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[資料番号] 00036
[題  名] 日経連・社会保障特別委員会/今後の企業年金のあり方についての提言
[区  分] その他

[内  容]

日経連・社会保障特別委員会
今後の企業年金のあり方についての提言
−公正・中立な税制、柔軟な制度設計の確立と確定拠出型年金の創設に向けて−





1 はじめに(略)
2 現状認識と問題点(略)
3 具体的な提言






(1) 高齢期の所得保障の手だてである年金制度に対して税制面から一層の支援を行うこととし、年金税制に関しては、拠出時・積立段階非課税、給付時課税との基本的な考え方を全ての制度に適用し、制度間の中立性を確保すべきである。

 経済基調が大きく変化する中で、年金財政悪化の一因となっている年金積立金に対する特別法人税は、年金税制の基本的な考え方からも、また、著しく低い運用利回りが続く中でこの税制が有する不合理性が顕著となっていることからも、直ちに撤廃すべきものである。この撤廃を織り込まない「企業年金基本法」の制定は認められない。

 なお、現在、年金税制については、給付段階は実質的に非課税となっているが、公私の年金受給者の増加や年金所得の増大を考慮すると「公的年金等控除」の取扱いについては見直す必要がある。


(2) 労使自治、自己責任原則に基づき、労使合意を前提としたより柔軟な制度設計を実現する。
 私的年金制度と位置付けられる企業年金においては、受給資格、支給開始年齢、給付水準など制度の基本となる給付設計は、労使合意で決定すべきものである。よって、給付改善はもちろんのこと、企業年全制度を維持するためにやむを得ず行う給付設計の変更に関しても、労使が合意するのであれば、柔軟に取扱われるべきものであって、いかなる制度においても制約は最小限にとどめるべきである。

 ただし、税制の恩典を公平に受けるために、年間に拠出できる掛金の上限を設けることや年間に受給できる給付額に上限を設けることなどの税制上の共通ルールは必要となろう。


(3) 労使の選択肢の拡大、中小企業・ベンチャー企業等への企業年金の普及促進、企業年金のポータブル化をはかり易くするために、税制の恩典をそなえた確定拠出型企業年金の早期導入を実現する。

 賃金や退職一時金などの労働条件の変化、労働力流動化の進展、中小企業・ベンチャー企業等への企業年金の普及などに対応するためには、従来の確定給付型年金に加えて税制の恩典を具備した確定拠出型年金を導入し、選択肢の拡大を図ることが必要である。

 その際、わが国の実情にあわせ、企業(事業主)拠出タイプおよび従業員拠出タイプの二つの形態の確定拠出型年金制度の創設が早急に実現されるべきである。
 この企業(事業主)拠出タイプの確定拠出型年金制度の一つの例としては、
@事業主拠出を基本とし、従業員拠出も可とする
A事業主が提示した運用方法の選択肢の範囲で、従業員が運用方法を選択する
B運用方法の選択肢毎に、事業主が金融機関等と契約する
C事業主拠出は損金として扱い、従業員拠出は一定限度まで所得控除の対象とする
D積立段階では非課税とし、給付時に課税する
、などとすることが考えられる。

 また、現状の確定給付型から確定拠出型へ移行できる仕組みも、選択肢として用意されるべきである。
 これらの事業主拠出タイプの制度の整備と併行して、確定拠出型年全制度の一つとして、現行の財形年金制度の発展的改善やアメリカで成果を挙げている401(k)プランなどを参考に従業員拠出を前提とした制度の構築も重要である。
 なお、現行の確定給付型年余からの移行方法、退職一時金制度との整合性をどのようにとるか、労使の拠出割合、リスク負担などについては、それぞれの企業で、その実情により、労使間で決定すべきものである。

 一方、労働力の流動化が進展する中で、企業年金のポータブル化は、早期に実現しなければならない。たとえば、アメリカの個人退職勘定(IRA)を参考に、離職後、別の企業年金に年全原資を移せない場合は、一定年齢(たとえば、60歳)に達するまでの間、年金原資を積立てておく、個人勘定(仮称)の創設が最も現実的な対応であると考える。
 なお、この場合、目的外の引き出しには税制上のペナルティを課すこともやむを得ない。

 なお、確定拠出型企業年金の創設は、結果として、資本市場の活性化にも繋がるものである。


(4) 厚生年金基金の代行部分について廃止の方向で抜本的に見直し、当面、代行なし基金制度の創設、既設基金の代行部分の国への返上などを認める制度の見直しを実現する。

 現行の厚生年金基金制度は、公的年金の役割と私的年金である企業年金の役割とをあわせて有し、その性格があいまいなものとなっている。
 今日の超低利回りの下で、公的年金(代行)部分の利差損まで実態上企業に負担が課せられている。厚生年金基金制度の代行部分については、廃止の方何で抜本的な見直しを行うべきである。

