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[資料番号] 00018
[題  名] 今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方について(公益委員案)
[区  分] 労働基準

[内  容]
<資料のワンポイント解説>
1 本資料は、平成9年11月21日の労働時間、就業規則等両部会合同会議において公益委員案として示されたもの。12月4日中央労働基準審議会へ正式報告がなされ、その後労働大臣あて建議が行われる運び。

2 ポイントは、裁量労働制のホワイトカラー全般への適用拡大とそれがもたらす弊害の問題であろう。
 対象業務が、「本社及び他の事業所の本社に類する部門における企画、立案、調査及び分析の業務」と広範、かつ、抽象的であることがまず問題だろう。運用次第では際限のない広がりを持つおそれがある。
 また、裁量労働のみなし時間の設定が労使に委ねられることとなるが、このみなし時間を機械的に所定労働時間(例8時間)としたような場合、毎日が平均10時間の労働実態にあったとしてもこれらの時間は、合法的なサービス残業となってしまう。
 これらをチェックするのが、新設の「労使委員会」という図式であるが、おそらく日本の労使関係の元における「労使委員会」は本来の機能は発揮できまい。

3 実務的な観点からいうならば、
(1)裁量労働における「みなし時間」を合理的なものとするには、一定期間ごとに実際の労働時間との比較対比の作業が必須。
(2)そのためには、比較ベースとなる実際の労働時間把握が行われることが重要。このような観点から、
(3)「裁量労働の対象者に対する労働時間の把握義務を明示的に課すこと」が、今後の法案化及び国会審議にあたって検討されていいように思われる。









今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方について(報告)
公益委員案−−概要−−

 一、労働契約期間の上限等について

@新商品又は新技術の開発等の業務に必要とされ、当該事業陽で確保が困難な高度の専門的な知識、技術又は経験を有する者を新たに雇い入れる場合
A新規事業又は海外活動の展開等経営上の必要により一定の期間内に完了することを予定して行うプロジェクトに係る業務に必要とされ、当該事業場で確保が困難な高度の専門的な知識、技術又は経験を有する者を新たに雇い入れる場合
B定年退職者等高齢者に係る場合
の三つの場合を法律で規定した上で、これらの場合について、現行では一年とされている労働契約期間の上限を三年に延長することが必要である。

 また、有期労働契約の反復更新の問題等については、その実態及び裁判例の動向に関して専門的な調査研究を行う場を別に設けることが適当である。さらに解雇予告の適用除外とされている労働者のうち、いずれも短期の有期労働契約に係るものである二カ月以内の期間を定めて使用される者及び季節的業務に四カ月以内の期間を定めて使用される者について解雇予告制度を適用する意義や実効の有無について、引き続き検討することが適当である。

 ニ、労働契約締結時の労働条件の明示について

 現行の「賃金に関する事項」に加えて、@就業の場所及び従事すべき業務に関する事項A始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに就業時転換に関する事項B退職に関する事項C労働契約の期間(有期労働契約の場合に限る)について、使用者は労働契約の締結時にこれらの事項を記載した書面を労働者に交付することにより明示するものとすることが必要である。

 この場合に、中小規模の事業陽において明示が使用者にとって過大な負担となることなく適切かつ確実に行われるよう労働者の雇用形態別に定型化したモデル様式を作成し、その普及に努めることが適当である。


 三、退職事由の明示について

 労働契約の終了時において労働関係の内容を明確にし、また、退職に関する紛争を未然に防止するため、退職労働者から請求があったときは、使用者は、労働関係の終了期日及び解雇により終了した場合はその理由を含め労働関係の終了の事由を記載した書面を交付するものとすることが必要である。
 この場合に、退職事由の明示が使用者にとって過大な負担となることなく適切かつ確実に行われるよう、定型化したモデル様式を作成し、その普及に努めることが適当である。
 なお、解雇をめぐり形成されている判例法理を現行労働基準法に規定することは適当でないと考えるが、一〇Bの労働条件紛争の解決援助のためのシステムの運営に当たり、解雇に係る事案を判例法理を基に的確に処理するためのマニュアルを作成し、さらに、これを広く労使に周知、啓発することが適当である。


