18年改正労働安全衛生法66条の8、9、66条の5、13条、104条(解説)

 ■HOMEPAGE
 ■改正労働安全衛生法〔H18改正〕のすべて


18年改正労働安全衛生法
過重労働による健康障害防止及びメンタルヘルスの対策

66条の8 
長時間労働者に対する面接指導制度の整備
66条の9 
66の8-1による面接指導を行う労働者以外の労働者への配慮
66条の5 
健康診断実施後の措置
13条 
産業医の職務の追加
104条 
面接指導の実施に従事した者の秘密保持義務



〔過重労働による健康障害防止対策関係〜66条8、66条の9、66条の5、13条、104条の新設又は改正のねらい〕

1,2 労働者に長時間の時間外労働など過重な労働をさせたことにより疲労が蓄積している場合には、脳・心臓疾患発症のリスクが高まるとされていることから、このような状況となった労働者の迅速な把握が不可欠であり、また、その健康の状態を把握し、〔適正な労働時間管理と健康管理等の〕適切な措置を講じるようにするため、医師が直接労働者に面接すること及び健康確保上の指導を行うことを制度化すべきである。あわせて、過重負荷となる要因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組を行うことが期待される。
  なお、この面接指導を受けない労働者であっても、事業者は、長時間にわたる労働により疲労の蓄積が認められ又は労働者自身が健康に不安を感じた労働者であって申出を行った労働者及び事業場で定めた基準に該当する労働者に対して、面接指導に準ずる措置等必要な措置を行うよう努めるべきである。(66条の8、66条の9関係)

3 健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置
  労働者の健康管理については、現行労働安全衛生法において、脳・心臓疾患に関連する項目も含む健康診断の実施とその結果についての医師からの意見聴取、健康診断実施後の措置、保健指導等を確実に実施することが事業者の責務とされている。これらの事項は、労働者の健康状況に応じた措置として健康管理の基本となるものであり、この徹底が先ず重要である。また、これらの措置の適切な実施の促進を図るために、今後、健康診断結果の的確な判断基準、健康診断の事後措置に係る情報提供等を進めることが必要である。(66条の5関係)

4 産業医の職務の追加
  「面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置」について、産業医の職務として位置づけを明確にする。(13条関係)

5 面接指導の実施に従事した者の秘密保持義務を規定する必要があること。(104条関係)



〔改正等のポイント〕

1 長時間労働者に対する面接指導制度の整備
 (1) 事業者は、1週当たり40時間を超えて行う労働が1月当たりで100時間を超え、疲労の蓄積が認められる者であって、面接指導に係る申出を行った者に対し、医師による面接指導を行うとともに、その結果に応じた措置を講じなければならないこと。(66条の8関係)
 (2) 労働者は事業者が行う面接指導を受けなければならないこと。ただし、事業者の指定した医師による面接指導を希望しない場合、他の医師による面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができること。(66条の8関係)

2 66の8-1による面接指導を行う労働者以外の労働者への配慮
  1(1)の面接指導を受けない労働者であっても、事業者は、長時間にわたる労働により疲労の蓄積が認められ又は労働者自身が健康に不安を感じた労働者であって申出を行った労働者及び事業場で定めた基準に該当する労働者に対して、面接指導に準ずる措置等必要な措置を行うよう努めることとすること。(66条の9関係)

3 健康診断実施後の措置
  過重労働による健康障害防止対策が、衛生委員会の調査審議事項として追加された。(66条の5関係)

4 産業医の職務の追加
  産業医の職務として、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することが追加された。(13条関係)

5 面接指導の実施に従事した者の秘密保持義務が規定されたこと。(104条関係)


66条の8 長時間労働者に対する面接指導制度の整備

法令
説明 (19.2.24付施行通達の引用)
労働安全衛生法

(面接指導等)
第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない
 労働者は、前項の規定により事業者が行う面接指導を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合において、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない
 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項及び前項ただし書の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない
 事業者は、第一項又は第二項ただし書の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない
 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない









T 7 面接指導(第66条の8、第66条の9関係)

(1) 面接指導(第66条の8関係)
 ア 第1項関係
 (ア) 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)の発症が長時間労働との関連性が強いとする医学的知見を踏まえ、これら疾病の発症を予防するため、医師による面接指導を実施すべきこととしたものであること。また、労災認定された自殺事案をみると長時間労働であった者が多いことから、面接指導の実施の際には、うつ病等のストレスが関係する精神疾患等の発症を予防するためにメンタルヘルス面にも配慮すること。
 (イ) 面接指導を実施する医師としては、産業医、産業医の要件を備えた医師等労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師が望ましいこと。
 (ウ) 面接指導の費用については、法で事業者に面接指導の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること。
 (エ) 面接指導を受けるのに要した時間に係る賃金の支払いについては、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、面接指導を受けるのに要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。
 (オ) 派遣労働者に対する面接指導については、派遣元事業主に実施義務が課せられるものであること。なお、派遣労働者の労働時間については、実際の派遣就業した日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間について、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)第42条第3項に基づき派遣先が派遣元事業主に通知することとなっており、面接指導が適正に行われるためには派遣先及び派遣元の連携が不可欠であること。

 イ 第4項関係
 (ア) 医師の意見聴取については、面接指導を実施した医師から、面接指導の結果報告に併せて意見を聴取することが適当であること。なお、地域産業保健センターの医師により面接指導を実施した場合は、事業者は当該医師から意見を聴取すること。
 (イ) 面接指導を実施した医師が、当該面接指導を受けた労働者の所属する事業場で選任されている産業医でない場合には、面接指導を実施した医師からの意見聴取と併せて、当該事業場で選任されている産業医の意見を聴取することも考えられること。

