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[資料番号] 00164
[題  名] 労災保険の民営化問題資料(6) 総合規制改革会議「第3次答申」及び厚生労働省の考え方、委員名簿等 H15.12.22
[区  分] 労災補償

[内  容]

労災保険の民営化問題関係資料〔6〕

総合規制改革会議「第3次答申<追加5の重点検討事項>
2 労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進など
(1)労災保険









【資料のワンポイント解説】

1.総合規制改革会議(宮内義彦議長)が昨年12月22日、「規制改革に関する第三次答申」を決定し、小泉総理に提出した。本資料は、うち、労災保険の民営化に係る部分を抜粋して掲載したものである。
 労災保険の民営化は、第3次答申では、結論時期を明示しない「今後の課題」として扱われ、しかも、清家委員の「労災保険の民間開放の検討は、労働災害に関する安全網(セーフティーネット)の改善や、事前規制緩和と事後チェック及び安全網の整備を一体として進めることに貢献するとは考えられないので反対である」という少数意見を附した異例の答申文となっている。

〔以下、答申を読んで〕

2.労災保険は黒字か−修正されない先入観

 総合規制改革会議の労災保険民営化問題主査の八代委員は、H15.11.10の厚生労働省に対するヒヤリングで”社会保険のうちで唯一大幅な黒字を上げている保険ということで、黒字があるがゆえにこれまで必ずしも改革の努力が十分進んでいなかったのではないかということであります”とその認識を披瀝している。それが労災保険の放漫運営につながり労災病院等の事業拡大に使われてきたと理解する。しかし、先入観はヒヤリング等を通じて糾されたかぎりでは修正されなければならない。
 八代委員が描く労災保険の黒字とは、7兆円を超える労災保険の積立金のことであるが、この点は、”(正確には)7兆3900億円の積立金は、現在約22万人いる労災年金受給者の将来にわたる給付のための積立金であり、実際の必要推計額7兆9000億円に対してなお不足しており黒字ではない。現在でも保険料から不足額の積み立てているのだ”(厚生労働省)と説明しているのに対して、八代委員は、
「○八代委員 じゃ積立金はすべて年金給付の将来給付に相当するわけですか。○高橋部長 基本的にそうです。○八代委員 そんな多くの額が必要なのですか。○高橋部長 はい。これについては、その算定の考え方については、既に資料としてお示しをしてきているところでございます。○八代委員 わかりました。」というヒヤリングの経緯から、八代委員は、積立金の性格と現在状況について理解していたものと思われる。
 かかる状況下において、なお、答申が「労災保険は、充足賦課方式の下、7 兆円を超える積立金を有しており、労災病院の経営等、直営の事業活動も拡大されてきた。」と記述を押し通したのは、如何かと思う。背景を知らない国民を欺くレトリックであり、委員としての誠実さに欠けると言われても止むを得まい。

3.労災認定の実務から遊離した答申記述が認められる。

 八代委員(主査)は、また、”労災認定基準さえ国の方で決めれば、それに従って実際の施行をするというのは、民間の人でもできるのではないか”(H15.11.10ヒヤリング)とする基本認識を持ち、これが、答申の「何が労災に相当するかといった基本的な概念や認定基準については国が労働基準法に基づき定め、他方、それに基づく労災保険の管理・運営については民間事業者が行うこととすべきである。」との記述に現われている。
 しかし、これは認定実務から遊離した見解であろう。
 労災認定の実務は、9割方の作業は実のところ、認定基準に当てはめるべき客観的事実の確定のための作業(資料提出要求、実地調査、関係者聴取、医学鑑定等々の)である。過去の、しかも事業場内の出来事や状況に関して、如何にして認定判断に必要な客観的な事実の割り出し・特定ができるかにかかっているのである。これが労災認定実務の要であり、これさえしっかりできれば、認定基準への当てはめ〔判断〕は、比ゆ的に言うなら、一瞬のもの〔説得的な文章表現には相応の時間を要するであろうが、、〕である。
 これらを担保しているのが調査権限(資料提出や立入りの権限)であるが、これを、事業場への立入権限のない民間事業者が遂行する−職権なく事実関係をうきぼりにする−のは、現実問題として困難であろう。さらに、労災認定には、そもそも労働基準法の適用を受ける労働者であるか否か−労働者性をめぐる判断等の労働関係特有の困難性もある。
 ”労災認定基準さえ国の方で決めれば、それに従って実際の施行をするというのは、民間の人でもできるのではないか”というのは、労災認定の特殊性と実務を承知しない見解に過ぎない。認定実務の実際についてなかなか理解が及ばないのはわかるが、それが短絡的に無責任な結論(記述)に至るのは情けない。

