資料/化学工場の爆発・火災災害の対策

HOMEPAGE 640/480  NO3 画面 安全衛生管理


化学工場の爆発・火災災害の対策
資料:「化学工業における安全管理の在り方に関する検討結果報告書」全文

目次

はじめに
1.爆発・火災発生の現状と問題点
(1)爆発・火災の発生状況
(2)爆発・火災発生上の問題点
2.背景要因の考察
3.安全管理の今後の方向
(1)創造的な安全管理
(2)安全管理の充実と連続性・継続性の確保
(3)安全技術の共有化と企業へのサポート体制の整備
4.具体的な対策への取組
(1)安全管理のシステム化
(2)専門スタッフの充実とライン管理の強化
(3)非定常作業の安全管理
(4)安全情報の共有化と活用
(5)安全技術の開発・向上
おわりに








はじめに
 化学工業(石油精製業を含む。以下同じ。)は、国民生活にとって欠かすことのできな
い様々な化学物質を製造・供給し、我が国の社会経済を支える基幹産業としての地位を占
めているが、一般に、多種・多量の化学物質を、容器、塔、槽類それらを結ぶ配管、バル
ブ等から構成される各種の装置を用いて、反応、精製、貯蔵等の工程を通じ複雑な制御の
もとに製造・取り扱うために、一且取扱を誤ると爆発・火災等の大きな事故を招来しかね
ない危険性を有しているという側面を持った産業でもある。このため、化学工業では、過
去に不幸にして大きな爆発・火災を経験してきているが、それらの経験を通じ、企業の自
主的な安全管理活動への取組、安全面での技術革新の進展など安全管理の向上に努め、保
安三法による規制などと相まって、近年では爆発・火災の発生も大幅に減少し、安全管理
においては我が国では最も進んでいる産業の一つと言われるまでになってきている。

 しかしながら、最近では、爆発・火災の発生は増加傾向にあり、平成8年には20件
(労働省把握による)と前年に比べ倍増し多発している状況にある。多発している爆発・
火災の内容をみると、これまでにない新たなタイプの事故では必ずしもなく、その多くは
従来からみられるタイプの事故であり、また、一の企業において繰り返し事故が発生する
例もみられ、これらの企業においては安全管理体制が十分に機能しているのか、目常の安
全管理が十分に行われているのかといった基本的な間題点を指摘することができる。

 事故が発生すれば、それぞれ原因を究明し再発防止対策を講じていかなければならない
ことは勿論であるが、経済の国際化等に伴う競争の激化は化学工業の企業においても経営
環境を急速に変化させている現状にあり、このような状況を契機として、改めて安全管理
の在り方を問い直し、安全管理の在るべき姿を再確認することは極めて有意義なことであ
り、今後の我が国社会の安全水準の向上に資するものと考える。

 安全管理は、事業の運営に伴う災害の絶滅を期して、事業経営者のリーダーシップのも
と含理的、組織的な施策とそれを実践する体制を構築し、職場の不安全な状態と作業者の
不安全な行動を除き、さらに進めて安全な状態を確立することにある。

 本会議は、化学工業における安全管理の現状と問題点の把握を行い、今後の社会経済の
変化の下においても、この理念にそった実践的な的確かつ適切な安全管理が行われるよう
、安全管理の在り方について提言を取りまとめるものである。


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1.爆発・火災発生の現状と問題点
(1)爆発・火災の発生状況

 爆発・火災による労働災害(休業4日以上の死傷者数の集計)は、年によって変動が
大きいものの、おおよそ昭和40年代後半の80人台からここ数年の20人台へと減少
してきている。
 一方、労働災害を伴わない事故も含めた爆発・火災の発生状況については、小さな事
故などの把握は困難であることから、経年的な推移を含め詳しい統計はとられていない
が、労働省では、比較的大きな爆発・火災の最近の状況について都道府県労働基準局か
らの報告なども含めその把握を行った。
 その結果によれば、化学工業での爆発・火災の発生は、平成8年は20件と、平成7
年の9件、平成6年の13件に比べ大幅に増加している。これらの事故による被災労働
者数は、平成8年は42人と平成7年の34人に比べ増加しているが、事故1件当たり
の被災労働者数でみると、平成8年は2.1人で平成7年の3.8人に比べ約1/2と
なっている。
 また、消防白書によると、危険物施設(危険物の製造所、貯蔵所又は取扱所)におけ
る火災(爆発も含む。)の発生件数は、平成6年、7年と2年連続して増加し、平成7
年には140件となっている。


