事業場における労働者の健康保持増進のための指針

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事業場における労働者の健康保持増進のための指針

(S63.9.1公示第1号、H9.2.3公示第2号)


 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第70条の2第1項の規定に基づき、事業場における労働者の健康保持増進のための指針を次のとおり公表する。




事業場における労働者の健康保持増進のための指針




1 趣 旨

 本格的な高齢化社会の到来、急速な技術革新の進展等の社会経済情勢の変化は、職場における労働者の安全及び健康の確保に大きな影響を及ぼしつつある。
 高年齢労働者は、若年労働者に比べ労働災害の発生率が高く、また、被災した際の休業日数も長期化する傾向があるが、それら労働災害は、転倒、墜落・転落等により発生する場合が多い。これは、加齢による運動機能、感覚機能等の低下が高年齢労働者の労働災害の発生に大きくかかわっていることを示しているものと考えられる。また、高年齢労働者は、高血圧性疾患、虚血性心疾患などの有病率が高く、これらの疾病は、労働者の従事する業務の態様によって影響を受けることもある。
 また、最近、ME機器等の導入による労働者のストレスの問題、すなわちストレスによる職場不適応の発生やストレス関連疾病の発症の例も見られ、労働者の心の健康の問題が重要な課題になっている。
 さらに、労働力人口の急速な高齢化に伴い、高年齢労働者は、将来においても経済社会の担い手となることが期待されており、労働者全てが心身両面にわたり健康で、その能力を十分に発揮できる職場環境を形成することにより労働災害の発生を防止することが重要な課題となっている。
 これらの課題に対処するため、国は次のような役割を担うものである。

 <1> 労働災害防止計画において、労働者の健康の保持増進を図るための対策を策定し、公表すること。
 <2> 事業者が講ずる労働者の健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表すること。
 <3> 事業場における労働者の健康保持増進対策を実施する人材の養成を促進すること。
 <4> 事業者の行う健康保持増進対策の実施に関して、必要な指導、助言及び援助を行うこと。
 <5> 事業者の委託を受けて、労働者の健康の保持増進のための業務を行う機関(以下「労働者健康保持増進サービス機関」という。)の認定基準を定め、国の指定した機関において、その認定を行うこと。
 <6> 中小企業者に対して、労働者の健康保持増進対策の実施に関する特別の配慮を行うこと。

 事業場において健康教育等の労働者の健康の保持増進のための措置が適切かつ有効に実施されるためには、その具体的な実施方法が、事業場において確立していることが必要である。
 本指針は、事業場において事業者が講ずるよう努めるべき労働者の健康の保持増進のための措置(以下「健康保持増進措置」という。)が適切かつ有効に実施されるため、当該措置の原則的な実施方法について定めたものである。事業者は、健康保持増進措置の実施に当たっては、本指針に基づくとともに、各事業場の実態に即した形で取り組むことが望ましい。



2 健康保持増進対策の基本的考え方

 近年における医学の進歩に伴い、心疾患、高血圧、糖尿病などの成人病については、若年期から継続した適切な運動を行い、健全な食生活を維持し、ストレスをコントロールすることにより、予防できることが明らかにされてきた。また、健康管理やメンタルヘルスケア等心身両面にわたる健康指導技術の開発も進み、多くの労働者を対象とした健康の保持増進活動が行えるようになってきた。
 また、労働者の健康の保持増進には、労働者自らが自主的、自発的に取り組むことが重要である。しかし、労働者の働く職場には労働者自身の力だけでは取り除くことのできない健康障害要因、ストレス要因などが存在しているので、労働者の健康を保持増進していくためには、労働者の自助努力に加えて、事業者の行う健康管理の積極的推進が必要である。その健康管理も、これまでの単に健康障害を防止するという観点のみならず、更に一歩進んで、労働生活の全期間を通じて継続的かつ計画的に心身両面にわたる積極的な健康保持増進を目指したものでなければならない。
 労働者の健康の保持増進のための具体的措置としては、健康測定(健康度測定すなわち健康保持増進のための健康測定をいう。)とその結果に基づく運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導等があり、これらの事項は、それぞれに対応したスタッフの緊密な連携により推進されなければならない。



3 健康保持増進計画等


(1) 健康保持増進計画の策定

 イ 健康測定、運動指導等の健康保持増進措置は、中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行われるようにする必要がある。このため、事業者は、労働者の健康の保持増進を図るための基本的な計画(以下「健康保持増進計画」という。)を策定するように努めることが必要である。
 健康保持増進計画で定める事項は、次のとおりである。

  <1> 事業場内健康保持増進体制の整備に関すること。
  <2> 労働者に対する健康測定、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導等健康保持増進措置の実施に関すること。
  <3> 健康保持増進措置を講ずるために必要な人材の確保及び施設、設備の整備に関すること。
  <4> その他労働者の健康の保持増進に必要な措置に関すること。