4.労災保険の運営コスト

 そもそも労災保険の民営化の議論は、労働基準監督署が行うより民間事業者が行う方がコスト高になる。このことが明らかであれば、その時点で、議論は終結されなければならない性質のものであろう。

 現在、労災保険料のうち業務取扱費は、754億円でこれは保険料の5.2%相当であるとされる。
 一方、自賠責保険は、保険料のほか社費・代理店手数料を3割前後かぶせて徴収していると言われる。このことだけでも、労災保険の民営化は、コスト高を招き、事業主・労働者のためにならないと厚生労働省は説明している。加えて、民営化は、民間事業者の破綻に備えた再保険コストも考慮に入れなければならず、さらにコスト高になるだろうとも言われている。
 総合規制改革会議がモデルにするのは、アメリカであるが、アメリカの民間労災保険会社は、破綻・清算が多数生じており、反面教師とすべきではあってもモデルにならないことはこれら事実が示している。破綻・清算問題を別にしても、アメリカの場合、日本の5.2%に対して民間労災の管理運営費の割合は40%近いとされる。

 労災保険の民営化が、現状よりコスト高につながるという厚生労働省の説明は、資料を読むかぎり説得力があるように思われる。
 そもそも労災保険は、わが国の社会保険のなかでも最も効率化の進んだ保険であるから、これを上回るコスト対策は、常套手段たる民営化をもってしても対抗できない状況にあるといえよう。担当職員の人件費にしても、対比すべきものが民間でも人件費の高いとされる保険会社であるから、甲乙つけ難いか、むしろ安い可能性があるのに加えて、特に、労災保険(労働保険)は、保険料の徴収コストが極めて低廉であることの強みが非常に大きい。これが、主要諸外国に比べても、日本の労災保険料率は圧倒的に低いことにつながっている。
 わが国の労災保険制度は、”よくぞこのような制度設計を考案できたものだ”と思えるほど、効率性に優れている。
 諸外国が、わが国の制度を研究しモデルにすることはあっても、その逆は考えにくい。
 この一点をして、すでに、労災保険の民営化の検討は前提を失っているというべきである。

5.労災保険制度に、改革を要する点はないのか

 例えば、総合規制改革会議が問題とする「労災病院」の改革であるが、確かに、現在の労災病院は、わが国における職業性疾病に係る研究や専門治療の蓄積において敬意が払われる存在になっていないのは問題であり、初心に帰って専門病院としての方向性を明確にした取組が必要と思われる。
  また、総合規制改革会議は、未払い賃金の立替払事業に関して、「それをあてにして倒産する前には、どうせそこから払われるということで、、、モラルハザードを助長する面があるのではないか」と指摘する。
 立替払制度も、制度発足時に想定していなかった〔中小企業定義の拡大、倒産法制の変更
、立替上限額の引き上げ〕によって、制度の変容が生じており、総合規制改革会議の指摘も的外れなものではない。特に、民事再生法等の倒産法制の改正があって以降、再建型倒産である民事再生法の適用企業に立替払制度を適用しているが、これなど賃金不払を起こした経営者が、自らの手で、国費(労災保険料)による立替払いを行うといった現実が容認されている。さらに、最近では、立替払いの事業総額が極めて多額に達し、制度発足時の想定を超えるものとなっている。制度の廃止の是非には議論があろうが、縮小再整理が必要と思われ、少なくとも、労災保険の福祉事業として、このままの姿で継続することは当を得ないのではなかろうか。
 その他、労災保険について制度改革を要する点も少なくないが、別の機会にゆずることとする。



2004.1.15
労務安全情報センター









目次
1.総合規制改革会議「第3次答申−活力ある日本の創造に向けて−」

2.総合規制改革会議委員・専門委員名簿
3.
総合規制改革会議「第3次答申」(重要検討事項部分)に対する厚生労働省の考え方〔平成15年12月24日 厚生労働省〕



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総合規制改革会議「第3次答申−活力ある日本の創造に向けて−」

<12 の重点検討事項>
<追加5の重点検討事項>
2 労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進など

