次の資料 前の資料


[資料番号] 00091
[題  名] 自己啓発推進有識者会議報告
[区  分] その他

[内  容]

【資料のワンポイント解説】

1.「自己啓発」、いざやろうとすると、どこに問題点があるのか。今、自己啓発が求められる背景には何があるのか。

2.個人の職業生涯の中での自己啓発の位置づけを「6通りのパターン」に整理し、
今後における推進の方向性と各界の取組への期待の形で、1.「労働者個人に対する期待」、2.「企業に対する期待」、3.「労働組合に対する期待」、4.「教育訓練機関に対する期待」、5.「行政に対する期待」に分けて提起。





自己啓発推進有識者会議報告

(平成7年12月)

はじめに(略)


第1章 個人主導の職業能力開発の現状及ぴ問題点等




1 労働者個人の「自己啓発」への取組の状況

(1) 職業能力の開発・向上においては、あらゆる場面で個人の自助努力が大きな要素を占めてきており、例えば企業内で行われる教育訓練こついても、労働者個人の問題意識と学習意欲の定着・向上への努力とが相まって成果をあげてきたと考えられる。こうした中で、企業が行う教育訓練とは別に、個人が自主的にその資質向上のために学習することを「自己啓発」と呼んできた。本会議の議論の対象としては、こうした「自己啓発」の中で特に職業能力に関するものを取り上げることとするが、単に個人的な趣味活動に関するものではなく、職業能力の開発・向上に自主的な形で取り組むものであるということから、以下「個人主導の職業能力開発」として整理したい。

(2) こうした個人主導の職業能力開発すなわち「自己啓発」の取組の状況について、民間教育訓練実態調査(労働省職業能力開発局)で見てみることとする(同調査においては、「自己啓発」とは、「職業に関する能力を自らが自発的に開発し、向上させるための活動」であり「職業に関係ない趣味、娯楽、スポーツ、健康の増進等に関するものは含まない」と定義されている。)まず、その実施方法としては、同調査(平成5年3月)によれば、勉強会・研究会への参加、講座への参加、通信教育等の受講等のほか、ラジオ・専門書等による自習等が挙げられており、これらを実施している労働者はそれぞれ3割以上となっている。一方、専修学校.各種学校への通学・大学・大学院への通学・公共職業訓練の受講といった形で実施している労働者は少ない。また、「自己啓発」の必要性を感じている労働者は全体の約9割であるが、実際に過去1年間に何らかの「自己啓発」を行った者は全体の約6割となっており、学習への意欲はあっても現実の姿との間にギヤツプが存在している。

(3) 「自己啓発」を行うに当たっての障害としては、前掲調査(平成6年11月)によれば、約6割の労働者が、「時間がない(忙しすぎる)」を挙げたほか、「費用がかかりすぎる」「自己啓発についての情報が少ない」「自己啓発の結果を評価されない」等といった点を挙げている。このような「障害」があることから、「自己啓発」の必要性は感じつつも実施していなかったり、実施してはいるが必ずしも理想の形となっていないという姿がみらる。このため、企業に対する要望としても、「受講料等の金銭的援助」「自己啓発に関する情報提供」「就業時間についての配慮」のほか、「学習成果に対する評価」への期待が多く挙げられている。また、行政に対しても、「給付金制度の充実」「教育訓練コースに関する情報提供」への期待が上位を占めているほか、「夜間・休日コースの充実」や「教育訓練内容(科目等)の多様化」といった「自己啓発」を行う機会の提供に関する要望も多い。

