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[資料番号] 00075
[題  名] 港湾労働者派遣制度(仮称)の導入
[区  分] その他

[内  容]

港湾労働者派遣制度(仮称)の導入
事業者間で港湾労働者を融通し合う

中央職業安定審議会
専門調査委員港湾労働部会報告書








1 はじめに


 昭和64年1月1日の新港湾労働法(昭和63年法律第40号)施行以来、10年余が経過した。この間、港湾運送事業においては、貨物輸送のコンテナ化、荷役作業の機械化、設備の近代化等による輸送革新の一層の進展がみられるとともに、国際間競争が激化するなど、その取り巻く環境は大きく変化しつつある。

 こうした中で平成9年12月の行政改革委員会の最終意見において、港湾運送事業の免許制度等に係る規制緩和に併せて「日別の波動性に対応するための企業外労働者を活用する方策として、新たに、港湾運送事業者間で港湾労働者の融通が円滑にできるような仕組みを確立すべきである」こと、また、これらの規制緩和の実施に当たり、港湾運送の安定化等を図るための各施策の実施及び検討が必要である旨の指摘を受けたところである。

 このような状況にかんがみ、当部会においては、「波動性への対応」及び「港湾労働の安定化方策」を中心に検討を行ってきたところであり、以下に示す方向で必要な法制的整備を行うことが適当であるということで意見の一致をみたところである。




2 波動性への対応について


(1) 港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の導入
 
 港湾運送においては、コンテナ荷役等近代的荷役が進展する中で、なお日単位の短期の波動性を払拭することはできず、個別企業又は港全体で波動性を吸収し、解消することは困難な状況にある。港湾労働の波動性に対しては、現在、港湾労働者雇用安定センターの行うセンター常用労働者の労働者派遣事業を中心に対応しているところであるが、港湾運送事業における規制緩和の推進の中で港湾運送事業主はより効率的な経営を求められ、波動性に対してより効率的かつ的確に対応していくことが求められる状況にある。また、近年の港湾運送事業における機械化、合理化の進展に伴い、企業内で吸収できない波動性に対応すべき労働力についても、単純労働力需要が減少し、技能労働力需要が増大してきており、より高度の技術、技能を有する労働者について港湾運送事業者間で活用していく仕組みを確立することが求められている。

 このため、日別の波動性に対応するための企業外労働者を活用する方策として、港湾運送事業者に雇用される常用労働者を港湾運送事業者間で活用していくため、以下の措置を講じた港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の導入を図るべきである。


 ・ 労働力需給調整の適正な実施及び悪質な労務供給事業者の参入の排除の観点から公的機関の関与の下に運営するものとする。公的機関は港湾労働者の雇用の安定等を目的とする港湾労働者雇用安定センターとする。

 ・ 対象となる労働者について、企業常用労働者としての保護が損なわれないよう雇用・就業に係る責任が担保されるシステムを構築するものとする。

 ・ 単純な労働力の提供とならないよう港湾運送業務について一定の技術・技能、経験を有する者を対象者とするものとする。

 ・ 港湾運送事業者に雇用される常用労働者を港湾運送事業者間で活用するという港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の趣旨にかんがみ、実際に港湾運送事業を実施していない事業主が制度を活用することは適当でないものとする。

 


(2) 共同受注・共同就労体制の確立

 事業規模の拡大を図り、効率的な就労体制を実現していく観点から、上記のような日別の波動性に対応するための方策として、共同受注・共同就労体制の確立を図っていくことが重要である。その際、以下の点に留意することが必要である。


 ・ 共同受注・共同就労の実施は、各事業主の任意により、実現されるべきものである。

 ・ 共同受注・共同就労の実施に当たっては、これらに参画する雇用主の責任を明確にする観点から、それぞれが適正な請負によって実施されることが必要である。

 





3 港湾労働の安定化方策について


(1) 雇用秩序維持対策

 港湾運送事業における規制緩和の推進や港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の導入により、港湾労働をめぐる混乱が生ずることのないよう、以下により、雇用秩序を維持するための施策を講じていくことが必要である。


