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[資料番号] 00020
[題  名] 職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関する調査研究会報告書(下)
[区  分] 雇用均等

[内  容]
3 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの原因


(1)職場におけるセクシュアル・ハラスメントの特徴

 セクシュアル・ハラスメントは、多くの場合、一般の性的言動と異なり、継続的人間関係が存在している状況の中で生ずる特色がある。
 このうち職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、上司や同僚によってなされることが多く、こうした場合個々の行為を捉えて問題とすることは当然であるが、その根本的な防止を図るためには、むしろ、そうした個々のセクシュアル.ハラスメントを生じさせている土壌ないし背景となっている職場の人間関係や環境の在り方を考え、原因となっている問題点を除去していくことが重要である。


(2)職場におけるセクシュアル・ハラスメントの原因

イ 企業の雇用管理の在り方

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントが起こる原因としては、まず、企業自身が雇用管理面で男性中心の発想から抜け出せず、女性労働者の活用や能力発揮を考えていないという場合が挙げられる。セクシュアル・ハラスメントは、男性の多い職場、特に、男性中心の発想や考え方、慣習、環境となっている職場において生ずる場合が多いと言われているが、こうした職場では、女性労働者が企業を支える重要な労働力
として位置づけられておらず、その立場や役割さらには意識についての誤解や認識不足が往々にして見られる。このような企業の女性労働者に対する対応は、女性労働者に対する男性労働者の意識ないし認識、ひいては行動に影響を与えるとともに、両者があいまってセクシュアル・ハラスメントを惹起する環境を形成しているものと見られる。

ロ 女性労働者に対する意識

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、性的な発言(性的冗談・からかい、性的噂の流布等)、性的なもので視覚に訴えること(ヌードポスター掲示等)、性的な行動(身体接触等)等様々な言動の形態をとるが、これら言動に共通する特徴として、女性労働者を対等なパートナーとして見ない意識に加え、性的な関心ないし欲求の対象として見る点があげられる。

 このうち、前者の女性労働者を職場における対等なパートナーとして見ていないものとしては、例えば女性を一段下として、一人前に扱わない、補助的・定型的な仕事を割り当てる等女性に対する固定的な役割分担意識に基づくものと考えられる。

 後者の性的な関心ないし欲求の対象として見るという意識の在り方は、性的な関係を求める、性的な冗談を言う等のセクシュアル・ハラスメントになりうる性的言動に直接結びつくものである。

 これら両者の意識は、密接に結びついている面がある。すなわち、対等なパートナーとして認めないために、性的関心の対象として意識することにもなり、また、性的関心がそのまま言動となって現れるのは、対等なパートナーとして見ていないためでもあると考えられる。

 さらに、行為として現れる場合にも、両者の意識に基づくハラスメントが画然と分けられない場合や重複している場合も見られる。


 女性労働者を職場における対等なパートナーとして見ない性別役割分担意識の内容は、分担意識の強い段階から無意識の段階まで、いくつかに分けて考えることができ、この点について、一応の整理を試みると、例えば次のような分類ができよう。

イ.例えば、最も強いものとして、自分の領域を女性に侵害されたくないとして、女性を職場から排除するような意識が考えられる。こうした意識の在り方は、アメリカにおいては、セクシュアル・ハラスメントを起こす重要な原因の一つとして指摘されている。
 こうした意識に、性的要素が加わった場合には、故意の攻撃的な言動によるセクシュアル・ハラスメントの形をとることが考えられる。

ロ.次に、女性労働者を男性と対等な労働力として明確に否定する意識の在り方が挙げられる。こうした例として、女性労働者を一人前に扱わない、女に仕事は無理、女性労働者を一段低く見る、女性は職場の花、潤滑油など、女性を補助的労働と見なすなどが考えられる。
 また、仕事ぶりについても、言葉や態度に「女らしさ」を求め、「控え目」であることを求める等が挙げられる。
 性的関心が加わる場合には、性的関係を求めたり、拒否に対して報復する等のセクシュアル・ハラスメントを引き起こすことにつながる可能性もある。

ハ.さらに、女性労働者を対等な労働力として明確に否定しないまでも、軽く見る意識のあり方が考えられる。
 例えば、専ら、女性労働者にのみ「お茶くみ」や「コピー取り」などを言いつける等が挙げられよう。
 性的関心と結びつく場合には、「これくらい許されるだろう」という意識から、軽く身体に接触する、容姿をあれこれ言ったり、性的な噂をする等のケースを引き起こすことも考えられる。特に、二次会など酒が伴う場合には、直接的なセクシュアル・ハラスメントに発展することもありうる。

