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[資料番号] 00031
[題  名] 労働省「インターンシップのあり方に関する研究会報告」その1
[区  分] その他

[内  容]
インターンシップ等学生の就業体験のあり方に関する研究会報告
その1

【資料のワンポイント解説】
1 労働省設置の研究会がまとめた「インターンシップ等学生の就業体験のあり方に関する研究会報告」の全文である。
2 かなりの長文なので、プリントアウトして通読されるのがいいかもしれない。報告書のポイントのみという方には、以下の部分の確認をお奨めする。
 ●3-5責任の所在と役割分担の明確化(1)一定水準の実習内容、就業条件等の確保(2)リスクへの対応(3)報酬についての考え方
 ●4インターンシップに関する共通認識の形成


 研究会メンバー(50音順、敬称略)
   池端たづ子(女子栄養大学・短期大学、香川栄養専門学校就職担当部長)
   小川浩平(東京工業大学工学部教授・前教務部長)
(座長)諏訪康雄(法政大学社会学部教授)
   田中宣秀(日本経営者団体連盟教育部長)
   橋本一美(全国中小企業団体中央会労働部長)
   樋口美雄(慶応義塾大学商学部教授)
   松浦清春(日本労働組合総連合会総合労働局長)
   宮本美沙子(日本女子大学学長・理事長)
   渡辺三枝子(筑波大学心理学教授)

(はじめに)

 近年、新規学卒者にとって厳しい就職環境が続く中で、若年者の失業率や、就職後短期間で離職する比率が上昇する傾向がみられる。この要因として、学生が現実の就職活動に直面するまで、職業や産業の実際に接し、働くことの意味を考える経験に乏しいことや、学校教育と実社会との間にギャップが生じていること、若年者の将来にわたる職業生活に対する認識や価値観が変化してきていることなどが考えられる。

 また、我が国においては、中長期的に高齢化が進む一方、若年人口が減少し、労働力供給の制約が強まることが見込まれることから、将来の産業社会を担う若年者の育成が緊急の課題となっている。

 このような状況を背景として、学校教育の立場からも産業界等の立場からも、学生から社会人への移行過程を円滑化することが、これまで以上に重要であるという問題意識が広がりつつあり、その一つの手法としてのインターンシップに対する関心が急速に高まっている。

 しかしながら、我が国においては、インターンシップの概念について、必ずしも定義が確立していたわけではなく、その趣旨・あり方とも関連し、関係者間でも認識にかなりの幅がある。インターンシップへの関心の高まりに伴い、今後、導入事例が増加し、普及が進むことが期待されるが、インターンシップのバランスある発展のためには、その望ましいあり方について、関係者間の共通の認識を早急に形成していくことが必要である。

 政府としては、インターンシップの導入について、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)において、関係省庁で推進していくこととし、労働省、文部省及び通商産業省の三省が連携しながら、課題の検討を行ってきた。また、「21世紀を切りひらく緊急経済対策」(平成9年11月18日経済対策閣僚会議決定)の中でも、雇用・労働分野における改革の一つとして、インターンシップの総合的な推進を図ることとされている。

 本研究会は、平成9年6月に発足し、インターンシップ等の学生の就業体験方策について、主に若年者の職業問題という観点から検討を行ってきた。この間、平成9年9月には、インターンシップの導入を検討している関係者の参考に供するため、研究会における検討状況の概要を「中間まとめ」として公表した。この中間まとめの内容は、三省が行政の立場からとりまとめ、中間まとめと同時に公表した「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」にも反映されている。

 本報告は、中間まとめの内容に、その後の研究会における検討を加えてとりまとめたものである。中間まとめ以降も、行政や教育関係者、産業界等での議論や各地城での取組みが活発に行われ、なお検討が必要な課題も多く残されているものの、多くの具体的成果が得られつつある。

 インターンシップの原点は教育と社会をつなぐ架け橋の役割を果たすことにある。インターンシップを通して、学生・学校・企業等のそれぞれがメリットを得られ、お互いに貢献し合うバランスの取れた関係が構築されるよう、そのあり方についてさまざまな立場から今後も引き続き建設的な議論が行われるとともに、実践的試みが積み重ねられることを期待する。