 ウ 第5項関係

 (ア) 面接指導実施後の措置の例として、医師の意見の衛生委員会等又は労働時間等設定改善委員会への報告を規定した趣旨は、Iの5と同様であること。
  また、衛生委員会等又は労働時間等設定改善委員会への医師の意見の報告に当たっては、医師からの意見は個人が特定できないように集約・加工するなど労働者のプライバシーに適正な配慮を行うことが必要であること。
 (イ) 特にメンタルヘルス不調に関し、面接指導を受けた結果として、事業者が労働者に対して不利益な取扱いをすることがあってはならないこと。
 (ウ) 事業者は、面接指導により労働者のメンタルヘルス不調を把握した場合は、必要に応じ精神科医等と連携を図りつつ対応することが適当であること。



Y 第2 法第66条の8に基づく面接指導等については、派遣中の労働者に関し、派遣元事業者のみが事業者としての責務を負うものとされたこと。

〔附則〕

 (新労働安全衛生法第六十六条の八等の適用に関する特例
第二条 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)から平成二十年三月三十一日までの間における第一条の規定による改正後の労働安全衛生法(以下「新労働安全衛生法」という。)第六十六条の八及び第六十六条の九の規定の適用については、新労働安全衛生法第六十六条の八第一項及び第六十六条の九中「事業者は」とあるのは、「事業者は、その事業場の規模が第十三条第一項の政令で定める規模に該当するときは」とする
T 7 面接指導(第66条の8、第66条の9関係)

(3) 小規模事業場における面接指導等(改正法附則第2条関係)

  常時50人以上の労働者を使用する事業場以外の事業場については、平成20年3月31日までの間は、法第66条の8の適用はないこと。
  しかしながら、平成20年3月31日までの間、これらの事業場についても、長時間労働による健康障害を防止するため、地域産業保健センターを活用すること等により面接指導等を実施するとともに、その結果に基づく措置を講ずることが適当であること。

 

〔労働安全衛生規則〕

第一節の三 面接指導等

(面接指導の対象となる労働者の要件等)
第五十二条の二 法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり百時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。ただし、次項の期日前一月以内に面接指導を受けた労働者その他これに類する労働者であつて面接指導を受ける必要がないと医師が認めたものを除く
 前項の超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない

W 第1 5 面接指導等

(1) 面接指導の対象となる労働者の要件を、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとしたこと。ただし、期日前1月以内に面接指導を受けた労働者その他これに類する者で、面接指導を受ける必要がないと医師が認めたものを除くこととしたこと。(第52条の2第1項)
(2) (1)の時間の算定に当たっては、毎月1回以上、一定の期日を定めてこれを行わなければならないものとしたこと。(第52条の2第2項)


W 第2 12 面接指導(第52条の2から第52条の7まで関係)

(1) 面接指導の対象者となる労働者の要件等(第52条の2関係)
 ア 第1項の「休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合に おけるその超えた時間」(以下「時間外・休日労働時間」という。)について、1月当たりの時間外・休日労働時間の算定は、次の式により行うこと。

1か月の総労働時間数(労働時間数+延長時間数+休日労働時間数) −(計算期間(1か月間)の総暦目数/7)×40

  この算定方法は、特例措置対象事業場(週44時間労働制)、変形労働時間制やフレックスタイム制を採用している事業場についても同様であること。
 イ 専門業務型裁量労働制及び企画業務型裁量労働制の適用を受ける労働者については、使用者が健康・福祉確保措置を行うに当たって把握されている「労働時間の状況」を基に、事業場ごとに取り決めた方法により、時間外・休日労働時間を把握すること。
 ウ イに掲げるもののほか、管理・監督の地位にある者等労働時間等に係る規定の適用について特段の定めのある労働者については、労働者自らが「時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積があると認められる」と判断し、第52条の3の規定による申出があった場合に面接指導を実施すること。
 エ 時間外・休日労働時間の時間数について、事業者の把握している時間数と第52条の3に基づく申出を行った労働者の把握している時間数との間に差異があり、かつ、その確定に時間を要する場合においては、健康確保の観点から、まずは面接指導を実施することが望ましいこと。
 オ 第1項の「疲労の蓄積」は、通常、他者には認知しにくい自覚症状として現れるものであることから、第52条の3に基づく申出の手続をとった労働者については、「疲労の蓄積があると認められる者」として取り扱うものであること。
 カ 第1項の「これに類する労働者」には、医師による診察の結果、健康診断の 結果、過去の面接指導の結果、疲労蓄積度のチェックリストの結果等に基づき、医師が健康上問題がないと認めた労働者が含まれること。
 キ 第2項の「一定の期日」は事業場の判断により定めるものであり、例えば、事業場における賃金締切日が考えられること。


 

〔労働安全衛生規則〕

(面接指導の実施方法等)
第五十二条の三
 面接指導は、前条第一項の要件に該当する労働者の申出により行うものとする。
 前項の申出は、前条第二項の期日後、遅滞なく、行うものとする。
事業者は、労働者から第一項の申出があつたときは、遅滞なく、面接指導を行わなければならない。
 産業医は、前条第一項の要件に該当する労働者に対して、第一項の申出を行うよう勧奨することができる

W 第1 5 面接指導等

(3) 面接指導は、(1)の要件に該当する労働者の申出により行うものとしたこと。(第52条の3第1項)

(4) 産業医による申出の勧奨、面接指導における確認事項、結果の記録、書類の保存、医師の意見聴取手続等について規定したこと。(第52の3第2項から第52条の7まで)



W 第2 12 面接指導(第52条の2から第52条の7まで関係)

(2) 面接指導の実施方法等(第52条の3関係)

