 同会議は民営化が必要な理由として、労働保険法で原則加入が義務付けられている労災保険に加入している事業所269万2000件に対し、未加入の事業所が59万8000件(01年厚労省推計)あり、現行制度が使用者のモラルハザード(倫理欠如)を助長していることを挙げる。さらに(1)製造業などに比べ事務などの保険料率が高すぎるなど、料率が業種別リスクを反映していない(2)労災保険の収支が01年度で2687億円の黒字になっているなどを指摘している。
 同会議は「労災保険は民間の自賠責保険と多くの共通点があり、使用者の強制加入の原則と保険者の引き受け義務を維持しつつ、民間保険会社に運営を委ねる方式が可能だ」と提案している。民営化による企業間の競争で、保険料率の値下げや業種ごとに異なるリスクに基づいた保険料の算定が行われると指摘している。

 厚労省の大塚義治事務次官は11月27日の定例会見で、「労災保険には労働者保護という理念がある。単純に自賠責の方向が取れないかというだけでは労働者保護に欠ける恐れがあり、賛成し難い」と批判した。
 同省は(1)未加入、未納事業者が増大し、労働者が補償を受けられないケースが増える(2)営利目的の民間保険会社が自ら労災認定を行うことになり、公正、的確な認定は困難(3)経営破たんのリスクがあり、制度への信頼感が欠如するなどを反対の理由に挙げる。
 自賠責保険には車検制度と対にして加入を担保する仕組みがある。だが労災保険には加入を担保する仕組みがなく、製造業などリスクが高い事業は保険料率が引き上げられ、民間保険会社、事業者の双方が加入をためらうケースが予想される。
 規制改革会議は未加入の多さを民営化の理由に挙げるが、ペーパー会社や倉庫なども事業所に数えられているため、現実にはすべてをカバーするのは難しい。また、未加入事業所で労災が発生した場合でも、現行では使用者から保険料や保険給付額の一部を徴収し補償しているが、民営化されればそれもできなくなる。
 同省は、監督行政との一体化の意義も強調する。労働基準監督署の監督官は「労災が発生したらすぐに現場に入り、原因を調べ改善を促す。同じ役割が民間で素早くできるのか。事業者は労災を隠しがちで、スピード勝負になる」と指摘する。労災死亡者数は、ピーク時の61年には6712人だったが、安全指導などで01年には1790人にまで減少した。保険業務は民間、監督・指導は厚労省と分離されれば「労働者保護の後退につながる」と警戒する。
 突如浮上した民営化論に、同省幹部は「保険の黒字額に目を付けたのだろう」と推測したうえで、「黒字は遺族補償など後年度負担のための積み立てで、もうかっているという話ではない。国の責任でやる仕事だ」と補足した。

 使用者、労働者委員などで構成する厚労省の審議会「労災保険部会」(会長・保原喜志夫北大名誉教授)でもこの問題が取り上げられた。労働者側だけでなく、使用者側からも「民営化が先行し、具体的なスキーム(枠組み)も示されていない。認定は公平か、破たんはどうかなど不安が多く、結論を急ぐべきではない」(久保国興委員)と批判の声が上がった。
 同部会は「民営化という結論を性急に出すことには反対だ」とする意見書を坂口力厚労相に提出し、総合規制改革会議の姿勢にクギを刺した。

 元労基署長の井上浩さんも「改革会議は自由競争は善だと言うが、命や職場を奪う過当競争は悪い競争ではないか」と疑問を投げかける。
 労働組合も反発を強めている。規制改革に積極的で労組のトップとしては「異色」の鈴木勝利・金属労協議長は「私は改革論者だが、やってはならない事がある。労災保険は営利目的で民営化する性格のものではなく、絶対反対だ」と断じる。

 「反民営化」を主張する厚労省などの反対陣営に対し、規制改革会議専門委員の稲葉清毅・群馬大名誉教授は同省との公開討論(11月10日)で「(反対は)『官から民へ』との首相方針にも反する。市場原理に任せるべきで、癒着構造があるから厚労省は労働福祉事業を守ろうとしているのではないか」と批判した。

 月内にも出される答申。労災保険を巡る両者の攻防は、最終段階を迎える。(毎日新聞)


2003年12月9日
日経新聞

厚労相、労災保険民営化「受け入れるつもりない」

 政府の総合規制改革会議が月内にも労災保険の民営化を盛り込んだ最終答申提言を検討している問題で、坂口力厚生労働相は9日の閣議後の記者会見で「(民営化を)受け入れるつもりはない」と述べ、反対する考えを明かにした。

 総合規制改革会議は労災認定の基準は国が決めたうえで、民間保険会社が労災保険を運営することを求める方針。坂口厚労相は「過労死の問題が大きくなっているなか、公的な機関が(認定作業を)やってもこれは過労死なのかとの問題が生じている。民間がやればさらにこの問題が拡大する」と懸念。「規制だけ作って事務的なことだけやれといっても応じるはずもなく、これは国がやることと思っている」と述べた。


2003年12月9日

全国労働組合総連合事務局長談話

【談話】 総合規制改革会議による労災保険の民営化方針について

政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は本日、小泉首相宛てに提出する最終答申案をまとめた。答申案は、労働者災害補償保険(労災保険)について民営化する方針を打ち出している。
 労災保険の民営化は、総合規制改革会議の「構造改革特区・官製市場改革ワーキンググループ」(八代尚宏主査)が今年7月、新たな検討項目として労災保険の民営化をあげたことに基づいたもので、労災保険への未加入者の増大、保険料率の算定根拠の不透明さ、労災病院など労働福祉事業の経営効率悪化などを理由に、自動車損害賠償責任保険と同様の損保会社への全面委託や事業移管を提起している。すでに第3次答申において、「12の重点検討事項」に追加する5項目の一つとして「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進」が盛り込まれ、本年11月の「アクションプラン実行ワーキンググループ」では、労災保険と雇用保険三事業の民間開放について厚生労働省と意見交換している。そこでは、規制改革会議側が労災保険の保険料徴収が厳格に行われていないことが一部使用者のモラルハザードを助長していると指摘し、「改革」の方向として、運営を民間の保険会社にゆだねることを提案している。