1 研究会における検討の範囲と目標

1 「インターンシッブ」の定義と検討の範囲

 学生が企業等において実習・研修的な就業体験をする制度全般について広くインターンシップと称されるようになってきている現状に対応し、「経済構造の変革と創造のための行動計画」では、インターンシップを、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と幅広くとらえており、本研究会においても、これに沿って検討を開始した。

 インターンシップの歴史の長いアメリカでは、学生の就業体験方策として、「コーオプ(CO-OP)教育」、「インターンシップ」の2つが広く行われている。コーオプ教育は学校における教育と企業での就労を学期又は年単位などで交互に行うものであり、インターンシップは、専門分野の仕上げとして学生が企業で見習いを行うことを指すが、コーオプ教育が学校側の制度として組織的に行われるのに対し、インターンシップは学校の関与がより少なく、形態も多様であるといわれている。

 我が国において普及した「インターンシップ」という用語は、アメリカにおけるインターンシップとコーオプ教育の双方を含めたイメージで使われることが多く、人により解釈にも幅がある。本研究会においては、インターンシップ等の名称で呼ばれる学生の就業体験全般を視野に入れて議論を行ってきたが、我が国におけるインターンシップの発展のためには、学校と企業等との連携により行われる形態が基本となると考えられることから、そのあり方や今後の課題に関しては、このような形態のインターンシップを中心に検討を進めた。

 また、インターンシッブの専門分野との関連において実施されるという観点から、本研究会では、教育段階として、大学院・大学・短大・高専・専修学校におけるインターンシップを対象として議論を行った。


2 インターンシップの意義と検討の目標

 若年者の職業問題という観点からみたインターンシップの意義としては、学校と産業界等が連携して学生の高い職業意識を育成し、主体的な職業選択と専門能力の向上のための多様な機会を提供することにより、次代を担う学生の職業人としての成長を社会全体として支援していくという点が重要である。研究会における基本的な検討のスタンスは、インターンシップが、専門教育に関する実践を通して学校と産業界等との交流を深め、社会全体として学生の高い職業意識を育成し、学校における学習を生かした主体的な職業選択を支援するという観点から、

@インターンシップが効果的に実施されるための条件
Aインターンシップにより弊害や問題が生じないようにするための共通認識の形成
Bインターンシップの健全な発展と普及のための支援策

等について明らかにしていくこととした。


2 インターンシッブの現状と問題点

1 インターンシップの現状

(1)我が国における導入状況

 我が国で就業体験を学校教育に組織的に組み込んでいる例としては、教員養成課程や医歯学系学部・学科、福祉系学部・学科などで資格取得の必修条件となる場合の他、工学系学部・学科等において現場実習等の名で授業科目に取り入れている場合等がある。これらの場合は、学校が受入れ先を確保し、実習内容についても概ね標準化され、単位として認定される(あるいは単位取得の条件となっている)等、組織的に実施されている。

 最近では、社会科学系の学部・学科においても、企業等における実習を積極的に教育活動の一環に取り入れようという学校が増加しており、これらの例には、学校が受入れ先との折衝や学生へのガイダンス等を行い、2〜3年生の夏休み期間等に1〜2週間程度実務を経験するという内容のものが多い。

 文部省が大学等を対象に平成9年6月に実施した調査(「平成8年度インターンシップの実施状況調査」)によると、平成8年度にインターンシップを授業科目として位置づけて実施した大学は、学校単位でみて17.7%、学部単位では11.0%となっている。学部別の実施率をみると、工学関係学部では33.8%と約3分の1で実施しているのに対し、社会科学系学部では4.4%にとどまっており、学部間のばらつきが大きい。なお、授業科目として位置づけていないインターンシップがある大学は8.0%である。

 企業側から導入状況をみると、日本経営者団体連盟が平成9年10月に行った調査(「就職協定廃止後の採用に関するアンケート調査」、企業規模100人以上が95%)では、学生をすでに受け入れている企業は10.8%、(財)雇用情報センターが平成9年11月に実施した調査(「インターンシップの導入に関する調査」、企業規模100人以上対象。以下「インターンシップ導入調査」という。)では、19.2%となっており、中堅・大企業では1〜2割がインターンシップの受入れ経験があるものとみられる。また、小規模企業を含めた調査をみると、中部通商産業局が平成9年8月に東海地域で実施した調査(規模100人以下企業が46%を占める。以下「中部通産局調査」という。)では、インターンシップを導入しているとする企業は5.2%となっている。