 ロ 事業者は、健康保持増進計画の策定に当たっては、衛生委員会等に付議するとともに、事業場内の健康保持増進対策を推進するためのスタッフ(3.(2)ロを参照。)の意見を聴くための機会を設けるよう努めることが望ましい。


(2) 事業場内健康保持増進対策の推進体制の確立
 事業者は、事業場内の健康保持増進対策を推進する体制を確立するため、次に掲げる組織、スタッフ等を活用、整備するように努めることが必要である。


 イ 衛生委員会等

 (イ) 常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、衛生委員会又は安全衛生委員会において、健康保持増進計画の策定等、労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策(以下「健康保持増進対策」という。)を積極的に調査審議すること。
 その際、産業医等健康保持増進対策推進を実施するスタッフの意見を十分取り入れる体制を整備すること。

 (ロ) 常時50人未満の労働者を使用する事業場においても、衛生に関する事項について関係労働者の意見を聴く際には、健康保持増進対策に関しても意見を求めるように努めること。


 ロ 健康保持増進対策推進のためのスタッフ

 (イ) 事業場における健康保持増進対策を推進するに当たって必要なスタッフの種類とその役割は、次のとおりである。

  <1> 産業医 健康測定を実施し、その結果に基づいて個人ごとの指導票を作成する。さらに、当該指導票により、健康保持増進を実施する他のスタッフに対して指導を行う。

  <2> 運動指導担当者 健康測定の結果に基づき、個々の労働者に対して具体的な運動プログラムを作成し、運動実践を行うに当たっての指導を行う。また自ら又は運動実践担当者に指示し、当該プログラムに基づく運動実践の指導援助を行う。

  <3> 運動実践担当者 運動プログラムに基づき、運動指導担当者の指示のもとに個々の労働者に対する運動実践の指導援助を行う。

  <4> 心理相談担当者 健康測定の結果に基づき、メンタルヘルスケアが必要と判断された場合又は、問診の際に労働者自身が希望する場合には、産業医の指示のもとにメンタルヘルスケアを行う。

  <5> 産業栄養指導者 健康測定の結果に基づき、必要に応じて栄養指導を行う。

  <6> 産業保健指導者等 健康測定の結果に基づき、個々の労働者に対して必要な保健指導を行う。


 (ロ) これらのスタッフは、それぞれの専門分野における十分な知識・技能を有していることが必要であると同時に、労働衛生、労働生理などについての知識を有していることが不可欠である。このため、事業者は、別表に定める研修を受講させるこれらのスタッフの養成に努めることが必要である。また、これらのスタッフすべてを養成することが困難な事業者にあっても、計画的・段階的に養成を行うことが望ましい。
 なお、事業者は、これらのスタッフに対して、上記研修修了後においても、それぞれの専門分野に適した資質向上のための研修に参加させるように努めることが望ましい。


 ハ 健康保持増進専門委員会

 (イ) 上記ロの健康保持増進対策を推進するためのスタッフを構成員とし、産業医を長とする「健康保持増進専門委員会」を設置することが望ましい。

 (ロ) 「健康保持増進専門委員会」では、個々の労働者に対する健康保持増進措置に関して専門技術的立場から検討及び評価を行い、個々の労働者に対する各種指導の具体的かつ適切な実施に役立てるものとする。


 ニ 事業場における健康保持増進対策の実施体制

 (イ) 衛生委員会等で策定された健康保持増進計画を実行していくために、事業場における健康保持増進対策の実施担当部門を明確にし、健康保持増進専門委員会との緊密な連携のもとに、各職場を含めた健康保持増進対策の実施体制を確立することが重要である。

 (ロ) 各職場においては、小集団活動体制の活用等労働者の健康保持増進対策の実効ある普及、定着が図られるよう創意工夫を行い、協力体制を整えることが望ましい。



(3) 労働者健康保持増進サービス機関等

 イ 3(2)ロで記した健康保持増進対策を推進するためのスタッフは原則的には事業場内に配置されるべきものである。しかし、事業者がこれらのスタッフすべてを確保することが困難な場合には、事業者が行うべき健康測定、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導等のすべて又は一部を、<1>健康測定に関する専門知識を有する医師、<2>運動プログラム作成及び指導に関する専門知識を有する者、<3>運動実践指導に関する専門的知識を有する者、<4>労働者のメンタルヘルスケアに関する専門的知識を有する者、<5>労働者の栄養指導に関する専門的知識を有する者、<6>労働者の健康指導に関する専門的知識を有する者のすべてがそろい、チームとして活動することが可能である労働者健康保持増進サービス機関に委託して実施することが適当である。