全労連は、長時間・過密労働が社会問題化し過労死など労災認定が急増している中で、労災保険を営利目的の民間保険会社にゆだねることは、労働者保護を後退させる危惧があることから、民営化には反対である。
 労災保険は、(1)罰則をもって強制される労働基準法上の「労働者の業務上負傷、疾病に対する使用者の無過失賠償責任」を実効あるものとするために創設されたものであり、民事上の損害賠償義務を肩代わりしリスクを分散させることを目的とした自賠責保険とは性格を異にしていること。(2)未手続事業主に対しては職権で保険関係を成立させ、保険料滞納事業主に対しては滞納処分による保険料を徴収する等、強制保険であること。(3)すべての産業に適用され、全事業主が費用を負担している社会保険であること。(4)労災事故発生時には労働基準監督署が原因究明し事業主に改善措置を促すなど監督行政と一体のものとなっていることなどから、当然、国自らが執行すべき業務である。

政府・厚生労働省に今求められているのは、労災保険の民営化などではなく、労働時間を短縮し過労死などの労災被災者を出さないことや、労働安全衛生法上の義務を果たし労災事故を撲滅するよう事業主に対する指導を強めることである。
 全労連は、政府・厚生労働省がこうした措置をとることを求めるとともに、今回の労災保険民営化に断固反対し、すべての労働者・国民と団結してたたかう決意を表明するものである。


2003年12月10日

日本国家公務員労働組合連合会書記長談話

労災保険の民営化など労働者・国民犠牲の規制改革に反対する(談話)

1.政府の総合規制改革会議は、9日、最終答申案を固めた。焦点となった労働者災害補償保険(労災保険)について、自動車賠償責任保険(自賠責保険)と共通点が多いとして、「民営化を図るべき」とし、公共施設・公共サービスについても民間開放を進めることを求めている。労災保険の民営化は労働者・国民の安心確保を損なうものであり、公共施設・公共サービス(いわゆる公物管理)の民間開放をさらに進めることは、文化・教育の振興、生活基盤整備などの公共サービスに対する国・地方公共団体の責任を後退させるものである。国公労連は、こうした規制改革に強く反対するものである。

2.労災保険は、憲法と労働基準法上に規定された「人権保障」を担うものとして位置づけられ、公権力行使に裏付けられた強制責任保険で補償を確実にする制度として運営されてきた。また、適切な補償のため、使用者の協力が得られない場合も被災者等の立証責任を補完している。こうしたことによって、かつての工場における労働災害、最近の過労死にたいする補償などで大きな役割を果たしてきた。また、労災保険制度は、国家公務員災害補償制度を含めすべての災害補償制度の基準でもあり、その改悪は、その他の制度に大きな影響を与えずにはおかない。

3.労災保険を民間に委ねた場合、労災認定を厳しく行い、より利益を上げようとすることや保険料を払わない・払えない事業所の労働者は災害補償されない危険があることなどについて強い懸念がある。総合規制改革会議は、まず、こうした懸念に答えるべきである。

4.しかるに、これには何ら答えず、自賠責とは国が責任を持って作った制度だから「共通点が多い」という薄弱な根拠に基づき、民営化を強行しようとしている。同会議は、民間が行った方が効率的であるというドグマを振りかざすが、多くの州で民間企業が参入したアメリカに比べ、日本の労災保険がはるかに効率的であることについて、説得的反論ができない。

5.「民営化という結論を性急に出すことについては、反対である」と労働政策審議会労災保険部会が公労使委員全員一致で意見具申しているようにまともな経営者であればこの動きに反対せざるを得ない。しかるに、総合規制改革会議は、16日にも小泉総理に答申を提出し、政府に、道理でなく、市場原理主義のドグマに立ってこの暴挙を強行するよう求めようとしている。

6.労災保険をめぐる事態は、市場原理主義に基づく規制改革を推進する人々が、特定企業・業界の利益のみを考え、公共性破壊をねらっていることをわかりやすく示している。規制改革の本質を広く労働者・国民に明らかにし、企業経営者すら反対するような暴挙をストップさせうる。この闘いに勝利することは、医療や教育の民営化・民間化など総合規制改革会議が次にねらう攻撃を許さないためにも重要である。国公労連は、労災保険民営化阻止、公共サービス提供の国・地方公共団体責任後退を許さないため、全労連に結集し、全労働の仲間など、関連分野の労働者・労働組合、国民各層と連携し、全力で闘うものである。


2003年12月10日

日本労働弁護団
(総合規制改革会議議長 宮 内 義 彦 殿)
労災保険の民営化に反対する意見書

 当弁護団は、労働者・労働組合の権利擁護のために活動すべく、1957年に結成された弁護士の職能集団である。
 貴会議では本年12月に予定される最終報告において労災保険の民営化を検討・実施課題として提起する方向であると報じられているが、この問題は、労働災害にかかわる労働者の権利保障を揺るがす極めて重大な問題である。
 当弁護団は、労災保険の民営化には断固、反対するものであり、以下、理由を述べるので、最終報告の論議にあたり、十分に検討されるよう、強く申入れる。