(1)労災保険

【現状認識】

 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)は、使用者(事業主)を加入者、政府を保険者とし、すべての産業について、業務上の理由に基づく災害補償を迅速に行うことを目的に、昭和22 年に設立された強制保険である。
 他方、政府としてこれまでも精力的に取り組んできている労働市場の事前規制の緩和は、労働者にとっての社会的安全網(セーフティーネット)の整備と一体的に行われることが規制改革の原則であるが、政府が所掌する損害賠償責任保険が適正かつ効率的に運営されているか否かは、その社会的安全網としての役割に大きくかかわっている。
 労災保険の本来の目的は、使用者の災害補償責任を確実に履行するための責任保険であり、労災保険の給付がなされれば使用者は労働基準法(昭和22 年法律第49 号)の災害補償責任を免れるという対応関係があった。しかしながら、現在の労災保険の給付や対象範囲は、災害に伴う直接の療養費や休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付のみならず、各給付の上乗せ支給を行う特別支給金や介護補償給付の導入、給付の年金化などを通じ、次第に労働基準法上の規定を上回る水準に拡大し、結果として、医療や年金・介護等の社会保障給付を上回る水準を保障するに至っている。
 こうした中で、別途制度の充実が図られてきた医療や年金・介護等の公的保険との関係で、労災保険がどのような役割を担うかということも、大きな課題となってきている。
また、労災保険は、社会保険であっても、「保険」である限り、その保険料率は、本来、使用者の労災発生のリスクに応じた「給付と負担の均衡原則」の下で設定されるべきである。仮にリスクの高い使用者の保険料負担の一部を、リスクの低い使用者の負担で賄えば、使用者間の負担の公平性のみならず、リスクの高い使用者の労災防止へのインセンティブを損ね、本来の労働者保護の目的を果たせないことになる。
 さらに、労災保険は、充足賦課方式の下、7 兆円を超える積立金を有しており、労災病院の経営等、直営の事業活動も拡大されてきた。労災病院は、平成16 年度から独立行政法人化することが決定しているものの、平成9 年の特殊法人の整理統合化に関する閣議決定に基づく労災病院の統合・民営化や労災保険からの出資金の削減等の改革は十分なものとは言えない。

 

【具体的施策】
 @ 労災保険強制適用事業所のうち未手続事業所の一掃(職権による成立手続の徹底等)【平成16 年度中に結論】
  労災保険の現行制度の下では、原則として、ある事業所が労働者を1人でも使用すれば、当該事業所は「強制適用事業所」とされ、事業が開始された日から自動的に保険関係が成立する。このため、保険関係成立届を届け出ていない(保険料未納付である)事業所で生じた労災事故についても、労働者保護の観点から、被災労働者は給付を受けることができる仕組みとなっている。
  こうした中で、すべての強制適用事業所のうち、現に保険関係成立届を届け出ている事業所数は約270 万であるが、他方、未手続事業所は、最大限約60 万(全体の約14%)存在するとされている(平成13 年度推計値・厚生労働省提出資料より)。
このように、労災保険は、本来、強制適用保険制度であるにもかかわらず、事業主の中にはそれを十分に認識していないケースや、未手続事業所に対し労働基準監督署の職権による成立手続が十分に行われていないことなどにより、事業所間の公平性等が保たれていない。
  なお、使用者が故意または重過失により労災保険に加入していない期間に事故が発生した場合には、療養開始後3年以内の場合に限って、保険料のほか、保険給付額の全部又は一部(最大限40%程度)を徴収することとなっている。法律上、保険給付に要した費用の全部を徴収できるにもかかわらず、そのような運用がなされていないことや、故意又は重過失のある場合を限定的に解していることについて、厚生労働省は「使用者に対して経済的な過大な負担を強いることや、労災保険への加入手続が行われないこと自体を防ぐため」としているが、こうしたことが、一部使用者のモラルハザードを助長し、結果的に労災事故防止の妨げとなっていると考えられる。
  したがって、こうした未手続強制適用事業所を一掃するため、周知・啓発や加入勧奨にとどまらず、労働基準監督署の職権等の積極的な行使などの措置を講ずべきである。