 当面の対応としては、公的年金を代行する部分を持つことによる制度のメリット・デメリットの評価とその選択は労使の判断に委ね、代行なし基金の創設や既設掛金の代行部分の国への返上も可能な制度とすべきである。また、免除保険料率の完全個別化を進めていく必要がある。


(5) 企業年金制度が健全に、かつ永続することにより、受給権の保全がはかられる。そのためには、労使自治の原則に基づいて、定期的に年金財政を検証したり、関係者が情報を共有化して制度の健全性をチェックする仕組みを設け
ることが望ましい。

<情報開示>
 企業年金制度の健全な運営のためには、企業年金の財政状況や年金資産の運用方針・運用状況などの情報を労使で共有化することが望ましい。
 そのような目的のために、労使が制度の運営に関する情報や意見交換を行うルールや場づくりが必要となる。その中で、企業年全制度の財政状況、運用方針・運用状況などについて、企業、運用機関などの制度運営関係者が加入
者、年金受給者などに適切な情報開示を行い、常に労使が制度の健全性についてチェックする必要がある。

 また、運用機関の選択も重要な問題である。

 その選択のためには、運用機関の財務状況等について、運用機関からの積極的な情報開示が必要である。


<定期的な財政検証>
 受給権保全にあたり、企業年金において、合理的な最低積立基準などを設定し、定期的な財政検証を行うことも重要な検討課題である。
 とくに適格退職年金制度では、財政再計算のとき以外にも財政検証を行うルールづくりが必要であろう。この財政検は、年金数理人・アクチュアリー・公認公計士などの資格をもつ者が行うことが望まれる(新たに第3者機関などを設置する必要はない)。

 なお、適格退職年金制度においては、積立不足を回避するために、厚生年金基金制度で行っている特例掛金のような拠出方法や別途積立金のような仕組みを導入し、柔軟な拠出および一定水準までの超過積立てを認めるべきである。


<受託者責任・支払保証>
 企業、年金資金の運用を委託されている運用機関、制度加入者のデータ管理や数理計算を行う制度管理受託機関などの受託者の責任がおよぶ範囲や免責となる条件などについては、明確化しておくことが望ましい。

 ただし、自己責任原則の下で運営されている私的年金制度においては、強制的な支払保証制度は、健全な制度運営を行っている企業労使にとっては負担だけを求められ、何の恩恵もなく、さらに、制度の悪用などの懸念もあり、そ
の必要性は全くない。




企業年金問題等検討会委員名簿

◎徳住祥蔵  新日本製鐵財務部専門部長
 伊藤憲行  トヨタ自動車人事部人事厚生室担当課長
 朝位 克  トヨタ自動車人事部人事厚生室厚生グループ課長
 岩熊省三  日立製作所勤労部部長代理
 遠藤勝秀  伊藤忠人事サービス常務取締役
 神山真一  東京ガス人事部勤労グループ副課長
 北村洋司  東邦レーヨン人事部長
 渋谷俊介  キリンビール人事部給与厚生担当部長代理
 清水正男  キヤノン福利厚生部厚生第二課担当課長
 杉浦 哲  日本郵船人事グループ労政チーム部長代理チーム長
 鈴木昭二  日清紡績人事本部労政部厚生課長
 田口 武  秩父小野田人事部参事
 竹沢寿広  王子製紙人事本部人事部上級調査役
 稲垣卓爾  王子製紙人事本部人事部調査役
 栃木宏光  東京電力労務部給与グループマネージャー
 福原 裕  三越総務本部労務厚生部担当部長
 堀岡弘嗣  東芝勤労部労政担当グループ長
 道崎 隆  三菱化学人事部課長代理
 宮本俊信  三菱地所人事部副長
 森本昌典  アラビア石油人事部人事二課
 矢神俊郎  三菱重工業勤労部勤労管理課長
 山田健司  新日本製鐵人事・労政部人事企画グループリーダー
 山田高寛  三菱マテリアル労働安全部給与課長代理

《ワーキンググループ》
 徳住祥蔵  新日本製鐵財務部専門部長
 伊藤憲行  トヨタ自動車人事部人事厚生室担当課長
 岩熊省三  日立製作所勤労部部長代理
 堀岡弘嗣  東芝勤労部労政担当グループ長 
 丸田 宏  日立製作所財務部部長代理
 道崎 隆  三菱化学人事部課長代理
 山口和親  三菱化学財務部グループマネージャー
 山田健司  新日本製鐵人事・労政部人事企画グループリーダー
 若杉昌夫  新日本製鐵財務部資金第一グループマネージャー
*竹内保彦  明治生命保険年金事業部課長
*和知 薫  三菱信託銀行年金信託部次長

(事務局) 環境社会部 高梨昇三  平井康行  薬袋孝一  加藤恒彦  千田修二

◎は座長、*はオブザーバー、朝位 克氏(トヨタ自動車)は97年12月まで、稲垣卓爾氏(王子製紙)は98年3月まで。