(4) 労働者自身の問題としても、キャリア形成の展望が明確に描ききれず、必要な能力開発の目標や対象が定まらないという傾向が指摘されている。その背景としては、いわゆる終身雇用の下でのジョブローテーションを中心とする人事慣行の中で、従来は、自らのキャリアのあり方についても、どちらかといえば企業の主導に委ねるところが大きかったことがある。このため、自分がどのような職業能力、適性などを持っているかについて、十分に自己分析がなされず、その結果「自己啓発」を行うに当たっての動機づけが妨げられていたものと考えられる。特に中高年のホワイトカラー層については、最近の雇用情勢の中で出向や離転職等の増加が見込まれるが、これまでのキャリアや職業能力等について客観的に把握されていないため、他企業への円滑な移動に当たって大きな問題点となっている。また、こうした観点からキャリア・職業能力等に関する相談援助を行うシステムは、民間の幾つかの教育訓練機関等で取り入れている例もみられるが、我が国においては、まだ一般的にはなっていないと考えられる。



2 「自己啓発」の実施に当たっての問題点等

(1) 企業における教育訓練の中でも、「自己啓発」は重要な位置づけを持っており、前掲調査(平成6年11月)によれば、ホワイトカラーの職業能力を高めるための方策として「自己啓発への支援」を挙げる事業所は、全体の約4割に及び「OFF−JT」に次いで多くなっている。今後、支援を行う見通しのある事業所は、約5割とさらに多くなっており、企業の立場からも「自己啓発」を職業能力開発の方策として重視していこうとする姿勢がみられる。

(2) 「自己啓発」を行う場としては、一般的に、民間・公共の各種教育訓練機関が実施する通学・通信等の講座が活用されている。このほか社会人向けの高度な専門教育を行う大学・大学院等の活用も増加しているが、これらの中には、夜間コースを設けるなど柔軟な教育形態が用意されているものもみられる。しかしながら、利用する立場からみれば、講座・コースの数、種類等の点からみて、まだ、教育訓練を受講する機会は十分にあるとはいえず、その内容や実施される時間帯、受講費用等についても、労働者個人の二一ズに必ずしも対応したものとなっていない。
 また、こうした職業能力開発機会は、どちらかといえば大都市圏に集中しがちであり、地方に在住する労働者は大都市圏に比べ、個人の二一ズに応じた多様な職業能力開発の機会にアクセスしにくいものと考えられる。

(3) 企業においては、従業員の「自己啓発」を支援するため費用や時間の面での負担を軽減する何らかの措置を講じているところが多い。すなわち、前掲調査(平成5年3月)によれば、「就業時間についての配慮」「受講料等の金銭的援助」「社内講座・セミナー等の開催」のいずれかの支援措置を講じている事業所は全体の約8割にのぼっている。しかし、有給教育訓練休暇を設けて、外部での「自己啓発」について積極的に支援している事業所は全体の約2割にすぎない。
 また、企業によるこうした「自己啓発」の支援は、時間面での配慮を除けば、小規模の事業所ほど実施率が低くなっているなど、中小企業においては、一般的に、必要な情報や援助が得られがたい上に、こうしたコストの負担が大きいことから、自主的な職業能力開発が行われる環境の整備が遅れていると考えられる。

(4) 行政としても、「自己啓発」の推進を図るために各種の支援を行っている。具体的には、有給教育訓練休暇の付与や受講費用の援助を行う企業に対してその援助費用や賃金の一定割合などを助成する「自己啓発助成給付金制度」や、労働者に対して受講費用の一部を直接に援助する「中高年齢労働者等受講奨励金制度」等が設けられている。これらの支援制度は、現行の「自己啓発」が企業における教育訓練の一環に位置づけられる形が多いため、事業主を経由したものが中心になっているといえる(ただし、中高年齢労働者等受講奨励金は個人に対して直接的に助成を行うものであるが、40歳以上の者を対象としている。)。
 このほか、平成5年度より・ホワイトカラー職務の専門的知識の体系的かつ段階的な習得とその成果の確認を支援する「職業能力習得制度(ビジネス・キャリア制度)」が実施されており、これによりホワイトカラー個人が体系的に学習することが支援されている。