 ア 必要な労働者に対し、確実に面接指導を実施することができるよう、月100時間を超える時間外・休日労働をさせた事業場又はそのおそれのある事業場等においては、
  @ 労働者が自己の労働時間数を確認できる仕組みの整備
  A 申出様式の作成、申出窓口の設定など申出手続を行うための体制の整備
  B 労働者に対する体制の周知を図ること。
  なお、これらについては、衛生委員会等において調査審議すること。この調査審議の際には、申出を行うことによる不利益な取扱いが行われることがないようにすることなど、申出がしやすい環境となるよう配慮すること。
 イ 第1項の申出は、労働者が面接指導を受ける旨を申し出るものであるが、確実に面接指導を実施するためには、当該申出の際に、労働者の希望する面接指導の実施目時、場所その他面接指導を実施するに当たり配慮を求める事項等についても申し出ることが考えられること。また、労働者が事業者の指定する医師以外の医師の面接指導を受けることを希望する旨についても、この申出の際に併せて申し出る取扱いとすることも可能であること。なお、申出の際に労働者の希望する医師についても申し出るようにすることとし、当該医師を事業者が指定することも考えられること。
 ウ 第1項の申出は書面や電子メール等で行い、事業者は、その記録を残すようにすること。
 エ 第2項の「遅滞なく」とは、概ね1月以内をいうこと。
 オ 第3項の「遅滞なく」とは、申出後、概ね1月以内をいうこと。
 カ 家族や職場の周囲の者が労働者の不調に気付くことも少なくないことから、プライバシーの保護に留意しつつ、事業者は、家族や周囲の者から相談・情報を受けた場合に、必要に応じて当該労働者に面接指導を受けるように働きかけるなどの仕組みを整備することが望ましいこと。
 キ 第4項に基づき、産業医が労働者に確実に申出の勧奨を行うことができるよう、事業者は、産業医に対して、時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超えた労働者に関する作業環境、労働時間、深夜業の回数及び時間数等の情報を提供することが望ましいこと。また、勧奨の方法として、(1)産業医が、健康診断の結果等から脳・心臓疾患の発症リスクが長時間労働により高まると判断される労働者に対して、第52条の2に該当した場合に申出を行うことをあらかじめ勧奨しておくことや、(2)上記カと同様に家族や周囲の者からの相談・情報を基に産業医が当該労働者に対して申出の勧奨を行うことも考えられること。
 ク 事業場において、時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超えた労働者全員に対して面接指導を実施することとした場合については、対象者全員に対して面接指導の実施について通知等を行い、これに対して労働者が申込みを行った場合や現に面接指導を受けに来たことをもって申出を行ったものとみなすことができること。なお、この場合、対象者全員に通知等を行ったにもかかわらず、面接指導を受けなかった労働者については、申出がなかったものとして差し支えないこと。


  〔労働安全衛生規則〕

(面接指導における確認事項)
第五十二条の四
 医師は、面接指導を行うに当たつては、前条第一項の申出を行つた労働者に対し、次に掲げる事項について確認を行うものとする
  当該労働者の勤務の状況
  当該労働者の疲労の蓄積の状況
  前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況



(労働者の希望する医師による面接指導の証明)
第五十二条の五
 法第六十六条の八第二項ただし書の書面は、当該労働者の受けた面接指導について、次に掲げる事項を記載したものでなければならない
  実施年月日
  当該労働者の氏名
  面接指導を行つた医師の氏名
  当該労働者の疲労の蓄積の状況
  前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況

W 第2 12 面接指導(第52条の2から第52条の7まで関係)

(3) 労働者の希望する医師による面接指導の証明(第52条の5関係)
  事業者に提出する面接指導の結果の証明に記載すべき事項については、医師が面接指導を通じて知り得た労働者の状況について、健康情報留意事項通達に基づき、必要に応じて適切に判断する必要があること。特に第5号の心身の状況については、必ずしも疾病名等の状況を記載すべき趣旨ではないこと。


  〔労働安全衛生規則〕

(面接指導結果の記録の作成)
第五十二条の六
 事業者は、面接指導(法第六十六条の八第二項ただし書の場合において当該労働者が受けた面接指導を含む。次条において同じ。)の結果に基づき、当該面接指導の結果の記録を作成して、これを五年間保存しなければならない。
 前項の記録は、前条各号に掲げる事項及び法第六十六条の八第四項の規定による医師の意見を記載したものでなければならない

W 第2 12 面接指導(第52条の2から第52条の7まで関係)

(4) 面接指導結果の記録の作成(第52条の6関係)
  第1項の面接指導結果の記録は、第2項の事項が記載されたものであれば、面接指導を実施した医師からの報告をそのまま保存することで足りること。

  〔労働安全衛生規則〕

(面接指導の結果についての医師からの意見聴取)
第五十二条の七
 面接指導の結果に基づく法第六十六条の八第四項の規定による医師からの意見聴取は、面接指導が行われた後(法第六十六条の八第二項ただし書の場合にあつては、当該労働者が面接指導の結果を証明する書面を事業者に提出した後)、遅滞なく行わなければならない

W 第2 5 面接指導等

(4) 産業医による申出の勧奨、面接指導における確認事項、結果の記録、書類の保存、医師の意見聴取手続等について規定したこと。(第52条の3第2項から第52条の7まで)

W 第2 12 面接指導(第52条の2から第52条の7まで関係)

(5) 医師からの意見聴取(第52条の7関係)
  意見聴取は遅滞なく行われる必要があるが、遅くとも面接指導を実施してから概ね1月以内に行うこと。なお、労働者の健康状態から緊急に事後措置を講ずべき必要がある場合には、可能な限り速やかに行われる必要があること。


