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[資料番号] 00077
[題  名] 新たな裁量労働制の在り方(労働省研究会報告・本文)
[区  分] 労働基準

[内  容]

裁量労働制の指針の在り方に関する研究会報告

平成11年9月
(労働省労働基準局賃金時間部労働時間課・公表)


  はじめに

 第1 指針の在り方
   1 指針で規定する事項
   2 指針の性格


 第2 指針に盛り込むべき内容
   1 対象事業場の範囲
   2 労使委員会が決議する事項及びその内容
   (1)対象業務の範囲
    イ 具体的内容
     (イ) 「事業の運営に関する事項」
     (ロ) 「企画、立案、調査及び分析の業務」
     (ハ) 「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため」
     (二) 「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」 
    ロ 具体例
     (イ) 対象業務となり得る業務の例
     (口) 対象業務となり得ない業務の例
   (2) 対象労働者の範囲
   (3) みなし労働時間
   (4) 使用者が講ずる対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置
    イ 労働時間の状況の把握
    口 具体的措置
   (5) 使用者が講ずる対象労働者からの苦情の処理に関する措置
   (6) 労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対する不利益取扱いの禁止
   (7) その他労使委員会が決議する事項
    イ 対象労働者に適用される評価制度等の開示
    口 決議の見直し
  3 労使委員会の組織、運営等
   (1)委員の指名
   (2)労使委員会の議事等
   (3)情報の開示
   (4)労働組合との関係等

 第3 改正法附則に基づく見直しの必要性等



 (参考資料)

 第1 企業・労使ヒアリング概要(別掲)
  1 A社(専門業務型裁量労働制導入企業)
  2 B社(専門業務型裁量労働制導入企業)
  3 C社(企画業務型裁量労働制導入予定企業)
  4 D社(企画業務型裁量労働制導入予定企業)
  5 日本労働組合総連合会
  6 日本経営者団体連盟



 第2 企業訪問調査概要(別掲)
  1 組織編成
  2 各部署における業務
  3 各部署における業務遂行の形態

                  
研究会メンバー

  荒木 尚志(東京大学法学部助教授)
○ 今野 浩一郎(学習院大学経済学部教授)
  佐藤 博樹(東京大学社会科学研究所教授)
  柴田 裕子(三和総合研究所主任研究員)
  田中 滋 (ヘイコンサルティンググループ代表取締役社長)
  盛  誠吾(一橋大学大学院法学研究科教授)
  山川 隆一(筑波大学社会科学系大学院助教授)

(50音順、○は座長)
  



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 はじめに


 平成10年9月、第143回国会において一部修正の上、可決・成立した労働基準法の一部を改正する法律(平成10年法律第112号。以下「改正法」という。)により、従来からの裁量労働制(以下「専門業務型裁量労働制」という。)に加えて、経済社会の変化に対応した主体的な働き方のルールづくりを目指して、企業の本社等の中枢部門で企画、立案等の業務を自らの裁量をもって遂行するホワイトカラーを対象とした新たな裁量労働制(以下「企画業務型裁量労働制」という。)が新設され、平成12年4月1日から施行されることとなった。
 企画業務型裁量労働制は、対象業務、対象労働者の範囲、制度実施の要件として労使委員会を設置し所要の決議をすること等の点で、専門業務型裁量労働制と大きく異なっている。この制度については、労働大臣が、対象労働者の適正な労働条件の確保を図るために、対象業務、対象労働者の範囲等労使委員会が決議する事項についての指針(以下単に「指針」という。)を定めることとされているところであり(改正法による改正後の労働基準法(以下「法」という。)第38条の4第3項)、その適正な運用を確保するため、指針は極めて重要な役割を果たすものである。

 このため、指針の策定については、同国会における衆参両院の関係委員会の附帯決議において「労働大臣が定める指針において対象業務や対象労働者の範囲を具体例をもって可能な限り明らかにすること。なお、この指針を定めるに当たっては、中央労働基準審議会において、労使の意見を充分尊重しつつ、合意が形成されるよう努めること。」とされており、これに先立つ審議の過程において、指針を定めるに当たっての中央労働基準審議会の議論に先立って、専門的な機関を設置し、十分に検討を行うべきであるとされたところである。

