18年改正労働安全衛生法30条の2(解説)

 ■HOMEPAGE
 ■改正労働安全衛生法〔H18改正〕のすべて


18年改正労働安全衛生法
30条の2

2 元方事業者等を通じた安全衛生管理体制の実現
(2)元方事業者による混在作業現場における安全衛生管理の実施


〔30条の2新設のねらい〕

1 製造業等においては、構内下請の増加により、元方事業者(自らも仕事を行う最先次の注文者)及び請負人の労働者の混在作業が増大(注1)するにしたがって、はさまれ、激突等の労働災害が発生している。その原因は、元方事業者と請負人との間又は請負人相互間の連絡調整を十分に行わなかったことに帰する例が少なくない。
 このため、製造業等の業種に属する事業の元方事業者が、作業間の連絡調整など一定の措置を講ずることが必要である。

(注1) アウトソーシングが進行しており、製造業等において、同一の場所において指揮命令系統の異なる労働者が混在して作業をすることが増えている(労働政策審議会「建議」)。所属や就業形態の異なる労働者の混在が一般化している(平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書)

2 連絡調整不備に起因する災害事例として、例えばつぎのようなものがある。

災害事例 必要な措置
業種:食料品製造業
 台車を押していた構内下請事業場の労働者Aが親会社の労働者Bが運転するフォークリフトと正面から衝突し坑内下請事業場の労働者Aが死亡した。
 災害発生箇所は、作業者が台車を押して部品等を運ぶ通路であるとともに、フォークリフトが走行する通路でもあった。
 台車運搬作業に従事する下請事業者の労働者について、親会社の労働者が運転するフォークリフトとの接触による危険を防止するため、親会社(元方事業者)がフォークリフト及び台車の運搬経路並びに各作業時間を制限する等の措置を講じること。
業種:鉄鋼業
 天井クレーンの集電装置が走行トロリ線から外れたため、構内下請事業場の労働者Aに電源を遮断させた上これを修理させた。親会社の労働者Bが試運転を行うため通電したところ、作業デッキ内にてまだ修理作業を行っていた構内下請事業場の労働者Aが感電し死亡した。
 機械等の復旧作業と試運転などの操作が異なる事業者に所属する労働者によって同時に行われる場合は、親会社が請負事業者に対し、機械にはさまれる危険、通電によって感電する危険等を防止するため、主電源の遮断、起動装置の施錠、危険の及ぶおそれのある区域での作業の制限、関係者以外の立入り禁止等の措置を講じること。
業種:窯業・土石製品製造業
 工場の天井クレーンの検査前点検作業を請け負った構内下請事業場の労働者Aが、クレーンのガータ上において、走行ブレーキの点検及び調整を行っていたところ、親会社の労働者で当該点検作業を行っていた作業指揮者Bが、別の下請事業場の労働者でクレーン運転士Cに対してクレーンの横行を指示したため、クレーンクラブが横行し構内下請事業場の労働者Aがクラブ部と走行ブレーキ装置の間に挟まれ死亡した。
業種:輸送用機械器具製造業
 (動力)プレスを用いて材料を加工中に、プレスが停止したので、構内下請事業場の労働者Aがプレスと材料供給台の間に設けられていた柵の扉を開けその中に立ち入り、挟まった材料を取り除き、一旦、プレスから離れた。これを見た親会社の労働者Bがプレスを再起動させたところ、構内下請事業場の労働者Aがプレスに組込まれた材料供給装置に背中を打撃され死亡した。


〔改正のポイント〕

1 製造業等の業種に属する事業の元方事業者について、混在作業によって生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡調整、合図の統一等必要な措置を講じなければならないこととした。

法令
説明 (19.2.24付施行通達の引用)
労働安全衛生法

第三十条の二 製造業その他政令で定める業種に属する事業(特定事業を除く。)の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならない
 前条第二項の規定は、前項に規定する事業の仕事の発注者について準用する。この場合において、同条第二項中「特定元方事業者」とあるのは「元方事業者」と、「特定事業の仕事を二以上」とあるのは「仕事を二以上」と、「前項」とあるのは「次条第一項」と、「特定事業の仕事の全部」とあるのは「仕事の全部」と読み替えるものとする
 前項において準用する前条第二項の規定による指名がされないときは、同項の指名は、労働基準監督署長がする
 第二項において準用する前条第二項又は前項の規定による指名がされたときは、当該指名された事業者は、当該場所において当該仕事の作業に従事するすべての労働者に関し、第一項に規定する措置を講じなければならない。この場合においては、当該指名された事業者及び当該指名された事業者以外の事業者については、同項の規定は、適用しない