66条の9 66の8-1による面接指導を行う労働者以外の労働者への配慮

法令
説明・解釈
労働安全衛生法

第六十六条の九 事業者は、前条第一項の規定により面接指導を行う労働者以外の労働者であつて健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければならない


T 7 面接指導(第66条の8、第66条の9関係)

(2) 必要な措置(第66条の9関係)
  面接指導の対象となる労働者以外の労働者であっても、脳・心臓疾患の発症の予防的な意味を含め、健康への配慮が必要なものに対して、第66条の8第1項から第5項までの措置に準じた必要な措置を講ずるよう事業者に努力義務を課すものであること。




Y 第2 第66条の9に基づく面接指導等については、派遣中の労働者に関し、派遣元事業者のみが事業者としての責務を負うものとされたこと。

〔附則〕

 (新労働安全衛生法第六十六条の八等の適用に関する特例
第二条 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)から平成二十年三月三十一日までの間における第一条の規定による改正後の労働安全衛生法(以下「新労働安全衛生法」という。)第六十六条の八及び第六十六条の九の規定の適用については、新労働安全衛生法第六十六条の八第一項及び第六十六条の九中「事業者は」とあるのは、「事業者は、その事業場の規模が第十三条第一項の政令で定める規模に該当するときは」とする

T 7 面接指導(第66条の8、第66条の9関係)

(3) 小規模事業場における面接指導等(改正法附則第2条関係)

  常時50人以上の労働者を使用する事業場以外の事業場については、平成20年3月31日までの間は、法第66条の8の適用はないこと。
  しかしながら、平成20年3月31日までの間、これらの事業場についても、長時間労働による健康障害を防止するため、地域産業保健センターを活用すること等により面接指導等を実施するとともに、その結果に基づく措置を講ずることが適当であること。

 

〔労働安全衛生規則〕

(法第六十六条の九に規定する必要な措置の実施)
第五十二条の八
 法第六十六条の九の必要な措置は、面接指導の実施又は面接指導に準ずる措置とする
 法第六十六条の九の必要な措置は、次に掲げる者に対して行うものとする
  長時間の労働により、疲労の蓄積が認められ、又は健康上の不安を有している労働者
  前号に掲げるもののほか、事業場において定められた法第六十六条の九の必要な措置の実施に関する基準に該当する労働者
 前項第一号に掲げる労働者に対して行う法第六十六条の九の必要な措置は、当該労働者の申出により行うものとする

W 第1 5 面接指導等

(5) 法第66条の9の必要な措置は、面接指導又はこれに準ずる措置とするとともに、当該措置を講ずべき者として、長時間の労働により、疲労の蓄積が認められ、又は健康上の不安を有している労働者及び事業場において定められた同条の必要な措置の実施に関する基準に該当する労働者を定めたこと。(第52条の8)


W 第2 13 法第66条の9の必要な措置(第52条の8関係)

(1) 第1項の「面接指導に準ずる措置」には、労働者に対して保健師等による保健指導を行うこと、チェックリストを用いて疲労蓄積度を把握の上必要な者に対して面接指導を行うこと、事業場の健康管理について事業者が産業医等から助言指導を受けること等が含まれること。
(2) 第2項第1号の「長時間」とは時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超えることをいうこと。
(3) 第2項第2号の「基準」を事業場において定めるに当たっては、衛生委員会等で調査審議の上、定めるものとすること。この際には、事業者は衛生委員会等における調査審議の内容を踏まえて決定するとともに、長時間労働による健康障害に係る医学的知見を考慮し、以下のア及びイに十分留意すること。
  なお、常時50人以上の労働者を使用する事業場以外の事業場においては、衛生委員会等の調査審議に代え、第23条の2の関係労働者の意見を聴くための機会を利用して、上記基準の設定について労働者の意見を聴取するように努め、その意見を踏まえつつ対策を樹立する必要があること。
 ア 時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者及び2ないし6月の平均で1月当たり80時間を超える労働者については、すべての労働者について面接指導を実施するよう基準の設定に努めること。
 イ 時間外・休日労働時間が1月当たり45時間を超える労働者については、健康への配慮の必要な者の範囲と措置について検討し、それらの者が措置の対象となるように基準を設定することが望ましいこと。また、この措置としては、時間外・休日労働時間が1月当たり45時間を超える労働者について作業環境、労働時間等の情報を産業医等に提供し、事業場における健康管理について事業者が助言指導を受けることも考えられること。
(4) 必要な労働者が確実に第3項の申出を行うことができるよう、実施体制の整備を図ることが必要であることは第52条の3に基づく申出の場合と同様であること。(12(2)参照)
(5) 面接指導又は面接指導に準ずる措置を実施した場合には、その結果に基づき事後措置を実施するよう努めること。


66条の5  健康診断実施後の措置

法令
説明・解釈
労働安全衛生法

(健康診断実施後の措置)
第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条第一項に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。

T 5 健康診断実施後の措置等(第66条の5関係)

  長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策やメンタルヘルス対策等の労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進を図るための対策については、衛生委員会等(衛生委員会及び安全衛生委員会をいう。以下同じ。)において必要に応じて労働者の健康の状況を掌握し、これを踏まえて調査審議することが有効と考えられることから、健康診断実施後の措置の例として、医師等の意見の衛生委員会等への報告を追加したこと。
  また、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)第7 条の労働時間等設定改善委員会は、労働時間等の設定の改善を図るための措置その他労働時間等の設定の改善に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べることを目的とする委員会であり、同委員会に対して健康診断結果に基づく医師の意見を報告することは、労働者の健康に配慮した労働時間等の設定の改善に有効と考えられることから、健康診断実施後の措置の例として、医師等の意見の労働時間等設定改善委員会への報告を追加したこと。
  なお、衛生委員会等又は労働時間等設定改善委員会への医師等の意見の報告に当たっては、医師等からの意見は個人が特定できないように集約・加工するなど労働者のプライバシーに適正な配慮を行うことが必要であること。