 最近、学校が関与せず、企業等の主導で、インターンシップという名称のもとに学生をいわゆる研修生、実習生等の形で職場に受入れる動きも広がりつつある。インターンシップの実施全体の中でこれらの企業独自に行われるインターンシップがどの程度を占めるか、正確には把握できないが、インターンシップ導入調査では、実施企業の約1割(9.4%)が会社の独自企画で学生を受け入れたとしている。また、中部通産局調査では、平成8年度1年間に企業主催実習で学生を受入れた企業は、文系、理工系とも1%台となっている。企業独自に実施しているケースでは、学校側の組織的関与やカリキュラム上の位置づけはほとんど行われておらず、中には、インターンシップという名称を用いていても、アルバイトとの区別が事実上明確でない例もみられる。

 以上のように、現状では、大学等との関係でみると、学校が正規の教育課程に位置づけ、単位を認めるものから、企業等の募集に学生が直接応じ、学校教育とは無関係に行われるものまで、幅広くインターンシップと総称されており、また、その実施期間も、1〜2日といったごく短期のものから、月・学期単位といった比較的長期間に及ぶものまであり、中には、インターンシップの本来の趣旨とは異なる職場見学的なものや事実上のアルバイト就労まで含まれているのが実態である。


(2)インターンシップの類型とプログラムの実態

@ インターンシップの類型
インターンシップ等と呼ばれている学生の就業体験教育の実施事例をみると、その趣旨・目的から、主な類型として、(イ)資格要件型、(ロ)職業選択準備型、(ハ)学習意欲喚起型の3パターンに大別することができる。
 このうち
(イ)の「資格要件型」は、教育実習をはじめとして、医療・福祉関連職種などの職業資格の取得に必須条件となっている実習のように、内容が法令等で規定されているとともに、長い歴史のあるものが多く、実施のための方法論も概ね確立されている。
(ロ)の「職業選択準備型」は、学生の職業選択や職業生活への理解を進め、将来の就職活動や就職後の適応を円滑にすることを主な目的としている。
(ハ)の「学習意欲喚起型」は、専攻分野と実社会との関連や社会における位置づけを理解することにより、学校における専門教育の学習への動機づけを行うことを主な目的としている。

 実際のインターシップの実施事例においては、これらの類型の混合型も多いが、このうち(ロ)(ハ)については、工学系の分野を除き、取組みの歴史が比較的短いことから、その効果的なあり方について、学校においても模索・試行している段階にある。

A プログラムの実態
 学校と企業との連携により行われるインターシップについて、どのような形態、内容のプログラムで行われているかを事例等からみると、全体的傾向は概ね次のようになっている。

イ.対象者
 3年生が中心であり、一部2年生(専門教育への導入としての位置づけで行う前記の学習意欲喚起型の場合など)から4年生(工学系学科で大学院への進学を前提としている場合など)までの間にわたっている。

ロ.実施時期・期間
 夏休み期間中の2週間〜1か月程度とする例が最も多く、その他春休みに行っている例、学期中に実施している例(工学系学科で必修としている場合など)もある。

ハ.募集方法
 必修となっている場合のほかは、学部・学科で募集要項を示し、希望者の中から論文・面接等で実習に参加する学生を選考している学校が多い。

ニ.実習条件
 報酬についての取扱いは学校により多様である。また、同じ学校のプログラムであっても、実習先によって報酬等の条件が異なるケースも多い。実習時間、休日等は実習先の就業規則等に準じている場合が多い。

ホ.指導体制
 学校として、学生に事前の座学、オリエンテーション、実習中あるいは事後のレポート報告会での発表等を課し、単位の認定や成績評価はしボート等で行っているケースが多い。実習中の指導、評価は実習先に全面的に委任している場合が大部分である。