T 2 製造業等の元方事業者等の講ずべき措置(第30条の2関係)

(1) 第1項の「一の場所」の範囲
  「一の場所」の範囲については、昭和47年9月18目付け基発第602号Iの7の(2)と同様であること。
  なお、これを化学工業関係、鉄鋼業関係、自動車製造業関係について例示すれば、次のように考えられること。
  ア 化学工業関係
     製造施設作業場の全域、用役(ユーティリティ)施設作業場の全域、入出荷施設作業場の全域
     又は化学工業事業場の全域
  イ  鉄鋼業関係
     製鋼作業場の全域、熱延作業場の全域、冷延作業場の全域
     又は製鉄所の全域
  ウ  自動車製造業関係
     プレス・溶接作業場の全域、塗装作業場の全域、組立作業場の全域
     又は自動車製造事業場の全域
(2) 第1項の「その他政令で定める業種」は、定められていないこと。
(3) 第1項の「作業間の連絡及び調整」とは、混在作業による労働災害を防止するために、次に掲げる一連の事項の実施等により行うものであること。
  @ 各関係請負人が行う作業についての段取りの把握
  A 混在作業による労働災害を防止するための段取りの調整
  B Aの調整を行った後における当該段取りの各関係請負人への指示

(4) 第2項及び第4項の規定は、第30条第2項及び第4項と同様、いわゆる分割発注等の場合にみられるように、同一の場所において相関連して行われる一の仕事が二以上の請負人に分割して発注され、かつ、発注者自身は当該仕事を自ら行わない場合について規定したものであること。
(5) 第3項の規定により労働基準監督署長が指名を行う場合は、昭和47年9月18目付け基発第602号の別紙様式第2号と同様の様式により行うこと。この場合において指名の対象となる事業者は原則として安衛則第643条の7において準用する第643条第1項各号のいずれかに該当する者のうちから選定すること。

Y 第1 1 法第30条の2に基づく製造業等の元方事業者等の講ずべき措置については、派遣中の労働者に関し、派遣先事業者のみが事業者としての責務を負うものとされたこと。(労働者派遣法第45条第3項関係)


 

〔労働安全衛生規則〕

(作業間の連絡及び調整)
第六百四十三条の二 第六百三十六条の規定は、法第三十条の二第一項の元方事業者(次条から第六百四十三条の六までにおいて「元方事業者」という。)について準用する。この場合において、第六百三十六条中「第三十条第一項第二号」とあるのは、「第三十条の二第一項」と読み替えるものとする

 

W 第2 22 製造業等の元方事業者等の講ずべき措置(第643条の2から第643条の7まで関係)

(1) 法第30条の2第1項の元方事業者が講ずべき、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置の内容を、特定元方事業者が講ずべき措置に準じて規定したこと。なお、特定元方事業者に係る第640条第1項第2号に掲げる場所並びに第642条第1項第3号及び第5号に掲げる場合については、法第30条の2第1項の元方事業者においては想定されないことから、これらに相当する規定を設けていないこと。(第643条の2から第643条の6まで関係)

(2) (1)の措置に応じて請負人が講ずべき措置の内容を規定したこと(第643条の3第2項、第643条の4第2項及び第3項、第643条の5第2項、第643条の6第2項及び第3項関係)。

 

〔労働安全衛生規則〕

 (クレーン等の運転についての合図の統一)
第六百四十三条の三
 第六百三十九条第一項の規定は、元方事業者について準用する。
 第六百三十九条第二項の規定は、元方事業者及び関係請負人について準用する
 



(事故現場の標識の統一等)
第六百四十三条の四 元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われる場合において、当該場所に次の各号に掲げる事故現場等があるときは、当該事故現場等を表示する標識を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない
  有機則第二十七条第二項本文の規定により労働者を立ち入らせてはならない事故現場
  電離則第三条第一項の区域、電離則第十五条第一項の室、電離則第十八条第一項本文の規定により労働者を立ち入らせてはならない場所又は電離則第四十二条第一項の区域
  酸欠則第九条第一項の酸素欠乏危険場所又は酸欠則第十四条第一項の規定により労働者を退避させなければならない場所
 元方事業者及び関係請負人は、当該場所において自ら行う作業に係る前項各号に掲げる事故現場等を、同項の規定により統一的に定められた標識と同一のものによつて明示しなければならない
 元方事業者及び関係請負人は、その労働者のうち必要がある者以外の者を第一項各号に掲げる事故現場等に立ち入らせてはならない