13条
  産業医の職務の追加

法令
説明・解釈
労働安全衛生法(本条項に改正なし)

(産業医等)
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。
4 事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。

 
 

〔労働安全衛生規則〕

(産業医及び産業歯科医の職務等)
第十四条 法第十三条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次の事項で医学に関する専門的知識を必要とするものとする。
一 健康診断及び面接指導等(法第六十六条の八第一項に規定する面接指導(以下「面接指導」という。)及び法第六十六条の九に規定する必要な措置をいう。)の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
二 作業環境の維持管理に関すること。
三 作業の管理に関すること。
四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
五 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
六 衛生教育に関すること。
七 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
2 法第十三条第二項の厚生労働省令で定める要件を備えた者は、次のとおりとする。
一 法第十三条第一項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した者
二 医学の正規の課程であつて産業医の養成等を行うことを目的とするものを設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣か指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、厚生労働大臣が定める実習を履修したもの
三 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
四 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、助教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
五 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
3 産業医は、第一項各号に掲げる事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる。
4 事業者は、産業医が法第十三条第三項の規定による勧告をしたこと又は前項の規定による勧告、指導若しくは助言をしたことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
5 事業者は、令第二十二条第三項の業務に常時五十人以上の労働者を従事させる事業場については、第一項各号に掲げる事項のうち当該労働者の歯又はその支持組織に関する事項について、適時、歯科医師の意見を聴くようにしなければならない。
6 前項の事業場の労働者に対して法第六十六条第三項の健康診断を行なつた歯科医師は、当該事業場の事業者又は総括安全衛生管理者に対し、当該労働者の健康障害(歯又はその支持組織に関するものに限る。)を防止するため必要な事項を勧告することができる。

W 第1 (3) 産業医の職務として、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することを追加したこと。(第14条)

W 第2 3 産業医の職務(第14条第1項関係)

  従来の労働者の健康障害の防止と健康保持を図るための産業医としての専門的な立場からの職務内容に、医師による面接指導等に関する事項を追加したものであること。




104条 面接指導の実施に従事した者の秘密保持義務

法令
説明・解釈
労働安全衛生法

健康診断等に関する秘密の保持)
第百四条 第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断並びに第六十六条の八第一項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

T 9 健康診断等に関する秘密の保持(第104条関係)

(1) 面接指導制度が新たに設けられたことから、面接指導の実施に従事した者の秘密保持義務を定めたものであること。
(2) 面接指導に関する実務を行うに当たっては、労働者の健康情報は、平成16年10月29目付け基発第1029009号「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項について」(以下「健康情報留意事項通達」という。)に基づき、特に適正な取扱いが確保されるべきものであることに留意すること。

*法令表記のうちアンダーライン部が、平成18年改正の行われた箇所である。






「平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」

 H18.12.27今後の労働安全衛生対策について(建議)の元となった「平成16年8月今後の労働安全衛生対策の在り方に係る検討会報告書」において、本条(66条の8、66条の9、66条の5、13条、104条)に関連する記述として、次のような箇所が認められる。(労務安全情報センター記)

(4)労働者を取り巻く社会経済情勢の変化
ウ 業務の変化による労働者の負担の増大

 労働者の負担については、厚生労働省平成14年労働者健康状況調査によると、仕事による強い不安、ストレスを抱える労働者は6割以上に達しており、また、一般定期健康診断の結果、脳・心臓疾患につながる所見をはじめとして何らかの所見を有する労働者の割合が増加している。
 また、「過労死」等及び精神障害等に関する労災認定件数は、前述のとおりであり、高水準で推移している。



「平成16年8月過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書 」

 H18.12.27今後の労働安全衛生対策について(建議)の元となった「平成16年8月過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書」において、本条(66条の8、66条の9、66条の5、13条、104条)に関連する記述として、次のような箇所が認められる。(労務安全情報センター記)


報告書
4 取り組むべき対策の方向

(1) 過重労働による健康障害防止対策の在り方

ア 健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置
○ 労働者の健康管理については、現行労働安全衛生法において、脳・心臓疾患に関連する項目も含む健康診断の実施とその結果についての医師からの意見聴取、健康診断実施後の措置、保健指導等を確実に実施することが事業者の責務とされている。これらの事項は、労働者の健康状況に応じた措置として健康管理の基本となるものであり、この徹底が先ず重要である。また、これらの措置の適切な実施の促進を図るために、今後、健康診断結果の的確な判断基準、健康診断の事後措置に係る情報提供等を進めることが必要である。なお、二次健康診断等給付の活用も図る必要がある。