 ロ 事業場内に3(2)ロで記した健康保持増進対策を推進するためのスタッフのうち運動指導に関するスタッフのみが不足している場合等には、<1> 運動プログラム作成及び指導に関する専門知識を有する者、<2> 運動実践指導に関する専門的知識を有する者がいて、当該事業場の産業医と連携を取りながら、運動指導を行うことが可能である企業外の運動指導専門機関に委託して実施することが適当である。


 ハ 企業外の運動指導専門機関を利用する場合、健康保持増進計画の策定に当たっては、事業者は、当該健康保持増進サービス機関の専門スタッフの意見を聴くための機会を設けるように努めることが望ましい。



(4) 健康保持増進対策の実施結果の評価

 事業者は、事業場における健康保持増進対策を、継続的かつ計画的に推進していくためには、当該対策の実施結果を定期に、総合的かつ個別的に評価するとともに、当該評価のための各種資料を作成し、新たな健康保持増進計画に反映させる等健康保持増進対策の内容を充実するように努めることが必要である。



(5) その他

 イ 秘密の保持

   健康保持増進措置の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の心身の欠陥その他の秘密を他に漏らしてはならない。

 ロ 記録の保存

   事業者は、事業場における健康保持増進対策を継続的かつ計画的に推進していくために、健康測定の結果、運動指導の内容等健康保持増進措置に関する記録を保存することが必要である。

 ハ 健康保持増進対策における衛生管理者の役割
   
   衛生管理者は、総括安全衛生管理者及び健康保持増進対策推進のためのスタッフとの緊密な連携のもとに、健康保持増進計画の策定等において、必要な支援を行う。



4 健康保持増進措置の内容

 健康保持増進措置には健康教育、健康相談等がある。
 事業者は、次に掲げる健康教育の具体的項目について、個々の労働者に応じたきめ細かな対策の実施を講ずるともとに、労働者の個別の要請に応じて健康相談等を行うように努めることが必要である。


(1) 健康測定

 労働者の健康保持増進対策を推進していくためには、各個人が自己の健康状態について正確な知識をもち、産業医を中心とするスタッフの指導を受けながら健康管理を継続していくことが必要である。
 「健康測定」とは、それぞれの労働者の健康状態を把握し、その結果に基づいた運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導等の健康指導を行うために実施される生活状況調査や医学的検査等のことをいい、疾病の早期発見に重点をおいた従来の健康診断とはその目的が異なるものである。
 なお、健康測定は原則として産業医が中心となって行い、その結果に基づき各労働者の健康状態に応じた指導票を作成し、その指導票に基づいて、運動指導、保健指導等が行われるものである。

 イ 健康測定の実施及びその項目

   各種の健康指導を継続的かつ計画的に行うため、各労働者に対し定期的に健康測定を実施する。
   健康測定の項目は、問診、生活状況調査、診察、医学的検査及び運動機能検査である。

 ロ 指導票の作成

   産業医は、健康測定の実施結果を評価し、運動指導等の健康指導を行うための指導票を作成し、健康保持増進を実施する他のスタッフに対して指示を行う。


(2) 運動指導

 健康測定の結果及び産業医の指導に基づいて、運動指導担当者が労働者個人個人について実行可能な運動プログラムを作成し、運動実践を行うに当たっての指導を行う。
 また、運動指導担当者及び運動実践担当者が当該プログラムに基づく運動実践の指導援助を行う。
 その際労働者個人個人が自主的、自発的に取り組むよう配慮することが必要である。

 イ 運動プログラムの作成
 
   運動プログラムの作成に当たっては、個人の生活状況、趣味、希望等が十分に考慮され、運動の種類及び内容が安全に楽しくかつ効果的に実践できるものであるよう配慮することが重要である。

 ロ 運動実践の指導援助

   運動指導の実施に当たっては個人の健康状態に合った適切な運動を職場生活を通して定着させ、健康的な生活習慣を確立することができるよう配慮することが重要である。


(3) メンタルヘルスケア

 健康測定の結果に基づきメンタルヘルスケアが必要と判断された場合又は、問診の際に労働者自身が希望する場合には、心理相談担当者が産業医の指示のもとにメンタルヘルスケアを行う。
 なお、本指針の「メンタルヘルスケア」とは、積極的な健康づくりを目指す人を対象にしたものであって、その内容は、ストレスに対する気付きへの援助、リラクセーションの指導等である。


(4) 栄養指導

 健康測定の結果に基づき、食生活上問題が認められた労働者に対して、産業栄養指導担当者が健康測定の結果及び指導票に従って、栄養の摂取量にとどまらず、労働者個人個人の食習慣や食行動の評価とその改善に向けて指導を行う。


(5) 保健指導

 勤務形態や生活習慣からくる健康上の問題を解決するために、産業保健指導担当者が、健康測定の結果及び産業医の指導票に基づいて、睡眠、喫煙、飲酒、口腔保健等の健康的な生活への指導及び教育を、職場生活を通して行う。