(有機溶剤等の容器の集積箇所の統一)
第六百四十三条の五 第六百四十一条第一項の規定は、元方事業者について準用する
 第六百四十一条第二項の規定は、元方事業者及び関係請負人について準用する



  
(警報の統一等)
第六百四十三条の六 元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われるときには、次の場合に行う警報を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない
  当該場所にあるエックス線装置に電力が供給されている場合
  当該場所にある電離則第二条第二項に規定する放射性物質を装備している機器により照射が行われている場合
  当該場所において火災が発生した場合
 元方事業者及び関係請負人は、当該場所において、エックス線装置に電力を供給する場合又は前項第二号の機器により照射を行う場合は、同項の規定により統一的に定められた警報を行わなければならない。当該場所において、火災が発生したこと又は火災が発生するおそれのあることを知つたときも、同様とする
 元方事業者及び関係請負人は、第一項第三号に掲げる場合において、前項の規定により警報が行われたときは、危険がある区域にいるその労働者のうち必要がある者以外の者を退避させなければならない




(法第三十条の二第一項の元方事業者の指名)
第六百四十三条の七 第六百四十三条の規定は、法第三十条の二第二項において準用する法第三十条第二項の規定による指名について準用する。この場合において、第六百四十三条第一項第一号中「第三十条第二項の場所」とあるのは「第三十条の二第二項において準用する法第三十条第二項の場所」と、「特定事業(法第十五条第一項の特定事業をいう。)の仕事」とあるのは「法第三十条の二第一項に規定する事業の仕事」と、「建築工事における躯(く)体工事等当該仕事」とあるのは「当該仕事」と、同条第二項中「特定元方事業者」とあるのは「元方事業者」と読み替えるものとする

W 第1 8 元方事業者による連絡調整等

  法第30条の2第1項の元方事業者は、随時、同項の元方事業者と関係請負人との聞及び関係請負人相互間における連絡及び調整を行わなければならないものとす るとともに、特定元方事業者の講ずべき措置に準じて、合図、標識、警報を統一し、関係請負人に周知させなければならないものとしたこと。(第643条の2から第643条の7まで)

*法令表記のうちアンダーライン部が、平成18年改正の行われた箇所である。




「平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」

 H18.12.27今後の労働安全衛生対策について(建議)の元となった「平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」において、本条(30条の2)に関連する記述として、次のような箇所が認められる。(労務安全情報センター記)

2.職場における安全衛生をめぐる現状

(4)労働者を取り巻く社会経済情勢の変化
 
 イ 所属等の異なる労働者の混在の進行

 業務請負等のアウトソーシングの増大、合併・分社化による組織形態の変化、企
業内の組織の再編や、就業形態の多様化、雇用の流動化等が進行していることにより、所属や就業形態の異なる労働者の混在が一般化している。
 総務省事業所・企業統計調査によれば、派遣・請負労働者数は平成8年に192万人であったが、5年後の平成13年には216万人と12.5%増加している。製造業に限ってみれば49万人から63万人と28.6%の大幅な増加となっており、業務請負等として働く労働者の数は大きく伸びている。
 また、派遣・下請のいる事業所でみても、平成8年に21万7千事業所であったものが23万9千事業所と、9.8%の増加となっている。製造業については、3万8千事業所から4万事業所に5.1%増加している。
 分社化についても、分社化により設立された企業数は、平成10年から11年及び平成12年から13年にはそれぞれ約2,000に達しており、平成8年から9年にかけて設立された企業数の2倍以上となっている。製造業についてみると、分社化により設立された企業数は平成10年から11年及び平成12年から13年は330前後で推移し、全産業と同様に平成8年から9年にかけて設立された企業数の2倍以上となっている。



3.今後の安全衛生対策の在り方(提言)
(2)元方等を通じた安全衛生管理体制の実現

 イ 元方事業者による安全衛生対策の調整

 事業運営においてアウトソーシングが進行しており、製造業等において、同一の場所において指揮命令系統の異なる労働者が混在して作業をすることによる危険が増大することが懸念されている。
 大規模製造事業場に対する自主点検結果によれば、作業間の連絡調整が十分になされていない場合等には災害の発生率が高くなっていることから、同一の作業場所において元方事業者と請負事業者が作業を行う場合には、同一作業場で作業する労働者について、一元的に連絡調整等の安全衛生管理を行う統括的な管理を行うべきであり、その主体は元方・請負の契約関係から元方事業者であることが適当である。
 特に製造業等においては、元方事業者が請負事業者との間でより緊密な連携を図り、労働災害の発生を防止するための対策を講じることが必要である。

〔最終更新日-H18.3.30 労務安全情報センター〕