労務安全情報センター 〔労務安全資料室〕

資料No219 (2006年12月27日)

今後の最低賃金制度の在り方について最終報告

【資料のワンポイント解説】

1 労働政策審議会は12月27日、「今後の最低賃金制度の在り方について」の答申を行った。
2 議論になっていた「職種別最低賃金制度の創設」は、使用者委員が最後まで反対の姿勢を崩さなかったため見送りとなった。
3 今回答申の特徴は、「地域別最低賃金の実効性を確保する」点にあったと言える。
 そのための方策として
 ・ 誰一人として最低賃金の適用を受けない労働者はいないよう、法律で最低賃金の決定義務〔必要的設定〕を規定する。
 ・ 水準においては、少なくとも一部にある生活保護費にも満たない状況を改善し、「生活保護との整合性も考慮する必要があることを明確にする」
 ・ 罰金額の引き上げ(現在1万円以下の罰金という制度的怠慢というべき罰金規定がある=公労使のいずれからの指摘もなく今日まで温存されてきたことこそ恥ずべきことである。)を計る。
 ・ 最低賃金違反(私の賃金が最低賃金以下です→救済してください)⇒このような訴えを監督機関に申し立てることが出来るようにする。(いわゆる「申告権」であるが、これすら、これまで日本の労働者には保証されてこなかった。)

   <最低賃金すれすれ=最下層労働者のことは、この国では誰も真剣に省みることなどないということだ。>
   <今回答申は、悪評の立つ前に、とり急ぎ「生活保護費以下の最賃額」、「職務怠慢的罰金制度」、「権利救済規定の封殺」の三悪セットを取り除いておこうということだろう。
   <審議会委員の日当がいくらかは知らないが、いずれにせよ⇒最低賃金法施行47年目の快挙!  >
    この問題は、法律施行の第一線では10年、20年の単位の昔から指摘されていたことであるという。だとすれば、それが反映されないされない政策決定の課程に問題がありそうだ。厚生労働省は政策決定において、最近、たかだか20パーセント前後の回収率でしかない外部機関委託調査の結果を政策誘導の道具として使い過ぎている!せっかくの全国組織をもっているのだから、もっと、足元からの情報収集に励むべきではないか。

4 産別最低賃金制度には、罰金対象から外し、民事的効果を付与する
5 労働協約拡張方式(最低賃金法第11条)は廃止する。⇒驚きだ!特に、労働側は、なぜ、かくもたやすく自らの影響力行使設定を放棄するのだろう。確かに、労働協約拡張方式(最低賃金法第11条)は、これまで実績を上げて来れなかった。しかし、、、と言いたい。


2007.1.4
労務安全情報センター

 

 

 



 労働政策審議会会長 菅野和夫から厚生労働大臣 柳澤伯夫あて(平成18年12月27日労審発第443号)

 平成17年4月8日付け厚生労働省発基第0408001号をもって諮問のあった標記については、本審議会は、下記のとおり答申する。

 別紙「記」のとおり。

 (別紙)

 労働条件分科会分科会長 西村健一郎から労働政策審議会会長 菅野和夫あて(平成18年12月27日 )

今後の最低賃金制度の在り方について

 平成17年4月8日付け厚生労働省発基第0408001号をもって労働政策審議会に諮問のあった標記については、本分科会は、下記のとおり報告する。

 記

 別添の最低賃金部会の報告のとおり。

 (別添)

 労働条件分科会分科会最低賃金部会部会長 今野 浩一郎から労働条件分科会分科会長 西村 健一郎あて(平成18年12月27日 )