イ 疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導等

○ 労働者に長時間の時間外労働など過重な労働をさせたことにより疲労が蓄積している場合には、脳・心臓疾患発症のリスクが高まるとされていることから、このような状況となった労働者の迅速な把握が不可欠であり、また、その健康の状態を把握し、適切な措置を講じるようにするため、医師が直接労働者に面接すること及び健康確保上の指導を行うことを制度化すべきである。
○ さらに、事業者は、医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて健康診断、労働時間の制限や休養・療養等の適切な措置を実施するようにすべきである。
○ この医師による面接指導が必要な場合としては脳・心臓疾患発症との関連性が強いとされる月100時間を超える時間外労働又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働をやむなく行った場合が考えられる。具体的には、事務処理などの実効性を考慮すると時間外労働時間の算定は月単位での処理が適当であると考えられる。
○ また、これより時間外労働時間が短い場合であっても、予防的な意味を含め健康上問題が認められる場合には面接指導を行うことが必要と考えられ、例えば、労働者が脳・心臓疾患に係る基礎疾患を有する等一定程度以上のリスクを有しているとき、労働者自身が健康に不安を感じたときや周囲の者が労働者の健康の異常を疑ったとき等であって産業医等が必要と認めた場合等には医師による面接指導を実施することが必要と考えられる。さらに、これらの対象者が事業場内の産業医等による面接を希望しない場合、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができるようにすることも必要と考えられる。これらの場合に関しては、専属産業医の有無等事業場の実施体制、労働者の意見等も考慮する必要があることから、一律に基準を定めるのではなく、各事業場において、衛生委員会等の意見を聴き、自主的な基準により制度化していくことが適当である。
○ なお、上記の面接指導は、月100時間を超える時間外労働を行った者等については必ず実施することが原則であるが、ハイリスクグループに集中して効果的に健康管理を進めるという観点から、労働者の健康診断結果、それまでの面接指導の結果、労働者が従事する作業内容、時間外労働時間の状況等の要素を勘案した上で医師の判断によっては、毎月連続して行わなくともよい場合もあるものと考えられる。
○ 上記の措置等を的確に実施するため、また、産業医等が現場の労働負荷の状況に応じて適切な助言ができるよう、時間外労働時間等の情報が産業医、衛生管理者、衛生推進者、保健師等の産業保健スタッフに適切かつ迅速に提供される必要がある。
○ また、長期出張中の労働者、管理監督者、裁量労働者など一般の労働者とは労働時間管理が異なる者についても、過重労働による健康障害のリスクを考慮すると、原則として一般の労働者に準じた措置を実施する必要がある。
○ なお、長時間の時間外労働により疲労が蓄積している者に対しては、適切な休養を取らせることにより蓄積した疲労を解消させるようにすることも必要である。

ウ 事業場における労使の自主的な取組

○ 過重労働による健康障害防止対策としては、時間外労働の削減等により過重な負荷を排除することが基本であり、労働基準法令の遵守はもとより、時間外労働、交替制勤務、深夜勤務等の負荷要因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組を行うことが期待されるところである。特に、月100時間を超える恒常的な時間外労働はさせないようにすべきである。
○ 職場における負荷要因を把握し、これを改善していく方策を検討する場としては、労働者の健康障害を防止する観点から、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用すべきである。衛生委員会等で有効な議論が行われるためには、時間外労働時間等の情報が衛生委員会等に適切に提供されることが必要である。衛生委員会の設置義務のない小規模事業場においても、労使による職場改善の検討がなされることが適当である。

エ 労働者自身の取組の促進

○ 過重労働による健康障害防止のためには、事業者が適切な措置を講じることが不可欠であるが、労働者自身も健康的な生活習慣を身につけるなど自らの健康管理に対して自覚と自助努力が必要である。
○ これらの取組を促進するためには、労働者自らが実施可能な業務の管理、健康的な生活習慣の確立等に関して事業者が教育、情報提供等を行い、労働者自らが実践していくことが必要である。


(2)メンタルヘルス対策の在り方

ア 計画の策定
○ 職場の改善等を含め、メンタルヘルス対策は、中長期的視野に立って、継続的かつ計画的に行われることが重要である。しかしながら、平成14年労働者健康状況調査によれば、心の健康づくり計画の策定を行っている事業場はメンタルヘルス対策に取り組んでいるとする事業場のうちの7.6%に過ぎず、事業場における計画の策定を促進する必要がある。計画を策定する際には、事業場においては、衛生委員会等における審議の上、職場の現状とその問題点を明確にするとともに、その問題点を解決する具体的な方法等についての計画が策定されることが重要である。

イ 職場のストレスの把握と改善

○ 作業環境、作業方法、労働時間、仕事の量と質など職場のストレス要因を把握し、それを改善していくことで、労働者への心と身体の両面での負担を軽減することが可能である。これは、集団的アプローチとして、産業保健スタッフと職場の管理監督者等が連携し、ストレスに関する調査票等を用いた職場環境等の評価結果等を活用して職場単位で問題点を把握し、改善していくというものである。
○ 様々な情報から、健康管理部門がストレスの大きいと判断した職場については、健康管理部門から職場改善について当該職場の管理監督者、人事労務部門に問題提起していくことも必要である。
○ 職場のストレスの要因、影響は様々であり、一律の基準を定めることは適当でないことから、このような措置は、事業場での自主的な取組として進めることが適当である。
○ 他方、個人の対応として、産業保健スタッフが健康診断時等に個人のストレスの状況等を把握し、本人に対して情報を提供するとともに、事業者がその状況に対応した必要な配慮を行うことも重要と考えられる。ただし、その際には、事業者は、個人のストレス状況の把握のために得られた情報を、心の健康問題を抱える労働者に対する健康確保上の配慮を行うためにのみ利用し、不適切な利用によって労働者に不利益を生じないようにすること、プライバシー保護について特に注意することが必要である。なお、健康診断時等に質問票によってうつ状態などの個人のストレスの状況を把握し、スクリーニングしようとすることについては、質問票単独で行い評価する手法が確立していないこと、安易にスクリーニングを行うことで問題が生じるおそれがあることなどの指摘もあり、質問票等による形式的な点数評価にならないようにしなければならない。個人のストレスの状況を把握するとすれば、質問票等に加えて専門的知識を有する者による面談を実施するなど適切な評価ができる方法によること、診断や事後措置の内容の判断には医師が介在するなど問題を抱える者に対して事業場において事後措置を適切に実施できる体制が存在していること等を前提として実施することが重要である。

