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[資料番号] 00172
[題  名] 「労働審判法」の法案要綱 (平成16年通常国会提出−H16.3.2)
[区  分] その他

[内  容]





労働審判法
法案要綱



【資料のワンポイント解説】

1.平成16年通常国会に提出(3月2日閣議決定)された「労働審判法」の法案要綱である。

2.法案の骨子は、
 個別労働関係民事紛争を対象に、調停又は審判を行う。審判手続きは、裁判官である労働審判官1人と、2人の労働審判員(労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命)の計3人で組織する労働審判委員会で行い、決議は、過半数の意見による。審判には、裁判上の和解と同一の効力を付与する、というもの。

3.運用がどのようなになるか不明な点も多い。

・代理人が原則弁護士に限定されていることと、想定する小型簡明事案(三回以内の期日において、審理を終結)との兼ね合いがどうなるか。
・労働審判員の任命の実際がどうなるか。労使双方から各1を選ぶとも言われるが、「労・使」という概念を設定しそれに限定した任命は、(人材供給の面を考慮すれば)はたして現実的か。
−総任命数をどの位に置いているかにもよるが、、。法案上は、「労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命」としているのは、賢明だろう。
・手続の費用負担命令(第25条関係)も運用がどうなるか、興味のあるところ。

4.本労働審判制度は、民事紛争の中でも「解雇、労働契約紛争」において独自の位置を占めるとき、制度本来の意義が評価されることになるのだろう。現在の民事調停(労働関係の利用件数は少ない)の延長に陥らないよう期待したい。








労働審判法案要綱

第一 目的

 この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とすること。(第一条関係)

 

第二 管轄等

一 管轄

 労働審判手続に係る事件(以下「労働審判事件」という。)は、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とするものとすること。(第二条関係)

二 移送

 裁判所は、労働審判事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送するものとするとともに、労働審判事件がその管轄に属する場合においても、事件を処理するために適当と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該労働審判事件の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができるものとすること。(第三条関係)

三 代理人

 労働審判手続については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ代理人となることができないものとすること。ただし、裁判所は、当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができるものとするとともに、裁判所は、その許可を取り消すことができるものとすること。(第四条関係)

 

第三 労働審判手続

一 労働審判手続の申立て

 1 当事者は、個別労働関係民事紛争の解決を図るため、裁判所に対し、労働審判手続の申立てをすることができるものとし、その申立ては、その趣旨及び理由を記載した書面でしなければならないものとすること。(第五条関係)

 2 裁判所は、労働審判手続の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、その申立てを却下しなければならないものとすること。(第六条関係)

二 労働審判委員会等

 1 労働審判委員会

 裁判所は、労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行うものとすること。(第七条関係)

 2 労働審判官

 労働審判官は、地方裁判所が当該地方裁判所の裁判官の中から指定するものとすること。(第八条関係)

 3 労働審判員

 (一) 労働審判員は、この法律の定めるところにより、労働審判委員会が行う労働審判手続に関与し、中立かつ公正な立場において、労働審判事件を処理するために必要な職務を行うものとすること。(第九条第一項関係)
 (二) 労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命するものとすること。(第九条第二項関係)
 (三) 労働審判員は、非常勤とするとともに、その任免及び手当等について所要の規定の整備をすること。(第九条第三項及び第四項関係)
 (四) 労働審判委員会を組織する労働審判員は、労働審判事件ごとに、裁判所が指定するものとし、裁判所は、労働審判員を指定するに当たっては、労働審判員の有する知識経験その他の事情を総合的に勘案し、労働審判委員会における労働審判員の構成について適正を確保するように配慮しなければならないものとすること。(第十条関係)
 (五) 労働審判員の除斥の制度を設けるものとし、所要の規定の整備をすること。(第十一条関係)

 4 労働審判委員会の決議等

 (一) 労働審判委員会の決議は、過半数の意見によるものとすること。(第十二条第一項関係)
 (二) 労働審判委員会の評議は、秘密とするものとすること。(第十二条第二項関係)


三 労働審判手続の指揮

 労働審判手続は、労働審判官が指揮するものとすること。(第十三条関係)

四 審理等

 1 労働審判手続の期日

 労働審判官は、労働審判手続の期日を定めて、事件の関係人を呼び出さなければならないものとすること。(第十四条関係)

 2 迅速な手続

 (一) 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならないものとすること。(第十五条第一項関係)
 (二) 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならないものとすること。(第十五条第二項関係)