ニ.このほか、往々にして、男性中心の職場で見られる例として、無意識のうちに性別役割意識を持っている場合がある。例えば、日常的に女性労働者のみ、「ちやん」づけで呼んだり、「女の子」と呼ぶなどである。
 性的な要素と結びつく場合には、女性の意識に無関心で、職場に「ヌードポスター」を貼ったり、性的な冗談を言うこと等が挙げられる。

4 職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止対策

(1)対策を考えるに当たっての留意点

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、その概念の適用に当たっては必ずしも明確なものではなく、ケース・バイ・ケースの個別判断に委ねられる部分が大きい。
 加えて、職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、突然起こるものではなく、職場の人間関係や職場環境を背景として生じてくる問題である。

 したがって、こうした職場におけるセクシュアル・ハラスメントの特性を踏まえると、その防止を考えるに当たっては、厳密な意味での職場におけるセクシュアル・ハラスメントを問題とするだけではなく、「2」の「職場におけるセクシュアル・ハラスメントの概念」で述べたように、放置すれば就業環境を害するおそれがある問題や、職場におけるセクシュアル・ハラスメントに密接に関連した周辺の問題、すなわち、いわゆる「グレーゾーン」問題も取り上げる必要がある。
 とりわけ職場におけるセクシュアル・ハラスメントを防止するためには、まだ就業環境を害したとは言えない段階から、幅広く相談の対象とするなど注意を払い、適切に対処していくことが必要である。

 次に、いわゆる「グレーゾーン」問題のうち、女性であるという属性に基づく性別役割分担意識の問題は、セクシュアル・ハラスメントを引き起こす背景となる意識の問題として捉え、研修等の方法によって認識を改めていくことが必要となろう。
 また、こうした性別役割分担意識に基づくいやがらせの問題は、セクシュアル・ハラスメントの問題としてよりも、一般的な女性差別の問題として捉えることが適当な場合もあろう。

 さらに、セクシュアル・ハラスメントとの区別が難しい場合やこれと重複して行われる行為のように、性的要素が加わる場合には、その行為が職場におけるセクシュアル・ハラスメントそのものには該当しないとしても、事業主として、職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止の観点から相談の対象とするなど注意を払い、適切に対処していくことが必要である。


(2)事業主に求められる職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための対策

イ 企業方針の明確化とその周知・啓発を内容とする一般防止対策

(イ)企業の方針の明確化・周知

 職場のセクシュアル・ハラスメントが起こる要因の一つとして、企業自身が雇用管理において男性中心の発想となっている場合が挙げられる。具体的には、女性労働者について企業を支える重要な人材と位置づけておらず、雇用蟹理において、女性の能力発揮という視点が欠けている場合や、男性中心の職場慣習が形成され、女性が能力を発揮しにくい環境となっていても、これを放置する等の場合が挙げられる。

 したがって、まず企業自身が、セクシュアル・ハラスメントを引き起こす自らの要因を取り除くことが先決であり、企業の方針として、セクシュアル・ハラスメントを許さないことを明確にするとともに、これを周知し、女性が能力を発雇できるよう、女性の人材活用を促進することや環境・慣習を変える等の人事・雇用管理面での配慮が望まれる。

 企業方針を明確化し周知する方策としては、社内報等会社独自の広報資料への記載、ポスター掲示、パンフレット等啓発資料の配布、従業員心得や必携、マニュアルへの明記、就業規則等への記載等が考えられる。また、文書に明記するにとどまらず、事業主・管理者自らが職場におけるセクシュアル・ハラスメントに対する姿勢を直接従業員に説くことも効果的であろう。

 このうち、就業規則等への記載の方法としては、実態に応じ、従業員の行動規範として記載する方法、懲戒事由の一つとして位置づけ禁止する、という方法等が考えられる。また、職場におけるセクシュアル・ハラスメントと明確に言及する方法以外に、他の類似の問題もあわせた対策として位置づける方法も考えられるが、この場合には、職場におけるセクシュアル・ハラスメントが当該対策に含まれることが従業員に理解されるような工夫がなされていることが重要である。