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(2)爆発・火災発生上の問題点

 化学工業においては、安全の確保は企業経営の基盤であるとの認識のもとに、自主的
な安全管理活動に努めているものの、昨今、爆発・火災事故が多発している状況にある
。これらの事故は、新たなタイプの事故というより従来からあるタイプの事故であり、
多くの場合、通常行われるべき安全管理が適切に行われていれば防げた事故である。最
近の爆発・火災事故の特徴の一つに、事故件数の増加に比ベ、幸い被災する者がそれほ
ど多くないということがあげられる。このことには、安全を支える技術(以下、「安全
技術」という。)の向上により事故が発生してもその影響が局所的に抑えられているこ
とや、自動化の進展により作業者そのものが少なくなってきていることなどの状況が伺
える。また、もう一つの特徴は、多くの場合、事故原因は作業者の操作ミスと片づけら
れる傾向があるが、詳細に原因を調べてみると、単なる作業者のミスと済まされない、
設備又は作業の管理面での原因も指摘できることである。

 最近多発している事故には、多様な原因があるものと思われるが、主な原因としては
次のことがあげられる。

(1)
  設備の新設時、変更時などにおいて、安全面での事前評価は一応行われているもの
 の、危険物に関わる設備の変更時などにおいては、変更などに伴い新たな危険性が生
 ずるか否かの詳細な検討が特に必要とされるところであるが、事前の検討が不十分で
 あるために、チェックのポイントに的確さを欠いていることや細部にわたってチェツ
 クが徹底されていないこと。
(2)
  配管、バルブなどからの危険物の漏れに起因して発生しているものもあるが、設備
 の点検などは一応行われてはいるものの、設備の危険度などに応じた点検箇所の重点、
 点検の頻度、点検結果の評価基準などが定められていないことから、点検が不十分と
 なるなど設備管理に不備があること。
(3)
  設備のシャットダウンやスタートアップの時には、製造部門や設備部門などが通常
 と異なった体制を組み、設備の状況を把握しながら注意深く徐々に稼働させていくと
 いう慎重な作業が必要とされるところであるが、作業計画の内容に安全を考慮した具
 体性が欠けることや作業の連絡調整体制などに不備があること。
(4)
  定常作業においては、サンプリングなど危険物を系外に抜き出す作業において、作
 業手順の確認が不十分であることや作業手順を誤った際のバックアップ対策に不備が
 あること。
(5)
  定期修理工事などの工事においては、運転部門と工事部門の連携が特に必要とされ
 る境界の作業において、運転の情報や工事計画の内容など互いの情報が的確に伝わっ
 ていないこと。
(6)
  この他、作業者に対する教育訓練が不十分なこと、作業の指示・指揮・連絡調整や
 作業交替時の申し送りの不徹底があること。

 これらの原因はいわば現象面からみたものであるが、何故これらの必要な措置が講じ
られなかったのか、また、見過ごされたのか、その背景にある要因については十分把握
されていない。背景要因の定量的な分析は困難であるが、次に、これまての化学工業に
おける安全管理への取組の状況を概観し、その結果と現状を対比することにより定性的
な背景要因を考察することとする。


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2.背景要因の考察

 化学工業は、製造技術の多くを海外から導入することによって成立し、化学製品の旺盛
な需要に伴う設備の大型化が図られた30年代後半から40年代半ばにかけての高度成長
期、その後の需要の動向などにより、40年代後半から50年代半ばにかけての停滞期、
それ以降の安定成長期を経て今日の状況を迎えている。この間の爆発・火災の発生状況は
、30年代後半から40年代半ばにかけて大規模な事故が続発したが、その後は最近まで
次第に減少してきている。

 爆発・火災の発生は、化学工業の成長の過程に深く関わっており、各種の技術やノウハ
ウの習得と継承の問題が大きく影響しているものと考えられる。化学工業はその成立期に
おいて、海外からの技術導入が盛んに行われたが、自前の製造技術ではないことから、そ
れらの技術の詳細や運転のノウハウを習得し安定した操業に至るまでには一定の期間を要
したものと思われる。大規模な爆発・火災が続発したのは、安定した操業に至るまでの習
得に要した期間に重なる時期であり、また、この時期は同時に、爆発・火災を体験したこ
とにより、設備やブロセスの危険性を知り、異常の兆候を理解し、機敏に異常に対処する
ことなどの安全管理のためのノウハウ(以下、「安全のノウハウ」という。)が蓄積され
、安全技術の開発・向上への意識が高まるなど安全管理の整備も図られた時期でもあると
考えられる。その後、成熟した技術への対応と蓄積された安全のノウハウなどが継承され
、安全管理活動の活性化が図られてきたことに支えられ、爆発・火災は次第に減少してい
くこととなる。