 当研究会は、こうした経緯を踏まえ、平成10年11月に労働省労働基準局長の参集の依頼を受け検討を開始し、改正法の原案策定の基礎となった中央労働基準審議会の建議(「労働時間法制及び労働契約等法制の整備について」(平成9年12月11日)。以下単に「建議」という。)、国会における審議経過及び附帯決議を踏まえ、指針において定めるべきとされた事項その他企画業務型裁量労働制を実施するに当たり対象労働者の適正な労働条件の確保を図るために指針に盛り込むことが必要と考えられる事項の具体的在り方に関し、平成10年11月からこれまで13回にわたり検討を行ってきた。この間、企業及び労使団体からのヒアリングを行うとともに、事務局を通じて企業に対する訪問調査を実施する等により、実情を踏まえつつ検討を深めるよう努めた。
 本報告書は、これらの検討の結果を取りまとめたものであり、今後、中央労働基準審議会において、企画業務型裁量労働制の指針の在り方について本報告書を踏まえ十分な議論が行われることを期待するものである。


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第1 指針の在り方


1 指針で規定する事項

 法第38条の4第3項においては、対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため、同条第1項において労使委員会が決議することとされている事項、すなわち、「対象業務」、「対象労働者の範囲」、「対象労働者の労働時間として算定される時間」、「対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置を決議の定めにより使用者が講ずること」、「対象労働者からの苦情の処理に関する措置を決議の定めにより使用者が講ずること」、「使用者は労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないこと」及び「その他命令で定める事項」について、労働大臣が指針を定め、これを公表することを定めている。したがって、指針においては、これらの事項の具体的在り方について規定することとなる。
 これらに加えて、企画業務型裁量労働制の適正な運用を確保し、対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため、労使関係者に対し明らかにすることが必要と考えられる事項については、指針において幅広く示すことが適当である。
 具体的には、「対象業務」及び「対象労働者の範囲」とともに、企画業務型裁量労働制を実施し得る事業場を画するものである「対象事業場」の具体的な範囲についても、必要な事項を指針において規定することが適当である。また、企画業務型裁量労働制を実施するためには労使委員会を設置し一定の事項について決議すること等が必要であり、この労使委員会は、事業場の実情に応じて、対象業務や対象労働者等について適切な判断をなす任務を与えられているものである。そして、このように重要な役割を果たす労使委員会については「導入手続及び運用の適正を確保する観点から、労使の自主的・話合いを実質的に保障し得るもの」(建議)であることが求められている。このため、労使委員会の組織、運営等に関し、法令で定める要件のほか、使用者及び労使委員会の委員が留意すべきと考えられる事項についても、指針において明らかにすることが適当である。


2 指針の性格

 指針は、その事業場における労働者の労働の実態等実情を熟知している労使関係者が、企画業務型裁量労働制の実施に向けて、労使委員会を組織した上で、必要な調査審議を経て決議をし、制度を目的に即して対象労働者の適正な労働条件の確保を図りつつ適正に実施していくに当たり、拠るべきガイドラインとなるものである。,このため、指針では、労使委員会の委員を始めその事業場の労使関係者が事業場の具体的実情を踏まえて決議等をするに当たり、判断の途すじとその際に考慮すべき事項を示すことが必要である。