第2章 個人主導の職業能力開発を推進する意義


1 個人主導の取組が今求められる背景

 これまでの企業における職業能力の開発・向上の取組は、いわゆるOJTやジョブローテーションに特徴づけられる各種の教育訓練が中心的なものとなっているが、「自己啓発」の奨励もこうした企業内の人材育成の方策の一つとして位置づけられてきた。しかしながら、今後は、以下のような背景の下で、労働者自身の方でも、自らのキャリアや職業能力に対する関心が強くなるとともに、その資質を向上させようという二一ズが高まるものと予想され、個人の意思で積極的に自らの職業能力の開発・向上へ取り組む傾向が大きく増加していくと考えられる。
 こうした個人主導の取組は、経済社会の構造的変化に直面する中で、新たな産業創造の活路を開くとともに、このように人材面での基盤を強化することにより、新たな雇用機会創出の可能性を広げるものとしても、我が国経済社会の発展のための基盤を形成することになる。また、こうした取組を推進することは、中小企業の労働者などで学習する意欲は持ちながら種々の制約により実施できていなかった人たちにとって、新たなキャリア設計の視点に立って能力開発に向かわせる契機となる点でも大きな意義を持つものと考えられる。


(1)企業や社会が求める人材の在り方の変化

 情報化を始めとした急速な技術革新、国際化等の進展の中で、企業・産業における高付加価値化や新分野展開等の動きが進み、労働者の仕事の内容も急速に高度・複雑化ないし専門化する一方、職種転換の動きもより活発化すると見込まれる。こうした中で求められる人材としては、幅の広い高度な専門能力や創造力あるいは構想力、問題解決力などといった非定型的な職業能力が期待されてきている。これらの職業能力を持った人材の育成は、企業内の教育訓練だけでは必ずしも捉えきれないものであり、むしろ個人の資質に依存したものであることから、各人の個性に応じ自主的な職業能力開発の取組が重要になっている。

(2)企業内における個人の実力重視の傾向

 企業内においては、高付加価値化や新分野展開等の動きが活発化する一方、このような経営環境の変化に伴い、経営手法も、集団主義的なものから、労働者個人の実力を重視し、それを活用するものになってきている。一方、労働者の側にも能力や資格を活かして働きたいと考える者が多くなっており、専門能力をさらに向上させるとともに、各人の個性を活かした創造性等を錬磨することなどが、自らの評価を高めるためにも重要になっている。このため、労働者自身としても、能力開発の多様なチャンスを掴み、刺激を受けつつ、自らの資質を向上させ、さらなるキャリアアップを目指すため、自主的に職業能力開発に取り組むことが重要になってい
る。

(3)個人の就業パターンの変化

 産業構造が変化する中で出向や離転職等の増加が見込まれるが、最近の雇用情勢の中で・特に中高年齢層については、その雇用の過剰感が高まっており、企業間移動を余儀なくされる者も多い。また、勤労観やライフスタイルの変化から、自らのキャリア設計に沿って自主的な形で転職等を行う動きや、ベンチャー企業を起こすなど独立開業を目指す動きが増加することも予想される。これらの企業間の労働移動が円滑に行われるためには、キャリアや職業能力が客観的に評価され、企業を超えても通用するようなものとなることが求められるほか、起業に当たっては、起業家精神に加え新しい事業を創造する推進力となるような幅広い経営能力も必要であり、こうした職業能力の開発・向上についての個人主導の取組が重要になっている。

(4)自己実現のための職業生活に関する生涯設計への関心の高まり

 高学歴化が進む中で職業を通じての自己実現欲求が高まる一方、就業に関する価値観や意識の変化の中で、自分自身で職業生活に関する生涯設計を立てつつ、将来のキャリアについての展望を踏まえた計画的な能力開発への関心と意欲が高まっている。また、労働時間短縮によって自由時間が増大する中で、その活用を図るという観点からも、自主的な職業能力開発の活発な取組がみられる。こうした中で、社会人になる前の学歴にとらわれることなく、職業生涯を通じて、常に自らの資質を豊かにしていく機会を持ち、かつ、そうした学習歴を有効に活かしていくという意味で、個人主導の職業能力開発の取組が重要になっている。