(ロ)管理職・従業員の意識啓発

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントは、既述したように、本質的に女性労働者を仕事の上で対等なパートナーとして捉えず、性的関心の対象として捉える意識ないし認識の在り方から生じている。したがって、未然防止のための一般対策としてこうした意識・認識を変えていくことが問題の発生を抑える根本的対策であると考えられる。
 こうした意識・認識を変えていくには、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを許さないという企業の方針を明確にした啓発・研修の在り方が極めて重要となり、これを効果的に進めるには、次のような点に配慮してさめ細かな方法を工夫していく必要があろう。

イ.実線を踏まえた啓発・研修

 各々の職場で管理職を含めた男性労働者、女性労働者の意識・認識の在り方がどうなっているか、職場においてセクシュアル・ハラスメントやこれと関連する状況が生じているのかどうか等その実様を把握し、これに基づき行われることが望ましい。
 また、こうした実態を把握することは、これを通じ、男性労働者は女性労働者との意識の相違等に気づくことになるので、そのこと自体、男性労働者が行動を見直す契機となるとともに、啓発・研修の効果を高めることにつながると考えられる。意識の相違を認識することは、この問題の解決の第一歩であり、これをさらに高める方策としては男女間のディスカッションを通じて意識の違いを認識する等も有効であろう。

ロ.対象者に応じた啓発・研修の在り方

 啓発・研修の実施については新任者、初任管理職になった者等を対象とし計画的に実施したり、管理職を含め、職階別に実施したりする方法が考えられるが、管理職が職場におけるセクシュアル・ハラスメントについて正しい認識を持ち、職場環境について必要な配慮を行えるようにすることは極めて重要であることから、特に管理職に配慮した内容の研修を開発・工夫していくことが望まれる。

ハ.啓発・研修の内容

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止のために行うというその目的から見て、男性労働者に対しては、職場におけるセクシュアル・ハラスメントとは何か、何故セクシュアル・ハラスメントが問題であるのかという点とともに、3で述べたような職場におけるセクシュアル・ハラスメントの起こる原因まで掘り下げた認識を、また女性労働者に対しては、職場においてセクシュアル・ハラスメントを受けた際に
はどうすべきかといった認識をもたせることに配慮した研修とすることが重要である。
 さらに、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの兆候を見逃さないための研修や、職場内で過去に生じたセクシュアル・ハラスメントの事例がある場合にはケース・スタディによってその分析を行い、これを啓発・研修の内容に活かすことも重要であろう。

ロ 相談・苦情への対応による未然防止対策

 発生後の問題解決のためだけでなく、セクシュアル・ハラスメントを未然に防止するためにも窓口を明確にし、いつでも気軽に苦情の申出や相談ができる体制を整えておくことやそうした相談・苦情への適切な対応がなされることが重要である。
 また、相談として取り上げる内容があらかじめ厳密に職場におけるセクシュアル・ハラスメントでなければ取り上げない性格のものとなっているのではなく、前述したように放置すれば就業環境を害するおそれがある事例やいわゆる「グレーゾーン」の事例など幅広く相談の対象となっていることが必要である。さらに、相談内容によっては企業や管理者批判となることもありうるが、相談したことによって、不利益な取扱いを受けることがあってはならない。

(イ)相談・苦情処理窓口の明確化

 相談・苦情処理窓口の在り方としては、相談担当者を明確にしておくことから苦情処理のための制度を設けることまで様々なものが考えられるが、

イ.相談をもちかけられやすくするために、可能であれば担当者に女性を含めること
ロ.相談の窓口を複数にすること等の工夫がされること
ハ.相談の結果、必要に応じて人事担当者、相談者及び被害者の上司と連絡を取る等、相談内容・状況に即した適切な対応が取れるようフォローの体制が考えられていること
ニ.相談担当者については、対応の仕方、カウンセリング等について研修がなされている等資質の向上が図られていること
ホ.相談・苦情処理窓口は被害者のみならず、同僚等も対象に含め、広く情報が得られやすい形となっていること
等が望まれる。

(ロ)相談・苦情への適切な対応

 事業所内で性的言動が問題となる場合には、未然に被害を防止する観点から、状況に応じた適切な対応を図ることが求められる。

 この場合、相談に当たっては、
イ.公正な立場に立って、真摯に対応すること、
ロ.可能であれば相談結果に応じた対応の在り方について、マニュアルを作成する等あらかじめルール化を図っておくこと
ハ.行為者とされた者については、慎重かつ適切なアプローチがなされること
への配慮が必要である。