1 労災保険制度の趣旨
 労災保険制度は、被災労働者に対し「迅速かつ公正な保護をするため」に、全事業主の共同責任として設計された制度であり、確実な保護を受けうるよう強制保険として、事業主による加入手続や保険料納付の有無に拘らず、保険給付が行われる制度である(制度設計時には、民営保険と国営保険の択一制度との意見もあったが否定された)。その基本理念は生存権(憲法25条)の公正な補償にあり、憲法27条及び労働基準法、労災保険法によって具体化されている。この補償を「迅速かつ公正」に行いうるのは国家であって、利益を追求する民間営利企業ではない。民間企業にこれを委ねた場合、以下指摘するような重大な弊害が生じることは明らかである。

2 民間保険による弊害
(1) 保険契約の締結
 民間企業が利益を前提とする以上、保険料は産業、職種、さらには事業場毎に区々になる。現行労災保険より負担が低くなる産業・企業は民間保険会社と契約するであろうが、これが高くなる産業・企業は契約しないことが考えられ、さらには保険会社から契約を拒否される企業まで出てこよう。即ち、偶々入社した企業によって労災保険制度があるかないかが分かれ、保険給付を受けうる労働者と受け得ない労働者が存在することとなる。生存権に基づき全労働者を対象とすべき補償制度は崩壊する。
(2) 保険料の徴収
 現行労災保険制度では、事業主が保険料納付を怠っていても被災労働者の権利に消長を来たさないし、国家は保険料を強制徴収できる。しかし、民間企業には保険料を強制徴収する術はない。保険料の支払を求めて民事訴訟を提起する方法はあるが、営利企業が時間とコストをかけてかかる方法を採るとは考えられない。契約解除をするのが最も合理的である。保険料未納企業は保険契約を解除される。その結果、保険給付を受けえない労働者が増大する。
(3) 保険給付の内容
 まず、保険会社毎に給付認定が区々になることは避け難い。国家がどんなに基準を精緻化しようが、その具体的運用を各民間会社に行わせる以上、国家による一律かつ平等の認定と同レベルになることはありえない。また、保険金の支払をできるだけ抑制するために給付認定は厳しくなり、結果として被災労働者が給付を受け得ない事態が増大するおそれもある。
 公正な補償を行うためには、正確かつ客観的な事実の把握が前提となる。そのためには、保険機関に強制調査権限がなければならないが、民間企業にその術はない。保険会社は契約者(お客)たる事業主の、都合のよい説明に基づいて事実認定することは必至であり、その結果、労働者の権利が侵害される。
 給付内容も給付認定と同様に保険会社毎に区々となり、これを低下させる方向での競争となることは、営利企業である以上、十分予測される。しかも、民間企業には倒産のリスクが常にあり、偶々契約した保険会社が倒産すれば、全く補償を受けえない危険がある。

3 労災保険の民営化には断固反対する。
 以上、基本的事項に関して指摘しただけでも多々、民営化により重大な弊害が生じることは明白である。
 労災保険制度は、強制保険として全労働者に公正な保護を与えるべく、最低労働基準を定めた労基法第8章の使用者の災害補償責任と不可分一体のものとして制度設計され、かつ、運用されなければならない。これを適正に行いうるのは国家であって、労災保険の民営化は、この制度の根幹を危うくするものであり、断固、反対する。



2003年12月16日

総合規制改革会議
少数意見
(清家委員ほか)
平成15年度 第9回総合規制改革会議 議事概要
1. 日時  平成15年12月16日(火)10:00〜11:15
2. 場所  永田町合同庁舎総合規制改革会議大会議室
3. 出席者
(委員)
宮内義彦議長、鈴木良男議長代理、奥谷禮子、清家篤、高原慶一朗、八田達夫、安居祥策、八代尚宏、米澤明憲の各委員
(事務局)
小平統括官、河野審議官、福井審議官、浅野間審議官、宮川事務室長、中山事務室次長


議事概要

(1)答申案文審議 (●質問・意見)
(宮内議長)本日は、前回に引き続き、今月にとりまとめを予定している第3次答申の案文審議を行う。議事に入る前に、私から、本日、本会議を開催した趣旨につきまして、一言申し上げる。
 前回の会議において案文審議を終えるに際し、残された未調整の箇所については、基本的には私と議長代理と主査の方々に御一任をいただいたが、この間の案文の調整状況を踏まえると、とりわけ、アクションプラン分野の調整状況について、改めて本会議において御報告し、意見交換をいただいた上で会議として案文を確定していく、との手続を今一度踏むことが望ましいと判断し、本日、会議の開催をお願いした。
 それでは、本日の議事に入る。
 本日の答申の案文審議については、前回の案文審議と同様、これを非公開とし、会議資料も非公表とする。本日の進行としては、申し上げたように、本日開催の趣旨がアクションプラン分野の案文審議を特に念頭に置いたものであるので、主に、私の方から、アクションプランの調整状況について説明し、これに対する質疑応答・意見交換を行うこととしたい。
 それでは、私からアクションプランについて説明する。
 まず、既存の12事項については、前回の会議で報告した内容、特に高層住宅に関する容積率の抜本的緩和と有料職業紹介事業に関する改革の2つが一歩前進したことを報告申し上げた。
 その後、幼保一元化のうち、一貫した総合施設の設置について合意がなされた。試行事業を平成17年度中に先行実施することで、総理の「17年中には幼保一元化でできるものはやる」との御発言を踏まえた内容であるとして合意した。なお、予算や法改正の準備は平行して進め、18年度には完全実施することも合意した。
 その他の点については、残念ながら歩み寄りが見られないため、「今後の課題」に我々の考えを書き残す形になると思う。なお、医薬品の一般小売店における販売については、本日、厚生労働省が設置した検討会(ワーキンググループ)の品目選定作業の結果が発表される予定である。したがって、厚生労働省の発表を確認した上で、答申としてどのように取りまとめるか、担当主査と相談しながら決めたい。いずれにしても、当会議として納得のいくものでない限り、今後の課題として引き続き規制改革に取り組むことを書くことになると思う。
 新規の5項目について申し上げる。「公共施設・サービスの民間開放」については、現在も国土交通省等との協議を継続中である。
 「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進」については、現在も厚生労働省との協議を継続中である。労災保険の民間開放の検討については、厚生労働省は「『可能性の検討』でも合意できない」との回答であり、我々としては「今後の課題」に整理する方向しか残されていないかと思う。
 「国際的な高度人材の移入促進」、いわゆる日本版グリーンカードの創設等であるが、法務省等と次の内容で合意した。第一は、永住の許可・不許可事例の公開を平成15年度中に行う。第二は、永住許可要件について基準を明確化し、ガイドライン化する。第三は、ある分野で貢献のある外国人に対する永住許可要件である在留資格年数を5年以上から3年以上にすることについて、特区評価委員会の評価を踏まえて速やかに全国展開することの結論を得る。第四は、現在最長3年とされている在留期間を5年に引き上げる。
 「自動車検査制度の抜本的見直し」については、自家用乗用車の車検有効期間の具体的な延長年数の合意は得られていない。国道交通省との間で合意したのは、自家用乗用車のみでなく自動車全般について、車検有効期間の延長を判断するための調査を平成16年度中に取りまとめ、その結果に基づき速やかに所要の措置を講ずるということで、半歩動いたかなと思う。
 「借家制度の抜本的見直し」については、前回担当主査から報告があったとおり、閣議決定を前提とした部分は、法務省との間で合意済み。「今後の課題」の記載内容については調整中とのことである。
 これらについて、今後は一両日中に新規5項目と既存12項目について各省との協議を終了し、答申を確定したい。未確定の部分もあるが、会議としては十分満足できる形にはならなかった。とは言え、「一定の成果はあった」と評価できる部分も出てきた。したがって、答申のトーンとしては、成果を見なかった部分についても、今後の我々の活動につながる形で「今後の課題」にしっかりと書き込んでいこうと思う。各担当委員から補足する点やご質問があればお願いしたい。