今後の最低賃金制度の在り方について

 平成17年4月8日付け厚生労働省発基第0408001号をもって労働政策審議会に諮問のあった標記については、本部会は、別紙のとおり報告する。

(別紙)
 本部会においては、厚生労働大臣から労働政策審議会への諮問を受け、今後の最低賃金制度の在り方について、昨年6月16日以降19回にわたり検討を行ってきたところである。
 この間、産業別最低賃金の在り方については、使用者側から、すべての労働者を対象とする地域別最低賃金に屋上屋を架すものとして廃止すべきであるといった主張がなされる一方、労働者側からは、公正な賃金決定の確保、労使交渉の補完という観点から継承・発展を図るべきであるといった主張がなされ、また、地域別最低賃金の在り方については、労働者側から、実効ある機能と水準の確保のための有意な制度改善を行うべきであるといった主張がなされる一方、使用者側からは、現行制度のままで安全網として十分機能しているといった主張がなされたところである。
 このように労使の主張が対立する中、昨年11月18日には、労働市場や賃金制度の変化も踏まえ、産業別最低賃金を廃止し、基幹的な職種について賃金の下限を定める民事的なルール(職種別設定賃金)を最低賃金法とは別の法律において措置するとともに、地域別最低賃金がすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として十全に機能するよう見直すことを内容とする公益委員試案が提示されたところである。この公益委員試案については、使用者側からは、労働の対価である地域別最低賃金の決定に際して、国が社会保障として行う生活保護との整合性を考慮することは疑問であるといった主張がなされる一方、労働者側からは、地域別最低賃金は生活保護を下回らない水準とすべきであることは当然であるといった主張がなされたところである。また、職種別設定賃金については、その詳細について議論を行ったところ、部会としての合意を得ることができなかったところである。さらに、使用者側からは、産業別最低賃金は、今回の見直しによって廃止すべきであるとの主張がなされたところである。
 しかしながら、さらに、今後の最低賃金制度の在り方について、関係者による真摯な審議を重ねた結果、今般、下記のとおりの結論に達したので報告する。
 この報告を受けて、厚生労働省において、次期通常国会における最低賃金法の改正をはじめ所要の措置を講ずることが適当である。

1 見直しの趣旨

 最低賃金制度については、今後とも賃金の低廉な労働者の労働条件の下支えとして十全に機能するようにすることが必要である。現在の最低賃金法においては、地域別、産業別など多元的な最低賃金の設定が可能な体系の下で、運用上すべての都道府県において、地域別最低賃金が整備されているが、就業形態の多様化、低賃金の労働者層の増大等の中で、地域別最低賃金がすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として十全に機能するようにする必要がある。
 一方、安全網としての役割は地域別最低賃金が果たすことを前提に、産業別最低賃金等については、関係労使のイニシアティブにより設定するという観点から、その在り方を見直す必要がある。

2 基本的考え方

(1) 最低賃金制度の第一義的な役割は、すべての労働者について賃金の最低限を保障する安全網であり、その役割は地域別最低賃金が果たすべきものであることから、すべての地域において地域別最低賃金を決定しなければならない旨を明確にする必要がある。
(2) 産業別最低賃金等は、企業内における賃金水準を設定する際の労使の取組みを補完し、公正な賃金決定にも資する面があることを評価しつつ、安全網とは別の役割を果たすものとして、民事的なルールに改める必要がある。
(3) 社会保障政策との整合性を考慮した政策が必要である。
(4) 地域の賃金実態との整合性の確保、派遣労働者の増加等就業形態の多様化への対応等といった観点からの見直しを行う必要がある。


3 具体的内容

1 地域別最低賃金の在り方について
(1) 必要的設定
  ・国内の各地域ごとに、すべての労働者に適用される地域別最低賃金を決定しなければならないものとする。
(2) 決定基準の見直し
  ・決定基準については、「地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力」に改めるものとする。
  ・ 「地域における労働者の生計費」については、生活保護との整合性も考慮する必要があることを明確にする。
(3) 減額措置の導入
  ・現在適用除外対象者について運用により講じられている減額措置を、法律に基づくものに改めるものとする。
(4)罰則の強化等
  ・地域別最低賃金の実効性確保の観点から、地域別最低賃金違反に係る罰金額の上限を労働基準法第24条違反よりも高いものとする。
  ・監督機関に対する申告及び申告に伴う不利益取扱いの禁止に係る規定を創設するとともに、申告に伴う不利益取扱いの禁止に係る罰則を整備するものとする。
  ・その他の最低賃金法違反(周知義務違反(第19条)、報告の懈怠等(第35条)、臨検拒否等(第38条第1項))の罰金額の上限を引き上げるものとする。