ウ 個人のストレス対処能力の向上

○ メンタルヘルスケアとして、セルフケア、すなわち個人がストレスに適切に対処できるようになることが重要である。このためには、労働者各人がメンタルヘルスに関する正しい知識を持つことが必要であり、事業者は労働者に対して教育、情報提供等を行うことにより、ストレスへの気付き、ストレスの予防・軽減・対処の方法、事業場内外の相談先等について知識を付与することが必要である。これは、心の健康問題に対する偏見を減らすことにも資するものである。
○ このような教育については、心身両面の健康保持増進対策の健康づくり(Total Health promotion Plan:THP)の健康教育の一環として行うことも考えられる。
○ また、この教育、情報提供等は、労働者のメンタルヘルスに対する意識を維持向上するために、繰り返し行われることが重要である。

エ メンタルヘルスの不調に早期に対応する方策

(ア) セルフチェックの実施
○ 労働者本人が自分のストレスの状況について気付くことは非常に重要であり、労働者のストレスの気付きのために、事業場のイントラネットを活用したストレスチェックなど随時セルフチェックができる機会の提供が有効である。
(イ) 長時間の時間外労働を行った者等に対する医師等による面接指導
○ 精神障害による自殺の労災認定事案における労働時間を見ると、長時間であったケースが多く、また、企業における過重労働対策の効果に関する研究結果を見ると、長時間労働を行った者について医療機関に紹介したことがある産業医のうち約6割が労働者を抑うつ状態と診断して医療機関を紹介した経験があった。このことから、長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し、メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることは効果的であると考えられる。(1)イにおいて、過重労働による健康障害防止のために長時間の時間外労働を行った者等を対象とした医師による面接指導を実施すべきとしているが、この際、メンタルヘルス面にも留意した面接指導を行うようにするべきである。具体的には、(1)イにおいて月100時間又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働を行った者に対して面接指導を行うほか、それ以外の場合でも労働者自身が健康に不安を感じたとき、周囲の者が異常を疑ったとき等について事業場で自主的な基準を設けて面接指導を行うべきこととしているが、これらの面接指導においてメンタルヘルス面についてもチェックを行うようにするべきである。特に、心の健康は外部からは評価しにくいものであること、周囲の者が異常を疑うようなときは相当程度深刻な状況となっている可能性があることを考えると、本人や周囲の者を端緒とした面接指導は重要であるといえる。
○ この場合も、事業者は、医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて適切な措置を講じることが求められる。
○ さらに、労働者本人又は周囲の者が労働者のメンタルヘルスの不調を疑った場合、事業場内での面接指導に繋げる仕組みを整備することに加えて、労働者本人が、その所属している事業場内の者にメンタルヘルスの不調を訴えることは抵抗があることも考えられることから、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができる仕組みをつくることが必要である。また、この場合、事業者は、事業場内で面接指導を実施した場合と同様に産業医等の意見を聞いた上で、必要に応じて適切な措置を講じることが求められる。
(ウ) 介入が可能となる仕組みづくり
○ 精神障害による自殺等の最悪の事態を避けるためには、労働者が深刻な状況に陥った場合における専門家による介入が可能となる仕組みづくりが必要である。この方法としては、周囲の者の気づきを端緒として上記(イ)の面接指導に繋げるようにすることのほか、上司が直接専門家に相談することがよいような場合も考えられる。
○ また、この介入の端緒としては、上司・同僚による気付きのほか家族による気付きも重要である。この介入のための仕組みとして、事業場側の相談窓口を明確にしておき、家族が気付いたとき、その窓口に相談して上記(イ)の面接指導に繋げられるようにすることが考えられる。このほか、プライバシーの保護等に配慮して、家族が所属事業場に知られることなく相談できるようにメンタルヘルスに関する外部の医療機関を含む専門機関と契約するといった方法も考えられる。また、家族が適切に対応できるように、家族に対するメンタルヘルスに関するアドバイス、情報提供等の支援を行うことも重要である。
○ しかしながら、上記(イ)の面接指導の契機とすることを含め、メンタルヘルスの不調の者への介入の端緒として周囲の者が関わることについては、周囲の者の不適当な判断により情報提供が行われることなどもあり得ることから、その仕組みづくりに当たっては、衛生委員会等において労働者や産業医等の意見を聞きながらプライバシー保護に十分に留意しつつ検討することがきわめて重要である。
(エ) 相談体制の整備
○ 労働者がセルフケアを進める面から、労働者が自らの心の健康に不安を感じたとき、他者に知られることなく、自発的に気軽に相談でき、必要な情報や助言が得られることは、非常に重要である。このため、事業場において、随時、職場の内外の専門家に相談できる体制を整備することが重要である。
○ この際、事業場内での相談体制の整備のほか、公的機関を含めた事業場外の機関の利用も考慮する必要がある。
(オ) 管理監督者に対する教育
○ 職場において日常的に労働者の指揮・管理を行うのは管理監督者であり、労働者のメンタルヘルスケアについて、管理監督者の役割は非常に重要である。管理監督者は、労働者の状況を日常的に把握し、個々の労働者の能力、適性等に合わせ、適切に業務の管理を進めるとともに、労働者の自主的な相談への対応、適切な情報の提供や必要に応じて事業場内外の相談窓口等に繋ぐなど適切な配慮を行うことが重要である。このため、管理監督者に教育、情報提供等によりメンタルヘルスについての知識を付与することが不可欠である。