● 借家制度の抜本的見直しの「具体的施策」のところは局長との折衝を行って合意した。「今後の課題」については、私は相手方省庁と合意する必要はまったくなく、事実誤認がないかを確認するのみと了解している。しかしながら、法務省は「それは話になかった」と、「今後の課題」を記載することに大変強硬に異議を申し立てている。私のところで妥協すると原則が崩れて他の分野にも影響が及ぶ。そこで、「今後の課題」の取扱いについて確認したい。

● その点は去年も議論になった。「問題意識」や「今後の課題」はあくまでも総合規制改革会議の考え方であり、相手方省庁との合意を必要とするものではない。ただし、事実誤認があればそれは正してくれということである。私は、閣議決定の対象となる「具体的施策」以外は去年も合意しなかったし、今年も合意のための折衝は行っていない。

● 答申の組み立てとして、第一に、あるテーマについて「当会議はこういう問題意識に基づき規制改革を進めていきたい」ということが書かれ、第二に、動かすことができた具体的施策が書かれ、そして第三に、残りの部分が「今後の課題」となる。合意を取っていただくのは第二の具体的施策のところである。第三の「今後の課題」はまさに合意に至らなかった残りの部分であり、ここは事実誤認があってはならないが、当会議の最後の日まで、あるいは次の組織に問題意識として引き継がれるものと認識している。

● 「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進」について少数意見が提出されている。労災保険の民営化については、労災保険は最後のセーフティーネットであり、一般国民も同様の印象を持っていると思う。私は提出された少数意見に強く賛成する。労災保険の民営化を意見として取り上げることは、当会議のイメージを考えれば得策ではないと思う。本件については様々な意見があり、私は専門家ではないのでそのすべてを承知しているわけではないが、一般的なイメージとして何でも民営化すればいいというものではない。労災はシビアな問題である。提出された少数意見が然るべく取り扱われることを、私から2つ目の少数意見として申し上げたい。

● サポートをいただき感謝する。労災保険の問題について、私の意見をもう一度申し上げる。労災保険の民間開放について検討することは、当会議の見識を示すことにならないと思うので、この項目については削除していただきたい。民間開放以外について、労災保険の検討が必要なことはここで示されている通りと思う。例えば、適用をもっと徹底して行わなければならないこと、リスクの高いところと低いところの間の保険料率が必ずしも適切に設定されておらず内部移転が行われていること、等は見直しが必要だと思う。ただし、民間の開放によって加入の担保、給付の担保、あるいは年金等の補償機能が低下するのは避けられないと思う。
 これが当会議の多数意見かどうかは分からないが、私は、規制緩和は特に雇用に限って言えば、事前の規制緩和と事後チェック、あるいはセーフティーネットの強化は、一体的に行われなければ整合性を欠くと思っている。そういう意味で、ここは一つの答申の中で整合性を持たせる必要がある。事後チェックあるいはセーフティーネットの強化が予算の関係等で必ずしも事前の規制緩和に追いつかない点は、ある程度はやむを得ないが、今あるセーフティーネットを弱体化させかねない部分が答申の中にあるというのは、私としては看過できない。
 特に、労災保険と自賠責保険のアナロジーが冒頭から出てきているが、労災事故というのは公道上で起きる交通事故と異なり、一般には事業所の中で起きる。事業所に立ち入り調査をしながら認定をするもので、誰もが立ち入ることのできる公道で警察が証拠検分を行うのとは異なる。また、労災保険は保険に加入している雇い主と労働者との間の話である。この点でも両者が保険に加入している自動車事故とは違う。さらに、自動車事故は通常は両者の責任を按分して保険金が支払われるが、労災は認定されれば100%労災保険で補償が行われ、そうでなければ全く補償されない。したがって、労災保険を自賠責保険とのアナロジーで冒頭から語っているのは、労働の問題を勉強してきた者としては違和感がある。
 そもそも労災保険は、19世紀にドイツで社会保険として始まり、その後、フランスやイギリスでは雇い主に補償責任を課しながら民間の保険に加入するといったやりかたで、19世紀終わりから20世紀始めにかけて次々と発足した。その後、それでは労働者に対する補償が十全に行われないことが分かり、その結果、いずれの国においても20世紀半ばくらいまでに社会保険制度に転換した。こうした試行錯誤を経て、多くの先進国が労災保険を社会保険制度でやっている。アメリカでは確かに民間の労災保険があるが、20世紀始めからエンプロイヤーズ・ライアビリティ・インシュアランスといった制度が始まって、当初は民間の保険だけに依拠していたが、それではリスクの高い産業に従事する人達に対する補償が十全に行われないということで、ここでもやはり、ステート・ファンドという各州単位の公的な労災保険システムができ、それによって補完されている州が多くなっている。現在はステート・ファンドだけによるエクスクルーシブというシステムと、両者が併用されているコンペティティブというシステムと、テキサス州等の少数の州で民間保険だけになっているところがある。
 このように先進国が労災保険を最終的には社会保険化してきたことを考えれば、私は、この問題を改めて検討することが当会議の見識を示すことになるとは思えない。この項目はできれば削除していただきたい。まずはそれについてご検討いただき、もし皆様方の多数意見が私と違うということであれば、ルールに従い答申の本文はそれで結構だが、その際は今日お配りしたような少数意見を付していただきたい。以上、よろしくご検討いただきたい。

