労務安全情報センター 〔労務安全資料室〕

資料No218

今後のパートタイム労働対策について(最終報告)

【資料のワンポイント解説】

 労働政策審議会雇用均等分科会が2006.12.26、パートタイム労働法の改正に向けた最終報告をまとめた。
 報告書のポイントは、以下のとおり。
1 差別的取扱いの禁止関連
  まず、仕事内容や責任などが同じパートと正社員については、賃金等の差別的取扱い禁止の規定を盛り込んだ。
  この部分はより正確には、「通常の労働者と職務、職業生活を通じた人材活用の仕組み、運用等及び雇用契約期間等の就業の実態が同じであるパートタイム労働者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について差別的取扱いをすることを禁止することが適当である。」となっている。
  ここにいう差別的取扱い禁止の対象となるのは、ただ労働時間だけが短いという労働者が予定されているとされる。

2 均衡処遇の確保
  1の差別的取扱い禁止以外については、「均衡処遇の確保」をはかるとしたが、取り扱いに強弱がある。
  ○義務とされたものに、→通常の労働者に対して行っている教育訓練を同様に実施する義務
  ○配慮義務とされたものに、→社員食堂など福利厚生施設について利用の機会を与えるよう配慮しなければならない
  ○努力義務とされたものに、→職務、意欲、能力、経験、成果等を勘案して、賃金を決めるようにする努力義務

3 その他では、
  ○労働基準法において義務付けられた事項に加え、一定の事項(昇給、賞与、退職金の有無)を明示した文書を交付することを事業主の義務とする。
  ○待遇について説明を求められたときはその労働条件の決定に際して考慮した事項について説明義務を事業主に課す。
等が盛り込まれた。
 これを受けて、パートタイム労働法の改正案が、次期通常国会にも提出される予定。

 2007年1月4日
労務安全情報センター

 


 労働政策審義会会長 菅野和夫から厚生労働大臣 柳澤伯夫あて(平成18年12月26日労審発第442-1号)
 本審議会は、標記について、下記のとおりの結論に達したので、厚生労働省設置法第9条第1項第3号の規定に基づき、建議する。

 別紙の雇用均等分科会の報告のとおり。

別紙

雇用均等分科会分科会長 横溝正子から労働政策審議会会長 菅野和夫あて(平成18年12月26日 )

今後のパートタイム労働対策について(報告)

  本分科会は、標記について、平成18年7月20日以降、平成18年12月26日までの間に10回にわたり検討を重ねてきたところであるが、今般、その結果を別紙のとおり取りまとめたので報告する。
 なお、使用者側委員からは、次のとおり意見が示された。まず、パートタイム労働者の処遇については、企業・職場の実情に即し、将来にわたる活用の仕方も考慮しながら、能力や期待される役割など企業への貢献度を個別に評価すべきものであり、次に、雇用形態の転換については、人材をどのような雇用形態で採用し、活用するのかという経営戦略の重要事項として扱うべきものであることから、いずれも法律で一律に規定することは適当でない。したがって、法的整備に当たっては、すべての企業が対応できるものであることを前提に、特に中小企業に対して過度の負担を強いることとならないよう、十分な周知期間を設ける等その内容についての理解と浸透を囲った上で、実態に即した施行がなされるべきである。

(別紙)

今後のパートタイム労働対策について(報告)

 

○ 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号。以下「パートタイム労働法」という。)が施行されてから13年が経過した。
 この間、平成15年には、パートタイム労働者が増加する中で、パートタイム労働を労働者の能力が有効に発揮できるような就業形態としていくことの重要性にかんがみ、通常の労働者とパートタイム労働者との間の「働きに応じた公正な処遇」の実現に向けた取組を進めるため、「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」(以下「パートタイム労働指針」という。)を改正したところであり、その後3年が経過している。

○ 昨今、少子化が進み、労働力人口が減少していく社会にあって、若年層や世帯主であるパートタイム労働者の増加及び基幹的役割を担うパートタイム労働者の増加が見られる。
 こうした中、パートタイム労働者の日本経済を支える労働力としての重要性は高まっており、その有する能力を有効に発揮できるようにすることが社会全体としてますます必要になってきている。

○ パートタイム労働者については、自分の都合の良い時間に働けるといった柔軟で多様な働き方を求める労働者のニーズに合致した面がある一方で、正社員への就職・転職機会が減少して非自発的にパートタイム労働者となる者が増加しているという状況も存在している。また、平成15年のパートタイム労働指針の改正以降、労働条件の明示や均衡処遇の確保について一定の改善が図られた一方で、その働き方に見合った処遇がなされていない場合もあり、これに対する不満も存在している。

〇 本分科会は、平成15年3月に本分科会が取りまとめた「パートタイム労働指針の社会的な浸透状況を含めた実態把握を一定期間経過後に行い、その状況を踏まえて問題点の分析を行い、パートタイム労働対策として求められる施策について幅広い検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずることが重要である」との報告を踏まえ、本年7月以降、パートタイム労働対策として求められる施策について審議してきた。