2 産業別最低賃金等の在り方について

(1)産業別最低賃金

 ・労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、一定の事業又は職業について、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、最低賃金の決定を申し出ることができる。
 ・厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、上述の申出があった場合において必要があると認めるときは、最低賃金審議会の意見を聴いて、一定の事業又は職業について、最低賃金の決定をすることができる。
 ・一定の事業又は職業について決定された最低賃金については、最低賃金法の罰則の適用はないものとする。(民事効)

 産業別最低賃金の運用については、これまでの中央最低賃金審議会の答申及び全員協議会報告を踏襲するものとする。
 なお、使用者側の一部から、産業別最低賃金の廃止に向けての議論は継続すべきであるとの意見があった。

(2)労働協約拡張方式
 ・労働協約拡張方式(最低賃金法第11条)は廃止するものとする。


3 その他

 ・派遣労働者に係る最低賃金は、派遣先の最低賃金を適用するものとする。
 ・最低賃金の表示単位を時間額に一本化し、併せて所定労働時間の特に短い者についての適用除外規定を削除するものとする。

(参考1)
厚生労働省発基第0408001号
労働政策審議会
 会長  西川 俊作   殿


今後の最低賃金制度のあり方について(諮問)

 我が国の最低賃金制度のうち、産業別最低賃金については、従来より使用者側から廃止すべきとの主張がなされ、中央最低賃金審議会の報告で、制度のあり方を含めた検討を行うべきとされており、また、「規制改革・民間開放推進3か年計画」においても、制度の見直しについて指摘を受けているところである。
 さらに、最低賃金制度を取り巻く状況をみると、サービス経済化など産業構造の変化やパートタイム労働者等の増加による就業形態の多様化の進展などの環境変化がみられるところであり、このような中で、最低賃金の水準の引上げ等により最低賃金制度が安全網として一層適切に機能するようにすべきとの意見もある。
 こうした中で、厚生労働省においては、学識経験者の参集を求め、「最低賃金制度のあり方に関する研究会」(座長 樋口美雄 慶庵義塾大学商学部教授)を開催し、最低賃金制度全体のあり方について検討を重ねてきたところであるが、研究会においては、平成17年3月31日に、産業別最低賃金の廃止を含めた抜本的見直し及び地域別最低賃金の水準等の見直しを主な内容とする報告書をとりまとめたところである。
 このような実情を踏まえ、厚生労働省設置法(平成11年法律第97号)第9条第1項第1号の規定に基づき、今後の最低賃金制度のあり方について、産業別最低賃金の見直し及び地域別最低賃金の水準等の見直しを含め、貴会の調査審議を求める。

平成17年4月8日

厚生労働大臣  尾辻 秀久

(参考2)
労働政策審議会労働条件分科会最低賃金部会委員・臨時委員名簿
(公益委員)
  石岡慎太郎  職業訓練法大日本技能教育開発センター理事長
 ○今野浩一郎 学習院大学経済学部教授
  勝 悦子   明治大学政治経済学部教授
  武石恵美子  法政大学キャリアデザイン学部助教授
  田島優子  弁護士(さわやか法律事務所)
  中窪裕也  九州大学大学院法学研究院教授
(労働者側委員)
  勝尾文三  日本労働組合総連合会労働条件局長
  加藤 昇  全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員賃金政策部長
  高石 修  UIゼンセン同盟副書記長
  高橋洋子  情報産業労働組合連合会中央執行委員
  中野治郎  産業別労働組合ジェイ・エイ・エム特別中央執行委員
  横山陽子  日本サービス・流通労働組合連合中央執行委員
(使用者側委員)
  池田朝彦  東運レジャー株式会社代表取締役社長
  川本裕康  日本経済団体連合会労政第一本部本部長
  杉山幸一  三菱重工業株式会社特別顧問
  竹口茂子  株式会社総合印刷新報社取締役会長
  原川耕治  全国中小企業団体中央会調査部長
  前田 薫  株式会社イセタンクローバーサークル代表取締役社長

(注1) 掲載順は、五十音順である。
(注2) ○は部会長である。