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第2 指針に盛り込むべき内容

 上記第1の考え方に従い、指針に盛り込むべき内容としては、次のものが考えられる。


1 対象事業場の範囲

 企画業務型裁量労働制は、「事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮し得るよう」(建議)、必要な環境づくりをすることを目的として新設されたものである。このため、その対象となり得る事業場については、「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」(法第38条の4第1項)に限定されているところである。
 「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」とは、その事業場の属する企業(法人)の事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場を指すものである。
 具体的には、本社である事業場は、これに該当すると考えられる。
 このほか、企業(法人)の事業運営上の重要な決定を行う権限を分掌する事業本部や地域本社、地域を統轄する支社・支店等である事業場のように本社に準ずるものが該当すると考えられる。
 本社である事業場以外の事業場が対象事業場に該当するかの判断に当たっては、その事業場に、その事業場の属する企業(法人)の事業の運営に大きな影響を及ぼす決定を行う権限が与えられているか否か、例えば、事業本部である事業場であれば、その事業場の属する企業(法人)が取り扱う主要な製品、サービス等についての事業計画の決定等を行っているか、また、地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場であれば、その事業場の属する企業(法人)が事業活動の対象としている主要な地域における生産、販売等についての事業計画の決定等を行っているかどうかによって判断することとなる。その際、その事業場に役員が常駐している場合には、その役員の指揮の下に、その事業場において企業(法人)の事業の運営に大きな影饗を及ぼす決定を行う権限を与えられていると推定されることから、役員が常駐していることは、一つの判断材料になると考えられる。


2 労使委員会が決議する事項及びその内容


(1) 対象業務の範囲

イ 具体的内容

 企画業務型裁量労働制の対象となり得る業務は、

 (イ) 事業の運営に関する事項についての、
 (ロ) 企画、立案、調査及び分析の業務であって、
 (ハ) 当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、
 (二) 当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務

 であり(法第3 8条の4第1項第1号)、
 この(イ)〜(二)の4つの要件全部に該当する業務であることが必要である。
 これらの全部又は一部に該当しない業務を対象業務として決議したとしても、その業務には企画業務型裁量労働制は適用し得ず、法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものである。
 対象業務の範囲を明確にするため、これら4つの要件への該当性について、具体的に考え方を示せば、次のとおりである。


(イ) 「事業の運営に関する事項」

 「事業の運営に関する事項」とは、対象事業場の属する企業(法人)の事業の運営に影響を及ぼす事項を指すものであり、対象事業場の事業の実施に関する事項が直ちにこれに該当するものではない。
 具体的には、例えば、本社である事業場において策定されるその事業場の属する企業(法人)全体の営業方針については、「事業の運営に関する事項」に該当し得るが、その事業場にいわゆる本店営業部が併設されており、同時に顧客に対する営業も行っている場合に、本店営業部に所属する個々の営業担当者が担当する営業は、「事業の運営に関する事項」に該当し得ないと考えられる。
 また、企業(法人)が取り扱う主要な製品、サービス等が複数ある場合に、特定の製品やサービスごとにいわゆる事業本部を設け、その製品やサービスの取扱いに関しては相当の権限を任せていることがある。こうした事業本部全体の事業計画については、「事業の運営に関する事項」に該当し得ると考えられる。
 さらに、本社である事業場においては基本的な事業方針や営業方針のみを決定し、それを具体化した事業計画や営業計画については地域本社や地域を統轄する支社・支店等において策定している等事業運営上の重要な決定を行う権限を地域本社や地域を統轄する支社・支店等が分掌していると考えられる場合には、その地域本社や地域を統轄する支社・支店等の事業計画や営業計画については、「事業の運営に関する事項」に該当し得ると考えられる。


(ロ) 「企画、立案、調査及び分析の業務」

 「企画、立案、調査及び分析の業務」は、建議では「実態の把握、問題の発見、課題の設定、情報・資料の収集・分析、実施策の策定、実施後の評価等の関連し合う一群の業務」と表現されているものであり、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務を指すものである。
 ここでいう「業務」とは、部署が所掌する業務を指すものではなく、個々の労働者ごとに遂行を命じられた業務を指すものである。したがって、「企画」、「立案」、「調査」又は「分析」を名称中に含む部署(例えば「企画部」、「調査課」等)において行われる業務の全部を指すものではなく(これらの部署において行われる業務の中には、「企画、立案、調査及び分析の業務」に該当するものと該当しないものの両方が含まれ得ると考えられる。)、部署の名称にかかわらず、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務を指すものである。


(ハ) 「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため」

 「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため」か否かは、その業務の性質に照らし客観的に判断されることが必要である。使用者がその業務について主観的に「ゆだねる必要がある」と考え、その事業場においてそのように取り扱うこととしているだけでは、対象業務には該当し得ないと考えられる。