 このような観点から化学工業の現状をみると、まず、企業全体として危険への認識が希
薄化しているのではないか、すなわち安全管理がマンネリ化してきているのではないかと
いう面があげられる。さらに、事故の体験を通じて蓄積された安全のノウハウが、企業の
中で組織的に継承されていないのではないかということが懸念される。

 このようなことの背景には、これまで事故が減少してきたことに加えて、コスト削減を
命題として業務の整理統合、組織のスリム化、費用の節約などが行われている現下の企業
の経営環境の中で、災害が多発した時期の体験を通じて安全のノウハウを蓄積した中核的
な者が、定年期に達してきていることもあって人事異動などにより減少しているのではな
いか、さらには、安全技術の開発・向上への意欲が停滞するなど安全管理への取組が低調
となっているのではないか、といったことが懸念される。

 今後の安全管理を考える場合には、安全管理の水準が維持されるよう、安全のノウハウ
が組織的に継承されていかなければならない。また、企業のリストラに際しては、こうし
た組織的な継承が確保されるなど、安全管理の低下を招くことのないよう安全面を十分に
考慮して実施されなけれぱならない。
 さらに、安全を考える場合には、急速な進展が見込まれる制御技術などの高度化の問題
、先進国における労働安全衛生管理システムの導入に向けた動きなど国際的な動向、安全
技術の開発・向上なども視野に入れた検討の必要性も生じてきている。


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3.安全管理の今後の方向

 以上述べたような爆発・火災の発生の状況、安全管理を取り巻く現状などから、安全を
確かなものとしていくためには、安全管理の理念に立ち帰って、企業の安全管理への積極
的な取組がなされ、その取組に対し必要な支援が講じられるよう企業、関係団体、研究教
育機関、行政などの安全に係わる関係者がそれぞれの役割を明確にしてその責務を果たし
ていくことと共に、社会経済情勢の変化に対応して相互に連携・協カしていくことが重要
である。

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(1)創造的な安全管理
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   安全管理を守りから攻めの対応へ(マンネリの打破、安全の創造)
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 安全の確保は企業経営の基盤であるとの認識は極めて重要な意味を持つものである。企
業の経営環境が急速に変化している現状においては、改めてこうした認識を再確認し、安
全のために必要なコストの確保は勿論のこと、日常の管理においてもマンネリ化に陥るこ
となく、さらに安全を確かなものとしていくために、積極的に安全を創造していくという
攻めの姿勢に変えていく必要がある。

 技術的な観点からみても、運転管理面では既に制御技術の高度化が進められてきている
が、検査技術の開発・向上などをもととした的確な寿命予測などによる設備管理の高度化
の必要性がさらに高まってきており、これらの業務に携わる人の知識・技術も含め安全管
理の高度化も今後の重要な課題となってきている。この高度化に当たっては、安全管理の
基本理念なしに表面的な高度化は無意味であり、安全を創造していくという姿勢が重要で
ある。
 例えば、事業場内で把握されたトラブル、ヒヤリ・ハットなどをもとにした安全管理の
現状の対応から、もっと進めて、同業他社、異業種でも同種作業からの安全技術に関する
情報、ノウハウなどの収集と活用、安全技術の開発・向上、危険性を的確に想定し対処し
いていくことなど、問題が生ずる前に危険な設備・工程・作業などを洗い出して対応して
いく必要がある。このような取組の必要性は、安全性の事前評価が不十分なことにより発
生している事故事例が少なくないことからも指摘されるところである。

 今後は、こうした積極的な安全管理への取組を、企業の安全衛生管理方針、安全衛生管
理計画などに強く打ち出していく必要があるものと考える。


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(2)安全管理の充実と連続性・継続性の確保
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   安全管理における人材の確保及ぴ安全管理のシステム化(安全管理の足腰の強化、
   安全管理の連続性・継続性)
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 これまでの安全管理は、事故の体験などを通じ安全のノウハウを蓄積した者により維持
又は向上が図られてきた。しかしながら、現状では、こうした人材の確保が次第に困難に
なりつつある。
 また、このような安全管理のあり方については、一長一短の評価がある。