○ パートタイム労働は、短時間であることから多様な働き方となるため、一律な雇用管理を行い難い雇用形態であり、個々の労働者の労働条件が就業規則のみによっては明確にならない場合が多い。また、多様な働き方であるにもかかわらず一律に処遇されることもあり、そのような場合には働きに比して低い処遇であるとのパートタイム労働者の不満も生じやすい。このため、従来からパートタイム労働法及びパートタイム労働指針により、労働条件の明示、均衡処遇の確保、通常の労働者への転換等について対策を進めてきたところであるが、上記のような状況を踏まえ、本分科会は、これらの対策を更に一歩進める必要があるとの認識を得た。

○ 具体的には、パートタイム労働対策として、下記の事項について法的整備を行うことが適当である。

○ なお、パートタイム労働者の社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用の問題や、パートタイム労働以外の非正規労働に関する問題等、必ずしもパートタイム労働法の範囲内に収まらない問題があることに留意する必要がある。


1 パートタイム労働者に対する労働条件の明示等

(1)パートタイム労働法において、労働条件に関する文書を交付するように努めることとされている規定については、労働基準法(昭和22年法律第49号)において義務付けられた事項に加え、一定の事項(昇給、賞与、退職金の有無)を明示した文書等を交付することを事業主の義務とする規定とすることが適当である。
  なお、パーートタイム労働法に基づく助言・指導・勧告を行っても履行されない場合の担保措置として、過料を設けることが適当である。

(2)パートタイム労働指針において、待遇について説明を求められたときはその求めに応じて説明するように努めるとされている規定については、パートタイム労働法において、パートタイム労働者から求めがあったときは、1(1)、後述の2及び3に列記するもの等パートタイム労働法において事業主が措置しなければならない事項、禁止される事項及び措置に努めることとされている事項に関して考慮した事項について説明することを事業主の義務とする規定とすることが適当である。


2 パートタイム労働者と通常の労働者との均衡ある待遇の確保の促進

 パートタイム労働者と通常の労働者との均衡ある待遇の確保については、パートタイム労働者と通常の労働者との間の職務、人材活用の仕組み、運用等及び就業の実態の差異に応じて、それぞれ次のような規定を設けることが適当である。

(1)通常の労働者と職務、職業生活を通じた人材活用の仕組み、運用等及び雇用契約期間等の就業の実態が同じであるパートタイム労働者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について差別的取扱いをすることを禁止することが適当である。

(2)(1)以外のパートタイム労働者については、賃金、教育訓練及び福利厚生について、職務及び人材活用の仕組み、運用等の差異に応じて、均衡ある待遇の確保のために講ずべき具体的な措置について、それぞれ次のように規定することが適当である。

 イ 事業主は、通常の労働者との均衡ある待遇の確保を図るため、パートタイム労働者の職務、意欲、能力、経験、成果等を勘案して、職務関連の賃金(基本給、賞与、役付手当等の勤務手当及び精皆勤手当)を決定するよう努めることとすることが適当である。
   また、通常の労働者と職務及び人材活用の仕組み、運用等が同様であるパートタイム労働者については、その賃金の決定方法を通常の労働者と共通にするよう努めることとすることが適当である。

 ロ 通常の労働者に対して行っている教育訓練であって、職務遂行に必要な能力を付与するためのものについては、事業主は、一定の場合(既に職務遂行に必要な能力を備えた者に対する場合等)を除き、職務が同じであるパートタイム労働者に封しても行わなければならないこととすることが適当である。
   また、事業主は、通常の労働者との均衡ある待遇の確保を図るため、パートタイム労働者の職務、意欲、能力、経験、成果等に応じ、教育訓練を行うよう努めることとすることが適当である。

 ハ 通常の労働者に対して実施している福利厚生の措置であって、業務を円滑に遂行するための施設(給食施設、休養施設及び更衣室)については、事業主は、パートタイム労働者に封しても利用の機会を与えるよう配慮しなければならないこととすることが適当である。


3 通常の労働者への転換の促進
(1)事業主は、パートタイム労働者に対し、通常の労働者への転換の推進に向けた措置を講じなければならないこととすることが適当である。
  この措置としては、例えば当該事業所の通常の労働者の募集に関する情報を遅滞なく周知すること、通常の労働者の募集に応募する機会を与えること、通常の労働者への転換制度を導入すること等が考えられる。

(2)国は、パートタイム労働者の通常の労働者への転換を推進する事業主に対し、援助等必要な措置を講ずるよう努めることとすることが適当である。


4 苦情処理・紛争解決援助

(1)事業主は、パートタイム労働法に基づき措置しなければならない事項及び禁止される事項に開し、パートタイム労働者から苦情の申出を受けたときは、その自主的な解決を図るよう努めることとすることが適当である。

(2)(1)の事項に関して、パートタイム労働者と事業主との間で紛争が生じたときは、紛争解決援助の仕組みとして、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に‘関する法律(昭和47年法律第113号)に規定する紛争解決援助の仕組みと同様のもの(都道府県労働局長による紛争の解決の援助及び機会均等調停会議の調停)を設けることが適当である。この場合において、調停のためl;必要があるときは、当該事業所の労働者を参考人として出頭を求め、意見を聴取することができるものとしておくことが適当である。


5 その他
 以上を踏まえ、パートタイム労働法の目的規定等を整備するとともに、パートタイム労働法第3条において、事業主の責務として、通常の労働者との均衡ある待遇の確保を規定することが適当である。