オ メンタルヘルスの不調による休業者の職場復帰の支援

○ メンタルヘルスの不調により休業していた労働者の職場復帰について、当該労働者が円滑に職場に復帰できるようにするとともに、再発を防止するため、職場における支援、配慮等が必要である。
○ その際、治療に当たっている主治医との十分な連携が欠かせないが、事業者は産業医に、主治医と相談しつつ本人への就労上の配慮や職場内における様々な支援について具体的な指示や調整を行わせること、人事労務部門、受け入れる職場の管理監督者等と十分な連携を図らせることが必要である。産業医が選任されていない事業場にあっては、地域産業保健センターから専門家の紹介を受ける等により専門家からの指導援助を受けるべきである。
○ 職場復帰については、個々のケースに応じて、復帰する職場の選定、復帰時の就労形態、業務内容等の検討のほか、受け入れる職場の者への意識啓発、適切な情報提供等も含め様々な要素に留意して進める必要がある。職場復帰は企業にとってメンタルヘルス対策上大きな課題となっており、その具体的進め方等について、今後さらに検討、研究を進めていく必要がある。

カ 健康づくり・快適職場づくりの活用

○ 事業場においては、これまでも心身両面の健康保持増進対策(THP)の取組や、「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり」を目指した快適職場づくりの取組が行われている。これらの取組をメンタルヘルス対策に活用することも重要である。


(3) 体制の整備

ア 事業場内の体制整備
○ 過重労働対策及びメンタルヘルス対策については、医学的知識を基礎とした健康管理がこれらの対策の軸となるものであり、産業医等の医師の積極的な関与が重要である。特に、メンタルヘルス対策については、事業場外の機関を利用している場合はその機関を含めたネットワークを作り、産業医に関連情報が集まるようにし、産業医が指導的に取り組む体制が不可欠である。
○ 産業医にはその責務について認識し、積極的に取組むことが求められ、他方、事業場には産業医がその職務を適切に遂行できるような体制や環境を整えることが求められる。
○ 専属産業医を選任していない事業場では、産業医等の医師の指揮を受けつつ、円滑に対策が進められるよう衛生管理者、衛生推進者、保健師等といった産業保健スタッフをその役割や専門性に応じて活用することが重要である。
○ 過重労働対策及びメンタルヘルス対策をはじめとした健康管理対策がより適切に行われるよう、事業場における産業保健スタッフの体制の整備、スタッフの資質の向上、情報提供の充実等により産業保健活動の充実を図ることが不可欠である。
○ 過重労働対策及びメンタルヘルス対策を進める上では、労働時間管理、就業場所や作業の転換など、人事労務管理面からの措置が不可欠となる。このため、産業保健スタッフと人事労務部門との連携が重要であり、相互に協力して必要な措置を実施していく必要がある。これを進める上で、人事労務部門の者への知識等の付与が重要である。
○ さらに、過重労働対策、メンタルヘルス対策とも、労働者自身の意識、個人の要因に関わる部分も少なくなく、対策を事業場において効果的に実施するためには、労働者の意見が反映されるよう労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等の場を活用することが重要である。衛生委員会の設置義務のない小規模事業場においても、これら対策の実施に係る検討を行うにあたり、労働者の意見が反映されるようにすることが必要である。

イ 事業場外の機関の活用

○ 過重労働対策及びメンタルヘルス対策については、産業医等の医師の積極的な関与が重要であることは前述したが、産業医の選任義務のない小規模事業場においては、地域産業保健センターを活用することのほか、「会社のかかりつけ医」といった医師を事業場外に持つことも有効と考えられる。
○ メンタルヘルス対策について、産業医は必ずしも精神医療に精通しているとはいえないことから、必要に応じ、産業医が精神科医等の支援を受け、あるいは労働者が直接精神科医等の助言を受けられるような体制を整備することが望まれる。このためにも、産業保健について理解した専門精神科医等の育成が望まれる。
○ メンタルヘルスについて利用できる事業場外の機関には、産業保健推進センターや地域産業保健センター、精神保健福祉センターなど公的機関から外部の医療機関やメンタルヘルスサービスを提供する民間機関(Employee Assistance Program:EAP)まで様々な機関があり、事業場が抱える問題、事業者が求めるサービスに応じた機関の活用が重要である。利用に当たっては、事業場外機関が提供するサービスが事業場にとって実効あるものとなるよう事業場内のメンタルヘルスを担当する者を配置する等により事業場外の機関と円滑な連携を図るなど留意が必要である。さらに、家族を通じた支援策として、地域と職域が連携して、メンタルヘルスの不調に気付いた家族を対象として意見交換や交流、相談を行うことができる場をつくることが必要である。

ウ 国の支援措置

○ 国は、事業場における過重労働対策、メンタルヘルス対策の円滑かつ効果的な実施を支援するため、事業場、労働者に対する周知啓発、具体的な実施手法の検討・提示、事例の紹介、関係情報の提供等を適宜適切に行っていくことが求められる。特に、中小規模事業場に対しては、実践的、具体的な手法を示し、必要な支援・指導を行うなど対策の普及に努める必要がある。
○ また、事業場内の体制整備を進めるため、事業場内での教育研修の実施や事業場での対策立案等を担当する産業保健スタッフ等の育成に対する支援が必要である。
○ さらに、今後、過重労働対策及びメンタルヘルス対策を推進する上で、産業医等の専門的役割がこれまで以上に重要となることから、産業医等に対して、面接指導の方法、メンタルヘルスに関する知識等を付与するための支援が必要である。また、職場におけるメンタルヘルス対策の充実強化を図るため、広く精神科医等に対し産業保健に関する知識を付与するよう支援するとともに、事業場の求めに応じ適切な精神科医等を紹介できるようにするようなことが必要である。
○ 国が過重労働対策及びメンタルヘルス対策を推進するにあたって、事業場における医学的知識を基礎とした健康管理が対策の軸となるものであり、産業医の選任義務のない小規模事業場では対策の実施が困難となることが懸念される。このため、小規模事業場に対して産業保健サービスの提供を実施している地域産業保健センターの活動の充実を図ることが必要である。


〔最終更新日-H18.3.30 労務安全情報センター〕