 長所としては、現場の具体的な経験が安全管理に活かされるということなどが拳げられ
るが、あまりに依存しすぎると、安全管理に客観性が欠ける、組織的な対応がなされない、
担当者が退職などにより変わる場合には、安全のノブハウの継承が十分に行われない場合
があるなどの短所もある。
 さらに、技術の高度化に対応するとともに各種の安全に関する情報を十分に活用できる
人材の確保が求められていることや、国際的な安全衛生管理のシステム化の動向も考慮し
なけれぱならない。

 このため、今後の安全管理には、安全のノウハウの継承などによる人材の確保とともに
、技術の高度化に対応した人材の養成も必要である。また、併せて、安全管理が客観的に
評価できるように、組織的な連続性・継統性を持つように、安全管理のシステム化が必要
である。

 例えば、安全管理を行う場合の手順とその推進・評価体制の明確化といったシステム化
、とりわけ設備の新設・変更等における安全性の事前評価のシステム化、設備管理(点検
整備等)のシステム化などを進めることや、教育訓練のブログラム、その実施体制の整備
、安全のノウハウの継承の仕組みの整備などが考えられなければならない。


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(3)安全技術の共有化と企業へのサポート体制の整備
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   安全管理を、企業の枠の中だけではなく、企業間、団体、研究教育機関、行政とい
   った大きな枠の中で捉えていく(安全技術の共有、企業へのサポート)
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 安全を確保することは企業の責任であり、安全管理は企業の自主的な取組によることが
基本であるが、企業の自主的な取組に加えて、関係団体や研究教育機関、行攻なども共に
考え必要な支援・協力を行っていくことは、企業の安全水準をさらに高めていくことにつ
ながるものと考える。

 安全技術に関する情報、ノウハウなどは一企業を超えて共有化することや、安全に関す
る各種のノウハウを有する企業外部の関係者による指導・支援も重要である。このため、
今後の安全管理においては、企業は、外部からの安全技術に関する情報、ノウハウなどを
積極的に取り入れること、外部の関係者は、企業に対して積極的に指導・支援することな
ど、安全技術の共有化を図るとともに、企業間・団体・研究教育機関・行攻などの協力・
連携により企業の枠を超えた在り方が求められる。

 例えば、企業、業界団体、研究教育機関、行政などにおける各種情報の交換、企業外部
からのチェック体制の整備とその促進、安全管理を専門とする機関・企業の育成と活用に
よる技術面・人材面からの支援などが考えられる。また、企業において安全のノウハウを
蓄積した者で退職した者や労働安全コンサルタントなどの人材の活用も図っていくべきで
ある。


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4.具体的な対策への取組

(1)安全管理のシステム化

 安全管理のシステム化において重要なことは、以下の項目を含め管理の対象となる具
体的な項目について、計画−実施−評価という一連のプロセスを明確にし、併せてその
推進・評価体制を確立することである。システム化に当たっては、必ずしも画一的なも
のである必要はなく、企業規模、企業の既存の組織体制など企業の実情にあったもので
よいと考えられるが、システムの基本的な考え方、共通する内容などについては、今後
検討が行われるべきである。

−1−安全性の事前評価

  設備・工程・作業の変更時等における安全性の事前評価について、危険要素の抽出
 −対策の検討・実施−効果の評価という一連のブロセスを明確にし、併せてその推進
 ・評価体制を確立する。
  また、事前評価に当たっては、評価のための各種の情報が必要となることから、情
 報収集のネットワークを整備していくことも重要である。

−2−設備管理(点検整備など)

  危険度に応じた設備・機器等の老朽化の診断、評価及びその補修等の対応措置の明
 確化を図ることと、設備・機器等ごとに、点検頻度、点検方法、点検実施者、補修実
 施者などの実施体制を確立する。

−3−人材の養成・安全のノウハウの継承

  作業者、各級管理者について、その期待される役割に応じ必要とされる知識・能力
 を設定し、段階的・体系的な教育訓練ブログラムを作成し実施していく必要がある。
  このうち、企業間で共通的な教育訓練については、教材、講師などを企業の枠を超
 えてプールし企業が共同で実施できる体制の整備も望ましいと考える。また、この教
 育訓練ブログラムにおいては、制御技術など高度化の著しい分野に関しては、技術の
 高度化に対応した適宜適切な教育訓練の機会の確保が求められる。

