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[資料番号] 00060
[題  名] ダイナミックで徳のある国をめざして(日経連・労働問題委員会報告)
[区  分] その他

[内  容]
日経連/労働問題研究委員会報告
ダイナミックで徳のある国をめざして


【資料のワンポイント解説】
1.日経連・平成11年度版「労働問題研究委員会報告」概要である。
2.雇用の安定のために何をすべきかとして、次の5項目を提示。
  イ.景気の早期回復、
  ロ.新規事業・新産業の早期育成などによる雇用創出、
  ハ.労働市場の環境整備、
  ニ.雇用され得る能力(エンプロイヤビリティー)の向上、
  ホ.高齢者雇用と関連する社会保障改革の推進
3.その他、雇用、賃金、労使関係に触れている部分を色マークで表示しておいた。

平成11年版『労働問題研究委員会報告』
概要

第一章 危機からの脱出

日本経済は、深刻な不況に直面している。当面・短期の対処としては、信用不安を払拭して、国内需要の喚起に全力を挙げなければならない。内需拡大には住宅対策の推進、個人所得課税・法人課税の減税、新社会資本の整備が有効と考える。
日本の望まれる将来像は「ダイナミックで徳のある国」である。市場原理を徹底させて経済活力を増し、同時に倫理・道義により経済社会秩序を維持して市場経済のいわば陰の部分に対処すべきである。日本の将来像を考える場合、中長期的な観点から、わが国の経済社会システムの構造改革も急がなければならない。
 それには、国際競争力強化のために、わが国の高コスト構造の是正が必要である。公的規制の緩和、国際水準並みの税制、情報インフラの整備などが促進されなければならない。


第二章 雇用安定のために何をすべきか

 雇用失業情勢の改善に成果を挙げるためには、整合的な政策を迅速に実行することが肝要である。失業の要因に応じた対策のポイントは、第一に景気の早期回復、第二は新規事業・新産業の早期育成などによる雇用創出、第三は労働市場の環境整備、第四に雇用され得る能力(工ンプロイヤビリティー)の向上、第五に高齢者雇用と関連する社会保障改革の推進である。新たな雇用の受け皿として、情報・通信、福祉・医療、環境、住宅、教育などの分野が注目されている。こうした分野において、参入障壁などの公的規制の緩和・撤廃と新産業発展のためのインフラ整備が不可欠である。日経連は、介護・福祉、教育、住宅などの分野において百万人の雇用創出を具体的に提案した。


第三章 国民生活の質的改善に取り組もう

 平均的サラリーマンにとって、住宅コストの軽減は喫緊の願望である。 ローン支払利子を所得控除できる制度を創設し、現行の所得税税額控除方式の住宅取得促進税制との選択適用を検討すべきである。日経連としても、住宅取得費用を軽減できるよう「定期借地権制度」の普及に努めているさらに、サービス関連の公共料金は国際的にも割高である。国民生活や産業活動に不可欠な公共料金を抑制し、引き下げる一層の努力を求めたい。


第四章 社会保障改革、少子化対策を急げ

一、高齢社会への対応

 わが国の公的年金制度の一階部分は目的間接税による税方式へと転換し、二階部分は負担と給付がリンクする積立方式に再構築するなどの抜本改革を行うべきである。また、負担の限界を重視し、給付水準を長期間かけて二〜三割程度削減する方策が立案されるべきである。企業年金についても、現行の厚生年金基金制度の代行制度は廃止の方向で見直すべきである。確定拠出型企業年金制度を導入すべきである。医療制度改革に当たっては、診療報酬制度を現行の出来高払い制から当面、疾病別の定額制に転換すること、現行薬価基準制度を見直し「参照価格制」を導入すること、新しい高齢者医療保険制度を創設し、現行の老人保健拠出金制度は廃止することなどが必要である。

二、少子化への対応

 当面、子育て支援策として、保育所サービスの拡充や保育事業への民間企業の参入が急がれる。企業においても、出産・育児休暇制度の拡充、裁量労働制やフレックスタイム制など柔軟な勤務制度の工夫に取り組むほか、特に出産・育児でいったん退職した女性の円滑な再雇用に努めることが望まれる。


第五章 教育改革と雇用され得る能力の向上

 日経運は、教育の目標は世界に通用する国際的な視野をもった個性豊かな人材の育成にあることを提唱してきた。あらゆる分野で諸外国との交流が進む中では、他国の文化、歴史などを理解し、多様性を尊重することが望まれる。内外の・競争が激化する環境下では、高いエンプロイヤビリティー、すなわち雇用され得る能力が従来以上に必要になる。企業においては、従来型の教育訓練を行うだけでは不十分であり、専門的技術・能力の向上に焦点を当てた教育訓練の充実に努めるべきである。


第六章 企業経営の課題と新たな労使関係構築

一、企業経営の課題

 国際競争力の維持・強化と高コストの是正が企業経営の課題である。そのために、第一に一層の経営効率向上、生産性向上と新規事業の育成が図れるよう企業体質の構造改革に注力する。第二に企業経営の透明性・信頼性の向上に取り緩む。第三に経営コスト適正化の観点から賃金・退職金など、処遇の仕組みを見直すことが求められる。

二、これからの労使関係と賃金・雇用問題への対応

(1)成熟社会の労使関係

 企業の人事管理も集団から個別管理へと軸足を移しており、企業労使の対応も従業員個々の個別的労使関係を重視する姿勢を踏まえ、きめ細かさが要請される。団体交渉だけでなく、多様な問題を労使協議の場で深めることが求められる。

(2)賃金・雇用問題への対応

 雇用安定は勤労者にとって最大の福祉であり、いまは労使ともに雇用の維持・安定に最大限の努力を傾注すべき時である。競争力強化と経営コストの抑制が企業の経営課題となる中で、国際的に高い人件費コストをこれ以上引き上げることば困難である。マクロレベルでの生産性基準原理は、物価抑制を目標に、実質国内経済生産性の上昇の枠内に賃金上昇の伸びを収めようというものである。物価下落の下においても、生産性の向上がなければ賃金上昇の余地はない。
 企業の賃金決定は、雇用と賃金をセットで考える総額人件費管理の考え方の徹底を迫られる。特に、今年においては賃金引き上げができない企業が現実に少なくない。従来の賃上げ論議ではすまない状況と判断する。
今秋交渉においては許される総額人件費の中で雇用の安定を最重要視し、その他の労働条件については労使で柔軟に対処すべきである。すなわち、賃金分割を伴うワークシェアリングの考え方の導入や企業内における多様な雇用形態を一層適切に組み合わせること、さらには能力や成果・貢献度に応じた賃金配分の徹底をめさず方向で、総人件費の引き下げを含め、その柔軟化を視野に入れることが望まれる。