 ・ 港湾運送の業務に従事している者を把握するため、常用港湾労働者及び公共職業安定所の紹介を受けない日雇労働者に係る公共職業安定所への届出制度に加え、港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の対象労働者について、公共職業安定所への届出制度を導入する。

 ・ 港湾における雇用秩序維持がより一層重要になることから、現場パトロールや立ち入り検査の強化を図る。

 ・ 事業所訪問指導の実施や雇用管理に関する勧告の活用等により、事業主の遵法意識の高揚を図る。

 ・ いわゆる人付きリースについて、個別指導の対象事業主の範囲の拡大を検討する等により、その一層の縮小を図る。

 ・ 港湾労働法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合において、港湾労働者がその事実を労働大臣に申告することができる制度を創設する。

 ・ 雇用管理に関する勧告や事業主に対する指導結果について地方運輸局に対し通報を行う等により、地方運輸局との一層の連携を図る。

 

(2) 雇用管理等

 港湾運送事業における規制緩和の推進や港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の導入によって、雇用管理において問題の生ずることのないよう、以下により、その改善に向けた施策を講じていくことが必要である。

 
 ・ 労働者の募集、雇入れ及び配置に関する事項並びに教育訓練に関する事項等を管理するために事業主が選任すべきものとされている雇用管理者について、港湾労働者の雇用管理に関する事項のうち、労働時間などの労働環境の改善に関する事項等その管理すべき事項の範囲を拡大する。

 ・ 港湾運送事業主及び港湾労働者に対する相談援助、各種講習の拡充を図る。

 ・ 雇用管理の模範となる事業所を表彰する制度の導入について検討を行う。

 ・ 日曜・夜間荷役が継続的に行われる場合には、労使間の協議に基づき、交替制勤務の導入などによる適切な雇用管理の実施を図る。

 ・ 港湾運送事業における規制緩和の推進により、労働災害の増加、労働保険への未加入、その他労働環境の悪化が生ずることのないよう、必要な指導監督を行うものとする。

 


(3) 職業訓練

 近代的荷役の進展及び港湾運送事業における規制緩和の推進による効率的な経営の要請等に応えるため、以下により、港湾労働者の技能の向上を図っていくことが必要である。


 ・ 公共職業能力開発施設による講師の派遣や施設の提供などの事業主援助の活用を図る。

 ・ 財団法人港湾労働安定協会の運営している港湾技能研修センターについて、認定職業訓練施設に対する補助金制度を活用することにより運営基盤を強化するともに、その一層の活用を図る。

 ・ 職業訓練に関する各種助成金制度の活用を図るため、相談・援助の実施を図る。

 ・ 港湾運送業界における能力向上の目標として、資格制度の導入を検討すべきものとする。

 


(4) 登録制度


 現在、港湾運送の業務に従事している者を把握するための制度として、常用港湾労働者及び公共職業安定所の紹介を受けない日雇労働者に係る公共職業安定所への届出制度が運用されているところであるが、さらに、港湾労働者の雇用の安定を図るため、港湾労働者の登録制度を導入し、登録労働者以外の港湾運送業務への就労を禁止すべきとの考え方がある。
 これについては、登録制度を維持していくことによる種々のコスト及び登録制度を廃止している諸外国の例にかんがみ、慎重に対応していくべきものであるが、以下により、その趣旨を実現していくことが必要である。


 ・ 常用港湾労働者及び公共職業安定所の紹介を受けない日雇労働者に係る公共職業安定所への届出制度に加え、港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の対象労働者について、公共職業安定所への届出制度を導入する。

 ・ 港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)の導入や雇用秩序維持対策の推進により、常用港湾労働者の安定した就労を確保し、日雇労働者の利用が極めて例外的である状況の実現に努める。

 