2 個人の職業生涯の中での位置づけ

 個人主導の職業能力開発を推進する意義は多岐にわたっているが、さらに各人の勤労観や今後のキャリア設計の姿等によっても異なるものとなっている。各人の職業生涯の中での、この位置づけを類型化した形で例示すれば、概ね次のようになると考えられる。


現在の職務の円滑な遂行、さらなるキャリアアップのために専門能力を強化しようとするパターン  従来より企業内人材育成の観点から取り組まれていたものであるが、マルチメディア化への対応が急がれている一方、職務内容の高度化、専門化、多様化が進むことにより、企業経営の立場から個人の資質が重視される中で、労働者個人の立場からは一層必要になるものと予想される。
転職や出向等に備えて、企業を超えた幅広い職業能力を習得しようとするパターン  転職や出向等の企業間移動の増加が見込まれる中で、企業を超えた幅広い専門的な職業能力が着目されており、自己努力によって、その向上を図ろうとする者が増大していくものと予想される。
就業を中断した場合に、次の職業生活を豊かにするために能力を磨くパターン  育児や介護等で就業を中断したが再就職を希望する者や、登録派遣の労働者で待機中の者など、就業が中断しても自らの職業能力の保持・向上を図ろうとする動きも増加してくると予想される。
ベンチャー企業を起こすなど独立開業等を目指して準備を行うパターン  ベンチャー企業を起こすなど独立開業を目指して転身を図るため、専門能力の向上だけでなく、企業経営に必要な実践的な能力の習得を図ろうとする者のほか、マーケットや仕事創造など社内における起業を目指す者も増大していくものと予想される。
企業内での上級管理者や上級専門職としてさらにハイレベルな管理的能力や専門能力を習得しようとするパターン  従来より企業内人材育成という観点から取り組まれてきたものであるが、特に、管理的能力については非定形的な性格を持つことからも、企業等が行う画一的な教育訓練だけでは不十分であり、自主的な形で自らの能力をブラッシュアップするための能力開発が行われることが重要である。
定年退職後の再出発を目指して各人の望む働き方に必要な知識・技能等を学習するノぐターン  高齢期とりわけ定年退職後の生活に対する各労働者の二一ズは多様化しており、労働面でも他企業への再就職のみならず、ボランティア活動的なものも含め柔軟な「働き方」を求める傾向も強いことから、職業能力開発を個別の二一ズに即して進めることが重要である。

第3章 今後における個人主導の職業能力開発の推進



 今後においては、事業主や事業主団体による教育訓練の振興と公共職業能力開発施設における職業訓練や各種援助の実施と併せ、個人主導の職業能力開発への取組に対しても、より一層積極的な位置づけを与えていくことが重要になる。また、今後、独立開業への転身が増大する中にあって、新しい事業創造を図っていくことも含めた経営者として必要な能力も個人が自助努力によって培っていくものであり、こうした目的の個人主導の職業能力開発の推進を図っていくことも課題となる。さらに、個人主導の職業能力開発は自助努力を促す形で推進されることが基本となるものであり、その推進に当たっては、一定の能力開発の形を個人にあてはめるのではなく、各人が十分に自主性を発揮し、希望する形での職業能力開発を行えるよう、その選択肢をできる限り広く提供することに主眼が置かれるべきである。こうした観点から、ここで議論されている個人主導の職業能力開発を、職業能力の開発・向上に自主的に取り組むという意味において、「自主的能力開発」と呼ぶこととし、今後においては、以下のような具体的方策について検討を進め、その実現に向けての努力を求めるものである。


1 職業能力開発プラン作成に係る支援

 自主的能力開発を行うに当たっては、各人がこれまで積み重ねてきた職業能力・キャリア等を客観的に分析、把握し、それを踏まえ、独立開業する可能性も含めて将来のキャリアを設計した上で、計画的かつ体系的な職業能力開発を進めることが重要である。具体的には、以下のような方策が考えられる。
 なお、こうした職業能力の分析や将来のキャリアの設計は、転職や出向、定年退職等に際して必要になるが、これに限らず、職業生活の節目節目において逐次実施していくべきことに留意する必要がある。