 ただし、何らかの性的言動が認められたからといって、直ちに直接的な対応が必要になるとは限らない。一般的には、性的言動の性格・態様に応じ、状況を注意深く見守る程度のものから、上司、同僚等を通じ、間接的に注意を促すもの、本人(行為者)を呼んで直接注意するもの等、柔軟な対応を図ることが適当であろう。
 なお、被害者が悩み、苦痛に感じていることが確認される場合には、たとえ、性的言動が軽度なものであっても、行為者に状況を伝え、注意する等きちんとした対応を図ることが求められよう。


ハ 事後の迅速・適切な対応

 セクシュアル・ハラスメントが発生した場合、まずこれに迅速・適切に対応することが不可欠である。仮に放置したり、対応を誤ったりすればその問題がこじれるだけでなく、職場環境一般にも悪影響を与え、再び同様の問題を引き起こすことにつながりかねない。したがって、事後の適切な対応は、同時に、職場のセクシュアル・ハフスメントを防止するためにも重要な意味をもつ。

 事後の対応の在り方は、時系列的に、(イ)相談・苦情処理体制の整備、(ロ)迅速な事実確認等初期段階での適切な対応、(ハ)事実に基づく適正な対処等最終段階での対応に一応分けて考えることができよう。

(イ)相談・苦情処理体制の整備

 セクシュアル・ハラスメントが起こった錫合、適切な対応を図るためには、きちんとした相談・苦情処理体制が設けられていることが大前提となる。
 相談・苦情処理体制の在り方は、上記ロで述べた点が事後の相談・苦情処理にも当てはまる。
 相談に当たって公正・真摯な対応やプライバシーの尊重を行うことは当然であるが、事後の場合、特に、相談結果について専門の委員会や人事担当者等との連絡等のフォローが不可欠である。

(ロ)迅速な事実確認等初期段階での適切な対応

 相談を受けた楊合、まず、プライバシーを尊重しつつ、迅速な事実の確認が重要である。事実確認については相談・苦情処理窓口が行うこととする場合や、相談・苦情処理窓口と連携を取って専門の委員会、担当が行う場合や人事部門が直接行う場合等が考えられるが、一般的に事実確認のポイントとして、次のことが重要と考えられる。

イ.事実確認は、被害の継続・拡大を防ぐため、苦情の連絡があったら迅速に開始すること。
ロ.事実確認に当たる者は、当事者に対し、その趣旨・目的を説明するとともに、プライバシーを尊重すること。
ハ.事実確認は、当事者の言い分、希望を十分に聴取すること。
ニ.一方のみの言い分を聞くのではなく公平に双方の主張を聞くことは必須であり、あわせて周辺情報も得ることが適当であること。
 次に、事実確認に基づき、何らかの対応の必要性、具体的対応を考えることとなる。
 この場合、往々にして、問題を軽く考えて、あるいは企業の体裁を考えて秘密裏に処理しようとしたり、個人間の問題として捉え当事者間での解決に委ねようとする事例が見られる。
 しかし、こうした対応は、しばしば、問題をこじらせ解決を困難とするだけのことが多く、真の解決のためには、初期段階での事業主の真摯な取組が極めて重要である。
 なお、事実の確認の過程において、事案の性質や軽重に応じて、必要な場合には、事実確認が完了していなくとも、被害の拡大を防ぐため、被害者の立場を考慮して、適切な応急措置を講ずることが必要である。


(ハ)事実に基づく適正な対処等最終段階における処置

 セクシュアル・ハラスメントの事実が確認された場合には、事業主として、公正、適切な処置を行うことが必要である。
 しかし、この段階において、事実が確認されても、企業の体裁やイメージのため表沙汰になることをおそれて、相談者のみに我慢を求める解決方法を取るケースも見られる。
 かかる対応は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを放置することにつながるのみならず、企業をまきこんだ更なる紛争を引き起こし、企業の責任が問題となるものである。
 最終段階における処置は、再発防止のために、当事者及び職場全体を含め、健全な職楊環境を回復することを目的としてなされることが必要である。

 また、最終的な処置については、当事者に十分説明する必要がある。
 その具体例としては、

イ.個別事案に対する処置として、
・人事処遇において、当事者を引き離す等の処遇上の配慮を行う
・当事者間の関係改善について援助を行う
・就業規則に基づき、加害者に一定の制裁(口頭注意、停職、降格、解雇等)を課す
 (職場におけるセクシュアル・ハラスメントの再発防止、抑止効果を有すると見られる。)
・被害者の人事面等労働条件・就業環境上の不利益が存在している場合には、それを回復する
・被害者のメンタルケアに配慮する
などが考えられる。