へ.事故・損害等のりスク等への対応
 学校主催のプログラムの場合、学生教育研究災害傷害保険に加入しているケースがほとんどである。また、学校と実習先との間で、覚書、確認書等の文書を交わしているケースも多い。

ト.導入の経緯
 大別して、学校内で行われる専門教育の学習を実践する場を確保する目的で、担当教官を中心として企画・運営されているケースと、全学的な産学連携の活動として、学事課等事務部門と関係の学部・学科等との協力により導入されたケースとがある。学部・学科等の新設を契機に制度を設けた例もみられる。


2 インターンシッブに期待される効果

 インターンシップ導入の効果として学校・学生・企業等のそれぞれの立場から期待されるのは、次のような点である。

〔学生にとっての効果〕

・実際の仕事や職場の状況を知り、自己の職業適性や職業生活設計など職業選択について深く考える契機となる。
・専門領域についての実務能力を高めるとともに、学習意欲に対する刺激を得られる。
・就職活動の方向性と方法についての基礎的な理解が得られる。
・就職後の職業生活に対する適応力を高めることができる。

〔学校にとっての効果〕

・職業指導と関連させることにより、学生に職業適性や職業生活設計について考える多様な機会を与え、職業選択への主体的かつ積極的な取り組みを促すことができる。
・学生が実際的な職業知識や経験を得て、専門能力・実務能力を向上させることにより学校の人材育成に対する社会的評価が高まる。
・カリキュラムの魅力を高めることにより、学生の学習意欲を喚起するとともに、入学希望者に対してアピールできる。
・産業界等との連携を深め、企業等の最新の情報や人材に対するニーズを把握できる。

〔企業等にとっての効果〕

・学校等との接点が増えることにより、企業等の人材育成や学校教育に対する要望等を学校や学生に伝えることができる。
・学校との連携関係を確立し、情報交流を進める機会となる。
・学生の職業意識や実務能力の向上、職場に対する理解を促進することにより、学生を実践的な人材として育成することにつながる。
・学校や学生、社会に対して存在をアピールでき、長い目でみると人材確保の面で企業等自身のメリットとなる。特に中小企業にとっては、広く学生や学校等から理解され、認知される好機となる。

 中部通産局調査によると、インターンシップに期待するメリットとして重視するとする割合が最も高い事項は、大学側の回答では、大学にとって「地元産業界や自治体とのコミュニケーション強化」(85.9%)、学生にとって「職業意識の形成」(86.3%)、企業側の回答では、企業にとって「優秀な人材との出会い」(82.2%)となっている。また、インターンシップ導入調査によると、企業が期待する成果は、「学生の職業意識向上」(64.6%)、「自社のPR」(57.9%)、「学校との交流で採用にプラス」(56.2%)となっている。このように、学校側・企業側双方から、学生の職業意識向上と産学連携への期待が大きく、さらに企業側には、自社のPRや学校との交流を通して、将来的な人材確保面への効果に対する期待もある。


3 インターンシップ運用上の問題点

 インターンシップの運用に関しては、次のような問題が懸念されている。

・実習内容の設定や実習前後の指導が適切に行われなければ、職業意識や実務能力の向上といった効果が十分に得られない。
・インターンシップと就労(アルバイト等)との区別が不明確であると、報酬や就業条件についての取扱いに問題が生じる可能性がある。また、労働関係法令の遵守について問題が生じるおそれがある。
・実習中の責任の所在が不明確な場合には、実習中の就業時間・安全衛生等の水準の確保や万一の事故等への対応(保険の適用等)が難しくなるおそれがある。
・採用・就職活動との区別があいまいになると、採用選考の過度の早期化を招き、採用秩序の維持や公平・公正な競争の確保が困難になる。
・参加希望者に開かれた制度とならなければ、特定の学校と企業等が結びつく閉鎖的なシステムとなるおそれがある。

 中部通産局調査によると、インターンシップ導入にあたっての課題・問題点と考えられている割合が最も高いのは、大学にとっては、「受入れ企業確保」(85.4%)、企業にとっては「事故への対応」(68.1%)となっており、インターンシップが幅広い学校・企業が参加できるシステムとして定着するかどうか、また、万一の事故の際に的確な対応を行うことができるかどうかという点が、関係者の大きな問題意識である。

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