(二) 「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」

 「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とは、労働者に、その遂行に当たり、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を、いつ、どのように行うか等についての広範な裁量が認められているものであることが必要である。
 したがって、その遂行に当たり労働者にこのような裁量が認められておらず日常的に使用者の具体的な指示の下に行われる業務や、日常的には具体的な指示を受けないがあらかじめ使用者が示す業務の遂行方法等についての詳細なマニュアルに即して遂行することを指示されている業務は、対象業務には該当し得ないものである。
 これに関し、使用者が、業務の開始時にその業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、中途において経過の報告を受けつつ基本的事項についての所要の変更の指示を与えることは、企画業務型裁量労働制の場合であっても労働者は使用者の指揮命令の下にあることから、当然可能である。
 事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮することを可能にするという企画業務型裁量労働制の目的が十分に達成されるためには、上司が対象労働者に対し、このような目的、目標、期限等の基本的事項について.の指示をいかに的確に行うかが重要である。特に、この基本的事項についての指示を行うに当たっては、設定された目標に係る業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には、結果的に対象労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われるという事態が生じ得ることに留意する必要がある。使用者は、企画業務型裁量労働本来の趣旨に即して対象労働者の上司がこの基本的事項についての指示を的確に行うよう、対象労働者の上司に対し必要な管理者教育を行うことが適当であると考えられる。


ロ 具体例

 上記イ(イ)〜(二)の考え方に従い、対象業務となり得る業務及び対象業務となり得ない業務を例示すれば、それぞれ次のとおりである。
 なお、(イ)に掲げる「対象業務となり得る業務の例」は、これに該当するもの以外は対象業務となり得ないとする趣旨ではなく(これに該当しないものであっても、上記イ(イ)〜(二)の4つの要件全部に該当すれば、対象業務となり得る。)、また、(可に掲げる「対象業務となり得ない業務の例」は、これに該当するもの以外は対象業務となり得るとする趣旨ではない(これに該当しないものであっても、上記イ(イ)〜(二)の4つの要件全部に該当していなければ、対象業務となり得ない。)。


(イ) 対象業務となり得る業務の例

 @ 経営企画を担当する部署における業務のうち、

   ・経営状態・経営環境等について調査・分析し、経営計画を策定する業務
   ・現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査・分析し、新たな社内組織を編成する業務

 A 人事・労務を担当する部署における業務のうち、

   ・現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査・分析し、新たな人事制度を策定する業務
   ・業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査・分析し、社員の教育・研修計画を策定する業務

 B 財務・経理を担当する部署における業務のうち、

   ・財務状態等について調査・分析し、財務計画を策定する業務

 C 広報を担当する部署における業務のうち、

   ・効果的な広報手法等について調査・分析し、広報を企画する業務

 D 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、

   ・営業成績や営業活動上の問題点等について調査・分析し、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業計画を策定する業務

 E 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、

   ・生産効率や購買市場の動向等について調査・分析し、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務


(ロ) 対象業務となり得ない業務の例

 @ 経営会議の庶務等の業務
 A 人事記録の作成・保管、給与計算・支払、各種保険の加入・脱退等の業務
 B 金銭出納、財務諸表・会計帳簿の作成・保管、租税の申告・納付、予算・決算に係る計算等の業務
 C 広報誌の原稿の校正等の業務
 D 具体的な営業活動の業務
 E 具体的な製造の作業、物品の買い付け等の業務






(2) 対象労働者の範囲

 企画業務型裁量労働制の対象となり得る労働者は、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する」者でなければならない(法第38条の4第1項第2号)。
 対象労働者は、対象業務を遂行する労働者であることから、対象業務に常態として従事していることが原則であり、少なくとも従事する業務の相当部分を対象業務が占めていることが必要であると考えられる。
 対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等については、対象業務ごとにそれぞれ異なると考えられることから、労使委員会においては、その事業場において対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であると判断するために必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を検討し、決議で明らかにすることが必要である。
 なお、客観的にみて、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等J を有しない労働者を対象労働者として決議したとしても、その労働者には企画業務型裁量労働制は適用し得えず、法第4章の労働時間の規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものである。具体的には、例えば、4年制大学を卒業した労働者で全く職業経験がない場合には、対象労働者には該当し得ず、少なくとも3〜5年の経験を経た上で、その事業場において対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であると判断されるに至ってはじめて、対象労働者に該当し得ると考えられる。