四、変形労働時間制の在り方

(1)一年単位の変形労働時間制について

 業務の繁閑に合わせて効率的に労働することを実現するための計画的な労働時間管理が節度をもって行われ、休日の増加によるゆとりの創造、時間外・休日労働の減少による総労働時間の短縮を実現できるよう、一年単位の変形労働時間制が労使の自主的話合いにより活用されることが重要である。こうした観点から、制度導入の要件等に関し、次の@及びAの措置を相関運する一体のものとして講ずることが必要である。

@休日の確保等に係る措置

イ、制度導入に当たり一定日数以上の休日を確保するものとする。
ロ、一日又はー週間の最長所定労働時間を延長する場合は延長前より休日の日数を増加させるものとする。
ハ、最大連続労働日数は現行の一ニ日から可能な限り短縮すること。具体的には、労使があらかじめ合意により定める期間を除き、毎週定期的に休日が確保されるようにする。
ニ、時間外労働を減少させるための措置として、六(1)の基準において一年単位の変形労働時間制に関する時間外労働について低い水準を設定する。

A所定労働時間の限度等に係る措置

イ、一定期間を通じた計画的な労働時間管理を業務の繁関に合わせて行うことにより、閑散期における休日の確保等による総労働時間の一層の短縮を図るため、一日及びー週間の所定労働時間の限度について、変形期間の長短による区別をなくし一日一〇時間・一週間五ニ時間とする。
ロ、業務の繁閑を確実に見通した労働日及び所定労働時間のより適切、的確な設定を可能にするため、労働日及び労働時間の特定について、各期間の三〇日以上前に特定することを条件として、現行三カ月以上とされているところを、変形期間を一カ月以上の期間ごとに区分して特定できることとする。
ハ、各事業場における斉一的な労働時間制度の実施を可能とするため、対象労働者の範囲について、変形期間の中途で採用され又は退職する労働者も対象とできることとし、これらの労働者については、四〇時間に使用期間の週数を乗じた時間を超えた労働時間について法定割増賃金を支払う精算措置を講じなければならないこととする。

(2)一カ月単位の変形労働制について

 労使の自主的話合いによる制度の実施を可能とする観点から、導入要件を「労使協定の締結又は就業規則その他これに準ずるものにより定めること」とすることが適当である。

五、一せい休憩について

 労使協定の締結を要件として適用除外とすることが必要である。
 この場合に、既に適用除外の許可を受けている範囲については、引き続き適用除外とする旨の経過措置を設けることが適当である。

六、時間外・休日労働の在り方及び関連事項としての深夜業

(1)長時間時間外労働の実効ある抑制方策について

 次に掲げるような法令上の措置を講ずることにより、時間外労働に関し、労使協定が適正に締結され、実施されるよう実効ある指導を行うことが必要である。

@労働基準法において、時間外労働協定において延長する労働時間の上限に関する基準を定めることができる根拠を設定するとともに、使用者がその基準に留意すべきこととする責務やその基準に関し使用者に対して必要な指導、助言を行うことという一連の措置に関する規定を設けること。
A時間外労働協定の締結当事者である労働者の過半数を代表する者の選出方法及び職制上の地位等を適正なものとするため、これらに関し現在通達で示している内容を一〇(4)のとおり省令で規定すること。

(2)女子保護規定の解消に伴う家庭責任を有する女性労働者の職業生活や労働条件の急激な変化を緩和するための措置について

 平成一一年四月から男女雇用機会均等法等整備法が施行され、いわゆる女子保護規定が解消されることに伴い、家庭責任を有する女性労働者が被ることとなる職業生活や労働条件の急激な変化を緩和するための措置として、育児・介護休業法の深夜業の制限を請求できる労働者の範囲を基本に、そのうち激変緩和措置の対象となることを希望する者を対象として、上記(1)の基準において通常の労働者よりも低い水準の時間を三年程度設定することが適当である。
 なお、具体的な水準や措置を講ずる期間については、当審議会において時間的余裕をもって検討することが適当である。