 3 手続の非公開

 労働審判手続は、公開しないものとすること。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができるものとすること。(第十六条関係)

 4 証拠調べ等

 労働審判委員会は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをすることができるものとし、この証拠調べについては、民事訴訟の例によるものとすること。(第十七条関係)

 5 調停が成立した場合の費用の負担

 各当事者は、調停が成立した場合において、その支出した費用のうち調停条項中に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとすること。(第十八条関係)

 6 審理の終結

 労働審判委員会は、審理を終結するときは、労働審判手続の期日においてその旨を宣言しなければならないものとすること。(第十九条関係)

 

第四 労働審判

一 労働審判の内容等

 1 労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行うものとし、労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができるものとすること。(第二十条第一項及び第二項関係)

 2 労働審判は、主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならないものとし、その審判書は、当事者に送達しなければならないものとすること。この場合においては、労働審判の効力は、当事者に送達された時に生ずるものとし、その送達について所要の規定の整備をすること。(第二十条第三項から第五項まで関係)

 3 労働審判委員会は、相当と認めるときは、2にかかわらず、審判書の作成に代えて、すべての当事者が出頭する労働審判手続の期日において労働審判の主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、労働審判を行うことができるものとすること。この場合においては、労働審判の効力は、告知された時に生ずるものとすること。(第二十条第六項関係)

 4 裁判所は、3により労働審判が行われたときは、裁判所書記官に、その主文及び理由の要旨を、調書に記載させなければならないものとすること。(第二十条第七項関係)

二 労働審判に対する異議の申立て等

 1 当事者は、労働審判に対し、一2による審判書の送達又は一3による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができるものとすること。(第二十一条第一項関係)

 2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならないものとすること。(第二十一条第二項関係)

 3 適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は、その効力を失うものとすること。(第二十一条第三項関係)

 4 適法な異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有するものとすること。この場合において、各当事者は、その支出した費用のうち労働審判に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとすること。(第二十一条第四項及び第五項関係)

 

第五 訴訟手続との連携等

一 訴え提起の擬制

 1 労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなすものとすること。(第二十二条第一項関係)

 2 1により訴えの提起があったものとみなされる事件は、1の地方裁判所の管轄に属するものとするほか、所要の規定の整備をすること。(第二十二条第二項及び第三項関係)


二 労働審判の取消し

 1 第四の一2により審判書を送達すべき場合において、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないこと等の事由があるときは、裁判所は、決定で、労働審判を取り消さなければならないものとすること。(第二十三条第一項関係)
 
 2 1により労働審判が取り消された場合についても、一と同様に訴えの提起があったものとみなすものとすること。(第二十三条第二項関係)

三 労働審判によらない労働審判事件の終了

 1 労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができるものとすること。(第二十四条第一項関係)

 2 1により労働審判事件が終了した場合についても、一と同様に訴えの提起があったものとみなすものとすること。(第二十四条第二項関係)


四 費用の負担

 裁判所は、労働審判事件が終了した場合(第三の四5及び第四の二4の場合を除く。)において、必要と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該労働審判事件に関する手続の費用の負担を命ずる決定をすることができるものとすること。(第二十五条関係)


五 事件の記録の閲覧等

 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、労働審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は労働審判事件に関する事項の証明書の交付を請求することができるものとするほか、所要の規定の整備をすること。(第二十六条関係)

六 訴訟手続の中止

 労働審判手続の申立てがあった事件について訴訟が係属するときは、受訴裁判所は、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができるものとすること。(第二十七条関係)


第六 その他

一 即時抗告

 第二の二、第三の一2、第四の二2、第五の二1及び第五の四の決定に対しては、即時抗告をすることができるものとすること。(第二十八条関係)


二 非訟事件手続法及び民事調停法の準用

 労働審判事件に関しては、非訟事件手続法及び民事調停法の関係規定を準用するものとすること。(第二十九条関係)

三 最高裁判所規則

 この法律に定めるもののほか、労働審判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定めるものとすること。(第三十条関係)

四 罰則等

 不出頭に対する過料の制裁その他の罰則等について所要の規定の整備をすること。(第三十一条から第三十四条まで関係)


第七 施行期日等

一 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。ただし、第三の二3 (一)から(三)までについては、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。(附則第一条関係)

二 この法律の施行に伴う関係法律の規定の整備をすること。(附則第二条から附則第五条まで関係)