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【資料のワンポイント解説】
1.99春闘を前にした連合白書。
2.改めて、「中高年リストラとパート・派遣の拡大」によるコスト優先の「雇用の流動化」の現状を批判。また、日経連の主張である「エンプロイアビリティー」についても、社会的評価制度の確立のないまま労働者の代替制を高めようとするもの、と批判している。
3.労働契約や働き方の個人化という状況に対しては、ワークルールの強化や情報公開の必要性を強調。あまねく適用される「公正労働基準」と「公正な労働条件決定」の重要性を指摘している。
★資料NO60の「日経連・労働問題委員会報告」との併読をお奨めしたい。
1999連合白書
(以下、概要)
1 日本経済再生への課題
連合の生活実態アンケートでは初めて生活への「不満」が6割に達し、これまでの「満足」6対「不満」4の割合が逆転する異変が生じた。雇用不安も前回調査より強まっており、小規模事業所で「倒産・解雇」に不安を感じている人が五割以上にのぼっている。
日本経済は、97年春の「政策デフレ」により、停滞局面に舞い戻り、立ち直りの兆しを見いだせていない。企業サイドは新たな投資先に対する展望を欠いており、中長期的な人事政策を持てないことが人材の「ジャストインタイム」としてあらわれ、雇用不安から消費停滞を生むという悪循環を生んでいる。
景気回復の障害となつているのは、低金利政策による、(1)家計部門から金融・企業部門への巨額の所得移転(2)日本からアメリカを中心とした証券市場への巨額の対外資金流出であると考えられる。これらの資金還流の流れが変わらない限り、所得税減税も追加的公共投資も十分な効果を発揮し得ないのは当然だ。
行き場を見失った有り余る短期金融資本の国際移動−−それがグローバルスタンダードを掲げ、「市場開放」を求める主体である。こうした背景のうえに成り立つ「市場万能主義」の動きに対し、製造業に代表される実体経済の視点に立つことが、いま求められているのである。
2 21世紀への視点
99春季生活闘争にあたって、すべてを景気回復に委ねて手をこまねいているのではなく、21世紀に向けた確かな骨太の道筋を切り開いていく必要がある。
いま進められている「雇用流動化」はコスト優先の「中高年リストラ」とパート・派遣の拡大にすぎず、雇用の「多様化」ではなく「二極化」である。「即戦力」の人材を「ジャストインタイム」で求め「業績」で処遇するのは「短期決済」型の発想であり、「長期」の「OJT」で処遇していく「長期決済」型とは、おのずと違いがある。
製造業・非製造業を問わず、日本企業の「強み」があるとすれば、それはすぐれて「人材」への投資と処遇にほかならす、長期雇用を基本とした日本的労使関係はこれからもその基本は変わらない。
これからも「長期決済」型をベースとしていくということは、雇用安定・人材育成について企業が責任を持ち続け、働く側の選択肢が広がるような社会的インフラを整備していくことを意味する。日経連の「雇用流動化」論はそうした社会的インフラにいっさい触れていない。彼らは「エンプロイアビリティー」の名の下に労働者の代替制を高めていこうとしているが、その前提となるのは社会的な評価制度の確立である。
働く側の選択肢は、自力で新たな職場を開拓できる強い立場の人にとってでなく、弱い立場の人にとってこそ拡大されるものでなければならない。そのためには長期雇用と企業の雇用責任を第一義としつつ、働く側にとってモデルコースから「降りる」ことが負の選択にならっず、いつでも「やり直し」が可能な労働者保護のためのセーフティーネットが不可欠となる。
労働契約や働き方の「個人化」やあいまいな就業形態の拡大は、ワークルールの強化と情報公開を必要としている。そこで重要になるのが、就業形態や働き方を問わず、すべての労働者に「公正労働基準」が適用され、労使対等の「公正な労働条件決定」が保障されることである。基本的な考え方は、(a)労働基準法や労働組合法の「適用除外」をできる限りなくす(b)雇用形態による差別を禁止する(c)すべての労働者に対等な労便協議を保障する(d)個別労使紛争処理機関を整備・拡充し労働者個々人の権利を保障する−−といった原則である。
将来にわたる安心のための社会基盤は、いうまでもなく福祉分野である。この分野は、最近になって投資効果とくに雇用誘発効果が大きいことが指摘されている。つまり、介護・福祉基盤の拡充は、雇用不安と老後不安の同時解決にとつて極めて有効ということになる。また、「大量生産体制」から「持続する社会」へのシフトは21世紀最大の課題であり、環境分野を新たな産業として位置づけ、組合サイドからもあらたな産業政策や雇用政策を積極的に提起していく必要がある。
住民のニーズに応えるサービス提供には、地方分権の推進とそれをサポートする国の政策が重要になるが、「協同セクター」の役割もますます重要になり、NPOや労働組合に求められる役割もまた重要性を増している。
3 社会的労働運動への挑戦
経営者による「ミクロの論理」や労働契約の個人化に対抗し、働く者の連帯を通じた雇用・権利・労働条件そして生活を守り、向上させるという労働組合運動の原則に立ち返ることが極めて重要になっている。
労働組合にとつて、賃上げも時短も雇用確保のどれをとっても重要な課題であるが、どれが優先課題かという選択に迫られる局面も出てきている。しかし、問題は「あれかこれかの選択」ではなく、どういう組み合わせが望ましいかという選択なのである。なぜなら生産の伸びがプラスである限り、マクロ的には賃金上昇、雇用増加、時短を同時に達成することは可能だからである。
仮にゼロ成長でも生産性の上昇率が生産の上昇率を上回る場合、必要労働は減少するので、時短が進まなければ、雇用が減少し、しかも被雇用者の賃金は上昇するという二極化が進むことになる。また、今の日本がそうであるように、低賃金・不安定層用のパート労働者への代替によつて全体の時短が進む、いびつな「ワークシェアリング」が進むことにもなりかねない。
いま必要なのは、賃金低下を伴わないワークシェアリングによって時短と雇用増を実現し、なおかつ賃上げをともなう均衡点を見いだすことであり、ナショナルセンターの大きな役割になると思われる。また、市場万能主義という「肉食獣」が世界を徘徊している現在、企業中心主義と競争至上主義の克服に向け働く側からの「グローバルスタンダード」が提起される必要がある。
労働運動は、何かの目的や要求を実現するための単なる「手段」ではない。多くの人に働きかけ連帯を広げ、新たな社会関係をつくり出す実践である。つまり助け合いこそが労働運動の原点だといえる。従つて、活動自体に参加することが楽しくて意義あるような、参加型の自発的な活動スタイルに脱皮しなければならない。労組にとつては助け合いという本来の役割を果たすことがいま極めて重要になており、「パワフルでアクティブな労働組合主義」を掲げて大胆に打つて出るべきときなのである。
連合の賃上げ要求の考えかたは、(a)賞金の「個人化」に対する「社会化」(b)「平均賃上げ方式」から「個別賃金方式」へ(c)「上げ幅」から「絶対水準」へ−−を基本としている。個別賃金方式への移行は、単に結果としての個別賃金表示に終わってはならない。賃金水準そのものの社会化、横断化に向けて、賃金比較のための共通の銘柄設定や賃金実態と妥結結果に関する正確な情報開示が求められている。
今年の要求目標のもう一つの特徴は、「35歳(高卒・勤続17年)25万円」という「最低到達目標」をはじめて掲げたことである。最低到達目標が一定期間内にすべての組合で達成できるよう計画的な取り組みが極めて重要になる。