(3)代償休日の付与について

 長時間労働による労働者の健康への影響等を考慮し、使用者は、労使の話合いの下に特別の事情が生じた等の理由により、労働者に上記(1)の基準を考慮して定める一定の水準を超えて時間外労働を行わせた場合には、労働者の請求により代償休日を付与するよう努めることが適当である。
 この場合に、代償休日の付与方法等について労使の話合いのよりどころとなる事項をガイドラインとして示すことが適当である。

(4)時間外・休日労働及び深夜業の割増率について

 時間外・休日労働の割増率については、特に中小規模の事業場における労使の自主的取組による引上げの状況や、週四〇時間労働制の定着状況を見極める必要があることから、平成一〇年度の実態調査結果を見た上で、引上げの検討を開始することが適当である。また、深夜業の割増率についても、併せて検討することが適当である。

(5)割増賃金の算定基礎からの住宅手当の除外について

 除外賃金とされている家族手当及び通勤手当の取扱いとの均衡を考慮すると、住宅に要する費用に比例して支給される住宅手当については除外になじむと考えられるが、その具体的範囲は、改正法の施行までに引き続き検討を行い、省令により規定することが適当である。

(6)その他

 深夜業については、その実態及び健康面への影響に関する調査をまず行い、その結果を踏まえ、深夜業にかかわる諸問題について深夜業に従事する労働者の就業環境整備、健康管理等の在り方を含め検討する場を設けることが必要である。
 なお、上記検討に当たっては、改正法の施行までに早急に措置を講ずる必要があるものについては施行時期を念頭に時間的余裕を持って検討できるよう配慮することが適当である。
 また、別途定める水準に照らし過重な時間外労働や深夜業に従事した労働者の健康確保を図るため、疾病の予防の観点から労働者の健康管理努力に対する援助のための事業を実施することを検討することが適当である。

 七、裁量労働制の在り方について

 経済のグローバル化による世界的な競争の激化、産業構造の変化が進む中で、活力ある経済社会を実現していくためには、産業、企業の積極的な事業展開とともに、事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮し得るよう業務の遂行を労働者の裁量にゆだねていく必要性が高まっており、そうした動きも顕著となっている。
 また、こうした労働者の中には自らの知識、技術や創造的な能力をいかし、労働時間の配分や仕事の進め方について自ら決定し、主体的に働きたいという者も増加している。これらの労働者については、業務の性質上、業務の遂行状況や成果等の評価を労働時間の長さによって行うことがなじまない者も増加しており、適切な労働時間管理が困難となっている者も見受けられる。このため、労働基準法上、このような業務に従事する労働者の働き方のルールを設定することによって、適正な労働条件や労働環境の確保を図っていくことが必要である。

(1)対象業務の範囲

 対象業務は、本社及び他の事業所の本社に類する部門における企画、立案、調査及び分析の業務であって、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があることから業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的指示をすることが困難なものである旨限定して法律で規定した上で、下記(2)の労使委員会において業務の特定が適切に行われるようにするための措置を講ずることが必要である。
 この場合に、当該業務の範囲を明確にするため、企業経営の動向や業績に大きな影響を及ぼす事項に関し、実態の把握、問題の発見、課題の設定、情報・資料の収集・分析、実施策の策定、実施後の評価等の関連し合う一群の業務を、その遂行の手段及び時間配分に関し自己の判断において決定し、遂行する労働者がこれに該当し、アンケート、ヒアリングの実施またはその結果を集計する業務、統計デー夕、事例等の情報・資料の収集・整理を専ら行う等の補助的、定型的業務に従事する労働者や、工場等で統一的な労働時間管理の下で働く現業労働者は該当しない旨を告示等において具体的に明らかにすることが適当である。