(3) みなし労働時間

 対象労働者の労働時間として算定される時間(法第38条の4第1項第3号。以下「みなし労働時間」という。)は、対象労働者に関し、実労働時間ではなくそのみなし労働時間に対して法第4章の労働時間に関する規定が適用されることとなるものである。
 みなし労働時間は、労使委員会において、対象業務の内容を十分検討するとともに、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度について十分な説明を受けそれらの内容を十分理解した上で、適切な水準のものとなるよう決議されることが必要である。




(4) 使用者が講ずる対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置

 使用者は、決議で定めるところにより、対象労働者の労働時間の状況に応じた健康及び福祉を確保するための措置を講じなければならないものである(法第38条の4第1項第4号)。
 また、企画業務型裁量労働制においては、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだね、使用者が具体的な指示をしないこととなるが、このために使用者について、労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき義務(安全配慮義務)がなくなるわけではないことは、専門業務型裁量労働制の場合と同様と考えられる。
 したがって、使用者は、こうした義務を履行する観点からも、対象労働者の労働時間の状況や健康状態を把握し、その健康及び福祉を確保するための措置を講ずることが必要である。


 イ 労働時間の状況の把握

  使用者は、決議で定めるところにより、対象労働者の労働時間の状況に応じて下記ロの措置を講ずることとなる。したがって、使用者は、措置を講ずる前提として、対象労働者の労働時間の状況を把握することが必要となる。ここでいう「労働時間の状況に応じて」とは、必ずしも、裁量労働制の適用のない一般の労働者の場合と同様に対象労働者の実労働時間の把握を求めているものではなく、出退勤時刻、入退室時刻の記録等によって、いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等の対象労働者の勤務状況を把握することを求めているものである。

  労使委員会は、使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況(以下「勤務状況」という。)を把握するに当たり、その事業場の実態に応じて適当であると考えられる方法を具体的に決議で定めることが必要であるとともに、使用者は、その決議で定めるところにより、対象労働者の勤務状況を把握し、これに応じて下記ロの措置を講ずることが必要となる。

  また、使用者は、対象労働者の勤務状況を把握する際、併せて、対象労働者の健康状態を、自己診断カード等による対象労働者本人からの健康状態についての申告、健康状態についての上司による定期的なヒアリングの実施(この場合、上司に対し健康管理面を含めた管理者教育を十分に行うことが適当であると考えられる。)等により把握することが望ましいと考えられる。


 ロ 具体的措置

  労使委員会は、いかなる勤務状況にある対象労働者について、使用者がいかなる措置を講ずることとするかについて、その具体的内容を決議で定めることが必要である。具体的内容としては、例えば、次のようなものが考えられる。

 (具体例)

 @ 把握した対象労働者の勤務状況、健康状態に応じて、代償休日あるいは特別な休日を付与すること

 A 把握した対象労働者の勤務状況、健康状態に応じて、健康診断を実施すること

 B 「働き過ぎの防止」(建議)の観点から、年次有給休暇についてま、とまった日数連続して取得することを含めその取得を促進すること
 
 C 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
 
 D 把握した対象労働者の勤務状況、健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

   また、これらの措置のほかに、対象労働者が創造的な能力を継続的に発揮し得る環境を整備する観点から、例えば、自己啓発のための特別休暇の付与等対象労働者の能力開発を促進する措置を講ずることも望ましいと考えられる。




(5) 使用者が講ずる対象労働者からの苦情の処理に関する措置

 使用者が講ずる対象労働者からの苦情の処理に関する措置(法第38条の4第1項第5号)については、労使委員会において、使用者が講ずる措置の具体的内容、例えば、申出の窓口、担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等を、決議で定めることが必要である。
 この場合、取り扱う苦情の範囲としては、企画業務型裁量労働制の運用に関する苦情のみならず、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度等の制度に付随する事項も含まれることとすることが適当であると考えられる。
 また、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることが重要であり、そのための工夫の一つとして、使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすることも考えられる。
 なお、使用者が講ずる措置として、既存の苦情処理制度の活用によることとすることを決議することも可能であるが、その場合には、対象労働者にその旨を周知するとともに、企画業務型裁量労働制の運用の実態に応じて機能するように配慮することが適当であると考えられる。
 さらに、使用者は、寄せられた苦情の内容やその処理状況について、苦情を寄せた対象労働者のプライバシーの保護に留意しつつ、労使委員会に開示することとし、必要に応じ労使委員会において決議の見直しを含む制度の見直しの議論を行い得る契機とすることが適当であると考えられる。