 A 業種別リスクに応じた適正な保険料率の設定【平成16 年度中に結論】
  現在の労災保険の保険料率については、業種別に設定されているが、当該業種別のリスクを正確に反映したものとはなっていない。特に、事務職等の「その他各種事業」と「建築事業」などのサービス業については、給付に対して過大な保険料負担となっている。
  労災保険の役割として、労災事故のリスクが高い業種ほど保険料率を高く設定し、業種ごとの事業主集団の労働災害防止へのインセンティブを促進することが挙げられるが、現行のような大幅な業種間の調整を行うことにより、そうしたメカニズムが十分に機能するものとはなっていない。
  したがって、事業主の労働災害防止へのインセンティブをより高めるとの観点も踏まえ、業種別の保険料率の設定について、業種ごとに異なる災害リスクも踏まえ、専門的な見地から検討し、早急に結論を得べきである。
  また、保険料率は審議会等のプロセスを経て決定されているとはいえ、当該審議会等の情報開示は不十分であり、どのような計算の下で、将来債務の額等が算定され、料率改定が行われたのかなどについて、具体的に明記すべきである。

 B 労働福祉事業の見直し【平成16 年度以降逐次実施】
  労働福祉事業として行われている労災病院については、労災患者数の占める割合が年々低下しており(入院6%、通院3.4%。(平成9 年度。総務庁行政監察局行政監察結果報告書(平成11 年12 月)より))、専門病院としての役割は低下している。
  こうした状況にかんがみれば、労災病院事業を中心に労働福祉事業について、適切な事業評価を実施した上で、逐次見直しを図るべきである。

【今後の課題】

 @ 労災保険の未手続事業所名の公表など
  労働者保護等の観点から、労働基準監督署の職権等を積極的に行使する以前の措置として、労災保険の未手続事業所のうち故意にその加入手続を怠っているものについては、その名称を公表するなどの制裁措置を講ずべきである。また、同様の趣旨から、雇用保険、社会保険の未手続事業所に対しても、同様の措置を講ずべきである。

 A 労災保険の民間開放の検討
  使用者の災害補償に備える労災保険の仕組みについては、民間の損害保険(自動車損害賠償責任保険)と多くの共通点を有している。また、既に労災保険の上乗せ補償の保険は民間会社で提供されている。
  仮に、労災保険の民間開放がなされたとした場合、未手続事業所が増加するなど、給付が十全に行われなくなるのではないかといった懸念も指摘されている。しかしながら、こうした懸念に対しては、未手続事業所への経済的ペナルティーの強化と併せて、限られた人数の労働基準監督署の人員を補完する上でも、民間事業者を積極的に活用することで、未手続事業所の減少につながるものと考える。
  労災保険に関して、国と民間との適正な役割分担の在り方としては、何が労災に相当するかといった基本的な概念や認定基準については国が労働基準法に基づき定め、他方、それに基づく労災保険の管理・運営については民間事業者が行うこととすべきである。その結果、国は本来の労働者保護のための監督業務に専念できることになるため、メリットは大きいと考えられる。
  「労災から労働者を保護する」という労災保険の本来の目的が十分に担保されるという前提の下、政府の直轄事業方式にこだわらず、現行の使用者の強制加入原則及び保険者の引受義務を維持しつつ、労災保険の民間開放・民間への業務委託の可能性について、厚生労働省内の議論や労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会のみならず、関係各省、有識者、実務家等を交え、幅広く検討すべきであると考える。
  使用者は、労災保険の給付に加えて業務災害を理由とする損害賠償を請求(労災民訴)される場合があるが、この際、労災保険給付と損害賠償との調整が行われず、労災保険料負担に加え、損害賠償の支払いという二重の負担が生じることがある。
このように、国の労災保険だけでは使用者の損害賠償責任を完全に担保できないため、労災保険料負担に加えて民間の労災保険に加入する使用者も多いが、そうした意味では、労災の損害賠償負担に関し、既に民間の保険も一定の役割を果たしていると言える。

  なお、労災保険の民間開放の検討は、労働災害に関する安全網(セーフティーネット)の改善や、事前規制緩和と事後チェック及び安全網の整備を一体として進めることに貢献するとは考えられないので反対である、という少数意見(清家委員)があった。




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総合規制改革会議委員名簿(平成15年12月現在)