  さらに、安全のノウハウを蓄積した者の退職などに伴い、そのノウハウが企業から
 消えつつあることから、これらを保存・継承していくための仕組みの整備とともに、
 化学工業の安全は、作業者や各級管理者の安全のノウハウに大きく依存するという特
 殊性に鑑み、これらのノウハウを集積し継承するためのセンターの設置が望まれる。

  また、企業における安全管理状況のチェックについては、労働安全衛生法令に定め
 る最低基準としての各種規定の履行確保については、行政における監督指導が引き続
 き的確に行われる必要があるが、それとともに、安全管理のシステム化が図られてい
 く場合には、システム化されたものが企業の中で有効に機能するため、また、機能し
 ていることの確認・評価のための安全監査は欠かせない。

  安全監査は、どの時点において、どのような編成で、どのような内容を重点に、実
 施されるかが重要である。また、安全監査は、企業の内部においてばかりでなく、例
 えば、企業外部の安全管理を専門とする機関・企業などに委託して客観的な評価を行
 うといった方法なども考えられ、その在り方について検討が行われるべきである。


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(2)専門スタッフの充実とライン管理の強化

 安全管理を企業の中で円滑に推進し実効あるものとするためには、安全管理について
の企画立案、調査研究などを行うスタッフ部門と現場の生産ラインにおいて具体的な安
全管理として実践していくライン部門のそれぞれの役割が重要であり、それぞれの役割
を明確に整理しておく必要がある。

 具体的には、安全に関する情報を収集整理し活用していく場合や安全管理のシステム
化を図る場合などには、そのシステムを構築し、円滑に機能させ、評価を行う専門スタ
ッフの存在は不可欠であり、その具体的な実施はラインが貢任をもって当たるという役
割の整理が考えられ、その役割に応じた専門スタッフの充実とライン管理の強化が求め
られる。専門スタッフについては、養成のための教育訓練プログラムが用意されるべき
である。


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(3)非定常作業の安全管理

 化学工業においては、シヤットダクンやスタートアップ時の作業、定期修理工事での
作業のほか、保全的作業、トラブル対処作業などいわゆる非定常作業での事故が多いの
が一つの特徴となっている。
 これらの作業では、定常作業に比べ作業の頻度が少ないということなどもあって、作
業方法・作業手順、作業の管理体制などが不明確なまま作業が行われている場合が多い。

 このようなことから、労働省では平成8年に「化学設備の非定常作業における安全衛
生対策のためのガイドライン」を公表している。
 このガイドラインでは、非定常作業については、作業の実施に伴う災害要因と安全衛
生面での対応措置の事前評価に基づいて作業計画を作成し、必要な安全衛生管理体制を
整備して作業を実施していくことが必要であるとしている。今後は、このガイドライン
を参考として、非定常作業に光をあて、例えば、実施した非定常作業の内容は記録に残
し、その集積をもって同種作業のマニュアルとすることなどにより定常作業と同様に非
定常作業の安全性を高めていく必要がある。

 また、定期修理工事などにおいては、運転部門と工事部門の連携など境界での事故が
多い。発注者の貢任と受注者の責任を明確に整理した上で、運転部門の運転情報と工事
部門の工事計画の内容とが、それぞれの部門に確実に伝わるよう、部門間の連携・協力
が重要である。さらに、定期修理工事のために外部から入場する作業者に対しては、設
備の状況、化学物質の危険性、火気の取扱上の注意事項などについての安全教育が徹底
して実施されなけれぱならない。


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(4)安全情報の共有化と活用

 安全に関する情報には、事故情報、改善事例、MSDS等取扱物質に関する情報など
国内外を含め各種のものがあり、その供給ソースも多様である。企業においては情報の
重要性を認識し収集に努めているが、情報の共有化を図っていけば、さらに情報を幅広
く収集し活用することができる。行政も含め供給ソースにおいて積極的に情報を提供す
ることと併せ、情報の収集と提供を一元化することが必要であると考える。このため、
労働省では、こうした役割を担うことを目的として安全衛生情報センター(仮称)の設
置を進めているところである。