(6) 労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対する不利益取扱いの禁止

 使用者は、労働者に企画業務型裁量労働制を適用するに当たっては、労働者本人の個別の同意を得なければならないこと、同意をしなかった労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないことを、労使委員会において決議することが必要となるものである(法第38条の4第1項第6号)。
 労働者本人の個別の同意を得るに当たっては、使用者は、労働者に対し、対象業務の内容を始めとする決議の内容等その事業場における企画業務型裁量労働制の制度の概要、同意した場合に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容、同意しなかった場合の配置、処遇(これらが同意をしなかった労働者をそのことを理由として不利益に取り扱うものであってはならないことはいうまでもない。)を明示することが適当であると考えられる。
 また、労使委員会において、あらかじめ、同意は書面によること等、労働者本人の同意を得るための手続を決議で定めるとともに、労働者からの同意の撤回を認めることとする場合にはその要件、手続を決議で定めることが適当であると考えられる。




(7) その他労使委員会が決議する事項

 労使委員会は、法に規定する決議事項(上記(1)〜(6))の他に、法の委任を受けて今後省令で規定する決議事項(国会審議では、法第38条の4第1項の決議には有効期間を定めることとし、その期間は、当分の間、1年以内の期間としなければならないこと、企画業務型裁量労働制の運用状況に関する記録を保存することが挙げられている。)について決議することが必要である。
 さらに、企画業務型裁量労働制が適正に運用されることを確保するためには、法により制度を実施するために必要とされているこれらの事項に加えて、次の事項について決議することが適当であると考えられる。


イ 対象労働者に適用される評価制度等の開示

 事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮することを可能にするという企画業務型裁量労働制の目的が十分に達成されるためには、使用者は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容について、労使委員会に対し十分な説明を行い、労使委員会の各委員が、それらの内容を十分理解した上で、企画業務型裁量労働制を導入するか否かを判断することができ.ることとすることが重要である。
 このため、使用者は、下記3(3)に従い、企画業務型裁量労働制が実施された場合に対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容を、決議に先立って労使委員会に対し十分に説明するとともに、それらを変更しようとするときには、事前に労使委員会にその変更内容を説明することを決議に盛り込むことが適当であると考えられる。


ロ 決議の見直し

 企画業務型裁量労働制については、労使委員会で調査審議が十分に行われた上で決議がなされ、これに即して適正に運用されるべきものであるが、制度の運用開始後に、決議をした時点で予見されなかった問題が生じた場合等にあっては、必要に応じ、決議の内容を見直すことが望ましいと考えられる。
 このため、決議で定めた有効期間の途中であっても、労使委員会の委員の半数以上から労使委員会の開催及び決議の見直しの要求があった場合には、速やかに労使委員会を開催し見直しのための検討を行うことを決議に盛り込むことが適当であると考えられる。






3 労使委員会の組織、運営等

 企画業務型裁量労働制を実施するためには労使委員会を設置し一定の事項について決議すること等が必要であり、この労使委員会は、事業場の実情に応じて、対象業務や対象労働者等について適切な判断をなす任務を与えられているものである。そして、このように重要な役割を果たす労使委員会については「導入手続及び運用の適正を確保する観点から、労使の自主的話合いを実質的に保障し得るもの」(建議)であることが求められている。このため、使用者及び労使委員会の委員は、法に規定する要件及び今後省令で規定する要件を満たすほか、次の事項に留意すべきであると考えられる。


(1) 委員の指名

 労働者及び使用者を代表する委員の指名については、法令で定めるところにより労使各側において適切に行われることが期待されるが、決議のための調査審議等に当たり対象労働者等その事業場において企画業務型裁量労働制に関係する労使、の意見を反映しやすくする観点から、労使は、指名する委員の中に、それらの者を含めることを検討することが望ましいと考えられる。