議長 宮内義彦 オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEO *アクションプラン実行WG主査
議長代理 鈴木良男 株式会社旭リサーチセンター代表取締役社長 *ITWG、医療・福祉WG、エネルギー・運輸WG主査
委員
奥谷禮子 株式会社ザ・アール代表取締役社長 *教育・研究WG主査
神田秀樹 東京大学大学院法学政治学研究科教授 *基本ルール・基盤整備WG、法務・金融・競争政策WG主査
河野栄子 株式会社リクルート代表取締役会長兼CEO
佐々木かをり 株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
清家篤 慶應義塾大学商学部教授 *雇用・労働WG主査
高原慶一朗 ユニ・チャーム株式会社代表取締役会長 *事業活動円滑化WG主査
八田達夫 東京大学空間情報科学研究センター教授 *住宅・土地・公共工事・環境WG主査
古河潤之助 古河電気工業株式会社代表取締役会長
村山利栄 ゴールドマン・サックス証券会社マネージング・ディレクター、経営管理室長
森稔 森ビル株式会社代表取締役社長
八代尚宏 社団法人日本経済研究センター理事長 *構造改革特区・官製市場改革WG、農林水産業・流通WG主査
安居祥策 帝人株式会社代表取締役会長 *国際経済連携WG主査
米澤明憲 東京大学大学院情報理工学系研究科教授

※ 委員は50音順


総合規制改革会議専門委員名簿

〔アクションプラン実行WG〕
稲葉清毅 群馬大学名誉教授
河北博文 医療法人財団河北総合病院理事長
福井秀夫 政策研究大学院大学教授

〔構造改革特区・官製市場改革WG〕
安念潤司 成蹊大学法学部教授
福井秀夫 政策研究大学院大学教授

〔法務・金融・競争政策WG〕
川本裕子 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン東京支社シニア・エクスパート
金子郁容 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
長谷川友紀 東邦大学医学部公衆衛生学講座助教授
阿曽沼元博 国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所教授
小嶌典明 大阪大学大学院法学研究科教授
森戸英幸 成蹊大学法学部教授

〔農林水産業・流通WG〕
神門善久 明治学院大学経済学部助教授
生源寺眞一 東京大学大学院農学生命科学研究科教授

〔住宅・土地・公共工事・環境WG〕
福井秀夫 政策研究大学院大学教授
安念潤司 成蹊大学法学部教授
中井検裕 東京工業大学大学院社会理工学研究科教授






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総合規制改革会議「第3次答申」(重要検討事項部分)に対する厚生労働省の考え方

 平成15年12月24日 厚生労働省


1 基本的考え方

○このたび、総合規制改革会議において、医療・福祉、雇用・労働などの規制改革に関する「第3次答申」が決定された。
○厚生労働省としては、経済社会システムの構造改革が進む中で、規制改革の重要性は充分認識しており、サービスの質の向上、利用者の選択の拡大や労働者が安心して持てる能力を十分に発揮できることにつながるような規制改革については、これまでも積極的に対応してきているところである。
○一方、厚生労働行政の分野は、サービスや規制の内容が国民の生命・生活や労働者の労働条件などと密接に関わるものであり、また、そのサービスの大半が保険財源や公費で賄われているなど、他の分野とは異なる性格を有していることから、規制改革を進めるに当たっては、経済的な効果だけでなく、
 @サービスの質や安全性の低下を招いたり、安定的な供給が損なわれることがないか、
 A逆に、過剰なサービス供給が生じる結果、保険料や公費の過大な負担とならないか、
 B規制を緩和した結果、労働者の保護に欠けることとなったり、生活の不安感を惹起させないか、
などの観点から、それぞれの分野ごとに慎重な検討を行うことが必要であると考えている。
○今回の「第3次答申」のうち、「具体的施策」に盛り込まれた事項については、これまで、厚生労働省としても総合規制改革会議側と真摯な議論を重ねてきた結果得られた成果であり、その着実な実施に邁進してまいりたい。
○しかしながら、今回の「第3次答申」のうち、「問題意識」や「現状認識及び今後の課題」等に掲げられている事項については、その基本的な考え方や今後の改革の方向性・手法・実効性において、当省の基本的な考え方と見解を異にする部分が少なくない。
○以上を踏まえ、今般、総合規制改革会議により「第3次答申」が公表されるに当たり、特に重要とされている「重要検討事項」の「現状認識及び今後の課題」等に掲げられている事項について、これに対する当省の考え方を以下の通り整理し、公表することとしたものである。なお、7月の「規制改革推進のためのアクションプラン・12の重点検討事項に関する答申」で取り上げられた以下の@〜Fの主張については、基本的には総合規制改革会議側の考え方にも変化がないことから、当省の考え方も従来からのものと同様である。

2 個別事項についての総合規制改革会議の主張と厚生労働省の考え方 (※労災保険民営化問題関係のみ抜粋)

総合規制改革会議の主張(要約)
厚生労働省の考え方
G労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進など
(1)労災保険
【現状認識】
○労災保険の給付は、労働基準法上の規定を上回る水準に拡大してきた結果、他の公的保険の水準を上回っており、これらとの役割分担が大きな課題となっている。

