|
熱中症の予防について
(平成8年5月21日付け基発第329号) 平成6年及び平成7年の夏期における記録的な猛暑により、特に建設業などの屋外作業を中心に7月から8月にかけて熱中症による死亡災害が多発し、熱中症の予防対策の充実が求められている状況にある。 記 1 作業環境管理 (1) 発熱体と高温環境下での作業場所(以下単に「作業場所」という。)の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設けること。屋外作業においてはできるだけ直射日光を遮ることができる簡易な屋根等を設けること。 2 作業管理 (1) 気温条件、作業内容、労働者の健康状態等を考慮して、作業休止時間や休憩時間の確保に努めること。特に、人力による掘削作業等エネルギー消費量の多い作業や連続作業はできるだけ少なくすること。 3 健康管理 (1) 直近の健康診断等の結果に基づき、適切な健康管理、適正配置等を行うこと。 4 労働衛生教育 高温環境下における作業を行う際には、作業を管理する者及び作業者に対し、あらかじめ次の事項について労働衛生教育を行うこと。 5 救急措置 (1) 緊急連絡網をあらかじめ作成し、関係者に周知すること。
|
熱中症
高温高湿環境下で、体温調節や循環機能が障害を受けたり、水分塩分代謝の平衡が著しい失調を来して、作業遂行が困難又は不能に陥った状態を総称して熱中症という。病態生理学的には、熱射病、熱けいれん、熱虚脱及び熱疲はいに分類される。
なお、日射病は直射日光下で生じた熱射病を意味する。
[1] 熱射病(日射病)
熱中症の中では致命率が高く、緊急の治療を要する。夏期の屋外作業又は高温の屋内作業において、高熱とともに意識障害を生じた場合、特に他の原因がないかぎり熱射病と診断される。
体温調節機構の失調、体温又は脳温の上昇を伴う中枢神経障害が原因と考えられる。突然意識喪失に陥ることが多いが、前駆症状としてめまい、悪心、頭痛、耳なり、イライラなどがみられ、嘔吐や下痢を伴うこともある。発汗が止まり、熱い乾いた皮膚になり、体温は通常41℃を超え、42℃以上に達することも少なくない。
<救急措置>
裸体に近い状態にして、冷水をかけながら扇風機の風を当てる。氷片でマッサージする。アルコール綿で全身を拭くなど、あらゆる手段を用いて体温の低下を図る。
[2] 熱けいれん
大量の発汗による塩分喪失に対して、これを補給しなかったことによって起こる。作業でよく使用される四肢筋や腹部の筋肉が、疼痛を伴い発作的にけいれんを起こす。けいれん発作は、作業中のみならず、作業終了時の入浴中や睡眠中に起こることもある。
熱けいれんでは、体温はあまり上昇せず、血圧の変化もないことが多い。
<救急措置>
0.1%の食塩水を飲ませて涼しいところで休養させる。
[3] 熱虚脱
高温環境下では体熱放散を盛んにするために、皮膚血流量が増加する。この時、内臓への血流量、心臓への還流量、心拍出量が減少し、血圧が低下するので、代償的に心拍数が増加する。高温暴露が継続し、この心拍増加が一定限度を超えたときに起こる循環障害を主体とする症状を熱虚脱という。
熱虚脱では、全身倦怠・脱力感を覚え、めまいから意識混濁し、昏倒することもある。心拍は頻脈で微弱、血圧は低下している。体温の上昇はほとんどみられない。
<救急措置>
涼しいところで安静にし、水をとらせる。
[4] 熱疲はい
大量の発汗で、血液が濃縮し、心臓の負担増大や血流分布の異常が起こると、初期には激しい口喝、尿量の減少がある。やがてめまい、四肢の感覚異常、歩行困難などがみられ、失神することもある。頻脈・体温上昇をみることもあるが、多量の発汗で皮膚は冷たく湿っている。血圧の異常を見ないのが普通である。
<救急措置>
涼しいところで安静にし、水をとらせる。
熱中症による死亡災害
平成6年及び平成7年は、2年続けて猛暑であったことから熱中症による死亡災害が多発した。
発生件数の推移 (表=略)
以下、平成6年及び平成7年に発生した熱中症による死亡災害の概要を示す。
[1] 月別被災状況
熱中症による死亡災害は、7月、8月に集中している。特に、8月上旬に多くの災害が発生している。
[2] 業種別被災状況
平成6年及び平成7年ともに建設業での発生が最も多い。また、建設業以外の業種においても、工事現場の警備や車両の誘導など建設業に付随する作業において発生している例が多い。
屋外、屋内での発生状況をみると、屋外の工事現場での作業中や工場周辺の草取り作業中の災害など、屋外での作業で熱中症にかかる例が圧倒的に多くなっている。
[3] 時間帯別被災状況
発生時間帯では、午前11時から午後5時までの間に多く発生しているが、昼の休憩時間後の13時台の発生件数は平成7年に1件発生しているのみで非常に少ない。これは、気温が高い時間帯での発生が多いことを示す一方で、休憩及び水分などの補給が熱中症の予防に非常に重要であることを示しているものと言える。
[4] 年齢別被災状況
被災者を20歳から10歳ずつの区切りに分けて、70歳までの年齢別に調べると、50歳台を頂点として年齢が高くなるとともに被災者数が増加する傾向がみられる。特に、平成7年においては24人の全被災者数のうち50歳台が15人(63%)となっており、50歳台に集中して発生している。
[1] 月別被災状況 (図=略)
[2] 業種別被災状況 (図=略)
[3] 時間帯別被災状況 (図=略)
[4] 年齢別被災状況 (図=略)
[5] 災害事例 (表=略)