(1)将来のキャリアを設計する前提として、個人の職業に関する、知識・技能、経験・経歴、適性、関心など職業能力・キャリア等について客観的に分析するとともに、その診断を行うシステムの早急な開発が求められる。この場合、特にホワイトカラーについては、その職務や仕事内容等が多岐にわたっており、必ずしも明確な形で整理されていないことから、こうした職務の実態についての調査研究を併せて推進することが求められる。

(2)個人の職業能力・キャリア等の診断結果を踏まえ、専門的、客観的な立場からキャリアカウンセリングを実施し、労働者が自ら将来のキャリアの設計を行うことを支援するとともに、必要となる職業能力開発のためのプラン作成を援助する体制の整備が求められる。また、作成されたプランに沿って必要な教育訓練が積極的に推進されるよう、各種教育訓練機関との連携に配慮することが求められる。

(3)キャリアカウンセリングは、企業において労働者の計画的かつ体系的な職業能力開発を推進する場合、また離転職に際して自らの職業能力等の再確認等が必要とされる場合も含め、あらゆる場面でその必要性が高まると予想される。このため民間の教育訓練機関などにおいても、積極的に実施されることが望ましく、キャリアカウンセリングに関する技法・ノウハウを広く提供するほか、カウンセラーの育成等を図る体制の整備が求められる。


2 職業能力開発の機会の整備・拡大

 自主的能力開発が活発に行われるためには、個人が自主性を発揮して職業能力の開発・向上に取り組むことができるよう、教育訓練に関して幅広い選択の場を用意することが重要である。具体的には、以下のような方策が考えられる。
 なお、独立して新たな企業を起こすことを目指して転身を図る者も増大することが予想されることから、経営面での能力開発も含め広範な二一ズに対応していくことが望ましい。

(1)教育訓練の講座・コースの内容をはじめ、期問、時間帯、場所、受講費用、学習方法等に関する各種の二一ズに即応しつつ、高等教育機関を含めた公共、民間の各種教育訓練機関において、多様な形で、高度かっ実務的な教育訓練コースの整備・拡大を促進することが求められる。その際、地域レベルで各種教育訓練機関等をネットワーク化すること等により、教育訓練機会の整備を図ることが望まれる。

(2)特に、ホワイトカラーについては、その職業能力開発に関する中核的な拠点となる生涯能力開発センター(仮称、平成9年度開設予定)や他の公共職業能力開発施設においても、個人が自主的に職業能力開発を行う機会として利用されるよう、産業界と共同して各企業の能力開発システムの実践的調査研究を行う一方、時間帯の設定を柔軟にするなど各種の工夫・配慮を行いつつ、各種の教育訓練コースの整備、拡充を図ることが求められる。

(3)地方においても、大都市圏に遅れることなく同じような教育訓練が受けられるよう、地域レベルでの各種の職業能力開発の機会を積極的に拡大していくほか、多様なメディアを活用しつつ在宅学習システムや通信教育、衛星通信などによる遠隔教育訓練等の手法の開発とその活用を促進し、具体化していくことが求められる。

(4)高度な専門能力の開発・向上に当たっては、実効性に配慮することが重要であり、職業能力開発と高等教育との連携や産業界との一層密接な連携も図ることが求められる。例えば、大学と公共職業能力開発施設が共同して教育を実施することや、各種の教育訓練コースに産業界の講師を起用することなどが考えられる。


3 職業能力開発に係る条件や環境の整備

 企業内や社会全体において、自主的能力開発を行うに当たっての障害が除去されるよう、教育訓練を受講するための時間の確保や費用負担の軽減など、職業能力開発に係る条件や環境を整備する必要がある。具体的には、以下のようなことが考えられる。