○労災保険の保険料率は、保険である以上、業種別の労災発生リスクに応じ給付と負担は均衡すべき。そうでなければ、使用者の労災防止へのインセンティブを損ねる。


○労災保険は7兆円の積立金を有しており、労災病院等の事業を拡大してきた。

○現在の労災保険の水準は、ILO条約を始めとした国際水準を満たす水準として設定されているところであり、またそもそも制度趣旨の異なる他の社会保険との比較で論じる意義は乏しい。

○社会保険たる労災保険においては、業種別に厳密に収支均衡する必要はなく、総合規制改革会議の主張は社会保険の理論を無視している。また、災害防止は、一義的には、国の災害防止施策が担うべきものである。

○労災保険の積立金は、全額将来の年金給付に充てられるための任準備金であり、余剰金ではなく、労働福祉事業とは無関係。

【今後の課題】
○労災保険の仕組みは自動車損害賠償責任保険と多くの共通点がある。使用者の強制加入及び保険者の引受義務を維持しつつ、何が労災に相当するかという認定基準は国が定め、それに基づく労災保険の管理・運営は民間事業者が行うこととすべきであり、労災保険の民間開放・民間への業務委託の可能性について、幅広く検討すべきであると考える。
○労災保険の民営化(民間開放)については、当省からの民営化できないとの考え方に対し適切な反論がなされず、また、重大な事実誤認の指摘にもかかわらず、総合規制改革会議独自の見解を公表されたことは、極めて遺憾である。

○労災保険の民営化(民間開放)は、以下のとおり、如何なる観点からみても労働者保護の観点から根本的に問題があり、できないと考える。
 (1) 自賠責保険においては自賠責保険に加入していないと車検を通らないことから加入が担保されているが、労災保険ではのような加入を担保する仕組みがない。
  民間保険会社では加入を強制できず、また、国が特定の民間保険会社との契約を強制することはもとより、滞納処分もできないため、使用者の強制加入及び保険者の引受義務を維持したとしても、未加入・未納事業場が続出することは避けられず、そのような事業場で被災した労働者は補償を受けられない。
 (2) 交通事故と異なり、過労死等外形的に業務上の災害かどうか判断が難しい新たな労災事案が増加する状況で、事業場への立入権限のない民間保険会社では、実態を踏まえた労災認定が困難である。
 (3) 仮に労災保険の民営化を行った場合には、上記(1)のとおり未加入事業場が続出するが、こうした未加入事業場の被災労働者に対しても補償を確実に行うためには新たに国の補償事業が必要となる。また、自賠責と異なり長期にわたる年金給付があることからも民間保険会社の破綻に備えた仕組みなどが新たに必要となる。
  このようなことから、民営化により、かえって非効率化し、ひいては保険料率の大幅な引上げのおそれが大きい。なお、日本の労災保険の保険料収入に占める管理運営費の割合は5.2%だが、民間開放を行っている唯一の国であるアメリカの民間労災保険の管理運営費の割合は40%近い。

○以上のような問題点にかんがみ、学識経験者、使用者団体及び労働組合の代表から成る審議会、日本医師会等の諸団体から、それぞれの立場を超えて、「労災保険の民営化(民間開放)」について強い反対意見が出されているところであり、また、過労死や雇用不安が問題となっている現下の厳しい経済社会情勢にかんがみれば、このような検討を行うこと自体、労働者を始めとした国民の無用の不安感を煽ることが避けられないことから、労災保険の民間開放について検討することは不適切であると考える。
(注)本年11月26日付けで、労働政策審議会労災保険部会から、公労使全員一致により、「労災保険の民間開放の促進」について反対である旨の意見が表明されている。

○労働者保護等の観点から、労災保険、雇用保険等の未手続事業所のうち故意にその加入手続を怠っているものについて、名称を公表するなどの制裁措置を講ずべきである。 ○労災保険及び雇用保険については、加入勧奨に従わないときは職権成立手続を行うほか、雇用保険については、職権による被保険者資格の取得及び労働者自身による被保険者資格の確認が可能であることから、労働者保護は十分に図られているため、未手続事業所名の公表などの制裁措置を講ずる必要はない。

○なお、雇用保険及び社会保険の未手続事業所名の公表については、アクションプランワーキンググループにおける十分な議論を行わずに記述されており、総合規制改革会議における議論、答申の在り方として、極めて遺憾である。