● 頂いたメモには「労災保険の民営化」とあるが、口頭では「労災保険の民間開放の検討」と答申のタイトルに沿った形で言っていただいた。口頭で言っていただいたことが委員のご意見と解釈していいか。

● 「労災保険の民間開放の検討」ということでご検討いただきたい。

● 清家委員がおっしゃったことは、この案文を取りまとめた責任者としても全く同意見である。そうしたセーフティーネットを後退させるような形の民間開放は排さなくてはならない。そうしたことは案文にも書いた。労災保険ができたのは昭和22年で、それ以来、労災保険の問題についてはほとんど議論すらされていない。様々な問題があることを述べた上で、「今後の課題」において民間開放の検討を打ち出し、その際には米国の一部の州でやっているような民間への完全な丸投げではなく、厚生労働省と民間が適正な役割分担を果たす形での民間開放についての検討を提唱した。例えば、認定基準や労災の概念は厚生労働省が決め、民間はそれに従って純粋な損害保険業務をやっていく、というようなイメージである。そのメリットは、貴重な公務員を保険業務ではなく、本来の労災防止に専念させるということで、むしろ多くの労災事故が防げるのではないかということで、あくまでも労働者保護の立場からこうしたことができるのではないかと申し上げている。これらが本当にできるかどうかは、今後検討してもらわなければわからない。最初に民営化ありきではなく、民間開放の可能性についての問題提起をした。
 こうした問題提起は労災のみならず、あらゆる官製市場について、官製市場ワーキンググループでやってきた。同WGでは今おっしゃったように、「検討するまでもなく、歴史的にみても海外事例をみても当然である」という認識を持っていない。そこだけが意見の中で唯一違う点である。以上、当方の趣旨を申し上げたが、その上で会議の中で他の委員にご判断いただきたい。

● この問題については、委員間で元々それほど意見の隔たりはないことは私も感じる。私は労災保険について検討の必要がないと申し上げている訳ではない。様々な検討を行う必要があると考えている。ただし、この制度を国が責任を持ってやるということは、事前規制を緩和する一方で国が事後的なセーフティーネットを担保するという観点から大切で、この制度を民間に開放するという話を聞いた時に、多くの人々が強い不信感あるいは不安感を持つことは間違いない。そうした不信や不安は、歴史を見ても実態を見ても、不当なものであるとは思わない。もちろん、あらゆるものは常に検討の余地はあるが、規制改革会議の見識として見直しを提言するものは、その見直しに相当の意味があること、あるいは緊急性があることだと思う。「検討の余地がないことはない」と言うのはその通りだが、労災保険の検討の中に民間開放という項目を入れることは、一般には保険そのものを民営化することと受け取られる。私は、それは適切ではないと思うし、当会議の見識を示すことにはならないと思う。

● 関連して、社会保険庁にしても労働基準監督署にしても、雇用保険、社会保険、労災保険の未加入事業者の摘発は、人数が足りないのでなかなかできないという詭弁を使う。そういうことを踏まえて、民と官が協調して労働者保護を進めれば、セーフティーネットが組めるのではないかと思う。要するに、故意に加入手続きを怠っている事業者にしても「故意ではなかった」と言えば無罪放免になる。10年や20年加入していなくても、「故意ではなかった」と言えばペナルティも何もない。こうした不公平なことが起きている。社会保険庁も労働基準監督署も、これを積極的に撲滅するのではなく、仕方がないで済ませている。例えば、派遣会社が求人募集の際に「社会保険完備」と広告に入れる際には必ず登録番号を載せる等の仕組みを作らないと、払わない事業者が得をする。行政側が取り締まりの姿勢を強く打ち出さないと、まともに払っている事業者は損をするという不公平な状態がこれからも続く。その意味で、民と間が協調してセーフティーネットを作っていくことを検討するというのは、一つの方策であると思う。