 そのほか、

ロ.職場におけるセクシュアル・ハラスメントの再発防止の観点から全体的な処置として
・セクシュアル・ハラスメントに関する方針を全従業員に再確認する
・管理職等を対象に、研修を強化、実施する
などが考えられる。


(3)労働組合、労働者に求められる職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための方策

 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止のためには、個々の事業主のみならず、労働組合や労働者自身の果たす役割も重要である。
 まず、労働組合については、働く女性労働者の身近な存在として、その期待に応えた積極的な対応をすることが望まれる。本研究会で実施したアンケート調査結果を見る限り、現状では性的言動を受けたときに労働組合に相談をした例は多くないが、ヒアリングにおいては会社が設けた相談の窓口で得られない状況、相談や早めの段階での相談を労働組合において受ける傾向が見られ、大事に至る前に問題解決につながった例も見られている。

 このように、労働組合として問題解決に果たしうる役割の大きさを理解し、相談窓口の一端を担ったり、相談、苦情への対応等に取り組むことが期待される。
 次に、労働者自身も、事業主が実施するセクシュアル・ハラスメント防止のための措置の趣旨を理解し、それらの措置が円滑に実施できるように協力することが重要である。
なお、男性労働者は、防止対策に協力するに当たって、女性労働者が性的言動に対して意思表示がしづらい場合が往々にしてあることを念頭に輝くことが望まれる。

 また、女性労働者も、職場におけるセクシュアル・ハヲスメントについては個人によって受け止め方に差があることから、不快と思う場合には明確にその旨意思表示をすることが事業主の措置をより的確なものとしたり、再発を防ぐ上でも重要である。

 本研究会で実施したアンケート調査結果によれば、女性労働者は性的言動に対して「無視をする」ことが多いが、これが行為を受け入れているかのごとき誤解を受ける場合があることに留意することが必要である。
 もとより、性的言動を受けた女性がそれを不快に感じても、事柄の性格上、その意思を伝達しづらい状況があるのは事実ではあるが、過去の例を見ても伝達がなかったために、より問題が深刻した例が少なからずある。


(4)行政による支援方策等

 職場におけるセクシニアル・ハラスメントの問題は比較的新しい領域に属する問題であり、事業主や労働者、労働組合もその内容について必ずしも正確な情報や知識、ノウハウを有している状況にないのが現状である。

 従来から都道府県女性少年室は女性に対する雇用管理の改善について様々な援助や啓発活動を展開してきているが、今般男女雇用機会均等法において職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関する配慮義務規定が設けられたことを受け、同法25条に基づき、必要に応じ助言、指導、勧告を適切に行っていく必要がある。さらに、今後は女性労働者からの相談体制の充実を図り、あわせて事業主が配慮義務を実施するに当たって必要となる事項に関し、情報、資料の提供やその相談に乗る等の対応が期待される。

 特に配慮義務規定は企業規模の大小を問わず適用されるものであり、行政が相談に対応するに当たって、中小企業も含め企業にとって相談しやすい体制をとることが望まれる。さらに、体制上制約の多い中小企業も含め取組を効果的に進めるには、例えば中小企業の使用者団体なども含め、関係する様々な機関が相互に連携、協力してこれに当たることが望ましい。


5 指針策定に当たっての提言

(1)基本的な考え方

 本研究会では、これまで職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関し、実態を把握するとともに、その起こる原因や分析に基づき、防止のための対策について検討を行ってきた。これらの検討を踏まえると、指針策定に当たっては、特に、次のことに留意する必要があろう。

 第一に、職場におけるセクシュアル・ハラスメントについては、これまで概念が必ずしも明確でなかったこと、発生の状況や態様が多様であること等のため、現状では、その内容について一般の理解が必ずしも十分ではなく、また、防止対策をとっている企業も限られている。したがって、指針においてはまず、雇用管理上、事業主が防止すべき対象としての職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容を誤解のないよう明確にすることが必要である。

 第二に、指針の中で中心的位置づけとなる防止のために配慮すべき事項を定めるに当たっては、特に実効性に配嫌する必要がある。そのためには、必ず配慮されるべき事項を簡潔に明示する一方、企業の規模、状況等が極めて多様であることを踏まえると、その実施方法については、企業の実態に応じて最も適切な措置が講じられるようにすることが適当である。

