18年改正労働安全衛生法28条の2(解説)

 ■HOMEPAGE
 ■改正労働安全衛生法〔H18改正〕のすべて


18年改正労働安全衛生法
28条の2

1 事業者による自主的な安全衛生への取組を促進するための環境整備
(1)危険・有害要因の特定、低減措置の推進


〔28条の2新設のねらい〕

 ・ 重大災害の発生件数が増加傾向にある。特に、昨年夏以来、大規模製造業において爆発・火災等の重大災害が頻発した。
 ・ これらの要因の一つとして、事業場内における設備や作業の危険性・有害性の調査とそれに基づく対策の不十分さがあげられている。
 ・ 特に、生産工程の多様化・複雑化が進展するとともに、新たな機械設備・化学物質が導入されており、事業場内の危険・有害要因が多様化し、その把握が困難になっている。かかる現状においては、(*後追い的に)労働安全衛生法令の危害防止基準を遵守するだけでなく、企業が自主的に安全衛生水準を向上させるため、危険・有害要因を特定し、それぞれのリスクを評価し、これに基づきリスクの低減措置を実施するという手法を導入することが必要である。


〔改正のポイント〕

1 安全管理者を選任しなければならない業種等(注1)の事業者は、設備を新設するとき等に(注2)労働災害発生のおそれのある危険性・有害性を調査し、その結果に基づいて、これを除去・低減する措置を講ずるよう努めなければならないこととすること。

(注1)
 安全管理者を選任しなければならない業種 (事業場規模は問わない。したがって、50人未満にも適用されること。)
    『林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・什器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・什器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業』が該当すること。

(注2) リスクアセスメントの実施時期は、安規第24の11の規定により、次の時期にこれを行う必要があること。
 一 建設物を設置し、移転し、変更し、又は解体するとき。
 二 設備、原材料等を新規に採用し、又は変更するとき。
 三 作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき。
 四 前三号に掲げるもののほか、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

2 追って、リスクアセスメントの実施に係る指針の公表が予定されている。

3 派遣労働者に対しては、派遣先事業主を唯一事業主として本条の適用を行う。

4 旧安衛法58条は削除され、新28条の2に置き換えられたもの。また、本条は、事業主の努力義務規定である。



法令
説明 (19.2.24付施行通達の引用)

労働安全衛生法

第二十八条の二 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る

 厚生労働大臣は、前条第一項及び第三項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする

 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる

T 1 危険性又は有害性等の調査等(第28条の2関係)

(1) 危険性又は有害性等の調査等の実施
 近年、生産工程の多様化、複雑化が進展するとともに、新たな機械設備・化学物質が導入されており、事業場内の危険・有害要因が多様化し、その把握が困難になっている状況にかんがみ、事業者は、建設物、設備、作業等の危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるように努めなければならないこととしたものであること。

(2) 指針の公表
 (1)の措置の適切かつ有効な実施のため、厚生労働大臣が指針を公表することとしたものであること。

(3) その他
 今回の改正に併せて、改正法による改正前の労働安全衛生法(以下「旧法」という。)第58条は削除したこと。



Y 第1 1 法第28条の2に基づく危険性又は有害性等の調査等については、派遣中の労働者に関し、派遣先事業者のみが事業者としての責務を負うものとされたこと。(労働者派遣法第45条第3項関係)

  〔労働安全衛生規則〕

第二章の四 危険性又は有害性等の調査
(危険性又は有害性等の調査)
第二十四条の十一 法第二十八条の二第一項の危険性又は有害性等の調査は、次に掲げる時期に行うものとする
  建設物を設置し、移転し、変更し、又は解体するとき
  設備、原材料等を新規に採用し、又は変更するとき
  作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき
  前三号に掲げるもののほか、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき
 法第二十八条の二第一項ただし書の厚生労働省令で定める業種は、令第二条第一号に掲げる業種及び同条第二号に掲げる業種(製造業を除く。)とする
W 第1 3  危険性又は有害性等の調査等

(1) 危険性又は有害性等の調査の実施時期を定めたこと。(第24条の11第1項)

(2) 危険性又は有害性等の調査等を行うべき業種として、安全管理者を選任しなければならない業種を定めたこと。(第24条の11第2項)

W 第2 7 危険性又は有害性等の調査等(第24条の11及び第24条の12関係)