(1)事業主により、教育訓練のための休暇の付与が促進されることが重要であり、職業生涯の節目ごとに長期にわたる職業能力開発が可能な休暇制度の導入等の検討や、日常における教育訓練の受講が可能になるような、フレックスタイム制やシフト勤務等の勤務体制や勤務時間面での配慮など、多角度からの取組が求められる。

(2)自己啓発助成給付金や中高年齢労働者等受講奨励金等の助成措置の充実を図るほか、企業単位の助成だけでなく、財源の在り方も念頭におきつつ、個人に対する教育訓練の受講費用等の助成など労働者に直接支援する方策について、各方面で提起されている自主的能力開発を支援する税制の問題も含めて、検討することが求められる。

(3)各企業内はもとより企業外においても、自主的能力開発を積極的に取り組むことができるよう、例えば、関係図書、雑誌など幅広く職業能力開発に役立っ情報資料を身近な形で利用できるような職場環境の整備や個人ないしグループで自主的に学習が行えるよう地域の図書館や学校をはじめとした各種公共施設の活用も含めた施設、設備の酉己慮などを検討することが求められる。

(4)特に中小企業については、個人主導の職業能力開発に係る負担軽減のための援助、学習を支援するような職場環境の整備等に取り組むためのコスト負担が大きいものと考えられることから、こうした実情に配慮しつつ、コスト負担を軽減するための方策を検討することが求められる。


4 職業能力の客観的評価の推進

 個人が自ら志向するキャリアを着実に歩んでいくためには、習得された職業能力が、現在勤務している企業あるいは移動する先の企業において、適正に評価され、かつ具体的な処遇等に結びつくことが重要である。また、育児等により就業を中断した者、派遣労働など就業が断続的で一企業に依存しない就業形態の者、独立開業を目指す者等にとっては、自ら向上させた資質が社会的に適正な評価を得ることが重要である。このため、企業内はもとより社会全体でこうした職業能力の客観的な評価が行われる体制を確立する必要がある。具体的には、以下のような取組が考えられる。


(1)個人が自ら高めた職業能力が企業内で評価されるとともに、離転職等の企業間移動に際しても、それが円滑に行われるよう、職業能力・キャリアを客観的に評価するシステムの整備が求められる。特にビジネス・キャリア制度については、その拡充と活用の促進に努めることにより、ホワイトカラーの職業能力の計画的習得とその成果を確認する仕組みとして定着を図ることが求められる。

(2)習得された職業能力が企業内においても処遇に結びつくとともに、人材活用の面で十分に反映するよう、気運の醸成と事業主によって具体的な取組が図られることが求められる。ビジネス・キャリア制度についても、学習した成果が企業内の処遇に結びつくよう、例えば、モデル的利用方法の開発など企業を通じた活用方策の充実が求められる。

(3)個人が企業や社会に向けて、学歴や職歴あるいは資格のみではなく、どのように自ら能力開発(学習)を行ってきたか、あるいは具体的にどういう仕事をしてきたかなど、自分の職業能力・キャリア等に関してアピールする手段を形成することが求められる。例えば、企業の人事管理において、こうした学習歴や仕事歴について自己申告による目標管理の中で整理することやこれらの学習歴等について具体的に記載した「キャリアシート」を普及するというような方策も考えられる。

(4)国家資格制度や民間団体等で行われる各種の認定制度など職業に関する知識・技能等の評価制度について、その実態把握等を行い、これらの制度の連携化を含め、社会全体として職業能力の客観的な評価の体制が整備されるような方策を検討することが求められる。また、各企業内での職業能力の評価や資格制度の実態を把握することも併せて求められる。


5 個人に対する情報提供・相談援助の充実

 個人がその志向するキャリア設計に対応した効果的な自主的能力開発を行うに当たっては、事前に、受講する教育訓練の内容等に関して多様な選択肢が与えられている必要がある。このため、個人に対し、職業能力開発に関する多様な情報を広く提供し、あらゆるチャンネルを利用して普及を図るとともに、必要に応じて相談援助に応じる体制を整備することが重要である。具体的にこは、以下のような方策が考えられる。