(5) 港湾雇用安定等計画

 港湾労働者の雇用の安定その他の港湾労働者の福祉の増進に関する計画として毎年度港湾雇用安定等計画を策定しているところであるが、規制緩和の推進等により港湾運送において構造的変化の進展が予想される中で、今後の港湾労働対策の実施に当たっては、中長期的な視点から計画を立案し、その目標に即した具体的措置を講じていくことが重要になってきていると考えられる。このため、港湾雇用安定等計画の策定期間を5か年程度としていくことが適当である。



(6) 地区職業安定審議会

 港湾ごとに港湾労働法の施行に関する重要事項を審議することを目的として地区職業安定審議会が設置されているが、港湾によっては、これまで港湾労働者の定数に関する議論に終始し、他の問題についての議論が十分になされていないとの意見も聴かれるところである。このため、今後、関係労使の協力を得て、港湾ごとの実情に応じた港湾労働者の雇用の安定その他の港湾労働者の福祉の増進に関する施策について建設的な議論が行われ、港湾労働における安定化に資するものとなることが望まれる。





4 港湾労働対策の適用範囲について


(1) 適用対象港湾

 港湾労働対策をどの港湾において実施すべきであるかについては、港湾の荷役量、港湾労働者の数等を考慮して、国民経済上に占める港湾の重要性及び必要な労働力の確保その他港湾労働者の雇用の安定等に関し特別の措置を実施する必要性が高い港湾であるかといった点などを勘案して決定すべきものであるが、関係労使の合意の得られる港湾を指定することが必要である。

 現行制度においては、東京港、横浜港、名古屋港、大阪港、神戸港及び関門港の6大港が適用港湾として指定されているところであるが、その範囲を変更することについて関係労使の合意が得られない状況にある。このため、引き続き、関係労使の間の合意形成を図っていくことが必要である。


(2) 適用対象業種

 港湾労働対策をどの業種において実施すべきかについては、事業活動に波動性がみられることや雇用秩序を確保する必要性が高いこと等港湾労働の特殊性が認められるかといった点などを勘案して決定すべきものであるが、関係労使の合意の得られる業種を指定することが必要である。
 
 現行制度においては、港湾運送事業法(昭和26年法律第161号)第2条第1項第2号から第5号までの行為(船内荷役、はしけ運送、沿岸荷役及びいかだ運送)及びこれに準ずる行為であって政令で指定するもの(港湾運送関連事業)が適用対象業種とされているところであるが、その範囲を変更することについて関係労使の合意が得られない状況にある。このため、引き続き関係労使の間の合意形成を図っていくことが必要である。




5 港湾労働者雇用安定センターについて


 港湾労働者雇用安定センターは、港湾労働法に基づく指定法人として、港湾労働者の雇用の安定に関する調査研究、雇用管理に関する相談援助及び訓練等の業務を行うとともに、波動性に対応するための企業外労働者を常用労働者として雇用し、労働者派遣を行っている。港湾労働者雇用安定センターの行うセンター常用労働者の労働者派遣事業については、新港湾労働法が施行されて以来、日別の波動性に対応するための需給調整システムとして重要な役割を果たしてきたところである。

 しかしながら、十分な就労日数の確保ができず、その収支は一貫して赤字基調であって、平成10年度においても、景気低迷の影響等を受けて約8000万円の赤字を計上するに至っている。このため、雇用秩序維持対策を推進することにより安易な日雇労働者の利用を厳に抑制するとともに、事業の一層の効率化に努める等により、収支の改善を図っていくことが喫緊の課題となっている。港湾労働者雇用安定センターの行うセンター常用労働者の労働者派遣事業については、その廃止を求める意見や港湾企業常用労働者派遣制度(仮称)との一体的な運営による対応を図るべきであるとの意見が提出されているところであり、関係者の間においてその在り方について、引き続き協議を行っていく必要がある。





6 実施時期について


 今後の港湾労働対策については、行政改革委員会の最終意見の指摘に基づく港湾運送事業の規制緩和の実施(平成12年1月から始まる通常国会において提出が予定されている港湾運送事業法の改正案(同年内に施行)に基づき実施予定)の時期に合わせて実施することが適当である。