(1)調査の実施時期(第24条の11第1項関係)
 第2号の「設備」には機械、器具が含まれ、「設備、原材料等を新規に採用」することには設備等を設置することが含まれ、「変更」には設備の配置換えが含まれること。
 第3号の「作業方法若しくは作業手順を新規に採用するとき」には、建設業等の仕事を開始しようとするとき、新たな作業標準又は作業手順書等を定めるときが含まれること。
 第4号には、地震等の影響により、建設物等が損傷する等危険性又は有害性等に変化が生じているおそれがある場合が含まれること。このような場合には、当該建設物等に係る作業を再開する前に調査を実施する必要があること。
 調査については、第1号から第3号までに掲げる時期の前に十分な時間的余裕をもって実施する必要があること。また、これら変更等に係る計画等を策定する場合は、その段階において実施することが望ましいこと。

(2)対象業種(第24条の11第2項関係)
 法第28条の2第1項ただし書の業種として、安全管理者の選任義務のある業種を定めたものであること。

  〔労働安全衛生規則〕

(指針の公表)

第二十四条の十二 第二十四条の規定は、法第二十八条の二第二項の規定による指針の公表について準用する
W 第2 7 危険性又は有害性等の調査等(第24条の11及び第24条の12関係)

(3)指針の公表(第24条の12関係)
  指針を公表するに当たっての手続を規定したものであること。なお、法第58条の削除に伴い、指針の公表について規定した第34条の22を削除したこと。


*法令表記のうちアンダーライン部が、平成18年改正の行われた箇所である。





「平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」

 H18.12.27今後の労働安全衛生対策について(建議)の元となった「平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」において、本条(28条の2)に関連する記述として、次のような箇所が認められる。(労務安全情報センター記)

1.今後の労働安全衛生対策の在り方に関する検討
(1)検討の視点

・・現状をみると、労働災害は長期的に減少してきたとはいえ、労災保険の新規受給者数は今なお年間52万人を超え、そのうち重篤な休業4日以上の死傷者数は約12万6千人となっており、一度に3名以上が被災する重大災害は昭和60年以降増加傾向で推移している。さらに、「過労死」等の労災認定件数は高い水準で推移しており、化学物質等による健康障害も後を絶たない。

ウ また、昨今の社会経済情勢の変革の中で、企業においては、製品寿命の短縮、多品種少量生産の進展等に伴う生産様式の変化、業務請負等のアウトソーシングの増大、合併・分社化による組織形態の変化、企業内の組織の再編が進行し、また、労働者においては、就業形態の多様化、雇用の流動化等が進行している。このため、所属や就業形態の異なる労働者の混在が一般化し、安全配慮義務を負うべき事業者の範囲が暖味になっている。さらには世代の交代に伴い安全衛生に関わるノウハウが伝承されないことによる「現場力」(現場における人材力)の低下、安全衛生管理組織の縮小、業務の質的、量的変化による労働者の負担の増大等、労働現場における様々な変化が進行してきていると考えられる。

・・

大規模製造事業場に対する自主点検が行われた。その結果、災害発生率が高い事業場では、
(1)事業場のトップ自らによる率先した安全管理活動の実施が不十分であること
(2)事業場のトップが安全管理に必要な人員・経験や経費に不足感を持っていること
(3)下請等の協力会社との安全管理の連携や情報交換が不十分であること
(4)労使が協力して安全問題を調査審議する場である安全委員会の活動が低調であること
(5)入社後の定期的な現場労働者への再教育や作業マニュアルの見直しが不十分であること(6)設備・作業の危険性の大きさを評価し、災害を防ぐための措置を実施することが低調であること
が明らかとされた。このような問題に対応し、重大災害の確実な減少を図るためには、
(1)事業場のトップによる安全衛生方針の表明
(2)安全委員会の活性化
(3)所属元の異なる労働者が混在している事業場における関係者相互の確実な連絡調整の確保
(4)安全管理者に対する選任時等の教育の充実
(5)雇入れ時あるいは作業転換時などの労働者に対する安全教育の充実
(6)職場の危険箇所の特定・評価及びそれに基づく対策の徹底
(7)設備の適切な維持管理の確保等
に加え、所要の法令・基準・制度の整備、ガイドライン・マニュアル等の策定による災害防止対策の推進を確実に図ることが重要であるとされる報告、分析結果がとりまとめられたところである。

オ 国際的にも、EUにおける安全衛生枠組指令の策定、ILOにおける労働安全衛生マネジメントシステムに関するガイドラインの策定、ISOにおける企業の社会的責任に関するガイドラインの策定着手等、事業者の自主的取組の尊重、リスクの先取りの重視という発想に基づく動きが活発である。また、機械関係ではEU機械指令、ISO12100等が策定され、安全に設計された機械の供給という考え方が重視されるようになってきている。
リスク並びにリスクの評価及び管理(マネジメント)は、安全を扱う欧米の法令では重要な概念になっており、国内法においても医療や食品の分野ではリスク及びリスク評価の概念が存在している。

