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[資料番号] 00083
[題  名] 労働安全衛生マネジメントシステムをめぐる最近の動向(H11.10)
[区  分] 安全衛生

[内  容]

労働安全衛生マネジメントシステム
をめぐる
最近の動向

(資料・日刊工業新聞の報道記事)



【資料のワンポイント解説】

1.労働安全衛生マネジメントシステムの新しい動きについて、日刊工業新聞の報道が注目されている。ここでは、資料として、6月及び10月の各報道内容を掲載。見逃されている方も、この2つの記事は目を通しておかれることをお奨めしたい。

 OHSAS18000とは
 OHSAS18001は、日本規格協会が英国規格協会から翻訳権を取得7月には翻訳作業が完了。なお、18000シリーズは労働安全衛生マネジメントの「審査マニュアル」ともいうべきもの。(労働省の安全衛生マネジメントシステムに関する告示は、BS8800を下敷きにしたものであるが、これがガイダンス的なものであるのに対し、OHSAS18001は、審査仕様に踏み込んだ内容となっている。)
 現在、18002の翻訳作業が進行中である。


2.ところで、先の10月20日〜22日に仙台で開催された『全国安全衛生大会』。この中でも注目を集めていたのが「マネジメントシステム分科会」(会場は超満員の盛況。)であった。

3.品質の9000シリーズ、環境の14000シリーズを規格化した国際標準化機構=ISOの場で、労働安全はどのように取り扱われるのだろうか。実は、ISO規格化には、アメリカが反対。議論は進まず、業を煮やしたイギリスが仕掛けたのが報道にある「コンソーシアム方式」による作成戦術。これに日本が乗った(正確には日本政府がという意味ではない。)ところから、形勢は、欧州・日本・オーストラリアなどのコンソーシアム連合有利に展開している。
コンソーシアムは、事実上の国際標準化戦略で鳴らすアメリカに対する、逆デファクト・スタンダード戦略である。国家戦略上のバトルの帰結やいかに?という点からも関心を集めることとなろう。

4.労働安全衛生は、品質や環境と違って、安全のために『人の行動(作業行動)』や『(安全)意識』についての教育訓練面からのアプローチの必要性が高い。
これらの点で、日本人の行動様式やこれまで蓄積してきた日本の安全衛生ノウハウが(一定程度)反映されるか否かは、重要な問題。民間主導とはいえ、国際安全衛生マネジメントシステムの策定に日本が、主体的に関わり主導権を発揮できる場が確保されつつあることは歓迎すべきであろう。









日刊工業新聞1999年6月17日報道

労働安全衛生で国際規格
コンソーシアム方式
日英の協会などが参加

 労働安全衛生に関する国際マネジメント管理規格(OHS・MS)が英国、日本の両規格協会などが参加したコンソーシアム方式で制定に動き出した。すでに「OHS/AS18001」として「規格」の形で民間主導で成文化、日本でも規格協会が翻訳作業を進めている。最終的にはISO1800シリーズに移行、国際標準実現を目指す。国内でも通産省や労働省もこの動きを支持。労働省告示を軸に、自動車、化学、鉄鋼、中央災害防止協会が策定した団体規格をベースに、国際上旬作成のイニシアチブを目指す。

(以下本文、)
 OHS・MSは品質、環境に次ぐ企業マネジメント規格。多国籍企業にとって管理が難しい労働現場の安全衛生を標準化することで、化学、建設、自動車、電機などの主要業種での国際ビジネス環境整備を目指すもの。ただし自国内に業界団体規格を持つ米国などが抵抗、国際標準化機構(ISO)での制定作業が難航してきた。
しかし各国で事実上の規格制定が進展、わが国でも団体規格に次いで労働省が5月にガイドラインを告示、ISOや国際労働機関(ILO)での議論再開を目指す動きが活発になっていた。これを背景に、OHS・MSのガイドラインを最初に策定した英国規格協会が中心となり、豪州、アイルランド、日本などの企画関連団体による事実上の企画案策定が終了、これをベースに欧州・日本連合の形でデファクト・スタンダードとして定着させる意向。
国内でも民間主導の動きを支持、規格協会と連携する形で中災防が関連産業団体のとりまとめを目指す。




日刊工業新聞(1999年10月連載記事)
新たなハードル 労働安全衛生規格

(上)