(2) 労使委員会の議事等

 労使委員会が円滑に運営されるようにするため、定例会(決議のための委員会、決議の有効期間中における制度の運用状況の調査審議のための委員会等)・臨時会の開催、議長の選出、定足数(委員全体に係るもののほか、労使各側の一定割合(一定数)以上を必要とすることを定めることも考えられる。)、決議の方法等労使委員会の運営について必要な事項を、労使委員会の運営規程で定めておくことが適当であると考えられる。
 なお、決議の方法に関し、労使委員会が企画業務型裁量労働制の導入に係る決議(法第38条の4第1項)又は一定範囲の労使協定に代えてする決議(法第38条の4第5項)をする場合の「委員の全員の合意」とは、労使委員会に出席した委員全員の合意で足りるものである。


(3) 情報の開示

 労使委員会において決議が適切に行われるためには、労使委員会の各委員が、決議をするに当たり必要となる情報を、十分に把握していることが不可欠である。,
 このため、使用者は、労使委員会が決議のための調査審議をする場合には、対象労働者の対象業務の具体的内容、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容を労使委員会に開示することが、また、労使委員会が制度の運用状況を調査審議する場合及び決議の有効期間の満了に当たり再度決議をする場合には、決議で定めるところにより把握した対象労働者の勤務状況とこれに応じて講じた対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況、対象労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況等の制度の運用状況を労使委員会に開示することが、それぞれ適当であると考えられる。
 また、使用者は、行政官庁に対する報告(法第38条の4第4項)の内容を、労使委員会に開示することが適当であると考えられる。
 これらの場合、使用者が開示すべき情報の範囲、開示手続、開示が行われる労使委員会の開催時期等の必要な事項を、労使委員会の運営規程で定めておくこ、とが適当であると考えられる。
 


(4) 労働組合との関係等

 労使委員会は、「事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会」である(法第38条の4第1項)。
 企画業務型裁量労働制に係る労働条件に関する事項についての労使委員会による調査審議は、あくまで企画業務型裁量労働制の適正な運用を図る観点から行うものであり、労働組合の有する団体交渉権を制約するものではなく、労働組合は、当然、独自の権限に基づき使用者と団体交渉を行うことができるものである。
 このため、労働組合や労働条件に関する事項を調査審議する労使協議機関と労使委員会との関係をあらかじめ明らかにしておくことが効率的であることから、それらと協議の上、労使委員会の調査審議事項の範囲を、労使委員会の運営規程で定めておくことが適当であると考えられる。
 また、労使委員会は、一定範囲の労使協定に代えて、決議をすることができることとされている(法第38条の4第5項)。
 このため、同様にそれらの労使協定の締結当事者となり得る労働組合又は過半数代表者との関係を明らかにしておくため、それらと協議の上、労使協定に代えて決議をし得ることとする範囲を、労使委員会の運営規程で定めておくことが適当であると考えられる。





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第3 改正法附則に基づく見直しの必要性等


 改正法附則第11条は、政府は、企画業務型裁量労働制について、その施行後3年を経過した場合において、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必、要な措置を講ずるものとしている。
 本報告書は、現時点において指針に盛り込むことが必、要と考えられる事項等の具体的在り方に関する検討の結果を取りまとめたものであるが、企画業務型裁量労働制の対象労働者の雇用環境は、今後も変化していくことが予想される。
 このため、政府は、制度の施行後においては、本報告書を踏まえ中央労働基準審議会の調査審議を経て策定される指針の遵守状況も含め、制度の施行状況を把握し、制度の見直しの必要性について検討を加えることが適当である。
 なお、企画業務型裁量労働制は、労使の代表者によって構成される労使委員会が、決議によりその制度の実施に係る事項の主要な部分を決定するとともに、話し合いにより制度の運用を適正なものとしていくという仕組みを採っているが、このような仕組みは、法に基づく制度としては初めて設けられたものであり、このことの将来的な意義は大きいと考えられる。このため、労使委員会の実際の運営状況等を把握し、将来的には企画業務型裁
量労働制以外の分野においても労使委員会という仕組みを活用することについて、検討が行われることを希望する。