● 民間開放という項目を入れることは適切ではないというお話も理解できるが、昨年、官製市場WGを立ち上げる際に2つの原則を掲げた。第一は、「民間でできることに官は立ち入らない」ということ。それまでは「民間でできることは民間に」というのが第三次行革審の方針であった。第二は、「国家権力に由来するものはすべて公務員が行わなければいけないのか」という原則である。この2つの原則を掲げて、60数業種についてヒアリングを行い、このうち19業種について提言を行った。当会議の基本認識は、今申し上げたスタンスに立って官民協調し、民間委託さらには民営化を進めるというものである。
 「民間に任すと様々なことが起こる」と言っておられるが、これは言葉が悪いが、一種の民間性悪説でこれまでの支配的な議論である。しかし、我々は「そうでしょうか」ということを去年以来言ってきているのであるから、答申案文の中身の熟度の問題はあるものの、もし、「事後チェックの強化は民にやらせるのは駄目で、官であるならば安全だ」とお考えであれば、そこは当会議の基本的認識とは違う。この点を理解して欲しい。

● もちろん、「民にやらせると何でも危険だ」とは思っていない。民間がやった方がいいものもあれば、そうでないものもあるというのはおっしゃる通りである。繰り返しになるが、労災保険についてはすでに様々な歴史的な試行錯誤があり、現在の適用状況も考えれば、先ほど言ったような理由で、民間開放することはセーフティーネット性が弱まると考える。
 他のことは分からないが、労災保険については、先進諸国でのこれまでの経緯を踏まえると、民間に委ねることは適切ではないと私は考える。他のことについては何も申し上げないが、知っていることについてこういう話が出てきた時に何も言わないというのは専門家として無責任だと思った次第である。

● 「他のこと」であっても、私どもは昨年、例えばハローワークの民間委託等をやった。いずれも「民間危うし」という話が出たが、そのような民と官の関係であっては今後は困る。そこから直していきたいということである。労災保険も「他のこと」と並べてみれば、官製市場の民間開放という一つのトレンドの中にある問題であり、これは日本が今後取るべき道である。こうしたものの一つとして理解いただく訳にはいかないか。

● 何度も申し上げるが、私は別に「民間危うし」と言っているわけではない。「民にできることは民に」とは、「すべてのことを民に」と言っているのではなく、「民にできないことは官がやる」ということもある。全部を民がやるというのでは、政策にならない。その中で、たまたま私が専門家として勉強した範囲の中には、「民がやるよりは官がやる方がいい分野もある」というだけの話である。その辺は誤解のないようにお願いしたい。

● この分野では清家委員も八代委員も専門家であり、お二人のどちらかが反対されることを答申に入れるべきでないと思う。しかし、話を聞いていると二人の考えは極めて近い。結局、八代委員は、全面民営化は考えていない。全部民営化することは検討の一つの候補としてはあり得るかもしれないがそれを検討してくれといっているわけでない。清家委員は、それならわからなくはないが、実際問題として「民間開放」といえば、世間は全面民営化と受け止めると言っている。この文章には、「民間開放」の定義がない。少なくとも、それが即、全面民営化を必ずしも意味しないとも書いていない。「労災保険の民間開放」という代わりに「労災保険の一部民間委託の検討」とすれば、最初から全面民営化を意味していないということが明確になると思う。それで全部書き直せば、少なくとも「民間開放」という言葉が引き起こすかもしれない誤解は避けることができると思う。

● 「民間開放」を「民間への一部民間委託」ということか。

● 第一歩として「一部民間委託」とする。誤解しているかもしれないが、清家委員は全部民営化には反対だとおっしゃっている。

● 二点ある。
 確かに「民間開放」「民間への業務委託の可能性」の定義が曖昧ということはある。ただ、「労災保険の民間開放の検討」の最初のところに自動車損害賠償責任保険と多くの共通点を有していると書かれているので、労災保険を自賠責保険と同じように、雇い主に加入を義務づけて、民間保険に加入すればいいのではないかと考えられると思う。もちろん、世界中のことを調べているわけではないが、私が勉強した限りでは、これを民間に委託しているのはアメリカの一部の州などに限られる。先進国の歴史を見ると、労災保険は民間保険加入型から社会保険型に変わってきている。民間保険との併用、民間保険だけというのは、アメリカの一部の州に限られている。八田先生からありがたいお言葉をいただいたが、専門家でも意見が分かれることはいくらでもあり、八代先生にご自身の主張を曲げて修文していただくのは本意ではない。規制改革会議は皆が同じ意見をもっているわけではなく、それぞれ違う意見を持っている有識者が議論している。これまで少数意見がついてこなかったのが不思議なくらいだ。私は八代先生の意見に賛成はできないが、皆様の多数が賛成するのであればそれを尊重するので、私の少数意見をそこに付記してくれればそれでかまわない。

● 答申は個人論文ではなく、調整するのは不本意ではない。できれば共通項で答申を書く必要がある。八田委員の言うように民間開放を一部民間開放にする、清家委員の言うように自賠責が冒頭にあるのがいかがなものかというのであれば、それも修正できる。日本でも労災の民間保険が既にあり、公的な労災保険の上乗せ給付として行われている。アメリカと違うかもしれないし、定義次第だが、日本でもアメリカと同様にコンペティティブになっている。それほど清家委員と意見が異なるわけではない。十分妥協できる範囲だと思う。できれば清家委員の修文の提案をいただいて、変える余地があれば変えたいと考えている。

● 清家委員にご理解いただきたいが、この審議会は、複数の意見を書いて終わる普通の審議会と異なる。歴史的にこれで9年目となるが、当会議は、戦う相手が省庁、業界であり、それに対してメンバーが一致団結してこれに当たっていくという伝統がある。いろいろな意見があってもそれをすり合わせて、一つの意見として相手に向かっていくというのがこれまでであった。ご異論はあるかもしれないが、私は少数意見をつけるかどうかという問題ではなく、我々が他の省庁にどのように当たっていくのかについて心を統一するという問題であると考える。先程来の議論でも一つにするのが不可能とは思われない。当会議の戦う相手は各省庁であって、内部ではない。この点についてご理解いただけないか。