(2)導入要件

 事業場内に賃金や評価制度等を含め労働条件全般を調査審議する労使委員会を設け、労使委員会において、対象労働者となり得る者の範囲の特定、深夜労働、休日労働を含む勤務状況の把握方法及び働き過ぎの防止・健康確保のための措置、苦情処理体制等について決議を行うことを制度実施の要件とすることが必要であ
る。
 この場合に、労使委員会は、
@導入手続及び運用の適正を確保する観点から、労使の自主的話合いを実質的に保障し得るものになるよう、委員の半数が、当該事業湯の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合の推薦に基づき、そのような労働組合がない場合には当該事業場の労働者の過半数の信任を得た上で、それぞれ指名されていること
A設置について労働基準監督署長に届け出られていること
B議事録が作成、保存及び周知されていること
C決議が周知され労働基準監督署長に届け出られていること
等の要件を満たすものとすることが適当である。

(3)制度の適正な運用を確保するための指針

 制度の適正な運用を図るため、労働大臣は、上記(1)の対象業務等の具体例のほか、働き過ぎ防止・健康確保のための措置の内容、苦情処理体制の在り方、裁量労働制の適用に当たっての労働者本人の同意及び申し出による適用除外並びに労働者が同意しなかったこと等を理由とする不利益取り扱いの禁止、業務の遂行状況や成果等の評価基準等制度導入に当たって労使が話し合って定めておく事項等について、指針を定めて示すことが適当である。


八、年次有給休暇のあり方について

 労働移動の増加に対応して、勤務年数の長短により付与日数に大きな差が生じないようにし、あわせて、特に中小企業における労働者の定着状況等をも考慮して雇い入れ後ニ年六カ月までは現行通り一年ごとに一日追加付与し、ニ年六カ月を超えた後は、一年ごとにニ日追加付与する(雇入れ後三年六カ月目からニ日ずつの追加付与となる)ものとすることが必要である。

 また、上記措置に関連し、年次有給休暇の取得促進のため、計画的付与制度の普及等を含め、有効な方策について検討を行うことが適当である。

 九、特例措置の在り方について

 平成一〇年度の実態調査結果を見た上で検討を行い、水準およびその実施時期について平成一一年三月末までに結論を出すことが適当である。

 十、その他

(1)法適用の方式について

 現行のいわゆる号別適用方式をいわゆる包括適用方式に改めることが適当である。

(2)就業規則について

 ニにより労働契約締結時の労働条件の書面による明示制度をまずすべての事業場に実施するとともに、あわせて、一〇人未満規模事業場を対象として、就業規則の普及促進に関する支援事業を実施することが適当である。
 また、別規則の制限については、廃止することが適当である。
 さらに、周知方法については、現行の掲示、備付け以外は労働者への写しの交付とすることが適当である。

(3)労働条件紛争の解決援助のためのシステムについて

 労働移動の増大、労働者の働き方の多様化等に伴い、労働条件に関する紛争の増大が予想されることから、将来的には労働条件に関する紛争を調整するためのシステムについて、総含的に検討することが必要である。
 当面の措置として、労働基準監督署における相談、情報提供等の機能を強化し、紛争の発生の予防に努めることとするとともに、紛争の発生に至った場合に、当事者からの申し出を受けて、都道府県労働基準局が労働条件に関する紛争について事実関係および論点を整理し、助言や指導により、簡易かつ迅速に解決を促すシステムを創設することが必要である。

 その際、労働基準監督署および都道府県労働基準局においては、労働条件や人事労務管理に関する知識、経験の豊富な民間の適切な人材の参画を求めることが適当である。

(4)労使協定について

 労使協定が事業場における労働基準法の具体的適用のあり方を規定するものであることから、労働条件の明確化を進めるため、使用者は、労働基準法上の労使協定の内容及び締結当事者について、就業規則等と同様に掲示、備付け、または労働者への写しの交付によって、労働者に周知するものとすることが必要である。
 また、労使協定の締結当事者である労働者の過半数を代表する者の選出の方法及び選出される者の職制上の地位等を適正なものとするため、現在通達で示している内容を、省令で規定し、周知、徹底することが必要である。


【以上、週間労働ニュース11月24日号より転載】