 また、情報は活用されてはじめて意味を持つものであり、情報の提供に際しては、そ
の情報が企業において有効に活用できるように加工する工夫が重要である。企業におい
ては、収集した情報を有効に活用できる人材の養成や活用方法の標準化を図るとともに
、活用するための仕組み、例えば、安全スタッフ部門で情報を収集整理し、企業全体と
して必要な情報については関連部門も含め企業全体として、特定のラインにおいて必要
な情報は当該ラインにおいて活用を検討するといった仕組みの整備が考えられる。

 また、事故時における原因究明は、事故の再発を防止する上での情報として重要な意
味を持つものであるが、現象面での究明に止まらずその背景要因も含め再発防止のため
の本質的な究明がなされるべきである。


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(5)安全技術の開発・向上

 安全技術には、設備内の異常を早期に的確に把握するセンサー技術、異常が生じた場
合に異常を回避する技術、危険が顕在化した場合に人を危険から防護する技術、さらに
設備の保全技術などがあり、これまでも開発・向上が図られてきている。企業において
は、これらの安全技術の情報を収集し、積極的に取り入れていく必要がある。

 しかしながら、安全技術の開発・向上は生産技術に比べ立ち遅れていることが指摘さ
れており、産業安全研究所など研究教育機関と企業の研究開発部門の共同研究などによ
り、今後一層の開発・向上が必要であると考える。

 具体的には、危険物を系外に抜き出すサンブリング作業など作業者が設備や危険性を
持った物質に直接関わる作業などについては、作業者がその内部の状況を的確に把握で
きる計器などの設置、「安全確認型」安全技術の現場への応用、異常が生じた場合に安
全サイドへ移行するフェールセーフ機構の導入など作業者をバックアップする技術の整
備が必要であり、そのための開発・向上が求められる。



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おわりに
 本会議は、平成8年に化学工業において爆発・火災が多発したことを契機として、多
発した事故の背景要因、最近の化学工業を取り巻く環境の急速な変化が、企業の安全管
理に何らかの影響を及ぼしているとすればその影響などついて調査することと、その調
査結果をもとに、今後の安全管理の在り方を検討し広く関係者に提言をしていくことを
目的として設置されたものである。

 取りまとめに当たっては、各種の事故情報のほか、関係業界団体及ぴ石油化学コンビ
ナートが立地する都道府県労働基準局からの化学工業の安全管理の現状と今後の課題に
ついての報告などを参考とさせていただいた。
 個々の事故原因については、それぞれの調査機関において究明がなされ、再発防止対
策の検討が行われていることから、本会議では、今後の安全管理の向上に資するよう、
基本的な事柄に検討のポイントを絞り提言を取りまとめている。

 提言は主として化学工業界に対するものであるが、行政に対しては、安全に関する情
報の提供体制の整備、災害調査の充実、監督指導時の指摘に止まらず改善に向けた相談
・支援の実施、企業をサポートする体制の整備、安全技術の開発・向上、国の設置する
教育訓練施設の提供及び活用の促進、情報交換の場の確保などについて化学工業界への
支援を求めたい。
 また、化学工業の安全に関しては、各種の規制が混在している現状にあり、今後、安
全管理体制の整備を図る際には、各行政間の連絡調整に十分な配慮を求める要望のある
ことも併せて付記する。

 本会議としては、提言の中には、内容において具体性に欠けることや、その実現に長
い時間を要するものもあると考えるが、企業、業界団体、研究教育機関、行政などの安
全に関する関係者の努力により、この提言が具体化され実現されていくことを期待する
とともに、今後とも、本会議のような関係者間で安全を考える機会が確保され、我が国
の安全の一層の向上が図られることを望むものである。
 また、本報告書が他の産業における安全の向上に質することとなれば幸いである。


化学安全対策会議

(座長)平野敏右 (東京大学大学院工学系研究科教授)
    仲 勇冶 (東京工業大学資源化学研究所教授)
    林 年宏 (労働省産業安全研究所化学安全研究部長)
    平山正近 ((社)日本化学工業協会労働安全衛生部会幹事会座長)
         (日本化薬(株)環境安全推進部長)
    大野 晋 (石油化学工業協会保安委員会労働安全衛生専門委員長)
         (出光石油化学(株)安全環境室長)
    小林 磧 (石油連盟労働安全専門委員会委員長)
         (三菱石油(株〉環境安全部長)
(オブザーバー)
    戸嶋禮助 (船橋労働基準監督署長)