● その点は全く理解できない。私は3年前に就任したので当然9年間の歴史を踏まえていないが、この会議は運動体でもなければ、敵と戦う組織でもないと思っている。私は専門家としてその知見を述べるために参加している。この会議は官庁と戦うためではなく、国のために必要と考えられる規制緩和があれば、それについて専門家として意見を述べるところであると認識している。
 なお、申し上げたいのは、特に規制緩和については官庁との関係もあるかもしれないが、むしろ民間の業界同士の利害対立の問題もある。このような民間の利害対立の問題は、本来この会議で決めるべきではなく、政治家が選挙で国民に選択を求めるべき問題である。つまり、政治家が、本来、政治決定すべきものを、選挙で選ばれたわけではない我々が、こっちとこっちというように、仕分けするのはやりすぎと思う。我々は専門家として知見を申し述べ、必要があれば答申にまとめる、と理解して、私はこの会議に参加している。そうではない、一致団結しなければ困るというのであれば、わたしの考えているこの会議の特性と違うと思う。

● 私は学者ではないので、言葉使いは荒いが、用語法なら修正する。各省庁が反対するのに対して、主査自らが各省庁を説得してこの方向で行こうという形で改革を進めてきた。この点は清家主査も同じはずである。各省庁の意見を聞いて学問的意見を言っていただけではないはずである。

● 何をする会議かよく知らないでこの会議に参加したというのは事実だが、責任を任された以上は各省庁との折衝もしっかりやっている。しかしこれは役所との戦いではない。

● 戦いという言葉は取り消した。各省庁との真摯な討議である。

● もちろんしている。客観的な議論を戦わしているのであって、運動ではない。役所に対して一致団結して対峙されているとおっしゃったが、我々はひとりひとり違う意見を持っている。少数意見があっても全くかまわないはずである。会議が一丸となってどこかに当たっていかなければいけないというのは、少なくとも私が考えているこの会議の姿と違う。

● 考え方の違いとしか言いようがない。そういうものではない、珍しい存在であったというのは歴史的な事実だし、清家委員以外の主査は皆そのつもりで当たってきたということは否定できない。

● 私が担当しているWGの名誉のためにいうと、雇用WGでは3年前から比べればかなり規制緩和を進めたと思っている。これは合理的な理由に基づく規制緩和である。一方的な緩和を押しつけた結果ではない。私は、この会議において、専門家として、雇用について労働市場の環境変化に応じて、現在の規制が必ずしも労働者のためになっていない部分があるとすれば、それを変えたほうがいいのではないかと厚生労働省に提案を行い、当初は難しいと言われていた部分についても、納得してもらった部分については規制改革が相当進んだと思う。

● 話を聞いていると我々と同じことをやっていただいていると思う。要するに、理論的に国として進めたほうがいいと思う事柄についてよく話し合って、納得を得た上で進めていくというのが我々の作業である。また、それを纏めて一本の答申にもっていくのは、各主査の責任である。それに対して大きく意見が違うならまだしも、末節の違いで対立するのはいかがなものか。

● そういう中で、皆が同じ意見である必要はない。皆が同じ意見にならなければならないとすれば、とんでもない話であると思う。

● 総合規制改革会議は規制を外すために集まっている。各省庁と規制をどう外していくか交渉していく。あんな意見もある、こんな意見もある、といったら主査として何もできなくなるのではないか。

● 私はこの委員への就任依頼をうけたときに、何でも規制緩和というは反対ですと申し上げた。そのときは、そうではなくて、規制緩和会議ではなく規制改革会議であって、規制のあるべき姿について検討する会議なので是非参加してほしいと言われたので参加した。そして、私もそのつもりで今まで議論してきた。ですから、何でも規制を取り外すための運動をするための会議であれば最初から参加していない。

● 確認だが、清家委員の言うことはもっともだが、少数意見は根本的な意見の対立があるときに記載するものである。この問題については、全面自由化の是非ではなく、事業の民間開放について検討する価値があるかないかということに過ぎずそれほど意見に違いはないように思える。例えば、八田委員の言うように、全面開放ではないという形の修文や、自賠責とのアナロジーは望ましくないからそれを外すという修文は十分受け入れられる余地はある。この点についてもう少し議論する価値はないのか。最後の質問です。

● 要するに、メリットとデメリットの勘案。何事も検討する余地はあるが、労災保険について、民間への開放や委託を検討するということを長期的な検討課題として答申に載せることのメリット、デメリットの問題である。私はデメリットの方が大きいと考えている。私はこれまで3年間、何度もこの会議で規制の事前緩和はできる限り進めるべきだが、事後的なチェックやセーフティーネットの整備はもっと強く行っていくべきと訴えてきた。しかし、残念ながらこの場ではこの点について十分な議論は行われなかった。そういう中で、多くの人々が、雇用の問題について一方的に事前規制が緩和されるだけで、事後的なセーフティーネット性が弱まるのではないかという不信ないし不満を抱いている。そういう中で、わざわざ不信感を増幅させるような文言を入れることが会議の見識になるとは残念ながら私は思えない。この点については考え方の違いが大きいと思う。もし、そこまで同じ考え方であると、一部の民間委託でもいい、といわれるのであれば、どうして項目全体を削除されないのか。

● 民間委託によって事後チェック機能が強化されると考えているからこそ答申に入れている。仮に清家委員がこういう少数意見を書くと、むしろ我々の答申が誤解されて伝わることをおそれている。私も清家委員と同様に事前規制緩和と事後チェック機能強化は一体であると考えているが、事後チェック機能を強化する手段について、すべて官がやることが強化につながらないのではないかと考えている。公務員の数は限られているので、公務員と民間の適切な役割分担ができれば、むしろ事後チェック機能を強化できるということを検討する価値はあると思う。事後チェック機能の強化という点についても私は清家委員と同じ意見で、その手段の評価が違う。もしどうしても少数意見を書くのであれば、こういう書き方ではなく、民営化について検討することがむしろ効果的でないという形にならないか。決してこれは事後チェック機能の弱体化を狙った答申ではないということはご理解いただきたい。

