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[資料番号] 00040
[題  名] 連合・労働委員会制度のあり方研究会「新しい労使紛争解決システムの研究」
[区  分] その他

[内  容]

連合・労働委員会制度のあり方研究会・最終報告

新しい労使紛争解決システムの研究

<目次>
はじめに(略)
労働委員会制度の拡充(略)
集団的紛争処理機関としての改善について(略)
実務的な改善点について(略)
立法的改善について(略)
労働委員会の個別紛争処理機関としての整備について


【資料のワンポイント解説】
1、この最終報告は、何とも評価がむつかしい。まず、行政組織の大幅な再編を前提としていることについての評価の問題がある。
また、この提言が、集団労使紛争処理の延長的な発想で、個別(労働者個々の)の苦情、紛争処理を取り扱おうとしているのも気にかかる点である。多数の組織されない個人は、おおげさな処理システムに乗ること自体を躊躇する。悲しくも匿名処理を望む、という労働者が多数いる実態にも目を向けなければなるまい。

2、この提言の背景には、労働委員会制度の存在意義にかかる特別の事情があるようだ。取り扱うべき集団的労使紛争の減少に加えて、最近では、労働委員会の救済命令が裁判所によって取り消されるケースが増えている。JR不採用問題(中労委の救済命令を東京地裁が取消し)をはじめ、配転を不当労働行為とした中労委命令は違法、とする最高裁判決(東京焼結金属事件)が続き、「労働委員会と司法の判断」の間に埋めがたい溝を感じさせるのは事実である。
ただ、この問題はあくまで労働委員会制度の「集団的労使紛争の処理機関」としての機能再生に求めるのが本筋(必要なら、立法措置を含め)であろう。








最終報告書のうち、労働委員会の個別紛争処理期間としての整備についての部分

1 いかなる紛争を管轄すべきか


(1) 主な管轄−−解雇などの権利紛争や契約変更の利益紛争

 まず、紛争処理の対象となるのは、いわゆる、権利紛争である。雇用関係当事者の権利義務の存否、権利行使の当否、義務違反の有無をめぐる紛争であり、代表的には、賃金・退職金の支払い、解雇の効力の無効確認、不当解雇による損害賠償の支払いを求める紛争である。

 これらの紛争の解決は、本来、権利侵害に対する救済としての性格をもつから、調整的解決よりも判定的解決を必要とするものが少なくない。しかし、解雇や賃金不払いの代表的な個別紛争をとっても、ここで想定している個別紛争処理機関の調整活動を通して、当事者に自主的解決を促すことは十分可能である。その際には、従来の判例法理を基礎にした解決基準の作成が、行政当局に求められてくるであろう。また、任意的な仲裁手続きの活用がすすめば迅速な判定的処理も可能となる。

 また、個別労働者と使用者間における重大な労働条件変更、つまり、明白な契約内容変更に係わる紛争である規整紛争(利益紛争)も管轄すべきであろう。規整紛争は、最も調整活動になじむ紛争であり、個別紛争処理機関が労使間の利害の適正な調整をはかっていくことが求められる。従来の仕事内容や勤務地の変更、賃金額・賃金等級(格付け)の変更、退職金の切り下げ等の問題で、契約内容の明白な変更となるものが、ここでの対象となる。



(2) 管轄すべきか検討を要するもの

 労働委員会を個別紛争を扱う機関として再編する場合に、検討すべきものに、いわゆる公序紛争ともいうべき、雇用差別をめぐる紛争がある。契約紛争ないし民事紛争の調整的処理を中心にして、労働委員会制度の個別紛争処理機関としての整備を考えるのであれば、当事者間の自主的紛争解決になじまない公序紛争については別な制度構想をとるべきことになる。

 しかし、公序紛争であれ、当事者が調整的処理を望むのであれば、その管轄を排除する必要はない。ただ、雇用機会均等法に関しては、現在、機会均等調停委員会が紛争処理の窓口となっているのでその調整が必要となる。労働委員会を総合的な紛争処理機関として整備する観点からは、現在の機会均等委員会を労働委員会のなかに包摂する形で、再編することが望ましい。

(注) 機会均等調停委員会
 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に関する事業主の一定の措置についての女子労働者及び事業主との紛争に関し、都道府県婦人少年室長の決定によって調停を行う機関(雇均15〜21条)。都道府県婦人少年室に置かれ、委員は学識経験者のうちから労働大臣が任命する。

 もう一-つ、管轄に関して検討すべき問題に、就業規則の不利益変更問題がある。集団的紛争と個別紛争の境界に位置する問題だけに、どう扱うべきかはむずかしい問題である。しかし、就業規則変更の合理性を一般的に争うものではなく、変更のともなう権利の得喪を個々の労働者が争うものであれば、あえて管轄から排除すべきまでもないと言える。また、将来的には、就業規則の変更ないし統一的労働条件の一方的変更自体についての紛争調整を行うことも検討すべきである。



2 紛争処理組織と人的配置


(1) 審級 −−−原則として地労委レベルの一審制

 個別紛争に関しては調整的処理を軸として考えることから、原則として地労委レベルの一審制とする。個別紛争に関する中労委の任務は、地方機関の統括、紛争解決基準の作成・調整と複数県にわたる紛争の管轄である。調整的処理(和解、調停、仲裁)に適合しない紛争や調整的処理を望まない紛争は早い時期に裁判所における紛争処理に委ねるべきである。労働相談から斡旋・調停、または任意仲裁の手続きをたどる過程で、一定の割合の個別紛争が裁判所の紛争処理に移行することになる。