(2)防止すべき対象としての職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容

 事業主が防止すべき対象としての職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容を誤解のないよう明確にするためには、法律に基づく内容を具体的に示すとともに、性的な言動の種類に応じた典型的な例を示すことが必要である。

(3)配慮すべき事項の内容

 配慮すべき事項の内容は、企業の如何を問わず防止のために雇用管理上配慮されるべき事項を取り上げることが必要である。

 これまで述べてきたように、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止対策は、大別すると、
イ.企業方針の明確化とその周知・啓発を内容とする一般防止対策
ロ.相談・苦情への対応による未然防止対策
ハ.再発を防止する観点からの事後の迅速・適切な対応
に分けられる。

 これらの各対策は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを防止するためには、いずれも欠かすことのできないものである。
 また、英米の指導マニュアルや裁判例等に見られるように欧米諸国においても、これらの事項は、概ね、防止対策の柱として考えられている。
 他方、これらの対策を実施するための具体的措置は、企業の実態に応じて様々なものが考えられる。
 例えば、セクシュアル・ハラスメント防止のための啓発のやり方にしても、資料の配布から、職階別のさめ細かな研修を行うものまで極めて多様である。また、事後の対応にしても、事案の軽重にもよるが、適宜の対応を行うものから、専門の委員会のもとできちんとした事実確認を踏まえ制裁を行うものまで様々である。
 これらの具体的措置については、むしろ企業の規模や職場の状況に応じて、各企業が最も適切と考える措置を選択することが妥当である。

 したがって、指針において定める必要のある防止のために配慮すべき事項は、前述したイ.〜ハ.の事項とし、イ.〜ハ.の事項を実施するための実施方法は、企業の実態に応じて選択できるよう具体的措置を例示することが適当であると考えられる。

(4)配慮すべき事項の実施方法の具体例

まず、イ.の実施方法の具体例としては、
・社内報等各種広報・啓発資料によるもの
・従業員心得、必携等従業員の服務上の規律を示す文書の配布又は掲示
・就業規則等への記載
・研修、講習等の実施
等が考えられる。

 このうち、研修、講習の実施に当たっては、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの発生の原因や背景についても理解を深めることができる内容、管理職が適切に対応できる内容にするといった工夫が望ましい。

 次に、ロ.については、相談・苦情処理窓口を明確にするとともに相談・苦情に対し適切に対応することが必要である。この場合、対象を厳密に職場におけるセクシュアル・ハラスメントに限定することなく、相談の内容や状況に応じ、適切かつ柔軟に対応することが必要である。

 相談・苦情処理窓口を明確にするための具体例としては、
・相談担当者をあらかじめ決めておくこと
・苦情処理のための制度を設けること
等が挙げられる。

 また、適切な対応の具体例としては、
・相談を受けた場合、人事部門との連携により円滑な対応を図ること
・あらかじめ相談の対応のマニュアル等を作成しそれに基づき対応すること
等が挙げられよう。

 最後にハ.については、問題が発生した場合、事業主は迅速かつ正確な事実確認を行い確認された事項に基づき適正な対処をすることが必要である。

 事実確認の具体例としては、
・相談担当者、人事部門、専門の委員会等により行うことが考えられる。
 また、適正な対処の具体例として、
・その事案の内容・性質に応じ、適宜の人事雇用管理上の対処をする場合
・あらかじめ就業規則に定められた規定に基づき厳密に対処をする場合
等が挙げられる。

 なお、事業主は上記3点の配慮事項に係る措置を講ずるに当たっては、当事者のプライバシーの保護や相談・苦情等を申し出た者がそのことを理由に不利益を受けることがないようにすることに特に留意し、その旨周知することが必要である。

職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関する調査研究会・参集者名簿
(50音順、◎は座長)

 奥山 明良  成城大学法学部教授
 木村 陽子  奈良女子大学生活環境学部助教授
 野原 蓉子  日本産業カウンセリングセンター理事長
◎松田 保彦  横浜国立大学大学院国際経済法学研究科教授
 池田 芳江  日本教職員組合女性部長
 大福真由美  全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会労働政策・女性政策担当局長
 菅井加律子  情報産業労働組合連合会中央執行委員
 芳野 友子  日本労働組合総連合会東京都連合会副事務局長・女性局長
 小川 泰一  東電工業株式会社相談役
 黒澤 久   株式会社黒澤化工代表取締役社長
 篠木利史子  東京ケータリング株式会社代表取締役社長
 渡辺 繁信  東映株式会社常務取締役