高まる産業界の関心
国際標準の地位固める


 労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)に対する産業界の関心が急激に高まってきた。労働省が今春に指針(ガイドライン)を告示、主要産業界が追随する動きを見せている。一方、国際的にも欧州を中心にわが国を含めたアジア諸国が国際標準化機構(ISO)での採用を目指したデファクトスタンダード「OHSAS18001」に基づく認証へと動き出しているからだ。関連セミナーは満員盛況。ISO9000・同14000と発展してきたマネジメントシステム規格が、企業活動の根幹をなす生産現場やオフィスに浸透しようとしている。(編集委員・藤本暸一)


■中災防も参加

 OHSASは欧州やアジアの20以上の標準団体で組織するコンソーシアム。9月2日、ロンドンでOHSASプロジェクト会合が開かれ、わが国から日本規格協会、テクノファ(平林良人代表取締役)などとともに中央労働災害防止協会(中災防)関係者が参加した。労働省ガイドラインの普及と国際労働機関(ILO)での規格制定を目指す中災防が、ISO=国際標準派の会合に参加したことは「情報収集、全方位外交であり、全面賛成ではない」(尾上史江調査研究部長)とはいえ、その動きが無視できないものとなった証(あかし)との見方が強い。
 OHSAS18001は、ISO規格をリードしてきた英国規格協会(BSI)など欧州標準団体のイニシアチブで作成、その後に日本規格協会などアジアの団体も同調したもので、国際標準の地位を固めようとしている。日本でも規格協会が日本語訳を発行、7月下旬に開催された同協会による説明会には200人の定員をはるかに超える関係者が参加した。


■ビジネス機会に

 一方、規格発行となると企業向けの審査登録、審査員研修を行っている審査登録、研修機関にとってもビジネスチャンス。そこで規格協会を事務局に圏内の25機関が参加、労働安全衛生標準化研究会を発足、OHSAS規格策定への提言活動や情報収集に乗り出した。これは、労働安全で優れた実績を持つ日本のシステムを反映させる狙い。それとともに企業の負担を軽減、普及に弾みをつけることも期待できるからだ。
 とくに策定作業中の実行のためのガイドライン「OHSAS18002」に注目、作業グループによる検討や認証取得事業所を対象としたヒアリングなども行う意向。これらをもとにユーザー企業に対する説明を行うとしているように、ISO認証機関の大半がこれをもとにした認証活動に踏み切るの間違いない。


■認証へ動き急

 現時点でOHS認証取得を発表した国内企業はソニーケミカル、ソニー仙台テクノロジー、栗本鉄工所、矢崎部品の4サイトにとどまっている。ただし主要認証機関のほとんどが、数企業を対象に英国規格(BS8800)やOHSAS18001をベースとした認証作業を進めていると見られており、潜在取得企業は100社近いとの見方さえある。認証を発表しないのは、OHSAS18002の最終内容が近く公表される見通しにあるためで、これらに見通しがつく今年暮れから来春にかけ、「認証取得企業が相次ぐことば間違いない」(雫文男アシスト&ベストコンサルタント事務所長)状況を迎えている。

(中)

労災防止へ法律と協調
求められるリスク管理


■企業責任を重視

 ソニーケミカルは98年9月、わが国で最初に労働安全衛生マネジメントシステムへ(OHSMS)の認証をノルウェーの認証機関・DNVから取得した。品質環境に次ぐ第3のマネジメントシステムを企業経営の中核に据え、労働災害の防止を図るとともに、企業に求められる社会的責任を果たすのがその狙いだ。
 栃木県鹿沼市の同社第1工場へ(山田義郎取締役工場長)を訪ねると、工場入り口の受付でOHSMSの趣旨と目的を記載した掲示物を読むように求められる。また訪問先ではOHSMSの目的や方針を記載したパンフレットを渡され、受領証にサインすることになっている。作業者の健康と安全は、当事者だけで確保されるものではなく、「関係する人すべての協力」(山田工場長)がなくては実現できないからである。
 OHSMSが注目される理由は、国際的な環境変化と先進各国における労働災害の減少率低下という二つ。国際ビジネスの機会が増えるにつれ、多くの企業が各国ごとの法規制の格差、作業者の意識の違いに悩まされることになった。
東南アジアで土木建設工事を請け負った大手ゼネコンは、半袖半ズボンとホーチミンサンダルで作業する現地人労働者の安全教育に直面する。安全帽と安全靴、作業着を貸与しても換金してしまうのだそうだ。


■国際企業に必須

 現地の法律整備が十分ではなく,たとえ作素者が安全管理などの作業規則を順守しなくても事故が起きれば企業責任が問われる。日本と同じ基準を採用していても,事故が起きた後にそれを理解させるのは大変な苦労が伴うという。その意味でも、だれにでも分かりやすい国際的なアイテムとしてOHSMSの国際標準を採用すれば、そんな苦労をしなくてもよいというのは率直な感想だろう。
 もう一つ、先進各国は労災事故の減少率低下に悩まされている。労災を減らそうとしても、法規制だけでは限界にきているという認識が高まっている。その背景には科学技術の急速な進歩に伴う最新機器や有害な新原材料の導入に、法規制が追いつかないという現実がある。