・・しかしながら、国が示しうるのは各事業場に共通するいわば最大公約数の基本的な対策であり、事業場の個々の作業を網羅するものではない。事実法令違反が認められない死亡事故も起こっている。加えて技術革新の進展により生産手段の多様化も進んでいる。
事業者は法令に定められた措置を実施するだけでなく、事業場個別の特性に応じて安全衛生対策を講ずる必要がある。国はその努力を支援しなければならない。
また、労働災害を減少させていく上で労働者の役割も重要である。労働災害で最大の被害を被るのは労働者当人であり、また、労働災害の危険を予知しやすい立場にいる。労働安全衛生法においても労働者の責務が定められているが、その中心は事業者の講ずる措置に対する対応義務に限られている。労働者の安全意識を高め、労働者も主体的、かつ、積極的に労働災害の防止活動に参加することが望まれる。

ク 事業者の自主的な安全衛生対策を推進するためには事業場の労使で構成する安全衛生委員会の役割は重要である。職場の安全衛生に関わる労使が「労働者の危険を防止するための基本となるべき対策に係ること」等を審議することにより、労使双方の労働災害防止に対する意識が高まることが期待される。

ケ 今までの労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するために最低限必要な措置につき法令で定め、その遵守を図ることを基本として法の仕組みが組み立てられている。この仕組みを維持しつつ、今一度労働災害の大幅な減少を実現するために、労働安全衛生法の基本的な考え方を、後追い的に個別の予防対策を追加していく手法から先取り的に予防対策を導入する手法に転換し、事業者が積極的に自ら危険・有害な状況を把握し、その除去・低減を図ることとする制度的な環境整備が重要である。事業者の自主的な活動が十分充実していれば、さらに国が施設・設備の設置計画等につき事前チェックを行ったり直接事業場を指導する必要性も減少し、安全衛生水準に問題のある中小企業等に対して、安全衛生行政の活動を強化することも可能となろう。・・


3.今後の安全衛生対策の在り方(提言)
ア 危険・有害要因の特定、低減措置等の推進

(ア)職場における危険・有害性の調査等の推進

 労働災害による被災者は今なお52万人を超え、重大災害は増加している。特に、昨年来、大規模製造業での爆発火災、一酸化炭素ガスの漏出、建設業での解体作業中の倒壊災害等の重大災害が社会の注目を集めた。これらの要因のひとつとして、事業場内における危険・有害性の調査とそれに基づく対策が十分でなかったことがあげられる。また、製品寿命の短縮、多品種少量生産等に伴い、生産工程の多様化、複雑化が進展するとともに、新たに有害な化学物質が導入されており、事業場内の危険・有害要因は多様化し、その把握が困難となっていることが懸念される。
 このような状況下において、労働安全衛生法令に規定される最低基準としての危害防止基準を遵守しつつ、さらに企業が自主的に安全衛生水準を向上させていく上で、危険・有害要因を特定し、これに基づきリスクを評価し、リスクの低減措置を検討するリスクアセスメントを実施することが効果的である。
大規模製造事業場に対する自主点検結果やOSHMS促進協議会の調査等によれば、リスクアセスメントを基本とする手法を導入している事業場は、導入していない事業場と比較すると、災害の発生率は相当に低くなっており、労働災害防止に効果が上がっているという結果が得られている。
 また、第10次の労働災害防止計画においてもリスクを低減させる安全衛生管理手法の展開が基本方針として示されている。
 このため、昨年来の爆発、火災災害の頻発及びこれに繋がる重大災害の増加傾向を抑制し、労働災害を一層減少させるため、重大災害が頻発した工業的業種等の事業場においては、事業者が危険・有害要因の特定、リスクの評価等を行う危険・有害性の調査に取り組む仕組みを確立することが必要である。
 また、その際、危険・有害性の調査結果に関する安全衛生委員会における調査審議等、現在各事業場で確立している既存の安全衛生管理体制を最大限活用することがこの仕組みの円滑な実施のために必要である。

(イ)機械に関するリスクアセスメント

 事業場内の機械の使用段階における労働災害を防止するためには、製造段階であらかじめリスクアセスメントを実施し、リスクを低減した上で、残存リスクの情報を機械の使用者に提供するプロセスを確立することが必要である。そのために、既にグローバルスタンダード化しているISO12100の考え方に則った「機械の包括的な安全基準」の実効性を高めるための仕組みを導入することが必要である。


(最終更新日-H18.3.18 労務安全情報センター)