(1)職業能力開発に関する情報提供・相談援助の体制については、事業主だけでなく、自主的能力開発に取り組もうとしている労働者個人も利用しやすく、その二一ズを満たせるよう、その充実強化を図ることが求められる。特に、市町村レベルまで含めて、できる限り身近な形で情報提供や相談援助が受けられるよう、担当窓口の整傭を図ることが求められる。
(2)職業能力開発に関するデータベースについては、教育訓練の講座・コースの内容・期間・時間帯・費用・実施教育訓練機関や各種援助制度等、個人が必要とする情報を一層充実するとともに、関連するデータベースを有する各種機関の連携の在り方について検討することが求められる。また、情報としては具体的な個人の取組の事例や様々な学習経験など好事例も含めた幅広い内容で提供されることが望まれる。
(3)個人がアクセスしやすく、かつ、地域の実情を踏まえたものとなるよう、能力開発情報システム(ADSS)など中央と結び付くネットワークシステムの活用だけでなく、関係機関相互の連携と協力の下に地域レベルでの情報の蓄積を図ることが求められる。また、職業能力開発の関係施設に情報窓口の設置やパソコン館、さらに今後はインダネットも含めたアクセス方法の活用など、効果的な情報提供方法の在り方を検討することも求められる。

第4章 各界の取組への期待


 個人の主導により行われる職業能力開発、すなわち「自主的能力開発」の推進については、今後の我が国経済社会の発展にとって緊急かつ重要な課題となっていることに鑑み、労働者個人のみならず、企業、労働組合、教育訓練機関、行政等関係者それぞれが、その推進に当たって大きな役割を果たすことが求められる。このため、本会議としては、各界に対し、以下のような取組を強く期待するものである。

1 労働者個人に対する期待

(1)自らの職集能力の開発・向上に向けて主体的な努力を行うこと
 職業を通じて自己実現を図るためには、個人は、企業の行う教育訓練を受動的に受けるだけではなく、主体的に職業能力の開発・向上に取り組み、生涯にわたって、自己の個性や潜在能力を開発していくための努力を行うことが重要である。

(2)自らのキャリア形成の展望に立って生涯を通じた能力開発に取り組むこと
 専門的なキャリアカウンセリングの支援を受けつつ、自らの職業能力・キャリア等を把握した上で将来のキャリア形成を展望し、そのために必要な職業能力開発を生涯を通じて計画、実施していくことが重要である。

(3)学習歴や仕事歴等も含め自らのキャリア、職業能力等をアピールすること
 個人が、自らの構想したキャリアを歩むためには、資格や学歴のみではなく、自らの学習歴、仕事歴等も含め、自らのもっているキャリア、職業能力、資質等について十分に把握、整理した上で、そのアピールに努めることが重要である。


2 企業に対する期待

(1)自主的能力開発が新しい企業経営等に果たす重要性を認識すること
 企業は、自主的能力開発が、労働者自身のキャリアアップに資するとともに、高付加価値化や新分野展開等を目指した新しい経営を担う人材の育成にとって重要かつ不可欠であり、ひいては産業社会全体の発展と構造転換に大きく寄与するものであることを認識することが重要である。

(2)時間面、費用面等の配慮など個人の取組への支援を行うこと
 企業は、自主的能力開発について労働者個人の負担を軽減するため、休暇制度の導入や勤務体制の工夫などによる時間面の配慮、受講費用の補助など費用面の配慮等、その取組への支援を行うことが重要である。

(3)自主的能力開発の成果を積極的に評価し、その動機付け等を図ること
 自主的能力開発の成果について、人事管理における自己申告制の有効な活用も含め積極的に評価を行い、処遇へ反映させることにより、さらなる能力開発への動機付け等を図ることが重要である。