■米国に消極論も

 とはいえ、マネジメントシステムの相次ぐスタートには抵抗も少なくない。その最大の理由は『品質、環境だけで手いつばい』という多くの企業の実態である。必要性や有効性を認めても、今はそれどころではないというのも無理からぬ話だ。
 こうした消極論を背景に、デファクトスタンダードの国である米国は国際標準化機構(ISO)や国際労働機関(ILO)の場での国際標準作成に反対している。とはいえ、米国では多くの産業界が団体規格を作成、実施していることを見落としてはならない。リスク管理の観点からも適切な対策は欠かせないのである。
 そのため『国際標準派』の欧州を中心に規格関連団体がコンソーシアムを結成、事実上の国際標準ととして「OHSAS18001」を作成した。日本もこれに同調、さらにアジア各国も追随している。いずれ「ISO18001」として認知されるのは間違いなとみられる。ソニーケミカルも先進事例というだけにとどまらず、OHSASを視野に、さらに積極的な取組みを検討している。労働安全の確保は従業員の命と健康とともに、企業にとってリスク管理の観点からも重要性を増している。

(下)

欧州規制、年内に草案
国際規格化陣取り合戦



■日本に翻訳委

 欧州と日本を含むアジアの標準団体が協力した労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)規格「OHSAs18001」(仕様)の発行は、内外で二つの注目すべき動きを生み出している。一つは欧州連合(EU)が「欧州規則作成を目指し始めた」(テクノファ=OHSAS共同作業機関=平林良人社長)ことである。また国内では、OHSASの普及と今後の規格作成作業に産業界の声を反映させるために、近く『OHSAS翻訳委員会』(吉澤正委員長=筑波大学教授)を発足させる。
 環境規格であるISO14000シリーズでは、英国で始まった国家規格作成と、各国の追随を受けたEUによる「欧州環境管理規則」(EMAS)が決め手となった。同様にEUが「欧州労働安全衛生管理規則」を作成するとなれば、EU域内にある事実所を持つ多国籍企業が取得に向かうことになるのは間違いない。
 EUは89年にEEC指令として「労働安全衛生リスクアセスメント」を策定しているが、これをベースに新たにEU指令作成に動き出した。ドイツを中心に作業が進められており、年内にも草案が発表される見通しにある。内容ではEMASと同様、実効性を求めてパフォーマンスも盛り込まれるといわれており、実現すれば各国の国内法にも取り込まれることになる。


■導入負担を軽減

 OHSASでの作業は「OHSAS18002」(実行のためのガイドライン)作成が急ピッチで進められている。早ければ10月中にも、規格制定が見込まれるほど事態は急。これに刺激され米国でもOHSMSの明確化を目指す動きが具体化していると伝えられ、日本も国際労働機関(ILO)に労働省ガイドラインをベースに国際規格作成を提案する構えだ。
「国際標準化機構(ISO)での本格検討を目前に、陣取り合戦に各国が動いている」(平林社長)のが現状。
 品質ISO(9000シリーズ)や環境ISOで明らかなように、国際規格に自国の声をどこまで反映させられるかは、今日では重要な国家戦略。OHSMS規格も同様で.わが国でもOHSASにどこまでユーザーである日本企業の意見・要望を反映できるかが問われている。しかも実績面では、労働安全衛生法に基づくキメ細かな対策が奏功して、日本は国際的にも優れた効果を上げてきた。
そのノウハウが盛り込まれれば、OHSASが国際的にも実効ある規格となることはもとより、導入に当たっての日本企業の負担も大幅に軽減される。
OHSAS翻訳委員会は国内での普及を目指すためにも、日本企業が受け入れやすい規格作成を意識した意見集約を目指している。品質、環境、労働安全衛生の一連の国際規格策定で中心的な役割を担ってきた吉澤教授を中心に、「OHSMSに理解のある産業人や有識者」(雫文男事務局長=アシスト&ベストコンサルタント事務所長)で組織し、今月中にも正式スタートの予定だ。とはいえ、日本企業の関心は産業界や企業によって温度差が目立つのも事実。EUやOHS指令スタートという事態を迎え、出遅れたことから狼狽(ろうばい)し、国際的にもひんしゅくを買った品質規格のような事態は、なんとしても避けたいものである。