(2) 紛争処理組織−−−労働相談部、雇用関係部を設置

 労働相談を担当とする労働相談部、個別紛争の調整的処理を行う雇用関係部を創設し、従来の集団紛争の処理組織を労使関係部とする。労働相談部には、相談員を配置する。雇用関係部には調停人と仲裁人を配置し、公労使三者構成の雇用調停委員会及び雇用仲裁所をおく。労使関係部には、従来の労働委員会に相当する労使関係委員会をおく。

 労働委員会のほかに、労政事務所等、各地城行政の窓口には労働相談・調停のセクション(労働相談センター)をおき、相談員と調停人を配置する。


(3) 人的構成、資格・実務にも明るい相談員、調停人をおく

 労働相談部の相談員は、常勤または非常勤とし、非常勤の場合労使関係や雇用関係の実務に明るい行政OB、労使団体や企業実務の経験者に委嘱する。また、相談にあたることのできる人材を要請するために、一定の研修機会の設定や資格の付与を考える。なお、相談員は調停人の資格も有するのが望ましいと思われる。
 調停人は、常勤または非常勤とし、労使団体や民間実務の経験者をも対象とした人材のなかから選任する。仲裁人は、雇用関係、労使関係及び法律の実務に明るい専門家(学識経験者、専門法曹等)とし、非常勤とする。調停委員会、仲裁所の運営に関しては公労使で構成する理事会があたる。


(4) 権限・任務−−−斡旋、調停権限をもつ

 相談員は、主に、労働相談において紛争解決のための助言と紛争の振り分けを行う。なお、相談委員も調停人としての資格をもっときには、調停人としての活動を行うことができる。調停人及び調停委員会は、紛争解決の斡旋・調停の活動を行う。雇用仲裁所は、当事者双方の仲裁合意に基づき仲裁を行う。




3 どのような紛争処理方法をとるか


(1) 処理(調整)手続−−−振り分けから仲裁までの三段階


 第一段階として、相談員が労働相談の窓口を通して、相談者の納得的解決に努めるとともに調整手続(調停・仲裁)による解決が可能な個別紛争を振り分ける。

 第二段階として、窓口で調整的処理が必要と判断された紛争は、その相談当日に、相談員または調停人が、当事者双方に連絡をとり、第1回の期日を決める。期日は、参加強制的とするほか、調停人が単独で紛争の解決をはかる。その際に、和解を勧試するほか、調整手続きによる解決意思を確かめる。解決意思を双方が示す場合には、次回の期日を決定し、必要に応じて証拠の提出や参考人等の出頭を求める段取りをとる。原則として、3回程度の期日で紛争を解決するものとする。

 第三段階として、単独調停人による斡旋・調停は失敗したもののなお当事者が自主的解決を望む場合、また、紛争の性格からして必要と認められるものは当初から、三者構成の雇用調停委員会で紛争処理を行う。

 当事者双方が、最初から、また、斡旋・調停手続きの中途で仲裁判断を求める場合、仲裁所における仲裁手続を開始する。仲裁人の選定は仲裁人リストの中から当事者が行う。




4 紛争処理の法的効力と司法審査


(1) 紛争処理の実効性

 雇用関係部における自主的な紛争処理は、和解、調停、仲裁判断の形をとる。

 和解は、調整手続き開始以前の和解であると、調整手続き開始後の和解であるとにかかわらず、法的には、民法上の和解の効力をもつことになる。これは裁判所で行われる「裁判上の和解」のような特別な履行のための強制力(「確定判決と同一の効力」民事訴訟法203条)をもたないが、当事者が自主的に解決したものであるから、任意の履行を期待できる。

 調停が整った場合、調停調書を作成する。この調停調書も、裁判所調停の場合と異なり特別な強制力(「裁判上の和解と同一の効力」民事調停法16条)はもたない。なお、必要があれば、公正証書に作成して、執行力を確保することも可能である(民事執行法22条5号)。また必要に応じ、仲裁手続きに移行して、解決案の法的履行の確保をはかることが考えられる。なお調停調書に裁判所調停と同様の法的効力を与える立法的対応も考えられてよい。
 仲裁判断には、この手続きにおいて行われたものでも、法律上「確定判決と同一の効力(民事訴訟法800条)が認められる。そのため紛争の終局的解決に有効である。



(2) 紛争処理と司法審査

 労働委員会の紛争処理が簡易・迅速を旨としつつ、きわめて複雑かつ長期にわたることは、集団的紛争の処理において経験済みである。この悪弊を個別紛争の処理において繰り返すことは、絶対に避ける必要がある。上述してきたような処理が行われる限りそのような問題を引き起こさない。
 「権利紛争」に関しては、自主的紛争解決を基本とするから、和解や調整手続き、または仲裁による紛争解決になじまない案件と判断されたときは、早い時期に裁判所に事件の処理を委ねる。

 係属した紛争の処理は、基本的に和解や調停、仲裁判断という自主的解決であるから、一般に、裁判所の関与を必要とするという「司法審査」の問題は生じない。もっとも、仲裁判断については、取消の訴えが出来ないことはないが、その訴えが認められるのは、きわめて限定的・例外的場合に限られる(民訴法801条参照)。
 したがって、不当労働行為事件における行政訴訟のような五審制ともいわれる長期化をもたらすおそれはない。

 「規整(利益)紛争」における和解や調停、仲裁判断は、その結論内容が当事者間における新たな契約内容となることで紛争が終結することになる。したがって、紛争は労働委員会手続きで完結し、裁判所に事件自体が係属することはない。
 また、将来、過半数代表(従業員代表)との協議・共同決定が求められる一定の統一的労働条件について調整活動を行った場合も、和解、調停、仲裁判断における解決内容は新たな統一的規整の内容となるのみであって、その内容自体が司法審査の対象となることはない。