3 労働組合に対する期待

(1)職業能力開発の機会が均等に提供されるよう、企業内における推進者となること
 自主的能力開発が労働者個人の自己実現に資する上での無形の資産を形成することであるという観点に立って、労働組合としても、自主的能力開発の機会が各人に均等に提供されるよう、企業内における推進者として主体的役割を果たすことが重要である。

(2)希望する能力開発の機会が選択できるよう、積極的な情報提供等を行うこと
 各人の資質向上に対する二一ズを把握しつつ、地域組織等を通じた独自の情報伝達ルートを利用するなどして、希望する職業能力開発の機会が選択できるよう、各種情報の提供を積極的に行うほか、諸援助策の周知徹底、啓発活動等に努めることが重要である。


4 教育訓練機関に対する期待

(1)各機関が相互連携し、社会人の二一ズを取り入れた能力開発機会を提供すること
 大学等の高等教育機関を含めた公共・民間の各種教育訓練機関は、相互に連携や産業界との協力を図りつつ、社会人の職業能力の開発・向上に関する各種の二一ズを取り入れ、学習しやすいような各種工夫を行った能力開発機会を広く提供することが重要である。

(2)地域レベルで、多様なメディアを活用して、能力開発機会の提供を行うこと
 地方に在住する者を含め、できるだけ多くの人々の自主的能力開発を振興するため、地域レベルにおいても、二一ズに応じた各種の能力開発機会を十分に提供することとともに、在宅学習方式や衛星通信利用等による遠隔教育訓練の手法等、多様なメディアを活用した各種の工夫が行われることが重要である。


5 行政に対する期待

(1)「キャリアシート」の普及など学習歴や仕事歴重視の気運を醸成すること

 企業における個人の能力評価に当たって、学歴や職歴よりも各人の実績としての学習歴や仕事歴が重視されるような社会の気運を醸成することにより、自主的能力開発へのインセンティブを高めることが重要である。

(2)ノウハウの提供等を通じて、キャリアカウンセリングの推進を図ること
 広くキャリアカウンセリングの推進が図られるよう、カウンセリングのノウハウの提供やカウンセラーの養成等の体制を整備するほか、関係者が共同して経験交流や相互啓発を行う体制を検討することが重要である。

(3)自主的能力開発の環境整備に向けて、個人援助も含めた総合的な支援を行うこと
 自主的能力開発が行われやすい環境の整備に向け、費用面での個人に対する直接的な援助等の検討やビジネス・キャリア制度や情報提供等の関係施策の充実など、総合的な支援を行うことが重要である。

(4)教育訓練機関等の連携により、地域レベルでの取組の推進を図ること
 地域レベルの実情に根ざした取組を推進するため、各種教育訓練機関の密接な連携を図るとともに、地方自治体が中心となって地域の教育訓練機会の整備を働きかける一方、自主的能力開発に関わる情報の整備、相談援助等の体制の充実強化が重要である。

(5)自主的能力開発の重要性についての社会的意識の高揚等を図ること
 自主的能力開発の意義、重要性について社会的意識の高揚を図るため、各種のセミナー、シンポジウムなど周知啓発活動を展開するとともに、関係行政機関、教育訓練機関等との密接な連携を図りつつ、各般の施策を推進することが重要である。



自己啓発推進有識者会議メンバー

   江頭年男  日通工椛纒\取締役社長
   江上節子  産能大学助教授
   片岡千鶴子 レジャーサービス連合 中央書記次長
   桐村晋次  古河電気工業(株)常務取締役大阪支店長
   川喜多 喬 法政大学教授
   柴田 守  日本商業労働組合連合会会長
   島田晴雄  慶応義塾大学教授
   城島正光  味の素労働組合中央執行委員長
(座長) 辻村紅太郎 日本労働研究機構会長
(副座長)平賀俊行 (財)雇用振興協会理事長
   水越さくえ (株)イトーヨーカ堂取締役
   安枝英、  同志社大学教授

  (五十音順、敬称略)