● わかりました。少数意見の文案については後ほど提出させていただく。

● 答申に書かなくても、清家委員がこのペーパーを会議に出されたということは議事録にきっちり載る。そこで、清家委員が十二分にご自分の考えを表明したということは世間に周知されるわけだが、それではいけないのか。

● 報告書全体として整合性を欠くと考えている。もし、このままの報告書を私が認めて、最後に規制改革会議の委員として名に連ねると、自分がコンシステントでないと考えているものに名を連ねることになるので、できれば少数意見を載せていただきたい。

● 各省庁と交渉している中で、それを促進するのはこの会議の使命である。そういうことから言うと、少数意見を一つ一つ載せていれば、民間のビジネスの世界でいえば勝負にならない。今後への影響が心配である。今言ったようなお考えは議事録にきっちり載せるということで、ご理解いただいた方が、向後に憂いを残さないと私は考えている。

● 規制改革会議の答申がでれば、最終的に議事録までみる人はそんなにいないので、規制改革会議のメンバーが心を一つにして同じように賛成したものととられる。そういう答申案がいいのか、それとも会議の中の異なった意見が、最終的に調整のつかなかった部分が正直に載せられた答申案がいいのか、私は後者の方がフェアなものだと思う。ここは鈴木議長代理と価値観が違う部分かもしれない。

● 見ないというなら、答申も見ない。

● 議事録と答申は性格が違う。答申は責任のある文章として、委員が全員名を連ねて出す。議事録と答申とではウェイトが違うし、見る人の数が違う。そうでなければ困ると思う。議事録を見ない人は答申を見ないというのは、違うと思う。

● いずれもオープンになっているという意味である。もうこれ以上は言わない。

(宮内議長)ただいまの点については、議論が出尽くしたと思う。未調整ということで引き続き、先般ご一任いただいたが、議長代理と主査と私に調整を任せていただくということで、最終案を来週までにつくらせていただくということで、引き取らせていただく。ただいまの件も含めて、医薬品の問題も今日以降に書き込まなければならない。労災保険については合意がとれていないという段階での意見の調整ということなので、何らかの妥協的な文章ができれば大変ありがたいと思う。医薬品の問題についてはどこまでとれるか、答申の内容の問題である。これらを含めて、来週までに調整させていただき、調整の終了したものから速やかに事務局を通じて各委員に連絡させていただく。なお、今後のスケジュールについては来週22日月曜日の3時から本会議を開催し、会議としての答申を決定したい。その後、総理の時間をいただいて答申をお渡しする。

以上(文責総合規制改革会議事務室)


2003年12月18日

日本医師会

経営効率を最優先する労災保険民営化には反対 日医が要望書

 日本医師会(坪井栄孝会長)は18日、政府の総合規制改革会議(議長=宮内義彦オリックス会長)が22日にまとめる規制改革の第3次答申に「労働災害補償保険(労災保険)の民営化」が盛り込まれる見通しであるのを踏まえ、これに反対する「要望書」を宮内議長はじめ、小泉純一郎総理大臣、坂口力厚生労働大臣、福田康夫官房長官、額賀福志郎政調会長、青木幹雄参院幹事長ら政府関係者に提出した。
 
 要望書は、労災保険の民営化は「労働者の権利を侵害し、事業主の利益を損なう改悪」とするとともに、「労働者が安心して就労できる環境の確保は、医療・年金・雇用等とともに社会保障制度の一環として憲法が担保している国の責務である」と訴えた。
 
 過労死などの労災認定が急増する中で、労災保険が民営化されると労働者保護の概念が後退してしまうのではないかと危惧する声が労働団体の間でも強い。要望書は、「営利を目的とする民間保険会社が労災保険を扱うことになれば、被災労働者に対する医療から年金に至る現行の各種補償体系の給付水準が著しく低下する恐れがある」と指摘。国民の健康を守るためにも「労災保険の民営化に強く反対する」と明言した。

(JMA PRESS NETWORKの配信記事より)


2004年1月6日

連合通信・隔日版

「民間開放」は事実上先送り/労災保険の扱いで結論出せず/総合規制改革会議が答申

 内閣府の総合規制改革会議(宮内義彦議長)が昨年十二月二十二日、「規制改革に関する第三次答申」を決定し、小泉総理に提出した。労働分野で焦点の一つになっていた労災保険の民間開放は、結論時期を明示しない「今後の課題」として扱われることになり、ゴーサインは出せなかった。労働界や日本医師会など広範な反対意見の反映だ。同会議に代わる「新たな規制改革推進機関」のもとで、四月以降改めて浮上する可能性も残っている。
 答申は、〇三年度末に閣議決定される規制改革推進基本計画で「最大限尊重」される。労災保険の民間開放が「今後の課題」に先送りされたことで、政府・厚生労働省が本格的な検討を開始する事態は回避された。

 労災保険の民間開放に対しては、連合や全労連など労働界をはじめ、全国社会保険労務士会連合会や日本医師会も反対した。厚生労働省の審議会(労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会)は日本経団連の代表を含む公労使委員が一致して反対していた。日本医師会の要望書(十二月十八日)は、労災保険の民営化について「労働者の権利を侵害し、事業主の利益を損なう」「各種補償体系の給付水準が著しく低下する恐れがある」とし、国民の健康を守る立場から「強く反対する」と表明した。

 第三次答申には、同会議の雇用・労働ワーキンググループの主査を務める清家篤・慶応大学教授も反対している事実が付記された。清家教授は「(労災保険の民間開放が)労働災害に関する安全網の改善や、事前規制緩和と事後チェック及び安全網の整備を一体として進めることに貢献するとは考えられない」との反対理由を明らかにしている。